1. タッカーとデイル 史上最悪にツイてないヤツら
タイトルロゴを見た時点でホラー映画のパロディを志向していることはわかります。ホラーコメディというよりはコメディmeetsホラーのような内容で、主人公二人は現実に近い感性のコメディ映画の世界の住人でヒロイン以外の大学生側は完全にホラーのノリでその二つの世界が交わるような感じに面白さがあるわけですね。ただパロディにしては人が本当にグロく死んでいく容赦のなさは気になりますね。そういう部分でも笑わせようとするアメリカンな感性に乗れるか乗れないかが評価の分かれ目になりそうです。しかしこうしてジャンルを客観的に見る機会があるとナタに斧、丸鋸にチェンソー、釘打ち機といった木材加工用の器具って映画の中で殺人鬼の武器に採用されがちなことがよくわかりますね。 [インターネット(字幕)] 5点(2023-10-25 23:31:56) |
2. ターミナル
スティーヴン・スピルバーグ監督の作品の中では地味な方なのでずっとスルーしていたのですがやっぱり今更見るほどでもない微妙な映画ですね。とにかく脚本がいまいちで人情も恋愛も社会派要素も全部関連性が弱く散漫で何について語りたい映画なのかよくわかりません。トム・ハンクスはトム・ハンクスにしか見えないのでこれで東欧の人間と言われても全然ピンと来ませんね。今なら普通に無名の東欧出身のキャストを抜擢してもおかしくなさそうです。キャリーバッグを潰しちゃうところとか言葉が通じない以前の問題で妙に言動が子供っぽいのも不自然というか偏見のようなものが見えてしまいます。ヤギの薬のくだりもこんなので納得するのでしょうか。無国籍になってしまった人間の境遇を伝えることが目的ではなく軽いコメディ映画を作るためだけにこのシチュエーションを利用してるだけのようで薄っぺらく感じます。深く考えなければ楽しめなくもないのですが、後に残るものが何もありませんでした。 [インターネット(字幕)] 5点(2023-09-21 23:19:50) |
3. 対峙
舞台劇の映画化のように見えますが映画オリジナル脚本のようです。うーん、残念ながら内容は保守的なアメリカ人のための物語という感じですね。会話の中ではインターネットやビデオゲームの若者への悪影響が語られます。舞台となるのは教会の一室で部屋にはキリストの十字架が掲げられています。原題のMASSにはミサの意味もあるようです。この時点でこの映画はキリスト教的な罪の赦しの物語となるのだろうと予測できますし、実際そこから逸脱するような展開にはなりません。アメリカの銃乱射犯にはアジア系も多く見られ、アメリカの事例ではないのですがイスラム教徒が攻撃の対象になったこともあるのですが、この映画の加害者と被害者は白人のみです。今時安直な発送かもしれませんが、人種や宗教が異なる人物間の対立と和解の物語として構成していればキリスト教や白人の家庭問題という内側だけに留まらずにもう少し興味深い作品になれたと思います。 [インターネット(字幕)] 4点(2023-08-31 23:44:16) |
4. TAR/ター
西洋の伝統的な芸術文化は女性をはじめとして異文化の人間を取り込んで延命を図ってきたがそれも段々綻びが見えて来ていてそのうち滅びる悲劇的な運命にある、みたいな感じの内容でしょうか。でも実際画面に出てくるのは毎日仕事場と家を往復してたまに子供の学校や観光地に行って社会との繋がりはSNSぐらいしかない、そういうしょーもない現代人の姿だけのように見えます。とっくの昔に生活が芸術とかけ離れたものに変わってしまっている現実から目を背けて天才芸術家みたいな古臭い世界観に浸ってるナルシシズムに辟易します。現代を描く映画ならばこのラストシーンで終わるのではなくむしろラストシーンから物語が始まるべきではないでしょうか。アジアで暮らしたことなんて絶対なさそうで、作り手がそういう狭い世界に生きてる人間だということが透けて見えるので白けてしまいます。個人的に役者が熱演するような作品は好みではなく、作品から浮かない自然な演技の方が正しいと思うタイプなのでケイト・ブランシェットの演技もわざとらしいようにしか感じられず褒める気になれません。それにしても序盤の貧乏ゆすりの青年の件が終盤になってようやく回収されて劇的な展開に繋がるわけで、その間は同性愛だのナチスだのそれっぽいキーワードを散りばめてお茶を濁す構成もひどいと思います。アンドレイ・タルコフスキーだかアピチャッポン・ウィーラセタクンだかのオマージュのようなシーンも必要なんでしょうか。監督・脚本は男性なわけですが結局男の主張を女に代弁させているようにしか見えません。それこそ見栄えがするからこっちを選択したんでしょうかねと皮肉も言いたくなります。作品を作者の性別で評価するべきでないなんてただの自己弁護としか思えませんよ。 [DVD(字幕)] 2点(2023-08-06 21:56:38)(良:1票) |
5. 太陽を盗んだ男
内容としては日本社会のパロディであり、日本社会自体が何かを真剣にやろうとするとパロディのようにしかなれないというお話です。学園ドラマ、アクション映画やスパイ映画の真似事、鉄腕アトムの主題歌、とにかく何をやってもごっこ遊びのようにしかならないという倦怠感。テーマは世界の核拡散への警鐘…のようなものではなく戦後世代の戦争経験者へのコンプレックスです。あのバスジャック犯の老人のように無気力ではなく何かに対して必死で生きてみたかった、その気持ちが主人公を突き動かすのです。しかしその無気力な倦怠感の原因が何か社会にあるのではないかという点は追求されずに、漠然とそういう空気があることだけを前提として物語が進んでいくところがこの映画の限界です。明確なメッセージが欠けているので行き当たりばったりなまま終わるのは主人公だけじゃなく映画自体もそうなのは困りものです。もはや沢田研二も老人となる現代ではこの映画自体がゲリラ撮影やキワドイ題材を可能にしたエネルギッシュな時代への憧れのような論調で語られるのも皮肉な話ですな。 [インターネット(邦画)] 6点(2023-06-15 23:29:39)(良:1票) |
6. ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り
あまり期待してないのに観てみたら面白かった枠であって普通に期待して観た場合だと正直微妙な作品ですね。めちゃくちゃ金曜ロードショー向きの作品です。王道ともハリウッドのテンプレ展開しか出てこないとも言えます。映画のA級B級は予算の違いもありますが登場人物の心理描写が丁寧か単純かという観点でも判断できると思います。そういう意味ではやっぱりB級です。まあ私も好きなジャンルの映画がこの出来だったらベタ褒めしてるかもしれませんので、あんまり悪くは言えません。ソフィア・リリスは確かにかわいい、しかし活躍する場面では別の姿に変身してるのでなんかもったいない(笑)。自分自身の弱さと向き合うエピソードが用意されてる他の主要キャスト3人に比べるとエメラルド居留地のエピソードがあまりピックアップされないので物語上の存在感もないです、初登場シーンが一番わくわくしてそれっきりです。それと、泣かせ演出のために適当に登場人物を殺す作劇はやっちゃダメですよ。 [映画館(吹替)] 5点(2023-04-12 23:45:32) |
7. ターミネーター
冒頭、人の頭蓋骨が機械のキャタピラによって踏み潰される場面はクライマックスでT-800の頭部がプレス器で潰されるのと対になっています。ジェームズ・キャメロンがどの程度意図したかはわかりませんが、未来から武器を持ち込めないという設定は低予算の中でリアリズムを保つためだけでなく、もう既に人間は車や銃のような簡単に人を殺すことのできる機械に囲まれて生きているという事実を浮き彫りにしてはいないでしょうか。最終的にこの映画で人間は現代の機械の力を借り未来の機械に辛くも勝利するわけですが、ターミネーターはいわばその孫にあたるような存在なのであり、悲惨な未来は現代の延長線上にあるのです。次作では残されたマイクロチップがスカイネットの起源であると設定し、それを何とかすれば救われるという安易な解決策を提示してしまったことで、単純なエンターテインメントとしては良いのかもしれませんが文明批評的側面が弱まってしまったと思います。 [DVD(字幕)] 8点(2023-03-07 20:12:37)(良:1票) |