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1.  夕凪の街 桜の国 《ネタバレ》 
昭和30年代と現代の二部構成で描かれた佐々部清監督による広島原爆を描いた映画で、こうの史代の漫画を原作としている。昭和30年代が舞台の前半「夕凪の街」は原爆に遭った主人公・皆美(麻生久美子)が生き残ってしまったことへの葛藤を抱えながらそれでも懸命に生きていく姿が描かれていて、淡々としているが、情感たっぷりで心に刺さるようなセリフもあり、思ったよりはかなり良いし、思わず引き込まれた。それに現代の邦画戦争ものにありがちな回想形式でなかったのも良かった。しかし、やはり後半の現代パートである「桜の国」は、最終的に伝えたいことは伝わってくるものの、前半とのつながりがうまくいっているとは思えず、前半が良かっただけにイマイチに感じる部分が多い。「桜の国」の主人公である七波(田中麗奈)の子供時代の回想が入るのもせっかく前半は回想形式でなかったのにと思えてしまって何か残念だった。見たあとで調べて分かったのだが、原作では七波の子供時代も回想ではなく、現在進行の物語として書かれているみたいなので、たとえ三時間くらいになっても映画でもそうしたほうが良かったような気がした。また、原爆資料館で吐き気を催した友人(中越典子)を七波がラブホに連れていくところは思わず突っ込んでしまったし、二人で風呂に入りながらテレビでかかっていたプリプリの「diamonds」を歌うシーンは、原爆映画という本作の趣旨とかけ離れてしまっていて違和感があり非常に残念だったように思う。悪い映画ではないのだが、前半の良さを後半が足を引っ張ってしまった印象は否めず、あまり人にすすめようとは思わない。それに、映画を見ているときにふだんほとんど原作の存在は意識しないのだが、本作は久しぶりに原作の漫画を読んだほうが良さそうと思ってしまった。それでも、前半の良さに免じて6点を。
[DVD(邦画)] 6点(2019-11-17 18:13:21)
2.  夕やけ雲 《ネタバレ》 
木下恵介監督が自身の妹でもある楠田芳子の脚本を得て手がけた青春映画。主人公の青年が数年前の出来事を回想する形式で、青年の過ぎ去りし日の思い出を描いているが、いかにも木下監督らしい抒情にあふれた佳作となっている。父(東野英治郎)の死や親戚の家にもらわれていく妹、そして望遠鏡でのぞいていた少女や親友ら主人公の大切な周囲の人々との別れや、夢を持ちながらもそれをあきらめ家業の魚屋を継ぐ青年の姿が切々と描かれており、人間が生きていくためにはいろんな別れや時としては自分の夢も捨てなければいけないという人生の厳しさ、そういうものがリアリティーを持ってこちらの胸に迫ってくるのだ。中でも妹との別れのシーンで、いったん帰りかけた青年が引き返し、「必ず迎えにいくからな!」という言葉をかけるところは思わず泣かされた。青年の姉(久我美子)の夫の電話に出た後に倒れた父親の死ぬシーンを直接的には描いていないのもいい。北海道に旅立っていく親友との別れも二人の友情の深さを感じられるような丁寧な演出が良かった。この二人の関係を同性愛的な描き方と評しているものもあるようなのだが、そうは感じなかった。出演者に目をやると青年を演じる田中晋二と彼が望遠鏡でのぞく先にいる病弱な少女役の有田紀子は未見だが木下監督の代表作の一本である「野菊の如き君なりき」の主演コンビというある意味ではお遊び的なキャスティング、それに「女の園」で高峰秀子の恋人役として出演していた田村高廣が本作ではその共演者のひとりである久我美子の恋人役というのが面白い。それにしても木下監督は自身で脚本も手掛けることのほうが多い監督だが、新藤兼人監督が脚本を手がけた「お嬢さん乾杯」しかり、ほかの脚本家から提供を受けた作品でもきちんと良作を作れる監督なんだとこれを見て思う。そういえば本作は監督と脚本に加え、音楽(木下忠司)も撮影(楠田芳子の夫である楠田浩之)も木下監督の親類縁者だ。
[DVD(邦画)] 7点(2015-08-07 01:01:25)
3.  夕陽に赤い俺の顔 《ネタバレ》 
篠田正浩監督は喜劇をやるイメージがないのでどんなものなのかと思っていたら、松竹マークの出るいちばん最初の部分から日活映画と見まがうような音楽が鳴り響き、中身自体も松竹というより日活、それも鈴木清順監督の「東京流れ者」のようなぶっ飛んだ演出が光るカルト映画としか言いようのないものになっている。先に後年の篠田監督の映画を何本か見ていると、これが篠田監督の映画とは信じられないほどの怪作ぶりだ。タイトルの出し方も凝っているが、そのバックに流れる主題歌が強烈で、ここからもう一気に引き込まれる。ストーリーは単純だが、それを独特の演出で描き、インパクトを持たせる手法や、突然ミュージカル仕立てになるところも「東京流れ者」と同じ。「東京流れ者」のほうがインパクトは上だと思うが、製作されたのは「東京流れ者」よりも5年ほど前というからすごい。篠田監督の映画は今まで見た範囲では、面白いと思えた映画は少ないのだが、これは本当にカルト映画の傑作の一本と言っていい作品で、今まで見た篠田監督の映画の中ではいちばん面白かった。本作は篠田監督にとって3本目の監督作で、はっきり言ってこの調子でずっといけば篠田監督は清順監督のようなカルト映画の巨匠になっていたかもしれないとさえ思えてしまう。変な映画だが、それでも夕焼けをバックにしたラストシーンは非常に美しい。
[CS・衛星(邦画)] 8点(2013-02-20 23:28:50)(良:1票)
4.  雪の喪章 《ネタバレ》 
三隅研次監督による若尾文子主演の年代記もの。三隅監督といえば座頭市や眠狂四郎をはじめとした時代劇の印象が強いが、こんな映画も手がけていたのだなあ。話としては昭和初期から戦後にいたるまでの一人の女の人生を描いているが、どうも駆け足気味で、特に後半になるとイベントが起こりすぎて見ていてちょっと疲れてしまうし、こういう映画で若尾文子を主演に起用するなら、三隅監督ではなく増村保造監督のほうが良かったのではと思えてしまう。若尾文子が老け役を演じているとのことだったが、冒頭とラストを比べてもそれほど印象は変わらなかった。天知茂(ほかの三隅監督の映画でも印象に残る役柄の多い。)や中村玉緒が好演しているだけになんだか惜しい。それにしても雪の降る日に誰か死ぬというのはみんな単なる偶然だろうが、それにしてはちょっと重なりすぎていて薄気味悪い。ホラー映画じゃないんだから。
[CS・衛星(邦画)] 6点(2012-10-30 14:28:27)
5.  友情(1975) 《ネタバレ》 
渥美清と中村勘九郎(現:中村勘三郎)主演による松竹80周年記念映画で、監督は山田洋次監督の初期の喜劇や「男はつらいよ」シリーズでも初期の何本かで共同脚本を手がけた宮崎晃。渥美清演じる源さんのキャラクターがどことなく寅さんを思わせていたり、作風も山田監督の映画のような雰囲気。主演が渥美清ということもあり、どうも「男はつらいよ 番外編」でも見ているような気持ちになるが、ラストが山田監督ならば絶対にやらないような結末なのがちょっと違うところか。渥美清という俳優を見る時にいつも意識してしまうのが寅さんで本作も途中まではさっき書いたように寅さんを意識して見ていたが、自分の家族の現在の姿を見た直後のシーンや、帰りの船の中で大泣きするシーンで寅さんとは何か違うものを感じ、「男はつらいよ」シリーズを見ていて寅さんに感情移入するのとはまた違う感覚で感情移入することができ、映画自体がとても感動できる名作だが、とくにこのクライマックスからラストシーン近くにかけての渥美清の演技には思わず泣かされた。まだ「男はつらいよ」シリーズ以外での渥美清の主演作を先週見た「白昼堂々」と本作の2本しか見ていないのだが、本作は間違いなく「男はつらいよ」シリーズ、寅さん以外での渥美清の代表作になるのではないかと思う。勘九郎と同棲している恋人を演じる松坂慶子もひたすら美しく、主役二人が彼女に看病されるシーンでは思わず羨ましくなってしまったが、それよりも渥美清の寅さんだけではない俳優としての凄さをこの映画のクライマックスの演技で改めて思い知らされ、やっぱり名優だと思った。(このクライマックスの演技で初めて寅さんを意識せずに渥美清を見られた気がする。)あまり機会がないのが残念だが、「男はつらいよ」以外の渥美清の主演作をもっと見てみたいなあ。
[DVD(邦画)] 8点(2010-03-02 17:24:20)(良:1票)
6.  雪国(1965)
松竹によるリメイク版。映像が白黒からカラーに変わっただけでだいぶ映画全体の印象は異なるので、ちょっと心配な面もあったが、成島東一郎の撮る映像は見事に美しく、映画の叙情的部分を醸し出すのに成功している。豊田四郎監督の東宝版には完成度的に少し及ばないものの、それでもこのリメイク版もなかなかの良作だと思う。東宝版で駒子を演じた岸恵子が素晴らしかったのだが、本作の岩下志麻の駒子も、岸恵子とはまた違った妖艶な魅力を持っていて良かったと思う。加賀まりこの葉子は八千草薫と比べるとやはりちょっと小悪魔的な印象になってしまうのがなんとも言えない。木村功の島村はなんか池部良の島村より積極的でいやな男に描かれてる気がする。東宝版に女中役で出ていた浪花千栄子が按摩の役で再登場したのは偶然なのか、それとも東宝版を意識しての配役だろうか。監督が岸恵子を一躍スターにした「君の名は」の大庭秀雄というのもちょっと興味深いところ。
[DVD(邦画)] 7点(2007-11-06 14:53:15)(良:1票)
7.  雪国(1957)
川端康成の名作文学を「夫婦善哉」の豊田四郎監督が映画化した文芸大作。例によって原作は読んでおらず、「トンネルを抜けると雪国であった」という出だしの有名な一節しか知らない。最初のほうの再会シーンから初めての出会いを描く回想シーンあたりまでの雰囲気はけっこう良かったので駒子がなぜ芸者になったか判明したあたりからのドロドロした展開にはビックリしたが、格調高い叙情あふれる映画で、これは間違いなく名作と呼ぶに相応しい作品だと思う。駒子を演じる岸恵子がなんといっても素晴らしい演技をしており、この頃の出演作では「女の園」くらいしか見てないけど、雰囲気も「女の園」と比べると大人っぽくなり、後年の市川崑監督の映画とかで演じる女性像に近いものを感じた。60年代に松竹でも岩下志麻主演で映画化されてるみたいなんでそっちも見てみよう。
[CS・衛星(邦画)] 8点(2007-10-27 02:01:35)(良:1票)
8.  雪之丞変化(1963)
長谷川一夫の映画300本記念作として、彼がまだ林長二郎と名乗っていた戦前にあたり役としていた「雪之丞変化」を市川崑がリメイクした作品。主演はもちろん長谷川一夫で、記念作らしく雷蔵や勝新まで出演するオールスター作品になっていてかなり豪華である。オリジナルは未見だが、約30年ぶりに同じ役で主演している長谷川一夫はそりゃあ戦前は水も滴る色男だったのかも知れないが、既にこの頃になると中年になっていてただの汗臭いおっさんにしか見えないのがちょっと辛いところ。でも市川作品として見るといつものように実験精神溢れる傑作になっていて、面白い映画だった。
[CS・衛星(邦画)] 8点(2005-04-19 15:09:02)
9.  夢(1990)
最後のエピソードの笠智衆とか、最初の方の狐の嫁入りや雛人形の話などはとても印象に残っているが、何しろ見たのが「用心棒」や「椿三十郎」で黒澤映画に興味を持ち始めた頃だったので決して出来の悪い映画だとは思わないもののとても退屈に感じられた。見る順番を間違えたと素直に思ってしまった。ドリフでコントをやっているイメージしかなかったいかりや長介を俳優として初めて見たのがこれだったんだけど、鬼という役柄から雷様を連想してしまい、出演シーンがコントのようにしか見えない。その後、「踊る大捜査線」を再放送で見て、味のあるいい俳優だと思ったんだが。
[地上波(邦画)] 5点(2005-03-10 01:42:29)
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