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1.  インセプション 《ネタバレ》 
こんなにタチの悪い映画もないと思うが、面白いから許す。 【以下バレ】  夢というか他者の意識内に潜入するというアイディアは知る限り『ゴルディアスの結び目』が初出。すぐれたアイディア故に模倣者を何人も生んだが、「夢の夢」だのチーム戦だの、ここまでアイディアを膨らませた者はいなかったのでは。それにコブの個人的な深層心理や、既視感をスケールでごまかす映像の連発など、観客の興味を力づくででもひきつけてやろうという根性はたいしたもんである。  特に夢のまた夢による多重化した緊張感というのはなかなか得がたい体験であった。これだけでも8点行くし、後世に語り継がれることになると思う。  夢の表現そのものに目新しい発想があるわけではないし深化したわけでもない。それに第3層(雪山)はあきらかに余計だしヘタ。浮遊する身体の撮り方といい、この監督は映像センスというか、立体的なものを面白く伝える感覚ははっきり言ってイマイチである。しかし前作にも通じることだが、とにかく物語を面白く完遂させるセンスがある。  なんでタチが悪いかは、ノーコメントとさせていただく。
[映画館(字幕)] 8点(2010-08-31 23:48:40)
2.  息もできない 《ネタバレ》 
監督したのは主演のヤン・イクチュンだということを観賞後に知ったのだが、まずもってそのことが最大級の衝撃だ。言っちゃ悪いが某ヤンキーボクサーそっくりの風貌の持ち主が、こんなに深みのある映画を撮ってしまうとは(いや別に顔で差別してるわけじゃなく、表現するものの高低差に唖然としたのだが)。 【以下もろバレ】 (中略) チンピラの話である。主人公は暴力をふるうことに躊躇しない。時にはコミュニケーションの手段ですらある。なぜそうするのか。彼が暴力の生み出す連環の中にいるからだ。自分の親父の暴力が招いた結果を知っていながら(=知っているからこそ)、その親父を許し難く、暴力をふるわずにはいられない。暴力は暴力を産む。その連環の中で生きる術は暴力の王でありつづけることしかない。だから彼は誰に対しても暴力をふるう。警官相手ですら躊躇しない。そして暴力をためらう女や後輩に対しては、生き残るためにためらうな、と叱責する。 暴力のない普通の世界は彼には受け入れがたい。だから彼は姉が苦手だ。しかし甥と戯れることには積極的である。また、ヨニというなぜだか生のままの自分との応答が可能な女と出会う。それらが徐々に彼を変えていく。 (中略) 漢江のシーンで、主人公はヨニの膝の上で泣く。つられてヨニも泣く。ヨニの涙は過酷な自分の運命を呪う涙だが、主人公の涙は運命を呪い続けることに挫けた涙だ。二人は互いの涙の事情を知らないが、にもかかわらず互いに何かを共感して泣く。さらに言えば、そんな二人の共通の未来が開かれたことを予感し、安堵して泣けた涙でもあると思う(むろんはっきりとした台詞があるわけではないので、すべて私の想像である。こんなことは観るもの各々が勝手に感じ取ればいいのである)。 しかしこのシーンはすばらしい。並の映画3本分ぐらいの価値があると思う。なぜこんなにすばらしいのか、よくわからないところがまたすばらしい。 ラスト、しかしやはり負の連鎖を断ちきることはできませんでしたというという、ヤクザ映画にお約束な終わり方で物語は終わる。これはやはり少々残念だと感じる。暴力の世界の人はそこから決して出られないみたいなことを露骨に暗示してしまっているからだ。むろん物語的にはその辺りに着地するしかないということはわかるが、もうちょっとズラした結論にしてほしかったと私は思う。むろん希望の持てる方向へである。 
[映画館(字幕)] 8点(2010-05-02 13:22:24)(良:3票)
3.  インビクタス/負けざる者たち 《ネタバレ》 
心ときめくような映像は今回あんまなかったが、いったいどーしてこう泣けるんだろうか。現実世界に戻りたくなくて、エンディングロールよ永遠に続けと願う、こんな体験は年に数度だ。 【以下バレ】 例えばKじいさんのそれは計算ずくの人造的な涙だという気がするし、Aバターで泣けるとすればあれは民族宗教的ちうか、…まあどちらも人の弱みにつけ込んだいわば「泣かせ」であるわけで、この映画を見て流す涙とは根本的に違う。語弊を恐れず書けば、何やら崇高な物に触れたときの「かたじけなさに涙こぼるる」という類いの涙である。んで、その崇高さというのははたしてこの映画のメッセージによるものなのか、メッセージ以外の何か(映画そのもの)なのか、渾然一体となりすぎて自分でもわけわかめとなるのがこの監督の作品を観終えた際の常である。 憎たらしいことに、彼は演出過剰とは逆向きの演出方針で平然とそういう映画を作ってみせる。監獄見物に行った際にマンデラの囚人時代の姿が幻視されるシーンと、それに試合ラスト数秒で時計がゆっくり進むシーン、この二つの見せ場だけが何か紋切り型の過剰演出だが、それ以外は演技も台詞も抑え目であるかのように見える。それはスポーツというものが元来映画化には不向きであり、試合の場面をどう演出しようが幾分か反映画的になってしまうことをあらかじめ予測して、あえて他の場面が映画的になりすぎるのを避けたのであるのかどうか、私はそう想像するが誰か聞いてみてほしい。結果的に、映画としての完成度は他作品に比べて異質となったという印象をぬぐえないが、しかし『ファイヤーフォックス』と同じ価値を持つ貴重な作品であると思う。 「赦し」というメッセージは強烈だ。現代においてなお殺し合いを続けている民族にとってはなおさらだと思う。この映画はそうした場所でこそ公開してほしいと願う。マンデラもまた存命である。私は自分が矮小な存在にすぎないことを知り、なぜか喜びを感じる。 ぶっちゃけまあ、あまりにもど真ん中すぎて見送り三振という去年も食らったパターンで、また今年もやられたなあという感じ。 
[映画館(字幕)] 8点(2010-02-13 20:24:54)
4.  イングロリアス・バスターズ 《ネタバレ》 
正直私は『キル・ビル』で辟易したクチなので、まさかこんなに面白いとは思わず当惑している。こりゃー最高傑作と自賛するだけのことはある。たとえ一瞬でも馬鹿にしてごめん、謝るぜ。 【以下多数バレ】 いったいどういう風の吹き回しでこんなにタランティーノらしくない映画を撮ってしまったのか。いやむろん第1章や第4章での長々とした無駄しゃべりはレザボア以上の面白さだし、頭の皮剥ぎやらバットによる撲殺やらグロとギャグを混同した悪趣味ぶりも相変わらずなのだが、にもかかわらずこの映画はらしくない。むろん茶化すことが憚られるテーマであることはわかっちゃいるが、それにしてもシリアスすぎる。ユダヤ人を匿った親父は床を指差しながら涙を流すし、大佐の質問攻めから解放された女館主は一転して情動失禁するし、映写室で若い二人が撃ち合うシーンなどは、何をトチ狂ったのかと思えるほどメロメロシリアス演出なのだ。これじゃあまるで普通に手練れの名監督である。一方ギャグは空回り気味で、ブラピはただ眉をひそめてドナルド・ダックみたいな声でがなっているだけだし、イタリア人の真似する場面でもちっとも面白くない、将校殺しの中尉のアレも獣医もイマイチ。だいたい第2章以外はその手の演出自体が少ないのである。 だがこの映画の一番の見所はそうしたシリアスな場面でもギャグでもない。ブラピ以外の俳優陣、特に大佐と中佐と女優のキレキレの演技である。表情、それも目配せのレベルで見所多数。私は10回見ても飽きないと思う。むろん細部が完璧だからこそ結末が面白いのだが、しかしいったいどうやったらこんな演技をさせることができるのか。その理由もじつは台詞背景がシリアスであることと無関係ではないのではないか。思うにこの監督はこの作品で、まさに自らが追い求めてきた独自世界と古くシリアスな「映画」との見事な融合を果たしたのだ。古いフィルムを燃やし、映画館を破壊するシーンは象徴的だといえば大げさか。ショシャナの哄笑を浴びながらナチスが銃弾を浴び皆殺しにされる。史実を無視して総統をぶち殺す、この無茶苦茶なカタルシスはむろんタランティーノゆえであり、後進世代ゆえの呪縛から解放されかつ独自の世界との融合をようやく果たしえた、その気持ちがラストの台詞として表れたのではないかと思うのだ。  
[映画館(字幕)] 9点(2009-12-04 07:46:15)(良:2票)
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