1. ザ・エージェント
レネーの大ファンゆえ友人の勧めに従って観た。トム個人については余り観ていないので語れないが少なくとも言えることは監督・脚本・俳優の三拍子が揃った非常に爽やかな秀作だと思う。ややもすれば凡百の映画になるところをC.クロウが粋に演出している。齢17歳にしてローリング・ストーン誌の記者になった天才クロウだけのことはある。音楽の使い方もセンス抜群(当たり前)。主要な俳優全員の心理描写がきめ細やかである。良心、希望、挫折、強さと弱さ、友情と愛情など諸々の感情を気の利いた台詞や台詞無しの表情だけで魅せている。当然、名優のみが成せる技であるし全員が適材適所で役所を心得ている。レネーの表情と身振り手振りだけで心理を表現する力量の見事さは言うまでもなく、トムも全身で演技しており、考えさせ、笑わせ、そして感動させてくれる。彼の思い切り熱のこもった温かい演技は周囲の俳優陣に触発されたようにも思える。レネー(ドロシー)の実姉役のボニー・ハントがこれまた素晴しい。男女はとかく友情や畏敬の念と恋愛感情とを混同させてしまうが、その辺りを冷静に表現し示唆している。これは脚本の出来の良さでもある。C.グッディングJr.の存在は言わずもがなで作品全体に厚みと深さを与えている。鑑賞中、鑑賞後の爽快感は彼に依るところ大である。ところで邦題が『ザ・エージェント』となっているのでスポーツ・エージェント物という印象が強いが、原題『ジェリー・マグワイア』の示す通り『一個の人間としてのジェリー・マグワイア全体』をクロウは描きたかったのだと思う。であるから仕事に恋に、熱くなったり寂しくなったり泣いたり笑ったりして良いのである。非常に人間味豊かで繰り返し観るほどに新たな発見のある良心的な名画である。但し最初のファック・シーンは作品全体の雰囲気から浮いておりカットすべきだったと思う。余談だが、あの驚愕の作品を撮ったマーク・ペリントンが出ていたのには驚いた。とにかくじっくり観て欲しいと思う、特に現代日本社会の寒々しさを感じた時には。 [DVD(字幕)] 9点(2007-08-04 17:55:09) |