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自己紹介 現在の技術で作られた映画を観る目線で過去の映画を見下すようなことは邪道と思っている。できるだけ製作当時の目線で鑑賞するよう心掛けている。

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181.  Wの悲劇
アイドル映画の側面はあるものの、三田佳子の気迫あふれる演技や演劇を作り上げる過程が堪能でき、見どころたっぷりの青春映画。 映画の中の演劇、現実の展開(大女優と研究生)と芝居(夫人と摩子)のオーバーラップ、それぞれ劇中劇の入れ子構造を楽しめる。特に身代わりを頼まれた静香が記者会見で“演じる”シーンは女優魂を感じ見ごたえがあった。が、薬師丸はちょっと力不足の感。 かおり(高木美保)の襲撃シーンは感情がこもって迫力十分。「いつか追い抜いてやる」の野心がこのシーンに説得力を持たせた。 演劇の舞台裏がよくわかるし、枕営業的なことも実際あるんだろうな。まっ、自分だったら物を投げるような演出家はゴメンだけどね。
[CS・衛星(邦画)] 7点(2016-12-11 14:37:10)
182.  夢(1990)
第1話【日照り雨】 狐の嫁入りはモロにスモークだね。狐の動きがユーモラスで小気味よい。虹の輝く花畑は鮮やかな情景で、言い伝えを通して自然の大切さを説く。 2話【桃畑】 桃源郷(自然)の喪失感と再生への訴え。 3話【雪あらし】 雪女は厳しさとやさしさ(包容力)を併せ持つ自然の二面性を表現。  2話と3話は舌足らずの印象。 4話【トンネル】 戦争の不条理を描く。犬は死者の魂を象徴し、その魂への鎮魂を込めたもの。 5話【鴉】 豊饒の麦畑、ひまわりや太陽の黄色は強烈な印象。絵画の中に溶け込んだ姿はNHK・Eテレの子供向け番組みたいで変な感じ。ゴッホの世界を駆け回る喜びとともに、彼と通じる創作の苦悩を感じる。  6話【赤富士】 スリーマイルやチェルノブイリ事故を踏まえた問題意識と東海地震への懸念を表したもの。原発に対する危機感を自分も共有する。 7話【鬼哭】 6話からのつながりで、文明の行き着く果てがどうなるか警句を発す。共感するが説明調のセリフが多い。 8話【水車のある村】 自然あっての人間というメッセージ。日本の農村の原風景を見る思いだが、小川沿いのキショウブはミスマッチ。ゴッホ好みの黄色?にしても在来種と競合するほどの繁殖力をもつ帰化植物は合わない。 よく生きよく働いて死ぬという人生観、そして青森ねぶたを連想させる踊りは人生讃歌であり、葬送の音楽は心に残る。   6話から8話までは現代社会への問題提起で、科学万能に対する懐疑を示したもの。共鳴する部分もあるが老人の遺言めいて説教臭が強い。  少年・青年・中年・老人の流れで一貫しているのは、人間と自然の共生を詠い、その大切さを訴えるものだった。
[CS・衛星(邦画)] 4点(2016-12-04 20:16:57)(良:1票)
183.  トキワ荘の青春
小津映画的構図を用いて描かれる、主人公の心情に合わせた静かな佇まい。トキワ荘メンバーの中で寺田ヒロオの視点とはいえ、しんみりし過ぎ。ヒソヒソ話のようなセリフ回しや暗い画面の連続は時に不快でさえある。 ドラマ性を排した演出により、漫画家同士以外の人間関係が無機質で事務的な印象を受ける。昭和30年代、都会とはいえ下町が舞台であり、この雰囲気がこの時代に合うとは思えない。 主人公は“いい人”としてあっさりした描き方であるが、創作者として信念を貫くか時代と向き合い妥協するかの苦悩はあったんじゃないの?それがあまり感じられず物足りない。 お互いの才能がぶつかり、時には助け合う中、世間の評価や本人の向き不向きでそれぞれの道があるのが世の習い。ペラペラ漫画からアニメという新天地への転向を打ち明ける鈴木伸一や、志半ばで挫折した森安の別離は印象的。 赤塚と寺田、この二人の会話がその後の立場の逆転を冷徹に象徴している。それでも、寺田が漫画に対する信念を貫き通したことは、ひとつの見識と解する。 映画の内容から離れるが、寺田の画風を考えてふと思う。ピーナッツ・シリーズのような4コマ漫画に生きる道はなかったのだろうか、と。
[CS・衛星(邦画)] 3点(2016-11-27 11:52:42)
184.  ザ・ヤクザ(1974)
「義理と人情」をアメリカ視点で描いたヤクザ映画。刀を鞘に入れる音は意外な新鮮さ。日本刀、花札、パチンコ、庭園、鳥居などJAPAN記号のオンパレード。尺八や五木の子守唄等、音楽も含めオリエンタル趣味たっぷりだが悪くない。虚無僧が突然現れるところは苦笑するばかり。 殴り込みのシーンは東映ヤクザ映画風でよかった。特にタナー襲撃シーンのカット割りがいい。 ラストの日米二人の指詰めは(健は五郎への、ハリーは健への)義理の精神に沿ったものだと思うが、こだわりすぎの感があり、あまり美学は感じない。 R・ミッチャムと高倉健の演技もさることながら、待田“月曜日”京介のヤクザぶりや「GO!GO!トリトン」ヒデ夕樹の貴重な映像がうれしい。
[CS・衛星(字幕)] 5点(2016-11-20 20:19:44)
185.  羊たちの沈黙 《ネタバレ》 
ブラックお伽話としてみれば興味深いが、リアリズムの視点でみるといくつか難がある。 1 FBIの一員とはいえ、まだ訓練生の女性を一人で海千山千の猟奇殺人犯に対峙させるか?未解決事件を解決するため上司、クラリスそれぞれの思惑があるにしても説得力に欠ける。 2 上司が警告したにもかかわらず、クラリスが何の葛藤もなしに私生活を打ち明け、レクターにつけ入るすきを与える。信頼関係を築くためだろうが、トラウマを抱えているならなおさら警戒するのが普通。事件解決に向けた「虎穴に入らずんば…」とか「肉を切らせて骨を…」は、この場合該当しないだろう。せいぜい「ケガの功名」だな。クラリスの創作話という高等戦術であれば面白いが。 他にも警備の緩い刑務所(!)への移送等、レクターにとって都合よすぎる展開は弱点であるが、これらの内容がなければ(タイトルが意味するところの)物語が成立しないというジレンマに陥る作品。 また、前景にクラリスとレクターの会話が展開される場面、後景には職業として羊を飼い屠殺する牧場主の姿が脳裏に浮かんでくる。詳細は映画同様謎かけとしておくが、微かな差別を感じ不快感が残る。 上院議員の娘が救出される際、FBIに強い影響力を持つ親がいるためかクラリスに悪態をつきまくるのも変。終盤、バッファロー・ビルとの攻防は「暗くなるまで待って」のスーパーヒロイン版になっちゃった。 レクターの上目遣いの演技は心理学的に威嚇・攻撃・好意を表しているようで、思わせぶりなアップ場面等のカメラワークや心理描写・伏線張りで怖さを強調しているが、その手には乗らなかったよ。
[CS・衛星(字幕)] 3点(2016-11-13 13:56:34)(良:1票)
186.  バルジ大作戦
初見後・・・タイガー対シャーマンの対決における圧倒的なタイガーの強さが印象的。ガフィー軍曹の奮闘ぶりが際立つ(吹き替えカット版ゆえか)。 2回目鑑賞後・・・ドイツ側の描き方が出色。現場を預かるヘスラー大佐の強い意志と悪戦苦闘ぶり、コンラッド伍長の庶民的目線と戦争への嫌悪、経験不足の若い兵士の合唱による士気高揚、シューマッハ少佐の奇襲場面のスリル。 連合軍側はカイリー中佐の孤軍奮闘、グレイ少将の指揮ぶり、ウォレンスキー少佐の男気を堪能。ウィーバー中尉の成長物語も面白い。 実話に基づく戦争アクション映画として観たので史実と合わなくてもOK、戦車の違いもタイガーとシャーマンの比較ができればOK、雪は融けるものだからあってもなくても気にならず。 3回目・・・武器を捨て、去りゆくコンラッドに反戦のメッセージを見た。 ヘスラー大佐は「ヤマト」デスラー総統のモデル?なるほど。 気がつけば「パンツァー・リート」を何度も聴いている自分がいた。コンラッドの歌う姿が味わい深い。
[CS・衛星(字幕)] 7点(2016-11-06 20:07:53)
187.  ニューヨーク1997
子役のイメージを脱したK・ラッセルがマッチョに変身。L・V・クリーフやE・ボーグナインなど脇役陣のクセ者ぶりが楽しめる。中でもミュージシャンのI・ヘイズは意外な怪演。大統領役がD・プレザンスというのは「?」だな。  監獄が舞台とはいえ退廃的でごみごみした近未来は好みじゃない。まあこの世界観が後の映画に影響を与えたんだろうけど、未来は多少でも希望がなくっちゃ。  時限付き大統領救出という題材はいいが、起伏の乏しい展開で中だるみ気味。オックス・ベーカーは小道具(武器)を使わず、殴る・蹴るの方がお似合いだ。  救出された大統領の身だしなみは風刺を感じるし、テープをすり替えて捨てるところは爽快感があった。でも、世界平和につながるならちょっと惜しい気が・・・。
[CS・衛星(字幕)] 4点(2016-10-30 20:18:34)
188.  野いちご
老教授の栄典をめぐる1日を90分余に凝縮して描き、生と死、老い、家族観など人生の機微を散りばめた珠玉の一遍。 人との関わりを避け仕事に集中して生きてきたが、功成り名遂げても心の空洞を抱える老教授。老人の虚無感や孤独感・死への恐れといった内面が表現される。 冒頭の夢のシークエンスはドイツ表現主義を彷彿させるもので、絵画的構図が秀逸。詩的・哲学的でシュールな画づくりは主人公の心理を巧みに視覚化しており、針のない時計は特に印象的で、“死”のイメージを怖いほど漂わせる。 回想シーンは、現在の姿で過去と向き合うことにより、孤独感や後悔の念が滲み出ている。道中における若者たちの生の実感と老人の孤独感の対比も見事。 3人の若者との交流や息子夫婦との対話、心が通じ合った家政婦とのやり取りなど(ガソリンスタンド店主の感謝も重要)を通じて主人公の心理は徐々に解きほぐされる。最後に寝床でみせる表情は孤独や死の恐れからの解放を示すもので、前夜の夢(不安)と対照的な安堵があった。 主人公の内面の変化を通して人生の価値を感じさせる作品。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2016-10-16 13:47:05)(良:2票)
189.  アバター(2009)
 飛ぶ、跳ぶ、走る、躍動感あふれる映画である。  3Dが先にありきか、テーマを表現するための手段としての3Dかで評価は分かれるが、後者の心意気と解釈する。めくるめくような映像美で社会性を包んだ上質のエンターテイメントと感じた。  ベトナム戦争や「ソルジャー・ブルー」の問題意識を想起させる場面もあるが、よりマクロ的な視点で、人類史上繰り返される異文化との衝突をいかに克服するか、さらには自然と人間の共生が主題として提起される。本作はパンドラをめぐるナヴィ、アバター、地球人の関係を通じてこの課題を問いかける。相互理解による共存がなければ征服と屈従しかないのが現実。終盤の、理念と矛盾するような派手なドンパチは通俗的だが、ハリウッド映画ならではの娯楽性と受け止めた。  ラストで「エイリアンは去った」の言葉が象徴するように、ナヴィ(そしてパンドラ)からみればスカイピープルこそがエイリアン。似たような印象の映画もいくつかあれど、自然と人間の共生を問うた点は鉄腕アトム「赤い猫」と通底する。
[CS・衛星(字幕)] 7点(2016-09-25 14:06:12)
190.  ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘
 返す返すも残念至極に尽きる、禁句を承知のタラレバ勢揃いでした。 1 島の娘役は何と言っても髙橋紀子に演じてもらいたかったな。久保明も出演し彼女との共演が実現していたら、ウルトラQ「南海の怒り」の延長戦を楽しめたのにね。病気で降板さえしなければ・・・。あっ、水野さんがダメっていうわけじゃないですヨ。特撮と水野さんは相性が良いと思うし、リリーフをきちんとこなしてくれました。関係ないけど某番組での馬場正平さんとの思い出話は興味津々でした。 2 ペア・バンビの小美人はミスキャストでしょう。ザ・ピーナッツの印象が強すぎて損な役回りだったかな。せめてもっと華のある人が演じてればよかったんだけど。 3 モスラは結局救出役だけってのがもったいない。もっと活躍してくれなきゃだめでしょ。顔見世程度じゃなく、もう少しゴジラと絡んでくれれば題名に相応しかったのに。  なんだかんだ言いながら、エビラの登場シーンはよかったですよ。造形もいいし、海の中からハサミを出して「これから出ます」という雰囲気はバッチリ。やっぱり怪獣は“いきもの感”がないとだめだね。その点でエビラは好きだし、ゴジラとの攻防も純粋に楽しめました。 
[映画館(邦画)] 4点(2016-09-11 15:30:12)
191.  ヒトラー 最期の12日間
臨場感たっぷりで、TVドキュメンタリーの上質な再現ドラマという感じ。 ヒトラーの人間性描写は結構だが、古今東西、多くの犯罪者や独裁者が親族・知人など一定の人々に好人物であることはよくある話。その点は想定内で、新味はない。 現代におけるタテ社会の、服務規律とともに悲哀を痛感する内容でもあるが、良くも悪くも上司の指示に従うのが宮仕えの辛いところ。それゆえ上層部の責任は大きい。 本作で不自然な点は“人間ヒトラー”をこまごま描きながら、最後の“死”を明確に描かなかったこと。頭を撃ち抜かれる兵士、SSによる市民銃殺、さらに病院での拳銃自殺など、冷徹に幾多の死を描写しているが、ヒトラー夫妻やゲッベルス夫妻の“人間としての死”に関してはなぜか直接表現していない。「史実に基づいて正確を期すため曖昧にした」という変なロジックを感じる。これではまるで「晒し者になるのはいやだ。遺体を焼却しろ」と命じたヒトラーの意を酌んだかのようだ。“劇映画”ならば一瞬のワンカットなりフラッシュバックを挿入してもいいだろう。決して露悪趣味で述べるのではない。 ナチズム賛美の映画でないことは重々承知しているからこそ、「優しい・家族思いの彼ら」から「彼らの死」に至る演出の、調和がとれていないことを指摘しておきたい。
[CS・衛星(字幕)] 5点(2016-09-04 14:58:38)
192.  トムとジェリー ピアノ・コンサート
 おやおや、こんちトム君、おめかしして何をするんでしょう。ははあ、さてはピアノ演奏かな?見事名演奏と相成りますか、さあお楽しみ。 作品全体がミュージカル調で完成度はピカイチ。格調の高さも時折顔を覗かせ、おすましの表情でクラシックを演奏するトム、鍵盤とともに動き回るジェリー、それぞれの表情が愉快。レンチで殴られた後のジェリーの時差反応、終わったと思えば何度も続く演奏から最後のオチまでがまた結構。 梅木マリのパンチある主題歌、ナレーション谷幹一の名調子、八代駿のトム、藤田淑子のジェリー・・・この日本語版は傑作!何度も観たけどアニメならではのスラップスティックが心地よい。 カートゥーンながらシリーズの1本1本が作品として登録されればその都度投稿するつもり。中でも「天国と地獄」はじめ傑作は多数あり。ディズニーもいいけど、やっぱハンナ・バーベラやテックス・エイヴリーでしょ。 【閑話:台所戦争ならぬフッ○論争の勃発】テレビ放送当時「フッ○、フッ○、フッ○フッ○」と連呼する歯磨きのCMが流れ、この発音を小学校のクラス内で「フット」派と「フッソ」派に分かれて議論。われら「フッ素」派が勝利して終結。 3本放送の真ん中作品も傑作に事欠かない。特にドルーピー(吹き替えは絶妙、玉川良一の名人芸)のおとぼけぶりが最高!彼の「呼べど叫べど」やスパイク「逃げてはみたけど」なども○点献上の用意をしておこうっと。 えっ、某政治家がドルーピーに似てるって?・・・し、しつれいな、失礼な。・・・ドルーピーに失礼な!
[地上波(吹替)] 8点(2016-08-28 10:49:43)
193.  ランボー
ベトナム戦争帰還兵の心の傷を描く。序盤の静かな山水風景と、ラストのランボー告白による戦争批判のシーンは心に残る。 戦争でトラウマを抱えたランボーが過剰防衛で逃走、♪盗んだバイクを乗り回し♪てどうすんのよ。騒動きっかけの、よそ者に冷たい「おらが町さ」意識はどこでもある話。ランボーの非協力に対する保安官の仕打ちも度を越しており、両者はどっちもどっち。ランボー、保安官双方戦う必然性が弱い。お互い過剰な反応で事態悪化、これは、ささいなことから争い事になり、次第にエスカレートする姿を戦争に見立てれば優れた展開と思う。それ故、派手な超人的アクションは違和感があり、中盤のバトルはハリウッド的誇張が過ぎる。アクションを取るかテーマ(内省)を取るかで作風は大きく変わるだろうが、本作はどちらも追い求め、消化不良気味。 ランボーをロケット砲で倒したと思った軍人が記念撮影するシーンは、その後のイラク戦争における米軍の仕打ちを予見したかのようだ。このような体質は昔からあるのかもしれないが・・・。
[CS・衛星(字幕)] 5点(2016-08-07 17:23:00)
194.  
リア王を下敷きにした戦国絵巻だが、全体の印象として仲代達矢主演の舞台劇を観ているようだ。息子たちに裏切られ苦悩する秀虎の姿に黒澤の自画像をみる思いで、三船ら身近な人間に去られた監督の内面と二重写しにみえる。 戦国の“乱”、心の乱れの“乱”、栄華が朽ちていく“乱”・・・。雲や光の映像美とともに、衣装は豪華で色彩豊か。さらに、合戦シーン(特に弓矢)、楓の方の惨殺シーン及び炎上する城が印象深い。これらの迫力はいかにも黒澤らしい。 終盤、映画の主題を説明するかのごときセリフに対して違和感が残った。狂阿弥の狂言回しはあまり効果的でなかったと思うし、ラストにモニュメント・バレーを想起させる場面が現れるのはさもありなん。
[CS・衛星(邦画)] 4点(2016-07-31 11:41:21)
195.  カンバセーション・・・盗聴・・・
“盗聴”という現代社会の病巣を抉り出すとともに、製作当時のアメリカの自画像を描く。昨今のスノーデン事件等を考えれば、より深刻な将来を予言するかのような作品だ。 男女二人をめぐる公園での盗聴シーンを繰り返し、少しずつ会話を明快にする演出は秀逸。むくつけき男どもや魅力に乏しい女たちの中で、二人を演じるF・フォレストとC・ウイリアムスは隠し味的な味わい。盗聴特有の音の演出やジャズの使い方も効果的だ。 主人公の輝かしい実績とは裏腹に、内面に抱える孤独感や苦悩が描かれる。盗聴する側が逆に盗聴されて動揺し、追い詰められる皮肉。その強迫観念から苛立っていた精神が徐々に崩壊し主人公の焦燥感も頂点に達するが、やがてサックスに安らぎや救いを求める。プロなら覚悟しろよと言いたくなるが・・・。終盤のどんでん返しは平板な印象。 サスペンスや恐怖の味わいはあまり感じられず、社会派ドラマと受け止めた。アスファルト・ジャングルの中の孤独、人間性の喪失・・・ベトナム戦争で疲弊したアメリカ国民の心情やウォーターゲート事件とオーバーラップする。 映画全体を覆う暗さは如何ともしがたく、好きな映画ではない。
[CS・衛星(字幕)] 4点(2016-07-17 16:44:06)
196.  マタンゴ 《ネタバレ》 
アダムとイヴの昔から禁断の果実・食物は人を惑わせる。本作は漂流サバイバル+怪奇映画の形を取りながら人間の本質に迫ったもので、マタンゴが核実験の産物と臭わせるところに批判精神が読み取れる。文字通り「キノコ雲」を想起させる造形だが、デザインは小松崎茂?ほほお―。 孤島を舞台に、極限状況に追い詰められた人間がむき出すエゴイズムと欲望が描かれ、ネオン輝く大都会と無人島の対比を通して、生きるとは何かを問いかけてくる。所詮、一皮むけば大都会に渦巻く欲望も孤島の欲情も似たようなものだろうが。 理性(人としての死)か欲望(キノコ化しての生)か究極の選択を迫られたとき、人はどのような行動をとるか。人間本位で考えがちであるが、一歩引いて考えればマタンゴ化して生きるのも自然の営みの一部といえる。生き残った村井が発するセリフ(島に残った恋人への思い)が象徴的だ。 7人の登場人物中、妖艶な悪女を演じる水野久美は最もインパクトがある。マタンゴ化して姿が変り果てる男たちに対して、キノコを食べるごとに妖しさ・毒々しさを増してゆく久美サマは怖く、美しい。 マタンゴの襲撃を逃れ、最後まで人間性を保った男が精神病院の中で後ろを振り向く一連の展開は、「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド」に先立つこと5年、ゾンビ映画の先駆者的な位置付けができるだろう。衝撃的なラストシーンはトラウマのごとく記憶している。 この映画を観てからキノコを食べられなくなった体験談がネット上で散見されるが、自分は何ともなかったなあ。いろんなキノコを喰ったが、幸か不幸かマタンゴには成ってない・・・・・フォッフォッフォッフォッフォッ。
[映画館(邦画)] 7点(2016-07-10 10:58:41)(良:1票)
197.  ゼロ・グラビティ 《ネタバレ》 
無重力を表現した宇宙空間の映像美は見事で、TDLの「スター・ツアーズ」を体験した時のような快感を味わった。技術先行の画面に、2人の会話劇で人間関係が描写される展開は秀逸。無音(?)の大宇宙では軽口をたたくことも重要なコミュニケーションと映る。 娘を亡くし夫と別れた女性宇宙飛行士が宇宙に一人取り残され、一時は死を覚悟しながらも、帰還に向け生への気力を取り戻すという設定に現代性をみる。マットの生還(幻覚)からラストに向けての展開はハリウッド映画の王道であり、悲惨な結末を迎えるリアリズムよりずっといい。 ライアンとマットのロープでのつながり(へその緒のような)やISS内部での胎児ポーズ、そして涙の粒が浮遊するシーンはそれぞれ印象深いが、強調し過ぎの感あり。 地球に帰還し、カプセルが着水した湖でライアンが脱出した際、水中でカエルが彼女の前を横切る。さらに虫が飛び鳥がさえずる芸の細かさ。その後、彼女は陸に上がり、四つん這いから徐々に立ち上がって大地を踏みしめ(彼女の再起を暗示)、最後に2足歩行する。ここで原題「Gravity」の意味する重力の体感が示される。駆け足で生命の誕生~進化を表現したような感じだ。着水場所を湖にしたのは「猿の惑星」を意識したのだろう。が、むしろ子宮形状の入り江(海水≒羊水)に着水し、ウミガメ(4足)の登場、そして陸上へ、さらに2足歩行となった方が胸にストンと落ちる。カエル君の登場は唐突な感じだった。  無重力の宇宙空間、女性の自立、中国の人工衛星の役割、数々の障害を乗り越えて危機からの脱出等、マーケティング・リサーチはバッチリ(若干の皮肉込み)。「生」と「死」、「進化」や「再生」をめぐる91分間で、過去の映画に対するオマージュや生命をめぐるメタファーの詰め込み過ぎも感じる。終盤は生き残ったS・ブロックの一人芝居を見る思いだったが、彼女に魅力を感じないんだよなあ。
[地上波(吹替)] 6点(2016-07-03 12:41:18)(良:1票)
198.  チャップリンの独裁者 《ネタバレ》 
サイレントからトーキーへ一歩踏み出したチャップリンの問題作。ファシズム華やかなりし頃にヒトラーを戯画化した映画を製作することは、かなりの困難が伴ったものと思う。得意のボードビルでサイレントの味わいを残しつつ、トーキーの強み(音楽やスピーカー演説)をうまく活かしている。 独裁者ヒンケル似の床屋がドタバタを繰り広げ、随所にナチズムへの風刺・批判を交える展開。特に印象深いのはヒンケルが地球儀(風船)と戯れるシーン。“地球”という全世界を弄ぶかのような独裁者ぶりを表現した名場面だ(最後に割れるところがミソ)。また、ムッソリーニを彷彿させるベンツィーニとの意地の張り合いは、いかにもの面白さ。 そして最後の演説。満を持して声を出したチャップリン。自らの思いを込めた6分間の名演説は多くの人に感銘を与えたことだろう。「モダン・タイムス」から続く機械文明への懐疑も示しつつ、人類愛を謳い上げ「絶望してはいけない」「自由のために闘え」と印象的な言葉が散りばめられる。 プロローグから演説前までは傑作コメディー、ラストの演説は極めてシリアスな名スピーチ。惜しむらくは、この落差が自分の中でうまくつながらなかったこと。ギャップは承知の上でメッセージを伝えたかったと思うが。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2016-06-19 14:03:15)
199.  白熱(1949) 《ネタバレ》 
マザコンの凶悪犯、息子以上の凶悪母、隙あらば寝首を掻こうとする子分、いびきで登場するヴァンプ等、ブッとんだ悪党どもが物語を彩る。捜査側はその分抑え気味の描き方。主人公コーディの性格は、母親への偏愛ぶりに加えて「高ぶった感情をコントロールしがたい人物」として秀逸なキャラ設定。頭痛持ちの描写はやや単調な印象だが。 セミ・ドキュメンタリータッチのギャング映画として、破滅型人間の生き様をスピーディにテンポよく演出。さりげない場面にも綿密な計算が行き届いた脚本だ。 一例として・・・捜査官ファロンが囚人を装って刑務所に潜入する際、事前に「妻は金髪」という設定を要望→刑務所に茶髪の写真が送られる→コーディが彼を疑って写真を封筒から取出し飾っておく→刑務所に入ったファロンが妻(に扮した偽者)の写真と気づかない→コーディが「独房で視力が落ちたな」とかまをかける→ファロン写真に気付き咄嗟に「金髪を茶色に染めやがって」と罠をかわす→コーディ「小細工はきかないな」・・・両者の駆け引きが面白い。 他にも予防接種の緊迫感、読唇術の活用、ファロンと妻役との面会時の会話、当時のハイテクを駆使した捜査、ラストの化学工場の炎上など、ヤマ場をいくつも用意して飽きさせない。 J・キャグニーは“世界一になってやる”直情的なギャングを名演。後に「夜空の大空港」(傑作!)でクセのある犯人を演じるE・オブライエンが、本作では細心かつ大胆な潜入捜査官を見事に演じた。
[CS・衛星(字幕)] 9点(2016-06-12 13:35:00)
200.  海街diary 《ネタバレ》 
 「そして、家族になり世代は移りゆく」・・・松竹大船調を思わせる家族再生物語。海、山、坂道、江の島、江ノ電、桜のトンネル、花火etc,と、湘南の息吹を感じる舞台装置は完璧。  平穏な日常に訪れた「父の死」をきっかけに起こる波紋。それを通して、家族や周囲の人達と交わる四姉妹の心の機微を描く。父の不倫に批判的ながら、自身も妻帯者と交際するという矛盾を抱えるしっかり者の長女。次女はがらっぱちで、あるある感満載だが長女との対比を意識して役柄を作り過ぎの印象。三女は目立たず程々のマイペース。四女は父親の娘達に対する謝罪の念を体現する役柄で、見かけ上の繊細さと裏腹にサッカー上手の落差が面白く、内に秘めた強さを感じる。  親子を基本とする家庭の崩壊によって、各々の居場所を求める四姉妹。「居場所」「赦し」「再生」がキーワードとなり、長女と四女に焦点が合わされる。すずが母の行動を「よくない」と否定する言葉は幸の胸に突き刺さり、椎名との別れにつながる。自分の存在意義を問うかのようなセリフだが、すずという「命の誕生」こそが親と子、三姉妹との結びつきや風太達との出会い・交流という強い結びつきを生む。父母との葛藤を抱えた幸だが、すずとの暮らしや祖母の法要を機に「赦し」の念に傾き、ラストは残された四姉妹による家族の「再生」に昇華される。  父親の視覚化は物語に水を差すと思われ、回想シーンに頼らない手法は悪くない。会話で成り立つ父親像は「桐島、……」同様の効果を狙ったのだろう。   俳優の演技が良くも悪くも自然体で終始しただけに、多彩な表情を見せる“鎌倉”という名優が一番印象に残った。 
[地上波(邦画)] 5点(2016-06-05 15:34:09)
062.17%
1113.99%
2145.07%
3207.25%
4248.70%
53512.68%
64516.30%
75620.29%
82910.51%
9186.52%
10186.52%

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