1. 味園ユニバース
《ネタバレ》 あまりとっかかりもなく、さらっと終わったなあという印象。ラストに至るまでの過程があまりに淡々としているせいか。主人公の晴れ舞台で終わる作品は王道と言えば王道で、そこに挑もうという心意気は好きだし、あとはポチ男姉の首にエレキバンという、些細なところに山下風味はあるのだけれど。なぜ脚本が向井康介じゃないのか、という疑問を抱かずにはいられない。 [映画館(邦画)] 5点(2015-03-07 11:12:56) |
2. ミスティック・リバー
《ネタバレ》 何か観たことあるぞ、この感じ…と思ったら、「ゴーン・ベイビー・ゴーン」と同じ原作者なのか。どちらの映画にも胸糞悪い少年暴行の表現があり、さらにどちらも「選択」或いは「仮定(もしもあのときああだったら…)」がキーになった作品である。特に「選択」はこの映画の大きなテーマであると私は感じた。本作では見事にキャラクターたちが選択を誤り、結果、とても後味の悪いラストを迎える。ティム・ロビンス演じるデイヴの報われない人生を思うと、あまりに哀しい。三分の一のハズレを引いた彼と、助かった二人。振り分けられたのは単なる運としか言いようがない。その無慈悲さにはぞっとする。それが現実なんだと、分かっているから尚更だ。ちなみにデイヴがいつも人の車に乗りこみ、不幸な目に遭うというのは意図的なんだろうか。徹底的に救われない話だが、人間や人生というものの一つの真理を描いている傑作だ。作品全体を通して翳った画面と設定された年齢の割に老けた俳優二人(無論ケヴィン・ベーコン以外の二人)が見事にストーリーの陰惨さを増幅させている点も高評価である。 [DVD(字幕)] 8点(2010-04-04 21:01:37)(良:1票) |
3. ミリオンダラー・ベイビー
《ネタバレ》 ヒラリー・スワンクという女性を知ったのは私のなかでは史上最強の鬱映画「ボーイズ・ドント・クライ」である。この映画で彼女が演じたのは(ネタバレになるので仔細は語れないが)、孤独を抱えながらも、強く美しく生きる女性の役であった。本作と「ボーイズ…」では役柄の印象は結構近い。彼女のような、野性的な美人という形容では物足りない、とかく凄味がある女優は、そうしたハードな役でこそ活きる。映画自体の出来に言及する以前に、彼女の仕事ぶりだけでもどちらも一見の価値はあるだろう。このままでは「ボーイズ…」のレビューと兼用になってしまうので、本作について。驚くほど単純明快に、素晴らしい作品だ。スポーツは観るもやるもてんで興味のない私だが、本作は何しろただのスポ根モノではない。ボクシングという飾りを纏った、実に深遠な人間ドラマなのである。マギーとフランキーの間にあるのは、親子のようにイノセントではあるが、親子のようにおんぶに抱っこではない、あくまで互いを尊敬しあう、男女としての愛である。ラストは賛否あるようだが、私は自然に思えた。人生はいつだって理不尽なもので、突然の不幸に見舞われることもあるが、そのなかで最良の選択をしていくしかない。愛は刹那であるがゆえ、永遠に美しい形で留めておきたかった二人の決断(正確には一人の意志と、その意志に従ったもう一人の判断)は、あくまで二人の関係においては正しかった。それでいいのではないか。ありきたりなシンデレラ・ストーリーも悪くはないが、不幸や悲壮のなかに一縷の望みや喜び、自分なりの救いを見出す人々の物語のほうが、ずっとリアリティがあるし、胸に響く。本作はあちこちで賞賛を浴びるイーストウッド監督の力量がよく分かる、重厚な映画である。 [DVD(字幕)] 8点(2010-02-26 21:07:17) |
4. 美代子阿佐ヶ谷気分
《ネタバレ》 安部愼一という男は天才漫画家である。しかし私にとっては、彼が私の敬愛するミュージシャンの父親であることのほうが重要である。美代子夫人と安部氏の愛は壮絶である。壮絶であるがゆえに納得させられる。二人の愛が安部兄弟を生み出し、また、その愛の狂気が息子たちに影響を与え続け、その結果(残念ながら解散してしまったが)スパルタローカルズというバンドが作られ、また、素晴らしい音楽の数々がこの世に存在するということ。古臭くてボロボロな映像と、美代子演じる町田マリーの特別綺麗ではない裸体、「みんな夢の中」、それらが象徴する、阿佐ヶ谷という街で過ごした二人の男女の、人間らしく汚れていながらも美しい物語は、命を紡ぎ、確かに今に続いているのだ。スパルタローカルズの「水のようだ」が流れるなか、安部愼一本人が登場するエンドロールは本当に感無量である。無論、安部愼一もその息子たちも知らない人にとっては、この映画はわけもわからんし、退屈な、とんだ失敗作であるかもしれない。絶対に万人にはオススメできない。だが、今回ばかりは私情オンリーで評価させていただく。最高の映画です。 [映画館(邦画)] 8点(2009-12-01 22:46:43) |
5. みんな誰かの愛しい人
《ネタバレ》 作家先生の周囲にいる人々のお話だが、なかでも特にロリータに共感できるか、できないか、観客のこの映画の印象はここで決まるのではないかと思った。ロリータのいじけっぷりは人によっては不快に感じるだろう。実際私も「この人痛い!」と思ったが…どこか自分に似ているから、こんなに痛く感じるんだろう。彼女の人物描写は、モテないうえに、唯一自分を認めてくれる存在であるはずの父親にすらぞんざいに扱われ、周囲の人間には偉大な父親に近づく手段として利用され…と三重苦以上の不幸を背負っている女のメンタリティーとしては非常にリアル。誰だってああなるわ。でも歌っているロリータはそれなりに美しく、その姿に私もはっとなり、セバスチャンと同様、ロリータに惚れ直した(しかも、そこもやっぱり見てない親父。芸術家というのはどこか自分本位で、側近の人を傷つけながら自己を高めるというイメージがあるが、まさにそのイメージのとおり。がっかり)。結末は、ロリータに感情移入しているぶん、何となく嬉しい。確かに大きく事態が好転するわけでもなく、ラストは静かなものだが、急変せずにじわじわと変化していく人間関係や、小さな言葉のすれ違いなど、物語が現実感を損なわず作られている点、私は好きだ。ただ、やはりちょっと地味で、あまり残らない作品かもしれないと思い、この点数。 [DVD(字幕)] 7点(2009-08-01 03:10:22) |