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プロフィール
コメント数 1922
性別 男性
年齢 48歳
自己紹介 自分なりの評価の基準は、
10・超大好きな作品。完璧。映画として傑作であるばかりでなく、自分の好みと見事に合致している。
9・大好きな作品。完璧に近い完成度。手放しに歴史に残る傑作といっていい。
8・好きな作品。本当に面白い。欠点があるかもしれないが、それも含めて好き。
7・少し好きな作品。普通に面白い。欠点もあるかもしれないが、そんなに気にならない。
6・普通の作品。可も無く不可も無く。最後までストレスなく観られる。面白いけど、心に残るものはあまりない。
5・少しつまらない作品。最後まで観るのにちょっとストレスを感じた。面白い部分も多少はあった。
4・つまらない作品。最後まで観るのが苦痛だった。ほとんど面白いところが感じられなかった。
3・かなりつまらない作品。最後まで観た自分を褒めてあげたい。観終えた後に、怒りのあまりDVDを割りそうになった。
2・超つまらない作品。時間と金を返せ。観終えた後に、怒りのあまり製作者全員を殴りに行きたくなった。
1・絶望的につまらない作品。最低。観終えた後に、怒りを通り越して死にたくなった。
0・死霊の盆踊り。

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1.  LAMB/ラム 《ネタバレ》 
見渡す限りの荒野がどこまでも続くアイスランドの高山地帯。羊の放牧を生業とするとある夫婦は、そんな過酷な地で必死に生きていた。夫婦を訪ねてくる人もほとんどおらず子供もいない彼らは、日々の重労働をたった2人でこなしている。羊の餌やり、農作物の管理、家畜の出産の補助……。ただ黙々と仕事をこなす彼らの表情はどこか悲しげで、ほとんど会話らしい会話もない。きっと過去に何か哀しい出来事があったのだろう。ある日、1匹の羊がとある特殊な〝子羊〟を産み落としたことから彼らの日常が少しずつ歪み始めてゆく……。荒れ果てた高山を舞台に、孤独な夫婦が授かったそんな異形の存在をダークにミステリアスに描き出す異色作。冒頭からこの作品を貫く独特の世界観には惹き込まれた。セリフや説明を極力排除し、過去の辛い出来事から心を閉ざしてしまった夫婦の過酷な生活をただ淡々と描いているのに、終始濃密に漂うこの不穏な空気は凄いとしか言いようがない。そして誕生する1匹の子羊――。この存在がいったいどんなものなのかを中盤まで明かさず、ただ夫婦の反応だけを描くことで何か良からぬことが起きているのだと観客に想像させるこの演出は斬新。中盤、急に登場する叔父の目線でこの異形の存在の正体が露わにされるのだが、その造形が絶妙に気持ち悪くて、なのにこの夫婦がとても愛おしそうに見つめているのが何とも嫌な感じを増幅させる。ところが物語が進むうち、この存在が少し可愛く思えてくるという、なかなか監督のセンスを感じさせるものだった。この唯一無二の独自の感性は称賛に値すると言っていい。ただ、残念ながら肝心のお話の方は自分はそんなに良いとは思えなかった。率直に述べさせてもらうと、これは世界各地の民話や伝承によくある、人ではないものを授かる夫婦のお話。それをいつか何かが起こりそうな禍々しい描写で引っ張っているだけで自分はそこまでの深みやテーマ性は感じられなかったのだ。最後のオチも安易と言わざるを得ない。フォークロアならではの寓話性や教訓をもっと掘り下げて描いてくれれば、より完成度の高い作品となっていたであろうに。惜しい。とはいえ、この重苦しい世界観や羊たちが象徴する宗教的メタファーの扱いなど、この監督のセンスの良さは充分感じさせたので、次作に期待したいところだ。
[DVD(字幕)] 6点(2023-12-08 06:43:52)
2.  ライフ・ウィズ・ミュージック 《ネタバレ》 
彼女の名は、ミュージック。音楽と日々の散歩が大好きなごく普通の女の子だ。でも、彼女には人と違う個性が一つだけ。それは自らの世界に閉じこもりがちで変化や刺激を極端に嫌がり、何か不安を感じると発作的に癇癪を起してしまう癖を持っていること。そう、ミュージックはいわゆる自閉症なのだ。それでも一緒に暮らす優しいお祖母ちゃんや周りの人たちのサポートで穏やかに暮らしていた。そんなある日、お祖母ちゃんが急な心臓発作で呆気なくこの世を去ってしまう――。連絡を受けたミュージックの唯一の肉親である姉、ズー。急な連絡に戸惑いながらもアパートへとやって来たズーは、久々に会う妹の扱いづらさに戸惑うばかり。とにかく施設に預けて厄介払いしようと目論むズーだったが、彼女もまた人生に深刻な問題を抱えていて……。障碍を持つ女性の日常をリアルに描きながら、そこに彼女の頭の中に流れる音楽をミュージカル調で描いたヒューマン・ドラマ。一言で表すと、ポップ版『ダンサーインザダーク』といった趣きの本作、その試みはなかなか興味深いものだった。世間からは常に好奇と同情の目で見られる社会的弱者にもちゃんとその人にとってかけがえのない生きる喜びや信念があるというテーマをあくまで軽くポップに描き出すことに成功している。彼女をはじめとした役者陣のナチュラルな演技も素晴らしく、特にアルコール依存症に苦しむ彼女の姉をリアルに演じたケイト・ハドソンの熱演は称賛に値する。そんな苦しい日常に突如として挿入される幻想的なミュージカルシーンも違和感なく共存させることに成功している。ただ、これは好みの問題と言ってしまえばそれまでなのだが、自分は肝心のそのミュージカルシーンがいまいち嵌まらなかった。何度も挿入されるカラフルでマジカルなそれら一連のシーンを、自分は正直「ダサい」と感じてしまったのだ。映像の色使いもダンスも演出もとにかく全てがダサい。恐らくダサいけどカッコ良いみたいな絶妙のラインを狙ったのだろうが、あまり成功していないように思う。また、後半のストーリー展開の唐突さも気になった。障碍を持つ妹を施設に預けようとした主人公が大したドラマもないまま急に心変わりするのも説得力に欠けるし、妻を兄に寝取られた隣人青年との顛末もとってつけたよう。あの太ったアジア系少年のエピソードもあそこまで投げっぱなしで終わるくらいなら最初から出さなかった方が良かったんじゃなかろうか。と、そういった欠点が幾つも目立つ作品ながら、社会の中で息苦しさを抱えて生きている人々に暖かなスポットライトを当てるような本作のテーマは好感が持てるものだった。総じて、自分は観て良かったと思う。
[DVD(字幕)] 6点(2023-08-14 09:03:34)
3.  ラビリンス/魔王の迷宮 《ネタバレ》 
ゴブリンの王にさらわれた弟を救い出すため、異世界を旅する少女を描いた冒険ファンタジー。パペットや合成を駆使した特撮映像は今見てもそんなに違和感ないですが、やはり時代を感じさせますなぁ~。それでも小人たちの表情豊かな演技はワクワクさせられちゃいますね。まるで生きているみたいなリアルさで、CGがない時代にここまで造り込めたのは凄い。この独創的な世界観はけっこう好みでした。ゴブリン王を演じたデビッド・ボウイもやっぱカッコいい!!とはいえ、さすがに中身がなさ過ぎますかね、これ。始まり方もフワフワしてたし、中盤の展開もフワフワしてたし、終わり方も結局夢オチ?みたいでフワフワしてたし……。全体的にすっごいフワフワした映画でした。
[DVD(字幕)] 6点(2022-12-27 04:11:15)
4.  ライトハウス 《ネタバレ》 
19世紀末、ニューイングランド。絶海の孤島に建つ灯台を管理するために雇われた青年と彼を管理教育することになるベテラン灯台守。4週間という約束で、彼らは荒れ狂う海に囲まれたこの地へとやってくる。海鳥以外誰もいない不毛の地で、ただひたすら作業に従事する2人だったが、致命的なまでの性格の違いから彼らの間に徐々に不穏な空気が漂い始める。それもこれもあと数日の辛抱だと仕事に没頭する青年。ところが、迎えの船がやってくるはずの日に激しい嵐が島を襲い……。長引く孤独な生活から徐々に狂い、やがて破滅へと向かう2人の男をモノクロ映像という独創的なタッチで描いた不条理劇。分かりやすい娯楽性など皆無、終始重苦しい雰囲気で最後まで淡々と進むいわゆるアート系の作品なのですが、計算されつくした美しい映像と終始繰り返される印象的なアフォリズム、何よりロバート・パティンソンとウィレム・デフォーという新旧実力派俳優の熱演とで最後まで興味深く観ることが出来ました。冒頭から絶えず鳴らされる不穏なサイレン音が観客の不安感を煽り、終始不快な言動を繰り返す灯台守たちの存在も相俟って、観ているこっちまで気が狂いそうになってくるのは監督の狙いが成功している証。何度も主人公にちょっかいを掛けてくる海鳥だとか、幻想の中で現れるグロテスクかつエロティックな人魚など、一つ一つのアイテムの扱い方も巧い。灯台の光に偏執的な愛情を注ぐ先輩灯台守と過去の罪から逃れるためにやって来た主人公との濃厚な会話劇も深みがあり、見応えありました。何より単純にモノクロ映像が全て美しい!!そこまで自分の好みではなかったですが、充実した映画体験をさせていただきました。
[DVD(字幕)] 7点(2022-10-26 07:35:08)
5.  RUN/ラン 《ネタバレ》 
生まれつき病弱で車椅子が手放せない女子高生、クロエ。毎日様々な種類の薬を服用し、たびたび喘息の発作にも悩まされる彼女は、周りの介助がなければ生活することもままならなかった。そんな彼女を献身的に支えるのは、これまで女手一つで育ててきた母親、ダイアン。クロエは、過剰なまでの愛情で自分を支えるそんな母とずっと郊外の一軒家で暮らしてきた。ところが、大学進学を機に一人暮らしを始めたいというクロエの言葉を境に母親の態度が徐々に変化し始める。次第に不信感を募らせたクロエは、母親の目を盗んで毎日飲まされる薬の正体を探り始めるのだった。そのうちの一つである緑色のカプセル、それはなんと犬用の筋弛緩剤だった――。「お母さんは私をどうしようというの?」。底知れぬ恐怖を感じたクロエは、たった一人で母親の手から逃れようとするのだが……。自らを徹底的に管理しようとする母親とその手を逃れ自由を求めてもがく娘の葛藤を終始不穏に描いたサスペンス・スリラー。とにかく脚本に捻りがなさすぎ!こんな単純で時間も90分に満たない短い作品なのに、途中の引き伸ばし感が半端なく最後まで観るのがかなり苦痛でした。舞台もほぼこの一軒家の中だけ、登場人物もほぼこの親子だけというこの設定で90分持たそうと思うとだいぶ高度な演出力が必要になると思うのですが、正直そんなもの皆無。ひたすら地味で凡庸な展開と地味で凡庸な映像と地味で凡庸なキャラクターのてんこ盛り。脚本にも突っ込みどころ満載です。途中、捕まえた娘を母親が家に監禁するのですが、わざわざそこに娘の出生の秘密が書かれた新聞の切り抜きを保管してるというバカっぷり。いや、何のために自分が不利になるだけのそんなもん残しとくねん!後味が悪いだけでさして面白くもない最後のオチに至ってはもはや怒りすら湧いてきちゃいました。監督は、パソコンのモニター上の映像だけで最後まで展開する『search/サーチ』を撮ったアニーシュ・チャガンティ。前作で見せた、あの技ありなアイデアと練られた脚本の力はいったいどこへいったのでしょう。正直、観るだけ時間の無駄の凡作としか僕には思えませんでした。
[DVD(字幕)] 3点(2022-08-12 03:03:41)
6.  ラストナイト・イン・ソーホー 《ネタバレ》 
彼女の名は、エロイーズ・ターナー。ちょっぴり夢見がちな18歳の女の子だ。ファッションデザイナーを目指す彼女は、今回念願だったデザイン専門学校に合格し、ロンドンのソーホーへと引っ越すことに。だが、学生寮での生活に馴染めず、エロイーズは早々にアパートで一人暮らしを始めるのだった。古くからあるそのアパートは、年老いた女性が一人で暮らす館の屋根裏部屋だった。隣のフランス料理店のネオンが煌々と輝くその部屋でのはじめての夜、エロイーズは不思議な体験をする――。なんと彼女はきらびやかなネオンに彩られた1960年代のソーホーへと迷い込んでいたのだ。ノスタルジックな音楽が絶えず流れるその世界で、エロイーズはサンディという名の歌手を夢見る素敵な少女と出会う。夜ごと夢の中で彼女の姿を見つめていたエロイーズは、次第に彼女の意識と一体化し始めるのだった。夢とも幻想ともつかぬそんな魅惑的な世界にすっかりのめり込むエロイーズ。だが、サンデイが悪い男に騙され生活が荒んでゆくと、エロイーズの実生活にも良からぬ影響を及ぼし始める。やがて、彼女は気づいてしまう。サンディは60年代に実際に生きていた少女であることを……。自分が生まれる前に生きていた少女を救うため、孤軍奮闘する女子大生を幻想的に描いたサスペンス・スリラー。監督は、エンタメ映画界を牽引する才人、エドガー・ライト。いかにもこの監督らしい、拘りに拘ったであろう映像と音楽の使い方はすんごく良かったです。キラキラと光り輝くような美しい映像といかにも60年代らしい楽しげでポップな音楽が完璧に融合していて、もう観ているだけでワクワクしちゃいますね。そんな夢のような世界の中でシンクロする二人の女の子もそれぞれに魅力的で大変グッド。特にダンスホールで、二人がくるくる踊りながら次々と入れ替わるシーンは出色の名シーンでした。それがやがて悪夢のような残酷な世界へと塗り替わってゆくのも自然で素晴らしい。一言で表すなら、『マルホランド・ドライブ』のライト版とも呼ぶべき内容ですが、こちらは何処までもエンタメで最後まで楽しんで観ることが出来ました。ただ、残念だったのは、最後に明かされることの真相がいまいち腑に落ちないところ。特に物語の随所に登場する怪しげなお爺さん。恐らく観客のミスリードを狙ったんでしょうけれど、さすがに無理がある。また、肝心のサンディの正体もどんでん返しを狙いすぎて彼女の魅力が半減しちゃってて凄く勿体ない。とは言え、60年代の怪しげなソーホーの雰囲気やぞくぞくするようなミステリアスな世界観などは充分堪能できました。女性の社会的自立というテーマも今日的でいい。うん、7点!
[DVD(字幕)] 7点(2022-05-06 08:06:48)
7.  ラビング・パブロ 《ネタバレ》 
1980年代、世界最大規模の麻薬密売組織「メデジン・カルテル」を一代にして築き上げた、コロンビアの伝説の麻薬王パブロ・エスコバル。一時は世界に流通するコカインのほぼ8割を牛耳り、自らに歯向かうものや裏切り者を容赦なく血祭りにあげ、さらには政府に対して公然と反旗を翻した、衝撃的な彼の生涯を彼の愛人であったニュースキャスターの目線から描いた犯罪ドラマ。そんな実在した麻薬王を貫禄たっぷりに演じるのは名優ハビエル・バルデムで、語り部となる彼の愛人を演じるのは人気女優ペネロペ・クルス。実生活でも夫婦であるこの二人の豪華共演ということで今回鑑賞してみました。監督は、前作『ロープ/戦場の生命線』でリアルで乾いた戦場描写の中にときおり人生のやるせなさをほろ苦いユーモアを交えて描き、鮮烈な印象を残してくれたフェルナンド・レオン・デ・アラノア。観終わった直後の率直な感想を述べさせてもらうと、いやー、とにかく衝撃的な内容でございました。このパブロ・エスコバルという人、もう無茶苦茶です。敵対する人間を容赦なく殺しまくり、その生涯で殺害に関わったのはなんと少なくとも300人!麻薬で荒稼ぎしたその金でスラム街に貧しい人々のための住宅を建設し、その功績を最大限活かしてなんと政治家にまでなってしまうのです。当然、それはアメリカや政府の反発を招き、翌年に失脚させられてしまうと今度は私設軍隊を使って公然と政府に宣戦布告。これを機に、コロンビアは実質的な内戦状態に突入。アメリカの介入や敵対組織の攻勢により追い詰められると、自ら投降。でも、彼はその圧倒的な財力を活かし、今度は自らの力で刑務所を建設します。でもそこは刑務所とは名ばかりの豪華な家具家電付きのほぼ別荘。酒や女をはべらかし、夜毎どんちゃん騒ぎ&乱交パーティー。あまつさえ彼はそこで裏切った仲間を二人、生きたままチェーンソーで切り刻むという冷酷非道ぶり。さすがに世論の反発を抑えられなくなった政府はエスコバルを普通の刑務所へと移送しようとするものの、彼はその足で悠々と脱獄……。さすがにこんな無茶苦茶な事実があるわけないと、映画を観終わって僕はすぐさまウィキペディアで調べてみたんですが、……なんとほぼ全て事実でした(笑)。そんな彼の波乱万丈の生涯を過不足なく二時間の映画に纏め上げたこの監督の手腕は素晴らしいと思います。とにかく最後まで緊張感が途切れず、クライマックスなんて思わず食い入るように見入っちゃってました。見た目こそ温厚そうなメタボおやじながら、冷酷無比なケダモノの心を持つ麻薬王を鬼気迫るように演じたバルデムも良かったですが、彼の愛人である金とひかりものに目がない性悪女を見事に演じたペネロペ・クルスもまさに嵌まり役でした。偉業を成し遂げた世界の偉人の立身出世物語を真逆にひっくり返したような逆偉人伝、成功するためにはやはり持って生まれたカリスマ性と類稀なる行動力が必要だということを改めて教えてくれました。まあ良くも悪くもですけど(笑)。
[DVD(字幕)] 9点(2021-06-25 04:01:29)
8.  ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ 《ネタバレ》 
サンフランシスコの一等地に建つ、とある豪華な一軒家。そこには現在、仲の良い老夫婦が穏やかな余生を過ごしている。だが、そんな瀟洒な家を路上から見上げる、ある一人の貧しい黒人青年がいた。彼の名は、ジミー。なんとその家は、彼の祖父が戦後すぐに手持ちの材料のみを使い自らの力だけで建てたというのだ。父から教えられたそんな話を素直に信じ、次第にその家へと執着を強めてゆくジミー。友人の力を借り、彼は老夫婦が留守の間に勝手に外観をリフォームするなどどんどんと常軌を逸した行動を取り始める。そんなある日、金銭トラブルから老夫婦が家を手放さざるを得なくなるのだった。それを知ったジミーは、ここぞとばかりに家へと忍び込む。祖父が遺した荷物を勝手に運び込んだり、自宅と称して友人たちを招き入れたりと、まるで自分の家であるかのように振舞うジミー。だが、そんな彼の傍若無人な行動は当然のように不動産会社に見つかってしまい……。サンフランシスコに建つ豪華な一軒家を自分のルーツだと偏執的なまでに信じ込んだ、ある黒人青年の異常な行動を終始淡々と見つめたヒューマン・ドラマ。恐らくこの作品を撮った人って恐ろしく頭の良い人だとは思うんですよ。奴隷として長年虐げられてきた黒人としてのアイデンティティをマジック・リアリズム的に描こうという試みは、なんとも知的好奇心を刺激するもの。静かに淡々と進めつつもときおり印象に残るシーンを挿入してくるところなど、この監督のセンスの良さを感じさせます。でも、それが面白さに繋がっているかというと、僕は「否」と言わざるを得ませんでした。あまりに淡々と進むうえにときおり意味不明とも捉えかねないエピソードをぶっこんでくるものだから、最後まで観るのが少し苦痛に感じてしまいました。恐らく何らかの精神疾患を抱えているであろう主人公にも別段同情を感じるわけでもなく、彼の友人との関係性もいまいちよく分かりません。極めつけは、二人がこの家でチープな芝居を演じるのですが、そこに何故こんなにもたくさんの観客が集まるのか意味不明過ぎる。まぁ作品として二重の意味で観客を煙に巻こうというのがこの監督の意図だとは思うんですけどね。要は、このシュールな世界観に僕の感性が合わなかったということ。なかなか人を選ぶ作風なので、好きな人には嵌まるのかも知れません。
[DVD(字幕)] 5点(2021-05-17 03:01:54)
9.  ラストレター(2020) 《ネタバレ》 
君にまだずっと恋してると言ったら君は信じますか――。精神疾患を患い長年闘病生活を続けてきた姉を自殺で失った、裕里。娘とともに実家での葬儀に参列した彼女は、姉の荷物の中から同窓会の招待状を見つけるのだった。かつてのクラスメートに事実を知らせるため、同窓会の会場へと向かった裕里だったが、暖かく迎え入れてくれた姉の同級生たちにとても言い出すことが出来ず、彼女はそのまま姉の未咲としてスピーチまでしてしまう。そして裕里はそこで、姉の初恋の相手である売れない小説家、乙坂と出会うのだった――。互いの近況を知らせるために、何気なく始まった乙坂との文通。裕里は姉の未咲として彼へと手紙を書き、ちょっとした手違いから、乙坂は未咲の一人娘である鮎美へと返事を書くことに。そうして始まった三人の一方通行のやり取りはやがて、彼女たちの隠された青春の日々を蘇らせるのだった……。日本が世界に誇る天才映像作家・岩井俊二監督の最新作は、そんな詩情豊かな映像と繊細な心理描写が光る恋愛ドラマの傑作でありました。いやー、この人の才能っていつまで経っても色褪せないばかりか、歳を経てますます芳醇になってゆきますね。抒情性溢れる映像と音楽、最初から最後まできちんと分かりやすく構築された脚本、そして役者陣のキラキラと輝くような繊細な演技…、どれを取っても素晴らしいとしか言いようがありません。制服姿の女子高生を美しく撮ることにかけては、この人、もはや世界一なんじゃないですかね。小雨がそぼ降るなか、森の中で広瀬すずと森七菜が傘を差して二人で佇む映像は涙が出るほど美しかったです。そして、自殺した姉と偽って手紙を書く妹、初恋の相手と思って過去を振り返る男、自殺した母親の過去を知るために手紙を受け取る娘、この三人の思惑が複雑に絡み合う文通も、お互いの気持ちが痛いほど分かりなんとも切ない。あと、豊川悦治と中山美穂をこんな形で使うなんて、なんという心憎い演出!名作『ラブレター』のファンとしては思わずニンマリしちゃいますね。最後、未咲が娘に遺した〝ラストレター〟の内容なんて、あまりにも切なすぎて涙無くしては見れませんでした。多少ストーリー展開に強引なところもありますが、期待に違わぬ素晴らしい出来。岩井俊二監督、これからもたくさんの傑作を世に送り出してくださいね。
[DVD(邦画)] 9点(2021-03-06 00:00:37)
10.  ライフ・イットセルフ 未来に続く物語 《ネタバレ》 
ニューヨークのとある交差点である日、わき見運転の路線バスによって一人の妊婦が死亡する事故が起こる。何処にでもあるような平凡な交通事故。幸いお腹の女の子だけは無事に生まれたものの、遺された夫は自暴自棄に陥り、酒に溺れた挙句自らその命を絶つのだった。祖父に引き取られた女の子は孤独を感じながらも無事に成長し、やがて歌手を夢見てニューヨークの小さなライブステージへと立つことに――。一方、スペインの片田舎では貧しいながらも妻とともに平穏に生きていたある農夫のもとに一人の男の子が誕生する。厳しい父の元、すくすくと成長した男の子はある日、家族旅行でニューヨークへとやってくるのだった――。全く接点のなかったそんな二組の夫婦とその子供たち、だが運命の悪戯か、小さな交通事故によって彼らの人生は大きく変わってしまう……。ボブ・ディランの名曲に乗せて、そんな平凡に生きていた人々に訪れた奇跡をドラマティックに描いたヒューマン・ドラマ。全く予備知識のないまま、アントニオ・バンデラスやオスカー・アイザック、アネット・ベニングという実力派の役者陣共演に惹かれ、今回鑑賞してみました。冒頭から、主人公カップルを襲う悲劇の連続――夫の目の前で妊娠中の妻が事故死し、しかもその妻は幼いころに両親を亡くし、その後引き取ってくれた叔父から性的虐待を受けていた――に気分が重たくなります。挙句、遺された夫がピストル自殺するんですから、どれだけ悲劇なんだとウンザリしそうになりますが、本作は語り口が非常にポップなのでそこまで暗くならずに観られるのですから、これぞ映画のマジックというものですね。物語はその後、遺された娘へとクローズアップしながらも、何故かスペインの片田舎へと舞台を移し、そこで全く無関係のある農夫の家族を延々追ってゆくことに。いったいどういうことだろうと思ったら、後半で納得。なるほど全てはあの交通事故へと繋がってゆくのですね。人間万事塞翁が馬ではありませんが、人と人が出会い時に悲劇を招きながらも、それでも恋に落ちカップルとなって一緒に生きてゆくことの奇跡が非常にナチュラルに描かれていて、観ているうちにじわじわと心が暖かくなっている自分が居ました。そう、人生は悲劇の連続かも知れないけれど、それでもいつかはきっと幸せが訪れる。そう思わせてくれる佳品と言っていいでしょう。
[DVD(字幕)] 7点(2021-01-31 01:04:50)
11.  ライ麦畑で出会ったら 《ネタバレ》 
真面目過ぎる性格が災いして、クラスでも浮いた存在である男子高校生ジェイミー。自分を認めてもらうためにある日、彼はとっておきの方法を思いつく。それは、敬愛するベストセラー作家サリンジャーの代表作『ライ麦畑でつかまえて』を舞台化し、自らの主演で公演しようというものだった。だが、そのためには原作者であるサリンジャーの許可がいる。思い悩んだ末、ジェイミーは彼がどうやらニューハンプシャーに独りで住んでいるという情報のみを頼りに旅に出るのだった。彼の唯一の理解者であるクラスメイトの女の子、ディーディーの運転でジェイミーは何とか目的地まで辿り着くのだが……。もはや生ける伝説と化していた孤高のカリスマ作家に会うために旅に出た、そんな高校生カップルをノスタルジックに描いた青春ロード・ムービー。僕のこよなく愛する名作『ライ麦畑でつかまえて』をモチーフにしたそんな本作、これがまあなんとも残念な出来の作品でありました。もう全編に渡って、ダサい演出とダサい映像とダサい音楽のてんこ盛り。だいたい冒頭、主人公がいきなりカメラ目線となって観客に語り掛けるというよっぽどうまくやらないと目も当てられない結果になっちゃう演出があるのですが、これがまあ見事なまでに目も当てられない結果になっちゃってます。んで、最後までこの演出を貫くのかと思いきや、それ以降はあっさり放棄って、んじゃ最初からすんなよ!って感じです。また、主人公に恐ろしく魅力が乏しいのもいただけない。いきなり押しかけてきて、「あなたの小説がすこぶる良かったので、僕が勝手に脚本化しました。ひいては僕主演で舞台化するので許可ください」なんて言ったら、サリンジャーじゃなくとも誰だってキレるっちゅーの!唯一良かったのは、主人公を何かと助けてくれるヒロインの女の子が魅力的だったことくらい。それもかなり童貞男子の妄想が炸裂しまくりでしたけど。だってこの子、①頼んでもないのに車を出してくれて運転までしてくれて僕を目的地まで連れて行ってくれる②安宿で一緒の部屋に泊まったら、童貞の僕のために「したいならしてもいいよ」って言ってくれる③しかも正式に付き合ってないから後腐れもなさそうだし④んで、ピル飲んでるから避妊しなくていい!なんて、昔懐かしの童貞妄想漫画『ボーイズビー』か(笑)。サリンジャーをテーマにした映画にハズレが多いという僕のジンクスは今回も覆りませんでした。4点!
[DVD(字幕)] 4点(2020-09-05 00:11:50)
12.  ライオン・キング(2019) 《ネタバレ》 
ディズニーによる、過去の名作アニメを最新の映像技術で実写映画化?シリーズ。今回のテーマは、ジャングルの王者『ライオン・キング』でございます。もはや実写としか思えないフルCG映像はさすがのクオリティでそこは充分楽しめました。波打つ毛並みやはじけ飛ぶ水しぶきなんてあまりにもキレイで、こういうのを見ると、100年前の人に見せてその感想を聞いてみたいって思いますね。ただ、ストーリーの方は率直に言ってありがち。まあこういう作品なのでそれでもいいんでしょうけど、もう少し新しい部分も欲しかったかな。その格好の材料になりそうなのが、こういう動物擬人化映画にありがちな、「こいつらいったい何喰って生きとんねん!」問題。まあちょこっとライオンがインパラ喰うシーンが出てきましたが、主人公のライオンは基本カブトムシや毛虫といった虫ばかり食べてました。いやいや虫だけではあっこまで立派な体格に育ちませんて(笑)。そもそも虫は食べていいんかい!もうそれだったら草ばっかりの菜食主義にしてくれた方がいっそのこと潔かった気がしますわ。ここらへんに新しいアイデアがあればもっと心に残ったと思うんですけどね。あと、相変わらずハイエナは不当な扱いを受けてますね。その残念な見た目とライオンのおこぼれを頂くというその習性のせいで、いつだって悪役……。「これはハイエナ差別だ!」って、彼らもそろそろ声をあげてもいいんじゃないかな(笑)。ま、そんなとこです、はい。
[DVD(字幕)] 6点(2020-07-30 17:25:09)
13.  ラ・ヨローナ ~泣く女~ 《ネタバレ》 
その女は泣きながら、滴る水とともにやって来る――。1973年、ロサンゼルス。貧しい家庭の子育て支援に尽力するケースワーカー、アンナ。様々な問題に忙殺される彼女自身もまた、数年前に警官だった夫を亡くし女手一つで二人の幼い子供を育てていた。そんなある日、アンナは自らの子供を自宅の一室に監禁したシングルマザーの案件に関わることに。無事に子供たちを保護したものの、母親からアンナは謎のメッセージを受け取るのだった。「私は子供を守ろうとしただけ。あの泣く女、ラ・ヨローナから…」――。その直後、無事に施設へと保護されたと思われていた彼女の子供たちが謎の溺死を遂げたとの知らせが届く。突然のことに動揺を隠せないアンナ。すると、彼女の子供たちの周りでも不可解な現象が起き始めるのだった。何処からともなく聞こえてくる女の啜り泣き、子供たちの腕にいつの間にかついていた火傷の痕、そして子供を水の中に引き摺り込もうとする謎の女の影…。果たして〝ラ・ヨローナ〟とは何者なのか?数百年の時を越えて生き続ける悪霊の呪縛に囚われた、ある家族の恐怖を描いたモダン・ホラー。稀代のヒット・メーカー、ジェームズ・ワン監督のヒット作『死霊館』のスピンオフとして制作された本作、これが極めてオーソドックスな古典的ホラー映画でありました。悪霊に呪われた家族、無理解な周りの反応、窮状を知り除霊にやって来る霊媒師、一度は反撃に遭うものの最後は家族一致団結して悪霊撃退…。もうホラー映画の教科書どうりに作ったらこれが出来上がるんじゃないかってぐらい、新しい部分の一切ないそんなベタベタな内容です。もう少しこの作品ならではと言う突出した部分が欲しかったところ。その良い材料になりそうなのが肝心の「泣く女」ラ・ヨローナなんですけど、これがいまいち使いこなせていない感じです。嫉妬に狂った挙句自らの子供たちを溺死させてしまい、以来身代わりの子供を求めて彷徨う悪霊と言う割には怨念と言ったものが感じられない。こいつがただ単に観客を驚かせるための道具じゃなく、もっと子供へのおぞましいほどの暗い情念と言ったものを滲ませてくれていたら、とんでもなく怖い存在になりえただろうにね。ここらへん、やぱ日本のホラーの方が一枚上手かな。とはいえホラー映画としてのセオリーは充分押さえられていたので、暇潰しで観る分にはそこそこ楽しめると思われます、はい。
[DVD(字幕)] 6点(2020-03-30 03:00:27)(良:1票)
14.  ラヴレース 《ネタバレ》 
1970年代に一世を風靡した伝説のポルノ映画『ディープ・スロート』。成人向けでありながら全米で大ヒットしたこの作品で主演を務めたのは、ほぼ素人同然の女の子、リンダ・ラヴレースだった。本作は、僅か7日間の撮影で一躍セックス革命のシンボルとなった彼女の半生を実話を基にして描いたもの。確かに興味深い題材ではあるし、伝説のポルノ女優を演じたアマンダ・セイフライトの身体を張った演技も大変良かったとは思うのですが、いかんせん基礎的な演出力が全然足りていない作品でしたね、これ。もう素人レベルと言っても過言ではありません。ドラマの最大の焦点となる、リンダがいかにして『ディープ・スロート』への出演を決意したのかや撮影現場がどのようなものであったか、またほぼヒモ状態だった夫との破綻した結婚生活などと言った重要な部分がことごとく的を外しちゃってます。「そこ、もっと突っ込んで描くとこでしょー!」って何回思ったことか。そして、本作の最大の失敗は、リンダの両親が娘がポルノスターとなったことを知るシーンがほとんどなかったこと。厳格なカトリックである母親がその事実をどのように受け止め、そしてその後いかにして娘と向き合うことになったのかという最も大切な部分がかなりあっさりと流されちゃってます。映画として、これではテーマに対する踏み込みが甘いと言わざるを得ません。また、時間軸の扱いもまるでなっちゃいない。全体を通して、今がいつの時代のエピソードなのかかなり分かりづらい。正直、お金を取って観客に観てもらうレベルに全然達していません。大胆なヌードを披露したアマンダ・セイフライトがかなり魅力的だっただけに、なんとも残念な作品でありました。
[DVD(字幕)] 4点(2020-03-18 23:41:14)
15.  Love Letter(1995) 《ネタバレ》 
「拝啓藤井樹様。お元気ですか?私は元気です」――。かつて恋人を山で失くし、失意の中に生きてきた神戸在住の女性、渡辺博子。彼の三回忌の法要に参列した彼女は、偶然目にした卒業アルバムで彼の当時の住所を知る。懐かしさから、博子は何げなくペンを手に取ると、彼に届くはずのない手紙を書くのだった。ポストに投函されたそれは、誰にも読まれることなく送り返されるはずだった。だが、手紙は何故か、北海道の小樽に住む彼と同姓同名の女性、藤井樹の元へと届けられる。「拝啓渡辺博子様。私は元気です。でもちょっと風邪気味です」――。ちょっとした悪戯心から樹はそう彼女に返信を書く。そうして何気なく始まった、見知らぬ者同士の文通。何度もやり取りされる中で、次第にそれは今はなき天国の彼の思い出を鮮やかに蘇らせるのだった。時を超えた二人の思い出はやがて、都会の片隅に小さな奇跡をもたらすことに……。映像作家、岩井俊二監督の長編映画デビュー作となる本作、今更ながら今回鑑賞してみました。結論を言います。素晴らしい作品でした。今まで観ていなかったことを激しく後悔。もう全編に渡って横溢する、このキラキラと光り輝くような豊かな詩情性に完全にやられました。白を基調とした美しい映像に一部の隙も無い完璧な構図、そして気品あふれるクラシカルな音楽ともはや魔法のような美しさにいつまでもずっと浸っていたいと思わずにはいられません。最初はあり得ないストーリー展開に戸惑わせつつも、真相が明らかになれば誰しも納得できるというこの考え抜かれた脚本も見事としか言いようがない。神戸と小樽で暮らすそっくりな風貌を持つ二人の女性、同姓同名のクラスメイト、肺炎で亡くなった父、本当は嫌いだった松田聖子の歌、暗い夜の駐輪場で自転車の淡い光に照らされた二人、誰も借りたことのないマイナーな本の貸出票に書かれた幾つもの彼女の名前、そして最後に彼が借りた『失われた時を求めて』に隠されていた秘密……。散りばめられた細かなエピソードの一つ一つに至るまで監督の才気が漲っていて、その完成度の高さには言葉を失ってしまいます。ただ一つ惜しいのは、豊川悦司の関西弁がいまいち嵌まっていなかったことぐらい。それ以外は、この洗練された美しさに今さらながら脱帽。若き岩井俊二の豊かな才能が完全に開花した、聞きしに勝る傑作でありました。
[DVD(字幕)] 9点(2020-02-19 20:41:23)(良:1票)
16.  ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー 《ネタバレ》 
ライ麦畑の永遠の反逆児、ホールデン・コールフィールド――。このアメリカ文学界に突如として現れ、今や怒れる若者の代表的アイコンとなった彼の物語『ライ麦畑でつかまえて』を著したのは、まだ無名の新人作家J・D・サリンジャーだった。本作は、そのサリンジャーの謎に満ちた半生にスリリングに迫った伝記映画だ。第二次大戦に従軍後、精神を病みながらも苦労して書き上げた、その名作誕生の裏にはいったいどんな秘密があったのか。また、発表するやいなや瞬く間にベストセラーとなり、富と名声を手に入れながらも、何故彼はアメリカの片田舎に引きこもり、自ら張り巡らせた壁の中でその生涯の大半を過ごしたのか。二十代のころに『ライ麦――』を読んで感銘を受け、以来何年にもわたりファンとなった自分としては大変興味深く今回鑑賞してみた。結果は……、正直期待外れというのが僕の率直な感想だ。理由は、描かれるエピソードがそれまで知られていた事実をただ再現したものでしかなく、新しい発見が一切なかったことがまず一点。物語構成のバランスが悪く、特に第二次大戦の描写や恋人の裏切りなどがかなりあっさりしすぎているところがもう一点。そして本作の最大の欠点は、そうして再現されたエピソードがただ時系列順に羅列されただけで物語としての芯が通っていないところだ。僕が考えるに、優れた伝記映画にはその人の人生とはいったいなんであったのかを観客に深く訴えかけるようなテーマが厳然としてあるものだが、本作にはどうにもそれが足りない。苦労した習作時代や地獄のような日々を過ごした第二次大戦への従軍経験が如何にして、未だ若者にもカリスマ的な人気を誇る名作家誕生に繋がったのか、ここらへんの説得力が弱いように感じてしまった。いくら事実を基にしていても、創作である以上はちゃんと優れた物語であるべきだ。サリンジャーがその後、全ての関係性を絶ち、世捨て人のような生活を続けてきたという最も人々の興味を掻き立てる部分をナレーションで簡単に説明して終わりというのも如何なものか。すべてが表面的で浅く、サリンジャーという人物に対する掘り下げが全くなされていない。サリンジャー本人が生きてこの作品を観たら、そのあまりの薄さにきっと怒り狂うんじゃないかとさえ思ってしまった。サリンジャーの長年の愛読者としては残念というほかない。
[DVD(字幕)] 4点(2019-11-19 23:35:44)
17.  ランペイジ 巨獣大乱闘 《ネタバレ》 
巨大化した三匹の動物たちが大都会で大暴れするというモンスター・パニック・アクション。まあこんなもんじゃろというこちらの期待を一切裏切らないベタな内容の作品でしたね、これ。んでもさすがに脚本が薄っぺらすぎるかな~。銃で撃たれたはずのドウェイン・ジョンソンが次の瞬間、平気で再登場して「大丈夫、急所は外れてた」とさっきと変わらず大活躍するとこは、さすがにテキトー過ぎだろ!!とずっこけそうになっちゃいました。まあでも映像はなかなか迫力あったんで、普通に暇潰しにはなるよ。
[DVD(字幕)] 6点(2019-02-28 04:11:25)
18.  (r)adius ラディウス 《ネタバレ》 
事故現場で目が覚めたリアムはキレイに記憶を失っていた。のみならず、彼は半径15メートル以内に近づく全ての生物を瞬時に殺してしまうという特殊能力まで身につけていたのだった。人間どころか牛やヤギ、空を飛ぶ鳥まで彼に近づく生物は全て目を見開いて即死してしまう。偶然再会した同じように記憶を失った女性とともに自らの正体を探るために荒野をゆく彼らだったが、やがて驚きの事実を知ることに。なんと女性と二人でいるとこの特殊能力は発動されないことが判明したのだ。いったいこの能力は何なのか?記憶を失った彼らの本当の正体とは?そして、リアムは無事に元の自分へと戻ることが出来るのか――。というワンアイデアで撮られたであろう本作、なかなか面白そうだったので今回鑑賞してみたのですが、これがまぁ近年稀に見るダメダメ脚本でありました。この設定ありきでストーリーが進行していくのですが、全く脚本が練られていないせいで全体的にかなり無理が生じているのです。例えば、主人公が自分の特殊能力や、それが何故か女と居るときはまったく発動されないと気付いた時に全然驚かないところ。いやいやそこはもっと驚愕してしかるべきでしょ。例えば、病院で男がエレベーターに一人で乗ってしまったと気付いた時。「周りの人間を無差別に殺してしまう!」と乗り合わせた人を全員エレベーターから降ろしてしまうのですが、いやいやあんたが降りた方がええんちゃいますのん。それにこの映画の唯一のセールスポイントである、半径15メートル以内に近づく全ての生物を殺してしまうという特殊能力も物語上ほとんど活かされていません。最後のオチもなんじゃそりゃっていうお粗末な代物。もっとちゃんとしてください!!
[DVD(字幕)] 3点(2019-02-24 01:48:39)
19.  ラブ & ドラッグ 《ネタバレ》 
バイアグラのセールスマンで超女好きのナンパ男と、とある事情から男性と深く関わりたくない女性とのセックスから始まる恋愛を描いたラブコメディ。監督は社会性の強いエンタメを得意とするエドワード・ズウィック。あくまでロマンティックな軽いノリのラブコメという体裁を取りながらも、後半では難病に犯されいずれは寝たきりになるかもしれない彼女との付き合い方という深刻な問題をさらりと差し挟んでくるところなど、この監督らしい手腕はお見事というしかありません。見事な脱ぎっぷりを披露してくれたアン・ハサウェイに、どんな役柄でもしっかりといい仕事をやってくれるジェイク・ギレンホールという主演二人も華があって大変グッド。ただ、こういう軽いノリを楽しむ映画だとは分かっているのですが、少々きれいごと過ぎるのが評価の分かれ目ですね。僕はぎりぎり許容できたかなって感じです。取り敢えず、アン・ハサウェイのあんなマシュマロ・おっぱいを仕事で胸に押し付けられるジェイク・ギレンホールはめっちゃ羨ましい(笑)。
[DVD(字幕)] 6点(2019-01-12 21:33:14)(良:1票)
20.  ライフ(2017) 《ネタバレ》 
火星から持ち帰った単細胞生物が瞬く間に進化し、舞台となる宇宙コロニー内に居る人間たちを次々と襲い始めるというSFホラー。まあエイリアンもどきのB級ホラーなんですけど、何気に役者陣が豪華だったので今回鑑賞してみました。うーん、正直微妙な出来でしたね、これ。ドラマの見せ方が恐ろしく雑なせいもあって、最後までいまいちサスペンスが盛り上がりません。肝心のモンスターの造形も最初こそあのクリオネみたいな繊細な見た目に「おお」と期待を持たせるものの、あれよあれよという間に単なるタコの化け物になっちゃったし(笑)。最後のオチも酷い代物。正直観る価値はなかったかな。
[DVD(字幕)] 4点(2018-08-26 00:07:47)
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