1. スケアクロウ
オープニングのピーンと張った静寂がこの映画の力を物語っている。遠藤周作の文章に「心がしーんとする瞬間」という一節がある。散文的でだらしなく薄汚れた日常生活にも、「しーん」とした何かが入り込んでくることがある。その「しーん」とした人生の時は、多くの場合苦しみと共に訪れる。そういう苦しみを多少でも持っている人間には、他の「しーん」としたものと、幸せに酔っている時には気付かない交流が成立する、といった内容であった。私にとってこの映画はまさに、辛く苦い「人生の時」に交流し得た心震える存在であった。辛さから回復してみると会話は少しずつ消えていった。しかし傑作であることに変わりはない。図らずもこのような人生の時が訪れた者にとって、この作品は、その心をふたたび覚醒させるような底力を持った「しーん」とした秀作である。 8点(2004-06-23 21:30:43)(良:1票) |