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プロフィール
コメント数 67
性別 男性
自己紹介 琴線に触れる映画は人間としてのリアリティが描かれているかどうか。作品として大事なのは哀切さは容易に撮れるが、それが痛切であるかどうか。

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1.  TAR/ター 《ネタバレ》 
寡作の映画監督トッド・フィールドの待望の最新作。オープニングショットのスマホのチャット画面の意味が最初見たときは全く分からなかった。が、それでも映画全体を理解するのに大きな障害にはならなかったが、わかっていればもっと味わいも増したのにと悔やまれる感じ。全体的に説明を省く描き方で作品のナラティブを引き締めてそれはそれでいいのだが、要所要所頭をフル回転させないとついていけないように感じられた(単に自分の理解力が弱いだけかもしれないが)。最初のターの芸術談義のシーンは見る人が見れば長すぎと感じるだろうが、私は主人公のキャラクターを提示するためとギリ我慢できた。でも、あと30秒続いていたらアウトだったろう。一番不満だったのはターが夜寝室で異変を感じるシーン。あれを監督はどの程度の意味付けで撮っていたのだろうか?良心の呵責からくる心理的な不安を描いたものなのか?私自身はサスペンスとは思って観ていなかったが、もし仮にそっちの方で意図しているのであれば、回収が必要だったろうと思われる強度を持った中途半端な描写であった。それ以外は後半パワハラを告発され、もがくターの姿を描き、お話にドライブがかかってきても冷徹な視点を保持しているのはさすがトッド・フィールド。相変わらずの格調高さでターの転落人生を十分堪能できました。前作に続きここでのレビューの点数が低いのも見終わってみれば、なるほど最初のインタビュー場面をもう少し刈り込んでもよかったかなぁとは思われるところではある。でも、私としてはエンディングのシニカルな終わり方を含めトッド・フィールド印の作品としてアカデミー賞6部門ノミネートという正当な評価もされており、まぁ、概ね満足のいく作品でありました。
[インターネット(字幕)] 8点(2024-03-20 21:32:09)
2.  テルマ&ルイーズ
今更ながら初鑑賞です。これ、リドリー・スコットだったんですね。女性差別に対してのプロテストっぽい作品を撮ったというのが、意外な感じがして。米国南部の風景描写は素晴らしく、ブラック・レインもそうですが、異国の地を魅力的に撮るのが彼の特質でもあり、今回も遺憾なく発揮されています。お話は女同士のロードムービーで、その間の力関係が様々な出来事を通じて変わってくるところなどよく描かれて飽きさせませんが、そもそものところ、この二人が親友関係にあるのがあまり腑に落ちなく、若干引っ掛かりました。シングルで強く独立している女性と片や亭主関白な夫に隷属する専業主婦の対照的な二人の接点があまり想像できず、高校時代くらいからの親友の体で話を進めてくれたら文句なしだったのですが。あと、テンポも今ひとつで、後にアメリカン・ギャングスターやゲッティ家の身代金で見せたような引き込まれる安定したナラティヴを知っている身としては本作でアカデミー6部門ノミネートされたが脚本賞だけ受賞というのも至極妥当な結果だと思います。最後のキスも自分はそんな違和感はなく、のちにスーザン・サランドンが述べたように死に行く二人の絆の確認だと受け取れました。妙に彼女たちに寄り添っているハーヴェイ・カイテルの役柄は不思議と納得ができ、存在感のあるいい演技だったと思います。
[インターネット(字幕)] 6点(2024-02-12 17:33:16)
3.  バーン・アフター・リーディング 《ネタバレ》 
やっと自分がイメージするレベルのコーエン兄弟のブラックコメディに出会えたという印象です。正直言って今まで見てきた彼らのコメディー系の作品は自分にとってはどれも不満足で、「赤ちゃん泥棒」を撮ったあなた達ならもっとできるはず、とずーっと思っていました(ていうか結構失礼な話。デビュー作から結果出してないと言っているようなもんだもん)。今作ではキレッキレのブラックさが炸裂でアメリカ社会の俗人たちをカリカチュアして笑い飛ばし、その加減が私にはちょうどいいくらいに下世話で大満足でした。リンダの男漁りと美容整形の異常な執着ぶりとか、不倫もし、大人の玩具を自作するハリーの過剰な性欲、チャドの筋肉バカぶり、なぜかロシア正教を棄教し資本主義に隷属しているテッド、夫を見限っているのにその相手がエロしか目がないハリーだというインテリのケイティ、ケイティが裏切っているのも気づかず職場でアル中認定を受けているのに自分は正常だと信じているオズボーンという具合にすべての登場人物を愚かしく嘲笑う脚本、最高ですね。特に私が一番しびれたシーンはリンダが出会い系で一晩ともにし金まで盗られ、振られたさえない中年男性が最後の方でハリーと仲良く歩いているところを羨まし気に見ているかと思いきや、ちゃっかりまた別の女性としけ込むという意地悪な視点。コーエンさん、えげつなくてイイですよ。そしてユダヤ教信者(?)故設けた神の視点をCIA上層部が担い、最後に厳かに(?)彼らがすべてを処理して終えるという完璧な構成。導入と最後が人工衛星を使い空から地上をズームインし、エンディングは対象をズームアウトして閉じる神の視点のメタファーを用いる芸の細かさ。大いに堪能させていただきました。
[インターネット(字幕)] 8点(2023-12-23 22:23:19)
4.  灼熱の魂 《ネタバレ》 
結末を知って結構すごい話だなと感動したが、「オイディプス王」を現代の中東に舞台に移した翻案版と言われてみれば、なるほどと。 そう考えると西洋の古典は強いなと感心。だが、話のつくりはよくできていて、翻案版だからと言って貶めるつもりは全然ない。若干娘の探索がご都合主義的にうまくいきすぎているような気もするが、それを超えてこの母親の一生はなんだったんだろうと深く嘆息させるストーリに脱帽。若き日の母親がテロリスト側につく動機となったバスの襲撃シーン。幼い子だけでも助けようと母親の振りをしたが結局女の子は射殺されるという痛ましい場面。これは本当に内戦が続く中東の現実を語る上でリアリティを与える悲惨なシーンであり非常に深甚な場面だったと思う。遠い中東では宗教紛争と難民流入による民族紛争などが絡み合って人々がこのように傷付け合い苦しんでいるだなと改めて身につまされ、平和ボケしている日本人としては色々と考えさせられるいい映画だったと思う。初期にこんな映画を撮っていたヴィルヌーヴはやっぱすごいね。
[インターネット(字幕)] 7点(2023-04-15 18:23:32)
5.  旅立ちの時 《ネタバレ》 
主人公家族の設定はなかなかあり得なさげで厳しいものがあるが、父親が自分の家庭環境で得られなかった家族のきずなを第一とする姿勢で子どもたちを縛るという家族第一主義はテロリストの逃亡一家の家庭のありようとしては無理がなく受け留められ、見ていられた。 主人公と彼女のなれそめから恋人関係になる過程も丁寧に描かれており、これだけでも一編の恋愛映画になっている。ドラマのクライマックスは歪みながらも家族を大切にしている父親から離れることができない主人公に対して、彼女が親からの独立を促すところ。彼女の方が彼氏よりも大人びている点など非常に説得力もあり、描かれているのは超普遍的なドラマではあるが、周辺の設定がかなり異常なので、かえってより深く素直に受け止められた。エンディングが先にレビューをみて知っていたせいなのか、皆さんがいうほど感動することができなかった。なんかあまりにあっさりし過ぎで、もうひと踏ん張り尺を取って丁寧に撮ってもよかったような気がする。でも、ストーリーの根幹は18歳の青年の恋と家族からの自立とまた親の子離れであり、それを誠実に描いている良質な後味の良いファミリードラマでした。
[CS・衛星(字幕)] 7点(2023-03-19 20:41:31)
6.  パンチドランク・ラブ 《ネタバレ》 
初めに言っておくとこの映画はおとぎ話なんです。でも、「おとぎ話です」と銘打っている映画ほどはつまらないものはないですね。そこをわかっていてこの監督はあえてすれすれのラインを狙って撮っていて、普通のコメディ面をして実はそうではない。その具合が実に絶妙だなと。しょっぱなのピアノから主人公のスーツの色や他者との会話が少しずれている具合とか、彼のキレ方の半端ない感じとか、悪の組織の手の下し方とか非常に漫画チックっで時折挿入するサイケなインターミッションなど、ちゃんと夢の中のお話感を醸しだしているんだが、ヒロインがエミリーー・ワトソンというちょうどモテない君を好きになりそうな母性溢れるリアリティあるくらいの容貌で、夢物語じゃない、これ現実だよと観客をミスリードさせる仕掛けもちゃんとぬかりない。でも、この映画きっとリア充な男たちには何ひとつ心に響かない映画でしょう。この映画を評価するのはモテない男たちで、おとぎ話なんだけど、そうじゃないと思わせてくれるクオリティーを持った、感動的で確信犯的な映画なんです。個人的な感覚ではこれと似た感興を催した映画は「眠れぬ夜のために」かな。
[インターネット(字幕)] 7点(2023-03-18 22:39:35)
7.  シリアスマン 《ネタバレ》 
この作品は日本人ましてやユダヤ教の知識がないと面白さは半減するのでは?っていうかなり見る人を選ぶ映画。それどころかこの映画ってある意味ユダヤ教のマジな宣教映画になってるようにも思えるのだけど。まぁ、コーエン兄弟が真摯に布教映画を作るはずはないが、それにしても敬虔な教徒を嘲笑するつもりで撮ったのだとしても、描くタッチとナラティブ上教義を知らないまっさら状態の日本人が見たら、教義のすべては「然り」とせよでもあるので、コメディ色弱めの宗教映画に見えてしまうのでは。終わり方は結構不評だけど、私はなかなかイカしていると思う。禍福あざなえる縄のごとしで、ダニーがようやく悪友にマリファナの代金を返せると思ったら、ラリーの胸に異常が見つかるという今後の不幸を象徴させるよう竜巻の接近でぶった切るという、上映時間を勘案したのと、あそこからエピソードを重ねても冗長になるだけという合理的な理由もあったのではと勝手に推測しているが、一つだけ言えるのはコーエン兄弟にとってユダヤ教は本当に彼らに根深く影響を与えているのだなということ。
[インターネット(字幕)] 6点(2023-01-03 21:41:43)
8.  ラブ & ドラッグ 《ネタバレ》 
これは難しい映画ですね。単純にテーマを一つでいいところを二つ盛り込んで無理やり着地させている感じ。セールスマンのサクセスストーリーと恋愛物を。多分企画としてはバイアグラのNO.1セールスマンの映画だったのをラブロマンスを入れようとプロデューサーが無理やり難病物のそれとをくっつけたんだと思う。最初の方のセールマンになってから奮闘する部分なんてテンポよくて本当に面白いなと思った。原作をうまく脚色しているのが透けて見えるくらい。でも、確かにこれだけだとメガヒットするような映画にはならないだろうなとも思う。ただ、ロマンスパートも結局ありきたりでそんなに胸を打つほどでもない。でも、足したんだから良くない?と思うかもしれないけど、エドワード・ズウィックだからこれくらいうまく融合させているけど、それでも見終わった後、なんか中途半端感しか残らない。どちっかに絞った方が良かったんじゃないって。でも一つに絞ると弱くなるし・・これがいろいろこねくり回して一番最上の形だったんだろうなというのは非常に理解できる作品。ある意味エドワード・ズウィックの演出力のすごさがよくわかる作品。
[インターネット(字幕)] 6点(2022-07-16 18:04:39)
9.  我等の生涯の最良の年 《ネタバレ》 
素晴らしい脚本に素晴らしい監督による演出。勝利の方程式の王道のような映画。内容は戦後の帰還兵の社会復帰の困難な状況を描いた決して甘ったるくない題材だが、戦後一年でこのテーマをこれだけ前向きにエンターテイメントにしてしまう昔のハリウッドのすごさ。一切外連味のない正攻法な演出による教科書のような作品。3時間近い内容だが全く長さを感じず、昨今の安っぽいチンケな感動を煽る邦画とは違う静かな感動を心に響かせる豊饒な作品です。映像による心情表現の積み重ね=ドラマが映画の欠くべからざる一つの軸として挙げられるが、この点ではワイラーを超えた者はまだいないんじゃないか。みな変化球に逃げるしかない後世の者の悲惨さは同情に値する。
[インターネット(字幕)] 9点(2022-01-20 20:29:02)
10.  ロープ 戦場の生命線 《ネタバレ》 
今まであまり題材にされないような国際NGO団体の日常をを描いたニッチな映画。タッチが小説の短編的な感じで、2日間にわたりユーゴ紛争地域の現地の人々と団体職員との非日常的な日常を描く。登場人物もお話の定型で理想に燃える新入り、すれからっしのベテラン、そこに女癖の悪いおじさん職員が前に遊んだ彼女が組織の査察官として現地を視察し、そこで痴話喧嘩が燃え上がるというもの。作品の大枠としては昔の日本映画、川島雄三あたりが小説を映画化したような娯楽作品だが、技が効いているのはユーゴ紛争の悲惨さをさりげなく現地の人々の日常から透かして見せること。NGO職員と現地人との距離感の取り方も実際ああなんだろうし、現地の少年や現地人通訳のセリフを通して過酷な現実とそれを百パーセント解決できない自分たち、もしくは国連軍の無力感をいい具合に浮かび上がらせている。また先進国からあえて紛争地帯で国際支援活動に勤しむある意味母国では社会不適合者であるNGO職員の姿もリアリティがあってよい。惜しむらくは無駄なシーンが結構あって、もっと編集でテンポよくできたのではと感じる。それでも、ほのぼのしたブラックコメディの中にまじめに国連軍や国際NGO活動の難しい現実をリアルに提示した良品だと思う。
[インターネット(字幕)] 7点(2022-01-20 18:01:36)
11.  息もできない 《ネタバレ》 
多部未華子にそっくりなキム・コッピのキャスティングがばっちりはまっている。多部よりも線が太く勝ち気で意志が強く母性も強いヨニの役をしっかりと演じている。暴力シーンがこれでもかというぐらい溢れているが不思議と過剰だとは感じられない。オールドボーイとかの方がむしろ狙った感が透けて見える。設定としてはよくある優等生女子と不良男子の恋愛ものカテゴリーにもみえるが、この映画の独自性は暴力性ではなくむしろ「家族」という人間関係にこだわっている点だと思う。父の虐待により家族が解体し、母も亡くし彼を憎悪し、家族というものを忌避するようになったサンフン。しかし腹違いの姉の息子ヒョンインを不器用な表現でかわいがり、やはり家族を希求しているサンフン。一方ヨニの家族も母は既に亡く、父親は呆けており、兄もグレて金の無心しかしない状態で完全に崩壊している。彼女も孤独であり、家族のぬくもりを求めている。物語が進むうちにサンフン、ヨニ、ヒョンインの3人の疑似家族が醸成されていく。そしてサンフンが変化するのは父親を殺そうとしたのにすでに自殺を試みていた彼を見つけ、必死で救おうと病院に担ぎ込み輸血までする。自分の中にあれだけ遠ざけようとしていた拭い難い家族への愛情をはっきりと確信したのだろう。そして夜河原でサンフンがヨニに膝枕をお願いするシーンは互いの心境の変化と心情の接近が非常に過不足なく甘ったるくもなく抒情的に描かれたいいシーンだと思う。サンフン亡き後のマンシクも含めたヨニ、姉、ヒョンインの疑似家族的な温かい交流シーンが描かれるが、そのあとすぐにそれをを打ち消すかのようなシビアなラストシーンはヨニにとっては救いがない残酷なシーンでこれも監督の甘ったるくしないぞという意思が感じられなかなか良いと思った。そういう意味ではこの作品は人間の残酷さと愛情深さという両極の要素のバランス配合が非常に優れた良い作品だと思う。
[インターネット(字幕)] 8点(2021-09-19 00:09:23)
12.  バーバー 《ネタバレ》 
コーエン兄弟の40年代ハリウッド作品にありそうな映画のパロディーというかオマージュ的な作品に思えた。話の流れは無理なく結構よくできていると思う。エドのかみさんに対する淡白な態度など非常に身につまされ、リアリティはある。最後の方に円盤のモチーフやUFOのシーンなどこのままだとただの普通の映画で終わってしまうからコーエン印を刻印しておかねばと思ったのかもしれないが、なんか違和感があった。でも、コーエン兄弟を知らない人が見てもそれほど気にならない程度にとどめており、マニアが見ればこんないろいろ穿ったコメントも出てくるが、何の知識もない人が見ても、よくできた男の転落劇で、2時間損した気にはならない、ごくまともな娯楽作品です、ハイ。
[インターネット(字幕)] 6点(2021-09-04 18:03:40)
13.  ウルフ・オブ・ウォールストリート 《ネタバレ》 
脚本が素晴らしい。ダレることなく一気に見ることができた。スコセッシは歳を取ってもまだどんどんうまくなっているように感じる。 「ディパーテッド」よりこっちの方が圧倒的に完成度が高いし、単純に面白かった。この後全くテイストの違う「沈黙」も撮っているし。本人も70過ぎても撮るごとに進化していることに充足を感じているのでは?皆さんが言っているように己の欲望に忠実に邁進している人物たちをなんのためらいもなく真っ直ぐに描いているので、本当に清々しい。ただ、ウォール街の人間って本当にあんなにラリッてるの?というのが率直な疑問。個人的にはトンでいるのに必死にカウンタックを運転して家に帰るのがリアリティーがあって面白かった。あれは実話か脚色か?ちょっと思ったのは、この人間の下世話な欲望を余すことなく描いている感じが私淑している今村昌平っぽさを今回は出したかったのかなぁと。
[インターネット(字幕)] 9点(2021-08-28 22:00:38)
14.  冬の小鳥 《ネタバレ》 
やっと見ることができた。個人的に孤児院の話は好きで、場自体が悲哀を孕み、濃密な人間ドラマを生みやすい環境でもある。映画ではないが井上ひさし「41番の少年」や吉本直志郎「青葉学園物語」シリーズなど胸を締め付けられる哀切さがある。さて念願のこの映画。皆が言うようにキム・セロンの演技が素晴らしい。彼女の表情がこの映画の主旋律であろう。自分が捨てられたという事実がどうしても受け入れられないジニ。そこに友人としてスッキとの交流が徐々に芽生え、少しだけ彼女の心に落ち着きが生まれる。スッキのような野心的な子も現実にはいるだろう。また先輩イェシンのように悲しいエピソードも彼女の中で思い通りにいかない人生への苛立ちを醸成させる一助にはなっていたことだろう。イェシンが去った後の寮母がやりきれない怒りの表情で布団をたたくシーンなど、この施設での悲哀が十分少女の胸に伝播したことだろう。結局ジニが遠い異国のフランスに行く決意をしたのも友人スッキの影響があったからだと思う。彼女が去った後再び現実を受け止められなくなり、自分で自分を埋葬しようとするもできない。現実を見るしかない。どうせ養子となるなら、いっそ父親を思い出さないよう国内ではなく、海外へと吹っ切ろうとする心の動きも理解できる。最後の父親との自転車二人乗りの回想シーンから空港で里親に出会う流れは本当に静かな感動を生む。自伝的な映画なのでリアリティに満ちているのは当然だが、一つ気づいたのはこの施設女児専用なんだなと。これが男女両方の施設だともっと猥雑なお話になる可能性もあったと思う。実際の彼女がどうだったかはわからないがただ、女児専用の施設という設定でストーリーに一定の清潔さが担保されていると思う。少年との恋愛なども描くと盛りだくさんになるし、主題がぼやける可能性もあるから、これはこの設定(実際どおり?)でよかったと思う。
[インターネット(字幕)] 8点(2021-08-14 23:00:15)
15.  リトル・チルドレン 《ネタバレ》 
登場人物の設定、話の展開などすべてがリアリティかつ緻密にできていて完璧。唯一の傷は最後ブラッドが駆け落ちの待ち合わせ場所に急ぐのにスケボーををやるくだりくらい。でも、本当あれなんで?現代人の闇、苦悩、葛藤、自己中で未成熟な幼児性など今のドラマではよく取り上げられるいわばありふれた素材だが2時間の映画作品でこれだけ群像劇的に描いて嘘臭くなく飽きさせずに描いたのはちょっとないんじゃないかな。監督が神の視点で一人一人を冷ややかに見る皮肉な感じも痺れて非常に好み。題名からも嫌味でリトル・チルドレンって言って集約させているくらいだし。設定のうまさは限りなく挙げられるけど、ラリーがロニーを攻撃するのも少年の誤射からPTSDで警察を退職せざるを得なくなり、仕事に誇りを持っていたゆえにその発露の場を求めてのこととか。そのロニーの母親がお前は人のことを言えるのかと逆にラリーに切り返すブーメランとか。ロニーのデート相手の女性の設定もいかにもそんな人じゃないと広告見て応募しないよなという感じだし。細かいところでいえば、ブラッドがサラの自分に対する恋慕に気づく瞬間やキャシーが二人の関係に気づく会話等々数を挙げればきりがないくらい実に芸が細かい。磨き上げれた碧玉のような作品だ。ケイト・ウィンスレットつながりでもないがレボリューショナリー・ロードも似たテイストだが、あちらの方がもっと生真面目で熱量があり、ある意味映画的でもあるが、こちらのほうは文学的でかつ話に広がりもあり、より完成度が高く感じられた(原作があった)。このサイトでは非常にunderestimateだけど。
[インターネット(字幕)] 9点(2021-08-10 23:57:28)
16.  ワールド・オブ・ライズ 《ネタバレ》 
点数が低いですねぇ。日本人ってこういう職制間の葛藤があんまりドラマとして見られないのでは?和を以って尊しとなすで組織が進む国民性ゆえか。脚本もよく練られていると思いますけどね。ハ二を出すことで、現場を知らない上司と現場であくせくする部下の単純なケンカのお話に堕さずにハ二を裏切りながらも職務を進めるフェリスの苦悩。人間的にはハニの方を尊敬しているのに。男の三角関係を作り出すことで話に深みを与えています。個人的にはマーク・ストロングははまってましたね。レバノンの諜報王国の王様感がバリバリ出ていました。いやぁ、ほんとカッコイイ。ラッセル・クロウも嫌な上司役を遺憾なく演じていましたが、キャラクター付のためだと思いますが、わざと下から上目遣いに見る演技が私にはちょっとクサく感じまたねぇー、ハイ。現地人の看護師とのロマンスは取ってつけた感がありますが、ハリウッドの作法ではまぁ、しようがないかな。映画は娯楽商品ですから、プロデューサーが入れろと言えば。最後アメリカの独善・強引に進める中東での諜報破壊活動が結局は現地の優秀な諜報機関に鼻を明かされるという結末は良かったですね。ハ二の紳士ぶりが却って凄みを感じさせて、マーク・ストロングの役作りは大成功。
[インターネット(字幕)] 7点(2021-07-04 21:03:20)
17.  渇き(2009) 《ネタバレ》 
不思議な映画。不倫モノをありきたりにしないために吸血鬼と人妻が恋に落ちるという、またその吸血鬼が神父という凝った設定。他の方が言っているように映像は美しいし、つまらなくはないが、なんかしっくりこない感じ。そしてこの消化不良感が何かやっと気づいたのだが、神父の倫理観がちと分かりにくいところ。ラストの心中というのが自分なりのけじめの付け方なんだろうが、そこに至る描き方がちょっと弱いような。肉欲に溺れるというのも別にわからなくはないが、韓国映画お得意のもうちょっと罪との葛藤を深く描いたなら、さらに恋愛とアクションとホラーのハイブリット感が強まった傑作になったと思う。
[インターネット(字幕)] 7点(2021-04-17 22:47:41)
18.  ホット・ファズ/俺たちスーパーポリスメン! 《ネタバレ》 
テンポの良く質の良いサスペンスコメデイー。でも、ちょっとテイストが微妙に違うなと思ったら、やはり監督がスプラッターオタクだったのね。都会と田舎の職場のカルチャーギャップの描き方も丁寧にやっているし、個人的には英国の田舎の雰囲気がわかってよかった。後半の真の敵との対決の際に同僚を説得してすんなり納得するのがちょっとご都合主義だけど、街中での悪の結社(?)たちとのドンパチもあり得ないといえばそれまでだが、あれはエンタメとして確信犯的にやっているのが明らかにわかるので、問題なし。むしろ馬鹿馬鹿しくて良い。前半はカルチャーギャップサスペンスコメディー、後半はスプラッターサスペンスコメディーという、ハイブリッドで、なんか見終わった後ほっこりさせる不思議な娯楽作品。
[インターネット(字幕)] 7点(2021-03-28 22:53:28)
19.  リトル・オデッサ 《ネタバレ》 
オフビート感がなんか時代を感じさせます。ジャームッシュとかアキ・カウリスマキがはやってた頃の。個人的にはユダヤ人に興味があるので、ユダヤコミュニティの現実とかやっぱ教育に熱心なところとか、興味深く見れた。それでも学力がない子はギャングに走るのはアメリカの移民社会では万国共通なところとか、これもアメリカ映画で繰り返し描かれるモチーフです。一つのユダヤ人家庭の葛藤を描く至極まっとうな家族ドラマで脚本は良かったと思います。若干テンポがいまいちのような気もするがギリギリ独自のスタイルとして成立しているともいえるのでまぁ、それは良しとしましょう。それにしてもヴァネッサ・レッドグレイヴの演技が受賞するほどのモノとは特に思えないのだが。いや、別に悪くもないんだけど。
[ブルーレイ(字幕)] 6点(2021-02-27 21:48:30)
20.  女神の見えざる手 《ネタバレ》 
すごく面白かった。ストーリ展開にしっかり起伏をつけていて、一切ダレることなく見ることができた。主人公の目的のためには手段を選ばない非情さを存分に描いているが、特に事務所の同僚が銃殺されかけて仲違いさせるのとそのやり方の蹉跌も描くことで最後のドンデン返しを活かすプロットは見事。「ロボ・ローチ」はホンマかいなって突っ込みたくなるけど、まぁいいでしょう。決して万人受けするテーマではないけど、ハウス・オブ・カードを楽しめる人にはお勧めできます。あと男娼が法廷で偽証するのも主人公のパワーを無理なく感じさせて、なんかリアリティがあってよかった。
[インターネット(字幕)] 8点(2021-02-20 22:32:58)
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