1. ミツバチのささやき
《ネタバレ》 セピア調のノスタルジックな映像と純真な子供たちを微笑ましく眺める、要はアナ・トレントがかわいいから人気があるだけの映画という偏見を持ってたのですが(笑)、改めてじっくり見ると結構ストーリーも理解できました。言わば壁にぶつかって割れる卵があるなら壁がどんなに正しく卵が間違っていたとしてもそれでも割れる卵の側に立つという話ですね。映画の中のフランケンシュタインの怪物、踏み潰される毒キノコ、銃殺される脱走兵、アナは大人たちがそれらを間違っている側に位置付けようとも彼らに想いを寄せ続けるのです。ただ抑圧という行為に批判的ではあってもそもそも壁が正しくないのではないかというところまでは踏み込まない、当時のスペインの政治状況もあってか踏み込むことができないところがあるように感じます。今見るとメタファーを多用し直接的な描写を避けるのはうっとうしいところもあり淡々としすぎで刺激がなく物足りない部分もあります。まあ逆にフランコ独裁という政治背景を踏まえなくても子供心に残る違和感をベースに仕上げたところが多くの人間に好まれる普遍性を獲得できた要因でもあるのですからそこは痛し痒しではありますね。 [映画館(字幕)] 6点(2023-09-27 23:39:23) |
2. ミッドナイト・エクスプレス(1978)
ひえーこれ脚本オリバー・ストーンなんですか。こんな差別的なものを平気で書いてたんですね。やっぱり実話を元にしていても相当脚色しているという前提知識があると終始冷めた目でしか見れませんね。ドキドキしているのを表現するのに心拍音のような音を流したり、感情を剥き出しにするような演技といい今見るとというかたぶん公開当時でも単純で捻りがなさすぎますね。脱獄の過程もかなり雑ですしあんまり知性やセンスを感じさせない作りです。男色趣味のトルコ人に拷問を受けるのってアラビアのロレンスでもありましたね。なんか妙に男の裸がエロティックに撮られています。真面目な社会派作品というよりこういう捕虜や収監ものって身ぐるみ剥がされて裸になったり男しかいない空間だったりで同性愛的な雰囲気が漂うわけで、そこにオリエントな雰囲気も加わって刺激的な旅気分を味わうような楽しみ方をする作品ですかね。実話では存在しない主人公の恋人を追加したのはこの手の作品にありがちなアリバイ作りですね。ヘロインの提供者という偏見を逸脱しようとハッスルしていたらまた偏見を生み出すような作品を作られてしまうトルコは災難ですな。 [インターネット(字幕)] 3点(2023-09-08 22:13:51) |
3. Mr.ノーバディ
退屈な仕事の象徴がエクセルなのには笑いました。見終わってから知ったんですがハードコアの監督だったんですね。前作のように一人称カメラで撮られているわけではないものの、この映画もまた主人公の主観から一方的に語られる一人称的作品で、妻や子供たちの内面を全く描こうともせず主人公のものの見方が相対化されていません。ふつう複数視点で語るか主人公を現実と妄想の境目が曖昧な狂気の人物として描くような内容にするのが常道だと思うのですが、逆に暴力シーンをはじめとしてリアリティが追求されているような演出で違和感が強いです。所詮中年サラリーマンの願望充足映画なのですから、もうちょっと夢のある内容にした方がいいと思います。痛みを強調したリアルな暴力シーンを目指しているのかと思いきや終盤は普通に非現実的で馬鹿馬鹿しい銃撃戦になっちゃいますしこういうのは正直見飽きました。タイトルにも意味があるんだかないんだかという感じです。ハードコアは少なくとも斬新な挑戦を見る楽しさがあったのに、これはありきたりでつまらない内容でしかないです。それにしてもロシア人監督がロシア人を悪役にするのはどういう心境なんでしょうか(笑)。 [インターネット(字幕)] 3点(2023-09-06 23:48:37)(良:1票) |
4. ミナリ
アジア系の移民が主役というのも珍しいのですが、その上農業で成功を目指すというのは今まで見たことがない例です。実際この時代の韓国からの移民(に限ったこともなさそうですが)は圧倒的に都市への移民が多かったみたいで、劇中の家族は都会の韓国人を嫌っているあたりからしてもかなり珍しいパターンのようです。何の根拠もなく自身たっぷりな父親に対し現実を見据えている母親、男の子と女の子が一人ずつ、おばあちゃんがいてもおじいちゃんはいない、一昔前は日本でもよく見られたような家族像は懐かしさを感じさせますが日本人としては新鮮味も薄いです。移民の物語だからといって差別や迫害を描けば良いというわけでもなく人種を超えた友情を描いているのはこの映画の美点ではあります。しかし監督の自伝的内容とはいえ作品の焦点がどこにあるかよくわからずテーマも不明瞭で終始ぼやけている感じなのは欠点です。父親の農業への情熱、おばあちゃんへの思い、生活の中のキリスト教、どれも素っ気なく描かれるだけで作品を通して誰が主人公なのかもよくわかりません。部分部分に光るものがあっても全体としては希薄な印象しか残らないというのが正直な感想です。 [インターネット(字幕)] 5点(2023-08-10 23:18:39) |
5. ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE
IMAXで見ました。序盤の砂嵐の場面は画面の大きさと音響のおかげで作品世界への没入感がすごかったです。ただそれ以降は迫力があるアクションシーンでもIMAX環境が最大限活かされているとは思えませんでした。クリップやライターのような小道具の伏線としての使い方はうまいです。キャストはパリス役のポム・クレメンティエフが最高ですね、彼女が完全に美味しいところを持って行ってます。しかしとにかく長い…。単に上映時間が長いというだけでなく一つ一つのアクションシーンもやたら長く延々と続くので始まりはワクワクしますが段々とダレてきていつ終わるのかという気分になってきます。ストーリーは現代的なテーマとしてAIの支配に対抗する人間を描いているように見せかけて全部それっぽい雰囲気だけで実態はただトム・クルーズがモテモテで終始美女に囲まれているだけの内容のような気もします。まあそれでも人間同士の信頼関係の重要さを中心に据えたドラマは一応見てよかったと思わせるだけのものはあります。 [映画館(字幕)] 6点(2023-07-28 23:24:07)(良:1票) |
6. M3GAN ミーガン
冒頭の雑な両親の死に方やミーガンの試作機が炎上する場面での登場人物の馬鹿っぽさ、この時点で真面目に見るべき映画ではないのかもしれないと不安になりますが、それ以降は両親を亡くした姪を引き取ることになったジェマの葛藤やミーガンとケイディの交流の中で現代社会における子どもとのコミュケーションの問題が丁寧に描かれており悪くないです。この映画は確かにターミネーターの要素もあるわけですが、内容的には1作目よりもロボットの方がより良い親になれるかもしれないというターミネーター2の方が近いんですよね。アイザック・アシモフのロボット三原則も三原則自体の矛盾によってドラマが生まれるのですが、この映画も人間を守るという目的のための行動が結果として人間への加害へと繋がるというジレンマが面白いです。この問題を真面目に掘り下げていけばジャンルの枠を越える傑作にもなれたと思うのですが、終盤になると既視感溢れる安易なホラー映画的殺戮劇になってしまうのがつまらないです。社員がミーガンの情報を盗み出そうとしてたシーンの顛末があれだけで終わるのも期待外れの展開です。まあこの映画のスタッフは単純なエンターテイメント作品を目指していただけでそこまでの野心もなかったのでしょうし、グロテスクな描写も控え目なのでホラーにあまり興味のない方でも楽しめる軽い娯楽映画としては悪くない出来だと思います。 [映画館(字幕)] 6点(2023-06-10 23:53:15) |
7. 未来のミライ
この映画の価値は細田守監督が初めてポストジブリ・宮崎駿だのデジモンの細田守だのという呪縛から解放されて自由に創作することができた作品だということです。新海誠監督の君の名はがヒットした後に作られたということも大きいのでしょうね。だけどこの映画が不評に終わった以上やっぱり彼には今後も宮崎駿の代わりの役割が求められ続けるのでしょう、それがちょっと残念です。延々と繰り返す羽目に陥ったぼくらのウォーゲームのリメイクではなく、その前作のデジモン劇場版第一作に近い子供の目から見た世界を描くアプローチです。田舎もインターネットも描く必要なんてないんです、そうした妄想を具現化するような空間よりも実人生で得た経験をベースにする方が正しい創作の姿勢です。私も年下の兄弟が生まれた時にくんちゃんと似たような行動を取ったと母からお話を伺ったことがあります。現実の子供ってこれぐらいはわがままなものでしょう?親から離れた時の不安感、駅が迷路のように見えた頃、私にも確かにそんな記憶があります。この映画はその感覚と経験をイメージとして見事に表現できていると思います。ミライちゃんの出番が少ないのにこのタイトルはおかしいという意見もわかります。しかしこの映画ではミライちゃん以外の登場人物はみな愛称で呼ばれています。ミライちゃんはくんちゃんが初めて認識する名前を持った個人です。名前を持った個人の存在を認めることから人生の第一歩が始まるのです。だからやっぱりタイトルはこれでいいんだと思います。 [インターネット(字幕)] 8点(2023-04-15 22:52:13)(良:1票) |