1. 花嫁はエイリアン
《ネタバレ》 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』がもちろん代表格だけど、80年代SFコメディは40年後の現代でも観ていて愉しくさせてくれるから嬉しい。この映画も冒頭のトム・ジョーンズからしてバブル時代のうきうきした雰囲気が伝わってきます、そりゃあ音楽担当は『バック…』と同じアラン・シルヴェストリですからね。男やもめのどん臭い科学者というのはダン・エイクロイドお得意のキャラですが、やっぱコメディエンヌとしてのキム・ベイジンガーの魅力がもっとも堪能できるのは間違いなく本作でしょう。このころの彼女はその美の絶頂期だったし、ウエディングドレス姿も含めて彼女の色んなファッションも眼を愉しませてくれます。あとエイクロイドの13歳の娘もなかなかキュートで良かったですね。この映画ではストーリー云々に突っ込むのはそりゃナンセンスですよ。愛すべきおバカなストーリーのラストで、円盤からステファニー王女軍団が現れて主人公の弟ロンがロールスロイスごと宇宙に旅立っちゃうのには笑わせていただきました。こんなおバカな終わり方のコメディ映画は、滅多にお目にかかれないでしょう。こういうノリのコメディ映画は、もうハリウッドでは製作されないのかなあ… [CS・衛星(字幕)] 7点(2024-11-20 22:14:15) |
2. バビロン(2022)
《ネタバレ》 超下品な『ムーランルージュ』みたいな狂いまくったパーティが延々と三十分も続いたあとでやっと出てくるメインタイトル、あわや成人指定になりそうだったのを修正してもこれですから、ここでこの映画を観るのを止めちゃった人も多々いるんだろうな。ハリウッド草創期をモチーフににした映画は何本かあるけど、これほど“光と闇”のうち“闇”をクローズアップした作品はなかったんじゃないかな。荒野の真っ只中で後にメジャースタジオに成長するキノスコープ社は映画製作に励むが、人間扱いされていない俳優やスタッフはまだましな方で、大規模な合戦シーン撮影では死人やけが人が何人も出る始末、まさに“地獄のハリウッド”状態です。ブラピはサイレント期のスターだったジョン・ギルバート、マーゴット・ロビーはあのクララ・ボウをモデルとしているらしいが、その他にもサイレント期に起こった有名な事件をいくつか小ネタとして散りばめてます。この二人とプロデューサーに成りあがるメキシコ人青年(このキャラは完全に創作みたい)を軸にした群像劇みたいな構成なのだけど、イマイチ焦点が絞り切れないストーリーになってしまったのは残念。あとルイ・アームストロングを模した黒人ジャズ・プレイヤーも絡んでいるけど、このキャラがストーリーに必要だったのかは疑問、まあデイミアン・チャゼルのジャズ愛は伝わりますけどね。ブラピが演じるジャック・コンラッドはトーキーになってその声で俳優生命を失うことになるけど、「ブラピの声は悪声の部類だよな」と前々から気になっていたので自分にはなんかセルフパロディの感がありました。ラストの映画館のシーンはあの『ニュー・シネマ・パラダイス』のラストを再現するつもりだったかもしれないが、ちょっとアートに走り過ぎた感があって感動を呼ぶにはほど遠かったな。 順調にキャリアを積んで『ラ・ラ・ランド』ではオスカーもゲットしたデイミアン・チャゼルだけど本作は結果として興行的には惨敗、やっちまいましたな… [CS・衛星(字幕)] 5点(2024-11-08 21:27:52) |
3. バッド・ルーテナント
《ネタバレ》 ハーヴェイ・カイテルがフルチンで怪演する『バッド・ルーテナント/刑事とドラッグとキリスト』も昔観ていますけど、薄れた記憶を辿ってみてもヤクと博打の依存症な悪徳刑事が主人公ということ以外は、全然関連性がないと言っても過言じゃないでしょう。これじゃリメイクとは言えないんじゃないかと思うんだけど、実は監督のヴェルナー・ヘルツォーク自身も「この映画はアべル・フェラーラ作品のリメイクじゃないよ」と言っているし、じゃあ誰がリメイクと言い出したのかな? フェラーラ作品でのハーヴェイ・カイテルの怪演は有名だけど、本作のニコラス・ケイジの迫真の演技はそんなもん遥かに凌駕しています。ヴェルナー・ヘルツォークと言えばクラウス・キンスキーとの因縁コンビが有名だけど、実はニコジーとの相性も負けず劣らずだったんじゃないかな。ニコジー自身は本作の後の借金に追われて薄利多売の身に陥る10年以上続く低迷期の直前で、彼の全盛期の凄味が判る最後の輝きが本作だったんじゃないかな。ヤク中寸前で博打にも負け続きで首が回らなくなっている悪徳刑事テレンス・マクドノーは、まさに当時の彼自身の分身だったのかもしれません。 これはマクドノーの幻視だったんでしょうが、部屋でなぜかイグアナが動きっ回ったり射殺されたはずの男がブレイクダンスしたり、いかにもヘルツォークらしい演出だったと思います。どんどんドツボに嵌まってゆき自滅してゆくマクドノー、ところがラストにかけて急展開してゆきまさかのハッピーエンドとは、これぞまさにこの映画最大のサプライズでした。まあ考えてみれば悲惨な末路を迎えるマクドノーを見せても何の面白味がないでしょうし、自分としてはこれが正解だったんじゃないかと思います。最近は得てして揶揄の対象になりがちなニコラス・ケイジという名優の才能を、再認識するには最適の作品じゃないでしょうかね。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2024-11-05 22:58:56) |
4. 運び屋
《ネタバレ》 クリント・イーストウッドが闇バイトに応募して麻薬の運び屋になる!いやはや、最初にこの衝撃のプロットを聞いた時には、あのハリウッド・レジェンドが演じるような役じゃないだろって思いましたよ。実話に(あくまで)ヒントを得た脚本なんだそうですが、実際に逮捕された老人とはデイリリー園芸家だったことぐらいが共通点、この老人は逮捕されるまで20年ぐらい麻薬組織のために働き、しかも自分から組織に売り込んで運び屋稼業を始めたらしいです。逮捕されたときは90歳で認知症が進行しており、受けた刑罰は懲役三年で高齢が考慮されて一年で仮釈放されたそうです。言ってみればかなりのワルだったみたいで、この映画のアール老人はかなりイーストウッドに合わせた感情移入できるキャラになっています、まあ“事実にヒントを得たフィクション”なんだから全然OKですけどね。 とはいえこのアール老人は運び屋として得た報酬でまず差し押さえられた農場を買戻し、それからバリバリの新車のピックアップ・トラックを購入して自分が通っていた火事で焼けた退役軍人クラブの再建に寄付、挙句の果てにはジジイのくせに若い女を引っ張りこんでワン・ナイト・ラブを愉しむ、けっこうやりたい放題です。確かに孫娘の学資を援助したりもしましたが、絶縁状態の元妻や娘と違って彼を慕っていたからで、けっこう自己中な生活をエンジョイしていた感があります。このアールという男には、かなり自由奔放な私生活を送ってきたイーストウッドの内省が込められているのかもしれません。しかし日本のトクリュウが運営する闇バイトとは違い相手はメキシコのカルテル、ヘンな動きをすれば見逃してくれるはずがありません。運送仕事をすっぽかして瀕死の元妻のもとに駆けつけたんですから、組織に見つけられた時点で抹殺されてしまうのが当然だと思いますが、そこから逮捕されるまでの展開はフィクションとは言えちょっと甘い脚本だったんじゃないかな。アールと接する組織の下っ端たちが戸惑いながらも彼に親近感を持つようになってゆくところは、イーストウッドの魅力を堪能できますね。 明らかにイーストウッドに残された時間は少なくなっているのは悲しい現実ですけど、アールが法廷で家族に言う「時間がすべてだった、何でも買えるのに時間だけは買えなかった」というセリフには、イーストウッドの心情が現れていたのではと思います。闇バイトに応募しようとしている若者には、本作を観るチャンスがあるといいよな… [CS・衛星(字幕)] 7点(2024-10-07 22:54:18)(良:1票) |
5. 白昼の死角
《ネタバレ》 過去に商法・手形小切手法をかじったことがある身だけど、正直言って約束手形と言うものは実に判りにくい制度でもある。約束手形の法理なんて理解できていたとは言い難いし今ではすっかり忘れてしまったけど、約束手形と言うものは厄介な代物で無借金経営の様な優良企業には用ないものだというイメージがある。なんでも2026年には紙の手形小切手は廃止されて電子化されるそうで、最近はめっきりニュースなどでも耳にすることもなくなっている手形パクリや手形サルベージと言った犯罪も消滅してゆくんだろうな。 高木彬光の原作は、手形詐欺を扱った日本では珍しい部類の推理小説というか経済犯罪がテーマのピカレスク小説です。この映画化である本作は、角川春樹がプロデューサーをしているけど角川映画ではなく、あくまで東映の映画です。だもんで、普段の角川映画では見られない様な大物俳優がこれでもかというぐらいに登場する賑やかさです。友情出演や特別出演の大物の他にも、原作者の高木彬光や角川春樹そして鬼頭史郎(もはやこの人が何をやらかしたのか覚えている人はいないでしょうね)といった色物(?)までも顔だししてるんですからねえ。主人公演じる夏八木勲は、確かに大作映画の主演と言うのは珍しい言えますが、終始脂ぎった色艶の顔でとても東大法学部卒のインテリらしくないところが難点だったかもしれない。実在の事件をモチーフにしているそうですが、劇中で描かれる手形パクリの手口はなんか乱暴であまり知的な感じがしないってのもどうなのかな。実際夏八木勲は善意の第三者という盲点を突いて稼ぐわけだけど、起訴されないとは言っても警察には完全にマークされているわけで、どこかで綻びが出て逮捕されるというのは必然でしょ。闇の権力者の尽力で保釈されて結局は海外に逃亡するという結末には、ちょっと肩透かしされた気分です。けっきょく昭和のアナログ時代のお話しで、生身の姿を相手に晒さないといけなかったのが宿命で、匿名が当たり前の現代のSNS詐欺の方がはるかに知的犯罪としての要件を満たしているんじゃないかな。 監督の村川透は本作がフィルモグラフィ中で最大の大作、でも撮り方は東映セントラルフィルム時代と同じなんでなんか安っぽさが目に付いちゃうんだよな。千葉真一なんかもうちょっと違う活かし方があったんじゃないかな、出番は少ないしあれじゃ『仁義なき戦い 広島死闘篇』の大友勝利と大して変わらん(笑)。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2024-08-03 23:58:00) |
6. パニック・イン・スタジアム
《ネタバレ》 70年代パニック映画ブームに乗って『パニック…』と邦題も便乗したおかげでどうも安物のTVムービーの様なイメージがあって敬遠していたが、私の中では本作はいわゆるパニック映画とは違う種類の映画だったと思います。でも実際にも40分も追加撮影をしたTVムービー版(これがまた酷い駄作になってしまったそうです)もあるみたいで、『ミッドウェイ』も同じようなバージョンがあり当時のユニヴァーサルの営業方針だったんじゃないかな。 パニック映画的な要素としては互いに全く交わらない数組の観客の薄いドラマを挟んでいるところですが、余りに薄すぎて群像劇の出来損ないみたいになっちゃった感じです。犯人が何者でどんな意図があったのかはその容姿を含めてナゾのままで通していたところは好感が持てる、ある意味で『ジャッカルの日』以上だったのかもしれません。主役はもちろんビッグスター・チャールトン・ヘストンですが、どう見てもジョン・カサヴェテスのSWAT隊長に喰われてしまってます。前半ははっきり言って退屈気味でしたが、ハーフタイム過ぎてからはけっこう盛り上がる展開だったと思います。フィールド上で繰り広げられるLAとボルチモアの両チームとも、NFLから拒否されたため架空チームで、試合の映像もカレッジ戦のものだったそうです。それでも大観客がパニックになって逃げ惑うシーンは大量のエキストラを使っていて、さすがメジャーが製作した映画でした。 前半のテンポの悪さはありましたが思っていたより見応えがあったと思います。ラストのジョン・カサヴェテスの虚無的な独白も良かったが、ラストカットで暮れなずむスタジアムでハラハラと涙を流すマーチン・バルサムも印象に残りました。監督はラリー・ピアースで、あの『ある戦慄』を撮った人です。どおりでボー・ブリッジスが出演していたわけですね。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2024-07-18 22:29:10) |
7. ハッド
《ネタバレ》 テキサスの老牧場主とその息子の確執を描いていてこのモチーフは『エデンの東』を彷彿させるところもあるけど、冷徹極まりないストーリー展開と救いのない結末は一線を画しています。ポール・ニューマンが演じるハッドは倫理観が薄く享楽的な男で、問題児がそのまま大人になったような感じ。メルヴィン・ダグラス演じる父親ホーマーは律儀で頑固で真面目一徹、ハッドを激しく嫌っていてハッドの酒酔い運転のせいで死んだ長男の遺児ロンに目をかけて可愛がっている。そんな男所帯を住み込みの家政婦パトリシア・ニールが世話しているが、実質この四人だけで展開する物語です。牧場では口蹄疫が発生して全頭を殺処分しなければならなくなるが、その裏ではハッドは牧場の代替わりというか乗っ取りを画策していて、親子の対立は激しさを増してゆく。そんな小悪党じみたハッド、ポール・ニューマンは思わずハッドのキャラに感情移入してしまいそうになるところを突き放してくる様な見事な演技を披露しています。思えばニューマンは監督のマーティン・リットのアクターズ・スタジオでの教え子、彼の演技の上手さと凄みを引き出すには適任だったと言えるんじゃないかな。また撮影監督のジェームズ・ウォン・ハウの神がかった様なカメラが凄いんです。広角カメラで撮った広大なテキサスの地平線を捉えた冒頭のシーンなどで見せてくれる風景ショットには、ハッドと彼を取り巻く殺伐とした人間関係の心象が溶け込んでいたような気がします。また“ローキー・ハウ”の異名を授けられる彼の照明への拘りは、モノクロ映画ながらアップショットではニューマンのトレードマークである“ブルー・アイ”が見えたように感じるほどです。 死にゆく父親に「俺が長生きしたらお前は迷惑だろう」と言われるハッド、最後まで一ミリも理解し許しあわなかったこの悲劇的としか言いようがない父子関係は、リアルではあるけどなんか悲しくなりますね。そんなテイストの作品でしたが、当時勃興し始めていたアメリカン・ニューシネマとは明らかに一線を画す一編だと思いました。 [CS・衛星(字幕)] 9点(2024-06-22 21:50:26) |
8. 波止場(1954)
《ネタバレ》 当たり前ですけど、マーロン・ブランド、若いですよね。こうやって彼の顔をしげしげと眺めると、彼が当時の普通のハリウッド二枚目俳優とはかけ離れた面構えだったことが強く認識できます。彼が演じるテリーは元プロボクサーだった港湾日雇い労働者、腕っぷしは強いはずなのにレース用の鳩の飼育が生きがいで野心もなく日々を流されてゆく男、つまりとてもヒーローになるとは考えられない男なんです。この映画の醍醐味は、そんなどこにでもいそうな凡人をリアルに演じたブランドの演技力とエリア・カザンの演出力にあるんじゃないでしょうか。今じゃすっかり機械化・省力化されているので港湾貨物の積み下ろしが全て人力に頼っていた時代があったなんて想像できませんね、現代ではせいぜいクレーン・オペレーターぐらいしかいないんじゃないでしょうか。この日雇い労働者たちを喰いものにしているボス=リー・J・コッブは実在のマフィアのドンであるアルバート・アナスタシアがモデルなんだそうですが、現在日本最大の勢力を築いているあの組織ももとは神戸港で似たような事をしていたのがルーツであることを想起させられます。カザンの演出は極力リアル指向で、悪に立ち上がる単純なヒーローのストーリーにはせずに、最終盤になるまで仲間の労働者たちが誰もブランドを助けようとしないところがまたリアルです。まあブランド自身も兄=ロッド・スタイガーが殺されるまでぐらついてたから、無理もないのかもしれませんが。タクシー車内でブランドがスタイガーに言う「違う、タイトルは獲れたんだ。そしたら多少は大きな顔もできる身になれた、見ろ、今の俺はただのゴロツキだ!」というシーンは、“アメリカ映画の名台詞ベスト100”の選出で第三位にランクされているそうです。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2024-06-16 22:39:38) |
9. バイオレント・サタデー
《ネタバレ》 言わずと知れたペキンパーの遺作、でもとてもペキンパーが撮ったとは思えないメタメタな出来。大体からして邦題から酷い、原題は『オスターマンの週末』なのだがもろに『ブラック・サンデー』いじり倒したような発想、「週末なんだからサタデーで良くね?」という感じで決めたんだろうな。ペキンパー自身はこのロバート・ラドラムの原作小説および脚本を嫌っていたそうですが、死期の迫った体調ながらもスケジュールだけはしっかり守って完成させたらしいけど、プロデューサーによっていろいろといじられた様な感はあります。いちおうペキンパー印のスローモーション・カットは健在ですけど、どうでもいい様な使われ方で全くどうしちゃったんでしょうかね?マスメディアがビデオ時代になってきている時世を反映して、ジョン・ハートがビデオカメラを通じて作戦を遂行してゆく設定は面白い。何を考えているのか判らない不気味さもイイですね。でもこの映画最大の敗因はとにかくストーリーが判りにくいところで、脚本が整理できていないのかはたまた原作自体に問題があるのか、多分編集段階でカットしすぎたのかもしれませんね。 [CS・衛星(字幕)] 3点(2024-03-08 22:20:13) |
10. バタアシ金魚
《ネタバレ》 ヤングマガジン連載中に愛読していましたが、あのほとんどサイコパスみたいで超自己中なカオルが主人公の漫画が、まさかこんなに瑞々しい青春映画になろうとは初見の時はびっくりした次第でした。今となっては貴重な高岡早紀のスク水姿を拝めるし、高岡早紀はもちろんのこと筒井道隆と浅野忠信のデビュー作というのも貴重なところです。生徒の服装や髪形を見るとけっこう平凡で真面目な高校の生徒たちという感じだけど、ビールを飲むし煙草はふかすわ高校生同士でラブホから出てくるわで、まさに今はやりの“不適切にもほどがある!”って感じで、現代の邦画界隈では炎上必至ですな。でも自分も通っていたのはごく普通の高校だったけど、部活の合宿なんかでよくビールなんか飲んでたよな、そんなに目くじら立てなくていいんじゃないかな。当時17歳の高岡早紀の演技はまさに美少女登場!でした、途中で激太りするところで二役(というか三役だったらしい)という演出にはやっぱびっくりしたな。そしてラストのワンカット・ワンシーンで撮られたカオルとソノコのプール内での乱闘は、何度観ても心に刺さります。 この作品は、誰もが覚えのある思春期特有の男の子・女の子のカリカリした感情の表現が今観ても新鮮で、最近の邦画の監督たちにも見習ってほしいものです。監督の松岡錠司はその後ドラマでの活躍がメインになった気がするけど、本作はやはり彼の最高傑作だろうと思います。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2024-03-02 21:16:14) |
11. PARTY7
《ネタバレ》 得点分布を拝見しますと綺麗に0~10点にバラけていますねこの映画、強いて言えば5点以下が弱冠多いみたいですな。まあこういう評価になるのもムリ無いかなというのが、私の感想でございます。まるで下北沢あたりの小劇場の演劇を見せられているかの様な典型的なドタバタ劇、これは計算の上で書かれたと思いたい登場キャラたちが繰り広げるバカ丸出しの会話と掛け合い、こういうところも小劇場チックなんですよ。まあこの中でいちばんおバカなキャラかと言いますと、怪優・我修院達也と『アントム・オブ・パラダイス』のウインスローみたいな扮装の原田芳雄か、甲乙つけがたいところです。ストーリーをまともに追ってゆくと途中でほんとバカらしくなってくるので、ラストのカオスがツボかどうかに評価の分かれ目があるんじゃないかな。オープニング・アニメーションは観れば判るように『キル・ビル Vol.1』のアニメパートでそのタッチがそっくり再現されているし、石井克人を起用するぐらいだからタランティーノもこのおバカ映画を観ていたのかな、彼にはウケそうですね。まあ自分もこういうのは嫌いじゃないけど、5点以上はつけられないなあ… [CS・衛星(邦画)] 4点(2024-02-29 21:50:27) |
12. バッド・ジーニアス 危険な天才たち
《ネタバレ》 貴方は学生時代にカンニングをしたことがありますか?私はあります。でも、カンニングをビジネス化して大金を稼ぐなんて発想は思いつくわけもなく、現代はITテクノロジーがそれを可能にしてしまったわけだけど、どんなことでも金儲けの手段になるなら躊躇しないという世界になってしまったという事なんでしょう。まあこの映画のタイの高校生が使う手段はスマホなんだけど、あくまで情報伝達ツールであるわけで解答をデータに落とし込む手口はまさに悪知恵の極致と言えるもので、こうやって考えるといくらAIが発達しても人間の悪知恵の方が一枚上を行くんじゃないでしょうか。 タイの映画を観たのはたぶんこれが初なんだけど、いやはやいきなり凄い傑作にぶち当たりました。“バンコクの蒼井優”みたいな感じの舌を噛みそうでとても音読みできそうもない名前の主演女優、劇中で喜怒哀楽をほとんど見せない強烈な演技を見せてくれますが、実はファッションモデルで演技経験はゼロというのは驚き。彼女とペアでSTICに挑むバンク君が母子家庭、父子家庭の主人公とは左右対称みたいな環境で、二人を利用して試験突破を図るカップルはブルジョア家庭というところはちょっとありきたりな設定と言えなくもないけど、このバカップルをけっこうコミカルな存在としているのは良かったです。とにかく後半のSTIC試験のシークエンスでのサスペンスとハラハラドキドキは半端ない、まさに手に汗握るとはこういうことですな。たかがカンニングがここまでスリリングなストーリーになるとは、予想外でした。生真面目なキャラと思っていたバンク君が、ラストではふてぶてしいカネの亡者みたいになってしまうのは、自分にはまったく思いもよらない展開でした。邦画なら絶対に二人を恋仲にするラブコメみたいになるのが必定、こういうシビアな幕の閉め方を少しは見習ったらいいのにねえ。でもいちばんいい味出してたのは、リンのお父さんであったことは間違いなしでしょう。名前が出てこないけど、この人とそっくりな俳優が日本にいますよね、誰だったかな? [CS・衛星(字幕)] 9点(2024-01-22 22:06:59)(良:1票) |
13. パラサイト 半地下の家族
《ネタバレ》 この作品がオスカー作品賞を獲ったのは、韓国では大統領がまだザイトラとかいう人だったころ。当時の韓国は国策でKポップとやらが世界でムーブメントになっていると有頂天になっていて、ボーイズアイドルのグループをなんと国連総会に連れてってスピーチさせるなんて暴挙に出たりしていた。私からすれば韓国映画がアジア映画としては初めてオスカー作品賞を受賞したってことの方がよっぽど一大快挙、「ついに韓流映画もここまで来たか」と感無量でした。ところが韓国では何とか少年団の時とはほど遠い冷めた反応だったんじゃないかと思います。まあそれは華やかで先進的なイメージをアピールできるポップスと違いこの映画のテーマが格差社会である韓国の恥部に触れていたからなんだろう、こういうところは実に判りやすい国だと思います。 日本でも山の手と下町という区別が昔からあるように、富裕層は“上”庶民層は“下”というところはどんな国の都市にもある地理区分みたいですね。それにしても“半地下”という住環境はちょっと凄いですね、これは黒澤明の『天国と地獄』の設定が彷彿されます。前半の一家四人がそれぞれ他人を装って使用人としてセレブ家に入り込んでゆく過程は、ブラックでとぼけた演出もあって面白いですね。これはジョセフ・ロージーの『召使』みたいな感じで主人一家を操ってゆくのかと思いきや、嵐の晩を境に想像のはるか上を行く展開になってゆくわけです。この映画の中ではセレブ家のセットの造りこみが豪華で、こういうカネのかけ方からして日本映画が韓国映画に勝てないのが納得できます。ただラストはいかにも韓国映画らしい惨劇展開でしたが、後日談をつけた引っ張り具合はちょっと冗長だなと感じました。決して凡作ではなくその切れ味にも鋭いところがあるのですが、オスカー作品賞を獲るほどの出来なのかはちょっと?というのが感想です。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2023-11-09 22:55:49) |
14. ハウス・オブ・グッチ
《ネタバレ》 誰もが知るブランドであるグッチ創業家の、“事実は小説よりも奇なり”を地で行くようなゴタゴタ劇の映画化。グッチが世界的な企業であるにも関わらず同族経営でかつ株式非公開だったというのが一つのポイントだと思いますが、洋の東西を問わずファミリー・ビジネスには功だけでなく負の部分がつきまとうってことですね。現時点で我が国でも中古車販売と芸能ビジネスの同族企業が世間を騒がせていて、そう言う視点で観るとこの映画のテーマには感慨深いものがあります。 リドリー・スコットは20年前に映画化権を入手していたけどお約束のゴタゴタがあってようやく製作出来たそうですが、紆余曲折があった映画には苦労の割には報われないというジンクスからは逃れられなかった感がありますね。いや、錚々たる顔ぶれの俳優陣はみな熱演を見せてくれてますけど、オスカーにはなんと一つもノミネートされず、彼とは見抜けないぐらいの鬼メイクで怪演していたジャレッド・レトに至ってはラジー賞が授けられたぐらいですからねえ。特に稀代の悪女パトリツィアを演じたレディー・ガガはもう熱演を通り越して怪演に近いレベルです、その迫力には圧倒されました。アル・パチーノとジェレミー・アイアンズのグッチ兄弟としての顔合わせは貴重でしたが、どうも自分にはパチーノの演技の劣化が気になりました。あれじゃマイケル・コルレオーネがデブって歳取った風にしか見えないんですよ、この人こないだも歳にもよらず若い女に子供を授けたぐらいなんですからまだ(アッチの方は)元気、スクリーンでももう一花咲かせてください。笑っちゃったのは怪しい占い師役のサルマ・ハエック、この人グッチの親会社のCEOの妻なんだって、そりゃ出演できますよ(笑)。 夫殺しのパトリツィアはすでに刑期を終えて出所しているそうですが、製作中にパトリツィアは執拗にガガとの面談を希望したけど拒否られたそうです。現在もバリバリ活躍しているトム・フォードも含めて、こういう現存の人物を気にすることなく映画化しちゃうところが、腰抜けの邦画界ではマネができない海外映画界の強みなんだろうな。グッチ家自体はこの映画を非難しているらしいが、現在創業家とは縁が切れているグッチは映画撮影には非常に協力的だったとのこと。こういうところは『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』とは真逆ですね。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2023-09-20 21:40:08) |
15. 張り込みプラス
《ネタバレ》 意外と皆さん低評価なんですねえ、私はけっこう愉しめましたけど。前作『張り込み』から6年後の続編製作だけど、劇中もきっちり6年後という設定。シリーズもの(もっともこのシリーズは二作しかないけど)あるあるで、“二作目は派手に”という鉄則は踏襲されており、冒頭の家の爆破シーンはこれでもかと言うド派手さ、もう『リーサル・ウェポン』かよ(笑)。前作観ている人には丸わかりの、冒頭でのリチャード・ドレイファスの異臭まみれはお約束。今回の張り込み捜査は判事の別荘をアジトにして、麻薬取締局の女性検事と三人親子という展開。この検事役がロージー・オドネルというコメディエンヌなので、けっこうドレイファスとエステベスの二人は喰われてしまった感じかな。監視対象の証人=キャシー・モリアーティが、前作のマデリン・ストーと違って銃をふりまわすかなり凶暴なキャラなのも特徴。サスペンス・タッチのドキドキ感はかなり薄くなってコメディ要素がさらに強まった感じでもある。ラブコメ要素はドレイファスとストーの喧嘩別れの危機で引っ張ってゆくけど、もう結末は予想通りでした。それにしてもけっこう出番があったのに、マデリン・ストーがノン・クレジット出演なのは摩訶不思議です。 まあ安心して観れるけど、前作のような独特な空気感が欠けていたことは否めないですね。良くも悪くも、普通のコメディ調刑事アクションという感じでした。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2023-09-08 23:06:17) |
16. 張り込み(1987)
《ネタバレ》 80年代に流行したいわゆるバディ刑事もの映画の一つだけど、ラブコメと刑事アクションと緩さがバランスよく結合した佳作です。改めて感心したのは、リチャード・ドレイファスの芸達者ぶりです。考えてみればこの頃が彼のキャリアの絶頂期ですから、これは必然でしょう。80年代に刑事を演じた男優たち(エディ・マーフィ、メル・ギブソン、ブルース・ウィリス、そしてイーストウッド)の中でも、ドレイファスがいちばんリアルで人間味があったんじゃないかな。張り込み対象の女性と出来ちゃうって洋の東西を問わずもっとも刑事がやっちゃいけないこと、描き方を変えれば悪徳刑事になっちゃうところですが、ドレイファスの軽妙な演技と秀逸な脚本のおかげで愉しく観ることができます。けっこうハラハラ・ドキドキさせてくれるストーリーですけど遊びの部分も多く、張り込み中にエミリオ・エステベスと退屈しのぎに映画クイズをしていて「人喰いサメが出てきた映画は?」との問いに「知らんね」とドレイファスが返すところは傑作でした。ラストの対決場が製材所というのはちょっと変わったパターンでしたが、悪役の最期が製材用の鋸でスプラッターかと期待(?)してたのに、予想を見事にかわしてくれたのはかえって好印象でした。使われている楽曲もグロリア・エステファンを始めとする懐かしのサウンドで良かったなと思います。ほんと、80年代独特の雰囲気が漂う良作です。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2023-09-05 23:06:21) |
17. バレンチノ
《ネタバレ》 ケン・ラッセルお得意の芸術家伝記映画の掉尾を飾る一編、そりゃあルドルフ・ヴァレンチノだって立派なアーティストですよ。物語はヴァレンチノが死んだときの伝説の騒動から始まる。死せるヴァレンチノに別れを告げに来る彼の生涯をかき回した三人の女の回想という形式は、『市民ケーン』方式というかオーソドックスな伝記映画ですな。でもケンちゃんのことだからありふれたスタイルのはずがなくどんどんと飛躍してゆくのはお約束ですけど、ギリ70年代の彼の作品は80年代以降の訳の分からなさが大爆発する作風に比べればはるかに観やすい。それでもラストの新聞記者とのボクシング決闘のシークエンスは、何の映画を見せられているのか戸惑わされるのは必定で、さすがケンちゃんと褒めてあげましょう。サイレント時代の映画スターだけあって当時の撮影風景は今の眼からすると奇妙で、無声なのを良いことに「右向け、左向け!」みたいな感じで監督が終始俳優に声をかけているところが面白い。ミシェル・フィリップスを始めとする女優陣は美形揃いで、醜女好きなこの監督にしては珍しいことです。せっかくルドルフ・ヌレエフを使ってヴァレンチノを演じさせるのだからもっとダンス・シークエンスが合ってもあってもよさそうなもんだけど、どうもケンちゃんはそっちの方は興味がなかったみたいです。ケン・ラッセル・マニアの自分としては刺激が足りないかなという感じで、まあ可もなく不可もなくというところでしょうか。 [ビデオ(字幕)] 6点(2023-07-07 23:06:47) |
18. バチ当たり修道院の最期
ヘロイン絡みで警察に追われる歌手が駆け込んだ修道院は、尼僧長はヤク中で変な尼僧名がつけられた尼僧たちもみんな一癖二癖もある罰当たりなところだった、とくればどう考えてもコメディ映画だろうと思われるけどね。残念ながら笑える要素はほとんどなく、若きペドロ・アルモドバルの作家性が爆発する珍作でした。考えてみると、私はこの人の映画を観るのは初めて、記念すべき(?)第一作目が本作で良かったのかと考えると、やっぱ失敗でしたね(笑)。ペネロペ・クルスなんかが出ている近作群の評判からは重厚なきっちりとした脚本のドラマ作家というイメージを持っていましたが、この映画に関しては「なんか監督の言いたいことは理解できるような気もするけど、全然伝わってこない」というもどかしい感想しか残りませんでした。これなら同時代のゴダール作品の方がまだましで、若き日のアルモドバルはゴダールには到底及ばない力量だったということでしょう(比べること自体が失礼かもしれないが)。私はこういうタイプの映画作家は苦手です。 [CS・衛星(字幕)] 3点(2023-06-27 23:22:56) |
19. Back Street Girls -ゴクドルズ-
《ネタバレ》 私は原作コミックもTV放映アニメも未見で、「ヤクザ三人組が下手打って指ならぬアソコをつめて地下アイドルデビュー!」なんて超バカバカしいプロットなんで期待せずに観ましたが、けっこう真面目に撮っていて面白かったです。女性化した三人はなかなか魅力的で、だいいち彼女らの披露する楽曲が極道ネタを巧みに取り入れた歌詞で、しかもちゃんとアイドルソングとして成立しているのが凄い。聞けば三人はゴクドルズとして劇中楽曲をフューチャーしてアルバムリリースまでしているそうで、この楽曲の出来具合ならアイドルファンも納得できるんじゃないかな。挿入されているライブ映像も実に楽しそうで、コロナ流行以前のアイドルライブの盛り上がりがなんかすごく懐かしい感じがします。終盤のアイドルフェスに出演している他の架空アイドルのパフォーマンスも手抜きなくそれらしくて、良く創りこまれていると思います。女性化した三人のかつての荒ぶる男性としての内面との葛藤を男優との掛け合いとして見せる演出も秀逸、でもそれが彼女らが便所で便座に腰かけているときに扉ごしというのは、どういうもんですかね(笑)。岩城滉一の何を考えているのか理解不能な親分も、彼の貫禄で振りきったという感じですかね。そう言えば友情出演でちょっとだけ顔を見せた大杉漣は、これが遺作というか最後の映画出演だったと思うと感慨深いです。 ラストにはまさかの多幸感まであって掘り出し物でした、これなら続編製作もありなんじゃない? [CS・衛星(邦画)] 7点(2023-05-10 23:03:30) |
20. 白熱(1949)
《ネタバレ》 この映画はよく観ると、アル・パチーノの『スカーフェイス』とよく似たプロットなんですよ。ジェームズ・キャグニーが演じるコーディが病的なマザコンというところは、『スカーフェイス』でトニー・モンタナがシスコンというところを彷彿させるし、コーディが劇中何度か口にしラストの閉め台詞でもある“The Top of The World”も『スカーフェイス』で死せるモンタナに落ちてくる垂れ幕のキャッチ"The World is Yours"に通じるものがあるし、その垂れ幕をぶら下げていた気球は爆発するガスタンクを彷彿させるところがあります。もっともこれは『スカーフェイス』の元ネタになった33年の『暗黒街の顔役』に『白熱』が寄せていった結果だったのかもしれませんが、オリヴァー・ストーンも少なからず意識していたんじゃないかな。 コーディ一味はどいつもこいつも1ミリも感情移入できないクズばかりというのがある意味凄い。コーディは強盗の被害者や仲間でさえも容赦なく殺すけど、いちばん怖いと思ったキャラはやはり母親ですかね。まさに「この親にしてこの子あり」という感じですが、シェリー・ウィンタースが演じたマ・バーカーを遥かに凌駕しています。ある意味もっと怖いというか悪辣なのはヴァージニア・メイヨ=ヴェルナで、全編裏切りの連続のうえに母親まで殺しちゃう。でも最後までコーディを騙して悟られず結果的には彼女だけが生き残って逮捕、お前なんかコーディに…!(以下自主規制させて頂きます)つまりこの映画が言いたいことは、“女は怖い”ということになるんでしょうかね。 とにもかくにも40年代とは思えないスピード感に満ちた作品でした。警察(厳密には財務省なのでシークレットサービスか)の潜入捜査や追跡も丁寧に描かれているし、良い脚本です。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2023-02-22 22:04:05) |