1. 街の野獣(1950)
《ネタバレ》 数あるフィルムノワールの中でも屈指の傑作といってよい。賭博と詐欺に明け暮れてその日暮らしを続ける若い山師。プロレス興行で一攫千金を目論むが、彼を取り巻く腹黒い人間たちとのペテンや裏切りの応酬で徐々に自分の首を絞めていき、悪循環の沼にはまり込む。明瞭なストーリーとよどみないテンポで、緊張感が終始、途切れない。裏社会と結びついたプロレス興行の内幕を描いたところも面白い。 今回のリチャード・ウィドマークがいつにも増して素晴らしい。例によって死神のような憎たらしい笑顔で善人たちをはめていく、肝のすわったクズ野郎っぷり、そして鼻たれ小僧がそのまま大きくなったような夢見がちなチンピラが自業自得で追い込まれていく狼狽ぶりが秀逸である。 また、本作で特筆すべきは、20世紀前半のプロレス界の立役者であるスタニスラウス・ズビスコが往年の名レスラー、グレゴリウス役で出演している点である。プロレスマニアにはお馴染みのレジェンドであるが、現役時代の映像は未見であり、まさかこんなところでその姿を拝めるとは夢にも思わなかった。当時で70歳を過ぎていたとは思えない肉体で、やはり元レスラーのマイク・マズルキ演じるショーマン・レスラーとの道場での死闘は圧巻である(ただし、尺を取り過ぎた感はあるが)。 ギリシャ移民のグレゴリウス(演じたズビスコもポーランド移民)の息子が英国のプロレス興行を牛耳るマフィアであるという設定も、裏社会と移民の関係を通じて移民国家イギリスのひとつの実態を反映しているのであろう。 惜しむらくは、メアリーに横恋慕する芸術家アダム、フィルの遺産を独り占めする花屋モリ―、この二人の人物像が掘り下げられていない点である。そのため、二人が結末であっと驚く役割を演じるのが、だいぶ唐突に映る。 とにかく、犯罪映画の定番である「最後の笑うのは誰か?」という展開にならないところが、いい意味で観る者を裏切ってくれる。もっと多くの人にこの破滅の美学を味わってもらいたいものである。 なお、DVDで視聴したのは米国公開版であり、英国公開版を編集したものである。 [DVD(字幕)] 10点(2021-01-03 20:28:30) |