1. ユンヒへ
《ネタバレ》 岩井俊二の『Love Letter』から着想を得たという。 韓国映画で見かける脂っこさも、煽情的な描写も一切なく、静かに叙情たっぷりに紡いでいく演出は邦画のよう。 韓国のとある地方都市に住むシングルマザー、ユンヒ。 一人娘のセボムが盗み読みした手紙をきっかけに、手紙の送り主の住む冬の小樽へと母娘を連れていく。 台詞の一つ一つから同性愛を匂わせるユンヒとジュンの関係性。 その関係が許されない時代によって離れ離れになった二人を逢わせようと、 娘とボーイフレンドが背中を押し、ジュンの叔母がサポートする。 それぞれの愛情の形が複雑に入り組み、雪がしんしんと降り積もる群像モノの形を成す。 クライマックスの20年ぶりの再会ですら下手に盛り上げず、わずか数分で切り上げ、 何を話したか触れることのない行間が何とも堪らない。 かつて妻として、母親として、他人の人生を生きてきたユンヒが、ジュンとの再会をきっかけに、 今まで抱えていた想いが解き放たれ、自分の人生を歩き出す。 その後の物語を想像したくなる控えめな締め方が余韻を引く、ヒューマンドラマの佳品。 [インターネット(字幕)] 7点(2025-06-23 22:34:08) |
2. 夢二
ウォン・カーウァイ監督の『花様年華』の"元ネタ"で、大正時代の画家、竹久夢二を題材にした伝記でもない完全なフィクション。白昼夢を見ているような支離滅裂な展開と淫靡な映像美が広がっていく。駆け落ち相手を尻目に人妻と奔放な恋愛を繰り広げる男の心象風景、時代の反逆者としてアーティストの矜持をただ眺めることしかできない。掴みどころのない飄々とした軽やかな雰囲気が良きアクセント。 [インターネット(邦画)] 5点(2021-02-03 00:09:51) |
3. UFO学園の秘密
《ネタバレ》 ク○映画ウォッチャーなら幸福の科学は避けては通れない。『仏陀再誕』はネタ的に受ける部分はあったが、『神秘の法』はただただ退屈だった。今回は幸福の科学を前面に押し出すことを避け(例:教祖的な立ち位置のキャラを出さない)、観客と同じ目線の学生を主役に、地味に伏線を張っていたりと、プロパガンダとして巧妙になっており、意外にも前半は普通のアニメ風なのでちょっと肩透かしだ。それでもストーリー全体に起伏はなく、発表会でピンチの主人公が学長と拉致されたり、挿入歌で離散から再集結するあたりは御都合主義すぎて、作品としてまだまだ未熟。そして後半から延々と説明される啓発セミナー風の宇宙ネタにはついていけず、これぞ幸福の科学と言ったところか。終盤になってやっと盛り上がりを見せ始め、主人公が覚醒してビースト状態で敵を薙ぎ倒すのはちょっと面白かった。両手を合わせて光がパーッなクライマックスの演出も笑える。結局、幸福の科学らしい平常運転で、前2作より作りとしてはマシな出来なので、この点数で。 [地上波(邦画)] 3点(2019-04-23 00:38:58) |
4. ユナイテッド93
《ネタバレ》 最後まで動悸が収まらない。勿論、本作は娯楽映画ではない。膨大な資料と電話のやり取りからどこまで911に迫れるか。いつもと変わらない日常から地獄絵図に変わる光景を、一機の旅客機を中心に一気に見せるグリーングラスの演出力に引き込まれる。テロリスト及び乗客乗員が全員死亡した以上、どこまでが真実か分からない。陰謀論を唱える人もいるだろう。ただ、双方の"神に祈る"行為が、「こうあって欲しい」という理想のすれ違いにおける悲劇であることがことさら強調されているように思えた。911後、現代の宗教戦争の様相になっていくが、あくまで"その日"の事態だけを描き、思想・感傷をできるだけ排したフラットで真摯な姿勢が伝わる。 [映画館(字幕)] 9点(2018-10-22 20:01:58)(良:1票) |
5. EUREKA ユリイカ
《ネタバレ》 偶然とはいえ、製作年に発生した北九州のバスジャック事件を思い起こさせる。そして事件に心に傷を追い、殺人者と化した少年が実在の事件とオーバーラップした。モノクロフィルムをカラーで現像したセピア色の世界が、あやふやに彷徨う当事者の心象風景として映えてくる。同じく重い過去を持つ兄妹の従兄をバスから追い出す運転手の心境は常人には理解できない。どんな人間にも犯罪に手を染めるのには理由や背景がある、と言いたいのだろう。ともすれば、タイトル、映像、演出、全てにおいて娯楽とは対極の本作もまた、観客とは隔絶された世界に向かってしまうわけで。壁ノックが象徴するように、コミュニケーションの不通が本作のテーマだとしたら、寛容か拒絶の二極でしかない現代社会において、それ以外の道を探るこそが【ユリイカ】=【発見】そのものかもしれない。 [DVD(邦画)] 5点(2016-10-05 00:27:55) |
6. 雪の轍
《ネタバレ》 全員が悪人ではないのに、ふとした擦れ違いとプライドが話を拗らせ、何も解決しないまま現状維持で終わる。 アスガー・ファルハディ監督の愛憎劇を彷彿とさせるが、グイグイと引き込むような話術も詩情もなく、3時間強のほとんどを室内の鬱屈した対話で占めるため、淡々を通り越して睡魔で幾度か分けて観るはめに。3時間以上描くほどの密度もなく、理屈を捏ね繰り回す議論はただただ空疎でしかない。理想主義の妻と現実主義の夫がエゴとエゴの衝突を機に、互いに見えなかったものに気付くエピソードに答えがあるのだろう。カッパドキアの雄大な雪景色がつまらないことで諍いを起こす人間の小ささを際立たせているようだ。そんな深刻な事情も汲み取れない日本人観光客が愚かに見えた。それは、この映画の良さが分からない自分そのものか。 [DVD(字幕)] 3点(2016-04-19 20:59:11) |
7. ユリシーズの瞳
《ネタバレ》 採点不能に近い。 ハリウッド俳優のハーベイ・カイテルを主演に据えているものの、 3時間近い上映時間に長回しと政治的要素が強いため、映画館で観ていたら確実に寝ていただろう。 本来のアンゲロプロスの作風が純度100%詰まっている。 しかし、映像に目を見張るものがあるのは事実で、 白黒からカラーに移り変わる際に現れる青い船、ワンカットで捉えた数年に亘る元旦のパーティー、 運河を渡る巨大なレーニン像、雪のサラエボ市街の交響曲と霧の中の虐殺が目に焼きつく。 映画の歴史とは常に真実の記録と表現の闘いの歴史であって、 かつて独裁国家であったギリシャや旧ユーゴとは無関係ではないはず。 1995年のカンヌ映画祭では、クストリッツァの『アンダーグラウンド』が最高賞、 本作が次点であると見るに、当時の旧ユーゴ内戦の関心度の高さが伺える。 [ビデオ(字幕)] 5点(2015-09-01 20:32:13)(良:1票) |
8. ユージュアル・サスペクツ
ラストが全てな映画。それゆえ、退屈な過程に時間を費やさなければならないわけで。しかも、そのラストが今までの過程を蔑ろにするような形だったので、悪い意味で騙された。二度目見たら、評価が変わるかもしれないが。 [DVD(字幕)] 3点(2014-12-28 13:36:08) |