1. 華岡青洲の妻
《ネタバレ》 世界初の全身麻酔手術の成功を支えた嫁姑の物語=それは女としての確執から生まれた偽りの「美談」であった。監督増村・脚本新藤なので高峰秀子と若尾文子(様)のバトルはもちろん凄まじい。ただそれ以上に私には華岡青洲を演じた市川雷蔵が印象に残り、極私的彼の演技ベストファイブに入れても良いと思う。『夫に尽くすという事・理想的な妻/母であるという事は時として夫の「我が侭/エゴイズム」に女性がしたがっているだけであって、そこには女性としての幸せや生きる意味はない=女性に隷属を強いる男の狡賢さ』という(私Nbu2が考える)有吉佐和子原作小説の主題を見事に体現している演技だから。リメイクにおける竹脇無我や三浦友和、最近の谷原章介は単に「麻酔研究に情熱を燃やす医学者」華岡青洲であって、そこに雷蔵が示した「理想や成功の為に妻や母を犠牲にしたエゴイスト(しかもそういった嫁姑の協力に甘えている?という感を出すのがまた凄い)」華岡青洲は、見えない。母親於継の死がナレーション(補足:杉村春子は文芸座でこの於継役をもち役としてます。)のみで片づけられたのも青洲の名声にとっては小事でしかない+女主人の座を得た様に見える加恵も最終的にはそんな小さな扱いで終わってしまう、という意図を込めてるのでしょう。うだうだと書いてしまいましたが少なくとも最近のリメイクよりはこっちの方が迫力等上。機会があればぜひ堪能してほしいのし! [映画館(邦画)] 8点(2013-06-13 21:39:33)(良:2票) |
2. 8 1/2
《ネタバレ》 「観客をおいてきぼりにする様な」意味のわからない作風/映像表現を世界中に巻き起こした、という後世への影響から考えて「去年マリエンバートで(61年)」と並び仲間内ではあまり評判がよろしくないこの一本。そんな時私はいつも抗弁している「これこそ映画的な話でありとても面白い」と。1.現状の色々な重圧から潰されそうになっている自分+2.そんな自分が描いている妄想+3.作品で撮りあげたい映像、これらのコラージュ。そんな雑然とした風景がラスト主人公の述懐=人生って素晴らしい/登場人物たちが輪になって周り巡るあそこでひとつになる、それを見て感動で胸いっぱいになってしまう自分がいるのだ。あとは主演のマストロヤンニ。この作品が成り立っているのはひとえに彼の存在感があってこそであることは間違いない。 [映画館(字幕)] 9点(2013-04-02 02:50:22)(良:1票) |
3. バルタザールどこへ行く
《ネタバレ》 人間の「罪」を見つめながら最後は羊の群れの中で生涯を閉じるロバの姿に、殉教したキリストの姿が重なり静かな感動を覚える。人間と言うものは元来「性悪説」的な生き物だけど、だからこそその中で行う「善意」の行動に胸打たれるのだ、と思う。このロバもそんな愚かしい人の行動を見据えつつ、その罪を背負い人間の持つ「愛」(としか説明できん)の可能性に殉じたのではないか、という感想をもちました。ただこの映画、非常に厳しい。またキリスト教徒でない私には本当の意味をわかってないかもしれません。よってこの点数。 [映画館(字幕)] 9点(2007-02-11 18:13:54)(良:1票) |
4. 馬鹿まるだし
《ネタバレ》 確かに「男はつらいよ」シリーズの完成度や安心感と比べれば落ちる所は多々あれど自分はこの映画、嫌いではない。「無法松の一生」に感激した男の行動は感動以前にはた迷惑以外の何者でもないし、実力を伴わない義侠心によって失明してしまう羽目になる主人公。ヒロインへの熱い想いも表面的にはまったく報われる事もなく、結局ダサいオヤジとして一生を終えた主人公。客観的に自分を見る事が出来ない、憧れのヒーローに近づくべくがむしゃらに奮闘する男ハナ肇は、スクリーンの中では愛すべき「馬鹿まるだし」である。憧れの人物になりたいと思っていても何やかんや理由をつけて「彼(彼女)は彼(女)、自分は自分」で片付けてしまう現実からすれば、主人公は自分の思うがままに行動しとりあえずは自己満足でもそれを最後まで誇示し続けたのだ。いいじゃないですか。といっても私も関わりたくはないですが。 [映画館(邦画)] 7点(2006-06-03 00:10:22)(良:1票) |
5. 博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか
《ネタバレ》 冷戦状況下の世界、「自由を求める為の戦い」とか「社会主義は理想的な世界」という名の下で進められていた軍備拡張の風潮の理由として「ただヤリたいから」と男の性欲と同レベルで説明されちゃぁ、カックンてなものでしょう。選民思想(もろナチスドイツ)下、地下で繰り広げられる世界は男のパラダイスでストレンジラブ博士もおっ立っちまうだろうし、溜めていたものを吐き出したコング少佐、「イヤッホー!」と言っちゃいますよね。この映画を見て笑った、というのはまったく無く「あ~あ、 やっちゃった」という感想のみでした。100年後に「冷戦とはこんな状態だったのよ」という資料として名が残るかもしれません。 [DVD(字幕)] 9点(2006-05-06 12:02:27)(良:2票) |
6. 博奕打ち 総長賭博
《ネタバレ》 博徒としてあるべき「任侠道」を押し通せば通すほど増大する悲劇を格調高く描いた日本任侠映画の最高傑作。今は無き新宿昭和館で見た時の胸震える感動は忘れられない。【追記】これはこの後没落してゆく任侠映画ジャンルの鎮魂歌=レクイエムである。それは「任侠道」の時代遅れな面、そしてこれから来るべきヤクザ映画の流れを脚本の笠原和夫が見抜いていた、その先進性に感嘆せざるを得ない。この映画では任侠映画の考え方が現実に則さない、絵空事であるということを示し、頑なに「博徒としての任侠道」を守っていった役者全てに破滅の道を歩ませた。その反面現実に則した「ヤクザとしての生きる道」を選択した仙波(金子)の方が完全にうまくやっている。「任侠映画」としては滅び行く漢の生き方に涙し感動するのが普通だが、そんな観客の心を見透かすかのようにこの映画はラスト中井(鶴田)の判決文として博徒が守るべき「任侠道」を遵守した事を「博徒間の私怨」というつまらない理由で説明し映画の幕を閉じるのだ。後年笠原はそんなきれい事ではすまないヤクザの生き様を描く「仁義なき戦い」に関わってゆくがそれは偶然ではない。ちなみにこの映画でも最後まで上手くやるのは、皆さんご存じの通り「山守=金子信雄」であった。 [映画館(邦画)] 10点(2006-04-15 00:03:58) |