1. テトリス
《ネタバレ》 一度はプレイしている人は少なくないのではないかという『テトリス』。 シンプルながらゲームボーイでかなり熱中していた世代の一人だ。 それを如何に映画化するともなると、ゲーム単体にストーリーを付けるのではなく、 冷戦末期の旧ソ連で誕生したゲームのライセンス争奪戦というユニークな造り。 本作を見て思い出したのは、 『アルゴ』を彷彿とさせるポリティカル・サスペンスの側面と、 『AIR/エア』で描かれたビジネス映画としての側面だ。 (どちらもベン・アフレック監督作品で、前者で幾分影響を受けていたのではないか)。 実話と言っても、展開を盛り上げるためにかなり誇張している箇所があり、 主人公の家庭が崩壊直前までに追い詰められたり、開発者が起こしたボヤ騒ぎ、 終盤のカーチェイスからのソ連脱出劇はほぼ創作だろう。 最終的に大成功を収めるのは分かるのだが、 駆け引きに、裏切りに、友情に、期待に、失望に、信頼に、と上手く絡まり合い、 ある種のフィクションとして見るならラストまで目が離せなかった。 時折、挟み込まれるゲーム的演出が心憎く、任天堂が深く関わったこともあり、日本への目配せも忘れない。 監視と密告とハニートラップと賄賂が当たり前のソ連体制側においても、 国家の利益のために主人公に手を貸す誠実な者、国家すら信用せず私腹を肥やしたい腐敗した者、 それぞれの思惑があって、いつか国が崩壊するのも分かっている。 共産主義国の恐さと閉塞感がひしひし伝わるも、一つのゲームが歴史を変えた壮大な物語に仕上がっていた。 [インターネット(字幕)] 7点(2024-11-18 22:17:34)《更新》 |
2. デリシュ!
《ネタバレ》 今でこそよく見られるレストランという形式が如何に誕生したか。 18世紀末のフランス革命前夜まで、美食は貴族のものであり、 庶民は飢餓と隣り合わせで食べることに必死だった。 旅籠には簡単な食事が提供されることはあれど、 それまで貴族も庶民も一緒に、個別のテーブルで、メニューから料理を選択することが今までなかった。 この視点でレストラン誕生の経緯を知ることがなかったので目から鱗である。 天に近い食材ほど至高で、土に根差したジャガイモやトリュフというポピュラーな食材が かつて貴族から豚の餌扱いされていたということも。 主人公と女性の織り成すロマンスは控えめで、 抑制された色遣いによる絵画のような映像美が美味しい料理を引き立てる。 そして傲慢な伯爵への強烈なカウンターパンチ。 封建社会の理不尽を受けてきた先人たちの努力によって新たな活路が見出され、 食文化が成熟・変遷していったかを興味深く見られた。 [インターネット(字幕)] 6点(2023-12-09 22:24:42) |
3. ディック・ロングはなぜ死んだのか?
《ネタバレ》 小さな嘘が大きな嘘へ、大きな嘘が大きな過ちへ。 先日、オスカー監督になったダニエルズの片割れ、シャイナートによるブラックコメディ。 全編シリアスムードながら、杜撰な証拠隠滅とアリバイ作りで雪だるま式に状況が悪化していくさまが、 コーエン兄弟の『ファーゴ』を思い出す。 友人の死の真相と二人が隠し通そうとしていた秘密──それは馬との獣姦(それも受け側)。 まさにタイトル通りで2005年にあった事故がモチーフだとか。 行きついた究極の快楽と引き換えに、家族が知ったら絶縁されるレベルで主人公は全てを失ってしまう。 この"しょーもなさ"にどこか哀愁を感じてしまうし、それでも人生は続いていく。 誰だって人には言えない秘密はあるし、型に嵌って生きていかないと排除されてしまう社会に対する、 監督の人生訓は『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』にも受け継がれている。 相手側が出資を躊躇うくらいの胆力がないとあんな映画は撮れない。 人間には計り知れない可能性がある。 型に嵌りすぎて潰れてしまう前に、時には羽目を外してガス抜きしないと。 もちろん限度はあるけどね(ネット炎上とか)。 [インターネット(字幕)] 5点(2023-03-16 22:43:12) |
4. 天使にラブ・ソングを2
前作に比べたら明らかに質は落ちるが、それでも面白さは一定に保たれている。 やはり歌のパワーは凄いと改めて実感できる反面、ラストを描きたいがための強引でご都合主義な展開が鼻につく。 それでも描きたいなら生徒の個性や心の揺れ動きにもっとフォーカスして欲しかったと。 前作みたいに正体がバレたら生命の危機というサスペンスもなく、 デロリスことウーピーでなくてはならないというストーリーではないのが一番痛い。 [地上波(字幕)] 6点(2022-12-23 23:16:24) |
5. デス・レース2000年
モラルはないし、アホくさくて下らないし、中途半端に社会風刺を盛り込むしのザ・B級。 ミニ四駆みたいな殺人カーに間抜けな犠牲者たち、そこそこ楽しめるアクションシーンで良い暇潰しにはなる。 「美味い」、「安い」、「早い」を体現した吉野家みたいな映画。 [DVD(字幕)] 5点(2022-10-17 21:27:50) |
6. デンマークの息子
《ネタバレ》 テロがきっかけで台頭する極右団体。 彼らのヘイトクライムに抗うアラブ系過激団体に入った少年の視点で描かれるかと思いきや、 少年を騙した潜入捜査官の苦悩がメインだった。 そのため、アラブ系過激団体の影が後半から薄くなり、中弛みを感じなくはない。 国に馴染んだ移民でありながらテロを防ぐ潜入捜査官という半端な立場な故に、 極右団体の危険性を訴えてもデンマーク警察は上の空、 むしろ彼らが支持する政権を許してもまあ良いんじゃないという事なかれな空気。 これは移民政策に対して保守的なデンマークでさえ、ルールを守れない移民を持て余している現実がある。 欧米でも日本でもそう。 それ故に潜入捜査官の家族に悲劇が訪れる。 もはや失うものがない彼が下した行動にはカタルシスもなくただただ虚しい。 暴力以外の解決方法がないあたりに限界を感じる。 ミニシアターだけで留まるのは勿体ないし、多くの人に見て欲しいが、 閉鎖的な日本では入管法改正による強制送還ラッシュを加速させていくだけだろうな。 [インターネット(字幕)] 7点(2021-12-31 23:54:39) |
7. TENET テネット
《ネタバレ》 007シリーズへの憧憬と新機軸の時間逆行ものを引っ提げたノーラン監督の最新作は、氏のフィルモグラフィーの中でも複雑で難解な作品であることには間違いない。 自身の作家性とブロックバスター映画を違和感なく融合させた、驚愕の映像体験は本作でも健在で、時間の順行と逆行が同時進行のショットだけでも見る価値がある。 それ故に、作品のルールに縛られて、物語の整合性が取れているのか分からないくらい複雑な構成と、 専門用語がテンポ良くつぎ込まれる圧倒的な情報量の多さに一度見ただけでは理解できない人が多いのではないだろうか。 タイムパラドックスの整合性を取るために、過去のある瞬間に向かう相棒の行く末が切ない。 [映画館(字幕)] 6点(2020-09-18 23:40:35) |
8. 天使にラブ・ソングを・・・
30年近い前の映画なのに古臭さを全く感じないのが凄い。それはウーピー・ゴールドバーグの強烈なキャラクターに尽きる。俗世にまみれながらも陽気でたくましい。殺伐とした序盤でもコメディタッチで突き抜ける潔さ。そんな彼女が匿われ先の閉塞的な修道院を歌で変えていくわけだが、(たとえ安直でも)歌がどれだけ観客の心を動かすかを教えてくれる。だから、どれだけご都合主義で大団円だろうが許してしまうパワーがあった。細かい部分は気にせず、誰もが楽しめる大衆映画という意味では名作の域ではないか。 [地上波(字幕)] 8点(2020-05-17 12:17:56) |
9. 天気の子
《ネタバレ》 エゴを問う物語。『君の名は。』と違って、想い人を救うために東京が水没する。そこに至るまでのプロセスで帆高に共感出来るか否かで評価が分かれる。当然ながら、帆高が何故家出したのかは全く説明していない、監督ならではの作風で、須田の帆高と過去の自分を重ねる言動や、ひとつひとつのディテールで想像するしかない。一番重要なのは、殴られても、血を流しても、何を言われても、自分を貫いて走り続けるかどうか。一連の逃亡劇で象徴されていたように思える。晴れ女のビジネスで儲けようとするのもエゴ、大事なイベントで晴れてほしいと願望するのもエゴ、帆高が起こした"暴走"と何が違うのか。自分の思うように勝手に改造したのが現代社会であるならば、そのツケがいつか回ってくる。自分が望まない物事に対する不平不満がその社会の代償だからこそ、須田のように折り合いつけて生きているだろう。しかし、そのエゴもまた、一つの希望のように思えるのだ。あるべき姿に戻っただけ。いわゆるスタートラインだ。 [映画館(邦画)] 7点(2019-07-19 23:59:17) |
10. テルマエ・ロマエⅡ
前作に比べると流石に新鮮味は薄れる。やっていることも相も変わらず語ることすらないけど、軽く見る程度ならそれほど悪くないかと。アケボニウスって聞いたことある名前だなと思ったら、曙なのがビックリというくらい。 [地上波(邦画)] 5点(2019-02-21 23:02:42) |
11. 手紙は憶えている
《ネタバレ》 ストーリーは気になっていてはいたが、今まで見る機会を逃していた。復讐もののはずなのに、序盤から認知症のおじいさんと旅先の人々との交流を描いたロードムービーで呆気に取られる。こんな状態で本当に目的を達成できるのか。ところが次第に違和感が浮上していき、ユーモラスに紡がれるシーンが挟まれていたからこそ、血の凍りつく顛末が何倍にも際立った。当時の記録映像や回想に頼ることなく、小道具だけで虐殺の視点を反転させる演出は見事。"ユダヤ人"として戦後生きてきた男が、実際はナチ看守だった主人公に深い絶望を与えるやり方がえげつなくて、被害者はいつまでも"憶えている"。その業と執念が強烈に焼きつく。"手紙"という脚本通りに事が進むのかは目を瞑っておくとして、クリストファー・プラマーの貫録ある熱演のお陰で高品質のサスペンスに仕上がっている。あまり予備知識を持たずに見て正解の掘り出し物。 [インターネット(字幕)] 8点(2018-12-02 23:42:07)(良:1票) |
12. デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!
デジモンをよく知らないため、登場人物たちの背景が分かり辛いが、まだネットが発達していない時代の先見性に、わずか40分で長編映画並みの濃度で描いた細田監督を評価したい。後にこれが『サマーウォーズ』になるのだが、あれぐらい贅肉が付かない方が丁度良いかも。原作付き、脚本家次第で傑作を作れると思うので、オリジナル作品より合っている気がする。 [DVD(字幕)] 7点(2018-02-11 23:16:42) |
13. テルマエ・ロマエ
原作既読。古代ローマとキャスティングはどう再現するかは一応クリアしており、漫画の実写化としては及第点。ただ、後半のシリアス展開は、日本とローマを行き来するほぼ一話完結式の原作のためか合ってない気がする。意図が不明のオペラ選曲にしろ、オリジナルキャラのヒロインの扱い方にしろ、良くも悪くもテレビ局印の映画で、期待しないで流す程度に見るなら普通に楽しめるかと。本場イタリア人はどんな気持ちで本作を評価したのだろうか。 [地上波(邦画)] 5点(2018-01-15 23:31:40) |
14. 天使のくれた時間
《ネタバレ》 もう一つの人生を追体験して、「本当の幸せとは何か?」というベタな展開ながらも手堅い演出と演技で違和感なく見せる。「家族と過ごす中庸な人生が一番」と結論を下さず、空港のカフェテラスで一晩を過ごすラストが良い。それぞれ元の生活に戻ったかもしれないし、結婚しても二人の子供と賑やかな近所仲間が帰ってくるわけでもない。失った時間の大きさを痛感させられる、ほろ苦さが口に残る。邦題が秀逸。 [地上波(吹替)] 7点(2018-01-05 14:37:43)(良:1票) |
15. 天使の涙
《ネタバレ》 『恋する惑星』で描き切れなかったエピソードを一本の映画にした姉妹編らしく、前作を見ていると楽しめる要素はある。カッコつけて中ニ病臭さがあるのに違和感なく香港の空気を的確に捉えるオリジナリティは健在で、ポップだけどどこか閉塞的で退廃に満ちている。そう、描かれる物語は人はバンバンと死ぬし、かと思えば口の利けない青年がコメディリリーフを請け負ったりする極端さなのだ。5人の男女が織りなす群像劇のため、中身はそれほどなくても他の作品と比べれば退屈ではない。足を洗おうとする殺し屋と別れる際に腕を噛む女に、ビデオに撮っていた父を亡くし大人になることを悟る青年の、そんなエピソードが印象に残る。別れても誰かに覚えて貰いたい切なさ。"Only You"をバックに、ハイウェイでバイクで流すラストにただただしびれた。 [インターネット(字幕)] 6点(2018-01-01 22:32:19) |
16. 鉄コン筋クリート
《ネタバレ》 原作未読。猥雑で無国籍なスラム街の背景がグリグリ動く、実写映画風のカメラワークは面白い。アニメの表現技法として最高峰だろう。独創すぎる世界観のため好みが非常に分かれ、心の闇をくどくどと観念的に描きすぎてついていけない。だからハッピーエンドを迎えても素直に喜べない感じ。 [DVD(邦画)] 4点(2017-12-20 21:25:56) |
17. DEATH NOTE デスノート the Last name
蛇足感のあった原作の不満を解消し、前後編できちんと決着をつけたことは評価したい。当然ながら、そこに至るまでのラスト以外は月並み。月(ライト)だけに藤原竜也の成り切れないオーバーアクトが浮いていた。 [DVD(邦画)] 6点(2016-11-26 00:31:07) |
18. DEATH NOTE デスノート(2006)
人気漫画の実写化というものには懐疑的である。特に非現実要素の強いものなら尚更。キャストのほとんどは似てない、オリキャラがある程度露出多め、死神のCGが浮きまくり、原作再現という意味ではお世辞にも良いとは思わない。予告を見た時点であまり期待しなかったが、テレビで軽く見るくらいでなら普通に楽しめた。それ以上の感想が見つからないくらい普通。 [地上波(邦画)] 5点(2016-11-26 00:27:52) |
19. ディーパンの闘い
《ネタバレ》 これがパルムドールか・・・『預言者』に続き、フランスに押し寄せる難民問題に焦点を当てるも切り口が平凡。家族と偽りパリに渡った赤の他人三人が如何にして日々を生き抜いているのか、ニュースでは表面的に描かれているだけに関心はあった。しかし、こうも簡単に順調に生活が上手くいくのか疑わしい。二人の"夫妻"がくっついたり衝突するのは描かれていても、"娘"の描写が希薄でいつのまにか影が薄くなっていく始末。次第に積み重なっていく不穏と鬱屈が爆発するアクションのシークエンスは、主人公のみ見せて他はあまり映さないスタンスで、彼のPTSDを追体験させるつもりでも、直後に取ってつけたハッピーエンドのアンバランスさに違和感。イギリスに着いてめでたしとは限らないのに、主人公の妄想なのかひとときの安堵なのか狙っているの? パリ同時多発テロ、イギリスのEU離脱後では呑気にこんな映画は撮れないだろう。エンタメ寄りのオーディアールにしては詰めの甘さを感じる。 [DVD(字幕)] 4点(2016-10-31 21:48:01) |
20. ディパーテッド
《ネタバレ》 『インファナル・アフェア』とはどうしても比べざるを得ないのはリメイクの宿命か。 ドラマチックな要素を排除して、ひたすら冷徹にドライに描いたため、同じ内容でも別物に見えるが、 無意味に血生臭いだけで無味無臭、長く感じてしまった。 仮にこちらを先に見たとしても十分厳しい。 見ていて何も残らない。 キャリア最高の映画でもないのに消去法的にオスカーを貰ったスコセッシが一番不本意ではないか。 スコセッシとはどうしても相性が悪いんだよね。 いろいろ文句は言ったが、オリジナルとは違い、 ディカプリオの名誉が死後回復して、デイモンが落とし前を付けられて巡査部長に消される。 ある意味、ハリウッドらしい溜飲の下がるラストだった。 そして、窓の向こうの議会議事堂と一緒に映るネズミ… [DVD(字幕)] 3点(2016-03-22 21:03:16) |