1. ナイロビの蜂
《ネタバレ》 本作への評価って、妻・テッサの行動を肯定的に見られるかどうかがポイントではないかと思います。レイチェル・ワイズのオスカー受賞から察するに欧米では彼女を英雄視する向きが強いのだろうと推測するのですが、日本人的な感覚で言うと、彼女の行動はちょっと受け入れ難く感じました。 外交官である旦那・ジャスティンの職業的な立場や評判を気にせず、市民運動家的な活動にのめり込むテッサ。この時点で私はダメでした。目の前の社会問題を許せず、自分が何とかしなければと意気込む動機こそ理解可能ではあるものの、活動に走る彼女の目にはジャスティンの姿がまるで映っていないのです。原題が示す通り庭いじりくらいにしか積極的な姿勢を見せない温厚・朗らかな旦那が、これではあまりにも可哀想すぎます。 この手の市民運動家的な活動には、のめり込み過ぎると当事者から正常な判断能力を奪ってしまうという問題があります。死産をきっかけとして現実逃避するかのように活動にのめり込んでいったテッサからは、どこまで手を出していいのかという判断能力が失われ、自分とその協力者の惨殺という最悪の結果を招きました。そして、自分の身を守るという観点が欠落した運動は、家族までを巻き添えにします。私はこれを英雄的な行動として受け取ることができませんでした。 全体的な物語の整理もよくできていなくて、目だけで演技ができるレイフ・ファインズに無口なジャスティンの感情表現をまかせっきりにしているために、盛り上がりどころをことごとく逃しています。特にラストでの行動については、陰謀の存在を世界に対して証明するために自身の殺害というセンセーショナルなイベントをあえて仕込んだという構図が分かりづらく、死をもって妻の仕事を完成させようとした彼の壮絶な自己犠牲の精神や、死地へ赴く際の決断の重さがまるで伝わってきませんでした。ある目的を達成するためにはそうせざるをえないという背景が事前に描かれてこそ自己犠牲の物語は盛り上がるのですが、これでは他にも方法があったのに無策にも死へ飛び込んでいった人に見えてしまっています。 そもそも、ちょっと調べるだけで次々と出てくる悪だくみの痕跡や、問い詰めればアッサリと内幕を話してくれる敵方の関係者など、全体として捜査の過程が緩すぎたことも、ラストの決断を軽くしているように感じました。一流の俳優・一流の撮影に支えられているため見てくれだけはいいものの、どうにも中身の伴っていない作品であると感じました。 [インターネット(吹替)] 5点(2018-02-20 19:07:57)(良:1票) |
2. 南京!南京!
本作の序盤はとにかく凄いの一言です。作り込まれたオープンセットの説得力や、モブシーンの迫力、戦闘シーンのテンションの高さには息を飲みました。南京市を守っていた国民党軍が一目散に逃げていき、代わって共産党ゲリラが圧倒的多数の日本軍相手にかっこよく奮闘するという現在の政治事情への配慮が多分に含まれた実に分かってらっしゃる描写には「やれやれ」という感じでしたが、それでもこの手の反日映画では、日本映画界では絶対に不可能である「圧倒的に強い日本軍」という珍しいものを見ることができるため、その辺りの倒錯した感覚が楽しかったりもします。また、日本人が聞き取れない日本語を話す日本兵は一切登場せず、日本人役にはちゃんと日本人俳優が当てられるという丁寧な仕事にも好感が持てました。80年代90年代に香港で量産されていた粗悪な反日エクスプロイテーションを見てきた私としては、ここまで素晴らしいものを作っていただいて有り難うという気持ちにすらなりました。 ただし、本編に入ると一気につまらなくなります。南京事件の史実としての信ぴょう性という議論を度外視し、中国側の主張を全面的に受け入れた上で鑑賞しても、これがまったく面白くないのです。本作には日本軍・南京市民・南京に駐在していた欧米人という3つの立場の人々が登場しますが、日本人が悪でその他の人々は善という単純な色分けとなっており、登場人物全員が歴史を語る上で必要な持ち場を守っているだけでその感情や行動にリアリティが伴っていないため、誰にも感情移入ができないのです。 例によって日本軍は大暴れしますが、仮に当時の日本軍が非道な集団だったと仮定しても、各自が乱暴に振る舞った結果、気が付けば30万人もの人間が死んでいたという結果にはなりません。30万人も殺すという大仕事ともなれば組織立って動く必要があり、かつ、軍隊のような官僚組織を動かすためにはある程度の合理的な説明が必要となるはずであり、こじつけでもいいからそうした組織論や意思決定論的な切り口で日本軍を描いてくれれば見ごたえがあったのに、「とりあえず日本人は悪かった」という描き方しかないため、見ていて全然面白くありませんでした。 これは安全区の責任者であるドイツ人・ジョン・ラーベにも言えることで、彼は徹頭徹尾善意の人であり、そこに何の理由付けもありません。その結果、善人すぎて何を考えているのかサッパリ分からない人になっています。しかも本作では彼の立場や権限に関する説明すら一切なく、予備知識を持たない人にとっては「このおじさん、一体誰?」としかならないため、映画としてお粗末だったと思います。ちなみに彼が何者であるかを説明すると、南京市の発電所に発電機を設置していたジーメンス社の中国支社長であり、かつ、ナチス南京支部副部長であり、南京在住歴が長かったことから南京安全区国際委員会委員長というパブリックな肩書も持っていたことから、彼は日本軍と交渉していたのです。彼はしばしば「南京のシンドラー」などと言って持ち上げられますが、彼自身が記した日記には虐殺を直接見たという記述が一切なく(「郊外で5~6万人くらい殺されたらしい」という伝聞のみ)、それどころか安全区国際委員会委員長として日本軍に「安全区に攻撃を加えなかったことに感謝します」と感謝状まで書いており、本作で描かれたような体を張ってまで市民を守り抜いた偉人とはまるで異なった人物像でした。事実の捻じ曲げも、ここまでくると凄いなと思います。 さらに南京の一般大衆についても、逼迫した脅威として死が迫っている状況下で、逃げることも抵抗することもせず、ただいたぶられているだけなので、感覚的に理解ができない人々の集まりとなっています。この点についても、こじつけでもいいから理解可能な理由付け、逃げるに逃げられない事情があればドラマに集中できたのですが。 なお、本作はNetflixにしれっとアップされていたので鑑賞できたのですが、劇場公開もソフト化も目途が立っていません。表現の自由のある日本において、抗議活動で映画が上映できない状況を作り出すクレーマーの人たちって、一体どうなのよと思います。 芸術作品はその時代や社会の影響を受けるものであり、特に多くの人々の協力の元で作られる映画ともなればその傾向は顕著となるため、中国社会においていわゆる抗日映画が作られることに私は違和感を覚えないし、その存在も否定しません。特に本作が制作された頃にはチャン・イーモウ監督・クリスチャン・ベール主演の”Flowers of War”や中独合作の『ジョン・ラーベ/南京のシンドラー』などが連続して制作されており、「なるほど、そういう時期だったんだな」としか思わないのですが。 [インターネット(字幕)] 5点(2017-08-17 12:52:33) |
3. ナイスガイズ!
《ネタバレ》 バディもの、壊れかけた家庭、目の前の事件を追っているうちに巨大な陰謀に行き着くという展開、シェーン・ブラックの脚本は『リーサル・ウェポン』以来、ほぼこのパターンに当てはめて作られているのですが、本作もその例外ではなく「いつものブラックだなぁ」という感じでした。さらに、全体の軽さや不謹慎ギャグのレベルは『キスキス・バンバン』と非常に近く、本作において特に突出した部分はないように感じました(なお、本作にチョイ役で出てくる映写技師の青年はヴァル・キルマーの息子、ポルノ映画のプロデューサーの死体はロバート・ダウニーJrが演じてるらしいです)。 また、ブラックの初期作品には強烈な毒があり、『リーサル・ウェポン』『ラスト・ボーイスカウト』『ロングキス・グッドナイト』などは人生の最底辺で苦しみ、他人から避けられたり軽蔑されたりしている主人公の痛みであったり、捨て身の戦いの中で尊厳を取り戻すという熱いドラマが込められていたため、私はそれらの作品が大好きでした。しかし、本作ではその要素のみがスッパリと落とされています。おっぱいは出てくるし、死体で笑いをとるし、見てくれは過去最高にアダルトなのですが、ドラマの本質部分における毒がほとんどなくなっていた点はかなり残念でした。 さらに、本作は導入部がめちゃくちゃに分かりづらいという大きなマイナスを抱えています。ライアン・ゴズリング演じるマーチは、事故死したポルノ女優の叔母さんから「死んだはずの姪を見かけたから探して欲しい」という依頼を受けたが、そのポルノ女優の死亡は確実であることから、叔母さんは別の女性と見間違えたと考え、現場の記録から割り出したもう一人のポルノ女優・アメリアを追っています。他方、ラッセル・クロウ演じるヒーリーは、「自分を追っているマーチを脅して、もう来ないようにして欲しい」とアメリア本人からの依頼を受け、マーチ宅を訪れます。これが主人公二人の出会いなのですが、ここから二人揃ってアメリアを探し始めるという状況が物凄く分かりづらいのです。数日前に会ったばかりのアメリアを探すヒーリーってバカなのかと。 また、マーチと娘・ホリーの関係性も最初は良く分かりませんでした。酔いが醒めたマーチにホリーが電話をかけてくる場面が二人の関係性を示す最初のカットなのですが、通常の映画であれば、母親に引き取られたが父親を慕い続ける別居中の娘を連想させられる構図をとりながら、実はマーチと同居中であり、その日は友達の家に泊まっていたという、「誰がそんなこと連想するんだよ」という実に分かりづらいことになっています。演じるアンガーリー・ライスの魅力も含めてホリーのキャラクター自体は物凄くよかっただけに、冒頭の数十分間、彼女の個性や立ち位置を理解し損ねた点が残念でした。 後半でようやく明かされる陰謀の正体もよく分かりませんでした。行政と企業が癒着して公害問題が揉み消されているという事実を知ったアメリアが、その癒着を告発する内容のポルノ映画を作ったら、関係者及び映画そのものが抹殺されたという話なのですが、癒着を示すズバリの証拠の争奪戦ならともかく、誰からも見向きもされないようなポルノ映画を人殺しまでして葬り去ろうとしたことの意味が分かりません。人殺しをしたせいで、逆に騒ぎが大きくなってないかと。特に黒幕のジュディスはアメリアの母親であり、娘の命を奪ってまで映画を隠滅する必要があったのだろうかと、本当に不思議で仕方ありませんでした。 [ブルーレイ(吹替)] 4点(2017-08-11 15:27:59)(良:2票) |
4. 7つの贈り物
オチは衝撃的だし、オチに至る過程も丁寧に整理されており、全体的によく作り込まれた作品だと思います。ただし、ドラマとミステリーの両立には失敗しています。ラストまで目的が不明であることから主人公への感情移入が難しく、中盤のロマンスなどは計画として仕組まれたものなのか、自然発生的に湧き起った感情によるものなのかが初見では判別できないために、この展開をどう受け取ればいいのかに戸惑いました。 これならば主人公をエミリーにしてしまい、自分に親切にしてくれる胡散臭い男がいて、その正体や目的を観客とともに探るという切り口にした方が分かりやすかったのではないかと思います。 [インターネット(字幕)] 4点(2017-01-07 04:11:33)(良:1票) |
5. ナイトクローラー
《ネタバレ》 そもそも大きいジレンホールの目が9kgの減量によりギョロギョロ感倍増で、ファーストショットの時点で「何だかアル・パチーノっぽいな」と感じたのですが、あることないこと大袈裟にしゃべりまくる様や、やたら態度がデカくてハッタリと勢いでのし上がろうとする様はまんま『スカーフェイス』のトニー・モンタナでした。本作は、一義的には俗物的な犯罪報道を批判する内容となっているのですが、それと同時に悪い奴が普通ではありえない方法でのし上がっていく様を楽しむピカレスクロマンでもあり、邪魔者を排除しながら目的達成に向かって突き進む主人公の活躍には、爽快感すらありました。しがらみの中で生きる社会人ほど、自由自在に動き回る主人公の姿にある種の憧れを抱き、有言実行で成功を収めるその凄さを実感できるのではないでしょうか。 この主人公、とにかく行動が早いことに感心させられます。報道パパラッチという職の存在を知り、儲かりそうだと感じた翌日には資金調達をしてカメラと無線受信器を入手。最低限の装備を整えるとすぐに街へ飛び出し、他のパパラッチに仕事の進め方や報道機関への売り込み方法を聞きながら事業化を進めていきます。このフットワークの軽さは社会人として見習いたいものです。取引先であるローカル放送局に入るや否や、決裁権を有し、かつ、自分と同様の価値観を持っていそうなプロデューサーを即座に見つけ出し、その人物の抱え込みに入ります。90年代には美人女優として多くの大作に出演していたレネ・ルッソ(監督の奥さん)が、歳の割に派手でケバケバしいプロデューサー役を熱演。この人も、若い頃には手段を選ばず何でもやってこの地位を得たんだろうなぁという匂いをプンプンさせています。そんな二人の出会いの場で主人公が披露するのはネットや自己啓発本で得たような浅知恵なのですが、ターゲットであるプロデューサーも彼と大差ないレベルの人間であるためか、二人の会話はそれなりに噛み合うのです。 そんなこんながありながらも主人公は着実に成果を挙げていき、会社はそれなりに軌道に乗りますが、従業員に対する文句は多いが給料は少ないというブラック企業ぶりが笑わせます。従業員に向かって「なんで俺がこんなに成功したか分かるか」と、説教とも自慢話とも付かない講釈を垂れ始める様は、典型的なブラック企業の経営者なのです。報道パパラッチという一般的に馴染みの薄い業界を扱いながらも、多くの人がイメージしやすいワンマン経営者の話としてこれを描いた点に、本作の優位性があります。 また、本作は『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』でオスカー受賞歴もあるロバート・エルスウィットが撮影監督を務めているだけあって、低予算の割にはビジュアル的にも見応えのある作品となっています。犯罪現場を臨場感たっぷりに映し出し、見ている我々も主人公と同じく倫理的な罪を犯しているという感覚を抱かせるのです。主観で描かれるクライマックスのカーチェイスは、同じくジレンホール主演の『エンド・オブ・ウォッチ』をも上回る迫力であり、さらには「もの凄い特ダネを入手した」という高揚感もプラスされ、映画全体が異常なテンションで疾走します。 [ブルーレイ(吹替)] 7点(2016-03-04 15:57:20)(良:1票) |
6. ナチュラル・ボーン・キラーズ
本作の脚本を巡ってストーンとタランティーノが激しく対立したことは有名な話ですが、主な改変部分とは、ミッキーとマロリーの生い立ちをストーンが書き加えたという点だそうです。そもそもミッキーとマロリーとは、『トゥルー・ロマンス』の脚本執筆中に、その主人公・クラレンスに影響を与えた人物としてタランティーノが創作したキャラクターでした。クラレンスは、クールな殺人鬼カップルを以前にテレビで見ており、その模倣をする形で自分もアウトローの道に突っ込んだという話にするつもりだったとか。その後、ミッキーとマロリーのエピソードが大きくなったので『トゥルー・ロマンス』からは完全に切り離され、『ナチュラル・ボーン・キラーズ』として一本の脚本にまとめられました。以上の成立過程に起因してか、本派生企画において、タランティーノはミッキーとマロリーの実像ではなく、メディアを通しての虚像を描くということを作品の骨子としており、基本的にはメディアによって取り上げられる姿のみでミッキーとマロリーの物語を構成しようとしていました。しかし、ストーンは彼らの生い立ちまでを描くことで、根本的な作品のあり方を変更したのです。タランティーノは怒って当然ですね。。。 以上の改変は是か非かというと、私は非だったと思います。タランティーノの脚本は、殺人者がメディアによってロックスターのように持ち上げられる様の異常性を訴えたものでしたが、ストーンの改変によって暴力の連鎖という主張が追加されたため、全体として何を言いたいのかが分からない映画になってしまったからです。カマキリが獲物を食べる様から原爆投下まで、実に多くのイメージが作品全体に散りばめられており、本作においてストーンは暴力に関する普遍的な考察をしようとしています。しかし、タランティーノが作り上げた脚本には異常者しか登場しないため、そのドラマから普遍性を見てとることはできません。このことが、作品全体を意味不明なものにしています。。。 ただし、既存のどの映画にも似ていない本作の斬新な手法の数々には、大いに評価の価値があります。当時、世界最高の映画監督だったストーンの発想力はタダゴトではなく、本作を忌み嫌っているタランティーノ自身が『キル・ビル』において本作の手法を取り入れたという事実が、その影響力の強さを物語っています。 [DVD(吹替)] 7点(2014-01-06 01:47:55) |
7. ナイト&デイ
かねてより、私はトム・クルーズの爽やかスマイルの裏側に何か不気味なものを感じていたのですが、どうやらトム自身にもその自覚はあったようで、本作はそんなダーク・トム・クルーズの魅力を目一杯活用した作品に仕上がっています。どんな窮地に陥っても輝くような笑顔を振りまくトム・クルーズは、もはや狂人一歩手前。トムの異常なテンションと呼応するかのような気の狂った見せ場の数々も見応え十分であり、本作の前半部分はアクションコメディとして最上級の完成度だったと思います。同時に、キャメロン・ディアスは年齢を感じさせない愛嬌を振りまいており、『オーシャンズ13』以来久々のスター映画としても十分に楽しめました。。。 ただし、後半に入ると映画は急速に失速します。お祭り映画に終始すればよかったものを、マジメなスパイ映画としてまとめようとしたために全体のバランスが崩れてしまったのです。もっともマズイと感じたのは、敵方の殺し屋がむごい死に方をする様をはっきりと映し出してしまったことで、このことによってアクションから痛快さが失われてしまいました。この手の映画では敵の死などは記号に過ぎないのだから、もっと割り切った演出でよかったと思います。 [映画館(字幕)] 6点(2012-10-09 23:00:30)(良:1票) |
8. ナショナル・トレジャー/リンカーン暗殺者の日記
「インディ・ジョーンズ」も「ハムナプトラ」も古代エジプトに題材を求める中で、アメリカ合衆国の浅い歴史からアドベンチャーを捻りだすというこのシリーズの基本コンセプトは嫌いではありません。また、過去のアドベンチャー大作が古き良き時代をその舞台として設定していたのに対し、「現代を舞台にアドベンチャーをやったら?」という本シリーズの思い切った切り口も悪くはないと思います。撃ち合い、殴り合い、殺し合いはなく(主人公は銃を持っていない)、あくまで頭脳を駆使した謎解きと追っかけのみという見せ場作りも、その意気込みは買いましょう。。。 ただし、製作陣が自らに課した厳しい条件に耐えられるだけの脚本を準備できていないことが、本作を不幸にしています。謎は魅力的ではないし、謎解きにも面白みがありません。先祖の汚名を晴らすことと、幻の黄金郷を発見することがどうやったらイコールになるのかがまったく腑に落ちないし、ニコラス刑事がブツブツつぶやくとすぐに謎が解けてしまうというマヌケな謎解きにも、途中から付き合いきれなくなります。英国女王の執務室に潜入する、合衆国大統領を誘拐する、歴代大統領のみしか見ることを許されない極秘文書を覗き見る、やってることはとんでもないのに、どれもこれもがアッサリと成功するためにまったく見応えがありません。せっかくの見せ場が見せ場として機能していないのです。キャラクターの動かし方もうまくなくて、エド・ハリス演じるウィルキンソンは場面によって別人かと思うほど性格が安定していないし、ハーヴェイ・カイテル演じるセダスキーはその存在自体が不要。今回はゲイツの助手のライリーにスポットが当たっているものの、残念ながら彼の成長物語にはなっていません。もみあげのないニコラス刑事の髪型は気持ち悪いし、ダイアン・クルーガーは相変わらず学者には見えません。テンポは悪くないので見れない映画ではないのですが、一方問題点をここまではっきりと指摘できる映画も珍しく、良い評価のしようのない仕上がりとなっています。 [DVD(吹替)] 4点(2011-12-05 01:16:21) |
9. ナイト・ウォッチ(2004)
原作がロシアではベストセラーであるためか、この映画版の観客も話や設定を知っているものとして扱われているようです。なので細かい説明は一切なしで、映像のみが最初から最後までフルスロットル。見ていて疲れたし、仮に難解な物語であれば読み解く楽しみがあるものの、ありきたりで難しくもない話の説明不足な部分を脳内で補完してあげる作業は、途中でバカバカしくなります。物語は完全にX-MENなのですが、本作のキャラクター達にはX-MEN達のように個性的な能力がありません(設定上は何かあるのかもしれませんが、映画版を見る限りでは目立った特徴がありませんでした)。ナイトウォッチ達はグループで自警団活動を行っているものの、戦っているのはもっぱら主人公のアントンのみ。他のメンバーにはどんな特殊能力があって、グループ内でどんな役割を果たしているのか、その力量はどう違うのかが一切不明。訳ありげに登場したフクロウ女に至っては、本当に何もせずに映画が終わってしまいます。唯一、その能力について説明のなされた主人公の能力は「未来を見通せる」というものでしたが、彼は彼でその能力がまったく戦いに活かされていません。映像は独創的でカッコよく、VFXの使い方も悪くないため、脚本にもうちょっとこだわれなかったのかと思います。そんな感じでキャラクターの個性すら描ききれていない脚本ですから、物語の核心に迫る後半になると完全にグダグダに。「災いを招く乙女」に「偉大なる異種」とキーパーソンを二人も出して来て、それぞれの物語が交互に描かれるため、面白さ2倍どころか緊張感が途中でぶつ切り状態となるのです。3部作の1作目ということですが、続編はもういいかなという感じです。 [DVD(吹替)] 4点(2010-07-05 21:09:35) |
10. ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド ゾンビの誕生
文句つけろと言われてもどこにもつけようがないほどの傑作です。ゾンビの生態がこの一本ですでに完成されていること、それだけでもスゴイことなのに、さらにつっこんで人間の業までテーマにしていること、密室サスペンスとして完全無欠の完成度であること。ホラー映画としては今のところ最高の傑作でしょう。低予算であることもかえっておどろおどろしい雰囲気に貢献しており、傑作であることを運命付けられたような映画です。そんな傑作なんですけど、DVDで30周年版を見ると、そのあまりのヒドさに愕然としました。新撮部分がまったくの意味不明で、しかもいらん音楽までつけられてる始末。何がしたくて作ったバージョンなのかがサッパリわかりませんでした。とはいえ、このバージョンには日本語吹き替えがついており、やっぱり捨てがたいDVD。オリジナル版に吹き替えつけてくれれば完璧なんですけどね。 9点(2004-08-19 01:04:14)(良:1票) |
11. 9デイズ
《ネタバレ》 最初から最後まで止まらないクリス・ロックのマシンガントークに疲れました。面白黒人という設定は必ずしも悪いわけではないのですが、冗談を言ってもいい場面とシリアスに徹するべき場面の区別がまったくなされていないために、「なんでこんな時におしゃべりを続けるの?」と度々不快な思いをさせられます。また、彼のアマチュア感覚が最後まで抜けず、エージェントとしての活躍を見せる場面がないことにも違和感を覚えます。主人公が少しずつ成長を見せ、クライマックスで大仕事をやってのけるというのがこの手の映画の常套手段ではないのでしょうか。最後の最後まで私情しか考えず、核爆弾がカウントダウンをはじめても「彼女を探す!」と言い続けるに至っては本当にイライラしてきます。主人公のみならずCIAの描写もお粗末で、国防の最前線に立つ彼らが無知な素人に悪態つかれっぱなしでは格好がつきません。プロとしての凄まじい技量を披露したり、窮地に陥った主人公の盾となってミッションに対する覚悟の違いを見せつけるような場面は必要だったと思います。そっくりさんを潜入工作員に仕立て上げるという物語では「アサインメント」という映画がありましたが、あちらでは工作員の世界をストイックに描写することで映画全体が引き締まり、主人公のドラマも充実させることに成功していました。そんな先例と比較すると、本作はすべての要素が緩いために見ごたえのない作品となっています。。。ブラッカイマーは「ビバリーヒルズ・コップ」の成功をもう一度と90年代以降も黒人主演のアクションコメディを何本か手掛けているのですが、クリス・ロックやマーティン・ローレンスは、エディ・マーフィーと比較するとスターとしての力量がまったく及んでいないように感じます。エディの場合はベラベラと冗談を言っていてもそれほど邪魔には感じなかったし、軽口を止めて真剣な顔をした瞬間に映画全体がグっと引き締まっていました。彼には映画全体の空気を支配するような並外れたオーラがあり、シリアスな場面に対応できるだけの演技力が備わっていたのです。一方ロックの場合、コメディアンとしての資質はエディと同等であっても基本的ににやけ顔であるためシリアスな場面に対応できないし、演技の引き出しも少ないためにコメディ部分でしか個性を発揮できません。彼にエディの代わりをさせようとしたこの企画は、根本的に誤っていたと思います。 [DVD(吹替)] 4点(2004-07-05 11:39:46) |