1. 夏へのトンネル、さよならの出口
《ネタバレ》 ネットで評判が良くて久々劇場で観ました。 良かったです! 今年のみずみずしい青春もの系映画の一つと言っていいと思います。 個人的には、なんて言うんでしょう、夏へのトンネルって、要するに青春期の死のメタファーみたいなものと思って、いっしょに向こうに行こう、というのはいっしょに死のうってことだと思うんですけど、あの頃ってなんか恵まれて自信満々な人でもない限りは、自分はまだ何者でもなく、自分には価値はなく、幸せになる資格がなく、変に何者かにされ幸福になってしまうくらいならすべてが破壊され絶望の底に居た方がマシだ、みたいな感覚にとらわれることがあるんじゃないかと思うんですけど、そのかつての自分に主人公(男性)がすごい刺さる感じでした。むしろ、自分を捨ててでも得るべき明確で立派な理由が正当化されてある分、主人公の方がかつての何者でもなかった自分より幸せではないのか、とか思ってしまったり。 あと、主人公2人の関係があくまで対等なのがいいと思いました。 「こんなところに居たら家族が心配するよ」「自分には心配してくれる家族なんてないのよ」「それはとてもいいね」って共感するのが、見ててすごくいい。 2人とも重い過去を背負っていてその解決のために、トンネルの謎を解明しようとするのですがあくまで「共同戦線」であって、たまたま同じ目的のふたりがそこにいたので効率化のため協力し合うが、別に相手がいなかったら自力で何とかしていただけであって、おたがいあくまで自分の問題は自分で解決しようとしていて、人をあてにしてないところがいい。 で、2人の道は、トンネルとは何か? の解釈の差によってもう価値観の違いが歴然としていて一時的にここで協力関係になりはするけれども、将来枝分かれしていくであろうことは最初から暗示されていて、主人公(男)の方はすでにわかっていて、だからそれぞれ一人でやってけるので、枝分かれしてもあと腐れなく別れられる(本当か?)。 それで、最後のオチは割と王道的安直で、最近流行りの話なんでしょうが、別に世界を変えようとかそんな志はなく、ただ身近にあるものを大切にしようそれでいいんだ的オチに落ちるんですけど、それって、難しい問題があった場合に目をつぶって放置する「『逃げ』の解決」(そもそも、現状のままでいいっていうことは解決すらしてないってことだけど)になってしまう危険をはらんでいて、だからそういう話は「作中何となく納得させられてしまったけど、よくよく考えるとそれって何も解決してないひどい状況じゃない?」って終わった後に冷静に考えて我に返ることがあるのですが、本作は、2人はお互い精神的に成長したので、現状の現実は何も変わらず問題山積だけれども、きっと何とかやってけるだろうと期待できると思ったわけです。なので、別に「まだ」事実の問題が解決していないだけであって、未来は希望に満ちていると信じられる。 主人公(男)の方の成長の部分は個人的にすごく共感したのですが、あまりに重くて切実な問題があると周りが見えなくなっていて、目的さえ達成できればあとはどうでもいいと捨て鉢になっているというか、周りを見渡す余裕がないのでそれしか考えられなくなってると思うわけですよ。それが、なんとか目的を達成して失われたものを取り戻して、精神的安寧が得られたからこそそこで初めて、心に余裕をもって想像力を働かせられるようになり、その失われたものが本当に存在するのであれば、主人公(男)が普通に生きて身近なものを大切にしていくことを喜ぶであろうと、考えられるようになるわけです。 それで最後の決断を下す手がかりが「これまでの経験」で、視聴者が本作を見ることで主人公と共に体験してきたすべてのもろもろのことがその決断に対して、ああこれまで見て一緒に体験してきたのでそりゃそうするわと説得力をもって感じられる(非常にベタでストレートですが)。 そんな感じに、非常にうまい、パズルのピースをきっちりはめるみたいな絶妙の構成の作品と思いました。 あと、エンドの「期間」については、ギリギリそういうのもあり得るかなあという現実的な許容範囲におさまっており、そういうところも含めて非常にうまい作品と思いました。 そんなところです。 [映画館(邦画)] 8点(2022-10-09 11:51:57) |