1. 追撃者(2000)
全盛期における態度の悪さが祟り、14年間もハリウッドを干されていたミッキー・ローク。あれだけ大勢いた取り巻き達はいつの間にか姿を消し、いつも入り浸っているレストランで一人過ごしていると、たまたま居合わせたスタローンから声をかけられて仕事をもらった上に、その日の飯代まで出してもらいました。これを恩義と感じていたロークは、後にスタローンから『エクスペンダブルズ』の出演オファーを受けた際、すでにスターに返り咲き多忙の中にあったにも関わらず、これを快諾したのでした。。。 以上はアクションファンなら誰もが知る有名な逸話ですが、その舞台となった作品こそ、この『追撃者』なのです。本作が製作された当時は、ロークだけでなくスタローンも背中に火がついた状態にありました。90年代後半にニコラス・ケイジがアクション大作の主演を務めるようになって以降、筋肉を売りにしたアクションスター達は急速にその地位を失いつつありました。スタローンですら、このまま大作路線を続けていれば後がないことはほぼ確実という状況にあったのです。そんな中で、渋いハードボイルドに挑戦したのが本作でした。スタローンにとってチャレンジングな企画だったためか、その布陣はあまりに異様。アメリカの元優男・ロークに、イギリスの元優男・ケイン、アイドル女優として高い人気を誇っていたレイチェル・リー・クックに、当時美人女優として注目されていたグレッチェン・モルと、キャストだけ見ると何の映画だかサッパリわからないほどの闇鍋状態。これを新人監督に任せた結果、物凄く中途半端な仕上がりとなっています。。。 内容は極めて単純。ラスベガスで武闘派ヤクザとして鳴らしていた男が、弟の復讐のため地元に帰って大暴れするというだけのもの。ヒゲ面で高級スーツを着込んだスタローンは役柄によくハマっており、シンプルに描けば相当面白いハードボイルドになったと思うのですが、スタローン自身が掲げていた「脱・アクション俳優」という目標に走りすぎた結果、どうにも不抜けた内容となっています。肝心のアクションを極力見せないという作りとなっているため、見るべきものが何もないのです。チャカチャカした音楽とチカチカした編集はウザいだけだし、回りくどい謎解きにはイライラさせられるし、「そこは頑張らなくていいから!」と、鑑賞中何度もツッコミを入れてしまいました。 [DVD(字幕)] 4点(2014-09-26 01:44:28) |
2. 追跡者(1998)
《ネタバレ》 『スコーピオン・キング』に『キャットウーマン』に『エレクトラ』と、ハリウッドのスピンオフ企画にはロクなものがありませんが、本作については正編をも上回る予算と人材が投入されていることから、これはヒット映画に便乗した小遣い稼ぎというハンパな企画ではなく、シリーズ化を狙ってかなり真剣に製作された作品であったことが伺えます。実際、『逃亡者』でオスカーまで受賞したジェラード保安官の魅力は本作でも健在であり、熱い信念を持った皮肉屋という彼の個性はきちんと活かされています。さらに、前作ではほとんどアクションをやらなかったトミー・リーが、本作では一転してかなり激しい動きを見せており、新たなヒーローを作り出そうとする努力が随所に伺えます。。。 問題は、本作の舞台があまりに大きすぎたことでしょうか。例によって逃亡者を追いかけていたら、そいつは国際的な諜報戦争の渦中の人物だったことが判明するというお話は、少々荒唐無稽すぎました。そんな大きな舞台の中でいち連邦保安官に過ぎないジェラードが暴れているのでは、違和感しか覚えません。また、脚本上はミステリーを指向しながらも、タイプキャストを使っているためにあらゆる謎がバレバレになっているというキャスティングにも首を傾げました。ウェズリー・スナイプスはどう見ても普通の人間ではないし、ロバート・ダウニーJrは登場時点で怪しさ全開。で、観客が抱いた先入観の通りにネタが明かされて映画は終了するわけですが、監督はこのキャスティングで観客が謎解きを楽しめると考えていたのでしょうか。。。 上映時間が無駄に長いことも、映画をつまらなくしている要因となっています。例えばジェラードの服装ネタ。チキンの着ぐるみを着ての初登場でひとネタやったにも関わらず、その後にも観光用のおかしなTシャツを来たり、部下が用意したダサいスウェットを着たりと、服装ネタを都合3度もやるわけです。また、観客がわかりきったことをクドクドと説明する場面もやたら目に付いたのですが、これら無駄な時間の積み重ねが、本編を必要以上に冗長なものにしています。監督を務めたスチュアート・ベアードは編集マン出身であり、その全盛期には編集の神様とまで言われた人物なのですが、そんな監督がこのような杜撰な編集をしたことには悪い意味で驚かされました。 [DVD(吹替)] 5点(2014-08-27 00:27:59)(良:1票) |
3. 2ガンズ
裏切ったり裏切られたりのアクションコメディはハリウッドで多く制作される人気ジャンルとなっていますが、本作は、当該ジャンルの中では頭ひとつ抜けた仕上がりだったと思います。話の交通整理、見せ場の楽しさ、娯楽作としてのテンポの保ち方等がいずれも優れており、最初から最後までハラハラしながら見ることができました。また、バディもので能力を発揮するマーク・ウォルバーグは本作でも絶好調で、デンゼル・ワシントンとの相性はピッタリでした。さらには、彼らを取り巻く助演陣のハマり具合も素晴らしく、ビル・パクストン、フレッド・ウォード、ジェームズ・マースデンら、お久しぶりなメンツが個性豊かに敵役を演じています。『BATTLE STAR GALACTICA』のファンとしては、エドワード・ジェームズ・オルモスがヤクザの大親分を演じている点も嬉しかったです。 [ブルーレイ(吹替)] 7点(2014-04-02 03:17:39) |
4. ツォツィ
子供との触れ合いによって悪党が人間性を取り戻すというベタ中のベタとも言える内容なのですが、変な小細工に走らず王道を通した点は良かったと思います。さらには、チンピラと赤ちゃんの接点の持ち方も非常に現実的で好感を持ちました。赤ちゃんの世話は基本的に近所のシングルマザーに任せっきりで、ツォツィは最後まで赤ちゃんに馴染まないのです。ご存知の通り赤ちゃんの世話は本当に大変で、何も知らないチンピラが見よう見まねで出来るものではありません。そういう現実を踏まえた本作の構成には、「なるほどな」と感心させられました。ツォツィはこの赤ちゃんに愛着を覚えたのではなく、赤ちゃんという異質な存在に触れたことで物事の見方が変わり、そのことが彼の人間性に影響を与えたに過ぎません。この映画はそういう微妙な温度感をうまく表現できており、全体としてはベタな構造をとりながらも独自性を打ち出すことに成功しています。。。 ただし、問題もあります。多くの方が指摘されていますが、そもそもツォツィが赤ん坊を連れ帰った動機が不明確だし、彼を援助することとなるシングルマザーの心境も不自然です。彼女も母親なのだから、我が子を誘拐された母親の辛さは痛いほどわかるはず。ならば一刻も早く赤ん坊を母親の元に返そうと考えるはずなのですが、彼女は数日にも渡って赤ん坊を手元に置いてしまいます。さらには、ツォツィとギャング仲間の関係も意外なほどサラっと流されていましたが、過去の自分と決別することが本作のテーマなのだから、かつての社会とどう折り合いをつけるのかという点も本作の重要なファクターだったはず。その他、赤ん坊を奪われた夫婦のドラマや、ツォツィに迫る警察の捜査網など、多くの要素が省略されています。ドラマの視点を分散させないようムダを省いた構成とした監督の意図は理解できるのですが、全体としては描写が不足しているように感じます。枝葉の部分にこだわることで核となるドラマが引き立つということもあるわけで、この点について本作はバッサリやりすぎたように思います。 [DVD(吹替)] 5点(2013-03-18 00:52:10)(良:1票) |
5. ツイスター
公開時には中坊なりに「えらく中身のない映画だなぁ」と感じたのですが、今回16年ぶりに再見して印象は変わりました。どうやらこの映画、「雑に作られたハリボテ大作」ではなく、「面白くなりようのない題材を高い構成力でまとめあげた苦心作」であるようです。スピルバーグが子飼の優秀なスタッフを大勢提供しながらも自ら監督しなかった点や、ユニバーサルがワーナーに共同出資を持ちかけてリスク分散を図っている点から見ても、本作が着地点の見えないリスキーな企画だったことが窺えます。。。 考えてみれば、竜巻とは長編映画にとってえらく不向きな題材です。地震、土石流、火砕流、溶岩流、火山灰と災害のフルコースだった『ダンテズ・ピーク』と比較すると、何の前触れもなく現れ、短時間で壊滅的な被害を与えるという竜巻を扱った本作では、映画全体の構成が非常に困難であったことが容易に想像できます。そこで苦し紛れに登場させたのがストームチェイサーという科学者グループだったわけですが、自ら竜巻に突っ込んでいく人々を主人公にしたのでは、生きるか死ぬかという緊張感やドラマは当然薄くなってしまいます。そのためディザスター映画にありがちな湿っぽいドラマはスッパリと落してしまい、夫婦の再生の物語を映画の横糸としたわけです。これはジェームズ・キャメロンの『アビス』と同じ構成なのですが、男女の役柄を入れ替えることで話の印象をガラリと変え、安易な二番煎じにしていない点には感心しました。出演者は知名度よりも実力重視。翌年にオスカー女優となるヘレン・ハントを筆頭に、無名時代のフィリップ・シーモア・ホフマンやジェレミー・デイヴィスを配置するという先見の明には恐れ入りました。。。 ヤン・デ・ボンは企画が本質的に抱える弱点をよく理解しており、ドラマは深掘りせずに徹底して勢いで乗り切るという作戦に出ています。マーク・マンシナの軽快な音楽に乗せてテンポよく見せ場を繰り出し、なんとか2時間をもたせているのです。見せ場に平凡なものはなく、どの場面もアイデアに溢れて目を飽きさせません。人と竜巻との追っかけがしつこく続くラストの力技はさすが『スピード』の監督と言える仕事であり、スピルバーグでもこのレベルは不可能だったのではと思います。 [ブルーレイ(字幕)] 7点(2012-08-14 20:30:10)(良:1票) |
6. ツリー・オブ・ライフ
《ネタバレ》 『地獄の逃避行』も『天国の日々』も『シン・レッド・ライン』も肌に合わなかったので覚悟して鑑賞したのですが、今回のテレンス・マリックはイケました。わかったようなわからんようなポエム、あまりに長くクドすぎる環境映像と今回もマリック節は全開なのですが、父と子の対立と和解というわかりやすいドラマが横糸に入ったおかげで随分と腹に落ちやすい映画となっています。。。 この映画のテーマは神の存在なのですが、神とその創造物である人類との関係を極限にまで凝縮し、ある親子の関係を通して神の存在を描いています。「男の子にとって父親は神に等しい存在である」という言葉そのままに。神とは全知全能ではあるが必ずしも人格者ではなく、良い決断もするが、時に気まぐれな決断もする厄介な存在であるとマリックは考えているようです。我々人類はそんな神の気まぐれに付き合わされ、正しい方向へ導かれたり、野放図にされた悪に苦しめられたり、訳の分からん試練を課せられたりして右往左往しているわけです。あたかもそれは、主人公ジャックが父オブライエンに振り回されているかのように。オブライエンはあまりにクセの強い思考回路を持っているため、子供達にとっては頼もしい父親であると同時に巨大な脅威でもあります。ジャックはこの圧倒的な脅威に対してまず恐怖心を抱き、次に反発を覚え、最終的に和解するのですが、この流れは人類の信仰プロセスと合致します。。。 このドラマにおいて、テレンス・マリックは素晴らしいストーリーテリングの技術を披露しています。ジャックとオブライエンの関係は決して特殊なものではなく、多くの男子が共感できる普遍的なものです。裏を返せば何の変哲もない少年の成長物語なのですが、それをここまでドラマティックに仕上げ、おまけに哲学的なメッセージも込めている。これは圧倒的な仕事だと思います。願わくば、訳の分からん環境映像やポエムは控え目にして、見る側の生理に配慮した作りにしてくれれば最高だったんですけどね。 [ブルーレイ(字幕)] 7点(2012-06-30 19:20:37)(良:1票) |
7. 月に囚われた男
《ネタバレ》 「ブレードランナー」をベースとして(主人公の置かれている立場はレプリカントそのもの)、「2001年宇宙の旅」に「惑星ソラリス」に「エイリアン」に「アウトランド」、さらには「ザ・フライ」を思わせる描写まで登場し、SF映画好きには堪らない仕上がりとなっています。また、単なるオマージュの集合体に終わらせず、イギリスらしい落ち着いたドラマとユーモアによって独自性を打ち出すことにも成功しており、非常にクォリティの高い作品だと思います。作業基地を制御するAIであるガーティの扱いなどはよく考えられていて、誰もがHAL9000を連想するポジションに置いて彼を悪玉と見せかけておいて、実は友情に厚い男前AIであったという捻り方はお見事でした。サムの為に自己犠牲を買って出るラストには感動しましたとも。。。ただし、本作には難もあります。サムがクローンであることが判明してからの展開が単調であり、映画が猛烈に中弛みする原因となっています。もうひと捻り何かがあれば、文句なしに「傑作」と断言できる作品になっていただけに残念です。 [DVD(吹替)] 7点(2011-05-28 20:22:25)(良:1票) |