1. LOOPER/ルーパー
《ネタバレ》 素晴らしい脚本だ。タイムマシンをマフィアものに適応する新視点。SF、暴力の姿を借りているが主題は「人間愛」で、真摯な命題を含む。謎の出し方が巧みで、最後までサスペンスが持続する。タイムマシンがマフィアの処刑に使われるという奇抜な設定。処刑人ルーパーの無機質な仕事・生活ぶり。将来の自分を処刑する苛酷な運命。未来でレインメイカーという素性不明のボスが君臨し、ループを閉じる。ヤングジョー(YJ)はオールドジョー(OJ)を処刑したが、そのYJが未来で妻を殺され、未来を変えるために再びYJの元へ現れるというパラレル世界の提示。子供のシド(未来のレインメイカー)が「ママを死なせちゃった。止められなかった。今のママは本当のママじゃない」と口走る。シドの驚異的なTK(念動力)。YJの最後の意外な選択。と中だるみがない。一見無関係に見えるシドの母サラの登場場面が多いのは、実は「母」が隠れた命題だからだ。YJが悪に染まったのは母親の育児放棄が原因で、育ての親のボスに恩義を感じている。優しい母の思い出は、頭を撫でられたこと。それで売春婦に頭を撫でてもらう。エンディングでサラが死体のYJの頭を撫でるが、これはサラが母親として再生したことを示す。サラが母の自覚をもち愛情深くシドを育てることで、シドがレインメイカーとなる運命は消滅する。結果、現在から消滅したOJは妻と平穏に暮らす。YJは、シドがレインメイカーとわかったとき殺害しようとしたが断念した。情が移ったからだ。サラと肉体関係を持つことで彼女をより深く知ることができた。OJはレインメイカー候補の、結果として無垢な子供を殺し、組織メンバーも大勢殺し、シドも殺そうとした。それでも未来は変えられなかった。未来を変えたのは、YJの愛を信じる信念だ。YJは自身の生い立ちと母親との関係を鑑み、サラとシドが母子の絆を取り戻すことが最上の結末であると知り、二人にはそれが出来ると信じた。だから自分の命を捧げた。キッドが育ての親のボスに対して想像以上の愛情を感じているのも命題を補完している。不要と思えたウエイトレスが後に意味をもつなど、無駄な場面がない。フランス行きを中国行きに変えたのは、未来(OJの処刑)が現代を変えることの象徴。残念なのは低予算のため、舞台を麦畑にしたこと。麦畑の隣に簡易食堂があったり、女手ひとつの農場など無理がある。TKの必然性は薄い。 [DVD(字幕)] 9点(2013-08-03 18:17:36) |