1. パリ、テキサス
《ネタバレ》 オープニングで流れる音楽にいきなり痺れます。 作品は初見とは言えサントラは手元にあったので結構聴いていたのですが、やはり空っぽで荒涼とした大地の画に重なるとライ・クーダーの音数を極限まで削ぎ落としたリゾネーターギターは一層冴え渡り素晴らしさを再認識させられます。 しかし、本作の内向きな人間模様やテキサスの荒野にはしっくり来ますが、ヒューストンやロスのような直線を用いて水平と垂直からなる人工物で満たされた街には若干の違和感を覚えてしまいます。 このライ・クーダーの音楽を始めとしてジョン・ルーリーがちょこっと出ていたり、サム・シェパードが脚本を書いていたり、ロビー・ミューラーが撮っていたりしますし、出てくる俳優さんも数は少ないのですが皆作品に馴染んでいて気持ち良く見る事が出来ました。 特に主演のハリー・ディーン・スタントンが全編を通しての気弱で後ろ向きな雰囲気を交えながら病的にも見える喋らない前半と息子と元妻に会ってからの不安と喜びが混在する後半を悲壮感を漂わせながらも抑え気味で見せる演技には好感が持て適役だったと思います。 4人それぞれの想いで見ている8mmのシーンは当然とはいえかなり切なくなってしまいます(幸せに溢れている内容のようですが5年前ということはトラヴィス夫妻の関係はほぼ破綻していたとも言えるのですが…)。 そんな切なくなるシーンを受けているので対比としてメイドさんと父親作りをしている姿には笑ってしまいます。 『リッチな父親』が出来上がり車道を挟んでトラヴィス親子が家に帰るシーンは微笑ましくて本当に良かったのですが、トラヴィスがハンターの方に近づいて行くカットはストーリー的にも映像的にも重要だったと思うので、他のカット同様もう少し印象的なカメラアングルにして貰いたかったです。 とは言え、この連続する3つのシークエンスの流れや親子の距離感の詰め方等の演出は見ていて非常に心地良かったです。 マジックミラー越しに再開したジェーンに思わずまた嫉妬してしまうトラヴィスの姿は悲しすぎます。 過去と何ら変わっていない自分が彼女とハンターと3人で幸せに暮らしている未来が想像できないトラヴィスは2人の元を自ら去って行ってしまいます。 2人の元から逃げたとも取れますし自分自身とも対峙せずに自分の人生から逃げたとも取れます。 解決法としては自分自身を変えて物事を前向きに考えられるようにすれば良いのですが、それが出来ないトラヴィスのラストを十分理解出来てしまう私には彼の行為が私にとってのリアリティー以外の何物でもないように感じてしまいました。 ハッピーエンドではないですが納得出来てしまう本作は私自身の弱い部分を抉られるような辛辣ささえ感じますが、決して気分を害したり二度と見たくないようなものではなくその対極に有る作品となっています。 この世界が完全ではないのは人間が不完全だからだという事を情景として静かに見せてくれる映画だと思います。 [CS・衛星(字幕)] 10点(2015-09-16 02:12:09) |
2. バンテージ・ポイント
《ネタバレ》 これだけの作品でここまでブラッシュアップされていない脚本も珍しいと思います。 設定に説得力は無く、展開はストーリーが何時破綻してもおかしくない位に運や偶然に頼り切っている感じです。 この様な脆弱な脚本ですとあの様に同じシークエンスを違った視点から何度も見せて1つの話に擬似的な厚みと深みを付けていく方法は非常に効果的だったと思います。 また、その見せ方も気を持たせる所でカットをするなど少しあざとすぎる感じもしますが徐々に事件の真相に近づいていく作品のリズムは私には調度良かったです。 そして、各シークエンスの登場人物がそれぞれ繋がり、状況の全貌が明らかになった時点で激しいカーチェイスに突入して事件は収束します。 90分という短尺の中で結局監督はテンポという事に重点を置いていた様に感じますし、幾分強引とも言える展開でしたが、私自身も見終わった時には脚本の不出来さを嘆くよりもこの畳み込むような演出による高揚感の方が勝っていましたし、勢いで押し切られた結果になりましたが心地良い敗北感のような「まぁ、これはこれでいいんじゃないかなぁ…」というものが余韻として残りました。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2015-07-16 17:42:47)(良:1票) |
3. 幕末
《ネタバレ》 カチッ………カチッ…、と壊れたメトロノームの様に悪いテンポで話は進んでいきます。 「幕末」というタイトルからスケールの大きな群像劇かと思いきや「竜馬がゆく」を原作にした坂本竜馬主人公の物語でした。 それにしても作品からは混沌とした幕末という時代にあったであろう勢いやパワー、竜馬に対して抱いているイメージの人間的な魅力や不屈の行動力等は殆ど感じることはできませんでした。 イベントが掃いて捨てる程ある時代に全てを詳しく描けないのは当然ですが、竜馬を主人公にしているのでしたら勝海舟との会談で彼に傾倒する過程や、薩長同盟締結の理由と推移等はもう少し丁寧に描いて欲しかったですが、出来事の表面だけをあっさりと流した感じは残念でした。 それに加えて役者さん達の演技はかなり大袈裟で悪い意味での迫力任せに見えました。 クローズアップが少なかったのでそれ程暑苦しくはなりませんでしたけど、作品の為というより役者さんが個人プレーに走ってしまった様な印象でした。 また、カメラワークやカット割り、編集のタイミング等もマイナスの要因だったと思います。 関ヶ原の戦い以降に長宗我部に代わり山内が治めた事により他藩に比べ上士と郷士に大きな隔たりがあったというよりも、差別的とも言える対立が存在した土佐藩で、商人の饅頭屋近藤長次郎が仲間である筈の亀山社中の郷士から切腹を強要されるのは、それなりの理由があったとしても興味深い出来事でした。 かつての南アフリカでの英国白人とアフリカーナーと原住民の関係を彷彿とさせられる様な苦々しさを感じました。 差別から逃れる為に別の差別を生む構図は、四民制度の中でヒエラルキーの頂点の武士でも上士に差別されている郷士が持っているであろう人間の弱い本質を見せられている様でした。 その為、近江屋の二階で中岡慎太郎が四民の中で武士だけは特別だというのに対して、武士を含めた四民制度を壊す事を強く主張する竜馬の台詞は救いになりました。 [CS・衛星(邦画)] 4点(2015-05-19 00:19:35) |
4. 幕末太陽傳
《ネタバレ》 学生の頃に夜中なんとなくテレビを見ていたら本作がやっていました。 フランキー堺さんは名前が格好悪かったり、彼の四角い顔が生理的にダメだったのでかなり嫌いな俳優でした。 見終わった後にテレビの前で「ヤバい、これマジでヤバい…」と声を出して1人で呟いた事を覚えています。 映画好きになら解って貰えると信じて書きますと、とんでも無い作品を見終わった時に、リミッターを超えた満足度から来る高揚感で脳みそがゾワゾワして体全体が吹っ飛ばされそうになって叫びたくなるアノ感覚です。(私だけだったらかなり恥ずかしいです…) その頃からおっさんの様に落語と時代劇が大好きだった自分には、ど真ん中でした。 生理的に受け付けない役者さんの作品を見て180度見方が変わって最高評価になった人は私の中で3人いますが、フランキー堺さんはその中の1人です。 侍、女郎、客、使用人、楼主、居残り等のそれぞれの欲や思惑が乱れ舞う品川遊郭相模屋で、立川談志さんが言っていた様に人間の業を肯定しながら話は軽妙に進みます。 その中でも、堺さんがとんでもなくカッコ良いです。 台詞回しからは粋で破天荒な人間を感じ、所作は軽快で無駄は無くそれでいて不思議と品や優雅さの様なものが漂うシーンもあります。 相模屋の1・2階を動き回る姿はまさにバレエのプリンシパルです。 死に向き合いつつ抗い、全力かつ狡猾に生きているメメント・モリ佐平次は相模屋では無双です。 他の連中とでは素養と覚悟が違います。 堺さん自身もまた然りです。 左幸子さんや南田洋子さん等も好演していますが、堺さんと周りの役者さんとではレベルというか正直演じている次元が違う様に感じました。 バカみたいですが毎回見る度に、堺さんが前に見た時と違うことを言ったり、違う演技をするのではないかと本気で思ってしまう程、作中では活き活きと自由で自然に見えます。 ラストシーンは自分の意を汲んで貰えなかった川島監督が会社に対しての当て付けでわざと質を落したのではないかと思う程、テンポも編集もよく有りません。 加えて、作中にもカット割りや音声、編集の稚拙な所は有るのでマイナス3~4点になると思いますが余裕で10点です。 それらのマイナス要因は、この評価が揺らぐ様な事では有りません。 [DVD(邦画)] 10点(2015-05-02 22:32:23)(良:2票) |
5. はやぶさ/HAYABUSA
《ネタバレ》 お年寄りからお子様まで楽しめる映画という印象でした。 その為かデフォルメの仕方が偏り過ぎたキャラクターがいたのが気になりましたし、その割には上手く使い切れていない感じがしました。 「こういう人物はこんな感じでいいだろ。」みたいに上から目線でカテゴライズしている様で快く思えませんでした。(更にその上から私はレビューを書いているのですが…) 水沢が綺麗過ぎるのは主役なので仕方無いとしても、坂上を奇抜に描いてもそれに繋がるものが何も描かれていないので完全に空振りしています。 はやぶさ君の絵日記などは非常に解りやすくて助かりました。 竹内さんのアテレコも本編の水沢役より良かった気がします。 その様な効果もあって、大気圏で燃え尽きてしまうはやぶさには目が潤んでしまいました。 トラブル続きの満身創痍で帰ってきて最後に大気圏での機体焼却は計画通りなんて…。 何年も放浪していた放蕩息子が帰ってきた時に親の言いつけを思い出して、困っているおばあさんの荷物を持ってあげたら荷物の中から出てきたマムシに噛まれて玄関先で死んじゃったみたいです。 2時間位の付き合いで感情移入してしまうのですから、何年も参加していたプロジェクトスタッフの気持ちを想像すると更に切なくなってしまいます。 最後に前々から思っている事ですが、やはり宇宙開発の国家予算が少なすぎると思います。 今日まで技術大国と自負して、その恩恵を受けてきたのですから、それに見合った額の予算を割いてもらいたいです。 献身的な技術者に支えられていても限度があると思いますし、それでは未来は有りません。 声を大にして言いたいのは、私は税金を今以上取られたく有りません! なので、無駄に使われている予算や、役人や議員の懐に入るお金をきちんと調べ上げて適切に配分して貰いたいです。 映画とは関係なくなっちゃいました。ごめんなさい。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2015-04-28 18:52:12) |
6. はじまりのみち
《ネタバレ》 木下恵介という名前は聞いたことが有るといった程の認識で鑑賞しました。 陸軍省後援で作られたという「陸軍」のラストシーンを10分程挿入しています。 それ以外のシーンを見ていないので詳しい事は言えませんが、私でも反戦とまではいきませんが、戦意高揚を謳っている映画とは感じる事は出来ませんでした。 日の丸の旗を振っている人混みの中を出征して行く息子を追う母親の姿は、戦争という大河の流れに逆らう小さな魚の様で、それが如何にも弱々しくて、無機質に行軍して行く軍隊に対して追い縋る彼女の姿は、切なさを通り越して悲痛にも映りました。 この様な感傷的なシーンを批判するのなら、「女々しい」という言葉がピッタリだと思います。 しかし、戦時中に陸軍省後援でこの様な「女々しい」映画を撮ることで逆に木下監督の気骨を感じられるのは皮肉です。 どちらが本当の意味で女々しいんだと問われれば軍人さんは下を向いてしまうでしょう。 しかし、この映画は上映されたという事を考えると、陸軍の検閲官も何か感じ入る所があったのか、他のシーンが彼等の要求を満たしていたのか判りませんが、便利屋さんの様な人に見て貰えて、あのように感じた人は実際にも結構居たのではないでしょうか。 そして彼の気骨は本作の中でもリヤカーで50kmの起伏のある道を病床の母親を疎開先まで運ぶというエピソードで表されています。 そのような母親への深い愛情を持った木下監督が「楢山節考」を撮っていると本作の中で知ったので、ぜひ見てみたいと思いました。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2015-04-25 18:26:19) |
7. 晴れ、ときどき殺人
主演の渡辺典子さんは当時アイドルだったそうです。そうなると観客層は男子中高生でしょうか。 ストーリーの内容量と、劇中に出てくる女性のハダカの量が見事に反比例していますが、この割合がメインの観客層にとっては黄金比な気がします。 そう考えるとマーケティング戦略的には決して間違ってはいない映画だと思います。 [CS・衛星(邦画)] 3点(2015-04-20 05:21:29) |
8. HANA-BI
《ネタバレ》 台詞とストーリーを出来るだけ削ぎ落として、暴力と、小ネタのギャグと、監督自身の絵をモンタージュ的に重ねていき仕上げている作品で、それらから何かを感じ取れている人が高評価を付けているのだろうが、ほぼ何も感じられず、理解も出来ない残念な私にとっては魅力的な作品にはならなかったです。 リズムをわざと外し間延びさせるような編集も心地良くないし、映像的に印象に残るシーンも特に有りませんでした。 悪い意味でギミックや手法にばかり意識がいってしまい作品に入り込む事が出来ませんでした。 正直、嫌味ではなく本作を理解できる人を羨ましく思ますが、その反面、その理解は監督の意図しているものだと自信を持って答えられる人(特に映画評論家)はどのくらい居るのかと思ってしまいました。 [CS・衛星(邦画)] 2点(2015-04-20 04:25:58)(良:1票) |
9. バグダッド・カフェ
《ネタバレ》 ホリー・コールの「コーリング・ユー」は持っていますが、やはり、こちらのジェヴェッタ・スティールの方が格段に良いです。遠くの方で虚空に向かって歌っているような、無機質にも聞こえるが凛とした歌声は作品にも合っているし、単体でも素晴らしいです。 フェルナンド・ボテロの絵から抜けだしたようなドイツ人のおばさんと、全方向に見境なく攻撃する黒人のおばさん(夜中に布団たたきで干してある布団を叩いたりはしませんが…)の友情のお話でしょうか。 この2人が作品を通して、徐々に魅力的に成っていきます。 舞台が砂漠という事もあり、殺伐さと気だるさの中で、微妙で不安定な人間関係がゆっくりと繋がって好転していくのは心地良かったです。 作品後半は人間関係が好転しすぎて、俗っぽく成ってしまったように感じました。前半の雰囲気にもう少し浸っていたかったです。 そんな時に、彫師の姉御が「慣れ合いすぎ…」と言って出て行ってしまいます。思わず私は「ですよねぇ~、この後あなたがメガフォン取ってくれませんか?」と、劇中の人にパラドックス的な事を思ってしまいました。 百円ライターを透かして見ているような世界や、感度の違うフィルムを使って撮っているアナログチックな映像の効果、個々のカメラアングルの切り方など、見ているこちらの意識をほぼ持って行かれるくらいにセンスが良かったです。 主人公のジャスミンが「手のひらは白いのね」と、ブレンダの娘のフィリスに聞き「カワイイ?気に入っているの」と、言うシーンは、ちっちゃな仲良しの子供同士の他意のない会話のようで特に印象に残りました。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2015-04-11 15:22:00)(良:1票) |