1. 脱出(1972)
《ネタバレ》 分類はサスペンス映画になるんでしょうか。私は、サスペンス・ホラーだと思いました。それくらい、怖かったです。 人間の…なんていうのか、狂気というほど大げさなものではなく、鬱屈を抱えた人間の内に潜んでいる、凶暴な悪意というのか、嗜虐性というのか。 この「鬱屈」は、都会の便利な生活の犠牲になっている田舎に住む人間のもの、なのでしょう…。 河も湖も埋め立てられ、墓さえも掘り起こされる。すべては都会に電力を送るため。まるで日本の原発のよう。 自分とは無縁の都会の奴らの犠牲なっている、と無意識にため込んでいる怒りが、都会から来た余所者へ向かう、その様。俺たちにはこいつらを好きなだけ嬲っていいんだ、その権利があるんだ、と最初から確信に満ちている、その姿。怖くて眩暈がしました。 都会からカヌー下りに来ただけの主役たちにしてみれば、それがどれだけ理不尽な暴力か。 もっとも、この手の「暴力」は、女性一般が常にさらされている危険と同じ程度のものですが。レイプにエロティックな部分は全然ありません。この映画でレイプされたボビーと同じで、女性にとってはただの残酷で非人間的な暴力。この映画を観れば、AV見過ぎの勘違い男性にもそれがわかるんじゃないかなぁ…というのは余談。 こういう、田舎vs都会という構図の映画、アメリカでは多いですよね。 それだけ都会の便利生活が地方の自然や人々に犠牲を強いている、という罪悪感があるためなんでしょうか。それとも、自覚のない都会者に対するメッセージでしょうか。 「出身地・生活・立場が違うもの同士はわかりあえない、殺しあうしかない」というテーゼは、身も蓋もなさ過ぎて、最近の人には受け入れられずらいかも。現代人は、精神が軟弱だからなぁ…薄っぺらい小手先の頭脳ゲームみたいなのが好きだし。 今この映画をリメイクするとしたら、ストーリーはもう少しひねりを加え、表現はもっと残酷にして現実離れさせるか、逆にソフトにするかしないと、ダメそう。 でもそうやって小手先でいじくり回すと、この映画の救いようのないリアルさが消えてしまう。この映画は、このままで完成されているのでしょう。 身も蓋もないストーリーをリアルに描けるのは、フィクションだから、映画だから。キレイ事を描かれるより、100倍いいですね。 [地上波(吹替)] 6点(2013-02-07 23:06:45) |