1. THE 有頂天ホテル
《ネタバレ》 見始めて1時間ぐらいして自分が殆ど笑っていない事に気付かされ、ラストまでそのような状態が続いてしまった事は残念でした。 大きなどんでん返しや、エピソードや登場人物の多さに比べてそれらのお互いの絡みもそれ程無かったのでストーリーではなくて状況や各人の関係性で笑わせるのかと思いきや、そうでも有りませんでした。 生瀬さんや西田さん、伊東さん等コメディに強い俳優さんが出てくるシーンでもそれぞれの設定の制約に彼等の個の力が抑え込まれてしまっていた印象を受けました。 また、本作で決定的に欠如していたのが緊張感だと思います。 全体として登場人物の心境には余り入り込まずにあくまで状況を描いている客観的な演出なので、筆耕係の右近がカウントダウンパーティー迄に『謹賀新年』を書き終えるか、ダブダブが見つかるか等のタイムリミットを課せられたものや、ハナがなおみではない事や新堂の元妻に対する嘘がバレるかどうか等の要所々々でそうした緊張感が感じられない為に作品にメリハリが無くなり、コメディタッチで描かれているだけでコメディと言える程面白いものにはならずに盛り上がりの乏しい単なる緩い作品になってしまったと思います。 グランドホテル形式、長回し、只野の三種の神器や灰皿等のプロップの使い方等、三谷監督は映画の仕組みや仕掛けの方法論に拘る事に執着し過ぎて作品自体の押さえどころがずれている様に見えてしまいます。 一方、有名な俳優を多用したり局アナ等のカメオ的な起用による話題性の作り方や、テレビを中心としたマスメディアでの効果的な宣伝は本当に上手だという印象で、そういう意味では内容の良し悪しとは別に、確実に売れる作品を作る方法を知っている監督だと思いました。 [地上波(邦画)] 4点(2015-12-13 23:33:21) |
2. ザ・インタープリター
《ネタバレ》 ニコール・キッドマンの演技は下手ではなく、ショーン・ペンのそれは上手くはない印象でした。 話の内容で引っ張っていくシーンは気になりませんが、彼等の演技で見せるシーンは2人の存在感が有る為に逆に平均点辺りをウロウロしている演技だと物足りなく感じてしまいます。 ショーン・ペンは直近に妻を亡くした悲壮感から抑えた演技をしているのは解かるのですが、微妙な表情を作り過ぎて若干台詞回しが単調になっていたシーンがしばしばあったように思えます。 また、どのプロットも作品から逸脱するようなものは無かったので最終的には上手く纏まっていたと思いますが、幾分話を詰め込みすぎている印象があり、特に全貌がまだ明かされない前半部は私にとっては付いて行くのが大変な所も有りました。 少し気になったのが市バスの爆破テロのシークエンスで、作品的な盛り上がりでは絶対に必要だとは思いましたが、ストーリー的にはゾーラと共闘体制を取ろうとしているクマン・クマンをあのタイミングで殺す事はズワーニ派の犯行とみられるのは必至ですからズワーニの自作による暗殺未遂での印象操作を相殺してしまう事になると思います。 終盤の国連ビル内での一連の騒動も多少力技で押し切られた印象が残りました。 見終わってみれば映画としての枠組みはしっかりと作られていますし、内容も幾重にも話は重なって濃いものになっていたと思いますが、正直それ程魅力を感じさせてくれるような作品には仕上がっていなかったように思いました。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2015-09-01 21:17:45) |
3. 山椒大夫
《ネタバレ》 安寿と厨子王が波路の霜除けの草屋根の為に枝を折って転んでしまうシーンは勿論彼等が幼い頃のそれを彷彿とさせ、奴、端女として過ごした時の長さの無情さを感じさせますし、山椒大夫の所から厨子王を逃がすシーンでおばあさんが安寿に「私を縛っておいき」と言う意味を前の台詞から読み取ると「お行き」ではなく「お逝き」だと分かるとその後に「さようなら」と何度も言い合う2人の姿はこれ以上ないくらいに切なく映ってしまいます。 しかし、安寿を厨子王の妹にした為に逃亡シーンでは2人のキャラクターが機転の効いた利発な妹と不甲斐ない利己的な兄となってしまい、本来なら慈愛的な犠牲として安寿の死を捉えたいのに戦略的な犠牲という印象が強くなってしまっていると思います。 原作に沿った姉が弟を守るという年長者の慈悲というような見せ方なら収まりが良いのですが、強い者による自己犠牲の構図が壊れてしまい年上の男が年下の女を犠牲にして助かるという描き方では心に響くものがなくなってしまい、安寿への哀れみだけが残りこの後行動を起こす厨子王へは肯定的な感情移入が難しくなってしまいます。 原作者のこの設定を制作者が変えた理由は解りませんし腑に落ちなかったです。 その為断片的には感動できるのですが全体的に見ると少し感動が薄れた印象になってしまいます。 厨子王が佐渡に渡り船頭に中君(母親)の所在を尋ねるシーンがあります。 ほぼ何も無い砂浜の手前に人物を置いていますが、フレームに対しての人物のサイズと位置が絶妙のバランスとなっていて彼が僅かなコントラストのある白い砂浜に足跡を一つ一つ残しながら奥に歩いて行く姿は絵画的な美しさが有りもう少し見ていたい気持ちになりました。 しかし、先に見た約半年後に公開される「近松物語」との相対的な評価になってしまいますが、フィルムのラチチュードが狭い為なのか最暗部の黒の締りが弱いので画にそれ程力強さを感じられません。 構図自体は「近松物語」同様素晴らしいカットが多々あるので非常に勿体無く思いました。 獅子王が山椒大夫の元から逃げる決意を安寿に表した時にほんの一瞬だけ彼女の顔が緩みます。 それまでの彼女の人生とその後の運命を思うとあの一瞬の笑顔は言葉にならないくらい印象に残りました。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2015-07-18 18:09:02)(良:1票) |
4. 座頭市(2003)
《ネタバレ》 殺陣のシーンにCGを多用したり、時代劇でボリウッド的ラストのタップダンスを挿入したりとアイデア自体は面白いのですが個々のクオリティーを見るとそのアイデアに全く追い付いていない印象です。 殺陣に限らずアクションシーン等でもCGに頼る事は肯定しますし必然な時代だと思いますが、作中での血の飛び散り方等は何時何処で誰をどの様に斬っても一様な表現で、テレビアニメの使い回しのカットを見せられている様で、『暴力』に拘りのある北野監督作品としては残念に感じますし、刀が体を貫いているカット等は前世紀のCG技術で今世紀のそれとは言えない程に見ているこちらが恥ずかしくなってしまうレベルです。 また、タップダンスからは本来見せたかったであろうダイナミックさは感じられません。 理由としてダンサーの数と技量、カメラアングル、編集、そしてナイトシーンにした事で画に拡がりがなくなってしまっていることです。 ストーリーとは切り離した割り切っているシーンだと思うので、途中からデイシーンに瞬間的に転換させて青空の下で撮っても良かったのではないかと思いましたし、欲を言えば作中にあった狐の嫁入りの様な中での殺陣シーン宛ら晴天の雨降りという中で踊るくらいの極端な振り切り方をして、スケール感を出して貰いたかったです。 幾つかの場面で作業をパフォーマンスにしたり、それらの生活音をミクスチャーさせて遊んでいるシーンがある為にラストのタップダンスにそれ程違和感なく繋がっていたので残念です。 役者としてのたけしさんは相変わらず存在感が有りカッコ良かったです。 台詞回しにはムラが有り良い時もあればそうでない時もありますが、体の左右のバランスが崩れた姿勢の悪い佇まいから来る危険な雰囲気は未だ損なわれていませんし、居合の達人座頭市としての凄みは十分感じられます。 殺陣シーンでの決して美しいとは言えませんが地に足をしっかりと付けた低い重心からの直線的な斬り込みや、目を閉じているので歯を噛み締めた力んだ表情で見せる演技の付け方等は、強さと同時に市の不器用な性格と人を斬るのに力が要らない訳がないという勝手な想像から来る説得力を感じてしまいますし、掛け値なしで痺れます。 最後に一映画ファンでしかない私ですが生意気な事を書かせて貰えれば、良いアイデアを具現化出来ないのは『コメディアン上がり』という生粋の映画業界出身でない為にスタッフに遠慮してしまっているのかなぁとか、自分自身に言い訳してしまっているのかなぁ等と考えてしまいます。 役者にしても監督にしても『コメディアン上がり』等という低いレベルで評価されるような映画人でないのは周知の事実なのですから、もっとストイック且つ丁寧に拘りを持って作品を仕上げていって貰いたいと思いました。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2015-06-17 18:57:14) |
5. ザ・マジックアワー
《ネタバレ》 過去の映画作品のパロディやオマージュをふんだんに挿入して誤魔化さなければ恥ずかしくて描けないような使い古された設定と展開ですが、そこまでこのプロットに拘っただけの事はあり大変面白かったです。 地に足が着かないで浮ついているが緩すぎない世界観が話の展開や登場人物のキャラクターを無理の無いものにして見易くしてくれていますし、この様に笑うために調度良い世界観を作品を通してキープして貰えるのはコメディ映画を見るに当っては非常に助かります。 監督の行き届いた演出に依る所が大きいと思います。 他のレビュアーの方同様、佐藤さんの絡んだシーンは非常に魅力的でした。 コメディパートでは、大根役者が下手に演じている事が面白いのではなく、演じる内容が面白くそれを村田のアクの強さで際立たせているといった感じで、見ていて大笑いしてしまいました。 騙されて演じているシーン、騙されていると気付かないで備後やギャング達と過ごしているシーン、騙されていたと気付いてからのシーンのそれぞれのシチュエーションに適した演技を大胆かつ微妙な加減で演じ分けているのは素晴らしかったです。 また、ゆべしの現場で屈辱を受け、雨が降る夜のセットのスタジオの扉を開け、現実の昼間の世界に出て行く後ろ姿が光の中に溶け込むシーンや、劇場で自分が写っているスクリーンを見て感極まってしまうシーンなどはとても印象的でした。 小日向さん演じるマネージャーがいつも村田の味方になっていたのも見ていて好感が持てました。 しかし、戸田恵子さんの役どころはいちいち面倒臭かったですし、高瀬と村田の会話はくどくて長過ぎるように感じました。 いっそ、「マジックアワー」というタイトルの拘りを捨て、その辺りのエピソードも変えてスッキリさせた方が良かったのではないかと思ってしまいました。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2015-04-27 00:22:27) |
6. 39 刑法第三十九条
《ネタバレ》 設定にはおかしな所が有りましたが、話の展開は非常に面白かったです。 登場人物のキャラクター付けも工夫していて良かったですが、無駄な演出が多い気がしました。 奇抜な演出や映像を撮りたいのならば、映画監督ではなくミュージックビデオの監督や、前衛的と呼ばれる映像作家にでもなった方が良かったのではないでしょうか。 「刑法39条は人権を守る事では無く人権を奪う事では無いのか。」と香深の台詞にあったが、心神喪失者が犯した罪に対しての罰を負うという義務の免除であって、彼等の人権を奪うものでは有りません。 仮にそうなら、彼等が被害者になった時も法による基本的権利を主張できない事になるが、実際はそうでは有りません。 恐らく彼女の言いたかった事は人としての権利ではなく、人としての尊厳だと思います。結論から言えばそれも違いますがここでは書きません。 問題なのは虚偽による悪用や、酒や薬物等による一過性の心神喪失を何処まで認めさせるかという被告人の罪を軽減する為の利己的な拡大解釈だと思います。 また彼女は「精神鑑定は鑑定士の主観である。」と言っていましたが当たり前です。 「だから何なんだ?」って感じです。 裁判自体主観です。 法律や過去の判例に照らし合せても裁判員によって判決は異なります。 人が人を判断したり裁く時点で完璧な結果にはなりませが、それでも人が結論を出さなければなりません。 神様は宗教やお伽話の中にしか居ませんし、タヌキやコオロギが人を裁いてはくれません。 クライマックスでの主人公の一番大きな声での台詞が、私には尽く理解出来ないものになってしまったのは残念です。 刑法39条は社会的弱者といわれる心神喪失者を包括している私達の社会構造の中で必要不可欠なもので、これを否定する事は互助的な社会福祉や社会的倫理観を根底から否定する事に繋がります。 中途半端な問題定義をして底の浅い結論付けをするよりも、あくまで話の要素の1つとしてサスペンスに徹した方が良かったのではないかと思いました。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2015-04-25 18:43:34) |
7. 細雪(1983)
《ネタバレ》 冒頭の姉妹の会話のシーンで、短いセリフを役者さんの正面アップで繋いでいくのを見た時に「しまった…」と思いました。こんなセンスのカケラもないカット割りの作品を2時間以上も見るのは正直辛いなあ…、と。 しかし、徐々に作品に入って行くことが出来ました。大きな感動や笑い、大胆な話の展開などは有りませんが、それぞれの立場や生き方は違うが強い絆で結ばれた姉妹にはとても好感が持てました。 長女は本家ということも有り蒔岡という「家柄」を守り、次女は姉妹という「家族」に配慮して、三女は自分という「個人」を曲げずに、四女はそれらに囚われずに自由に生きていきます。 日本の戸主・家制度の中の家族の有り方が時代とともに変わっていくのを、象徴的に表わしているようにも見えます。 長女と次女の、それぞれの立場を背景に互いの意見を主張しながらも、信頼と愛情に溢れている関係性は見ていて心地良かったです。岸恵子さんと佐久間良子さんの演技力に依る所も大きかったと思います。 特に三女の身の振り方が定まった時の「あの人粘らはったなぁ。」「粘らはっただけの事あったなぁ。」という2人の会話のシーンは、妻であり姉である女性の懐の深さを見事に表現していると感じました。 石坂浩二さんの良い意味で毒にも薬にもならないキャラクターと演技は、重要だけれども目立つ必要のない役どころには、見事にハマります。 メインの役者さんはみんな上手で安心して見させて貰いましたが、侍女のお春がそれだけにもったいなかったです。 江本孟紀さんが出てきた時には、作品をぶち壊されるのではないかと思いヒヤヒヤさせられました。 最後まで何も喋らずにいてくれたことでホッとしましたが、結局、本編と関係のない所でスリルを味わうことになってしまったので損をした気分です。 春の桜や秋の紅葉を背景に、和服を着た女優さんがロケーションに溶け込むかのようなシーンは綺麗でしたが、何度か出てくる夕景のシーンはどれも美しくなく、確実に数カ所は作品の足を引っ張っていたと思います。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2015-04-14 18:43:43) |