1. チェイサー(2017)
《ネタバレ》 ノンストップな追跡劇が面白い……と言いたいとこなんだけど、ちょっと微妙でしたね。 奇を衒った作りではなく「誘拐犯を追いかけ、子供を取り戻す主人公」というシンプルなストーリーだし、時間も94分と短めに纏まっているし、主演はハリー・ベリーだしで、褒めたくなる要素は一杯なんだけど、肝心の「映画としての面白さ」が足りてない。 どうして楽しめなかったんだろうと考えてみたんですが、本作に関しては「骨太でシンプルな作り」という、本来なら長所となるべき部分が、仇となってしまったのかも知れません。 誘拐犯の正体は驚きのあの人とか、実は深い目的があったとか、そういう訳でもないし、本当に「主人公VS誘拐犯」ってだけの話ですからね。 序盤に主人公がウェイトレスとして働く場面を、結構な尺を取って描いており、これは伏線なのかな(揉めてた客が再登場して主人公を助けてくれるとか、あるいは誘拐犯の一味とか)と思っていたら、全然関係無かったっていうのも、観ていてズッコけちゃいましたし。 中盤にて、主人公の車が燃料切れを起こしちゃうのも、何だか象徴的。 「ネタが無いので、仕方無く燃料切れにして引き延ばしました」としか思えない展開であり、そこで車だけじゃなく、映画自体も息切れしちゃってた気がします。 尺稼ぎが露骨というか、この映画には、94分でも長過ぎたんじゃないかと。 とはいえ最初に述べた通り、自分としては「褒めたくなる」「好きなタイプ」の品だったので、以下は良かった点を。 まず、冒頭で「息子の成長を見守る母」の姿を描き、母子の絆をしっかり感じさせるのは嬉しかったですね。 こういう映画である以上、そういう描写は必要不可欠だし、やって当たり前だろって話ではあるんですが…… 「当たり前の事を、ちゃんとやってくれてる安心感」が得られるっていうのは、立派な長所だと思います。 警察が全然活躍しないで、主人公が孤軍奮闘して息子を救うって展開に、しっかり説得力があったのも良い。 この場合の説得力っていうのは「警察に任せた方が息子が助かる確率は高いのに、自力で何とかしちゃうのは説得力に欠ける」とか、そういう現実的な代物ではなく、作劇として「主人公は警察に任せておけずに、自力で息子を救おうとする」っていう、主人公の心の描き方としての説得力ですね。 警察署にて、行方不明になったまま帰らない子供達のポスターを見つめ「我が子は決して、こんな風にはさせない」「何もせず待ってるだけなんて、耐えられない」と考える流れには、自然に感情移入出来ましたし。 正しい道じゃないかも知れないけど、観客として「それで良い」「そうするのが正解」「頑張って欲しい」と思える道を選ぶ主人公っていうのは、やっぱり魅力的です。 [ブルーレイ(吹替)] 5点(2023-08-22 00:43:15)(良:1票) |
2. 忠魂義烈 実録忠臣蔵
《ネタバレ》 赤穂浪士が「赤穂義士」であった時代の作品、って感じですね。 1910年代から1920年代に掛けて、幾つも制作された「実録忠臣蔵」の中の一本であり、自分が観た中でも最古の忠臣蔵映画となります。 そんな訳で、近年の作に比すると捻った部分が少なく、忠臣蔵という題材を直球で描いてる感じなのが、逆に新鮮。 最近では「彼らには彼らなりの言い分がある」とされがちな吉良上野介も、大野九郎兵衛も、本作では単純な悪役でしかないですからね。 この辺りは(悪役を悪役として、真っ正直に描けた時代なんだなぁ……)って思えたりして、感慨深かったです。 特に吉良に関しては、本当に悪し様に描かれており、ここまで来ると一周回って面白い。 自分が嘘を教えたせいで浅野が遅刻したのに、いざ斬られそうになったら「御役怠慢の其処許を、急に病気と御上を取りなした親切者の吉良上野介を、貴殿は切る気か」「恩義を仇で返される気か、謝罪せられい」と挑発したりするのが、何とも憎たらしくて、いっそ天晴と思えちゃいました。 自分が観たのは活弁版だったのですが、字幕には無い「鮒侍がっ!」という吉良のお約束台詞が、活弁によって付け足されているのも愉快。 そもそも物語として「吉良に斬り付けた浅野の方が正義である」って前提にするのが無理がある訳で、その無理を通す為には、吉良はこのくらい徹底した悪役じゃないと、説得力が無いんですよね。 自分は、どちらかといえば「吉良は被害者であり、赤穂浪士は逆恨みした犯罪者でしかない」という視点の忠臣蔵の方が、好みだったりする訳ですが…… こういう前時代的な「赤穂義士」を描いた作品にも、確かな王道の魅力があるよなと、しみじみ感じ入りました。 それと、本作は当時の基準で言えば「前後編に分けた大作」なんだけど、現代の観点からすると「一時間ほどで完結する忠臣蔵映画って、珍しい」ってなるのが、新鮮な感じでしたね。 何時間も掛けて描かれるのが当たり前な忠臣蔵の物語が、僅か一時間で終わってしまう訳だけど、その中でも結構な尺を取って「大石の芸者遊び」が描かれているのも、これまた興味深い。 やはり忠臣蔵を描く上で、そこは絶対外せないんだなって感心しちゃったし、重苦しい場面が続く中での「箸休め」としての効果が大きいんだと、映画を通して教えてもらったような気分になりました。 ちなみに、本作は舞台裏でのゴタゴタが多く、火災でフィルムが消失してしまったり、討ち入りの場面は「間者」という同年公開の映画からの流用だったり、主演俳優は横柄な態度で監督を困らせたり、かと思えば監督は監督で片岡千恵蔵に不義理を働いたりで(「判官やらせたる」と内匠頭役をチラつかせて舞台から映画に引き抜いておきながら、実際は端役しか与えず、悔しさの余り千恵蔵は引退を考えた)色んな意味で問題作だったりするんですよね。 幸い、映画を観賞中の自分には、それらの製作背景は影響を与えず、精々 (討ち入りの場面、ちょっと浮いてるな……山場だから気合を入れて空回りしたのかな?) って思う程度で済んだのですが、そんな問題作に限って、こうして映画史に名が残り、百年近くを経ても鑑賞出来る品になったのだと思えば、何とも感慨深いです。 冒頭で挙げた、幾つもの「実録忠臣蔵」(1910年、1914年、1918年、1920年、1921年、1922年、1923年、1926年)の内、今でも気軽に観られるのは本作だけのはずですし…… 案外、不幸な生い立ちながらも結果的には恵まれた、幸せな映画なのかも知れません。 [インターネット(邦画)] 6点(2023-05-16 07:08:27) |
3. チーム★アメリカ ワールドポリス
《ネタバレ》 なんか結局「チーム・アメリカは色々迷惑も掛けるけど、世界平和の為に必要なんです」って結論になるのに白けちゃって…… 映画は勇ましい出撃シーンと共に終わるんだけど、観ている自分のテンションは低調そのものっていうギャップが印象に残ってますね。 そもそも内容が悪趣味とかブラックユーモアとか以前の問題として、単に作ってる人達が「嫌な奴ら」ってだけにしか思えなかったのが痛いです。 気に入らない著名人を映画の中で登場させ、悪人として描いて殺すのが楽しいって感性の人も世の中にはいるんだろうけど、流石にノリ切れない。 というか、単純に笑いのテンポとか間の取り方とか、そういうのが上手くないように思えちゃって「悪趣味で不謹慎な笑いである」って事以外には特徴を感じられないんですよね。 人形がセックスする場面や嘔吐する場面とか、もっと短くサラッと描いてくれたら笑えたかも知れないけど、長々と何度も繰り返し描くもんだから「長いよ」「しつこいよ」と思えちゃって、笑えない。 「自分の感性に合わないので面白くないけど、これが凄い映画だって事は分かる」って品も結構あるんですが、本作に関しては「合わないとかそれ以前の問題として、全然凄いと思えない」ってパターンであり、観ていて辛かったです。 とまぁ、そんな具合に、不満を並べ立てたらキリが無い映画なんですが…… それだけじゃ寂しいので、以下は良かった点を。 まず「素人の主人公がプロの集団に仲間入りし、成長してヒーローになる」というストーリーは王道であり、映画の軸がしっかりしていた辺りは評価すべきだと思います。 本作の売りは「メインストーリーの間に挟まれる小ネタ」の方にこそあるんでしょうけど、小ネタを楽しめなかった自分でも、そこまで退屈せずに観られるよう仕上げてあるんだから、この辺は「色んな客層に配慮した、プロの仕事」って思えて、感心させられました。 歌詞の内容には鼻白むけど、挿入曲もノリが良くて楽しい代物が揃ってるし、その使い方も上手い。 人形が人形を操ってる二重構造や、猫を黒豹と言い張る「稚拙な特撮」っぷりにも、愛嬌というか「映画としての可愛らしさ」を感じられて、憎めなかったです。 総評としては、作中で揶揄されてる「パール・ハーバー」よりは面白いと思うけど、好きな映画とは言い難い……と、そのくらいに落ち着きそうですね。 こういう尖った映画の場合「大好き」か「大嫌い」の、どちらかに振り切った方が評価する側としても気持ち良いんだけど、悪趣味を気取ってる割に、妙に優等生な面もあったりして、中途半端になってしまった感じ。 傑作にも駄作にも成り切れなかったという、そんな一品に思えてしまいました。 [DVD(吹替)] 5点(2022-04-20 09:39:22) |
4. 忠臣蔵(1958)
《ネタバレ》 自分は「忠臣蔵」(1990年)の項にて「一番面白い忠臣蔵だと思うけど、捻った作りなので初心者には薦め難い」と書きましたが「じゃあ、初心者に薦め易い忠臣蔵は何?」と問われた場合、本作の名前を挙げる事になりそうですね。 とにかく分かり易いというか「忠臣蔵の映画をやるなら、これは外して欲しくない」という部分が、きっちり盛り込まれている辺りが見事。 自分が特に好きな三つのエピソード「畳替え」「大石東下り」「徳利の別れ」を全部やってくれてる映画って、意外と珍しいですからね。 特に「畳替え」の件はダイナミックに描かれており、序盤の山場と言えそうなくらい力が入ってるのが嬉しい。 「朝までに仕上げねばならん、頼んだぞ!」と職人達を激励する浅野家臣の姿も、実に良かったです。 それによって、浅野家に「庶民と力を合わせて頑張る武士集団」というイメージが生まれますし、彼等を善玉として描く上で、非常に効果的な場面だったと思います。 対する吉良方が「庶民の敵」である事を、徹底的に描いている点も良いですね。 どうしても「斬り付けた浅野が悪い。吉良は被害者」ってイメージが拭えないのが忠臣蔵の弱点なんですが…… 本作は、その点でもかなり頑張っていたんじゃないかと。 とにかく吉良方が庶民を虐めてる場面が繰り返し挿入されるもんだから、観客としても自然と浅野方を応援しちゃうんですよね。 討ち入りの際にも「女子供は逃げろ」と言ったりして、徹底して「正義の赤穂浪士」として描いている。 「浅野殿、田舎侍を御家来に持たれては色々と気苦労が多う御座ろうな」と吉良が嫌味を言ったりして、内匠頭が怒った理由に「自分だけでなく、家臣も馬鹿にされたのが許せなかった」という面を付け加えている辺りも上手かったです。 また「斬られたのは吉良の方なのに、吉良に仇討ちするのは筋違い」という事が劇中で何度か言及されている点も、バランスが良かったと思います。 観客に(そういえば、その通りだ……本当に、浅野側が正しいのか?)と考えさせる余地を与えており「視点を変えれば、赤穂浪士は正義にも悪にも成り得る」という事を教えてくれるんですよね。 そういう意味でも、初心者にも安心というか「はじめての忠臣蔵」に丁度良い品であるように思われます。 そんな本作の欠点としては…… 「忠臣蔵お馴染みのエピソード」を描いた場面は凄く良いんだけど「この映画でしか拝めない、オリジナルのエピソード」はイマイチだったという点が挙げられそう。 京マチ子演じる「女間者 おるい」の存在が特に顕著であり、どう考えても浮いてるというか「大スターの為に無理やり女性のメインキャラを追加しました」って印象が拭えなかったんですよね。 一応、女間者が絡んでくる忠臣蔵としては「大忠臣蔵」(1971年)などの例もありますが、連ドラではなく映画でコレだけ尺を取られてやられると、ちょっと辛い。 しかも彼女ときたら「恐ろしいほど美しい姿でした」なんて感じに、主人公を賛美する台詞を延々吐く役どころなもんだから、贔屓の引き倒しに思えちゃって、観ていて居心地が悪かったです。 元々本作における大石内蔵助って、登場時から「有能な家臣」であり、敵からも散々「大した奴」と褒められる役どころで、自分としてはどうも胡散臭いというか…… 正直、あんまり魅力を感じない主人公なんですよね。 頭脳も人格も最高の超人であり、夜道で襲ってきた刺客を撃退したり、斬り掛かろうとした相手の体勢を扇子で崩したりして、剣士としても一流の腕前ってのは、流石に盛り過ぎだった気がします。 かつては細身の女形だったとは思えないほどに丸々と太り、貫禄たっぷりな長谷川一夫の演技力ゆえに、嫌悪感を抱いたりはしなかったし「恋の絵図面取り」に対して「引き出物」を渡す場面や「残りは四十七名か」と呟く場面なんかは、とても良かったんですけどね。 個人的好みとしては、もうちょっと隙が多い内蔵助像の方が嬉しかったかも。 後は、大映制作らしい怪獣映画のような音楽。 切腹までは描かれていない為(もしかしたら、この映画の中では赤穂浪士達は助かったのかも?)と思えて、ハッピーエンド色が強い結末だった辺りも、忘れちゃならない魅力ですね。 自分としては「初心者にオススメ」「色んな忠臣蔵を観賞した上で観返すと、ちょっと物足りない」という、良くも悪くも優等生的な作品という印象なのですが…… 「色んな忠臣蔵を観たけど、やっぱり王道なコレが一番!」という人の気持ちも分かるような、そんな一品でした。 [DVD(邦画)] 7点(2019-10-18 13:02:48)(良:1票) |
5. 忠臣蔵(1990)〈TVM〉
《ネタバレ》 数ある忠臣蔵の中でも一番好きなものは何かと問われたら、本作を挙げます。 王道ではなく、かなり捻った作りとなっている為「忠臣蔵に初めて触れるなら、これが一番」なんて具合にオススメ出来ないのは残念ですが…… それでもなお「一番面白い忠臣蔵はコレだ!」と叫びたくなるような魅力があるんですよね。 もう三十年近く前の作品なのですが、今観ても斬新だし、若々しいセンスに溢れていると思います。 何せ、始まって十分も経たぬ内に「斬り付けたのは浅野の方で、吉良は被害者でしかなかった」とズバリ結論を言ってしまうのだから、恐れ入ります。 小説ならば菊池寛の「吉良上野の立場」舞台ならば井上ひさしの「イヌの仇討」という先例もありましたが、ここまで長尺の映像作品で「浅野が悪い」と断定しているとなると、寡聞にして他の例を挙げる事が出来ないくらいです。 しかも吉良側がそう主張する訳ではなく、浅野の家臣である大野が「乱心ですよ」「殿中で刀を抜けば、三百の家臣と、その家族二千が路頭に迷う。その事を弁えずして、これを乱心と言わずして何と言いますか」と主君である内匠頭を糾弾しているのだから、本当に徹底しています。 観ている側としても(これは従来の忠臣蔵とは、全く違う物語だ……)と感じる場面であり、そこからは襟を正して観賞する事が出来ました。 本作は「昼行燈と呼ばれ、平素は無能扱いされていた」という大石の側面に踏み込み、仕事中に居眠りして笑い者になったり、趣味の絵ばかり描いて妻に詰られたりする姿をコミカルに描いているのですが、その一方で「いざとなったら有能だった大石」という、シリアスな魅力を描く事にも成功しているんですよね。 特に、討ち入りを決意した後「非情な軍人」に徹して、冷静に作戦を主導していく大石の恰好良さときたら、もう堪らない。 一人が敵一人と対している時、味方二人が背後から斬り付けるようにと指示し「それは卑怯ではありませんか」と仲間に反発された際に「物見遊山ではありません、戦です。戦は必ず勝たなければならない」と諭す姿は、歴代の大石内蔵助の中でも最も凛々しく、頼もしく感じられたくらいです。 見事に吉良を討ち取った後「上手くいきましたね」と能天気に騒ぐ堀部安兵衛に対し「本当に、そう思うか?」と、自分達が死ぬ未来を予見したように呟く姿も、非常に哀愁があって、味わい深い。 ・赤穂浪士も決して一枚岩ではなく、互いに見下し合ったり憎み合ったりしている。 ・仇討ちは純粋に主君を想っての行いではなく、赤穂浪士が名を挙げて再士官する為の就職活動という側面もあった。 ・生類憐みの令をはじめとして、独断専行の多い将軍綱吉の人望の無さも事件に密接に絡んでいる。 などなど「吉良邸討ち入り事件」の動機や背景を、多方面から描いている点も良かったですね。 そんな本作の欠点は……「耐え難きを耐え、忍び難きを忍び」「話せば分かる」など、その後の天皇やら首相やらの有名な台詞を大石に吐かせ「悲劇の人物」として重ね合わせるかのような演出があったのは、ちょっと微妙に思えた事。 終盤に出てくる侍女かるの存在は、わざとらしくて浮いているように思えた事とか、そのくらいでしょうか。 とはいえ、冒頭の筑紫哲也の解説にある通り、これらの欠点すらも「平成の忠臣蔵を、当時の人々はどんな願いを込めて作ったのか」という目線で観れば、非常に興味深く、一概に「余計な要素」とも言いきれなくなってくる辺りも面白い。 自分としては「敗戦で背負い込んだ挫折感」「軍人への不信感」「若くて自由奔放な女の子に癒されたいという、中年男特有の欲望」などを感じ取った訳ですが、そういった負の感情が込められているのも、また忠臣蔵の魅力なのかなと思ったりしました。 一人討ち入りに参加せず、生き延びてしまった大野が「良い奴だった」「だから、死なせたくなかった」と、英雄でも忠臣でもない「友人」としての大石内蔵助に対する想いを語る場面も、実に素晴らしい。 ラストシーンでも「刃傷事件が起こる前の、楽しそうに笑う大石と大野の姿」が描かれており(二人は、この頃のような平和な日常を取り戻したい一心で、あんなに頑張ったんだ……)と、観客に感じさせるような終わり方になっているんですよね。 「忠誠心ではなく、奪われた日常を取り戻したい一心で行動した赤穂浪士」というのは、本当に独特だと思うし、現代に生きる自分としても、非常に共感を抱く事が出来ました。 これが「最高の忠臣蔵」であるかどうかは分かりませんが…… 「特別な忠臣蔵」である事は間違い無いんじゃないかな、と思います。 オススメの一本です。 [地上波(邦画)] 9点(2019-10-12 05:59:13) |
6. 忠臣蔵外伝 四谷怪談
《ネタバレ》 「赤穂浪士になれなかった男」の物語として、興味深く観賞する事が出来ました。 深作監督の忠臣蔵といえば「赤穂城断絶」という前例がありますが、あちらが予想以上に真っ当な作りだったのに比べると、こちらはもう「全力で好き勝手やらしてもらいました」という雰囲気が漂っていて、痛快なものがありましたね。 手首は斬り飛ばすわ、生首は斬り落とすわで、そこまでやるかと呆れつつも笑ってしまうような感じ。 当初は「俺達の手で時代を変えるのだ」と熱く語っていた若者達が、浪人として困窮する内に現実的な思考に染まってしまい「時代の方が俺達を変えちまった」と嘆くようになったりと、青春ドラマとしての側面まで備えているのだから、本当に贅沢な映画なのだと思います。 とはいえ、基本的なジャンルとしては「怪談」になる訳であり、そこの描写がキチっとしている辺りが、お見事。 あれもこれもと詰め込んだ闇鍋状態なのに、芯がブレていないというか、観ていて落ち着かない気持ちになる事も無く、エログロ濃い目の味付けなのに、不思議と尾を引かないんですよね。 お岩さんが超常的な力で討ち入りに助太刀するというのは、ちょっとやり過ぎ感もありましたが、中盤くらいで「やり過ぎ」な演出の数々にも慣れてしまうので、違和感という程には至らず。 どちらかというと「顔の白塗り」演出の方が良く分からなくて(死相を映像的に分かり易く表現したのか? あるいは悪人であるという証?)と軽く混乱させられましたね。 あれに関しては、もう少し説明が欲しかったところです。 人の良い親父さん風の津川内蔵助に関しては、実に魅力的で、好感触。 1990年版の「忠臣蔵」と同じように「本当は討ち入りをしたくない」という立場であるのも、自分としては嬉しいポイントでした。 自らが義士として称えられる未来を予見し、伊右衛門には「可哀想な男だ」と同情する姿からは、歴史に名を残した男としての、凄みのようなものが漂っていたと思います。 とにかくパワーを感じさせる一品で、高岡お岩さんの巨乳を拝んだり、琵琶の音色に聞き惚れたりするだけでも楽しめるのですが、上述のように「やり過ぎ」に感じられる場面も多々あり、そこを受け入れられるかどうかでも、評価が変わってきそう。 例えば、主人公の伊右衛門は、金策の為に辻斬りを行ってしまった事が負い目となり、赤穂浪士ではなくなる訳だけど「堀部安兵衛だって同じ事をしたのに、あちらだけが義士として英雄視されるのか」というやるせなさを伴った展開である為「義士としての赤穂浪士の偶像を否定する」描写だとしても、ちょっと理不尽で、納得いかないものがあったりするんです。 また、清水一学が伊右衛門のフトモモを撫で回す件などは、同性愛描写には免疫があるはずの自分でも(気色悪いなぁ……)と思うものがあり「フトモモの奥にある何かまで触っている」と気付いてしまった時には、流石に後悔。 最後は綺麗なお岩さんに戻って、伊右衛門と和解し、夫婦仲睦まじく幽霊となって終わりというのも、急展開過ぎるというか、主人公に都合が良過ぎるようにも思えましたね。 それら全てをひっくるめて、この映画特有の味であり、全てが好みである人にとっては、もう凄まじい傑作に感じられそうな……そんな作品でありました。 [DVD(邦画)] 7点(2017-01-16 20:47:47) |
7. 忠臣蔵 花の巻・雪の巻(1962)
《ネタバレ》 正統派の「忠臣蔵」映画としては、これまで観てきた中でも五指に入る出来栄えではないかと思われます。 (ちなみに、正統派ではない変化球で真っ先に思い付くのは1990年のドラマ版です) とにかく、余計な事をしていないというか、必要なエッセンスだけを抽出した感じがして、観ていて安心させられるものがありましたね。 基本的には1954年版の同名映画のリメイクと言って良い内容なのですが、あちらが当時としては斬新な演出や解釈を色々と盛り込んでいるのに対し、こちらは旧来通りというか、真っ当な娯楽映画に仕上げてみせたという印象です。 岡野金右衛門が大工の娘と恋仲になる件の尺が長いのと、三船敏郎演じる俵星玄蕃の存在感が強過ぎて浮いているように感じる辺りは難点でしたが、きちんと作中のクライマックスを「討ち入り」に定めている為、全体のバランスとしては整っているように思えました。 特に感心させられたのが、吉良上野介の描き方。 冒頭にて「前々から浅野には怨みがあった事」「上司から浅野への復讐を促されていた事」などが語られている為、何故わざわざ意地悪をしたのかと、観客に疑問を抱かせない形になっているのですよね。 そういった情報を前もって提示する事で吉良側の動機を補強しつつ、浅野に対する場面では存分に「嫌味、吝嗇、欲深な爺様」っぷりを披露して(こりゃあ浅野が怒るのも分かるわ……)と思わせてくれるのだから見事。 作り手としては、恐らくそんな意図は無く、吉良の悪役っぷりを際立たせる為の台詞だったと思われますが「臆病と言われれば、それはいっそ儂には自慢になる」と言い放つ姿なんかも、妙に人間臭くて、自分としては好感を抱きました。 加山雄三が内匠頭を演じるというのは驚きでしたが、生真面目で、気が強くて、病的なくらいにプライドが高いという、難儀な人物を見事に演じており(こういう役も出来るんだなぁ)と感心させられましたね。 刃傷を起こした後、乱心したという事にすれば罪も軽くなるのに、それを潔しとしなかった堅物っぷりにも、説得力があったと思います。 内匠頭を描く上でネックとなるのは「自分の行いによって家臣達が路頭に迷うとは思わなかったのか? 本当に名君なのか?」という点なのですが、本作においては「賄賂が横行する現在の政治は間違っている」という正義感が動機の一つとなっている為、一応浅野側の言い分も理解出来ます。 松の廊下の件でも「先に手を出したのは吉良」という形になっており、浅野側が正しいという作中の価値観に対し、反感を抱かずに済むようになっていますね。 討ち入りの場面に関しても、二十分ほど掛けて丁寧に描いており、充分に納得のいく出来栄え。 雪を踏む足音に合わせるように流れる伊福部音楽は、最初こそ「ゴジラかよ!」とツッコませてくれますが、慣れれば「忠臣蔵らしい、重厚な迫力がある」と思えました。 暗い屋敷内に、侵入者側が蝋燭を配置していく流れなんかも面白くて、堂々とした合戦ではなく「夜陰に乗じて寡兵で攻め込んだ奇襲戦」である事を実感させてくれます。 また、吉良を殺害する場面を直接描かない事、事件後の切腹の様子をナレーションだけで済ませた事も、効果的でしたね。 それによってネガティブな印象が薄れ、本作は「主君の仇討ちを果たした赤穂浪士が、誇らしげに町を歩く姿」という、鮮やかな印象のまま完結を迎える形となっており、若干の苦みを含みつつも、後味は爽やか。 自分が忠臣蔵モノで何か一つ薦めるとしたら、上述の1990年のドラマ版なのですが、そういった変化球作品を楽しむ為には、やはり本作のような真っ当な魅力の「忠臣蔵」も味わっておくのが望ましいのでしょうね。 久々に、王道の魅力を堪能させてもらえた一品でした。 [DVD(邦画)] 7点(2016-12-05 18:23:50) |
8. 中学生円山
《ネタバレ》 これはつまり、正義の変身ヒーロー「中学生円山」が誕生するまでを描いた映画であった訳ですね。 彼はマスクを装着すると身体が柔らかくなり、さながら体操選手のような動きが出来るようになるという、何とも地味な能力の持ち主なのですが 「自らの性器を口に含んで自慰をしたい一心で、柔軟運動を続けてきた」 という背景を背負っていたりもして、一応は努力型のヒーローと呼ぶ事が出来そう。 その他「妄想を現実に変えてしまう」という便利な能力も備わっているみたいですが、こちらに関しては効力が曖昧で、何もかも自分の思い描いた通りに叶えてみせる事は出来ないみたいです。 構成としては「主人公円山の妄想」と「現実」が入り乱れる形となっており、観客によって「ここまでが現実」「ここからは妄想」といった具合に、解釈が分かれそうな感じ。 作中で起きる最も非現実的な出来事が「主人公が超人的な動きで弾丸を避けた事」ではなく「体育館で皆が主人公の自慰行為を応援してくれた事」だったりする辺りがユーモラスですが、恐らくは後者の体育館の件から、主人公の理解者である下井が撃たれて死ぬ件までが「妄想である」と解釈する人が、一番多いのではないでしょうか。 ご丁寧に「現実に負けるな」「妄想と向き合え」という台詞を重ね合わせる演出であった為、作り手側としても、それを想定していたのではないかな、と思えます。 ただ「下井が武器としている、ベビーカーを変形させた銃」が異様にスタイリッシュで、円山が妄想してきたレトロで分かり易いヒーローや悪役達と比べ、明らかに異質感があった辺りは気になりますね。 そもそも映画前半における、妄想の中で襲って来た「殺し屋下井」は、使用する銃のデザインもコロコロ変わるような適当さだったし、あの銃だけが浮いているというか「円山が妄想した代物にしては不自然」という意味で、妙に現実感がありました。 あれは円山ではなく下井の妄想の産物か、あるいは現実に作った代物なのか? と思えたりもして「もしかしたら終盤の戦いは、全て現実だったのかも知れない」という可能性を与えてくれる、良いアクセントになっていました。 個人的に残念だったのは、上述の体育館の件が非現実的過ぎて冷めてしまった事と「中学生円山」に初めて変身した時のデザインが、どう見ても単なる覆面レスラーみたいで、今一つ好みではなかった事。 下井の死後に届いたプレゼントのマスクは、ちゃんと恰好良かったので、意図的に「プロトタイプのマスク」として見劣りするデザインにしたのかも知れませんが、出来ればラストの「青い服に、赤いマスクとマフラー」という恰好で戦って欲しかったなぁ……と思わされましたね。 落ちぶれた韓国人俳優と、韓国ドラマに夢中になる人妻との不倫関係。 そして、老人の男性と小学生の女性との恋模様など、主人公の家族にまつわるエピソードも、しっかり面白かった辺りは、流石という感じ。 同じ宮藤官九郎脚本の「ゼブラーマン」と比べても、何処となくオシャレな感じが漂っていたのは、この二本のエピソードにて、色恋沙汰を扱っている事が大きかったように思えますね。 下井と円山の最後のやり取り「おめでとう」「ありがとう」には、感動を誘うものがありましたし 「正義っていうのは、人を殺しちゃいけない理由を、ちゃんと知ってる人の事だ」 という台詞も良かったです。 そして極め付けは「まだ早いって言われた」「もう遅いって言われた」「最初のキス」「最後のキス」の対比であり、年齢差のあり過ぎるカップルの悲恋が、何とも切ない余韻を与えてくれました。 主人公の円山だけでなく、その母親と、妹も 「韓国ドラマに夢中になっている」→「そのドラマに出演している俳優と出会う」 「同い年の男の子には興味ないけど彼氏が欲しい」→「素敵な老人の彼氏が出来る」 といった具合に、都合の良過ぎる出来事が起こっている為 (もしかしたら、この一家全員に妄想を現実に変える力があるの?) とも思えるのですが、そんな中で、唯一妄想をしない父親の存在が、何とも良い味を出していましたね。 家族の中で、彼だけは現実に満足して、幸福を感じている為、妄想する必要が無いという形。 実に羨ましくなるし、それって、とても素晴らしい事なんじゃないかと思えます。 「何があっても、お父さんお前の味方だからな」 と言って、悩み多き息子を抱き締めてみせる姿なんかも、コミカルな演出なのに、妙に恰好良い。 妄想に耽る事の魅力だけでなく、きちんと現実と向き合って生きる事の魅力も感じられた、バランスの良い一品でした。 [DVD(邦画)] 6点(2016-09-20 22:57:14)(良:1票) |
9. 近松物語
《ネタバレ》 溝口健二監督作を幾つか観賞し終え「この人の映画って、登場人物が不幸になる話ばかりだなぁ……」という偏見を抱いていた自分を、痛快なまでに打ち倒してくれた一品ですね。 あらすじとしては、不義密通の濡れ衣を着せられた男女が、望まぬ逃避行を強いられる話になるのだと思います。 しかし、その過程で本当に愛情が芽生えてしまい、周囲の迷惑すらも顧みずに互いを求め合うようになるという、純粋極まる恋物語へと、鮮やかに変貌を遂げてくれるのです。 最後には「処刑場に連行される二人」という、悲壮感漂う場面になるのですが、そこには「逃亡の苦しみから解放された幸せ」「これで二人が引き裂かれる事は二度と無いという確信」といった感情も描かれており、不思議と後味は爽やか。 背中合わせに縛られた男女が、固く手を繋ぎ合い、満足気に笑みを浮かべる姿は、忘れ難い印象を与えてくれました。 なお、元ネタとなった「大経師昔暦」においては、主役の男女二人は死んでいません。 処刑の寸前、助けが入ってハッピーエンドを迎える事になっています。 それを「ほんまに、これから死なはんのやろか?」という呟き一つで、生存の可能性を示すだけで済ませてしまうのは、如何にも溝口監督らしく思えましたね。 「悲惨美」「芸術的な悲劇」を好む感性がそうさせた可能性もありますが、自分としては「殺されるのを承知の上で、愛を貫き通した二人の覚悟」こそが大事なのであり、この後に二人が死ぬか生きるかなんてのは、些細な事なんだ……というメッセージなのだと解釈した次第。 勿論、個人的好みとしては、二人はあのまま殺されてしまうのではなく、原作同様に危機一髪で助かったのだと思いたいところですね。 共に死ねる喜びではなく、共に生きる喜びを分かち合って、幸せな夫婦となって欲しいものです。 [DVD(邦画)] 7点(2016-08-04 10:47:22) |
10. 地上最大の脱出作戦
《ネタバレ》 「平和な戦争映画」という、何ともユーモラスな一品。 冒頭のシーンでは生真面目に殺し合いしている姿が描かれているだけに、どんどん「普通の戦争」から離れていってしまう姿が、愉快痛快。 「お祭りの方が戦争なんかよりも大事」という主張が窺えて、それを不真面目だと怒る人もいるかも知れませんが、自分としては大いに賛成したいところです。 上層部の目を誤魔化す為に、互いに死傷者ゼロの「戦争ごっこ」を演じてみせる馬鹿々々しさも、実に滑稽で面白い。 戦争というテーマを扱う事により、作中でどんなに不謹慎な行いがあったとしても「実際に殺し合いするよりはマシじゃないか」という痛烈な皮肉に繋げてみせる辺りが上手かったですね。 純粋にコメディ映画として観た場合、現代の目線からは演出が冗長に感じられたりもするのですが「戦時に若く、美人で、色っぽいとは何事だ」などの台詞回しのセンスは、充分に面白い。 軍人達が懸命に「殺し合いの振り」をする横で、洗濯物を干してみせるオバちゃんの姿なんかも、思わず頬が緩むものがありました。 最後には、生真面目であったキャッシュ大尉までもが「お祭り」を戦争行為よりも優先してみせるようになったというオチも、予定調和な安心感があって、実に良かったです。 物語としての主人公は、ジェームズ・コバーン演じるクリスチャン少尉よりも、むしろ彼の方であったように思えました。 [DVD(字幕)] 6点(2016-07-22 17:57:53)(良:1票) |
11. ちゃんと伝える
《ネタバレ》 映画の最後にて表示されるメッセージから、本作が監督の実父に捧げられた品である事が分かります。 そういった経緯を踏まえて考えると、とても真面目に作られていた事には納得なのですが、園子温監督特有の力強い魅力が伝わって来なかったのは、何とも寂しいですね。 役者さんの演技に関しても、妙にわざとらしく感じられたりして、残念。 「余命幾ばくも無い父との別れを惜しんでいたら、実は自分の方が重度のガンであった」という設定は面白いのですが、今一つ効果的に作用していないようにも思えました。 結局、主人公の死までは描いていないし「ヒロインがプロポーズを受け入れてくれる事」くらいにしか影響が窺えません。 それにしたって、彼女に関しては「理想の恋人」以外の個性が窺えなかったりするものだから、短命なのを承知で結婚してくれても、それが当然の流れであるように思えてしまい、観ていて感情が揺さ振られないのです。 また、全体の流れを眺めてみても「父親の死と、約束の釣り」という泣かせ所の後に「主人公がガンである事を恋人に告白する」という泣かせ所が続いて、観ていて疲れてしまう形であり、しかも明らかに前者の方に比重を置いた構成だったりするものだから、どうにもチグハグな印象。 良かった部分としては、劇中の音楽が挙げられますね。 静かな旋律の中に、優しさを感じられます。 主人公の母を、いつも病院まで送り迎えする形となり、すっかり顔見知りになっていたバス運転手が、無人のバス停を見つめて、寂しそうにバスのドアを閉じるシーンなんかも印象的。 監督さんの力量は確かでしょうし「こういうタイプの映画も撮れるのか」と感心させられる気持ちはあったのですが、それが感動にまで繋がらなかった事が、寂しく思えてしまう一品でした。 [DVD(邦画)] 4点(2016-07-02 20:20:40) |