1. ひゃくはち
《ネタバレ》 まず、出演者たちが確りと野球をこなしており、全く芝居に見えないことが驚愕ですが、本当に秀逸なのは、彼らのノリとか、彼らが醸し出す雰囲気そのもの。実を言いますと、私が高校在学中に、わが校の野球部が甲子園に出場しておりまして、当時のヤツらったら、まさに本作のようなヤツらだった (笑) こういう、わざとらしくない雰囲気を (正確に) 作り出せるのは、監督の手腕によるところが大きいと思います、はい。たまに合コンとかあってもさ、365日も野球漬けだからファッションなんぞ知らん、だから服装はダサいんだ、それでいい。 ところで本作、甲子園を目指す高校野球の強豪校、そのベンチ入りのはざまを彷徨う球児が二人、彼らは親友であり、いつしか最後の一枠を争うライバルへとなる・・。何だか、書いてるだけで胸が熱くなるお話でしたが、なぜか私は、弁護士を志して退部した彼のエピソードに心を (カキーン!と) 打たれました。なぜって、本作は夢見る補欠の物語ですが、「退部者」の描き方にも愛を感じたから。野球から逃げたのではなく、別の夢を追うことにした、、という、彼を敗残者にしないところに優しさを見ました。 ちなみに、「ひゃくはち」って、硬式球の縫い目と人間の煩悩と除夜の鐘、の数。 "甲子園" が持つ狂信的な求心力と、頭を丸めて来る日も来る日も (野球という) 修行に励む高校球児たちの姿。その関係はどこか宗教じみたところがあるので、なかなか奥深い題名なのかと。 最後にどうでもいいことだけど、野球少年が神社にいらっしゃると「耳をすませば」のカントリーロード、聴こえてきそうでした (笑) [インターネット(邦画)] 8点(2024-02-06 22:31:34) |
2. 眉山
《ネタバレ》 うわあ、点数低いな・・。俳優の演技と「眉山」という舞台設定はとてもよいのに、いったい何が理由でここまでの低評価になるのか、ちょっと考えてみたい。 やはり、その最大の理由は脚本であり、テーマである「献体」そのものだと思えます。あまりにも重すぎる題材ゆえに、何も知らずに、阿波踊りの映画、母娘それぞれの純愛モノ、、そのつもりで観ていたら、え~ そんな話だったの? ってなりそう。その、お龍さん (宮本信子) がなぜ献体にこだわったのか、その理由も不明瞭で、映画では特に語られませんし、、。原作ではどうなんでしょう? 咲子 (松嶋菜々子) は母親が余命わずかだというのに、自分だけはハンサムなお医者さんとお幸せになって、そのあたりも癇に障ったのかもしれません。 徳島県民の魂たる「阿波踊り」で、ズケズケとしゃしゃり出た個人にスポットを当てるのも、ついでに癇に障ったのかもしれません。(また言っちゃった) あと個人的には、お龍さんに怒鳴られた若い看護師さん、彼女が改心する様子を描いて、お龍さんと和解をさせてほしかったかな。 おっと、、ここまでにしておこう。 夏八木勲の (静かな) 名演技と、久しぶりに宮本信子節の啖呵が見れただけでも、私は良かったな。ミンボーの女、思い出しちゃった。 眉山の風景も、美しかった。 [DVD(邦画)] 6点(2023-11-27 22:59:29) |
3. 秘密と嘘
《ネタバレ》 大きなドラマが展開することなく、もどかしい展開が続きますが、全ては、「お誕生日会」のために、と言える脚本でした。あの場面は、言うなれば「七人の怒れる家族たち」じゃないけど、たいへん観応えある舞台劇仕立てのドラマだったように思います。 私は題名について、一生隠し通したら秘密、でも言うべき時がきて隠したらそれは嘘になる、、そういう表裏一体の関係と思ってる。つまり、本作に「嘘」だけはなかったはずで、誰もがお互いに対して誠実な家族であろうとした、、それだけは言えると思えます。 そして、この映画で興味深いのは、各々の家や部屋にスポットを当てているところ。人と人をつなぎ止めているのは「心」ですが、この映画では「家」と言っている気がします。家に人は共に生きて、家に心と心がつなぎ留められ、妥協点を模索しながら、いつしか同じ未来を見据える本当の家族となる・・。 とりわけ、シンシアが物語の軸ではありましたが、モーリスやホーテンスの登場も多く、ある意味では主役が存在しない群像劇であり、つまり全員が物語の主役である、、そういう映画なのかもしれません。 [DVD(字幕)] 8点(2022-03-06 16:20:27) |
4. 陽はまた昇る(2002)
《ネタバレ》 実話ベースとしていますが、サラリーマンのサクセスストーリーとしては王道の展開で、実に映画的なエピソードだったように思う。 主人公の加賀谷邦男氏は、まるで釣りバカ日誌のハマちゃんが仕事に目覚めたような感じの人。温かくて正直で、情熱家。そして何より、彼は相手を職位や肩書きで値踏みしなかった。だから、"サラリーマン" としてではなくて、私は一人の人間として彼が好きでした。上司や部下たち、ついには松下の相談役までも彼の熱意に心動かされる展開は心を打つものがあり、一介の会社人として、よい映画を観させてもらった、という感想です。 ただ残念なのは、この業界の素人目には彼らのその凄さがよく伝わらなかった、ということ。「技術者」とか、「開発者」とか、やたら連呼して飛び交ってはいます。その彼らが寝る間も惜しんで、努力しているのはよく伝わる。そして、家庭用ビデオの開発競争において、日本ビクターの技術者たちは、結果的にソニーや松下よりも有能だったのだろう。でも、何がどう有能だったの? と言われると、ちょっと答えようもない。全体的に、表面的なトピックをピックアップしただけで、その革新的な発想や技術そのものにはほとんど触れていなかったような気がします。(そもそも企業秘かもしれませんが) そうそう、「VHS」の人文字。どうして、このビッグサプライズを予告編で上映するかなあ? おかげさまで、驚きも感動も半減しましたよ。そこはもう少し考えて、制作してほしい。 [インターネット(邦画)] 7点(2021-09-24 12:14:52) |
5. 引き出しの中のラブレター
《ネタバレ》 ラジオパーソナリティー (個人) とそのリスナー (その他大勢)、という構図ゆえに、リスナー側のドラマは数名に限定しなければならないのは致し方ないこと。だから、他のリスナーたちの心はどうなるよ? って言うのはなしにしたい。 ただ、そこをマイナス点にしないとしても、映像はTVレベルで特徴も無いし、点は辛め。 これが「ラジオパーソナリティー」という仕事の映画でもあるなら、実際にはDJをする時間てのは勤務中のわずかだろうし、むしろその時間以外にどんな仕事や準備をしているのだろう? というところがもっと見たかった気がする。 だから良かった点としては、真生がラジオや携帯を通してではなく、実際に函館に赴いて少年に会いに行ったこと。こういう、華やかなDJの姿ではなく、地道な努力こそ気持ちが伝わるんだ。 その函館の修道院? だろうか、ここが実によい雰囲気だった。真っ直ぐに延びる長い階段を真横に横断する道とか、まるで十字架のように見えて、とても映画性を高めているように感じた。 [DVD(邦画)] 5点(2021-03-20 22:12:38) |
6. ピクニックatハンギング・ロック
《ネタバレ》 1900年2月14日、オーストラリアのとある山に忽然と消えた女たちの物語。 今だ未解決事件、だから興味の焦点はなぜ消えたのか? なぜこの三人だったのか? ここに限られてきます。 なぜ消えたのか? その手がかりはありませんでしたが、男たちに連れ去られたとか、カルト集団に連れ去られたとか、それでは全く神秘的ではないので面白くありません。可能性を除外します。 では頂上に存在したタイムゾーンで過去にトリップしたか。あるいは、彼女たちを百万年も待っていた山の精霊たちに連れていかれたか。神隠しなんて、もともと科学や理屈では説明がつかないから、きっとこのどちらかなんでしょう。 次、なぜこの三人だったのか? 山の精霊説であることを前提に、思ったことをつらつら。まず、山の精霊様は男です。山頂に突起した "三つの岩" から抽象的にそう感じたから。だから、女であることと三人という人数は予め定められた運命なんです。そして選ばれたのは、潜在的に性の欲求不満だった者たち。何となくですが、マクロウ先生はわかる。それは、「 (山が) 粘性の強い状態で突出した」 といった台詞や、バナナを食べてる描写から。また、「マクロウの男性的な知性を信頼してた」 という校長の台詞から。ミランダたち三人 (正確には二人) はそうとわかる描写はないが、まるでケーキに群がるアリのように、山頂にそびえ立つ岩に誘引されるように吸い寄せられたから、結果的にそう判断されて選ばれた、と思うしかない。アーマが生還したのは、定員オーバー。マクロウ先生に押し出された形で返された。 亡くなった二人についてですが、根拠はなく直感ですが、セーラと校長はそれぞれが同性愛者のような気がしました。特にセーラのミランダに対する熱っぽい視線は、単なる友人としてではない憧れにも見えます。この二人はきっと、男性を愛せないことで精霊様の逆鱗に触れたのでしょうか・・。 時計が止まったこと、これだけはどうしても人の心に依存する謎ではないため、精霊様との因果関係は推し量ることが出来ません。 と、かなり飛躍した解釈になりましたが、もともとが女性だけの閉鎖的な世界の物語で、そこから外界に行くこと自体がまだ見ぬ異性へのあこがれとか性の解放とか、実話に便乗してそこをミステリアスに描こうとしているように感じました。そう、事件そのものより、女という謎、その神秘的な美しさ。 これほどの雰囲気を味わえる映画にはなかなか出会えないということで、私は高評価します。 [DVD(字幕)] 8点(2020-05-26 02:00:11) |
7. his
《ネタバレ》 観て思い出したのは、「チョコレートドーナツ」と「クレイマー、クレイマー」。ついでにもう一つ、「ジョゼと虎と魚たち」(笑) とてもよい映画とは思います。ゲイ同士の愛と言うよりは、LGBTという生き方とその覚悟。そしてそこから波及する様々な問題について。それぞれぼやけることなく、少なくとも映画内では問題を全て起承転結しています。 ・・と褒めながらも、やはり今泉監督向きの脚本ではなかった気がします。監督らしさ (個性) が見当たらないし、内容が優等生すぎて笑えないんです。 (子役や犬のおかげで雰囲気は柔らかいですが) そして、イケメン同士というキャスティングは、私が知ってる監督のポリシーからすれば外れている感じ。本作限定で観るなら、これは迅と渚という二人についての物語、そして二人は顔もよい、だからそれはそれで理解できます。しかし、このテーマと容姿は関係ないのは承知した上で、毎回モデルさんのような好男子が主演なのはどうなんでしょう? と感じるところもあります。 「LGBTという生き方」 マイノリティとは言え、それが "フツーの生き方" なら、容姿がフツーの人、さえない人、ブサ〇クな人、誰にとっても。 総評。宮沢氷魚という逸材の発見。松本若菜の好演。そして、今泉力哉監督の新境地とその可能性。多才ぶりを見せつけてくれたので、これから映画各社による今泉監督の争奪戦が始まることでしょう。でも監督よ、サッドティー、パンとバス、mellowのユルさも、どうか忘れないでね。 [映画館(邦画)] 7点(2020-01-26 13:38:27) |
8. ビブリア古書堂の事件手帖
《ネタバレ》 原作は未読です。古書にまつわる物語、と聞いて想像するようなミステリーとかロマンとか、全体的にちょっと物足りなかったです。古書に歴史あり、ならば時の経過を感じたいところですが、今と昔を行ったり来たりでは、過去から時系列で丹念に描くほどの大きな感動は得ません。そしてこの題材ゆえに、小道具や美術には手を抜いてほしくないですが、う~んどうだろう? NHKの朝ドラとあまり変わりませんね。その代わりと言っては何ですが、五浦くんの洋服にはやたら気を遣っていましたね。どうやら数着のTシャツとパーカをローテーションして着回していて、何が何でも襟付きのシャツは着ないというこだわりぶり、、ここに衣装さんのお仕事はよく伝わってきました。そこにはこだわるのかい! って感じですが。否定的な意見ばかりになりましたが、想像を搔き立てる要素がてんこ盛りという意味では、そもそも映画化 (映像化) 自体のハードルが高かったように思えるのですが・・。 [DVD(邦画)] 4点(2019-10-01 00:06:12) |
9. ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ
《ネタバレ》 とにかく、驚くほどユーモラスで軽快なタッチです。実はかなりシリアスなテーマなんですけどね。重たいテーマもきっと料理の仕方なんでしょう、あの9・11を笑いのネタにする気概に拍手。ラブストーリーとしては王道で目新しさはありませんが、大金かけて大コケの映画が多い中で、改めてこういう映画っていいなぁとしみじみ思いました。たぶん、人種違えど愛し合った"本人同士"が結ばれるのはそう難しくないと思います。むしろ難関はその先にあるもの、つまり本作のテーマは、相手の家族や二人の関係に偏見の目を向ける人たちといかに良好なコミュニケーション (人間関係) を築けるか、にあると思いました。だからこそ、クメイルとエミリーの両親たちとの関係に時間を割いているのもご理解いただけると思います。物語の展開としては、どんでん返しに値する驚きはありませんが、最後に映画に仕掛けられた "秘密" (サプライズ) に驚くお話しですかね。 (予備知識なく鑑賞してよかったです) 欲を言えば、せっかくパキスタン人が主人公なので、彼らの国の文化 (料理など) をもっと観たかったかな。個人的にはエミリーの両親、すべりまくりのお父さん (笑) とキュートなホリーハンターお母さん、この二人がかなりツボでした。好きだったなぁ。 [映画館(字幕)] 6点(2018-03-05 15:35:49)(良:1票) |
10. ひそひそ星
不謹慎な言い方かもしれませんが、宇宙船の船内は前にTVのニュースで見た東日本大震災の仮設住宅を思い出しました。殺風景な住まい、孤独な日々、気の遠くなるような時間。そういう時こそ、宇宙を旅しているくらいの想像力をもって生きてください、といった監督なりのメッセージなのかもしれない。あの時にあなたが失った大切なもの、いつかあなたのもとに届きますように。 [ブルーレイ(邦画)] 7点(2018-02-20 23:02:09) |
11. 光(河瀬直美監督作品)
《ネタバレ》 美佐子が目の不自由な方たちを前に、音声ガイドの試写会をしている場面などは、まるでドキュメンタリー映画のような見せ方で、淡々と物語は進んでいく。中森と美佐子の出会い、それは彼の叱咤に始まり、河瀨監督らしくカメラをきっかけにして、やがて打ち解けていき、いつしか深い信頼関係で結ばれていく。重苦しい題材の中にも、微笑ましい食事の場面などが存在し、抜け目なく二人の"喜怒哀楽"は描かれている。老いとその先に待つ死、しだいに見えなくなるこの世界の風景。誰にとっても、生きていくことは苦しくて、ときには立ち止まりたくなる。だが、俳優重三は、待つよりは険しい坂を登ることを自ら選んだ。「大丈夫だから。俺がそこに行くから。」この中森の言葉は、前進する覚悟をしたという、美佐子への誓いも含まれているだろう。その二人を祝福する、燃えるような夕陽。その先に何が待とうとも、生きることを恐れずにただ前進すること。一人では苦しくて険しいその道に、愛が力強く寄り添う時、そこに初めて希望という"光"が射す。 [映画館(邦画)] 8点(2017-06-15 21:29:03) |
12. 秒速5センチメートル(2007)
秒速5センチメンタル。 [DVD(邦画)] 7点(2017-04-19 21:54:20) |
13. ピース オブ ケイク
《ネタバレ》 "ピースオブケイク"の題名通り、恋のつまみ食いが好きな女のお話。彼女は恋愛にはだらしなく、いつも自分の考えを相手に一方通行。はっきり言って苦手なタイプの女でしたが、いつも内に隠さず思ったこと言いたい放題の彼女が内心羨ましかった(笑)。未婚率の上昇が示すように、今って人が恋愛に奥手な時代だと思う。愛するより愛されることに執着する人が増えたようにも感じます。思えば彼女の行動力には見習うべきことも多いですね。これは田口トモロヲ監督の恋愛普及映画。お前たちもっと本音で目の前の女(男)とぶつかり合えよ!といった監督のメッセージも感じるし、観た人の多くに"愛したいパワー"を与える映画だと思いました。愛するきっかけは、、そうですね、風が吹いたからとか、歌が聴こえたからとか、そんな理由でどうでしょう? [映画館(邦画)] 7点(2015-09-23 23:32:12) |
14. HICK ルリ13歳の旅
《ネタバレ》 何と言ってもクロエのヴィジュアルに尽きます。子供でも大人でもないこの年齢ならではの色気と言いますか、とにかく本作で彼女が放つフォトジェニックな存在感は素晴らしい。もちろん、コスチュームもキャメラもクロエファンへのサービスが満載。でも残念ながら見どころはそれだけでした。ロードムービーは退屈にする方が難しいと思うが、本作はちょっと退屈だったかな。物語の構図は、都会に憧れる田舎娘の話と言うよりは、"大人の世界"に憧れる田舎娘の話でした。でも、ルリが想像していた以上に大人の世界は怖かったはずです。子供は背伸びをせずに子供の世界を生きればいいと思います。どうせいつかは嫌でも大人になるのだから。 [DVD(字幕)] 6点(2015-02-17 19:38:13) |
15. ビッグ・アイズ
《ネタバレ》 題名でもある有名な絵画"ビッグ・アイズ"の魅力よりも、作者マーガレットの魅力よりも、その夫ウォルターの存在感で話をぐいぐい引っ張ります。彼を形成する特徴を簡単にいくつか述べましょう。罪悪感の欠如、名声欲のかたまり、それと政治家顔負けの口八丁。はい、絶対に友達になりたくありません(笑)。でも不思議、彼は間違いなく悪人だけど、なぜか憎めない求心力のあるキャラクター。監督ご自身も親しみを持って彼を描いていることは明らかです。たぶん、彼の人間性・手段はさて置き、一貫してブレない絵を売ることへの"信念"から、夢を売るエンターテイナーとしての哲学を少なからず感じたのではあるまいか。映像は全体を通してほどよく明るい色使い。この映画の内容(というよりは彼のキャラ)にはよく似合う能天気な色彩でしたが、やはり本作はティム・バートン監督の映画。いつものようなダークな世界観を期待していたので、点数は低めで。 [映画館(字幕)] 5点(2015-02-03 23:42:44) |
16. 百万円と苦虫女
《ネタバレ》 鈴子 (蒼井優) による、自分探しの旅、というよりは、傷心癒しの現実逃避旅。 視聴者によって、映画のテーマ自体の受取り方が分かれそうな内容なので、あえて本作をジャンル分けするとなると難しい。なんせ、このサイトですら "ドラマ" としか書いていないので、やはりジャンル分けすることを放棄しているようだ (笑) しかし、(心が) パンク・ロックな感じの鈴子がいて、彼女の旅と出会いがある、、だから全く退屈はしません。 もともと、マイナス思考やネガティブな考え方を (個性として) 肯定すること、そこがテーマにありそうですが、好きな娘を引っ越しさせないためにその娘から金を借りまくる、、って、これは斬新でさすがに思いつかない考え方だなあ~、卑屈すぎるが (笑) 海で山で地方の街で、それぞれ恋の始まりを予感はさせる、でも始まることなく、サヨウナラ、、。先に進まない (=プラスにならない) 、このもどかしさも、この映画らしくていい。 彼女が最後にたどり着いたのは、海も山も、おそらく観光名所もない地方の街。この平凡な街の、どこか行き詰まったような閉塞感がまたよかった。 [DVD(邦画)] 7点(2014-05-13 22:00:30) |
17. ヒア アフター
《ネタバレ》 死者と交信する男。臨死体験をした女。兄を事故で亡くした少年。"死" にかかわる、稀有な体験者であるこの三人の人生が、運命に導かれるように交差する物語。私はこの映画の魅力に取り憑かれ数回鑑賞したが、特に少年がジョージを介して兄と交信をする場面について気が付いたことをコメントしたい。交信中、「兄が遠のいてきた」とジョージは言った。確かに、この時点で兄との交信は途絶えたと思う。この後に少年に伝えた「僕はお前でお前は僕なんだ。一卵性は二人で一人だ」の言葉、これは実はジョージの "嘘" だ。死者にいつまでもすがりつく少年の将来を危惧し、踏ん切りをつけさせようと思いついた嘘ではないか、と私は確信している。この言葉は、迷える少年を救うためにはこれ以外は考えられない素晴らしい嘘だ。事実、この言葉によって少年は立ち直った。そして、立ち直ったのは少年だけではない。ジョージは嘘で一人の少年の人生を救ったことにより、これこそが霊視者としての自分に与えられた本当の使命だったと感じたはずだ。彼にとってその能力は重荷でしかなかったが、この時ついにその呪縛から解放されたように思う。こう解釈すると、ジョージが突然に明るい未来を思い描き、唐突に思えたラストも違和感無く繋がる。マリーの手を固く握りしめても、もうそこには死の淵も冥界も見えない。傷ついた者が傷ついた者を救う。少しの思い遣りで支え合い、助け合う。その先には、幸せな未来と希望だけがどこまでも広がるのだ。 [映画館(字幕)] 10点(2014-01-19 16:35:13)(良:1票) |
18. 日の名残り
《ネタバレ》 舞台であるダーリントン・ホールと、その英国式庭園の格調高き美しさのなかにおいても、アンソニー・ホプキンス演じるスティーブンスの佇まい、その生真面目さとか、恋愛に対する奥ゆかしさとか、、日本人の気質に近いものを観た気がしました。彼の執事としての寸分狂わぬ完璧な仕事ぶりは、わが国が誇る職人のこだわりに近いものを感じたし、その一つ一つの手作業に見惚れるばかりの130分でした。 全体的に張りつめた雰囲気に終始しますが、唯一、ヒュー・グラント演じるカーディナルが見せるトボけた味わい、そして彼と執事の交流は、緊張感あるこの作品に良いアクセントを加えているように思う。 どうやら、本作はカズオ・イシグロ氏の原作を読まれた方には不評のようだが、個人的には、晩年のミス・ケントンと歩く夕暮れ時の美しさ、おそらく二人にとって最初で最後の握手になるであろう、バス停の別れは心に残るものであり、これだけでも映像化したことの価値を見い出すことができた。 [DVD(字幕)] 8点(2013-12-22 23:29:54)(良:1票) |
19. P.S. アイラヴユー
《ネタバレ》 冒頭でこれでもかとばかりに蜜月な二人の関係を描く。その後、オープニングが始まり画面が変わると何ともうジェリーが死んでいるではないか。ここは省かずに、ジェリーの死を知り、嘆き悲しむホリーを描いて欲しかったところです。劇中の半分くらいは、ジェリーの死から立ち直れないホリーを延々と描く。愛した人をそう簡単には忘れられないのは当然だ。だが、やはり女性であるなら未来にある幸せを求めてもっと貪欲になってほしいと思う。何だか、偉そうなコメントになってしまったが、この映画を観たら「手紙」の暖かさを久しぶりに思い出しました。メールもよいが、たまには大事な人に手紙でも書いてみようか、などと思いました。 [DVD(字幕)] 6点(2013-11-05 22:19:54) |
20. ヒート
ヴィンセント (パチーノ) とニール (デニーロ) 。 成り行きで正義と悪の道に進んでしまったような二人だが、仕事 (ヤマ) に取り憑かれて、凄まじく「生き急いでいる」という点で彼らは同種族である。そんな彼らにとって、お互いに最高の「好敵手」の出現に、二人の血沸き肉躍る心境がビシビシと伝わってきた。 対象的に、ヴィンセントの冷え切った家族関係とか、ニールが住む家の空虚さと夜景の儚い美しさとか、、およそ家庭が似合わない男たちの「孤独」を感じさせる描写が秀逸で、彼らのキャラに深みを与えているように思う。きっと、彼らにとって仕事 (ヤマ) は生きがいではなく精神安定剤であり、「セラピー」かもしれない、、そう思わせる男たちであった。 また本作では、ヴァル・キルマーやトム・サイズモアも魅力的であったが、彼らですらデニーロと凄んで歩くことによって「男増し」することは否定できない。 個人的には、パチーノとデニーロが若くも年寄りでもなく、成熟した大人の男として最もカッコイイ時期がこの頃 (80年代後半~90年代の半ば) 、と思っている。まさに、ギリギリだった。この絶好の期を逃さずに、希代の名優二人が共演し、マイケル・マンという最も相応しい監督が、重要な「記録」として映画史に刻んでくれたことに感謝する。 [DVD(字幕)] 8点(2013-10-23 22:28:40)(良:1票) |