1. ニトラム/NITRAM
《ネタバレ》 「僕は、僕以外になりたかった」 先天的な軽度の知的障害を持ち、時折、強度行動障害を引き起こす青年の一挙一動に、 当事者・関係者ならではの胃のキリキリ感を思い出す。 衝動的な行為の数々に発達障害も持っていたと思うが、 早い段階で大規模な医療機関で治療を受けていれば症状を低減できた可能性はあれど、 舞台になった'90年代当時、その概念が今ほど定着しておらず、閉鎖的なコミュニティ故に周囲に理解者もいない。 両親は青年の対応の困難さにどこか諦めもあったかもしれない。 同じ孤独を抱えた元女優のヘレンによる無償の愛情によって、ひと時の安らぎを得られたと思うが、 仮に彼の悪ふざけによる交通事故死がなくても、二人の関係はいつか破綻していただろう。 それだけ彼は社会に害悪をなすシステムクラッシャーでありながら、 自分自身を上手く制御できず、一体どうすれば状況をより良く変えられるのかすら分からない。 青年は11歳ほどの知能しかなかったものの、 本名を逆さに読んだニトラムがシラミの卵(NIT)と掛けて軽蔑されていることを知っているし、 無免許ながら車の運転ができるし、単身でハリウッドに旅行することも、ライフル射撃もできる。 外見では分かりづらい"はざまのコドモ"ならではの疎外感が不意に差し込まれる映像美によって残酷に際立つ。 ボタンの掛け違いによる不運が次々に起き、家族とすれ違い、避けられない最悪の結末へ突き進む無常さ。 事件後、オーストラリアで厳しい銃規制が行われたそうだが、銃がなくてもやらかす可能性はあった。 なるべくしてなった事件のニュースの音声を母親は聞いているのだろうか。 上記の不運が重なることがなくても、彼が救われる要素はどこにもなかっただろう。 “ニトラム”という器から逃れられず、そういう存在に生まれてしまった男の悲劇。 では、どうしたら良かったのか、という重い自問自答が続く。 結局、最後は座敷牢に隔離か、現世からの排除なのか… [インターネット(字幕)] 7点(2024-07-12 21:44:52) |
2. 2001年宇宙の旅
《ネタバレ》 20年ぶりに視聴。 たゆたうような眠りを含めて全身で体感する映画。 現在の観点では若干の古さは感じても、色褪せない魅力を放つセットと世界観、 現実味を帯びてきたAIへの警鐘、そして人類の新たな可能性── 分かりやすさはないものの、ゼロから作り上げたキューブリックが 未来のフィルムメーカーたちに与えた影響は非常に大きい。 彼にしか作れない、そして誰もその中に入れない聖域を作り出した。 [インターネット(字幕)] 8点(2022-09-24 14:37:27) |
3. 日日是好日
劇的な展開は起きず、それすら台詞だけで済ませる。映画のほとんどを茶道を通して登場人物の機敏な心情を代弁するストイックな演出が却って効果的だ。ゆったりとした流れの中でどこか緊張感があり、凛とした美しさが漂う、日本でしかできない繊細な表現を久々に見た。若々しい娘から精神的に成熟していく黒木華は好演だが、場の空気を一気に自分のものにする樹木希林の自然体溢れる存在感が圧倒的。 [地上波(邦画)] 7点(2020-09-25 22:10:29)(良:1票) |
4. ニンジャバットマン
原形なんてお構いなしの好き放題でカオスな様相ながら、ちゃんとバットマンしている。 ある程度の基礎知識があることが前提だが、ジョーカーもハ―レイ・クインも活き活きとしていて魅力的。 反面、85分で収めるために他のヴィランたちと、 バットマンをサポートするロビンたち並びに忍者軍団の存在が最低限活躍させた程度で薄く、 映像表現が大胆で凄みがある分、ストーリー的にご都合主義や物足りなさを感じてしまう。 [DVD(邦画)] 5点(2018-10-29 21:04:38) |
5. 2046
《ネタバレ》 ウォン・カーウァイの集大成であり、『欲望の翼』『花様年華』に続く3部作の完結編でもあり、そして記念碑的迷作でもある。前2作にリンクする要素があるため、既に鑑賞していた自分はそれほど混乱しなかったが、ただ右往左往して結論を出せない主人公が己の苦悩に酔っているだけだった。前作でしっかり描いている以上、何らかの形で決着をつけて欲しかった。気負いすぎて、じっくりと煮込み続けた果てに取り返しのつかないものが出来てしまった感じが残る。ちなみに当時予告編でバンバンやっていた近未来SFとキムタク要素はほとんどない。 [DVD(字幕)] 4点(2018-05-03 23:13:48) |
6. 憎しみ
《ネタバレ》 希望と豊かさを求めてフランスに来たはずが、社会の隅に追いやられ、親の貧困を引き継いた若者たち。いつ放たれるか分からない弾丸のように、鬱屈が全編を充満している。今や移民抜きでは国家が成り立たないのに、「郷には郷に従え」の極端な解釈が断絶を発生させる矛盾。発展のため、都合の良いように扱い、切り捨てていく白人主体のグローバル社会のなれの果てが今日も亡霊のようにフランスに憑依しているのは周知の通り。日本も決して絵空事ではないのだ。幸せになるためが経済のためにすり替わっていないか? 当時25歳のカソヴィッツ監督による瑞々しさが、同世代の若者を覆っている残酷さをより強調させる。 [ビデオ(字幕)] 6点(2017-09-11 19:07:49) |
7. ニュー・シネマ・パラダイス
"映画の魔法"というものがあるなら、正にこのことだろう。数少ない村の娯楽であり、情報源であり、外界への扉でもあった映画館と、映画と共に育った村人たちの悲喜こもごもが一体となった共有感が郷愁としてスクリーンに宿っているようだ。娯楽の多様化で時代に取り残され映画館が廃れていくさまは、テレビ、ビデオ、DVD、ネット配信といった飽和した映像の歴史そのものである。しかしながら、如何に形態が変わろうとも、良い作品は何十年も残る。たとえミーハーが群がるだけの娯楽大作だとしても、一部の批評家しか絶賛しない高尚な芸術映画だとしてもだ。全ての映画に捧げた例の結末は反則としか言いようがない。 [DVD(字幕)] 8点(2017-07-03 19:33:31) |
8. ニュー・シネマ・パラダイス/3時間完全オリジナル版
《ネタバレ》 監督からすれば強い思い入れがあったのだろう。その思いが強いほど、説明過多に詰め込まれたエピソードの数々が映画全体のバランスを破壊し、集束しないままラストの感動がぼやけてしまう。ストーリー的にある意味リアルかもしれないが、キスシーンを検閲でカットするように行間があるからこそ、いろんな解釈が生まれて面白いはずなのに。劇場公開版の感動を無に帰してしまうほどの破壊力で、逆に完全版を見ていたらダメージが少なかったかもしれない。良レビューに「大は小を兼ねない」というコメントがあったが、長ければ良いって訳ではないことをこれほど実感したものはない。 [DVD(字幕)] 5点(2016-11-10 22:11:32)(良:1票) |
9. ニーチェの馬
ミニマリズムの極致。色のない荒涼な写実主義絵画を延々と眺めるようなもので、ギャラリーに歩み寄らず(悪く言えば媚る)、むしろ「無から何かを感じ取れ」と歩み寄らせるスタンスだから、粗製濫造の娯楽映画に浸かりきった大衆が拒絶するのも無理はない(仕事に疲れ切って何も考えたくないから、劇中の父娘と同じようでダブる)。反面、今日評価されている芸術に対して、何も疑わず追従する大衆もいるという矛盾。ゼロベースから形を変えて、後世に影響を与えているのならその価値はあるかと。物質主義も精神主義も棄てた先にある答えを、後世の人たちが見つけるかもしれない。そういう意味でのタル・ベーラの遺作。 [DVD(字幕)] 5点(2015-12-07 19:11:50)(良:1票) |
10. 21グラム
単純で辛気臭い話を無意味に時間軸シャッフルして高尚に見せても、ただただ分かりづらく下品にしているだけ。話が飛びに飛び、逆に俳優陣の熱演に集中できなかった。変に高尚にしようと意識しているのがイニャリトゥの悪いところ。 [DVD(字幕)] 4点(2015-04-09 19:49:13) |