1. JUNK HEAD
《ネタバレ》 ギレルモ・デル・トロの世界観に近いものを感じる。 退廃的な廃墟の緻密なセットといい、グロテスクなクリーチャーの造形といい、 受け狙い一切なしのクリエーターが独学で本気でぶつけた情熱に、 ギレルモ本人の目に留まったのだから。 不気味で暗さを感じさせる内容ながら、 ユーモラスな登場人物にゆる~い会話の数々が上手くバランスを取っている。 生理的に拒絶しそうなのにどこか虜になりそう。 切り取られたクノコや三人組のペットの尻尾が生殖器に見えてしまい、 永遠の命と引き換えに失った生殖能力へのアンチテーゼにも見える。 生命の危機に直面したからこそ見えてくる、主人公の発する"生きている実感"があまりに皮肉だ。 3部作とのことで最終的な評価は完結編ができてから。 現段階で7点にしておきます。 [インターネット(邦画)] 7点(2024-10-26 00:22:03) |
2. シビル・ウォー アメリカ最後の日
《ネタバレ》 アメリカは世界一の経済大国であり、IT大国であり、エンタメ大国だ。 だが、新自由主義を推し進めたが故に格差が著しい大国でもあり、今なお残る人種差別に、 機会はあれど能力に恵まれなかった者にはひたすら容赦なく残酷だ。 それが圧倒的な凶悪犯罪率であり、大都市には麻薬に溺れた路上生活者で溢れ、絶望死した者も少なくない。 一方で成功した一部のマイノリティが己の価値観を強制するポリコレによって保守層の不満が募り、 上記の極端な事例によるトランプの台頭、やがて対立・分断し、長年の社会の歪みがツケになって顕著化した成れの果てが本作だ。 関わることを諦めた地方の無関心、そして「お前はどういうアメリカ人だ?」という問い。 そこには外部がズカズカ入り込めないアメリカの病みが詰まっている。 世界の警察やらグローバリズムやらを伝搬して、諸外国に首を突っ込んでいるクセにである。 そんな世界をジャーナリストは誰かを犠牲にすることでフレームに真実を収める。 初心な新人カメラマンが次第に冷徹な人間へと変わっていき、最後は主人公の犠牲をも手柄にしていくのは皮肉だ。 大統領の死体と兵士の笑顔が写る一枚に、アンミスマッチな曲が流れるエンドロールの居心地の悪さと来たら。 自分事にならない限り、自国の危機に誰も動かないだろう。 次期大統領がトランプになろうが、カマラになろうが、詰んでいるとしか言いようがないアメリカ。 外部から対岸の火事として見ている日本はどうだろうか? 大国にひたすら媚びへつらって搾取される側を選ぶのかね。 [映画館(字幕)] 7点(2024-10-04 23:59:48) |
3. シン・仮面ライダー
劇場公開最終日に見てきました。 「仮面ライダーファンのための映画」というより、「仮面ライダーファンが作った映画」という表現がピッタリ。 それも筋金入りの。 原典へのリスペクトを散りばめるように、古臭さを残す特撮やアクションのカット割りといい、郷愁へ誘うこだわりを感じた。 反面、令和だからこその現代的解釈が空回りしており、政府関係者を出す意味が感じられず、 基本人気のいないところでの撮影ばかりでスケールがこじんまりとした印象を受けてしまった。 これでは令和の時代に甦らせる意義が弱い。 あとは庵野監督の悪い部分が終盤はもう剝き出しで、内省的な展開がひたすら続く最終決戦はもういいやと思ってしまう。 全編説明不足で新規の仮面ライダーファンでも終始置いてけぼりではないか。 これは彼のサポートを務めていた樋口真嗣が不在で、誰も止められない暴走状態であったことが目に浮かぶ。 「熱量は感じられるが、思い入れが強すぎて客観視できず、明後日の方向へ全力で走っていった二次創作」というイメージ。 シン・シリーズ完結後、庵野監督はどこへ走っていくのだろう。 [映画館(邦画)] 5点(2023-06-04 22:36:00)(良:2票) |
4. 七人の侍
《ネタバレ》 遠い昔に見た。 音声が聞き取れなかったので、字幕にして何となくは理解できた。 改めて思えば、アメリカ西部劇のプロットそのままだったりする。 (だから後の『荒野の七人』として上手くリメイクできたわけ)。 娯楽映画としての要素を全て揃えており、今見ると流石に古臭さはあるものの、 この泥臭さと洗練されてなさが人間の立体感を浮き上がらせている。 動と静の緩急が上手い。 村に平和を取り戻したものの自分たち侍を"負け戦"と称する、 儚さと寂しさと悲哀が漂うエンディングはアメリカでは作れない味わい。 時代の移り変わりに順応できない侍たちは死に場所を求めていたのではないか。 [DVD(邦画)] 8点(2023-01-23 21:37:00) |
5. 人類遺産
アマゾンプライムで配信されていたので視聴。 音楽もナレーションも説明の字幕もなく、果ては人間すら登場しない。 固定カメラでかつての人の営みがあり、やがて廃れていった建造物を切り取る。 置き去りにされ、朽ちていく建造物はあまりにも寂しげであり、かつ詩的で退廃的な美しさを醸し出す。 音楽の代わりに雨の音、風の音、波の音、動物の鳴き声が音響の要として大きく際立つ。 伝えたいメッセージがあるわけでもない。 ただ、そこに何があったのか想像をかきたてる。 原発事故で時が止まったままの福島の帰還困難区域もそう。 確実に眠気に誘われる映画かもしれないが、 映画を見る体力も残ってないときでも気軽に見れる映画でもある。 そのまま彷徨い、力尽きるまでフレームの中で旅してみたい。 [インターネット(字幕)] 5点(2022-11-28 23:00:48) |
6. シザーハンズ
《ネタバレ》 カラフルな田舎町に、ティム・バートンのゴシックで奇怪な要素が持ち込まれ、見事に融合した逸品。 人間と人造人間の違い、外見と内面のアンビバレントさ、複雑さを切なさへと昇華してみせる。 手が人を傷つけることもできるハサミでなかったら、もう少し違った結末になったのか。 違う世界のヒロインと出会わなければお互いに幸せだったのか。 それでも出会わなければ、雪を降ることも短いながらも一緒にいられた温もりもなかったかもしれない。 ジョニー・デップの個性なくして、この映画は成り立たなかった。 [地上波(字幕)] 7点(2022-10-19 12:28:34) |
7. JAWS/ジョーズ
粗製乱造されるC級サメ映画の原点であり頂点。 もちろん本作は亜流とは比べ物にならないくらい完成度が高い。 撮影時、サメの機械模型の不調により、サメはほとんど登場することなく、 出るか出ないかの演出と絶望的な状況が却って恐怖を際立たせていた。 パニックホラーの域を超えて、格調高さすら感じる。 これさえあれば他のサメ映画なんていらない。 [地上波(字幕)] 7点(2022-08-06 15:30:59) |
8. 地獄の黙示録
コッポラが『ゴッドファーザー』を超えるために作ったはずが、撮影現場の混乱ぶりが凄まじすぎて、 物語の破綻ぶりとカオスがジャングルという地獄巡りに彩を添えているのが皮肉すぎる。 難解なのは言うまでもないが、強烈なインパクトも備えているので、 カンヌパルムドールを分け合った『ブリキの太鼓』に近いものを感じた。 終盤のカーツ大佐との対話でどうして眠くなってしまってしまうんですよね。 [DVD(字幕)] 6点(2022-06-08 22:50:09) |
9. 白い馬(1952)
《ネタバレ》 後の『赤い風船』と比べると見劣りがするが、むしろ『赤い風船』の原型であり、監督のテーマが如実に表れている。 荒々しいドキュメンタリータッチの白黒映像に、特撮技術がおぼつかない時代に撮られた走り続ける白い馬の迫力と美しさだけで充分おつりが取れる。 支配ありきの汚い人間たちに飼い馴らされたくないと、孤高の白い馬と純粋な少年は心を通わせ、追い詰められた果てに黄泉の国へ船出をする。 『赤い風船』と類似する結末で、どう足掻いても変えられない世界を悟っていたように。 [DVD(字幕)] 7点(2022-05-18 15:39:57) |
10. シン・ウルトラマン
初代ウルトラマンの精神を引き継ぎつつ現代に再構築したという意味で『シン・ゴジラ』と同様のコンセプト。 前半はなかなか面白いものの後半から徐々に失速。 庵野秀明の作風がウルトラマンと合ってないのか、はたまた監督を務めた樋口の演出が庵野の個性と合ってないのか。 次々と出てくる怪獣や異星人のエピソードに一貫性がほとんどなく、TVシリーズのように小分けで見せられている印象を受けた。 つまり、一本のストーリーとしては弱い。 スケジュールの関係で監督を兼任できなかったようで、実現していれば違っていたかもしれない。 [映画館(邦画)] 6点(2022-05-15 22:16:48)(良:1票) |
11. SING/シング
人間を動物化させた『ズートピア』を思い出すわけだが、体躯を活かした社会派要素はなく、あくまでコメディとしてのスパイスなだけで、動物である必要があまり感じられない。コンテストに集う人間(動物?)模様も個別のエピソードを取ってつけただけで複雑に絡み合うことなく終わってしまった。駒のような扱いのキャラクターだらけ。歌声一点に押し切ったカラオケ大会として見れば悪くはない。でも何も残らないんだよ。 [地上波(字幕)] 5点(2022-03-14 22:15:45) |
12. シックス・センス
"衝撃の結末"と話題になったもののそれは装飾にすぎず、オカルトホラーと見せかけて、登場人物の葛藤と救済を描いた、真っ当なヒューマンドラマとして仕上げたところが良ポイント。その後、シャマランは変に奇をてらって、本作を超える佳作を未だ作れていない。多分に本質はあちら側で、偶然マッチした産物なのかなと思ったりする。 [ビデオ(字幕)] 7点(2021-09-30 22:43:25)(良:4票) |
13. シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション
敢えて日本語吹替版で視聴。大のシティーハンター好きのコメディアンがわざわざプロットを原作者に持ち込んで許可を得た上で、一年半かけて脚本を練り込み、監督も主演もこなしたということだから、熱意もリスペクトも伝わるだけでなく、原作を知らなくても楽しめる良い意味でハチャメチャな作り。舞台がフランスなのに、日本名で呼び合うからオリキャラのフランス人が浮いちゃうツッコミどころはあるものの、それすら許してしまうようなノリと勢いに誠実さがあったのだろう。 [インターネット(吹替)] 7点(2021-07-14 23:38:16) |
14. 静かなる叫び
《ネタバレ》 女性排斥を掲げて尚も強い未練を残す殺人犯。脅しに屈したために多くの女性が射殺され自責の念に囚われた男子学生。銃撃されながらも生還し心身に深い傷を負った女子学生。この三名を軸に銃乱射事件とその後日談を冷徹なモノクロ映像で捉える。時制を交錯させながらも無駄を削ぎ落した構成に、天地を逆転させたカメラワークを用いて、古き絶対の価値観の危うさが浮かび上がる。「男の子には愛を、女の子には世界に羽ばたくことを教えます」。授かった命に不安を感じつつも前に踏み出すラスト。カナダ時代のヴィルヌーヴの非凡さを感じさせる。 [インターネット(字幕)] 7点(2021-04-26 21:40:52) |
15. JSA
《ネタバレ》 韓国、北朝鮮のどちら寄りにもならないフラットな姿勢に好感。微笑ましくもどこか一触即発の緊張を孕んだ友情が、対立する国家の前では身動きできない遣り切れなさ。偶然撮られた観光客の写真がそれぞれの立場を描いていて、悲劇性を際立たせる。 [地上波(字幕)] 7点(2021-01-05 14:14:10) |
16. シカゴ7裁判
《ネタバレ》 圧倒的情報量とスピーティーな会話劇で占める複雑な内容を噛み砕き、新たな証拠や事実が明るみになっていく展開にグイグイ引き寄せられる。「血が流れるなら、街中で血を流せ」。この言葉は受け取り方によって解釈が大きく異なるように"正義"に揺らぎが生じる。それは非常に主観的なもので、現在のアメリカの分断と重なる。リベラル寄りではあるが、決して良いところばかり描いているわけでもない。所属団体も思想も信念も一人一人違うし、裁判の目的も違う。出来すぎだとは思うが、日々戦死した兵士たちの名を書き連ねたリストが最終陳述で活かされ、思いが一つになる展開は見事だった。 [インターネット(字幕)] 7点(2021-01-01 01:12:05) |
17. 市民ケーン
《ネタバレ》 『Mank マンク』の予習のため10数年ぶりに再見。初めは睡魔との闘いで印象に残らなかったが、今見ると愛着障害を描いた現代に通じるテーマだった。愛情の代わりに金は無尽蔵にあり、強大な権力もあった。それでも二人の妻も二人の親友も去っていったのは、こういうことをしたんだからという見返りが透けて見えていたからで、他人の心情を上手く汲み取れない不器用さがあまりにも悲しい。世間的には新聞王として持て囃されても彼の一部分でしかないし、関係者の証言も彼の一部分でしかない。あるのは、遺品が容赦なく焼却処分されるように、死んでしまえば忘却の彼方へ置き去りにされる虚無感だけだ。今でこそ珍しくない演出手法も当時は斬新で、実在の新聞王をモデルにしたのだから、このセンセーショナルさがオーソン・ウェルズの強大な野心と深く重なる。ドナルド・トランプはこの映画が好きだったようだが、現在の窮状を見るに大いなる皮肉を感じた。野心、野心、野心・・・。名を残すとはこういうことなのだ。 [インターネット(字幕)] 8点(2020-12-06 00:52:00)(良:2票) |
18. 十二人の怒れる男(1957)
《ネタバレ》 11対1の不利な状況からの逆転劇。密室の会話だけの展開なのにも関わらず、論理的に分かりやすく説明して相手を納得させるあたり、かつての敵を仲間として引き入れるジャンプ漫画的な熱さを感じるのは自分だけか。ゲームのように一つ一つクリアしていく没入感がある。ただ現実はゲームではない。一人の少年の人生が掛かっており、常にヘンリー・フォンダみたいな男がいるとは限らない。一周回って少年はクロかもしれない。それでも一つの疑問から議論し尽す姿勢こそ重要であり、それを放棄することもできる民主主義の恐さと脆さを体現した名作に間違いない。 [地上波(吹替)] 10点(2020-11-27 21:32:35)(良:2票) |
19. シャイニング(1980)
かつて143分版を見たことがあるが、テレビで再視聴。バッサリカットされているが、冗長的な部分が抑えられて却って見やすい。ホラーと謳われながら、思ったほど恐くは感じられなかったが、一方で演出と映像に狂気とも言える拘りを見せており、芸術的な領域にまで高めているのが名作と言われる要因か。随所に挟み込まれるペンデレツキの楽曲が効果的。たとえ親しい家族だとしても、人間何事も距離を置くのが肝心だ。 [地上波(字幕)] 6点(2020-07-08 22:37:31) |
20. シンデレラ(2015)
《ネタバレ》 誰もが知っている童話そのままに、最高の特殊効果と美術でどこまで限界に近づけるかを再現。短編で終わらせることもできる内容なだけに、原作破壊を最低限に留めた上で世界観の補強を行い、一人一人の行動に説得力を持たせている。憎まれ役のケイト・ブランシェットの奥に秘めた嫉妬と悲しみが映画に奥行きを持たせており、謀略が立ち去った王国でシンデレラはいつまでも幸せに暮らしましたになるとは限らない。それでも待ち受ける試練に心が凍りつくことなく乗り越えられるかもしれない強さをリリー・ジェームズが体現してみせる。 [地上波(字幕)] 7点(2020-04-25 11:15:24) |