1. ホテル・ニューハンプシャー
窓には、存在学的に互換性がある。窓は家の中に光を招き、同時に家から人を去らせる。これは現代神話だと思った。最初に父親は窓を開けた。窓からは時には祝福された光が差し込んだ。だけれど強い光は、それを浴びた者の後ろに強い影を作った。そして気付くと、入って来た以上に、何かが出て行っていた。失っていた。赤字と磨耗は止まらなかった。惨禍の中を行進する家族。馬鹿げた位に悲惨。待ち受ける未来にも保証も確証もない。なのに馬鹿げた位に悲壮感がない。続く行進。それはどこか、崇高ささえ感じさせた。この家族は、何かを飛び越えた所にいるのだと思った。それは達観かも知れないし、諦観かも知れない。きっと、私の知らない何かなのだと思う。哀しい形で絶対的に結束したその姿は神話的だった。神話は往々にして、自らに滑稽な悲劇を課すから。開いた窓がないと、人は生きて行けない。でも同時に、それは時に人を生かさない。この世界に生きることは、開いた窓の羅列する廊下を歩くことだ。窓には、存在学的に互換性がある。そのバランスの中を、人は生きて行かなければならない。 9点(2004-09-18 00:20:03)(良:1票) |
2. 僕の村は戦場だった
色彩に溢れ、光に溢れ、同時にそれを全て覆うほどの、絶対的な影と闇が支配していた。圧倒的に詩的でリリカル。その映像はとても饒舌多弁で、同時に黙然としている。降り注ぐ光を侵食する、絶対的な闇。これを30歳で撮ったタルコフスキーの才能には驚嘆。 9点(2004-08-14 14:07:52) |
3. ぼくは怖くない
一面の黄金色の中を続く一本道、そこを行く子供、車。大人。そして知る世界の残酷さ。既視感を覚えて、何だろう?と思ったら、それらが「柔らかい殻」という作品に似ていたからだと気付いた(向こうの方が相当グロいけれど)。ちなみに私は、子供以外に見えない犬なんてのは見たことがないけれど、7歳の時弟と一緒に山奥で、2頭身の猫の群れを見たことがあります。今ではそんなもの見ません。 7点(2004-08-14 14:03:04) |
4. ボクシング・ヘレナ
出て来る人物全ての髪型と服装が許せない。もうみんな絶望的にファッションセンスが駄目なんだけれど、特にヘレナの恋人なんか普通のテンションで乳首の透けるシースルーの服を着てた。それがこの世界観の中ではクールなものとして扱われている。許せない。つまりは映画の世界観自体にセンスがないんです。ああいうのは個性ですらないです。演出にも違和感ばかり。何ですか、あの突然変なスローモーション入ったりするのは。残念です、テーマは悪くないと思うので。センスがあればもっと良い作品になったはずなのに。 3点(2004-04-02 00:14:56) |
5. ぼくの神さま
《ネタバレ》 トロの眼差しになぜか「ブリキの太鼓」のモラトリアム少年を思い出した。ダイレクトに本質を突いて来る、子供の特権たる無垢な残酷性。強烈に語る目。雄弁より物語る沈黙。キリスト教に根差したこの作品を私がどれだけ理解出来たかは謎だし、正直深く探求し分析しようとも思わないけれど、あのラストシーンのトロの目には何かを射抜かれたような気がした。キリストでないことに挫折出来なかった1つの魂の壮絶な選択。トロは最後までキリストでありたかった。キリストであろうとした。ゴルゴダに向かうキリストのように、あの列車に乗って行ってしまった。あの眼差しを残して。 6点(2004-03-26 22:54:47) |
6. ポゼッション(1981)
初めて聞いたとき、「ああ、いいタイトルだなあ」と思った。POSSESS、POSSESSION=所有、妄執、憑依、所有物。タイトルだけで色々な解釈ののりしろがある。自らの「所有」する「妄執」に「憑依」され、ついには肥大化した「妄執」の「所有物」になってゆく女性。イザベル・アジャーニが体当たりで挑む、体液という体液、怨念という怨念を吐き搾り出す演技は、ちょっと他ではお目にかかれない位に壮絶で衝撃的。あれで25歳。その年であの老練した表現力。凄まじい女優です。まあ私もテンパって来るとかなりおかしくはなりますが。これもまた観る者を選ぶグロテスクな真性エログロ映画ですが、私としては人間の本質、人間の業を描いた真摯な映画の1つではないかと思います。 9点(2004-03-15 18:07:54) |
7. ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ
女性が子供から大人になり老いてゆくその道、その轍を無意識的に拒否しているような不思議なエイジレスを纏うエミリー・ワトソンの存在感に圧倒される。ジャクリーヌ・デュ・プレという女性の本当の姿は知らないけれど、今作で描かれる彼女は、幼女が老女になるまでのプロセスを丸々欠落させ、成熟を拒否し、子供の持つ無垢と幼児性と残酷さを手放さないまま老いてしまったような激しく痛々しい女性だった。そんな彼女の1番の理解者は姉のヒラリー。ヒラリーもまた、何かを欠落させている。そしてジャッキーを包み込み救済することで、自らも救済されている。邦題に惑わされてしまうけれど、原題は「ヒラリーとジャッキー」。観進むにつれ、つまりはこれは2人の女性の支え合いと共依存の物語、2人の女性の壮絶な魂の遍歴であり、戦歴であることに気付いた。痛々しく、どこか身につまされるものがある物語。これもまた、特に女性に観て欲しい映画の1つです。 8点(2004-03-15 13:08:22)(良:1票) |
8. 慕情(1955)
以前おすぎが、「戦争によって引き裂かれた愛を語るなら、『パール・ハーバー』なんて作らなくても、『慕情』という映画があるのよ!」みたいなことを言っていた(確かに私にとって「パール・ハーバー」は、「マディソン郡の橋」と並んで、“一生観たくない映画リスト”のトップクラスを死守している)。これはしかし名作として高名な作品だけれど、思ったよりも凡庸な印象を受けたのは私が未熟だからなのか…?正直、20代のイチ映画素人の私には、それ程の名作、優れた作品だとは思えなかった。 5点(2004-02-26 22:10:33) |
9. ポネット
5歳の時、ある人と遊んでいた時に突然、「ねえ、死なないでね」という言葉が口を突いて出たことがある。自分でも意味が分からず、言った瞬間《え?何言ってんの?私》と思ったことをとてもよく憶えている。そして驚くことに、その後すぐ、その人は事故死した。あれは何だったんだろう?と今でも思う。10年以上経ったある日、あの日あの時近くにいた私の母親が、「ねえ、あんた、あの時何であんなことを言ったの?」と聞いてきたことがある。ああ、母も気になっていたんだな、とその時初めて思った。偶然にしても、不思議な出来事だった。前置きが長くなってしまったけれど、つまり私は1つ信じていることがあるのです。それは「子供には不思議な力がある」ということ。こう言ってしまうと胡散臭いし陳腐だけれど、子供には超自然的な何かを感じる力があるような気がする。考えてみたら、数年前までこの世のどこにも存在しなかった存在なんですよ。子供というのはそんな、ある種畏怖の念を抱いてしまう存在。生まれて数年の子供というのは、まだ生まれた後の世界にも完全に属していないし、生まれる前の世界みたいなものもきっとまだ、どこかで憶えているような気がする。これは別に宗教思想とかそんなものではなく、単純に子供の勘の鋭さや感受性、大人には読み取れない何かを訴えるような目にドキッとする、というようなことは誰でもあるでしょう。そういうことです。子供というのは時には生者と死者の世界を無意識的に難なく繋いでしまえる位、ギリギリの境界線上に存在する生き物なのかも知れない、と思える。そういう、演技かどうかすらも怪しいような微妙な機微、絶妙な雰囲気を、ヴィクトワールちゃんは実に上手く醸し出していたと思う。作品自体に関しては、低予算の悪い部分を感じるし、脚本も大したものではないけれど、彼女の存在感が凄かった。最年少での主演女優賞受賞も納得。ヴィクトワールちゃんに7点献上。 7点(2004-02-21 22:07:45)(良:1票) |
10. ボーイズ・ドント・クライ
センセーショナルさだけをやたらに前面に出していて、物語に深みを出す為の描写、つまりはブランドンの葛藤やその他の登場人物の心理描写、行動の根拠等がなおざりにされている感じはする。それでもヒラリー・スワンクの体当たり演技は素晴らしく、性同一性障害者をリアル過ぎる位リアルに演じていたと思う。だんだん爆笑問題の太田に見えて来た時はどうしようかと思いましたが。そしてクロエ・セヴィニーの異様な存在感も良かった。彼女は目の下のクマすら魅力の1つにしてしまえる不思議な女優。あのクマいいですよ。不健康で妖しい色気。 7点(2004-02-21 12:21:56) |
11. ぼくの美しい人だから
原作も映画も同じ位好き。好きだけれど、切なく辛いものがある作品。ちょっと乱暴に言い切ってしまうと、男は「男がいつまでも男であること」に自信満々なくせに、「女がいつまでも女であること」を許さない傾向がある。年をとっても自分のことを棚に上げて20も30も年下の女の子ばかり追い掛け回している男は山ほどいる。42歳の男と28歳の女のカップルの年の差を指摘する話はあまり聞かない(例えば「ロード・オブ・ザ・リング」のヴィゴ・モーテンセンとリブ・タイラーの年の差を指摘する人なんていないでしょう?)。でも、その逆のこの話は衝撃作にされてしまう。何だかなあ…。今の私はこの物語の28歳の男性よりも何歳も年下だけれど、それでも何だか42歳の女性の方に感情移入してしまう。色々思うに、男性が一般的にこの作品を否定したがる、というのはやっぱり予想通りながらも、どうも釈然としない思いが付きまとう。 8点(2004-02-19 22:26:31) |
12. 火垂るの墓(1988)
野坂昭如の功績は、この作品を世に送り出したことと、大島渚を殴ったことだ。 7点(2004-02-15 15:46:50)(笑:3票) |
13. ボーン・コレクター
「サイコホラー」としてはその精神性の部分が上手く描けていないし、「推理ミステリー」としてはプロットや人物描写に難がある。犯人に関してはほんとに「何であの人が?」という感じ。その「何で?」を観客が観終わった後も引きずってしまうという時点でその描写は失敗している。犯人があの人であることに対する説明不足、説得力不足。ストーリーに深みがもうちょっと欲しかった。キャストはとても豪華なんだしね。 5点(2004-01-17 13:39:22) |
14. ポルターガイスト(1982)
「ポルターガイスト」は心霊現象ではなく子供の精神力が誘発する現象だ、という説が今は有力だということなので、子役を前面に出した設定は、知らず理に適っているのかも知れないですね。年一桁の頃、あの冷蔵庫の蛆虫生肉が結構なトラウマになりました。些細なシーンなんですけど、まだ気持ちの悪いものに耐性がなかったんですね。強烈に焼き付いています。今でもこの作品のタイトルを聞く度、蛆虫生肉を思い出す位です。 6点(2004-01-15 21:28:22) |
15. ぼくらの七日間戦争(1988)
小学生の頃に観たからだと思うけれど、とてもわくわくした。あの頃は当時の宮沢りえでさえ大人に見えた。自分たちの気持ちを代弁してくれているような爽快感。作品本来の出来は多分5点以下だと思うけれど、映画の出来云々よりも、もう戻ることのない時代、その思い出に7点あげたいと思う。 7点(2004-01-07 14:22:20) |
16. ポワゾン
何か極濃。てゆうか主演2人の存在自体が濃い。毒気に当てられましたよ。ラテン系どろどろには疲れる。あとアンジェリーナ・ジョリーの顔はちょっと怖いと思いました。基本的に彼女みたいな派手な美人顔の女性は大好きなのですが、この作品の彼女は何だか個性とアクが強過ぎました。登場時にはびっくりこきました。 4点(2004-01-05 13:14:00) |
17. ホーム・アローン2
前作のヒットで、ハリウッドのいやらしいおじさんたちそして肉親にすら搾取されるようになったカルキン君の姿が何だか痛ましい…。それにしても相変わらずイラつく家族です。頭が悪いにも程がある。特に兄ちゃん、最悪。いるよ、ああいう奴。泥棒よりも家族がイヤ。ケビン君、あんなにトラップ作りが得意だったら、あんな家なんか出て、何かの特殊部隊にでもお入りよ。 6点(2003-12-31 17:02:34) |
18. ホーム・アローン
クリス・コロンバス監督の露骨にヒット狙いな姿勢はちょっと苦手。10数年ぶりに観直したら、これって完全に子供向け映画だったんだな…という印象。大人でも楽しめる子供向け映画もあるんだけれど…。でも記憶が正しければ、昔は素直に楽しめた気がする。点に関しては、初見時の気持ちを尊重しようと思う。6点。 6点(2003-12-31 16:56:39) |
19. BODY/ボディ
おそらくシャロン・ストーンに対抗しようと気張ったノリノリのマドンナが、何だか居た堪れなくなる映画。申し訳ない、何だか観ていて恥ずかしい。 3点(2003-12-27 22:27:18) |
20. ポエトリー、セックス
正直、もっと洗練された映画なのかと思っていた。どういう方向に映画を持って行きたかったのか、監督の意図も分からない。女優の体型の緩み具合も気になった。いや、あれじゃ私の方がまだマシですよ。逆にそれがリアルでよい、と言う考え方もあるけれど。でもそういう官能のリアルさをとことん追求した映画でもないでしょう?かといってサスペンス劇のプロットが練れている訳でもないし。何がやりたかったのでしょうか。監督の意図を知りたいところです。 3点(2003-12-16 19:47:45) |