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1.  ざくろの色
とりわけ白い布に、赤いざくろの果汁が滲み広がるファーストシーンが鮮烈!。そのデサイン性と色彩からくる美術感覚が斬新。サヤト・ノヴァの生きた、古式アルメニアの伝統衣装を初め、絨毯や壺など、どれも時代性を忠実に反映・内包しながらも、抽象的表現の能舞台劇のように、演技の様式化がひとつの特徴。特筆すべくは女優、ソフィコ・チアウレリその人。イコンを思わせる顔の造形、特徴的な眉の形から、この映画の中で彼女が男役を含め、複数の役で多義的に演じ表現しているのが判る。  舞台劇を想起するものに、明確な正面性がある、例えそれが横向きであっても。常に一貫して、画面構成における形と配置を重視。詩人の生涯に沿ったストーリー展開は、抽象的省略表現のため、表出された全てを理解するのは難しいが、視覚的に、感性的にそれを感受すればいい。雨に濡れた図書館の書籍、水の排出作業から屋根での天日干し、その並べた本の配置すらデザイン的で美しいし、染色作業に伴う色の演出も目を惹く。  こうした独自性にとむ映像表現に、少なからぬ影響を受けた映画に『落下の王国』がある。パターン化された形象と色使いの類似、少し現実離れした鮮やかな彩度高めの発色。あまりの美さに思わず目を奪われるが、対して、本作の色表現は、日常の現実世界から切り取った実在の色、故に幾分彩度低め、代わり同じ赤でも多種多様な赤が蠢く感じ、様々な色と形が織りなす未知なる世界。特異な映像美に被さる音と音楽の響きがとても神秘的。
[DVD(字幕)] 9点(2017-01-18 19:34:37)
2.  サウルの息子 《ネタバレ》 
今日、アウシュヴィッツは絶滅収容所として広く認知される。ナチの犯罪性、反人倫的行為を糾弾する映画や本に、ドキュメンタリー映画を含め、過去幾度観たことだろう。またかと思い、正直もう結構と思ってしまう。それに実際はユダヤ人だけがガス室に消えたわけではなく、ロマ(ジプシー)やドイツ人であっても精神障害者、思想犯とされた人々の多くも、方法の違いはあるにしろ同様に殺されているのだ。ロマの人々は、ユダヤ系の様に組織力と発信力がないが為に、自分達の受難を語れないでいるし、それにユダヤ人のように、遺恨を民族結束や利益に結びつける思念も持ち得ない。  では本作を観て、何か過去の映画にはない、別の新しい側面があったかと問えば、カメラワークと狭い視点から来る圧迫感と閉塞感、それはもう独特。主人公の後頭部辺りにピントを合わせ、手持ちカメラで何処までも彼の後を長回し撮影で追従する。この様にカメラが主人公の後ろ姿を長回しで追いかける映画に、既にハリウッド製の『バードマン』が有ったが、これは画面比率が横長で、しかも超広角レンズを使用しているので、彼を取り巻く周辺描写も充分に併せ撮影している。それだけでなくカメラは時折、奔放にぐるりと彼を捉えたまま回転したり、空を捉えたりもした。本作の様に、至近距離の対象にピントがあると、魚眼か超広角レンズでなければ背景は概ねボケるが、そこが狙いでもあるのだ。  ゾンダーコマンドである、ユダヤ系ハンガリー人のサウルが主人公。彼はドイツ兵を補佐し、同胞をガス室に入れるのが役目。ドアが固く閉じられた瞬間、異変に気づいた密閉室から叫び声やドアを叩く音がする中、残された衣類から宝石や貴金属などの遺留品を掻き集める作業に移る。次にガス排出を終えたガス室に入り、中から遺体を引きずり出す作業を終えた後、ガス室の壁面や床に残る血痕や排泄物などを、綺麗に洗浄する作業を黙々とこなす。サウルの視界の前方で繰り広げられている惨状の全てが、ピンぼけ状態のまま、付随的な一部として写り込んでしまったかの様に撮影されているのだ。  映像として極めてショッキングな筈の遺体群すら、曖昧で不鮮明な像として捉えられている。それでも、人間の肉体が持つ量感のあるフォルムと、ピンク掛かった色情報とともに衰えず、却って想像力も働き非常に強烈なものだ。洗浄作業に伴う摩擦音と狭い視野からくる閉塞感で息苦しくなってくる。この様に、サウルを含む一群のユダヤ人達が、同胞を殲滅する為の補助作業に携わってしまった、直視したくない忌まわしい過去を追った本作は、独自性という点では、ハリウッド製のユダヤ人収容所ものと一線を画し、著しい違いがある。◆本文は自分ブロク掲載文の一部に手を加え、書き直したものです。
[ブルーレイ(字幕)] 7点(2016-07-19 18:50:58)
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