1. ビッグ・リボウスキ
これまた実にコーエン兄弟らしい作品。 出てくる登場人物のすべてがズレている。いい加減な行動が齎すトラブルの数々は繋がりがありそうで繋がっていないし、その解決も努力や反省に基づくものではなく、単なる偶然や事勿れ主義による、なあなあな結果論。トラブルの元凶はそのままに、関係の無い人間が心臓麻痺で死んでしまい、おまけにその散骨された灰までもが、まるで死者の最後の突っ込みのように自分たちの方に戻ってくる始末。 しかし、そのちょっとした日常や常識のズレが醸し出す滑稽な人間模様の中に人生の本質が見え隠れする…ような気がしないでもないw。 コメディでもサスペンスでもない、「コーエンドラマ」とでも言うべき作品ではあるが、その「微妙」なところに作品としてハジけ切れないもどかしさや中途半端さを感じてしまうのも事実。 笑いの部分もかなり斜めに見ないと理解できないものだし、個人的にはもっと破綻した展開を期待していただけに、あの尻つぼみ気味な終わり方にもガッカリ。 決して一般向けの作品ではないので、やはり高得点を付けるのは躊躇われるので、この点で。 [ビデオ(字幕)] 5点(2005-07-24 23:01:54)(良:1票) |
2. 病院坂の首縊りの家
《ネタバレ》 古き良き時代の探偵推理もの。 とは言え、この大時代的なシチュエーションやドロドロとした人間関係、当時の垢抜けない世界観などは、さすがに今見るにはちょっと辛いものがある。 単に人間関係が複雑なだけで、本格推理としての謎解き要素がほとんど無いのも物足りない。「そっくりな人間が二人いる」というのも、ミステリーのギミックとしては反則気味だし、エレガントじゃないね。 桜田淳子の演技も気合が入ってるのは分かるけど、あまりにもオーバーアクション過ぎて、見ていて引く。 [映画館(字幕)] 3点(2005-01-25 04:04:50) |
3. 漂流街 THE HAZARD CITY
《ネタバレ》 外国の異文化により侵食された近未来の日本の姿を見ているような気分。舞台となる「漂流街」とは、まさに歴史の縦軸を喪失した「個人」が漂流する世界の象徴なのだろう。 その中で、ひとりの女との繋がりを保とうとする男を描いた物語。意外と深いテーマが根底にあるが、全体的にテンポが悪く娯楽性が薄い事と、主役を始め、出演者たちの濃いキャラクターに好き嫌いが分かれる点が難点。個人的には苦手。 4点(2005-01-17 19:10:52) |
4. 光の旅人 K-PAX
《ネタバレ》 妄想と宇宙人、どちらに決着をつけても疑問が残ったであろうから、見ている人に解釈を任せるという終わり方にしたのは妥当。その見せ方も絶妙で、「ひょっとしたら…」と思わせる引きの上手さがラストにある。 ただ、「現実を見ろ」という単純なメッセージを込めた作品ではなく、病院の患者達に及ぶ影響が「宗教」や「自己開発セミナー」のそれに近く、彼らの変化は必ずしも患者達の能動的かつ自立的な思考から生じたものではないと言う点には留意すべきだと思う。 つまり、人間にとって大切な事は、「客観的な真実」よりも、「主観としての真実」なのだろう。そこに自己欺瞞があるとしても、その弱さを持つのが人間というものなのかも知れない。問題は、それで前向きになった事をどう考えるかという事と、それを本人が自覚しているかどうか。 また、作品としては全体的にちょっと展開がスローテンポなのがマイナス。謎に関しても、「彼が宇宙人かどうか」という点の検証をもっと徹底して欲しかった。無駄なシーンを編集し直して、時間を短め(90分前後)にしてくれれば飽きずに最後まで見られたはず。 そういう意味で、傑作と言うには、今一歩、何かが足りてない。惜しい。 [ビデオ(字幕)] 6点(2005-01-03 21:33:42)(良:2票) |
5. ヒッチャー(1985)
殺人鬼に狙われる不条理感と恐怖感がここまで強烈に表現されているサスペンスは少ないだろう。昔に見たときも、あのトラックのシーンはトラウマになるほどの衝撃があったが、今見てもやっぱりショッキング。「所詮、映画だ」と思いながらも、手に汗を握らずにはいられない。 ただ、基本的に「殺人鬼に不条理に付け狙われる」というだけの単純なストーリーなので、正直、今見ると少し物足りないのは否めない。そういう意味では、サスペンスというよりはホラーの要素の方が多い。 7点(2004-11-23 21:54:48) |
6. ビロウ
《ネタバレ》 「ゴーストシップ」みたいな駄作に比べたら数段マシ。 ただ、サスペンスやホラーとして見ると、あまりにも展開や演出に工夫が無く凡庸。驚かせ方も、一端ほっとさせておいて、次の瞬間「バーン!」と大きな音を立てるという安易なパターンが多い。「潜水艦」という舞台のおかげで、何もしなくても閉塞感はあるが、その分、展開の予想もついてしまう(空気が無くなる、浮上できない、電気が切れる、乗員の心理的疲弊や暴走など)。 また、「亡霊による精神的な恐怖」と「敵艦の攻撃という物理的な恐怖」が混在してしまっていて、どっちつかずで中途半端。艦長の過去に纏わる秘密という謎解き要素もあって無いようなもの。この中途半端さが最大の難点。舞台が潜水艦じゃなかったら脚本の稚拙さが目立っただろう。 ラストに至るまでの展開も平凡で、特にこれと言って見所も無いまま終了といった感じ。起承転結の持って行き方が型にはまり過ぎていてつまらない。もう少し作品としての工夫や冒険が見たいところ。 [ビデオ(字幕)] 5点(2004-09-24 20:13:07) |
7. 秘密(1999)
《ネタバレ》 <原作未読。映画のみの評価です> 「人格入れ替わりネタ」は、よくある設定だし、陳腐になりがちではあるものの、さすがは熟練の東野圭吾氏。そこに垣間見られる人間ドラマの描き方が手馴れてる。 男女付き合いだけに限らず、人間関係の構築が難しいのは、人間というものが常に「変わっていく」存在だからだろう。自分では変わっていないつもりでも、時と共に少しづつ内面が変化していくのは、誰でもむしろ自然なことかも知れないが、そこに生じた小さな「齟齬」が、相手に大きな違和感を植え付けてしまい、それが元で関係そのものが崩れてしまうことはよくあること。そして、その時になって始めて、人は自分の信じていた人間関係の脆弱さを思い知る。 変わっていく妻を見て苦悩する夫の姿は、そんな人生における普遍的な人間関係の難しさをよく表していると共に、円滑な関係構築には、相互理解という、相手に対する思いやりと感謝が不可欠であるという、これまた普遍的な教訓を見る者に訴えかけてくる。 とは言うものの、あのラストでのちょっとした「どんでん返し」は微妙なところ。結局、夫からの束縛を逃れるために、ひと芝居打ってまで、自分の人格を消したということなのかなあ?それ以前に、夫は変わっていく自分の生き方を認めてくれた訳だから、そんなことをする必要性があったのか甚だ疑問。夫に対する罪悪感や、傷つけないための芝居だとしたら、それこそ自分の変化を認めてくれた夫に対する裏切りだと思う。このラストが無ければ、もっと素直に感動できたのになあ。あえて女性の持つリアリズムに徹するという精神性を強調したかったとも取れるが…。 6点(2004-07-03 20:51:42) |
8. 羊たちの沈黙
アンソニー・ホプキンス演じる「人食い殺人鬼でありながら、知性溢れる天才精神科医」というレクター博士のキャラクター性は強烈に魅力的。 それまでホラー映画の中の殺人鬼と言えば、単に凶暴な怪物のような描き方をされる事が多かった所へ、「知性」と「狂気」を持ち合わせたキャラクターを造形した、この作品の意義は大きい。 特に刑務所の中に居ながらにして、相手の性格や心理などを推察してしまう「プロファイリング」の面白さとも相俟って、非常にオリジナリティのある作品に仕上がっている。 その後ブームに乗っかって量産されたサイコホラー映画とは一線を画する出来。 [ビデオ(字幕)] 9点(2004-01-13 18:23:41) |
9. HERO(2002)
《ネタバレ》 勿体ない。CGやワイヤーアクションを駆使した、美麗な背景の中での死闘や、無数に降り注ぐ弓矢の迫力など、センス溢れる見所は多い。だが、それも前半までの話で、後半に行くに従って息切れしていく。 基本的に「演出がワンパターン」であることに一番の原因があると思う。各場面ごとに基本となる色彩があり、ビジュアル的に「様になる」背景の中で死闘が繰り広げられる(枯葉舞う森の中、青く澄んだ湖の上など)。その手法が悪いわけではないが、同じ事を繰り返すと、せっかくの見せ場が見せ場として機能しなくなってしまう。 戦い方も剣でカンカンやり合っているだけで、真剣勝負というより剣舞を見せられているよう。リアリティを犠牲にしての演出なのだから、いい意味でもっと大げさな戦闘を見たかった。 また、ストーリー自体は単純なのに、途中で現実の話ではない「作り話」が回想シーンとして二回ほど挟まれるので、無駄に長く、分かりにくい展開になっている。ストーリー展開上も必然性があるとは思えなかった。残剣が何回も復活しては腹を刺されるシーンが繰り返しのギャグに見えてきて、最後には笑いそうになってしまった。 「センスの良い演出も、同じ事を繰り返してはくどくなる」という事を監督には認識してもらいたい(演出法の基本なんだけどね)。「ご馳走はたまに食べるからご馳走」という事。降り注ぐ弓矢を払うシーンに+2。あんな超人的なシーンをもっと見たかった。 5点(2003-09-14 02:26:57)(良:1票) |
10. ピンポン
原作も読んでないし、最初期待もしていなかったが、意外なほどよく出来ていて驚いた。誰もが人生は「自分自身が主人公」であるはずだ。だが、厳然たる現実の前に、夢を諦め、現実に失望し、時に現実と折り合いをつけて生きていくようになる。誰でも青春時代にそんな苦い思いをして大人になっていくはずだ。この作品は、まさにそんな青春時代を生きている若者の話。「才能があるがゆえの悩み」、「努力しても報われない者の苦悩」など、誰もが共感できるドラマ。ただ、惜しむらくは、試合のシーンの演出が中途半端で迫力不足。もう少し大げさにしてもよかったと思う。また、あの独特なキャラ描写にも好き嫌いが別れるだろう。 7点(2003-07-02 00:59:28) |