1. ポルトガル、ここに誕生す ギマランイス歴史地区
《ネタバレ》 タイトルにあるギマランイスという町で行われる文化フェスティバル用に作られた映画とのこと。ポルトガルに縁のある(カウリスマキがポルトガル在住だったとは!)監督がそれぞれ短編を作ってそれを束ねています。短い時間のなかに、美しい映像とそれぞれの個性が生き生きとしていました。エリセ監督の作品はドキュメント仕立てで、人は誰でも物語を背負っていることをしみじみと思わせるもの。人々の語るそれぞれの時間のなかに、人間の血と肉の持つ熱を感じました。ドキュメントはどうしてもフィクションを超えて感じ入ってしまうので少し点数を下げますが、どれも味わい深く見応えがあります。 [DVD(字幕)] 8点(2014-05-10 21:40:49)(良:1票) |
2. ぼくのエリ 200歳の少女
《ネタバレ》 エリとオスカーの外見の対比、雪景色と血の惨劇の対比がとても美しい。自分自身の記憶でもそうだけれど、二人くらいの年齢の内面ってバランスがおかしくてどこか夢の中を歩いているような危うい部分がある。思春期の入口に立った彼らの雰囲気、それが画面によく出ていた。「こんな自分を受け入れて欲しい」と言う永遠の12歳と、旅立ち生きる覚悟をした少年。二人はあの後どこに行ったんだろうと考えると切なさがこみ上げてくる。血まみれの悲しいキスシーンには完全に参った。 [映画館(字幕)] 8点(2010-11-16 17:01:56) |
3. ボルベール/帰郷
素晴らしい。すっかり魂抜かれて帰ってきた。作中男性は蚊帳の外、何かを背負いそれでも日々を生き抜いていく女性が描かれている。その強さと優しさが画面を包み、ヘビーなシーンもなぜか悲壮にはならず、人肌の温もりを絶えず保っていて暖かい。物語への同調というよりも、自分の心の引き出しにある「私もこうありたい」という気持がふわっと沸き上がるような映画だった。いつもは登場人物の心の在処に迷ったりするアルモドバル作品だけれど、今作はそれもなく、コミカルなセリフもあって楽しく見やすい。多くの女性に観て欲しい。それにしてもこの女性を見る視点、女性を語る手腕、アルモドバルという人は侮れない。 [映画館(字幕)] 10点(2007-07-05 00:22:19)(良:2票) |
4. ホテル・ルワンダ
辛くて辛くて「あとどれくらいしたらこの映画から解放されるだろう」と思いつつ最後まで観た。古い民族対立から内戦になだれ込んだ国で、難民をホテルに匿った男の物語。監督はジム・シェリンダと紛争をテーマにした脚本を書いている人で、暴力と銃声に追われて数分後の命の在処もわからない人々を終始徹底して映している。一市民の目線で作られているので、ストーリーは分かりやすかった。しかし、ストーリーが役者の演技がというより、この緊迫した映像と「これは実際の出来事」という自分の中の認識とが私を圧迫し、肩も背中もガチガチにこわばってしまった。10年以上経ってこれを観て、何もできなかったことで歯がゆい想いをしてどうになる、という意見もあるけれど、人間は絶え間なくこんなことを繰り返して今日まで生き延びた動物だ。この常軌を逸脱した恐ろしい出来事を胸に刻んで、何か学び取ることはできるのではないだろうか。ぼんやりと生きている私をそんな気にさせる、迫力で斬りつけてくる映画だ。 [映画館(字幕)] 9点(2006-07-06 18:15:26) |
5. 亡国のイージス
もうちょっと現実にありそうな物語を想像していたので残念。「ダイ・ハード」とか一連のスティーブン・セガール映画と同じ大味アクション映画だった。この内容で「本当の戦争」なんてセリフがよく出せたもんだ。さらに腹が立つのはイージス艦内の女の存在。例え腕利き工作員だろうがキーパーソンだろうがなんだろうが、漢の戦いにに断じて女性は混ぜないで欲しい。私は気持が一気に萎えた。それでも、今この時いっぺん観ておいて、世界地図の中のちっちゃな「この国」をじっと見つめて考える題材にはなった…かなあ…。やっぱりダメみたい。 [DVD(邦画)] 4点(2006-07-06 01:30:51) |
6. ポゼッション(1981)
《ネタバレ》 いろいろ映画を観てきたけれど、群を抜いて狂っている。人間の中の狂気を、包み隠さず非常にポジティブに押し出している。登場人物どいつもこいつも狂っていて気持ち悪い。なんとショッキングでストレスフルな映画なんだ、本当に今も気持ち悪い。でも、悔しいことに面白くて2時間食いついてしまった。スタートからぐいぐい引っ張って離さない力を持っていた。アジャーニが七転八倒苦しみ抜いて吐き出したものは、どの人間の中にも流れているのかな。「善と悪」と表現されていたそれは、「陽と陰」「表と裏」くらい、ごく近いところに潜んでいそうで…一見の価値はある、しかし二度と見たくはない、近寄りたくない世界を描いた映画。 [DVD(字幕)] 8点(2006-02-19 23:45:15) |
7. ボン・ヴォヤージュ
画はとても綺麗でしたが、ちょっと設定に無理がないかなあ、戦争とサスペンスとラブロマンスって…。このごった煮はどれも味が中途半端でした。役者はなかなかで、イヴァン・アタルやルドワイヤンなんてちょっと見直してしまいました。ドパルデューなんて鼻がデカくなきゃ彼とは判らないし。ただ、アジャーニは映画女優の役で、正直甘ったるいお菓子みたいな彼女に飽きてきてしまいました。どこかでキリッとし態度をとるんじゃないかと期待していたのに、不可解なラストシーンでガッカリ。カワイイだけじゃダメなのよ。 [DVD(字幕)] 6点(2005-07-02 20:22:31) |
8. ぼくセザール 10歳半 1m39cm
まずは、主人公セザール君が悶絶の可愛さ♪そんな目でケーキをほおばらないで…。百面相の表情に才能を感じた。途中に入るナレーションは彼の解ったような口ぶりでの人生哲学。これも生意気なところがかえって可愛い。他の子役も魅力的で粒ぞろいだった。カメラの位置もそうだったが、10歳の目線で追った世界観の映画で、可愛らしく楽しい。子どもだけでロンドンに行こうとする経緯や、いきなりたたみかけるように物事がうまくいってしまうラストには物足りなさも感じたけれど、ベタベタしない清涼感のある作品だった。アンナ・カリーナはどんなおばちゃまになったか興味津々だったけれど、この映画ではパンクでしゃがれ声の威勢の良いオバチャンだった。芝居がどうこうと言うほどの役柄でもなかったけれど、赤いメッシュの髪がちょっと嬉しかった。 7点(2005-01-15 19:28:33) |
9. ぼくは怖くない
《ネタバレ》 黄金の海とどこか悲しげな音楽が美しく、のっけから画面に釘付けになる。場面ごとの画の見せ方や気の引き方がとてもうまい。やるせないストーリーだが惹きつけられる。大人たちの起こした事件は、たとえ生活のための術だとしてもあまりにも愚かだ。母が主人公に言う「大きくなったらこの村を出て行って…」という言葉は、痛切な響きを持っている。生き続けることがそう単純でなく、いろいろなものを抱え込まなければ前に進んでいけないことを承知する年齢になった私は、子ども部屋でたまらず嗚咽する母に少なからず同情した。しかし、この悲しき大人たちの存在で、少年たちのイノセンスが際だって光っている。主人公ミケーレとフィリポが麦畑で戯れるシーンは幸福感溢れる画だった。ラストでことのほか強い光に照らされた「守護天使」に、幸せな未来が来ることを祈って止まない。 9点(2004-09-13 20:54:09)(良:1票) |
10. ボクサー(1997)
ただただ、無意味な戦いを無くしたいという願いから作られている映画だと思う。宗教紛争というものに縁遠い生活を送っている身としては、なぜここまで、という疑問符だらけのストーリーである。男は戦い、女は支えるという古い因習がはびこり、ただ一人、命ほど大切なものは無い、と訴え続けるトレーナーのアイクは枯葉のように葬られていく。悲壮で固い空気でいっぱいだ。そんな中、主人公ダニーが、ボクシングという手段で対戦相手ではなく因習に立ち向かっていく姿は、絶え間なくパンチを送り続けることで何かが変わるはず、という意図があるように思え、胸が締め付けられる。寡黙な彼が言葉を使わずに大きく叫ぶ。戦わなければ、負けることもないが勝つこともないのだ、この空気に囚われた町に穴を開けるのだ、と。身を挺して進みゆくダニーに心を揺さぶられる。気持ちが弱虫になっている時に観ると、この映画に込められた魂の力に吹っ飛ばされそうになる。 9点(2004-07-13 22:47:01) |
11. ポワゾン
《ネタバレ》 観てからそんなに時間が経っていないのに、記憶があまり無いのだ。見るからに悪巧みを考えてそうなアンジェリーナに、簡単に騙されちゃう甘々バンデラス。ドンデンが続き、結局二人は離れられない仲になりました、という感じだった。南米の古いお屋敷やインテリアは、あまり観る機会もないので結構目を引きました。でもって、アンジェリーナ姉御の妖艶、というかちょっと怖いような顔やら裸体やらにビビった…。 4点(2004-03-22 12:54:59) |
12. 僕たちのアナ・バナナ
ひょーえー、私は「ダーマ&グレッグ」が大好きでこの映画とても楽しみにしていたのに、これは大きく期待をはずした。ラブコメで女の子にキュートな部分を見つけられないなんて。ダーマのイメージが強すぎたかなあ、にしても…。宗教まで絡めて気の利いた話作りなのかもしれないのですが、興味が薄いからか笑いも起こらず…。いやいや、ジェナに限らずノートンもベンも何故か私の目には魅力的には映らなかった。監督ノートン、この三角関係は実体験に近いらしい。次回を待つ。 4点(2004-03-13 13:55:05) |
13. 火垂るの墓(1988)
たった一度しか観ていない。これからも観たくない。理由は泣くから。もう思い出しただけでも悲しい気持ちになってしまう。今日職場でサクマドロップをもらい、この映画のことを思い出したので書くことにした。あのいつまでもスタイルを変えない缶を見ただけで、健気なおかっぱ頭の少女を思い出してしまう。どんなシーンを思い起こしてももう悲しいばかり。しかし、この映画が戦争というものを後生に伝えていく役目をきちんと果たしているかというと、素直には頷けない。こんなに幼くて大切な命が無条件で切り捨てられていくのが戦争の実態ではある。でも、この映画で表現されている怒りや悲しみの他にも、考えなければならないことはあると思うから。だったらどうすればいいのか、と言われるとうまく言えないのだが…。とにかく、この小さな命を扱った物語に今日は静かに手を合わせたい。 5点(2004-03-12 18:29:58) |
14. ボーイズ・ドント・クライ
《ネタバレ》 この後味の悪さよ・・・。しかしどっぷりと見入ってしまった。心と体の性的バランスが一致しない主人公が、差別によって葬られていく、というのが主な筋立てだが、私はガールフレンドを横取りされそうになった男が、都合よく異質、異物の笠を着せて主人公を殺した風にしか見えなかった。つまり、性同一性障害の問題や閉鎖的な町という設定はぼやけていた。ヒラリー・スワンクの熱演はさることながら、いつもいつも独特のけだるさが抜けないクロエ・セヴィニーがとてもよかった。あるシーンで、「優しい人と話がしたかったの」と無邪気に主人公に話しかける顔が本当に可愛くて、この映画で唯一くつろげる場面だった。 6点(2004-02-02 15:26:50) |
15. ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ
《ネタバレ》 私にとって、この映画は満点グループに入る傑作。高名かつ短命に終わった実在のチェリスト、ジャクリーヌ・デュ・プレの実姉が書いた物語だ。ずば抜けた才能を持ち世界中で活躍する妹を、昔から腫れ物のように扱う姉。しかし妹は姉の持つ「平凡」の暖かみに飢えていた・・・。エミリー演ずるジャッキーは、若くして世界に羽ばたいた人の孤独をありありと見せつけている。遠くロシアの留学先で、実家から送られてきた洗濯物を枕元に並べるシーンの切なさ。有名人っぽく派手な服で姉の農園を訪ねたときの、なにかぽつんとした姿の悲しさ。そして病に冒され、盟友であるチェロの音色までも失なっていく。エミリーはともかく私は姉役のレイチェル・グリフィスの演技にも心酔した。音楽家としてそれなりだった学生時代から、主婦として普通に幸せを感じ、妹の酷な願いに苦悩するヒラリーを、至極普通の女としてしかし美しく演じていた。病で倒れた妹を見舞う病院のシーンは、二人の女優の目線や表情の使い方、セリフの間に息が詰まる。そして最後、稀有の妹は平凡な姉の腕の中で安らぐ。幻想的な浜辺のシーンで、ジャッキーが壮絶な人生を見つめなおも「心配しなくていいのよ」と幼い自分に語りかける姿を見ていつも涙を流してしまう。エルガーが第一次大戦で深い悲しみを心に刻んだ後作曲したチェロ協奏曲。ジャッキーが得意としたこの曲が心の琴線に触れる。先ごろやっと手に入れたDVDは、本当にたまにふたを開け、愛おしむことにする。 10点(2004-01-19 18:26:52)(良:2票) |
16. ポンヌフの恋人
「目覚めよ、パリ!」この美しいラストに尽きます。ビノシュ絶頂期の可愛らしさがパンパンに詰まっている(当たり前か、恋人が作った映画だ)。随分前に見たので、また見直してみよう。最初に見たときと同じ気持ちでまたあのラストにたどり着きたいです。 (2004/2/21追記)約十年ぶりくらいに見直しました。感想は変わらず、素敵な映画でした。あのぶっさいくなドニ・ラヴァンの最後の笑顔を変わらず美しいと思いました。この映画が発する電波を捉えることができた自分が嬉しいし、長い時間が経っても、変わらず胸を射抜くような感覚を持つ映画があるのは幸せだと思ったので追記させてください。 9点(2004-01-12 17:00:28)(良:1票) |
17. ポーラX
《ネタバレ》 知人に「見ると嫌な気持ちになるぞ」と言われ、思わず借りてしまったが、なんの、私はこれなかなか気に入ってしまった。実姉らしき人といきなり恋に落ち、ものすごい勢いで転がり落ちていく主人公。何だってそんなに惹かれあうのか、とか、二人でよくわからないコミュニティで暮らしたりする様は首をひねらずにはいられませんでしたが、ウェディングドレスに象徴されるパステルカラー調の前半から、「姉さん」の登場後暗い色調の世界に真っ逆さまという展開が面白かった。何はともあれ運命的に愛し合う二人だということが頭にあったので、ベッドシーンもそのまますうっと見てしまったと思う。最後まで我が身をかけて愛し合うのだ。ある意味、想いは実ったのだろう・・・。「姉さん」役の人 の声が絶望的な響きを持っていて、暗い空の色によく似合っていた。 7点(2004-01-12 16:39:30)(良:1票) |