1. 晩春
《ネタバレ》 大失敗!秋だったからって『秋日和』を先に観てしまったわっ!なので、こんな季節に『晩春』です。 父娘の物語の合間・合間に、平和で穏やかな日本の風景、文化をちりばめていますね。茶道教室でお茶を点てる所作を静かに観せる。中盤の能のシーンも印象的。ここでは紀子が父の再婚相手に複雑な感情を抱くシーンだけど、能に結構な時間を割いている。親子最後の京都旅行では、清水寺や竜安寺の石庭といった有数の観光地を観せている。終戦から4年後のお話ですが、まるで戦争なんて無かったかのごとく、時間が止まっているかのごとく、日本の美しい原風景が映し出されます。 今から振り返ると“懐かしい、古き良き日本”の映像ですが、公開当時は古い時代(戦前からあるもの)と新しい時代(戦後に出来たもの)の、日本の過渡期を表現していたように思えます。序盤の日本情緒あふれる鎌倉と比べ、近代的な銀座は外来のカタカナ看板が目立つ。若者がサイクリングで向かう先にはローマ字表記とコカ・コーラの看板。まだ進駐軍が残ってるんでしょうか、戦後らしいです。 紀子の友人アヤは、離婚してステノグラファー(速記)なんて仕事をしています。女性が手に職をつけて、社会で働く時代が目の前まで来てるんですね。働くだけでなく、旦那さん探しも大切なことです。紀子の同級生は、働くか、結婚しているようです。多くの若い男が戦争で命を落とし、女性が生きていくには、どちらかの道を選ぶ必要があったと思います。 周吉は、紀子と友人にパンと紅茶を運んできます。当時の日本の父親像といえば、亭主関白や一家の大黒柱といった“家長”としての立ち位置が思い浮かびますが、ずいぶんと柔らかい父親ですよね。紀子が『このままお父さんと居たい』といった気持ちがわかります。 周吉は56歳。まだ若い!と思うのは今の感覚。当時は(戦後の労働力不足の時代でさえ)55歳で定年退職でした。もう死を考えていい歳です。 紀子は27歳。全然若い!と思うのは今の感覚。当時は30過ぎて独身だと“行かず後家”と後ろ指刺されます。一世一代の嘘をついても、ここで嫁に出すしか無かったんですね。『ファザコン娘を父離れさせたい件』…なんて呑気な話ではなく、欧米化が進む戦後激動の時代、自分の死後、自活能力のない愛娘の、残り半分の人生をどうするか?という切実なお話だったのでした。 壺…特に気にならずに観てしまいましたが、私はこの父娘に性的な暗喩は感じませんでした。だって、この映画の主役は父でしょう? 壺は本来、食料を入れたり、花を挿したりするものですが、あの壺はそのような用途には使われていません。泊まり客の目を楽しませる、本来の用を成さない“置き物”です。おそらく、父と娘で仲良く暮らす、今のままの紀子を表しているんでしょう。二人一緒だと楽しいけれど、人として生まれながら、何の用も成せない、置き物のような存在になってしまう。 寝室の壺の後に、竜安寺の石庭が映ります。400年以上変わらないものを見つめ、ガラッと変わった戦後の日本を生きていく人間として、娘だけでも変えてあげなくてはいけない。そんな決意を固めたんでしょう。 「なるんだよ、幸せに」娘の幸せを一番に思う父の気持ちに、一人リンゴを剝く背中に、温かい気持ちになれました。 [DVD(邦画)] 9点(2024-12-18 22:54:01) |
2. バットマン ビギンズ
《ネタバレ》 “Batman Begins”『バットマン~始まり~』。タイトルの通り、徹底してバットマンの誕生秘話の作品です。よく見知った姿のバットマン(完全体)が登場まで約1時間、それまでブルース・ウェインの成長物語が続きます。 この当時、過去の名作と言われたSF映画がどんどんリバイバルされていて、作品の質も玉石混交。そんな中、バットマンは前作 Mr.フリーズからたった8年。当初は『ずいぶんと期間を開けた続編だなぁ』なんて思っていましたが、まさかたった8年で新シリーズを立ち上げるとは。当時はまだ、バートン版から4作続いたシリーズの記憶が鮮明過ぎて、どうにも新シリーズを観たいって気持ちにはなれませんでした。 渡辺謙が出てる。装甲車のようなバッドモービルと、何かと関心はありましたが、公開当時の周りの反応は『地味で暗い作品』だったと記憶してます。確かに前のシリーズが独特な世界観と漫画っぽいキャラクターが印象的だったので、シリアスでリアル路線の本作に違和感を感じたのもわかります。 本作はバットマン映画であり、同時にブルース・ウェインの映画でもありました。 バットマン映画として見ると、この作品は、続く『ダークナイト』を盛り上げるための序章に思います。映画1本まるまる使った序章って言うんですかね?。最後、カードを使った次回作への続きかたは、とてもワクワクする引っ張り方でした。そしてダークナイトが期待以上の作品だったため、本作の割り切った誕生物語が際立ちます。 単体で考えると、ブルース・ウェインの映画として観るのが一番の楽しめます。コウモリのトラウマ。両親殺害の犯人への復讐心がしっかり描かれていて、とても人間らしいウェインになっています。素顔の時はウェイン産業の大富豪として、プレイボーイの仮面を被って生活をし、夜はマスクを被って悪を倒す。この逆転現象も魅力的でした。 [DVD(字幕)] 7点(2024-12-04 22:34:39) |
3. ハイランダー/悪魔の戦士
《ネタバレ》 “Highlander”高地に住む人の意味だけど、本作のは『スコットランドのハイランド地方の戦士』です。 現代の大都会。ロングコートに日本刀の組み合わせの妙は、この映画から生まれたんでしょう。目付きの悪いクリストファー・ランバートとダークな世界観。テレビで観た当時、ターミネーターに引けを取らない、それはもう相当な衝撃を受けました。 当時も話題だったカメラワークは今観ても秀逸です。ドローンもない時代、大きく重たいカメラを、吊るしたり振り回したりして、あの映像を撮っていたんでしょう。大変な労力を想像すると頭が下がります。 主人公コナーは影があって暗いんですが、彼の周りは明るい奴らが多くてバランスを保っています。特筆すべきは名優ショーン・コネリー演じる“スペイン孔雀”。作中最高齢だろうけど、いつもチャラくて安心感がにじみ出てます。クルガンも悪党らしい悪党で、教会で嬉しそうに蝋燭の火を消すシーンが子供っぽくて大好きです。秘書のおばさんレイチェルとの出会いの秘話。けっこう色んな作品に影響を与えてますよね。ちょっぴりホロリとさせます。 最も衝撃だったのがクイーンの“Who Wants to Live Forever”の美しさと悲しさです。不死を恐れられて故郷を追われたコナーは、明るく美しいヘザーとずーっと一緒に暮らします。ずっと容姿の変わらないコナーと、年老いても明るいままのヘザー。避けられない死の悲しみと残される者の孤独。当時中学生でしたが、この楽曲と相まったこのシーンの美しさを超えるものは、映画史上そう多くは無いでしょう。 『永遠の命など 誰が欲しがる』このシーンを観て、この歌詞を付けたブライアン・メイの才能が光ります。私も早速、そうご電器YESでクイーンのアルバムをレンタルしてきましたよ。『アイアン・イーグル』のテーマ曲も入ってお得なアルバムでした。 この曲の邦題『リヴ・フォーエヴァー』って言うんですが、なんかそっちだとOasisの同名曲のイメージが強いです。そしてこの映画に関しては、邦題で省略されてる“Who Wants to”の部分がとても大事だと思いません? この映画以降、もっとダークな世界観を上手に表現した映画がたくさん出てきたので、思った以上に本作が脳内美化されてました。 私と同世代で、当時衝撃を受けた方。あの時以来、久しぶりに観てみようかな?なんて思うかもしれませんが『ネバーエンディング・ストーリー』と並んで、当時の美しい思い出に留めておいても良い映画かもしれません。もちろん、この映画の輝きは一生涯変わることはないんですが。 [地上波(吹替)] 7点(2024-12-01 16:07:29)(良:1票) |
4. PERFECT BLUE
『パーフェクト・ブルー 完全変態』という小説が原作(原案かも)で、タイトルの意味は良く解らないそう。 '90年代、羊たちの沈黙の大ヒット以降、サイコ・スリラーものがたくさん創られたけど、日本のアニメの代表作が本作かもしれません。 沙粧妙子みたいな劇中劇の効果もあって、アイドルへのストーカー犯罪として進行しますが、そのターゲット=ヒロインが、人気女優でもクラスの人気者でもなく、デパートの屋上イベントで歌ってる売出し中のアイドルグループの1人で、女優への方向転換期というのが、彼女の立場の不安定さを表しています。 当時はアイドル業界はモー娘。がデビューする辺り。インターネットが一般社会に普及していく拡大成長期。そしてジャパニメーションを世界中の映画関係者が観だした辺り…でしょうか。 ファンがあっけらかんと「未麻の部屋見てるよ~」というのにドキッとしました。あぁファンサイトの事か。と思ったらストーカーの本人なりきり日記風な内容にゾワッと…アイドルへの思いが独り歩きし、勝手な妄想と結びつく。それは未麻本人とは違う、ファンが勝手に作った未麻。現実の未麻が妄想の未麻と乖離したときに感じる不満と怒りが犯罪へと向かわせる。…って流れに思わせといて、女優を選んだ未麻自身の中にも、自分とは違う未麻が生まれ、どこまでが現実で、どこからが妄想か解らなくなってくる。でも現実世界はどんどん進んで、世間の思う未麻と、自分の思っていた未麻も乖離していく。怖い。最後は『うへぇ…』ってなりました。傘を持ってニコニコと追い掛ける妄想未麻と、鏡に映る必死に走る現実の犯人。あれは、誰視点の未麻だったんだろう? アイドルって、こんなにも気持ち悪いものに囲まれてるんですねぇ、怖いですねぇ。最後、未麻が立ち向かったからホッとしましたが、下手すると作品全体の気持ち悪さと不快感の方が、勝ってしまったかもしれません。 本作の素材としての魅力は感じますが、面白いかと言われると微妙です。そう思ったのは、私にアイドルオタクの資質がないからかもしれません。アイドルに対するストーカーやルミの気持ちが、私には自分ごとのように共感できなかったんでしょう。そういう人たちがいて、そういう気持ちが芽生えて、で、そんな事になってしまったって、うわべの部分しか理解できなかったんでしょうね。 [DVD(字幕)] 5点(2024-12-01 14:52:57) |
5. ハンバーガー・ヒル
《ネタバレ》 “Hamburger Hill”『ハンバーガー・ヒルの戦い』。アパッチ・スノー作戦の中で行われた、エイショウ渓谷にある937高地の、北ベトナム軍要塞攻略の激戦。 '80年代中盤、ベトナム戦争と真摯に向き合う社会は作品が多く創られるようになりました。本作は時代を変えたフラッグシップ作品のプラトーンの、5ヶ月後(日本)という好条件で公開されたため、記事なんかで『もし本作がプラトーンより先に公開されていたら、アカデミー作品賞も変わっていただろう』なんて書かれていた記憶があります。 ただ本作にそこまでのドラマ性、映画として惹きつけられるものはありません。同年代のベトナム戦争映画のように、観ながら考えさせられる要素が無いんです。ただ、丘を登っては撃退される、激しい戦闘シーンが延々と繰り返されるばかり。どれが誰だか、誰が生きてて誰が死んだんだか解らなくなってきます。戦場で兵士同士が戦うシーンの連続が、こんなにも平坦で無意味に感じるとは。 俯瞰してみると、北軍の要塞を攻略するという達成目的と作戦期日があるんだけど、本作はイチ歩兵部隊の目線で描かれているため、いつまでも終わらない戦闘と、次々殺される戦友の繰り返しが、現地の兵士のやりきれない気分を味わわせてくれます。 今回、いちご白書を観たあと、無性に本作を観たくなりました。アメリカ本土では平和の歌を歌って学生運動をしているさなか、遠くベトナムでは同年代の若者が丘を登って殺されてるこの対比。映画としてのドラマ性が低い本作こそ、若者が戦争で死んだ意味をダイレクトに伝えてくれるようにも思えました。 敵の数が多いだけで戦略的にあまり重要じゃなかったエイショウ渓谷攻略作戦。攻略後、一ヶ月もしないで放棄された要塞。多数の死者を出した本作戦を転換点として、アメリカの世論は、ベトナム戦争に対し批判的なムードに傾いていったそうな。 ま、当時も今も、この映画単体では、魅力を感じにくい作品ではあります。 [ビデオ(字幕)] 5点(2024-09-14 23:20:11) |
6. ハワード・ザ・ダック/暗黒魔王の陰謀
《ネタバレ》 “Howard the Duck”『アヒルのハワード』の本名が『ハワード・T・ダック』みたいです。実は私が小学生の時、人生で初めて劇場に観に行った字幕洋画が、このハワード・ザ・ダックです。…鑑賞は2番目になりましたが。 公開直前は、“卵の殻から飛び出た葉巻を咥えたクチバシ”のイメージ図くらいしか発表されず、ハワードがどんな顔でどんな容姿かは謎でした。E.T.と同様の手法を取ったんですね。当時それなりに話題になっていたこの映画のウリは“ジョージ・ルーカス製作総指揮”の一点でした。 近所の同級生たちと、土曜の学校のあと観に行った、思い出深い映画です。あのスター・ウォーズの巨匠ルーカスが、E.T.やグレムリンのような愛くるしいキャラクター映画を創った。ウワサでは『ハワードのキャラの完成度から、ドナルドダックを抱えるディズニーが危機感を感じて訴えた』とか…そりゃ面白くないハズがありません。 NYっぽい大都会、マンションの一室、帰宅する小柄な男。特に引っ張るでもなく姿を晒したこの生き物は…あ、ハワードだ!これがハワードかぁ。こんな顔なんだぁ。アメリカじゃ、こういうのがカワイイのかぁ…いきなりエロ雑誌見るし、アヒル女性の入浴シーンが出てくるし、アヒル版バカ殿様みたいでしたが、笑うまでには至りませんでした。むしろキモカワ系のアヒル人間の容姿に目が慣れるまで、時間を要した気がします。 当時から思っていましたが、謎だったハワードの容姿に見慣れると、残る観どころは“リー・トンプソンのキュートさ”くらいなんですね。みんなの感想も「ビバリー可愛かった」でした。「痛いところない?」「プライドがちょっと…」など、ウィットに富んだハワードのセリフも、小学生のガキンチョ共を笑わせるには、ちょっとハードル高かったです。財布に忍ばせたコンドームなんて、まだ意味解ってないし。それでも私は、自分の星に帰る道を諦め、自分をいじめた人間のため、暗黒魔王と戦って命を落とした(演出)ハワードに、素直にうるうるしてました。 帰り道みんなで「ハーワード・ザァダッック!ウーッ♪」って歌ってました。でも、純粋に面白かったのは同時上映の方でしたね。同時上映の合せ技で、満足度は高かったんだと思います。 検索すると当時のチラシが出てくると思いますが、同時上映との面積比率が7:3くらいでハワード・ザ・ダックは7の側。それだけ、本作には力が入っていたって事でしょう。で、合わせ技でやっと満足。インディ・シリーズはスピルバーグとの共同制作だったけど、実はルーカスってスピルバーグに“おんぶにだっこ”なんじゃないか?って思えるようになりました。『ルーカスってスター・ウォーズだけの人だったのかも?』なんて印象になってしまいました。 振り返ると、映画の中で子供向けの笑い(ドタバタ)の中に、中途半端に大人向けの笑い(ハワードのジョーク)が入り混じってましたね。原作漫画は皮肉っぽいことを言う人間の格好をしたアヒルの漫画だったそうで、最近だと『テッド』がその路線で成功してます。ソッチに全振りしていれば化けた可能性もあります。でもルーカスは子供向け路線でやりたかったんでしょう。だってスター・ウォーズにイウォーク出しちゃうくらいだし。彼もスピルバーグのE.T.みたいに、子供が喜ぶキャラを生み出したかったんでしょう。 ハワードとは高校の時にも出会います。友達の家で集まって、夕飯を頂いたあと、時間つぶしに見せてくれたのがハワード・ザ・ダックでした。しかも当時も珍しいVHDビデオディスクでの鑑賞。一人っ子の友人は、わざわざVHDで買うほど、ハワードが好きだったんだな。久しぶりの私と初めて観る人たち。初ハワードの感想が「…魔王って割には攻撃ショボいな」だけでした。 そして近年「ハワードだ!懐かしい!」って、サングラスをしたアヒルのシャツをよく見ました。でも『ダックデュード』って別なキャラなんですね。…ルーカス訴えればいいのに。 [映画館(字幕)] 5点(2024-07-07 10:11:28)(良:1票) |
7. 阪急電車 片道15分の奇跡
《ネタバレ》 どこかスバルのCMを連想させるような、ちょっとジーンとくる、電車の乗客のショートストーリー。この映画を観て原作は読んでみたいと思いました。原作小説は恐らく、一話完結の短編集なんでしょう。 映画の方は、往路と復路で季節を変えて、同じ人物のその後を描くなんて、かなり素敵なアイデアです。そして日本の映画界&ドラマ界で主役を張る、名だたる名優達が共演しているんですから、どう組み立てたって素晴らしい作品になる事でしょう。…でも何がどうしてこうなったのか。 阪急電車という共通点だけで、それぞれが独立したお話だったら、テレビドラマの短編枠で魅力を発揮できたと思うけど、映画として全部のショートストーリーを繋げてしまったから、却ってまとまりが無く感じてしまいました。 主人公が辛い目に合うけど、アレコレあって元気を取り戻す&スカッと解決するという、あまりにステレオタイプなパターンの、単に盛り合わせという感じ。 一番辛かったのはうるさいオバちゃん。『誰かがビシッと文句を言って、スカッとさせるパターンだな』とは思いましたが、往路も復路もず~~っと、ず~~~~~~~っとギャアギャア騒ぎまくるのを観るのは、正直辛い。最後のスカッとが割に合わないくらい、アレを観つづけるのがしんどかったです。 戸田恵梨香のDVも可哀想だったし、小学生のイジメも生々しくて嫌だった。女子高生が、彼氏とヤッたかどうか恥ずかしげもなく話すのも生々しいし、そうなると喫茶店でデキ婚を問い詰める修羅場も、あわせ技で辛い方に入ってしまう。この映画、スカッとホンワカする率より、辛くしんどく感じる率の方が3:7くらいで高いんじゃないか?と 中谷美紀の電車でウエディングドレスはパンチと意外性があって良かったです。ホテルでバスタオル一枚の有村架純を抱かない彼氏もカッコ良かったです。 大学生カップルの話は終始ほのぼのしてて良かったですが、CGの漫画チックな表現は、私はあまり好きではありません。ずっと前から、実写にアニメみたいな表現って、何か浮いてる気がして合わないと思っています。アメリカン・ビューティの薔薇くらいだと違和感無いんですが… うるさいオバちゃんにビシッと言う前の宮本信子の“独り言”も、ちょっとアニメっぽい表現で、実写では違和感を感じます。ここに限らず作品全体がアニメっぽく、私は「こんな人現実に居ねぇよ」と、実写としてのリアリティを感じられなかったです。いっそアニメにしてしまえば、シックリしたかもしれません。 う~ん…やっぱオバちゃんだな。往復ともずっとうるさいオバちゃんに注意アナウンスもしない阪急電車ってのが、顧客満足度低そうに思えてしまって、誰得の映画なのか解りませんでした。 [CS・衛星(邦画)] 4点(2024-06-21 19:41:22) |
8. ハドソン川の奇跡
《ネタバレ》 “Sully”チェズレイ・サレンバーガー機長のニックネーム。邦題は当時のNY州知事が“Miracle on the Hudson”と呼んだことから付けられているみたい。ちなみに事故機の航空会社USエアウェイズは、本映画公開の前年にアメリカン航空に合併されてました。 『世界仰天ニュース』なんかで、よく航空機事故からの生還ドキュメントが流れますが、本作はテレビと違って劇場映画、細部まできちんと描写していて、良く出来た再現映像となっていると思います。乗客155名全員生還という奇跡だったので、映画化も納得なんですが、やっぱり気になる点はあります。 映画ポスターのキャッチコピーが『155人の命を救い、容疑者になった男。』事故再現とともに本作のキモの『操縦ミスの可能性』。サリー達を苦しめる国家運輸安全委員会(NTSB)の追求は、実際は穏便に済んだそう。 映画を盛り上げるうえで創作を膨らませるのはアリなんだけど、事実に反し、NTSBが一方的に悪者として描かれたのは如何なものだろう。 離陸からわずか5分程度の事故だしなぁ。96分と短い映画だけど、それでも1本の映画にするには、やっぱりドラマが少なかったんでしょう。サリーを容疑者にしてしまった理由もわかります。 例えばだけど、もしこの事故で、1名でも死者が出ていたなら、154名の生還が奇跡で、サリーが英雄なのは変わりなくても、サリー自身はきっと思い悩んだことでしょう。でも、だれ1人として死んでないからなぁ。エンジンが片方生きていた可能性とか、空港に引き返せた可能性とかは、報告を受けたサリーが事故後に一人で悩んでいた事として、それをNTSBがサリーの判断の正当性を科学的に裏付ける。なんて展開でも良かったように思う。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2024-06-06 23:07:28) |
9. 花嫁の父
《ネタバレ》 “Father of the Bride”邦題まま。リメイクを観たばかりで、本作の存在を後から知って、観たいなぁと思ってたらBSでやってくれた。ありがとうBS!で、期待通り面白い作品でした。 コメディの中でも“HowToもの”とでも言うんだろうか、結婚式の晴れの舞台の舞台裏。誰もが直面したであろう、豪華さと比例して出ていく底なしの金額の恐ろしさ。出費で削るところは削るとしても、どこを削ればいいんだろう?という楽しさは、万国共通なのかもしれない。 娘の結婚が突然過ぎて、相手のアラ探しをするけど何も出てこない不満。娘の連れてきた男を信頼して落ち着いてる妻にも不満。自分が心配だからって妻まで心配にさせるなんて、良い意味で人間臭くて、良くも悪くも器小さくて、とってもリアル。親同士の話し合いで、酔っ払ってついつい余計な事までべらべら喋るのも、緊張から開放された感も上手い。 招待客1人に付き3.75ドル。1950年の1ドルっって幾らなんだろ?日本円で360円だけど、当時の貨幣価値を考えるとラーメン1杯20円…そりゃ家族で膝を合わせて招待客の取捨選択するわ。1500ドルで駆け落ちの打診なんて、本心じゃないの解るけど、そこまで悩んでる感がとても良く出てる。 ハティ叔母さんのセンス悪い時計から「送り返して!」の流れも綺麗。リメイク作と本筋は変わらないんだけど、やっぱり面白い。自分が式をメチャクチャにする悪夢も、何か本当にそんな夢見そうで怖い。その直後結婚式を不安がるケイを慰める姿が涙ぐましい。自分だって怖いのに。 あれだけ盛大な式のお金を出して、式の当日まで裏方並みに準備をして、教会で花嫁を渡したら、それで役目が終わる。 あぁ、父って偉大。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2023-06-26 09:18:11) |
10. バラ色の選択
《ネタバレ》 “For Love or Money”ん~…単純に『愛か金(成功)か』で、良いのかなぁ?単純だなぁ。 マイケル・J・フォックスがニューヨークを舞台に、ちょこまかと駆け回るコメディ。邦題からも、あのヒット作の路線でもう一発。って香りがします。 当時コンシェルジュが日本でどれだけ浸透していたか分からないけど、バタバタしながらもダグはコンシェルジュとして有能。ホテルのスタッフも個性的で楽しいし、いい職場だなぁって思ってしまう。ダグが天職に就いてるモンだから、あの映画のように『不遇な立場からの一発逆転劇』感は薄い。 ガブリエル・アンウォーは可愛いけど、アンディはどう考えても騙されてる女って役なので、有能なダグがアンディの顔以外のどこにあれだけ惚れたのかが、イマイチ伝わってこない。 終盤のダグとアンディの口論が、イヤミっぽいダグとアホっぽいアンディって感じで、「あーこの2人合わないわ」って思ってしまいました。 ハノーバーの契約チラつかせながらの無理強いに加え、ダグとアンディがくっつくのが本当に幸せか?って疑問が湧いて、適度にストレスが溜まっていくんだけど、最後の10分くらいにバタバタっと終わるので、あまりスカッと爽快感は感じられない。ハノーバーとアンディは都合よく自滅。それも歌のせいって、ハノーバーが失言してなければ関係続いてたんだろう。だから、マイケルがあの手この手で追いかけるのも、見た目は楽しいけどそんなに重要じゃないんだよね。ケチなウェグマンさんがあんな感じな役どころなのは、お約束の安心感があるけど、それにしても唐突な感じ。 “Not For Love or Money”で『あり得ない』って意味だそう。 その“Not”を外して『あり得ない。事もない』ってタイトル訳だとどうでしょうかね?唐突感も少しは薄まる? [CS・衛星(字幕)] 4点(2023-05-14 14:06:31) |
11. 花嫁のパパ(1991)
《ネタバレ》 “Father of the Bride”邦題まま。 OPで流れるシャンパングラスの泡が観ていて飽きない。'90年代の映画にしてもシンプルな内容で、どこか古典映画っぽい心地良さがあると思ったら、エリザベス・テイラーの『花嫁の父('50)』って映画があったのね。うん、これは是非観てみたい。 結婚の報告をするアニーを見る両親二人の対比が面白い。表情豊かに発せられる言葉に反応するママと、ハナから結論を出して固まっているパパ。パパが「ごめん、なんて言った?」のあと「結婚するの」って言うアニーが子供になってるのが、あぁ、パパには自分の娘が幾つになってもこう見えてるんだな。って納得してしまった。 本気の1on1の本気具合が父娘の仲の良さをヒシヒシ感じさせる。 サボテン・ブラザーズ以来の共演、マーティン・ショートが出てきてからの、濃ゆい笑いも結構好き。 “50年ぶりの寒波襲来”のナレーションに、どれだけハチャメチャな結婚式になるのかと思いきや、結構まとまった綺麗な式に仕上がっていた。パパはてんてこ舞いだったけど。 入場曲のカノンを聞いて、新郎新婦のキスを観て、ライスシャワーを観て、披露宴を観て、ブーケ・トスを観て…結婚式って、良いなぁ…って思った。自分たちの晴れの舞台をみんなに見せる。家族が主演となって新郎新婦を盛り上げる。娘を手放す父親の悲しみを披露宴の盛り上がりで打ち消す。結婚式って、世界共通の大事な家族儀式なんだなぁ。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2023-04-18 21:54:41) |
12. バーン・アフター・リーディング
《ネタバレ》 “Burn After Reading”『読んだ後燃やせ』。機密文書などで使われるフレーズらしい。 執筆中の暴露本の中身を何故知っているのか?ロシア大使館にリークした情報が何故CIAが知ったのか?クローゼットに入っていた男は誰か?コッチは全部解っていて観るから、登場人物の行動が滑稽に、バカバカしく観えてしまう。 CIAの最終決断がタイトルに繋がる理由がもう、早い話『面倒くさいから』なのも面白い。 ブラッド・ピットは見るからにアホな役をしているけど、ジョン・マルコヴィッチは凄い立場だったのかと思いきや、実はそうでもなかった人も出てくる。個人的に、『セッション』の印象から性格がしつこそうなJ・K・シモンズが事なかれ主義だったり、『俺がハマーだ!!』の印象から破天荒そうなデビッド・ラッシュが気を使う立場の中間管理職だったりが、なんか面白かった。 みんな自分の立場で、時に真剣に、時に命がけで精一杯アホなことをしている。そのアホの連鎖のそもそもの引き金が、自己満足に近い美容整形代の為。というのも、どうにもこうにも…コックス、ハリー、リンダのその後がどうなったか?が気になるっちゃ気になるけど、それこそ“Burn After Reading”なんだよね。ってオチなんだろうな。 [インターネット(字幕)] 6点(2023-03-26 18:24:21) |
13. 8 1/2
《ネタバレ》 フェリーニにとって“8と1/2作目の監督作”って意味とのこと。読み方が“はっか”なのも、知らなかったわ。若い子とDENONの読み方でお互い??マークが出たのを思い出した。 出だしの大渋滞、視線、すし詰めのバス、息苦しい出られない、開放感からのロープ。あぁ、これ夢なんだ。このあたりの“伝わる表現”は、きっと多くの人にも理解しやすく、凄いものが始まった感がした。 目覚めのシーンから温泉療法(海外の温泉お使い方が面白かったけど)のシーンへ。新しい映画の脚本を読ませた知り合いの感想『映画全体が訳の分からぬ挿話の羅列だ』が、まさに私が今見ている映画の感想。物語がどこに向かっていて、着地点も注目すべき点も意味不明で、ただ流されて観続ける感覚を覚えた。 「わっかんないわ・・・。」が観終わった感想。次から次と出てくる女。友人に家族。映画のスタッフと思わしき連中。初見、仕事の疲れもあって私は寝てしまった。翌日途中から観直そうと思ったけど、どこまで観たか思い出せず、2回めも睡魔に。この時はアサニシマサ辺りだったから、かなり早い段階でリタイアしていた。3度めでようやく完走。夢と現実、思い出が交差する複雑な構成なので、初見は戸惑うのは仕方ないだろう。複数回観ることで理解も深まりそうだけど、まだ完走一回の私にはサッパリだ。 巨大な宇宙船発射台のセット。新旧入り混じりの欲望丸出しワガママの極地なハーレム。現実が極端なら虚構も極端。 追い詰められて逃げ出したいなか、自分の意志とは関係なしに進む制作現場。逃げ道は右のポケットに入っている。自殺からの最後の大団円が、序盤の知り合いの脚本家の感想とともに、この作品が世間に受け入れられない場合の逃げ道にも思える。 でも世間に評価された。フェリーニの最高傑作とも言われる本作。 でもこんなの創っちゃって、評価もされたら、もう後戻りできなくなって、次から何を創っていけば良いのか、解らなくなりそう。 [インターネット(字幕)] 5点(2022-11-19 19:59:13) |
14. バケモノの子
《ネタバレ》 画はとても綺麗なんだけど、結局何を伝えたい物語かよくわからなかった。 蓮がオープニングで語られた渋天街に行くあたりは、千と千尋のよう。きっと渋天街の不思議な習慣とかが描かれて、最後は人間の世界に帰っていく…のかと思いきや、中盤でアッサリというか行ったり来たり出来てしまう。 渋天街の住人はバケモノなんだろうけど、人間+動物の組み合わせで、そして現在より少し古い、機械化されていない普通の生活をしている。熊徹の巨大化とか、一郎彦の念力とかあるけど、特段ガラパゴス的進化は感じられなかったかな。これがバケモノ?容姿が違うだけで人間と同じなんじゃ?…なんか、不謹慎だけど、見世物小屋の牛女とかを思い出してしまった。 渋天街も最初こそ個性を出そうと頑張ってたように思えたけど、結局人間界のちょい古い時代に落ち着いてたように思う。渋谷と繋がってるなら、車とかスマホ、パソコンなど便利な技術とか持ち込んでもおかしくない気がするけど、それはしない謎。 蓮の成長物語(成長はするけど)かと思えば、熊徹の勝負がクライマックスっぽく、最後の一郎彦との戦いは、2人の因縁が薄すぎて、まるでとってつけたかのような印象。 熊徹が剣になって九太と一心同体になるのって、どうだろう?蓮これからお父さんと暮らして(イライラしそう!)、楓との男女の関係も進んで(やりにくい!)、勉強もいっぱい(退屈そう!)するんでしょ?熊徹が中の人って…剣として子の中で生きるなら、猪王山の方が、闇落ちから復活した一郎彦の中で生きるストーリーの方が、きっと多分スッキリ出来ただろう。 楓もいまいち何がしたくて、なぜ蓮と一緒にいるのかもよくわからない。蓮の父親の存在も、出て行った過程や、母の死後すぐに連絡が取れなかった過程、母方の親戚に父親があれだけ嫌われる理由が、あれだけのシーンでは想像つかず。そしてイマイチ共感出来ず、どうにも消化不良。 [CS・衛星(邦画)] 4点(2022-10-31 22:13:10) |
15. バトル・ロワイアルⅡ 【鎮魂歌】レクイエム
《ネタバレ》 当時から“創らんほうが良いんじゃない?”感が強かった気がしたけど、思った通りの出来な続編。竹内力の怪演は観ていて清々しいけど、それ以外は観るべきところが…当時世間にショックを与えたプライベート・ライアンを意識した解りやすい上陸作戦。お手本があるだけにアクションシーンは迫力あるかも?だけど同じような画ばかりなので上映時間の長さから飽きてしまう。 本作失敗の理由の一つが、登場人物の多さ。42人の生徒+七原たちテロリストだから絶対描ききれない。だから2人1組の爆弾設定だったのかも。そうしとけば半分勝手に死んでくれるから。2番めの犠牲者、女子十五番・福田和美の最後なんて酷いもので、ちょっと笑い取りに来てる感がとてもトッテモ鼻についた。もうバトルロワイヤルの設定の表面の薄皮部分しか生かすつもりがなく、生徒一人ひとりの個性とかどうでも良く、表面上のわかり易さだけで入れたシーンのように思えた。そもそも制服から軍服に着替えさせたら学生の意味がない(※七原を騙す目的にせよ)。その後の上陸シーンでどんどん死んでいくのが、自己紹介もされなかった出席番号16番以降の子たち。おいおい解りやすく手抜きすぎだろう。 上陸してからもダラダラが続いて、テロリストと合流してもダラダラしていて、最後の戦闘もなんかダラダラしていて、ダラダラ終わった。 殺し合いゲームから戦争ゲームへ。生徒個人の掘り下げからテロリストの戦う理由の掘り下げへ。もうバトル・ロワイアルの考えさせられる要素が殆ど無くなってた。 七原、河田のバンダナに国信のナイフ。だけど異国異国したエキゾチックな格好が情報量多すぎて全然活かせてない。 北野、彼女を主人公にして話を絞るべきだったと思うけど、キャストが多すぎて埋没してて、いまいち活かしきれてない。 やはり最初と最後の竹内力。あの格好で「トラァーーーi…」最後まで言わせろよタッチダウンさせろよ。 鎮魂歌(レクイエム)って、深作欣二監督に対しでしょう?あれだけ、遺作だなんだと深作作品全面押し、負んぶに抱っこだったから。もし監督が最後までご存命だったら…イヤでもコレは、良くなる要素が殆ど思いつかない。きっと深作監督も、ほとんど口出ししないで、これからに人たちに丸投げで任せてたんじゃないかな。いつお迎えがくるかわからない中での制作だったし、それはそれで親心だったのかもしれない。 [インターネット(邦画)] 2点(2022-10-06 10:59:04) |
16. 博士の愛した数式
《ネタバレ》 人生初の国際線の機内で観ました。まだ劇場公開中の映画が観られるなんて、すごいなぁって思いました。そんな思い出補正もあるんだけど、結構好きな映画です。 邦画ってお色気シーンがあるものと思っていたから、ちょっと敬遠していたんだけど、この映画はそういうのが無くてスッキリ楽しめました。それこそ、劇中のルートくらいの子に観てほしい映画。 絵に書いたような素直な学生たち。悪意なくからかわれて人気者の先生=最初の授業っぽいけど既に√ってあだ名が浸透してるとか、まず無い。 理解ある家政婦紹介所とお義姉さん=派遣に子供連れて行って一緒に御飯とか、現実問題無理だろう。 博士を受け入れる少年野球チーム&背番号の変更=背番号は杏子が事故のことで監督と取引したのかも? なんて、私みたく斜に構えた観方ではなく、子供だったらこの映画がすぅ~~っとまっすぐに入ってくるんじゃないかな? 階数、素数、完全数、π、i、e。算数の段階から数字が苦手だった私でも、数学の面白さや神秘性が伝わった。なんかこんな話を学生の頃に聞いていれば、もしかしたら苦手意識無く楽しく学べたかもしれないな。この映画をキッカケに、数学の楽しさを探究したくなる若い子が出てくると思う。 そして記憶を持ち続けられない博士との交流は、人を思い遣る気持ち、人を悲しませない付き合い方を知る、とても良い学びの機会になっていると思う。 ルートが怪我をした時の母親の一言。博士におぶさって、母の被せたキャップをはたき落として気持ちを示す一連のシーン。謝る母親をちゃんと許すところとか、10歳にしては大人すぎてるとは思うけど、やっぱりジーンと来てしまう。…しかし、ほんと吉岡秀隆ソックリな子役を見つけてきたモンだわ。 せっかく主人公を杏子からルートに変更したんだし、純粋に子供向けに創っても良かったのに。 お義姉さんの話は子供には難しいんじゃないかな。それこそ自分たちの曾祖父母(?)の年代の恋愛話だから、子供はどう観るんだろう? 17年前の事故から時間が止まっている博士だけでなく、未亡人もまた、時が止まっているように思えた。1986年の話のようだけど、その年代から観ても古いお屋敷に、和服を着てキッチリ化粧をした未亡人。彼女には老いていく自分を博士に見られたくない気持ちがありながら、博士ひとりを17年前に置いていくことも出来ない優しさ、そして罪の意識から自分からは何もしてやれない悲しさが感じられる。 杏子に対する博士の思いも気になった。事故にあった時、博士は47歳だったそうだ。 杏子は28歳。明るくて屈託なく、グイグイ来る性格。ん?ルートは杏子が18歳のときの子か。で、18歳から家政婦やってるのか。 熱中症から目覚めて、自分の記憶が保たないことを知って悲しむ博士。杏子の手を握り、女の手の暖かさを知る。 そしてこのあときっと鏡を見て、自分が既に64歳の老人になっていることに気がつく。 気持ちは47歳なのに、目覚めたら64歳になってる博士は、28歳の杏子に対し、恋愛とはまた違う何かの感情を感じていたんだと思う。 220と284は友愛数と教えた博士。友愛数は親和数とも言うそうだ(※もちろん知ってたんでなく、調べました)。 だけど敢えて“友愛”の方を伝えるあたり、恥ずかしがり屋の博士の気持ちが込められていたのかもしれない。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2022-09-12 22:52:39) |
17. バットマン リターンズ
《ネタバレ》 大ヒット作バットマンの続編なんだけど、今回バットマン=ブルース・ウェインにはあまりスポットが当たっておらず脇役扱い。前作から3年しか経っていないのに、早くもスピン・オフ感が出ています。 じゃあ主役は誰か?キャット・ウーマン?ペンギン?マックス・シュレック?どれも一癖二癖ある悪役だけど、3人もいっぺんに出てしまったため、前作のバットマンにとってジョーカーほど強敵感が出なかったと思う。 キャット・ウーマン単体でも映画になったと思うけど、彼女が徹底した悪じゃないことと、クリスマスにヒーローが女性を痛めつける映画はどうだろう?って感じで。かと言ってマックスは表向き普通の人だし。やはり怪人を出したいってことで、ペンギンをくっつけたのかな? マックスは置いておいて、キャット・ウーマン、ピッタリしたラバースーツはとてもセクシーで魅力的。鞭さばきも華麗で格好良かった。変身前のドテドテ歩く野暮ったいセリーナも可愛くて、ミシェル・ファイファーにピッタリの変身キャラだったと思う。これだけ魅力的なキャラを1回で終わらせるのは惜しい気が…9つの命ももっと掘り下げてほしかったように思う。 ペンギン。手や鼻に限らず、服の下の体型が異形で、幼い頃に捨てられた理由も解る。けど彼がどうやってサーカスギャングを率いたか。また傘のプロペラ飛行装置や、ペンギンミサイルの高度な科学力・財源が不明で突飛だったので、もう少し知りたかった。 勝負はバットマンの圧勝なんだけど、それぞれの物悲しい最後は見事で、こんなクリスマス映画も悪くないなって思った。 しかしゴッサムシティって、あんな変なギャングがウジャウジャいるのが普通なのかな?前作では普通のマフィアがいて、ボスになったジョーカーの趣味に下っ端が付き合わされてた感があったけど、本作はいきなりピエロだもんな。あ、でも犬と御婦人は面白かった。あの時犬が咥えたブーメランが、後のプリンセス誘拐の伏線になってたし。 人間(ペンギン)と意思疎通できるペンギン軍団も、前作の世界観から飛躍していて、最初ちょっとついて行けなかった。でもどれがCGでどれが人形かわからない大量のペンギンは、観ていて癒される。 あとニクソンとかベトナム開戦とか、アメリカの史実が単語として出てきたのも意外だったかな。 前作にあって本作にないもの。プリンス。当時のメディアミックスの成功例だったバットマンが、映画単体になってしまった。 [ビデオ(字幕)] 6点(2022-05-30 12:21:00) |
18. バグダッド・カフェ
《ネタバレ》 毎年1~2回、温泉目的で通る国道の、何の用事もない通過点の、いつもそこにある古いドライブイン。何度も通るから存在は知っているんだけど、一度も入ったことはない。『そういやあの店、昔からあるよな…潰れもしないで』『どんな客が使って、いったい何が食べられるんだろう…』『あの場所で暮らす人って、どんな人生歩んでるのかな?…まぁ、私には一生関係ないか』なんて、お店に立ち寄ったり、入る気なんてさらさら無いんだけど、ふとそこに住む人の人生が気になる事がある。バグダッド・カフェもそんな存在なのかな。どこかからどこかに向かう道にあって、殆どの車が前を素通りするだけ。ただ通過点に存在するだけで、それ以上の関心を惹かない店。 -Out Of Rosenheim- “ローゼンハイムから離れて”。 実在の地名だけど、なぜ劇中一度も出てこないジャスミンの故郷がタイトルなのか? 原題からこの映画は“ただ通過される側”の視点から描かれた異色のロードムービーなのかな?って思った。 そしてエンドロールで最初に出てくるのが、監督でもキャストでもなく、挿入歌“コーリング・ユー”。この映画を象徴するジェヴェッタ・スティールの幻想的な歌。この映画は映像より先に歌から出来た作品なのかもしれない。 舞台はカリフォルニア州のバグダッド(これも実在の地名)。ピカピカなお揃いの旅行バッグから、この中年夫婦は新婚旅行の最中だったのかもしれない。 道に迷ったか、行き先で揉めたんだろうか?アッサリと喧嘩別れしてしまう夫婦。 “コーリング・ユー”から生まれた映画だとすると、目的地のラスベガスとは逆方向に向かうジャスミン。本来は通過するだけだったモーテルに泊まることで観えてくる、触れ合う予定のなかった人々。何年もそのまま、そこにある建物。ただ車が流れ行くだけの国道。何の変化も起きないような、ずっと変わらないようでいて、ゆっくり流れていく時間。だけどたまたまそこに住み着いた人たちにも、それぞれの人生がある。 ジャスミンの手品が評判になり“ただ通過される店”が“立ち寄る価値のある人気スポット”に。彼女の手品とみんなの調和が生んだ大きな変化。 「Too much harmony(調和とれ過ぎなんじゃ!)」と去っていくデビー。みんな仲良く調和するよりも、些細な揉め事が絶えない、徐々に退廃していくギスギスしたカフェが良かった人もいる。 ローゼンハイム(薔薇の家庭)から始まったジャスミンの旅。目的地ベガスに行くこともなく、前夫もドイツ国籍も捨てて、アメリカ人と結婚という想定外の終着点を迎える。私には一生関係のない通過点のお店で、そんな人生を過ごしている人達が居るのかもしれない。…なんて考えさせられた一本。 [ビデオ(字幕)] 7点(2022-03-24 00:39:13) |
19. バベル
《ネタバレ》 -babel- “言葉の混乱”。 ベルベル語、英語、スペイン語、日本語、そして聾者。言語や言葉の違いに混乱する映画にも取れるけど、劇中そこまで言葉のコミュニケーションで困ってる様子はない。旧約聖書の時代とは異なり、バスには英語を話すガイドが乗っていて、移民の家政婦は二ヶ国語を話せて、聾者は筆談や唇を読んでコミュニケーションを図る。 -babelize-で“混乱を引き起こす”となるようだ。子どものたった一発の“試し撃ち”がテロ行為と誤解され、外交問題にまで発展し、世界中のニュースになる。 飲酒運転を誤魔化そうとした結果、子供を誘拐したと誤解され、不法入国の逃亡者になり、幼い兄妹の命に関わる事件を引き起こす。 警察が父を訪ねてきた事を、母の自殺を疑っていると誤解した娘。…でも何故日本?=銃による犯罪が少ない平和な国だから。かもしれない。 菊地凛子の聾者演技は素晴らしい。けど、今ひとつ事件(この映画のテーマ)との関わりが見えてこない。チエコはまだ処女なことに劣等感を抱いている。「あんたの親父とヤッて機嫌直す」。歯医者、刑事と年上との関係を求めるところから、父親への近親愛があるんだろうか?近親愛はお姉ちゃんの裸を覗くユセフにも観られたし…なんて書いたけど、どうも違うような気もする。 勇気を出して裸になっても誰も自分を抱いてくれない孤独。異性と上手くやってる親友と違い、バカは出来ても一歩踏み出せない自分。父親の家族愛しか知らない寂しさ。って感じだろうか? 日本人所有の銃で、モロッコの遊牧民の子に妻を撃たれ、アメリカに置いてきた幼い子供たちはメキシコの国境で死にかける。 ジョーンズ一家のワールド・ワイドな災難とも言えるけど、異国の登場人物のなかに、故意に人を傷付けようとする人は一人も居なかった。 スーザンを献身的に看病するガイドと老婆。一方で何も協力せず自分の身の安全ばかり考えるアメリカ人観光客。 必死になって救助を探すアメリア。妹のレイチェルが子守を引き受けさえすれば、アメリアも子供たちをメキシコに連れて行くことはなかった。 観光客もレイチェルも、同じ英語を話すアメリカ人同士なのに、言葉は通じるのに助け合わない。 別れ際、ガイドに現金を渡すリチャードと受け取らないガイド。心に対する感謝の気持が現金。 綿谷がハッサンに感謝の気持で渡したウィンチェスターM70。アメリカ製のライフルが、巡り巡ってアメリカ人を傷付ける。 現金と銃。世界に混乱を引き起こすのは言葉の違いではない。 [インターネット(字幕)] 6点(2022-03-02 01:19:39) |
20. パール・ハーバー
《ネタバレ》 -PEARL HARBOR- “真珠湾” 今回『トラ・トラ・トラ!(以下“トラ!”)』初視聴に併せて、改めて視聴。トラ!との比較が多くなるけどご容赦を。 真珠湾攻撃を真面目に映画化したって、歴史好きしか観ないであろう所を、タイタニックのような恋愛要素と、スターウォーズのような迫力の戦闘描写を入れてエンターテイメントにしたのが本作。興行収入的には大成功だったと思う。 数時間の奇襲作戦に、複雑な三角関係を収めるのは難しいから、過去に遡って恋愛を描くのは解るけど、恋愛と真珠湾が全く絡んでないのは問題だ。真珠湾攻撃中、男女は全く顔を合わせていないから恋愛は停滞。 この三角関係は、取ってつけたようなドーリットル作戦まで解決を見ない。創作だから幾らでも絡められただろうに。 イヴリンがダニーとの新しい愛に生きるのは否定できない。だけど真っ赤なチャイナドレスで男だらけの基地に行き、戦闘機に乗って、基地の倉庫でセックス…は無いわ。これをラブストーリーとして映像化された際、実際に戦争で夫を失い、生きていくために再婚した大勢の女性は、どう思っただろうか?ま、イヴリン独身だけど。 編集のしかたも疑問で、時系列をグチャグチャにしている。真珠湾攻撃から遡って恋愛を描くのは解るけど…具体的には日本パートで真珠湾攻撃前日(12/6)に、山本長官が「敵を混乱させるために敢えて暗号電文を送れ」と言っている。そのあと暗号電文に混乱するワシントン情報部の動きが入るけど、字幕では7月と。=山本長官の命令の5ヶ月前だ。トラ!では執拗に、情報を掴んでいたのに活かせなかった、米政府・軍部の失態が描かれたが、コレではまるで、ズル賢いヤマモトの策略にハメられたように観える。 またトラ!で丁寧に描かれた、日本が開戦直前まで戦争回避に奔走した外交的努力なんて、今回これっぽっちも描かれていない。トラ!では結果的に奇襲になってしまった描写があったが、今回は完全に奇襲を狙ったように描かれている。 あと日本軍人の日本語が吹替えで残念。きっとオリジナルだと、聞くに堪えない言葉で話してるんだろう。出演者全員が流暢な日本語を話していたトラ!より30年以上も経過してるのに、何だろうこの不自然さ。一番日本語が上手なのが、ハワイ在住のお医者さんなんて… でも写真にきちんと日本語で『戦艦オクラホマ』と書いてあったのは、唯一トラ!より勝った点。 言葉といえば、英単語も読めないレイフが、数ヶ月でイヴリンと手紙をやり取り出来るのが謎。この設定必要だったの? 零戦に果敢に挑むレイフとダニー。史実から日本軍の一方的な勝利の印象だったから、ウソだろ?創作だろ?って思って観てたけど、2人のモトになったパイロットが居たことを、最近になって知った。この2人はトラ!にも出ていて、タイタニックの“ジャック・ドーソンの墓”のように、想像力を膨らませる存在だ。 最新鋭の零戦に対し、非力なP-40を技量でカバーする2人。ってなっているけど、戦闘機は敵機を落とすのが任務だから、人を殺したり建物を壊すのは目的ではない。逃げ惑う非武装の兵員を盾に、基地低空を縫うように飛ぶ主人公機。誇り高い零戦乗りは攻撃がしにくかったろう。と解釈。 でも戦闘シーンの迫力は素晴らしく、ここは素直に評価したい。スターウォーズ特別篇のように、トラ!の追加映像に入れてほしいくらいだ。戦闘シーンだけ垂れ流しで観ると良いかも。 でもここで終わりでなく、この後まさかのドーリットル作戦ブチ込みにはズッコケた。真珠湾攻撃とコレは無関係なのって、当時の私でも解ってた。よっぽど、アメリカの負けで終わりたくなかったんだな…って。でも関係ないでしょ?パールハーバーと。 戦闘機乗りを畑違いの爆撃機に乗せて、看護婦のイヴリンを銃殺刑ものの機密作戦の無線室に入れて、あれだけおしっこ出させてまで機体の重量にこだわってたのに、拳銃と弾薬はたっぷり持って行くし。そして都合良く殺されるダニー。 どうせこんなの入れるなら、“悪のヤマモト長官”が彼らの爆撃でギャーッ!!って吹っ飛ぶシーンくらい、適当に入れればよかったのに。 パールハーバーというタイトルで映画を作るなら、真珠湾攻撃を核に物語を進めないと。起承転結の“結”も真珠湾にしないと。 この大人気ない映画が、誰の何の目的で作られたのか、いまいちピンとこない。国内の反日感情を高めたかったのか。日本が嫌いな大金持ちが自己満足で作らせたのか。そもそも日本なんて相手にしてなかったのか。 [映画館(字幕)] 2点(2022-02-08 22:21:10) |