1. オープニング・ナイト
《ネタバレ》 これは、もう一つの『黄金の馬車』だ! 役者って、確かに、芸術作品の素材としては、もうこれ以上なく不安定で計算の立たない存在なんだよね。絵画が絵の具を材料として、小説家がペンと紙を材料にして作品を制作するのとはわけが違う。何より生の人間なんだもの。生の人間が素材となって、生の人間の生活を再現する、それが演技。それが演劇。その役者の「もろさ」「危うさ」をとことんまで突き詰めた作品。この息苦しさが演劇。この緊張感が舞台。2時間半、一切無駄がない、大傑作 [CS・衛星(字幕)] 9点(2007-09-02 15:16:29) |
2. 黄金の馬車
《ネタバレ》 この映画、日本初公開以来(といっても、確か90年くらいのこと)、何度見たことだろう。それくらい好きな映画。この夏、また見直してしまった…そして、また、感動。 「舞台と人生はなぜ違うの? 舞台ではうまくいくのに人生では愛を壊してしまう。真実はどこにあるの? どこまでが芝居でどこからが人生なの?」ああ、こんなせりふを聞いてしまっては、もう、震えるしかない。 実人生で自分の居所を見出せなかったカミッラ、彼女が帰るのは舞台の上のみ。舞台の上でしかカミッラは存在し得ないのだ。「さびしいかい?」と問われて、「少し」と答える、ラストのカミッラ(=マニャーニ)の、絶品の表情。 至福! [DVD(字幕)] 10点(2007-08-31 22:12:23) |
3. 鴛鴦歌合戦
ああこの幸せな感覚。こんな映画が戦時中に作られていたなんて。 ものみな歌で終わる。千恵蔵も歌う。志村喬も歌う。志村喬の歌なんて、『生きる』のあの暗い歌しか知らない自分には何とも新鮮だったよ。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2007-07-11 22:41:29)(良:2票) |
4. オーソン・ウェルズのオセロ
とにかく映像が素晴らしい。構図の大胆さ。これは、もう一級品。でも、それだけ。これだけ短くずたずたに切り刻まれてしまっては、シェイクスピアの物語も立ちあがってこないよ。 [ビデオ(字幕)] 5点(2007-06-17 15:01:52) |
5. オセロ(1995)
ケネス・ブラナーはどう見ても善人面なのだから悪人のイアーゴーには向いていない、と私の知人が言っていたが、そんなに私には違和感はない。オセロをねちねちと攻め落とす演技は、さすがだと思う。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2007-06-17 15:00:14) |
6. おかあさん(1952)
《ネタバレ》 田中絹代の耐え忍ぶ演技もさることながら、娘役の香川京子や妹役、甥っ子役の子役たちの演技の豊かなこと。全体的にウェットになりがちな話がそうなるのをギリギリで回避できている。これぞ職人業。例えば、長男の死。重病の長男が病院を抜け出して、母に「どうして抜け出したの?」と聞かれて、「かあちゃんと寝たかったからだよ」と答える。その次のシーンがもう葬式が済んで何日か過ぎたところとなる。みんなが淡々と、葬式のこと、死んだ長男のことを語っている。ああ、この省略の絶妙なこと。しかも、その語り口ゆえに、つい涙腺が緩んでしまう。成瀬映画で思わず涙してしまうとは! (もう一つ、香川京子の、花嫁モデルの試着の場面の可憐なことも強調しておこう。こんな香川京子なら男はみんな惚れてしまうよ。間違いない。) [CS・衛星(邦画)] 8点(2007-03-18 23:20:25) |
7. 女の中にいる他人
《ネタバレ》 よく出来たサスペンス。でも、苦悩する小林桂樹の姿はあんまり美しくない。成瀬には苦悩する女の姿がよく似合うけど、男はちょっと。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2007-03-09 23:58:02) |
8. お遊さま
《ネタバレ》 すっごい面白い! おもだった代表作で溝口健二は知ってるつもりでいたのに、まだまだこんな溝口がまだあったなんて! まず何より、なんとも美しい映像。京都の自然、敷居からふすまから、完璧なまでの調和のある屋内。田中絹代と音羽信子の自然な演技。同じような設定なのに『武蔵野夫人』とはまったく違う田中絹代。こちらの田中絹代はとにかく凛として美しい。それを追う宮川一夫のカメラ。姉妹と男の不思議な三角関係。いや、姉と男が想い合っているのだから、厳密には三角関係は成立しないはずなのだ。だけれども、思いあうふたりが添い遂げられない不条理。愛憎のどろどろ渦巻く世界に決してはまりこむことなく、ひたすら距離を置いて冷静に描き出す監督溝口の演出。感服しました。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2007-02-20 22:32:37)(良:1票) |
9. 王将(1948)
《ネタバレ》 大阪の将棋ものとしてこの作品を現代に引き継いだ『ふたりっ子』とか『王手』を先に観てしまっていたので、原点を改めて確認した形です。しかしこの作品は、現代版を知る目から見てもまったく色あせていませんでした。 大阪で将棋の世界を描くなら通天閣が欠かせない理由を(坂田三吉の名前は知っていたから、知識としては知っていましたが)再認できました。 阪妻のコミカルな演技。伊藤大輔の細かな演出。悪人が誰一人でてこない絵空事の世界でありながら白々しくを感じないのは、何よりこうした丁寧な仕事の賜物なんでしょうね。 すばらしかった! [CS・衛星(邦画)] 8点(2007-02-15 23:55:29) |
10. 女の勲章
《ネタバレ》 突っ張ることが男の勲章ってのは、まあ、空元気だとしてもほほえましい。でも、この映画のタイトルの女の勲章ってのは、はっきり言って皮肉でしかない。これで勲章なのだとしたら、いらないもの。いや、突っ張ってばかりの男の勲章も、ちょっと勘弁だけど。 四人のスタア女優が田宮二郎の色男の欲得づくの口説きに次々と屈していく。ただ、京マチ子でも若尾文子でもなく中村玉緒が一番したたかだったのは意外だったけど、逆に言えば、玉緒ちゃんがすべてお見通しだったことは救いなのかも。みんながみんな田宮二郎にだまされたままだったら、いかにも救いがないもの。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2007-02-13 23:26:29) |
11. お琴と佐助(1961)
先に同じ原作で『讃歌』(新藤兼人監督)という凄い作品を見てしまった後だったので、正直期待していなかったのですが、どうしてどうして。これもなかなか。画面の隅々まで行き届いた美術センス。さすが衣笠貞之助。そして凛とした山本富士子。それに尽きるかな。もともと目のきれいな女優さんで、盲目のこの役はどうかなと思ったのだけど、これはこれで独特の色気が出てるからすごい。こうなると、これもこのサイトでは評判のいい、同じ原作の山口百恵版も見比べたくなる! [CS・衛星(邦画)] 7点(2007-01-25 23:17:12) |
12. 女の一生(1962)
増村保造の映像美。これに尽きます。ワンカットごとの構図、光と影のバランス。もう映像的にはカンペキ。ため息すら出ますよ。減点は、もともとが長大な舞台劇の原作を無理に90分に圧縮してしまったために、どうしてもダイジェスト版のようなせわしさを感じてしまう点。この映像美なら、私は、3時間の上映時間であってもただただ身を任せてみたいくらいなのに。ほんとに勿体ない! 増村保造は、私の見た範囲でも、『華岡青洲の妻』といい『千羽鶴』といい、文芸モノでもキッチリ仕事が出来る監督ですね。(『音楽』みたいな外れもあるけど(苦笑)。) 娯楽も出来て芸術作品もこなせる。昔の人の職人技には心から感心してしまいます。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2007-01-04 00:11:26) |
13. 婦系図 湯島の白梅
文句ない衣笠貞之助の映像美の世界。何と言っても凛とした山本富士子の美しさに尽きる。惜しむらくは、フィルムの保存状態が悪く、音声が乱れていて、また、映像自体もだいぶ色あせてしまっていること。全編にあふれる独特の緊張感は、それでも伝わってきたが、もっと万全の保存状態で見たかったと思わざるを得ない。これはもしかしたら暴言かもしれないが、色彩感覚に優れた衣笠監督だからこそ、これが白黒作品として優れていることを認めつつ、カラーで撮らせてあげたかったと心から思う。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2006-12-31 01:16:55) |
14. 婦系図(1962)
冒頭の数分のこの様式美。三隅研次の美学が凝縮されている。タイトルバックの裏ですらストーリーが展開する、ある意味省略の美学。だから、一瞬たりとも見過ごせない。この監督の映画はいつもそう。プログラム・ピクチャーの作家の鏡だ。 別れの湯島の白梅の場面の美しさは、もう、筆舌に尽くせない。 この作品に関しては、三隅は師匠の衣笠貞之助版を超えていると思う。(でも衣笠版もいいよ。) [CS・衛星(邦画)] 9点(2006-12-24 23:44:24)(良:1票) |