2. ALWAYS 三丁目の夕日
演出は野暮ったく,話の見せ場もミエミエ。おまけにオムニバスもどきの構成は,一本筋の通った物語を作れなかったことの裏返しともとれる。そう,もっとはっきり言うと,そのような映画は大嫌いなはずなのに,レンタルしてきたDVDを返却するまでに三回も観てしまった。そして三回とも泣いた。しかも同じシーンで(終盤のあそこ……と書けば,観た人なら誰でもわかる)。不思議な魅力を持った映画だと思う。VFXには目を見張るものがあるが,無論それだけではない。私はあの昭和三十年代という時代の残り香をかろうじて嗅いだ最後の世代だが,かといって,過ぎ去ったものへの郷愁に衝き動かされて涙を誘われるほど,まだ老け込んではいないつもりだった。それなのに,冒頭の町並みが映るシーンだけで胸が詰まった。《ああ……なつかしい……》特に,近所の人たちがテレビを前に我を忘れて興奮する光景。これが一番心に残った。本作で展開されるドラマは,現代でも十分起こりうる話である。昭和三十年代という時代設定を絶対条件としなくても,成り立つといえば成り立つ。だが,あの白黒テレビに映る力道山を,老いも若きも男も女も空手チョップを振りながら応援するその姿は,あきらかにあの時代を何よりも正直に映す鏡だと思った。私も確かにそこにいたのだと思うと,懐かしさ以上の何かを感じて,またしても胸が詰まるのである。結局のところ,昭和の前半とはどういう時代だったのかということを,センシティブに語る映画は今までなかったような気がする。そのような試みは,本作が初めてではないか。その点をとても評価したいと思います。8点。さらに,久しぶりに邦画で泣いてしまったことに対して,もう1点追加です。 [DVD(邦画)] 9点(2006-06-21 13:40:42)(良:4票) |