1. 八甲田山
青森や東北地方出身なのに、なぜか東北なまりのない標準語をしゃべる主役級のスター俳優たち。高倉健演じる徳島大尉が滝口さわ(秋吉久美子)に敬礼をするシーンは狙い過ぎのファンサービスにしか映らず、感動というよりむしろ興醒め。このようにスター俳優たちのヒロイズムを前面に出すと、本来作品が放つテーマ性から遠ざかってしまいリアリティも薄くなる。というものの、雪が吹きすさぶ厳冬の雰囲気描写もまずまずで、しかも史実を基にして作られているだけあり胸に迫ってくるのもまた事実。監督は森谷司郎で、「日本沈没」「動乱」など大作モノを数多く手掛けているわけですが、どれもみな商業色は強いものの最後まで飽きずには見せてくれる。 6点(2005-01-07 22:42:50) |
2. 張込み(1958)
刑事という職務上のひとつである“張込み”をドキュメンタリータッチで描いており、まるで刑事達の日々の仕事ぶりを見ているかのようである。捜査そのものは強盗殺人事件の共犯者を追っているわけだが、その張込みがリアリティ充分で、事実このような地道な仕事の積み重ねが犯人逮捕に繋がるのであろう。しかも犯人側にもちょっとした人間ドラマがあり、当然刑事側にも普通の人間と同様に考え事や悩みごとがある。またこの映画では、当時の庶民の生活模様をかなり意識してモノクロ映像に収めているものと思われる。戦後間もない夜行列車内での風景、昼下がりの地方の風物詩、人情味ある旅館の様子などなど…この辺りなかなかの雰囲気描写で懐かしい日本の盛夏を味わえる作風になっている。《ネタバレ》ラスト、大木実演じる刑事柚木が犯人石井(田村高廣)に向かって言う「今日からやり直すんだ」。 この言葉、fujicoさんの仰るとおり犯人だけにではなく、さだ子(高峰秀子)を通じて女心というものを知り結婚を決意した自分自身にも言い聞かせている。この佐賀での一週間は、犯人はもちろんのこと柚木にとっても人生のターニングポイントであり、東京へ向け折り返し出発する汽車がその事を力強く訴えている。監督野村芳太郎の演出が冴えるサスペンスドラマの名作です。 9点(2004-11-13 16:19:18)(良:1票) |
3. バトル・ロワイアル
近未来の日本、BR法とやらが発動される中、中学生たちが最後の一人になるまで無人島で殺し合いをさせられるという。アイデアそのものからして、馬鹿馬鹿しいほどの荒唐無稽。(何で国家が少年たちに殺し合いをさせるか。誰が大人の言いなりに仲間どうし殺し合いをするか。) 話題騒然の問題作。どんな題材でも客さえ入れば良いという製作側の儲け第一主義が透けて見え、これが一番イヤらしい。が、しかし監督は鬼才深作欣二。そんな過激な企画ものであるにしろ、見る者に何らかの生きざまというか死生観を提示してくれるのではと思いきや…。飛び交う台詞もテレビのドラマ並みで、“ハッ”とするメッセージもとくに見当たらない。それでは映画そのものの出来はどうかと言うと、これが良いとは言えない。個々のエピソードのまとまりが悪く見づらい。ラストもやけに冗長だ。結局のところ、過激を売りにしたバイオレンス・ムービーの凡作にしか映らなかった。 4点(2004-08-30 13:30:28) |
4. バーバー
洗練されたモノクロ映像にカメラワーク、ブラックな笑いを誘う人物描写、風刺を利かせた巧みな語り口などなど、いかにもコーエン兄弟らしい円熟期の一本、というところか。とりわけ、読めそうで読めない筋書きがおもしろく最後の最後まで観客を飽きさせない。ところで、寡黙でクールな主人公を好演したビリー・ボブ・ソーントン。煙草を本当に旨そうに吸うので禁煙中にもかかわらず、「まぁ一本ぐらい…」とつい自動販売機に足を運んだトホホの人がいたのではないだろうか。すると本作は、禁煙中の方にとってちょっと罪な問題作? 7点(2004-08-24 11:31:49) |
5. 橋(1959年/ベルンハルト・ヴィッキ監督)
少年達は愛国心と責任感から生まれ育った愛する家族のいる町のため、米軍の攻撃から懸命に橋を守り抜こうとする。子供扱いされるのを嫌い、早く祖国のため役立つ人間になりたいと願う。ましてや男子たるもの腰抜けの卑怯者だけにはなりたくない。愛国心を煽るプロパガンダ教育も行われたと思うが、当時少年達がこのような考え方を持つのはごく自然であったと思われる。しかし戦場では壮絶な殺し合いが繰り広げられ、敵味方のそのほとんどが即死か苦しみ悶えて死んでいく。周りの大人達は誰もこんな事は教えてくれないのだ。ところで、この作品での戦闘シーンは独特の色彩を放つ。とくに、重い金属音を響かせ米軍戦車が現われるまでの緊張感は特筆もので、後の「プライベート・ライアン」でも利用されるほど。また、敵である米兵が少年達に「戦争は遊びじゃない」と叱りとばすシーンも印象的だ。戦場を実際に体験した時にはもはや手後れで、死ぬか生き残るかの二つにひとつ。地獄を体験するには余りにも幼すぎた。ただ泣きじゃくりながら母のいる町へと歩いてゆく少年の姿が、戦争の悲劇性を切々と訴えている。名作です。 9点(2004-07-29 10:25:10)(良:1票) |
6. ハンバーガー・ヒル
誤認による機銃掃射で味方を一掃するというショッキングなシーンもあり、壮絶な戦闘シーンの連続で見る者を圧倒させる。さらに、映像を通して伝わってくる強烈な異臭が鼻をつんざくわで臨場感も充分過ぎるほど。ただ、このドキュメンタリータッチの戦闘シーンが終盤まで延々と続くわけだが、やや起伏に欠ける。しかも同じベトナムを舞台としたアカデミー賞受賞作品「プラトーン」の後発ということもあり、扱うテーマは違うものの陰に隠れてしまい何とも分が悪い。無名の新人俳優たちを起用し、群像劇風に仕上げたのは悪くはないと思う。しかし記憶に残る戦争映画を目指すのなら、誰か主人公を軸に添え、その人の視線を通じドラマチックに展開させるという手法の方が良かったのかもしれない。と言うものの、若き無名兵士たちの悲惨さを描いた戦争映画としては充分秀作レベルには達しており、監督アーヴィンにしてみれば大健闘なんですよね本作は。 8点(2004-06-14 11:22:04) |
7. パラサイト
本作の様な宇宙人侵略もので、人間に化けたり人間をコントロールしたりするというB級SFものは昔から数多く、否クサるほどある。またかって感じで、どうにもこういうネタはノリ切れず、俳優達が真顔でエイリアンを演じるとおかしくて笑ってしまう。《ネタバレ》ただ、この映画で良かったのは、親玉モンスターを具体的に登場させラストをそれなりに盛り上げたこと。「物体X」張りの人面モンスターもウケたし、監督ロバート・ロドリゲスのブラックユーモア調の演出も確かなので、B級ものとしては上出来の一本カナ。 5点(2004-01-31 11:23:43) |
8. π(パイ)
数字・数学が常に絡む展開なので、理解しづらく難解に映ってしまう。しかもコントラストを利かしたモノクロ映像の中、幻覚なのか現実なのか分かりづらく、サスペンスも加わってくるわで混乱に拍車がかかる。しかし、もう一、二度見直してみるとパズルを解くように骨組みと構成が見えてくる。天才数学者の誰にも分かってもらえない苦悩と孤独。彼をおそう激しい偏頭痛と共に、それらが痛々しいほど見る者に伝わってくる。視点を変えれば、人間として普遍的な苦悩と孤独をシュールな映像で見事表現しきっている異色作と言えよう。デヴィッド・リンチの傑作「イレイザーヘッド」を彷佛させるシュールレアリズムの秀作です。 8点(2003-12-03 16:53:52) |
9. パーフェクト ストーム
《ネタバレ》 大海原で生計を立てる遠洋漁業の漁師達とその家族、そんな彼らをサポートする海難救助隊の誇り高き任務 …海で生きる人々の夢とロマンを感じさせ、題材としては素晴らしい。しかも事実に基づいて作られているという事もあり、クライマックスの大津波と救助シーンはもちろんのこと、終始緊迫感に満ち溢れており見応えは充分。悲し過ぎる結末と葬儀のシーンは一対になっており、亡くなられた人々に対するペーターゼン監督の真摯な姿勢をも感じさせてくれた。迫力ある映像と共に、いつまでも記憶に残る秀作ドラマ。 8点(2003-11-21 12:34:14) |
10. パルプ・フィクション
強烈な印象を放ったタランティーノ監督の前作「レザボア・ドッグス」に比べると、血生臭い描写が抑え気味なので裏社会の人間模様をじっくりと楽しめる展開になっている。しかもブラックユーモアをたっぷりと利かしており、最後の最後まで見る者を飽きさせない。今作もタランティーノらしさが遺憾なく発揮されており、とくに個性溢れる役者達の持ち味を存分に引き出す手腕は見事。さらに、個々のエピソードは前後するものの、脚本が練り上げられているので構成に違和感がない。ただ、下ネタ話しを中心に無駄なシーンが多過ぎるのではないだろうか。この辺りをシェイプアップすると、かなりの長尺を縮められたはず。 8点(2003-11-18 10:45:55) |
11. バーバレラ
エッチ度満点な、おバカ映画の本作はエロいB級SF映画の決定版!…と言うところか。もちろん見どころは、ジェーン・フォンダの冒頭の無重力ヌードを筆頭に、奇抜で色っぽいコスチュームで身を固めた数々のエロチックなシーン。とくに、パイプオルガンでのセックス拷問シーンは見逃せない。また、セットの美術はチープそのものなんだが独創性に溢れており、何が飛び出すか見ていてけっこう楽しい。 7点(2003-08-31 12:46:30) |
12. パニック・ルーム
デヴィッド・フィンチャーに、ジョディ・フォスターという組み合わせで望んだ本作は、期待どうり緊迫感溢れるサスペンス映画となっている …と、言いたいところなんですが…。 う~ん、サスペンスを盛り上げるためか、不自然で強引な展開は否めない。また途中から、お決まりのアクション映画になってしまったのは残念。しかし、ジョディをはじめ、役者陣の必死の熱演のおかげでそこそこ見応えのある映画には仕上がっている。 6点(2003-08-31 12:46:20) |
13. ハリーとトント
自分の人生観をも変えそうな、心に刻まれる素晴らしい作品でした。誰しも直面せざるを得ない“老い”と“死”。それだけではなく高齢化社会、核家族、世代間ギャップ等の問題をも絡めてあるので、いろいろと考えさせられる作品です。今から30年近く経ち、主人公ハリー(アート・カーニー)みたいな骨太で素敵な老人になってみたいと思ったりもするのですが、その一方で自分にはとてもこんなふうには……。ハリーって、憧れの老人像ですね。ストーリーは淡々と進み、アート・カーニーの演技も淡々としたものですが、ネコのトントの死はペットを飼ったことのある者にとって身に詰まされるシーンでしょう。なんとなく救われそうな余韻を残したエンディング。答えはやはり、事実を受け入れ「あるがまま」ということなんでしょう。 10点(2003-08-09 17:41:34)(良:1票) |
14. ハワード・ザ・ダック/暗黒魔王の陰謀
ずいぶん前にビデオで見ましたが、かわい気のないアヒルが活躍するという馬鹿馬鹿しい映画だったと記憶しています。風刺の利いた人気アメコミの映画化らしいですが、どこにもそんなものは感じ取れなかったですね。しかも、ラジー賞総なめという見事なまでの快挙?は、映画史上、屈指の駄作というところか。おっと、リー・トンプソンはチャーミングで良かった! ! 4点(2003-08-09 17:31:43) |
15. ハウリング(1981)
この当時としては、人間から狼男への変身シーンが気色悪くも衝撃的だった。ストーリー展開としては若干中だるみはあるものの、サスペンスタッチのオープニングと、これぞホラー ! ! …というラストが秀逸で見応えも十分。とくにエンディング間際の二段返しのオチは、今なお強烈な印象が残っています。 7点(2003-08-02 21:51:16) |
16. 裸のランチ
ウィリアム・バロウズの同名小説をクローネンバーグ監督が映画化したもので、満足のいく出来映えだったという。しかも、海外での評価はかなり高いらしい。やっぱり、原作を読み(原作は未読)ラリまくる経験がないと、理解しずらいし共感出来ない作品なんだろう。まぁ、個人的には共感したくもないけどネ(笑)。 6点(2003-07-27 16:02:30) |
17. 橋の上の娘
コントラストを利かした鮮烈なモノクロ映像、エキゾチックで官能的なメロディーなどなど、しかもあちらこちらに脳裡に焼きつくシーンを散りばめており、まるで海外の旅先で夢でも見ていたかのような90分だった。この映画は緊迫するナイフ投げのシーンが圧巻だが、むしろこのシーンを撮りたいが故に監督ルコントはこのモノクロ作品を作った感さえする。とくに、ゾクゾクさせる音楽と共に始まる“死の大車輪”が見る者を圧倒させてくれた。あのナイフの突き刺さる音といい、ヴァネッサ・パラディのエロティックさといい、シュールな純愛を描かせたら今現在この監督の右に出る者はいない。奇才ルコントの独特の世界観が味わえる異色ラブ・ストーリーの傑作です。 9点(2003-07-12 20:47:12)(良:1票) |
18. バウンド(1996)
濃厚なレズを絡ませたサスペンスもので、なかなか面白い。二転三転、立場が入れ替わり、ゲタを履くまで分からぬ展開 …。役者達の演技はもちろんで、アイデアと脚本、そして映像が冴えていた。小品だが、サスペンスのお手本みたいな映画でした。 7点(2003-06-14 20:39:10) |
19. 蝿男の恐怖
もう30年以上前にテレビで見ましたが、タイトルからしてインパクトあり過ぎで、大変ショッキングな映画だったのを覚えています。続編も作られたりリメイクされたりで、SFホラー系のネタとしていかに面白く強烈であるかがわかると思う。この映画、人体実験のシーンがヤマ場には違いありませんが、それに至るまでの実験過程も見応えがあり、ドキドキ感は十分にありましたね。とくに、ペットのネコ(自分の記憶が正しければ)を電送装置で試してみるシーンがあるわけですが、どこか異次元に飛ばされてしまい、姿がないのに鳴き声だけ聞こえたのは心底ゾ~としましたね。人体実験の悲劇を描いた映画はけっこうあるわけですが、これ程残酷で、悲し過ぎる結末を迎えるという作品も珍しいのではないだろうか。まさにB級SFホラー映画の傑作です。 8点(2003-06-14 20:38:48)(良:1票) |
20. バックドラフト
熱い! ! 本当に熱い映画だった! ! 消防士が活躍する映画には、壮絶な特撮パニックもので「タワーリング・インフェルノ」があるわけですが、本作は熱い男達のヒューマンドラマ。ストーリーは消防士一家である兄弟の葛藤と絆を中心に、生死を分ける火災現場を通し燃えるようなタッチで描かれている。連続放火魔が意外だったりと、緊迫するサスペンスとしても秀逸。“火”という無機質なものを生き物として捉え、それと闘う消防士達、という描き方も斬新で良かった。消防魂を冒涜する、あのカーセックスは興醒めしてNG! ! 見どころ満載で、消防士という仕事のやり甲斐と苦労をも教えてくれた大満足の一本でした。 9点(2003-05-17 11:22:53) |