1. スケアクロウ
《ネタバレ》 アル・パチーノが若いです。 渋くて迫力のある彼ばかり見ていた私にとっては新鮮でしたが、本作の小物っぷり満載の彼の演技もこの頃から既に特筆に値します。 周りの状況や他人を伺う様に終始泳いでいる目線などは優しさと弱さと他人への迎合を併せ持つフランシスという人物により一層の深みを与えています。 矯正局でやりたい仕事は?と聞かれ、楽な仕事も選べたのに「洗車」と即答する彼からは純粋さを感じられる優れた演出になっています。 ジーン・ハックマンの異質の演技も本作では特に際立っています。 俳優を生業としていないミュージシャンやコメディアン等が勢いに任せて規格外の演技を見せたり、存在そのものから漂う何をするか分からない様な危うさと同等なものを彼からは感じます。 ジャック・ニコルソンやロバート・デ・ニーロのように突き詰めていった演技から生まれる狂気ではなく、身体に染み付いた無骨な危うさを持っている様に思います。 そんな危うさに確かな演技力が加味されているので彼中心に描かれている本作は全編を通して矛盾している様に聞こえますが、安心感の中で程よい緊張感を持って見る事が出来ましたし、話の平坦な前半もアル・パチーノとジーン・ハックマンを追う事によって作品に集中出来ました。 また、作品のトップカットでは手前に光が当たっているのに今にも雨が落ちてきそうなバックの暗い空とのコントラストが天候の偶然により印象的になっている画だと思っていたのですが構図の確かさが起因している事にも気付かされます。 この様にセンスを感じさせるカットが何箇所か忘れた頃に出てきます。 主演の2人が労働者街を目指す途中に歩いて鉄橋を渡っているカットでは夕陽に照らされている錆色の鉄骨の間を銀色に輝くパースのついたレールが貫き、その奥に黄金色と水色と雲の灰色が混在する空が淡く光っています。 歩いて行く二人の背中に漂う哀愁を画の中の全てが補完している様な美しいカットになっています。 始めダイナーのカウンターで洗車屋の話をしていた時には絶対に失敗すると思っていました。(成功する要素が見当たりません) 物語はそこまで届かずに終わってしまいますが変化していった彼等自身や2人の関係性を見ていると回復・退院するフランシスを、店前に案山子がある小さな洗車屋で葉巻を銜えたマックスが出迎えるシーンが目に浮かびます。 かなり甘めの理想的な想像ですが妥当な流れとも思ってしまう程に彼等の絆は固いものになっていたと思います。 長距離バスのカウンターに靴をバンバン叩き付ける社会不適合行為をしているマックスの横には冗談を言って窘めてくれるフランシスは居ません。 病院で意識のないフランシスに対して「俺にはお前が必要なんだ」と叫んでいたマックスを思い返させる切な過ぎるラストシーンになっています。 抑えていますが的確な演出の地味なストーリーに文字通りジーン・ハックマンとアル・パチーノが息を吹き込んで忘れる事の出来ない印象的な作品に仕上げていたと思います。 [CS・衛星(字幕)] 9点(2016-06-20 00:53:52) |