1. サウルの息子
《ネタバレ》 最初から最後まで続く緊張感に引きこまれた。 特筆すべきところは少ない。アイディアや筋書きも既視感のあるものだし、露骨に詩的なカットも存在しない。 だが各シーンの造形の上手さが、そこらのリアリスティック"コント"とは違った切迫感を表現していた。 起承転結のような流れはない。ある一線が最初から最後まで図太く引かれる。 最初の5分も最後の5分も、劇中から抜き出した任意の5分と同等の価値をもつ、それだけの濃密な表現を成し得ている。 この無個性の良品、そして手に持ったオルゴールのような実感を伴う重たさ。 2015年に作られた作品にしては古典的な匂いが強すぎるきらいはある。絶賛するには地味すぎて、批判するには上質すぎる。 筋書きの分かりやすさから、アカデミー賞を受賞してしまったが、分かりやすさを追って見る場合この作品に魅力は感じない。 [DVD(字幕)] 8点(2019-04-19 20:06:41) |
2. サクリファイス
《ネタバレ》 この映画での表現に対して時間が短すぎ、駆け足の感があった。超越的なものと世俗的なものの接触点について、ノスタルジアでは恥ずかしくなるような甘い表現もあったが、本作では硬く締まっていた。ラストシーンで唐突に挿入されるBGMを除いては。 [DVD(字幕)] 10点(2019-03-25 08:22:14) |
3. 座頭市(1989)
いろいろとおかしな映画だ。「スパイダーマン」のようなエンターテインメント作品として見ると、その枠には収まりきらない優れたもののように見えるが、それ以上の作品として見ると、何の中身も無い映画だ。 [DVD(字幕)] 4点(2019-03-22 14:25:38) |
4. 3-4X10月
《ネタバレ》 強く惹きつけられた。あの「ソナチネ」より好きな作品だ。 ナンセンスなバイオレンスはある程度北野武に一貫しているが、この映画ではそれが最も明確に成されている。 特に兄貴分に「指を詰めろ」と迫られ、冗談かと思っていると本当に叩き切られ、それでいてなお関係は変わらず継続していくシーンは、北野映画の全シーンの中で最も優れている。 ラストシーンが、あれだけ上手く機能したのはおそらく意図によるものではないだろう。 映画全体のナンセンスさが、夢のナンセンスさとぴったり合致している。それでいてその生々しさが、けしてそれが「夢オチ」などという安易なものではないという印象を焼き付ける。 この映画を見終えたものが「あの出来事が夢だったとしても、現実だったとしても、全く同じことなのだ」とさえ気がつけば、あのオチに宿る奇跡の意味をおそらく知ることになる。 [DVD(邦画)] 8点(2019-03-12 03:23:53)(良:1票) |
5. 座頭市(2003)
《ネタバレ》 北野武の愛すべき駄作「監督・ばんざい!」でのパロディ劇を少し本格的にやってみたという映画。 照れ笑いでもしているような、コメディなのかパロディなのか時代劇なのか訳が分からない作品になっている。 監督が自分を入れ込み過ぎて恥ずかしくなってしまった結果なのか、人に見せる水準の映画に達していない。 パロディタッチの空気感のなさが最初から最後までこの映画の底を浅くしているし、脚本にしてみても時代劇として通俗的すぎる。 初めて観た時はその風の流れが存在しないコテコテの世界に、初っ端で観るのをやめた。 この度北野武だからと目を瞑って観てみたが、第一印象が崩れることはなかった。 [DVD(邦画)] 3点(2019-03-12 01:37:37) |