1. リバー・ランズ・スルー・イット
《ネタバレ》 自分は「レジェンド・オブ・フォール」(1994年)を「ブラッド・ピットの俳優人生で、最も美しい瞬間を収めたフィルム」と評しましたが…… その場合、対抗馬として真っ先に思い浮かぶのが本作ですね。 もしかしたら、彼の美しさという意味では本作の方が優れてるかも知れません。 何せ劇中でも「ポールは美しかった」と評されてるし、その言葉が大袈裟でも何でもなく、本当に「美しい」としか思えないんだから凄い。 そんな彼に負けず劣らず、モンタナの川景色も素晴らしいし、水の流れる音やリールが巻かれる音にも癒されるんですよね。 自然の美しさを描く際には、ついつい視覚的な方面にばかり偏ってしまうものですが、本作は「音の美しさ」にも拘りを感じます。 主人公兄弟の父が牧師という事もあり、意外と宗教色が強い内容なんだけど、あまり説教臭さを感じない作りになってるのも嬉しい。 「真面目な兄」のノーマンですら、家業を継いで牧師になったりはしなかったし「破天荒な弟」であるポールの方はといえば、牧師とは真逆のアウトローとして描かれていますからね。 あるいは映画の冒頭にて「宗教と釣りの間に、はっきりとした境が無かった」と語られている通り、釣りという行いそのものが、主人公一家にとっての宗教だったのかも知れませんが…… 自分としては、教会で説教を聞いたり祈ったりする必要がある宗派よりも、川で釣りするだけの宗派の方が、ずっと素敵じゃないかと思えて仕方無いです。 そんな本作は終盤にて「自由奔放に生きていたポールの、突然の死」が描かれる訳だけど、そこに大きな驚きは伴わず、観客としても自然と受け入れられるような作りだったのも、凄い事ですよね。 中盤、留置場に迎えに行く場面などで「ポールの危うさ」を描いておいた脚本も上手いと思うし、それより何より「この弟は、いずれ取り返しのつかない事をやらかしてしまう」「ある日ふっと何処かに、いなくなってしまう」と感じさせる人物を演じ切った、ブラッド・ピットが素晴らしい。 これはもう演技力とか、そういうテクニック的な次元の話ではなく、この時代、この映画の中だけに収められた「儚さと眩しさが交ざりあったような、不思議な存在感」があってこその、奇跡のような配役だったと思います。 釣り以外にも「人生で一度だけの兄弟喧嘩」とか「列車用のトンネルを車で通る」とか、忘れ難い場面が色々と備わっているのも、映画としての奥深さ、味わい深さを感じますね。 悲劇が起こる前日、兄のノーマンが「一緒にシカゴに行かないか?」と弟を誘うのも、弟を救いたい兄なりの精一杯の優しさ、そして「俺にはお前は理解出来ないし、お前を変える事も出来ないけど、せめて傍にいてやりたい」という、切ない願いが伝わってくるかのようで、好きな場面。 兄弟の少年時代から、青年時代、そして弟を失った兄が老人になった姿まで、丁寧に描かれた本作品。 子供の頃に観ても、大人になった今観返しても、充分に楽しめたのですが…… いずれ老人になった時に観返したら、どんな感覚を味わえるだろうかと、今から楽しみです。 [DVD(吹替)] 8点(2023-06-26 23:23:52)(良:2票) |
2. リトルデビル
《ネタバレ》 明らかに「オーメン」(1976年)の亜流作なのですが、単なる模倣で終わらず「たとえ悪魔であろうと、我が子である以上は守ろうとする主人公」という物語に昇華してみせたのが、お見事でしたね。 中盤までは「義子のルーカスが悪魔であると知り、殺そうとする主人公」という「オーメン」そのまんまな展開であっただけに、途中で主人公が思い直し、全く違った方向性へと舵取りするのが、実に痛快。 監督は前作の「タッカーとデイル」でも、王道スプラッター映画をパロった上でハッピーエンドな着地を迎えてみせ(そう来たか!)と唸らせてくれたものでしたが、本作もそれに近しい魅力を備えており(やっぱりイーライ・クレイグ監督の映画は良いなぁ……)って、しみじみ感じさせてくれました。 2019年現在、僅か二本の映画しか発表していない寡作の人というのが、非常に惜しまれます。 配役も絶妙であり、特に子役のオーウェン・アトラスは「無表情だと不気味なのに、笑うと可愛い」というルーカス役を、見事に演じ切っていましたね。 この映画のストーリー上、主人公だけでなく観客にも「ルーカスは不気味に思えたけど、実は可愛くて良い子なんだ」と感じさせる必要がある訳なのですが、その点に関しては、文句無しでクリアしていたと思います。 プールで父子が仲良くなる件も微笑ましかったし、笑顔を見せる場面では、主人公同様に観ているこっちまで(笑うと、こんなに可愛かったのか……)と、ドキッとしちゃう。 アイスを舐めながら、主人公の事を初めて「パパ」と呼ぶ姿なんて、もう抱きしめたくなるくらいに愛らしかったです。 レズビアン(?)な同僚のアルも良い味出してるし、出番は少なめながら、主人公の妻に女性としての魅力が感じられた辺りも嬉しかったですね。 モンスタートラックや、最優秀パパのボールなど、伏線の張り方や、回収の仕方も鮮やかだったと思います。 主人公自身が「父親に捨てられた」という過去を持っている為、ルーカスに幼少期の自分の姿を重ね合わせ、自然と心を開いていく流れにしたのも上手い。 「お前の本当の父親が誰でも関係無い」 「お前はお前だ。何時だってなりたい自分になれる」 という台詞は、ルーカスに語り聞かせる以上に、自分に言い聞かせる効果もあったんだろうなと、自然と納得する事が出来ました。 主人公が「息子殺し」な自分ではなく「息子を守ってみせる」自分になる事を選ぶ展開にも繋がっている訳で、この辺りの脚本は、本当に巧みだったと思います。 「義理の父親です」という、ルーカスの父親である事を間接的に否定する台詞を何度も繰り返しておいた上で、クライマックスにて「絶対に離さない、お前の父親だから」と主人公に言わせる構成にも、グッと来ちゃいました。 難点としては、意味ありげな双子の少女が、本筋に絡まず終わってしまうのは寂しい事。 ルーカスの言葉で飛び降り自殺を図った理科教師が、どう見ても死んでるので、入院くらいで済ませた方が良かったんじゃないかと思えた事。 終盤に集結したパパ友が全く活躍しておらず、存在意義が感じられなかった事とか、その辺りが挙げられそう。 それと、プールでルーカスを救う場面では、出来れば「神の啓示」ではなく、完全に自分の意思で助けに飛び込んで欲しかったなと思えたのですが…… これに関しては、何度も観賞している内に(たとえ神様から「見殺しにしろ」と命じられても、主人公なら助けたはずだ)と、次第に考え方が変わってきましたね。 上述の「なりたい自分になれる」という台詞もありますし「神様のお蔭で、息子を殺さずに済んだ」という訳ではなく「神様は、悩める主人公に助言をしてあげただけ」って事なんだと思います。 父子で出場した丘下りレースにて「スピードを出し過ぎるな」と言われても聞き入れず、笑顔ではしゃぐルーカスの姿を映し出し(やっぱりこの子、悪魔だな……)って感じさせて終わるのも、非常に御洒落。 期待値の高い中で観賞したのですが、そんな高いハードルすらも飛び越えてくれた、気持ちの良い一品でした。 [インターネット(吹替)] 8点(2019-09-25 16:53:08) |
3. リンダ リンダ リンダ
《ネタバレ》 途中までは退屈で仕方なくて (リアルな高校生活を描きたいのかも知れないけど、そのせいで山場の無い映画になっているよなぁ……) などと意地悪に考えていたのですが、いざ本番での演奏シーンには圧倒されましたね。 それまでがテンションだだ下がりであっただけに、揺れ幅の大きさを感じられました。 演奏開始前に、主人公の女の子達が「どうだった?」「言えなかった……」と笑顔で会話を交わす辺りも良かったです。 上述のように、ラスト十分ほどは楽しめた作品なのですが、気になる点も幾つか。 まず、主人公達が遅刻したせいで色んな人に迷惑が掛かっているはずなのに、謝罪する姿が殆ど描かれていない事。 そして観客である自分としては、映画冒頭にて、ぎこちなく「リンダリンダ」を歌っていた留学生の少女が、きちんと歌えるようになったというギャップに感動させられたけれど、映画の中の人々まであんなに熱狂しているのは不自然に思えた事。 ユニコーンの「すばらしい日々」などが、あまりにもブツギリな編集となっており(ちゃんと区切りの良いところまで聴かせて欲しいな)と思わされた事。 一番キツかったのが、エンドロールにて本物のThe Blue Heartsによる「終わらない歌」を流した事で、これはもう何と言うか、残酷です。 せっかく(女の子達が頑張って演奏する姿、良いなぁ……)と思っていたところだったのに(やっぱり本物は違う!)と唸らされ、先程までの演奏が、完全に霞んでしまったのですよね。 せめて劇中で彼女達が「終わらない歌」を唄っていなければ何とかなったかも知れませんが、ご丁寧に連続して聴かされたものだから、たまらない。 全体的には嫌いな作風ではありませんし、監督さんの「溜めて溜めて、クライマックスで解き放つ」上手さは凄いと思うのですが、最後の最後で(何も本物を流さなくても……)と、嘆息させられた形。 一度は感動したはずなのに、それを上書きされてしまったという、貴重な体験を味わえた映画でした。 [DVD(邦画)] 6点(2016-07-12 05:22:29)(良:2票) |
4. リリィ、はちみつ色の秘密
《ネタバレ》 冒頭の展開から「ハックルベリー・フィンの冒険」の女性版のように、二人でアチコチを旅するお話なのかな? という印象を受けていたのですが、ロードムービーではありませんでしたね。 舞台となるのは、主人公が辿り着いた先の、もう一つの家。 自殺、母親殺し、差別など、色々と重苦しいテーマを扱っているのですが、全体的に落ち付いた雰囲気と優しさを備えた、良質な作品だったと思います。 こういった「家出モノ」映画においては、最後は何だかんだで我が家に戻るパターンが多いように思える中で、本作の主人公が「養蜂場に残る」事を選択したのは、大いに納得。 「私には三人の母親がいる」と語るラストのモノローグも、心に響くものがありました。 その一方で、旅立ちのキッカケとなったロザリンの存在意義が、中盤以降は薄まっているように感じられた事。そして主人公の父親が哀れに思えてしまい、どうにも後味が悪くなってしまった事は、残念でしたね。 勿論、後者に対しては、娘に体罰まで加えている以上は自業自得であり、同情などすべきではないとも思うのですが「妻に続いて娘にまで見捨てられてしまった」となると、流石に可哀想。 身勝手で不器用ながらも、本人なりに娘を愛しており「誕生日おめでとう」と呟くシーンなども描かれていただけに、スッキリしないものがありました。 こういった場合に、悪役となる側にも同情すべき点を残しておくバランスは好ましく思っているのですが、どうも今回はそれがマイナスに作用してしまったように感じられます。 主人公が「シュープリームス」について語る小ネタ(話し相手は「ドリームガールズ」に出演したジェニファー・ハドソン)にはクスッとさせられましたし、黒人青年との仄かな恋心が描かれる場面なんかは、とても良かったですね。 作中で人種差別問題が繰り返し提起されていただけに、主人公が偏見を越えて彼に愛情を示してくれた事には、癒されるものがありました。 蜂蜜を男の指から舐め取ってみせるダコタ・ファニングという、ドキッとさせられる絵面が飛び出す辺りなんかも、程好いアクセントになっていたかと思う次第です。 [DVD(吹替)] 6点(2016-06-02 14:06:36) |
5. 理由(1995)
《ネタバレ》 こういったストーリー展開の場合、観客はどうしても「無実の黒人青年」に肩入れしてしまう訳で、それを逆手に取った巧みな脚本だったと思います。 けれど、本作に関しては伏線が足りなかった印象も受けましたね。 終盤にて「実は本当に少女を殺していた」と明かすのであれば、もっと納得出来る材料を予め提示しておいて欲しかったです。 ローレンス・フィッシュバーン演じる警官に関しても、事前に「嫌な奴」として描き過ぎていた為なのか、終盤に共闘してくれても盛り上がるものを感じなくて、非常に残念。 思うに、前半にて登場人物の善悪に関するミスリードを徹底的に行っていた弊害なのではないでしょうか。 作中で最も悲劇的な事件であろう「少女の殺害」の動機が弱過ぎるのも気になります。 主人公の妻に対する復讐が目的だったなら、こんなに遠回りしなくても、もっとスマートな方法があったのでは? という疑念が拭えなくて、全ては「観客の意表を突く為のどんでん返し」ありきの後付けに思えてしまいました。 冒頭にて、如何にも同情を誘う存在であった「孫の無実を信じて、主人公に真相解明を依頼する老母」が、終盤は丸っきり姿を見せなかった事も不満。 主人公達が助かってハッピーエンドな空気で終わりたかった気持ちも分かりますが、物語を盛り上げる為に彼女を登場させた以上は「本当に孫が悪人だったと知って、嘆き悲しむ老母」という姿も、しっかり描いておくべきなんじゃないかな、と思った次第です。 上述のように、観賞後は色々と気になる点が多かったりもしたのですが、観ている間は素直に楽しめましたね。 この映画、ズルいよなぁ……と思いつつ、作り手の力量を認めさせられる。 そんな一品でした。 [DVD(吹替)] 5点(2016-05-27 20:26:59)(良:2票) |
6. リトル・ダンサー
《ネタバレ》 観賞後「良い家族だなぁ……」と、しみじみ呟いてしまいました。 家族だけでなく、主人公の周りにいる男の子、女の子、おじさん、おばさん、誰もが魅力的で、良い人ばかり。 それだけに、終盤にて彼らに別れを告げて旅立つシーンが、とても切なかったですね。 お婆ちゃんが、力強く主人公を抱きしめてから、あえて突き放すようにして離してみせる場面。 ずっと同じ部屋で暮らしてきた主人公の兄が「寂しくなるよ」と、弟には聞こえないように呟いてみせる場面。 どちらも素晴らしかったです。 似たような内容としては「遠い空の向こうに」という映画が存在しているのですが、あちらが夢を叶えてみせた主人公達を主題に据えた品だったのに比べると、こちらは主人公の夢を叶える為に手助けする周囲の人達を主題としているように感じられましたね。 印象深いのは、主人公にボクシングを教えていた中年のオジさん。 てっきり「バレエなんて男のやるもんじゃない」と、親父さんと一緒になって反対するポジションなのかと思いきや、物凄く親身に応援してくれるんです。 ロイヤル・バレエ学校を受験する事になった主人公の為に、小銭をかき集めて資金援助までしてくれたし、結果を不安視する主人公に対し「大丈夫、絶対に受かってる!」と励ましてくれる姿には、心温まる思いがしました。 こういった心地良い意外性って、本当に好きですね。 そして何といっても、この映画のクライマックスは、息子の夢を叶える為に父親がスト破りを決行するシーンでしょう。 あそこで興奮と感動を最大限に高めてくれたからこそ、その後の面接シーンでのドキドキ感、旅立ちのシーンでの寂寥感に、非常に巧く繋がっていたと思います。 何と言うか、観客の心の波を操る技に長けているのだなぁ、という印象ですね。 数少ない気になる点としては、面接の際、八つ当たりのような形で殴られてしまった金髪の少年に対し、主人公が謝罪してみせたり、きちんと和解してみせたりするシーンが無かった事。 それと、てっきりヒロインだと思っていた女の子が、途中から完全にフェードアウトしてしまった事でしょうか。 ただ、後者に関しては恐らく意図的に出番を減らしたのであり(序盤にて彼女の姿が、車の陰に隠れると同時に消えてしまう演出は、その暗示?)主人公の親友である少年こそがヒロインであったと判明する意外性の為の前振りでしょうから、一概に欠点とは言い切れないかも知れませんね。 それでも観賞中「あれ? あの女の子どこいったの?」と思ってしまったのは確かです。 対するに、真のヒロインと、そう呼んでも差し支えないであろう親友の少年に関しては、別れのシーンでの「失恋」を示すキスに、何とも言えない物悲しさを感じました。 片方は友情を抱き、片方は愛情を抱いている二人の映画として考えても、上質なものであったと思います。 それらの喜怒哀楽、全てが積み重なった末に、主人公が夢を叶えてみせた「未来」へと繋がるハッピーエンドの、素敵な味わい。 良い映画でした。 [DVD(吹替)] 8点(2016-05-08 09:46:24)(良:2票) |