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1.  デジャヴ(2006) 《ネタバレ》 
爆発物捜査官のダグは、クレアの死体て何かを感じた。それは彼女に惚れたのではなく、彼が一度タイムトラベル(TT)して彼女と会った既視感からくるものだ。FBIで、監視装置“スノウホワイト”の映像を見せられ、「複数の衛星情報を解析合成したもので、膨大な情報処理に四日間を要するため、常に四日前の映像しか見れない」と説明される。が、疑念をもった彼がモニターのクレアにレーザーポインターを当てるとクレアが反応した。実は空間を折りたたんで時空の二点を繋げた“時空窓”で、出力を上げれば物質も送れる。彼は過去の自分に手紙を送るが、誤まって同僚のラリーの手に渡り、結果、彼は殺され、クレアも巻き込まれる。ダグは、携帯時空窓ゴーグル・リグを使って四日前の犯人の行方を追い、隠れ家を発見し、犯人は逮捕された。一件落着するが、ダグは自分の所為でクレアが犠牲となったことを悔やみ、二度目のTMをする。犯人を片づけ、大事故を防ぎ、クレアの命も助けるが、自分は爆破死してしまう。本作品では「過去は改変できない」のが前提で、過去に介入する度に分岐した別の世界になる。現代と、一度目のTM、手紙送信、二度目のTMの三つの分岐世界の四つが交錯するのでややこしい。ダグがラリーを救えなかったは、彼の死が四日以上前の過去になってしまったから。厳密にはTTを繰り返せば、スノウホワイト完成の四日前まで過去に遡れる。大事故は防いだものの、別の犠牲者で出ているので爽快さは無い。TTがなくても、事故は防げる。警察に事故を予告する手紙を出すとか、犯人の心臓に弾丸を送るとか、準備中の爆発物に弾丸を送るとか、方法は多様だ。過去に情報が送れるのなら、過去の人は未来を知ることとなり、相場や競馬、選挙結果等、社会が混乱するだろう。一度目のTTで犯人逮捕に失敗したダグがどうなったか不明。二度目のTTでダグが生き残った場合、携帯電話を鳴らすとどちらの携帯が鳴るのだろうか。冒頭で遺体袋の携帯電話が鳴る場面があるので気になった。犯人が、「私には運命がある。創造者が定めた運命が。それを変えようとする者は滅びる。運命を止めようとするとかえって引き金となる」と言った時、今後どんな展開になるか楽しみだったが、ただの虚勢で終った。大爆発、カーチェイス、銃撃戦と派手な演出で観客を驚かすという安易な姿勢が残念。TT無し、捜査だけで事件解決に導く演出なら良かった。
[DVD(字幕)] 7点(2014-12-01 16:22:35)(良:2票)
2.  天使の眼、野獣の街 《ネタバレ》 
香港警察の刑事課の監視班に配属になった女警官“子豚”の成長物語。ほとんどが監視・尾行という地味な捜査ながら、きびきびとした場面切替と演出で緊張感を盛り上げており、その手腕は賞賛に値する。主である宝石強盗団の話に、子供誘拐が絡むあたりの脚本は絶妙である。早い時期で誘拐犯を登場させているのは、気が利いている。何度か登場する「小話」も効果的に使われている。緊張ばかりでは疲れるので、その緩和に人情を持ってくるところは脚本の機微であるが、その見せ方に工夫が無く、新鮮味に欠ける。緊張感が弛緩なく持続するため見ている間は飽きないのだが、冷静になって振り返ると、気になる場面がいくつかある。 強盗団の首領のチャンがひと仕事を終えて高跳びしようとする時に、18年間刑務所にいた親分が出所してくる。ひと波乱あると思ったが、何もなかった。肩透かしである。 警察は、チャンの携帯電話と強盗団の手下の携帯電話番号はどうやって知ったのだろうか。 “子豚”がチャンを発見するのが「偶然」なのが興を削ぐ。合理的で科学的な捜査を魅せる映画なのだから、チャン発見は、捜査に裏打ちされた結果であることが自然であり、望ましい。 “子豚”の尾行に気づいたチャンが、“子豚”の席に行き、どうして尾行するのかと詰問するが、これはあり得ないだろう。会話の内容が警察に筒抜けになっているのは容易に想像できるわけで、一刻も早く逃走すべき場面だ。 “子豚”と上司“犬頭”の人情物語が映画の良い味付けになっているが、“犬頭”がチャンに刺されてからの“子豚”の行動が不可解である。人を呼び、救急車を呼んでもらい、素早く緊急止血だけして、すぐにチャンを追えばよいのに、動揺が強く、右往左往している。その前の警察官刺殺事件の轍を踏む失態だ。ここでは“子豚”の成長した姿を見せて、チャンの確保につなげばよい場面だ。 チャンの死に方があまりにもあっけない。ボートで逃走しようとして吊り鈎に首を引っ掻けるという事故死。もう少し華麗な最後にしないと帳尻が合わない。 警察の尾行の方法だが、途中で眼鏡をかけたり、帽子を被ったり、リバースの服を裏返したり等の工夫が全く見られなかった。それくらいの用意はしておくべきではないだろうか。
[DVD(字幕)] 7点(2014-11-27 22:47:04)
3.  天使の涙 《ネタバレ》 
主人公は、殺しの女代理人と聴唖のモウの二人。女代理人は他人との関わり合いを持てない障害がある。殺し屋に惚れているが、直接の愛情表現は出来ず、淡い恋心を彼の部屋の掃除をしたり、ごみを調べたり、彼のベッドで自慰行為をすることで満たしていた。殺し屋が行方をくらますと、心に空洞が開いた。偶然再会して話をきくと、男は関係を解消したいという。彼女は、最後の仕事を依頼し、頭目に「友人の広告を一面に」と伝える。それは標的者に殺し屋の存在を漏らすことで、裏切りだった。足抜けを言い出した者への掟なのだろう。殺し屋は暗殺を仕損じ、返り討ちに遭う。女の心に更に大きな空洞が開いた。 モウは子供の頃、賞味期限切れのパイン缶を食べて口が利けなくなった。芯の無いパインは子供の象徴で、賞味期限切れのパイン缶を食べるのは、ずっと子供でいること。聴唖は伝達能力が劣ることの象徴。父の庇護の元、母の思い出のアイスクリームに拘り、夜毎、他人の店に侵入しては、居合わせた人に商品を売りつける。他人と心を通じ合わせたいのだ。遅い初恋を経験し、父の死を経て、漸く他人の店に入るのはよくないと気づく。大人になったのだ。女代理人は空虚さに耐えきれず、他人の温もりを求めていた。モウは他人と意思疎通ができるほど成長した。そんな二人が出逢った。以前の二人なら、すれ違うだけだったろうが、今の二人は違う。モウは女代理人を後ろに乗せ、夜の街をバイクで疾走する。女はつぶやく。「着いてすぐ降りるのはわかっていたけど、この暖かさは永遠に感じた」女が希望を抱いた瞬間だ。トンネルを抜けると黎明の空が輝いた。映像が感性に語りかけてくるような超感覚の映画で、脚本を忠実に追わなくとも、洪水のように流れる“凝った”映像に酔いしれればよいだろう。音楽の占める比重も大きい。即興的で洒落た作品だ。主題は、都市に生きる男女の孤独と恋愛模様。金髪女は行きずりの恋と知りながら、相手の腕に歯形を残そうとする。失恋女は、見えない恋敵に嫉妬し、恋の相手もころころ変り、昔の恋は忘れてしまう。他人を必要としながらも他人を拒絶してしまうのが人間で、その空回りがいとおしい。疎外感や孤独だけでなく、諧謔も描いているのが特色で、独自の世界観が成立している。演技力と演出の不備で、殺し屋の切なさが感じられなかったのが不満だ。独創的作品で、この映画の賞味期限はまだまだ続きそうだ。
[DVD(字幕)] 8点(2014-11-27 01:51:14)
4.  天井桟敷の人々 《ネタバレ》 
悪党文筆家のラスネールは世間を憎み、自尊心だけで生きている。ガランスに恋しているが、それを認めたくない。役者のルメートルは言葉巧みに女性を操るドンファンで、ガランスと一夜を過ごすも戯れの恋に過ぎなかい。が、再会してガランスのバチストへの愛の告白を聞くと嫉妬してしまう。しかしその嫉妬を演技に生かして成功する。大富豪のモントレー伯は権力と富でガランスを愛人にできたが、嫉妬深く、ガランスの心に愛する人がいるのを許せない。無言劇役者のバチストはガランスに一目惚れするが、恋の未熟さゆえにガランスに失恋し、他の女と結婚するが、ガランスと再会して恋の炎を再燃させる。ガランスはあらゆる束縛を嫌い、全てから自由でいたい神秘の女。富、地位、名誉、恋から自由のつもりだったが、純真無垢なバチストを愛していることに別離してから気づく。隠し立てが嫌いで、自分の気持ちを誰彼となく伝えてしまう。女優のナタリーはバチスタを一途に愛していた。愛を勝ち取り、結婚して子供も出来たが、バチスタとガランスの逢引を目撃してしまう。ガランスは、囲い者に身を堕してもバチストを愛し続けたと告白する。「6年間どこにいても昼も夜も一緒にいた、愛し続けた」この言葉に真実味を感じるかで、この作品の評価が変わりそうだ。最後はバチストの妻のために身を引く、というより自由を選んだのかもしれない。ガランスにとって恋と自由は両立しない。傾城の美女を巡っての恋の鞘当と悲劇を描いた作品。一人は死に、一人は殺人者となり、一人の名優が失踪し、一つの家族が崩壊した。恋について、自由について、人生についていろいろと考えさせられる内容だ。何といっても脚本が素晴らしい。終始諧謔と機智に富んだ会話で酔わせ、劇中劇で楽しませ、不測の展開で驚かしてくれる。人生は演劇だ。天井桟敷の人々は貧しけれども夢がある。それと同様、さあ皆さん、一度しかない人生を、恋を存分に楽しみなさいという伝言が込められている。登場人物はみな観劇者の投影だ。脇役の古道具屋、偽盲人、三人の脚本家が良い味を出していた。狂言回しの古着屋はバチストにとって忠告・諫言の象徴。だから彼を嫌い、劇中劇で殺す。それでも運命からは逃れられない。ガランスと叫ぶ彼の声は群集の雑踏にかき消される。嘆かわしいのは、恋の神秘が主題なのに、ヒロインが気品に欠ける年増女優であること。最大の謎だ。 
[DVD(字幕)] 7点(2014-05-20 14:56:13)
5.  デューン/砂の惑星(1984) 《ネタバレ》 
複雑な物語。四つの勢力が入り組んで交差する上に権謀術数があり、宗教が絡む。用語をまとめないと理解不能。◆銀河帝国=皇帝、宇宙協会、大公家の三者によって支配。◆皇帝=大公家のハルコネン家とアトレイデス家を争わせ、漁夫の利を得ようと画策。◆宇宙協会=スペーシング・ギルド。恒星輸送を独占。権力は皇帝を上回る。構成員はギルド・ナビゲーター。スパイスを第一優先。◆ギルド・ナビゲーター=元は人間だがスパイスの多量摂取で芋虫のような姿に。ワープ航法に通じている。未来を予見し、ポールの暗殺を皇帝に命じる。◆スパイス=メランジ。意識を覚醒、ワープ航法、不老不死をもたらす。宇宙を支配する力。◆ハルコネン家=空中浮揚いぼ男爵、甥フェイド、グロス。アラキスでスパイスを採取していた。◆アトレイデス家=レト公爵、妾妃ジェシカ、息子ポール。レト公爵は殺される。ジェシカはフレメンの教母となる。ポールはベネ・ゲセリットの予言した超人かつフレメンの救世主となる。未来が見え、砂虫を操り、アキラスに雨をもたらす。◆クイサッツ・ハデラッハ=宗教結社ベネ・ゲセリット達が独自の繁殖計画によって産み出そうとしている超人、未来予知者。◆ベネ・ゲセリット=超能力をもつ女性種族の宗教結社。「魔女」とも。内なる獣性を懐柔し、自我の管理を目指す。◆アラキス=砂の惑星デューン。砂虫、フレメンが生息。降水量ゼロ。◆フレメン=アラキスの原住民。水を重視し、救世主思想を持つ。◆砂虫=宇宙で唯一のスパイスの補給源。◆ドクター・リエト・カインズ=生態学者。帝国の移動審判官。◆チャニ=リエトとフレメン女性の間にできた娘。ポールの妻。◆命の水=フレメンの宗教的儀式に使う水。砂虫から採取。□宇宙戦争と怪獣(砂虫)と超能力(魔女)と宗教(超人、救世主)と、まるでおもちゃ箱をひっくり返したような映画だ。これにポリスのスティングも参戦するのだから賑やかなこと。が、早い展開についていけず、カタルシスは得られない。主人公のポールに感情移入する間もない。あれよあれよという間に儀式をクリア、特殊能力を身に付け、砂虫をてなづけ、結婚し、宿敵を粉砕し、最後には雨を降らすという奇跡を起こし、神に近い人物になってゆく。映像、デザインは良く出来ており、スターウォーズに匹敵する。グロ場面が結構あるのに、ユーモアと癒しの場面が全く無いので観ていて非常に疲れてしまう。
[DVD(字幕)] 7点(2013-09-16 23:42:01)
6.  テール しっぽのある美女 《ネタバレ》 
老人の遺体が森の小屋近くで発見された。何年も前に獣に殺されたとおもわれるもので、犯罪現場の特殊清掃人レオとエルビスが派遣された。レオは物事に動じないが、エルビスは何事にも敏感に反応するという好対照のコンビ。二人は小屋で秘密の地下室を見つける。埃の積り具合から何年も使用されていない。研究用の部屋があり、古い缶詰が残され、バスタブには白濁水が張ってある。テープを再生すると、老人の声が流れるが、何について語っているか判然としない。服から遺体は軍医とわかる。エルビスが装置の管をいじっていると、突如、バスタブから素裸の美女が飛び出して倒れ込んだ。白い肌、豊満な肉体。驚愕する二人。エルビスが近づくと、美女は跳ね起き、首を絞める。レオは美女を落ち着かせ、服と食料と水を与える。冷蔵庫には尻尾が保存されていた。美女の手がレオに触れると、彼女の過去が断片的に伝わってきた。軍医は未発見生物の赤ん坊を森の中で発見し、軍の研究施設に持ち帰った。ターレと名付けられた生物は驚くべき順応をみせ、人間に似た姿に成長した。情の移った軍医は、彼女を施設から連れ出し、森の小屋に隠れ住んだ。尻尾があるとターレの仲間から感知されるので仕方なく切断。そこまで判明したとき、武装した軍の組織に取り囲まれてしまう。謎の多い映画だ。ターレの正体は、北欧の伝説上の生物「フルドラ」とされる。美しい容姿に牛の尻尾を持ち、美しい歌声で人間の男たちを誘惑し、怒ると老婆の姿になるという。本作品では残忍な一面も見せる。単なるホラーで終らず、二人の友情を描いているのも特徴。レオは肺ガンと宣告されていたが、事件後ガンの影は消えていた。ターレの治癒能力によるものだ。エルビスには娘がいたが、貧困を厭った妻が去り、娘を誰かに預けていた。事件後レオの説得により?妻が戻り、三人は元のさやに戻る。明るいエンディングは、逃走したタールの未来を暗示している。冒頭、反吐を吐く場面を何度も映すが、これは減点。フルドラのCGは不出来。【疑問】①ターレは数年間をどうやって生きのびた?どうして小屋を出なかった。②小屋の電力供給方法。エンジン式発電機では何年ももたない。③軍の組織の正体。④軍の組織のリーダーが老人。⑤フルドラがリーダーの死体を持ち去った理由。⑥フルドラはどうして二人を襲わなかった?⑦軍とフルドラはターレの居場所をどうやって知った?
[DVD(字幕)] 6点(2013-08-02 12:34:45)
7.  天空の草原のナンサ 《ネタバレ》 
モンゴル高原は標高が1000mもあるのに広大な空間が広がる。大地は満目緑に覆われ、空は無辺に開き雲は自在に変化する。まさに癒しの空間だ。そこで自然と共に暮らしてきた人達はどんな人達だろうか、暮そのらしぶりはどうか、そこに住んでみたい、想像や想いが次々とふくらんでくる。あたかも画面から爽やかな風が流れてくるような映画だ。 物語は民話「黄色い犬の洞穴」になぞらえるように進む。民話曰く。『長者の娘が重い病気になる。父が賢者に相談すると飼い犬を追放せよとの託宣。犬を洞穴に閉じ込めると、娘は快復した。実は娘に通う青年がいたが、犬が妨げとなっていたのだ。やがて二人は結婚し、子を授かる。子は犬の生まれ変わりという』主人公は寄宿学校から帰省した”高原の少女”ナンサ。洞穴から犬を見つけて連れ来るが、父から捨てるように命じられる。野犬が狼を呼ぶのを恐れてのことだ。少女は犬を隠す。あるとき犬を追って道に迷い、よそのゲルに泊めてもらったが、そこの老婆から黄色い犬の民話と輪廻転生の話を聞く。帰った少女は妹に過去世の記憶があると信じる。季節が移り、一家は引越すが、犬は杭につないで置き去りにする。移動途中で長男がいないことに気付く。父親が慌てて戻ってみると、犬は長男をハゲワシから守ってくれていた。こうして犬は家族として迎えられた。ここで冒頭場面に戻る。犬を丘に埋葬する父と娘。来世で人間に生まれるように願い、尻尾を頭に置く。そこには悲しみは無く、脈々と続く命と魂の営みがある 民話と輪廻転生思想は、モンゴルの古き伝統の象徴で、それが21世紀の少女にも受け継がれてゆく様子を詩情豊かに描く。作為を感じさせない演出と、子供達の自然な演技は賞賛に値する。文明社会の象徴たる選挙カーと引越しの家族が交錯するラストが印象的だ。未来の伝統の衰退を暗示している。 遊牧民の暮らしぶりが興味深い。チベット仏教の信仰。五人家族で、牛6頭、馬2頭、羊250頭も飼う。羊の種類の多さ。牛糞での積木遊び。6歳児が乗馬して放牧の手伝い。丹精込めたチーズ作り。手回しミシン!器用でないと使えなさそう。風力発電。野菜のない食事。近くに水辺があるので野菜は作れると思うが、事情が許さないのだろう。鑑賞後、この緑濃き高原も冬には酷寒の大地に変貌することを想像した。厳しい自然に堪えてこそ、伝統が守れるのだ。
[DVD(字幕)] 7点(2013-06-17 15:56:59)
8.  テス 《ネタバレ》 
類まれなる美貌の持ち主「超美人」というのはある意味罪作りな存在。異性を惹きつけて止まないのだ。恋愛の対象、欲望の対象、嫉妬の対象として情念の渦に巻き込まれてしまう。金持ちですけこましのアレックにしつこく追い回される主人公テスの様子は気の毒そのもの。拒絶できればよいが、父が怠惰な貧農で、弟妹たちの面倒を見てやらなければならないという負い目、足枷がある。結局強姦めいたことになり、アレックスの情婦となる。そんな生活に嫌気がさして逃げ出すが、お腹には新たな生命が宿っていた。赤子は短命に終るが、私生児故に洗礼も受けられず、教会墓地に埋葬も許されない。アレックスに何も知らせず、赤子を自分で育てるところに、気高く自立した女の側面がみれる。新たな働き先の農場で初めての恋をするが、相手はよりによって牧師の息子エンジェルで、厳格なキリスト教上の足枷がある。求婚されたとき、過去を告白した手紙を渡そうとするが、行き違いとなる。結婚後、彼女の過去を知ったエンジェルは痛撃を受けて、家を出てしまう。彼女も実家に帰るが、父が死亡して借家を追い出される。やむなくアレックスの援助を請うて、再び情婦に。そこへのこのこ妻の過去を許して受容できるようになった夫が迎えに訪れて、悲劇が起る。惨劇の場面は省略されるが、主人公の生きざまを赤裸々に描くのが作品の主旨であり、非常に不自然。逃亡する二人はストーンヘンジで逮捕されるが、これは興味深い。ストーンヘンジはキリスト教以前の古代遺跡で、太陽の運行など天文に関係する施設で、夏至には特定の石柱の間から太陽が昇る。彼女の魂が救済され、再生するためには、キリスト教という足枷のない場所が必要だった。朝日が石柱から昇りはじめる象徴的な場面で映画は終る。◆せっかく「自立する女」「紆余曲折を経て辿り着いた真実の愛」を描いても、殺人、絞首刑で終わっては後味が悪すぎる。彼女の不幸や悲運が心にもたれ、うまく消化できない。夫役の男優に魅力がなく、彼女と釣り合わないのも難点。監督は主演のナタキン15歳のときより性関係を持っていたというから、アレックスと被って見える。性的に早熟になった彼女は、その後恋多き女として浮名を流すことになる。それでも輝き続けるナタキンはテスそのもの。監督の妻が殺害され、一方で少女への淫行疑惑の十字架を背負うという人生も意味深なものだ。やはり美貌が罪を呼ぶのだろうか。
[DVD(字幕)] 7点(2012-09-11 13:11:28)
9.  ティンカー・ベル 《ネタバレ》 
今まで秘密のベールに隠されてきた妖精たちの誕生の様子や仕事ぶりが堪能できる。夢のある話で、家族向けのそつのない仕上がりという印象だが、大人目線で見るとアラも目につく。鑑賞後わが意を得たと気はしない妖精と風景のデザインは、かろうじて合格ライン。それなりに可愛いし、それなりに精緻で美しいレベル。残念なのは妖精たちの動きがぎくしゃくしているところ。顔の表情も「豊か」とはいえなず、手抜き感がある。 内容面で、不満という程ではないが、いくつかの疑問がある。 まず「走りアザミ」の正体がわからないこと。植物なのか、妖精の類なのか、妖精がいたずらしているのか。まあ、これは大した問題ではない。妖精の国の話だから。この「走りアザミ」の暴走で被害がでて、メインランドに春を届けるには数ヶ月も遅れるということだが、さほど被害が甚大とは見えなかった。 それから他の妖精は”妖精らしく”魔法を駆使しているのに、もの作り妖精達だけは手作業中心なのも気になった。tinkerは「鋳掛屋」なのでそうしたのだろうけど。人間の国から流れてきた忘れ物を改造して妖精の道具を作るのだが、出来たものは人間の使う道具に似すぎている。もっと妖精にふさわしい、夢のあるものにしてほしかった。道具作りが進化すると、妖精の谷「ピクシー・ホロウ」でも「モダン・タイムズ」のような事態になりはしないか心配になった。そもそも妖精は自らの喜びのために自然や人間のためにいろんなことをするのであって、労働やノルマとは無縁と思われる。「赤ん坊が初めて笑ったときに妖精が生まれる」ということなので、子供達に奉仕するのが喜びなのだろうか。妖精社会が遊びと自由の楽園ではなく、緩やかとはいえ労働社会・管理社会であっては子供達の夢もしぼみがちではなかろうか。子供たちが観たい妖精の姿は、自由気ままに飛び回り、遊び、いたずらする姿と思う。自分達のあこがれの投影として、妖精を観る。子供達が自由で気ままなのだから、妖精はそれ以上のものであってほしい。考えてみれば生まれてすぐ労働というのも過酷ではないか。 才能を決める儀式でせっかく得た石斧を使わないのは惜しい気がした。キーアイテムにできたのに。 妖精が鷹に追われことに対して疑念がわく。雛のときに飛ぶ手伝いをしてあげなかったの?それとも天敵?まさか。実際の天敵は上記のような理屈をごたごたこねる大人でしょうけどね。
[DVD(字幕)] 7点(2012-08-13 11:42:18)(笑:1票)
10.  テルマ&ルイーズ 《ネタバレ》 
日頃抑圧されている二人が気分転換の旅に出るが、予期せぬ展開で犯罪に巻き込まれ、逃亡犯となり、とまどいつつも、ふっきれて自由さを感じ、自分らしさを取り戻してゆく。意外な展開と衝撃のラストが見どころ。狙いは明快だが、脚本の甘さが目に立つ。①あんな明るい駐車場でレイプするか?女も声を出して人を呼べばよい。②銃は撃ったことがない二人なのに、あんなにうまい。テレビで覚えた?意味不明。③ルイーズ(L)は過去に強姦されたトラウマを持つ。これが衝動射殺の遠因だが、強姦を思い出したくない為にテキサスを通りたくないは理解しがたい。緊急時なのだから。④(L)の恋人は、(L)に金を送ってくれと頼まれると、強い不審を覚えながらも、金を持参して現地に飛び、直接お金を渡し、さらにプロポーズの指輪も渡す。この行動が奇異。長年付き合っている恋人を旅行中に押し掛けてプロポーズするか?相手の様子がおかしいときに。しかも男はこれ以降出番がない。⑤(L)の強姦のトラウマが直接描かれない。(L)は物事をきっちりすませる性質の独立した働く女。恋人もいるが、結婚に踏み切れないのはトラウマのせいだろう。男性に対する不信感が強い。そこを正面きって描いていないので、彼女が男性を支配したときの開放感が薄い。⑥テルマ(T)はヒッチハイカーと懇ろになり一晩過ごすが、そこに至るまでがまどろっこしい。中ダルミでだ。男が金を盗み、それが(T)の拳銃強盗の契機となるので、男の役割は大きい。だが男はすぐに捕まり、刑事が二人の関係をいとも簡単に見抜く。このあたりは安直。⑦(T)の夫のまぬけっぷりが目立ちすぎる。(T)がこの男に抑圧されているから物語が成立するのである。もっと自己中心的で女を自分の支配下に置くようなキャラであるべき。⑧最後に刑事は叫ぶ。「よく考えてやれ!痛みつけられっぱなしの女なんだぞ」これは神(観客)目線に立った発言である。だが、刑事に二人の女の何が分るというのか?通り一遍の調査しかしてないではないか。◆二人の犯罪行動の動機の背景には男性に対する復讐がある。男性社会の鳥籠の中で暮らしてきたので、それは理解できる。だがその方法は全て銃に頼ったもの。銃一つで男女の力の差が逆転するだけ。犯罪にせよ、逃亡にせよ、女性らしい知恵や勇気、優しさで行動してほしかった。飛び降りは論外。笑いのツボは黒人がトランクの警察官に煙草の煙を吐くところ。
[DVD(字幕)] 7点(2012-07-09 21:11:56)
11.  鉄人28号 《ネタバレ》 
実写?アニメにしか見えない。最大の見せ場のロボットの動きが驚くほど緩慢でぎこちない。殴られたり、倒れたりしても傷ひとつつくわけじゃない。映画史上実写とまがうCGが出たのが「ジュラシック・パーク」1993年。この映画は2004年。日米でこんなにも差がでるものなのか!中学生以上なら見向きもしないレベル。ロボットの造形も悪い。かっこよくないです。鉄人の目はは人の目に似ていて、それで愛着が湧くのですが、この映画の鉄人の目は真っ赤でロボットそのもの、愛着など湧きません。敵ロボットもしかり。原作だとかっこいいのに…。戦闘ロボット映画ですから、ロボットに魅力がないのは大問題です。 ◆正太郎君ですが、原作では勇猛果敢な天才少年探偵です。大邸宅に1人で住み、スポーツカーを乗り回し、拳銃をぶっぱなし、敵をなぎ倒し、大人顔負けの推理力を持っています。鉄人の操縦なんて朝飯前です。ところがこの映画の正太郎君は普通の小学生。鉄人の操縦も覚束ないレベル。そんな正太郎君を誰も見たくありません。「鉄人28号」は正太郎君が当たり前に操縦できるところから物語が始まるわけです。それなのに本作では正太郎君の成長物語にしてしまいました。ヘタレキャラの正太郎君を見て、ファンの方はみんながっかりしたでしょう。演出が本質的に間違っています。正太郎君と鉄人が大活躍してこその「鉄人28号」なのです。そこを履き違えては「鉄人28号」になりません。◆物語に深みがありません。正太郎君の父と敵ボスがかつて同じ研究所で働いていたという伏線が活かされていない。ラストの核爆発も、もっとタメがあってしかるべき。◆正太郎君の母は大怪我したけど、特にそんな怪我するような場面はなかったなあ。監督に才能が無いのは十分伝わりました。推定興行収入は1億~1億五千万円の最低レベル。原作が人気があるといっても安直なリメイクでは大衆を惹きつけない格好の例。ノスタルジーだけでは良い映画は作れない。オールドファンがダメ鉄人、ダメ正太郎を見に来ると思ったのか?新ファンが共感すると思ったのか。単なるお金の無駄遣い、時間の無駄遣いでしかない。
[地上波(邦画)] 2点(2011-10-30 22:09:23)
12.  田園に死す 《ネタバレ》 
母を否定することが物語の原点。母は毎日小言を言い、狂った時間で拘束し、東京(外界への憧れの象徴)行きの汽車に乗ることを許さない。父は不在。イタコの口を借りて会話はできるが、母はそれも否定する。華やかな見世物小屋(理想的な世間の象徴)があるが、その実態は不健全で変態的なものだと知ってしまう。隣の人妻と駆け落ちをするが失敗。母がいる限り自由は無く、成長も無い。貧しくて、猥雑で、因襲に縛られた東北の寒村に縛られ続けるのだ。それから20年。男は大人になり、東京に出たが、依然として母親と暮らしていて、拘束は続いている。男は自分の惨めで汚れた過去を変えることが出来ないかと、理想的に脚色した自伝映画を作ってみた。それでも過去は変わらなかった。あるとき「3代前のおばあちゃんを殺したらどうなる」という知人の言葉から、母殺しを連想する。だが現実に母殺しはできない。母が存在しなかったら自分も存在しない。それならば昔の自分にやらせればよいではないかとう発想で、男は恐山で昔の自分と対面する。恐山は死者と生者、過去と未来が交差する賽の河原。「過去を改変するには二人の共同作業が必要だ」言葉巧みに母親しをけしかける。だが昔の自分は東京帰りの女に童貞を奪われ、汚れてしまい、女と東京へ駆け落ちしてしまう。変な風に過去が改変されてしまった。仕方なく男は母殺しを決意。実家にいくと、母は何の疑念も見せず、未来の息子を受け容れる。息子のことなら何でも受容してしまう圧倒的な存在感。男は母殺しは到底出来ないと悟る。母と自分は一如、血と呪縛は断ち切れない。次の瞬間、時代は現代に戻る。二人は現代も未来もこうして生活(食事)を続けるのだ。母を否定した男は田園(過去の故郷)に死す。【象徴】①3人の女は母の女性性の象徴でもある。共に不幸であることが特徴。隣の人妻は貧しくて、愛なき結婚をし、昔の男と再会して心中する。儚い女だ。間引き女は父無し子を産み、村の因襲に抗えず、子供を川流しにして失踪する。悲しい女だ。空気女は夫が浮気しても、嘲弄されても、誰かに殺されそうになっても許してしまう。愚かな女だ。間引き女と交わったことは、近親相姦を暗示する。②赤ん坊を流したとき、雛流しの発想から雛壇が流れてくる。雛壇は鎮魂の象徴。③白粉は恐山(時空の交差する超空間)の住人であることを表している。④原色=思い出は醜く、美しく、エロティック。
[DVD(邦画)] 7点(2011-09-18 23:59:11)(良:1票)
13.  点と線 《ネタバレ》 
アリバイ崩しの刑事の説明。「犯人は福岡から東京、東京から札幌へと飛行機を利用、小樽まで汽車で引き返し、函館から来る急行「まりも」に乗り、札幌に電車で到着したように見せかけた」だが飛行機の乗車名簿に犯人の名前はなく、乗客に偽名はなかった。オチとしては三人に名前を貸してもらったわけだが、トリックとしては最低。青函連絡船の名簿トリックも他人に頼んだだけ。子供だましだ。 ◆二人が一緒に死んでいたから情死と思われた。ということは別々の場所で死んだことになる。しかし、その場所で死んだかどうかは、失禁痕などから簡単に判断できる。又目撃されずに死体を運んでくるのも大変だ。杜撰な警官と犯人だね。 ◆最大のトリックは東京駅のたった4分間の目撃情報。二人の女中に佐山とお時を目撃させるのは比較的簡単だが、佐山とお時にあの時間あそこを歩いて電車に乗らせるのは困難だ。佐山とお時は顔見知り程度なのだし、誰かが近くで誘導しない限り、まず不可能。安田の妻にやらせるしかないでしょう。 ◆佐山が1月14日から1月20まで誰とも連絡をとらないのも不自然。家族や親しい友人があるのだから、誰かに相談したと思う。 又1月14日あさかぜに乗車したお時が熱海で一人だけ下車して19日に安田の妻が訪ねて来るまで、誰とも連絡をとらなかった説明もない。少なくとも家族や友人には連絡を入れるのでは? ◆さらに安田妻が1月の寒い夜に佐山を香椎の海岸まで連れていくのにどう誘ったのか説明がない。同じく安田がお時を香椎の海岸まで連れていく説明がない。どんな誘い文句が考えられますか?情死旅行なのに佐山が一人で泊るという不自然さ。すぐ警察に勘づかれますよ。いろいろと設定に無理が多いのだ。賢い犯人なら二人を列車で博多まで行かせ、一緒に泊まらせます。安田の妻が同行しながら別行動をとり、宿屋で青酸カリを飲ませれば済む。これなら安田は苦労してアリバイを作る必要なしです。 ◆肝心の汚職捜査はどうなったのか?そのエピローグもなしに無理心中で終わってしまった。安田妻の心理が理解できません。病弱で夫婦関係ができないから愛人を了承。でも第二の愛人が登場すると夫を独占したいので無理心中。女は夫の汚職のことも知って、殺人を手伝っている毒婦なのに。28歳なのに実年齢40歳の女優が演じるのも違和感あり。犯人がすぐ分かる演出も限定対象。
[地上波(邦画)] 4点(2011-09-12 20:11:28)
14.  ディーバ 《ネタバレ》 
物語は少し複雑。メインは郵便配達人ジュールとディーバであるシンシアの純愛。ジュールは運命のいたずらで3つの組織に追われる。買春組織の暴露テープを持っていることで警察に。同じ理由で殺し屋に。そしてレコーディングしないシンシアの録音テープを持っていることでレコード会社に。さらに複雑なのは売春組織のボスが、警察の殺人課の上司であること。このため捜査状況が殺し屋に筒抜けとなる。レコーディングテープはベトナム人少女アルバに預けて置いて無事だった。暴露テープは殺し屋に奪われそうになるが、謎の男(アルバの恋人)に助けられる。暴露テープは謎の男が殺し屋のボスに売る。後にボスはジュールを殺そうとして、謎の男に殺される。 ◆感情移入を損ねる要素がある。アルバが平気で万引きする。ジュールもそれを咎めない。ジュールがシンシアへの愛の代償として黒人娼婦を買う。ジュールは逃げ回っているだけで最後まで成長せず無力である。主人公なのだから活躍して欲しい。最初は無力でも途中からヒロイズムを発揮するか、知力でピンチを乗り切るかすべき。謎の男に助けられているばかりでは、シンシアの愛を獲得する資格は無い。要するに主人公の印象が薄いのだ。ここが最大の不満点。謎の男ばかりが目立ちすぎる。ジュールがライブを録音し服を盗むのは、幼い愛の表現として許容できる。 ◆最大の魅力はシンシアの歌だろう。実に力強い。随所にユーモアの要素もある。二人の殺し屋のキャラも立っている。何でも嫌いな殺し屋は特に印象的。ジグソーパズル、動く波の模型、壁の画、バイクなどガジェットも豊富。構図やマ撮り、彩使いなど映像がスタイリッシュ。 ◆不可解な点もある。①レコード会社の人は、テープを探してジュールの家に押し入ったが、何故テープをずたずたにしたのか。腹いせだろうか。また謎の男から違うテープを渡されるだけだが、何故確認しないのだろうか。②最後の場面、唐突に無人の舞台となる。説明が欲しい。テープが途中で止まって、また始まるが誰が操作しているのか。③謎の男は、テープを売った金をどうしたのか? ◆ミステリー要素も恋愛要素もそこそこの出来で、良くまとまっている。アクションは陳腐。普通に考えれば、ディーバが狙われてジュールが助けるのだけれど、意表を突く展開が好ましい。本筋と離れた部分で、謎の男と不思議少女の抜群の存在感が映画を稀有なものにしている。
[DVD(字幕)] 7点(2011-02-13 11:59:21)(良:2票)
15.  天国と地獄 《ネタバレ》 
犯人は貧民街の三畳間アパートから丘の上の豪邸を見上げる生活を続ける中で、豪邸の主である権藤に対する歪んだ憎しみを熟成させ、遂に憎悪が生き甲斐にもなった。犯人が憎んだのは権藤という個人ではなく、貧困という不幸な境遇と社会の不平等、不条理。◆犯人は不幸な境遇に負けたわけでは無い。それどころかインターンで、成功の一歩手前、もうすぐ貧困から脱却できる状況。それにも拘らず犯行を決行したのは、世間に対する挑戦状。天国にいる者を地獄につき落す快楽もあるが、誰よりも知力に長け能力がある自分に対して冷たい仕打ちしかしてこなかった世間に対する挑発行為であり、途方もない自己実現の方法。◆人の命を救うべき医者が、人を殺すという矛盾。絶対善と絶対悪の逆転。天国から地獄への転落。犯人が望んだものは、上辺だけのきれいごとを並べ立てる世間に対して、人生の不条理をいやという程見せつけること。◆だが所詮犯人は世間知らず。犯人が天国の住人と思っていた権藤の生活も決して甘いものではない。彼は見習い職人から身を起こした苦労人であり、成功した今でも会社の権力闘争に巻き込まれ、安住した生活を送れていない。憎しみの対極として想定した相手は、実は似た者同士だった。◆計画は用意周到でトリッキーだが、甘さも目立つ。ジャンキーは殺すが子供は殺さない。子供に顔と車を見られ、窓からの景色や道も覚えられている。ジャンキーの死亡を確認せず、金も回収しない。車は目立つ場所に放置。電話で声色を使わない。◆犯人は権藤に何を伝えたかったか。死ぬのは怖くないと強弁。震えは恐怖ではなく、拘禁症状。憐みの気持ちで見られたくない。「私が死刑になって嬉しいでしょう」と挑発。みじめな死にざまであったと思われたくない。最後の強がりだが、心の弱さが露呈して絶叫。敗北を認めた瞬間である。彼の主張は一人よがりに過ぎなかった。死の残酷さを強調して終了。余韻が残る。【気になった点】①新聞社が警察に要請されて犯行のお札使用という偽情報を発表のはあり得ない。報道の両親に反する。②犯人に犯行を再現させるために泳がせる事はあり得ない。そのせいで第二の殺人が行われた。警察の大失態だ。警察は犯人の刑期が軽いから死刑にさせる小細工などはしない。③親父(社長)が最後まで登場しない。④会社での様子が描かれてないので、権藤の凋落ぶりが伝わらない。⑤尾行や麻薬街のシーンが無駄に長い。
[DVD(邦画)] 9点(2011-01-10 05:32:03)(良:2票)
16.  出口のない海 《ネタバレ》 
【時代考証】①学徒出陣壮行会が昭和18年10月21日、その夜に19年9月発売の「ああ紅の血は燃ゆる」を歌う。②男女がアベックで歩く。当時若い男女が歩いていると「軟弱である」という理由で警察に拘置された。実の妹であっても一晩留置された例もある。学校に知れると鉄拳制裁の対象。③駅で旗を振る派手な出征兵士壮行会、昭和19年にこのような光景はない。出征の状況がスパイに筒抜けなので、国が自粛させていた。④明大近くの喫茶店が、そのまんま現代。⑤敵の大型輸送船が単独航行しているが、輸送は護衛艦がつくもの。日本近海での単独行動はありえない。⑥「俺の回天を直せ、直せ!」と泣くシーンがあるが、海軍男子はあんな女々しくは無い。【失望】①唯一の回天攻撃成功シーンが省略。艦内の様子も、轟沈の火柱も出さない。回天を馬鹿にしてる?②主人公並木は演習の事故で死ぬが、事故の詳細が描かれていない。③並木は甲子園のヒーローで大学野球のエース、家はさほど貧しく無く、恋人もいる。非常に恵まれているが、訓練ではヘタレキャラになる。エースがもたついていてはダメでしょ。違和感あり。④並木の死体引揚は20年9月17日以降で、死後2,3ケ月経過しているのに腐敗してない。⑤キャッチャーは最後まで魔球を否定していた。並木とは不仲のまま。⑥現代の価値観から出る言葉を、彼らに語らせている。「この戦争は負ける」「アメリカ兵にも家族がある。戦争とはそういうことだ」「回天を伝えるために死ぬ」「一年が過ぎたら僕のことを忘れてほしい」やたら説教臭く、リアルな人間ドラマが描けていない。⑦並木が妙に物わかりが良く、優等生で、教科書的人物。共感できず、感動もない。教科書を読んで感動できないのと同じ。⑧「出撃して戻ってきた者には冷たい視線が浴びせられた」と語るだけ。憔悴や悩みが描かれず。⑨並木の視点から、整備士の視点になる。⑩生存者のその後が描かれず。⑪「お前は歌がうまい」はずが下手。⑫芝居がへた、特に主役の人。セットも貧相。【感想】回天は魚雷、爆発シーンを描いていないのはどういうことか。意図的なのか、制作費の節約なのか。回天の欠陥だけを描いている。◆主人公とは対照的なマラソン選手との駆け引きはよかった。「軍神になりたい」などと考えるのは小作の子ぐらい。出撃できず失望していたが、また走り出した。それを見て笑う並木。説明してないが言いたいことは伝わる。良い場面。
[DVD(邦画)] 4点(2010-12-29 02:17:26)
17.  Dear Friends ディア フレンズ 《ネタバレ》 
◆「友達と命」をテーマにした薄っぺらな難病もの。極端にベタな展開、ご都合主義のオンパレードで、何度も苦笑。登場人物があまりにステレオタイプで実感が湧かない。さながらギャグのよう。脚本家の頭の中でキャラが踊っているだけ。どこにもいそうになり人たちばかりでは、真の人間ドラマは描けない。物語は起伏があって飽きない。◆リナは美人でスタイル抜群の女子高生。カリスマ読者モデルで、夜はクラブクイーン。美貌故に周囲から持て囃され、多くの取り巻きがいる。男友達も多い。学校はよくさぼる。性格は悪く、常に高飛車で、友達の男を寝取っても「友達は必要な時に利用するもの」と嘯く。自分が悪いのに文句を言ってくる同級生にはブス呼ばわり。母のスープは叩き落し、盲人に席も譲らない。◆何故そんな性格になったかというと、父親が多忙で家族を顧みず、母親は愛情過多タイプで甘やかされて育ったと言いたいらしい。◆リナがダウンし、入院。難病の幼女カナエが話しかけてきて、「押しかけお友達」に。ミキという女子高生も「友達だから」と見舞いに来る。でもリナに彼女の記憶はない。◆退院するが癌と判明し、再入院。抜けだしてクラブに行くがカツラが取れ、雨の路上で泣き崩れる。偶然通りががったミキに助けられる。◆カナエが坊主姿になり、「死ぬかも」と弱気。リナは「死ぬな。仲間なんだから」と元気づける。カナエ転院する。◆ミキは小、中、高とリナと同じ学校。リナの誕生会に呼ばれて優しくされ、オルゴールをもらう。理由を聞くと「友達だから」。ミキはいじめられっ子でリストカットを繰り返してきたが、オルゴールに何度も勇気づけられてきたと。ミキにとってリナは心の友達だった。 ◆リナは癌が乳房に転移したこととカナエの死を知る。飛び降り自殺を試みるが、ミキが自分の胸を切って思いとどまらせる。ミキはカナエから「マキちゃんがリナを助けてあげてね」と託されたことを語る。そして二人ともリナから勇気をもらっていたとも告げる。「生きていたからリナちゃんのような友達と巡り会えた」◆リナ乳房切断し、退院。ミキの姿なし。胸を恋人に見せて振られる。再び病院で飛び降り自殺を試みるが、ミキが現れて説得。ミキは難病で動けない体になっていた。ミキに心配させたかくなかったから黙っていたのだ。◆リナはミキを看病するために看護婦になる。ミキ死亡。
[DVD(邦画)] 3点(2010-07-23 02:38:54)
18.  天然コケッコー 《ネタバレ》 
【そよさん】心やさしい少女。下級生の母親的存在。思い出をとても大切にする。それは大沢が捨てた校舎の石を捨てれなくて持ち帰る挿話に集約されている。「もうすぐ消えてなくなると思えば、些細なことが急に輝いてみえてきてしまう。一緒に登校したことを奇跡みたいに思い出すことがあるのだろうか」大沢に愛のある接吻はできなかったが、黒板にはできた。ジャケットにこだわるところはリアリティがあります。 【大沢くん】いつも無愛想でつまらなそうな顔。両親が離婚し田舎へ引っ越すという悲運を負う。都会ずれし、プロレスとゲームが趣味。自殺者に花を供え、拝んでいるさやに無理やりキスしようとするほど無神経。「おまえの手、おしっこくさい」「(膀胱炎の子を心配するそよに)よかったじゃん、ガキの子守りしなくてすむし」などと心無い発言が多い。「この高校パス、だって坊主じゃん」「都会の高校行くかもしれん」でもそよの温かさにほだされ、田舎の学校に残ることに。悪い人じゃないんだけどね。 【感想】修学旅行で都会の喧騒に馴染めないそよだったが、ふと町騒が山の音と同じだと気づく。幻想的な映像と音楽が流れる。新しい世界との折り合いがついた瞬間だ。「あんたらとはいつか仲良くできる日がくるかもしらん」元気になって大沢の手をとって歩きだす。少女の心の成長の一頁を鮮やかに切り取った場面です。そよとって大沢は外部世界の象徴。彼から刺激を受けつつ、ささやかな冒険を通して、時には傷つきながらも成長してゆく姿が瑞々しく描かれています。大沢の魅力が少ないのが残念。さやを救った場面くらい。あとは接吻のおねだりばかり。田舎の人の心に触れ心が癒され、やさしい少年に成長してゆくのが理想なのですが。ロングショットによる長回しや合間に挿入される季節の映像が印象的。ラストショットは少し作り過ぎでしょうか。「扉から教室を見るさや」から「窓から教室を見るさや」への転換は見事ですが、陽光浴びるカーテンのゆらぎ、満開の桜の位置、舞う花びらなどコテコテです。きっと私の心が汚れてるからそう見えるのでしょうね。反省。不倫、ロリコン男など田舎を描くのにリアリティありましたが、映画の主題からして不要でしょう。短縮して短編映画の如き雰囲気にすれば傑作になれたかも。題名は「天然の鶏=地鶏」で田舎に自然に暮らす人のこと。ボロイラーにはなりたくなりですね。心は地鶏で居たいです。
[DVD(邦画)] 7点(2010-06-09 17:34:27)(良:2票)
19.  デッド・フライト 《ネタバレ》 
ツッコミましょう。 ①研究所の一人が誤って感染してしまい、彼女を救うために箱に封じ込め、極秘にパリに運ぶ途中の出来事。でもパリに入ってからどうするか決まっていない様子。だったらパリに行く必要がないと思うが。国内に潜伏すればいい。②ゾンビを閉じこめる箱がロックされていない。内から出れないように厳重に施錠する筈。 ③殺さないから出てこい、といって撃つのが卑怯。 ④死者が生き返るウイルスと説明があったが、人間を襲って食ったり、強くなる説明がない。ゾンビ同士で殺し合いはしないの?完全に食べれらちゃう人とゾンビ化する人がいる。大量失血したら動けなくはずだが。 ⑤血液感染するはずなのに、生存者の中に咬まれてもゾンビ化しなかった人がいる。 ⑥武器になりえるパターは飛行機に持ち込めない。タイガーウッズに似すぎている。パターで首は飛ばない。 ⑦問題について協議するペンタゴンの役人の人数が少ない。管制塔の従業員も数が少ない。そもそもジャンボジェット機なのに乗客が少ない。CAも少ない。 ⑧トイレの鏡の壁を破ってゾンビが飛び出てくる ⑨床を破ってゾンビ両腕が飛び出てきて、あたかも眼があるかのように人を捕まえる。 ⑩銃を乱射しても飛行機の壁に穴が開かない。 ⑪金玉撃つより脳を撃て。 ⑫戦闘機は撃墜命令を受けているのに、生存者がいるからと勝手にミサイルを爆破させた。 ⑬人間を乗せた椅子がぶつかっただけで戦闘機が爆発炎上。 ⑭生き残った人たちは不思議とゾンビのことを全く気にしていない。のんびりムード。
[DVD(字幕)] 4点(2010-06-07 09:51:43)
20.  天使と悪魔 《ネタバレ》 
反物質を作る計画があり、それを知ったヴァチカンの偉い人、カメルレンゴはそのような神に反抗するような行為はやめさせるべきと思いましたが、教皇は支持。激怒したカメルレンゴは教皇を自然死に見せかけて毒殺、殺し屋を雇って反物質を盗み出し、さらにイルミナティの仕業にみせかけ、教皇候補の四人を誘拐、一時間ごとに殺してゆき、最後は反物質を爆発させるという計画をたてる。流れからいうと3人死んで、四人目に阻止されるなと予想していると、予想はあたった。あの殺し屋はどうやって警備が厳重な実験室に入ったのか?どうやって実験が成功したのを知ったのか?どうやって教皇候補を誘拐したのか?何故ラングトン教授を殺さずに、俺の雇い主はヴァチカン関係者などと親切に教えたのか?殺し屋を殺した実行犯は誰か?カメルレンゴは何故ヘリを操縦でき、かつパラシュートもつけていたのか?そもそもヴァチカンを爆発させても意味がないわけで、反物質をどうするつもりだったのか?教皇になるつもりだったにしては計画に無理がないか?そもそも資格がないのだから。殺し屋がたった一人というのに無理がないだろうか?ランゴトン教授はどうしてラテン語も読めないのか?これらのことが気にならなければ、楽しめる映画です。いきなり謎が次々に提示され、すばやく展開し、ぐいぐい観客を引き込む手法はたいしたものです。
[映画館(字幕)] 6点(2009-06-06 01:00:05)
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