181. ノー・マンズ・ランド(2001)
《ネタバレ》 戦闘シーンがほとんどない、極めて限定的な舞台なのに、却って濃密になり、愚かな戦争への皮肉が効いてくる。 ユーゴスラビア崩壊から民族独立運動が始まり、泥沼の内戦に陥るも膠着状態のままモヤモヤに終わったあの感じ。 ボスニアもセルビアもマスコミも国連も、それぞれの思惑が働き、 巨大組織の特性で身動きが取れないまま、後味悪く去っていく。 除去できない地雷を背に動けない兵士を残して。 そしてカメラも彼を見捨てるブラックさが何とも。 今の世界情勢だからこそ、より強烈に響く。 無力な個人が集合しても組織とはかけ離れた大衆でしかない。 そんな大衆を扇動するモンスター組織が暴走すると性質が悪い。 [DVD(字幕)] 8点(2022-09-24 14:43:16)(良:2票) |
182. 2001年宇宙の旅
《ネタバレ》 20年ぶりに視聴。 たゆたうような眠りを含めて全身で体感する映画。 現在の観点では若干の古さは感じても、色褪せない魅力を放つセットと世界観、 現実味を帯びてきたAIへの警鐘、そして人類の新たな可能性── 分かりやすさはないものの、ゼロから作り上げたキューブリックが 未来のフィルムメーカーたちに与えた影響は非常に大きい。 彼にしか作れない、そして誰もその中に入れない聖域を作り出した。 [インターネット(字幕)] 8点(2022-09-24 14:41:42) |
183. ハンガー・ゲーム
《ネタバレ》 航空機内のテレビで視聴。 ツッコミどころ満載でも面白ければ目くじらを立てないタイプだが、 これは設定が破綻しているというレベルの代物ではなく、 凡作の『バトル・ロワイアル』がマシに見えるほど。 まず、バトルに至るまでの訓練やスポンサー獲得といった退屈なイベントが続き、 それだけ時間を割くなら参加者の葛藤を丁寧に描いて欲しい。 それすら欠如しているため、「早く進んでくれ」と何度思ったことか。 また、やっとバトルが始まっても逃げ続ける主人公視点でしか描かれないため、 他の参加者が如何にして無念を遂げたかが分からず、いつの間にか勝手に死んでいるという。 しかも残虐シーンが皆無ならまだしも、 木の上に逃げた主人公を待ち伏せ→全員居眠りな時点で緊張感もありゃしない。 よって殺し合いゲームの理不尽さと残酷さが全く感じられなかった。 終いには火の玉出すわ、CGの獣を召喚させるわ、ルールを頻繁に変えるわでやりたい放題。 同じ地区の少年と都合良く助かるラストには怒りを通り越して呆れてしまった。 2時間強で描いた割には権力者の顛末や参加者とは別の幼馴染との関係が不明瞭のまま宙ぶらりんで終了。 と思ったら、実は三部作でしたということを鑑賞後知ってしまい更なる虚脱感。 続編も酷いようなので見ることはないだろう。 ジェニファー・ローレンスを初めとする実力派俳優の無駄使い。 [DVD(吹替)] 1点(2022-09-24 14:38:59)(良:1票) |
184. マスク(1994)
ジム・キャリーとキャメロン・ディアスが魅力的。 主演二人と作品の相性が抜群で、全盛期と言っても良いくらい全てをかっさらう。 ジム・キャリーの顔芸のお陰でCGショットを大幅に減らせたというエピソードがあるくらいで、 燃え尽きてしまう心配をするくらいハイテンションのままテンポ良く突き進む。 頭を空っぽにして楽しめるコメディの快作と言ったところ。 ハイレベルな演技をこなした犬のマイロに助演男優賞を。 [地上波(字幕)] 6点(2022-09-24 14:13:52) |
185. 竜とそばかすの姫
《ネタバレ》 メインの歌が素晴らしいが故に危うく誤魔化されるところだった。 『サマーウォーズ』が2000年代のネット社会を総括した作品なら、 本作は2010年代のネット社会を総括した作品だけど焼き直し感は否めず。 なぜリアルで歌が歌えないのか、"U"世界の竜に惹かれるのかが説明不足で、 リアル恋愛事情、ネット自警団、ドメスティックバイオレンスといろんな要素を詰め込みすぎて、 それぞれが上手く機能していない、場面重視の細田守ならではの悪癖が際立つ結果に。 "U"に登録してすぐに注目の歌姫なんて出来すぎで、ここでストーリーが破綻しているというか。 虐待受けているのに簡単にネット環境使えるとか、すず一人で東京に行かせるのもありえない。 力技で無理矢理世界観に引き込むので余計タチが悪い。 誰も脚本について異論を挟めない状態なのかな… 奥寺佐渡子カムバックとしか言いようがない。 前作の『未来のミライ』に比べれば、スタジオ地図は本作で何とか首の皮一枚でつながった状態だ。 次回作も地上波で待つ形になるでしょう。 [地上波(邦画)] 5点(2022-09-24 14:13:08) |
186. 息子のまなざし
《ネタバレ》 多くの親なら自分の子を殺した未成年が目の前にいたら迷わずに殺すだろう。 大抵のフィクションは復讐してはいけないと綺麗事を発してやめさせるが、 むしろ復讐に徹した方が観客に受けるし清々しい。 では、ダルテンヌ兄弟ならどうするか? 悪く言えば、言葉を濁してどちらかにジャッジを下すかはしない。 あまりにも居心地の悪い関係をじっくり映し出すことに専念する。 物語を映像で語り、少しずつ地図が出来上がっていく。 「あの少年はもしかしたら、俺の息子を殺したんじゃ…」 それを象徴するのがサッカーゲームであり、少年の独白である。 本当は殺すつもりはなかったとしても、彼を更生させて真っ当な家庭を築かせることが、 息子の人生を奪われた男にとって耐えられるだろうか。 結局復讐は未遂に終わるが、それでも少年が男についていくラストが胸を打つ。 たとえ無音の漆黒のエンドロールが流れ、想像の中で再び少年に手にかけるとしても。 [DVD(字幕)] 7点(2022-09-24 00:44:47) |
187. オクジャ/okja
《ネタバレ》 少女と巨大生物の絆を描いた『となりのトトロ』を彷彿とさせる大自然の日常が、 攫われたオクジャの奪還劇に活かされる面白さ。 偽善的な動物愛護団体と冷酷なグローバル企業の対立の中に、 善悪の二極化では割り切れない人間の複雑さ身勝手さ。 そして生物が精肉へと大量生産されていく死の簡便化・・・。 社会が豊かになっていく反面、そのツケは常に下位種に押し付けられている。 我々は上から押し付けられた価値観をさらに下になすりつけて生きているのだ。 "金の豚"で買われたオクジャと他の豚との違いは何なのか、 親から子豚を託された少女には重すぎる役割だろう。 「私たちを忘れないでほしい」と訴えているようだ。 「考えさせられる」という思考停止で済まされる今日にも腹は減り、かつて命だったものを喰らう。 本作鑑賞後の夕食が豚カツだった。 こうして誰かの犠牲によって上澄みを吸い、世界が廻っている。 誰もが分かっているのだろう、ポン・ジュノなりの"いのちの食べかた"を再確認する他、自分には出来ない。 [インターネット(字幕)] 8点(2022-09-16 22:51:59)(良:1票) |
188. ファニーゲーム
《ネタバレ》 「とにかく不快」と評判で、数軒のレンタル店を駆けずり回ってやっと見れた思い出。 ネタばれを見てしまったのでそこまで衝撃的ではないにしろ、 あの威圧感と不快感、双方とも「何かをしてくれるのでは?」の期待感の地点で、 ハネケの思う壺なのだろう。 昔、ディズニーの『101匹わんちゃん』を見てて、 クルエラと凸凹コンビがヘマせずに勝ったらどうなるかを妄想していただけに、 笑うに笑えない、観客の露悪を嫌でも晒け出してくれる。 極端な話、この映画の暴力とスーパーマンの暴力はベクトル的に違えど本質的にはほとんど同じだろう。 原題が英語なのも暴力という文化を量産し続けるアメリカへの皮肉だ。 しかし、アメリカではあまり話題にはならなかったように、 暴力の本質や「虚構は現実と同じくらい現実だ」と講釈を垂れたところで、 「だから何だ」と相手にされなければその映画の価値はゼロに等しい。 強盗に対して平和的な話し合いをしても無意味なように。 結局、ハネケを喜ばせるだけに過ぎないのだから、そういう意味では0点でもあるし10点満点でもある。 それでも、ある種の吸引力は相当なものでインパクトを残した点で7点献上。 [DVD(字幕)] 7点(2022-09-16 22:19:04) |
189. 座頭市(2003)
《ネタバレ》 北野武本人も勝新太郎の座頭市を超えられるとは思ってはないし、 だからと言って変に意識しなくても良くないしで、 積み木崩しのようなギリギリのバランスで作ったのがこれ。 金髪やらジーンズやらタップダンスやら時代考証はお構いなし、 彼にしては異色のマンガチックでシンプルな勧善懲悪娯楽活劇。 勝新の豪快さと差別化するようなスピーディーで洗練された殺陣。 これだけなら良作なのだが、 人間ドラマに比重を置いている割には薄いし中弛みを感じてしまう。 もう少しストイックにコンパクトに纏められなかったのか。 実は盲目ではなかったという設定を見るに、 名前で呼ばれているのは冒頭のみで、自ら本名を名乗るシーンがなかったことから 本物(勝新太郎)とは別人のもう一人の座頭市ではないかな。 [映画館(邦画)] 6点(2022-09-16 22:11:26) |
190. ピノキオ(1940)
かなり知られているのに意外とレビュー数が少なめ。 近年は原典に近いマッテオ・ガローネ版が世に出て、 これからディズニー実写版、ギレルモ・デル・トロ版とリリースされるらしく、 クリエイターの何がピノキオへと駆り立てるのか… ということで、小学校に上がる前に十数回見ていた記憶を手繰り寄せる。 シビアな描写もトラウマになる描写も鮮明に記憶に残っていて、 登場人物によっては救いのない顛末を迎えたりと82年後の今なら問題になる箇所も少なくない。 ただ、反面教師として見ると非常に教育的で、これでも原作に比べてかなりマイルドらしい。 ディズニー実写版のさらなる改変にむしろ不安を感じるくらいだ。 今のアニメーターなら真似できるのかと思うくらい、手描きでの表現力は最高峰。 思い出補正で甘めの点数になってしまいますね。 [ビデオ(吹替)] 7点(2022-09-11 10:07:08)(良:1票) |
191. ローラーガールズ・ダイアリー
《ネタバレ》 かつて人気子役としての絶頂からの転落、そして見事な復活劇を果たしたドリュー・バリモアにとって、 母親との確執という実体験を取り入れながらもエレン・ペイジ演じる主人公に投影していた部分は大きいだろう。 真に打ち込めるものとかけがえのない仲間を手に入れた少女の物語を元気いっぱいに描き出す。 ドリューにとって本当にやりたかった人生なのかもしれない。 確かに捻りもないくらいベタで欠点も少なくないけど、特筆すべきはエンディングで、 たとえ決勝で負けてもナンバー2と誇り高く自分たちを肯定するシーンは素晴らしかった。 演じている誰もが楽しそうで見ている側にも伝わってくるのが良い。 [DVD(字幕)] 6点(2022-09-11 00:57:14)(良:1票) |
192. ブラックブック
《ネタバレ》 バーホーヴェンの映画をあまり見てないので何とも言えないが、悪趣味度は控えめな印象。 ただ、この地味さが第二次世界大戦中の欧州と上手くマッチしていて、 レジスタンス=善、ナチス=悪、としてステレオタイプに描いていないのが良い。 回想形式のため、主人公が助かるのは最初から分かるが、 二転三転する脚本の妙で飽きなかった(チョコレートの使い方には唸る)。 ホロコーストを題材にしている割に意外と娯楽作であっさり。 ある種の気持ち悪さがないのはバーホーヴェンなりの誠実さからだろうか。 強かに生き抜いてきた彼女の苦難と戦いは映画が終わった後も続く。 ユダヤ人を被害者として終わらせず、かと言って主張しすぎない絶妙な切り上げ方だ。 [映画館(字幕)] 7点(2022-08-27 00:48:30) |
193. ブラインドネス
《ネタバレ》 原作既読。 地の文と会話文を区別しない、改行のない独特の文体が、 目の見えない混沌の世界を的確に表現するにはうってつけだろう。 名前のない登場人物がどんな姿形をしているのか、如何に凄惨な描写なのか、 文字だけの小説ではただ想像するしかない。 問題は目の見えない世界を如何に映像にするか。 ノーベル賞作家の偉大さを恐れたのか、メイレレス監督がドSなのかは知らないが、 万人向けに大幅に脚色できず、 かと言って原作を中途半端にトレースすることしかできなかったのがその答え。 例えば、唯一ヒロインだけが見えているのだから、 極限状態とはいえ屈服するくらいなら王を殺すべきだったし、 全員が(一時的に)失明したのが資本主義に驕った人類への天罰だったら何でもありになってしまう。 寓話と言えばそれまでだが、ディテールの甘い観念ドラマにただただフラストレーションが溜まるだけだろう。 R18指定になるにしてもやるなら徹底的にやれ。 カフカや村上春樹といった非現実な小説と同じで、 文字でしか表現できないものがあることを逆説的に知らされる形になった。 つまらなくはないが、陰惨すぎて二度と見る気がしない。 [映画館(字幕)] 5点(2022-08-27 00:46:41) |
194. 長ぐつをはいたネコ(2011)
シュレックシリーズからのスピンオフながら、 シュレックの名前も存在を匂わせる描写も一切なく、 プスの冒険と活躍に専念する。 ところが元ネタの童話とセルフパロディの数々が上手く嚙み合ってない。 当初あった毒も抜けて普通のファミリー映画に堕しちゃったあたり、 打倒ディズニーの野心はどこに行ったのかと。 それなら独立した作品としてもっと暴走しても良いのに、 まずシュレックを見ていないと楽しめない演出があり、物凄いジレンマを感じる。 [DVD(吹替)] 4点(2022-08-27 00:38:33) |
195. 鍵泥棒のメソッド
《ネタバレ》 監督の映画にハズレなし。 暗いトンネルを突破しようとする彼らの一世一代の賭けを 時間を掛けてオリジナル脚本で勝負する監督と重なる。 ヒト一人死なせない、低予算でありえないストーリーも 実力派俳優とセンスでカバーする姿勢が良い。 ただ、入れ替わりの展開はもう少し引き延ばしても良かった。 以降の展開が普通の出し抜きものになってしまう気がして、 もっと観客を翻弄させてほしかったと。 それでも全体としては綺麗にまとまったコメディ作品。 10年も新作が出ない辺り、アイデアも製作費も捻出できずに引退してしまったのか… 支援してこなかった邦画界の大きな損失だ。 [地上波(邦画)] 7点(2022-08-27 00:13:22) |
196. アフタースクール
前作の『運命じゃない人』が良かったので、リアルタイムで映画館に足を運んだ次第。 確かに面白いけど、思い込みを利用したどんでん返しが巧いだけで物語性は弱いかな。 期待値が高かったかもしれない。 一度っきりの鑑賞なので、二度目を見る機会があれば、違う感想が出てくるかと。 [映画館(邦画)] 7点(2022-08-23 21:13:51) |
197. アンブレイカブル
『シックス・センス』を見た後に本作を見ると、"衝撃のラスト"が途端に陳腐に見える。 話の切り口は面白そうなのに最後でぶち壊しになるのがシャマランの特徴である。 単品のみしか見てないので、後の2作品を見たら印象が変わるだろうか? [ビデオ(吹替)] 2点(2022-08-13 22:46:09) |
198. インビジブル(2000)
一言でいえば「サイテー」。 VFXで透明化していく過程も、透明人間になったあとの目的も、 流石バーホーベン監督らしい悪趣味さ。 ただ、本人がスタジオに不満を持ち、ハリウッドから去ったように、 本当はもっと突き抜けたことをしたかったのかなと。 どこか消化不良感が強く、予想を裏切る展開が欲しかった。 中途半端な「サイテー」映画だ。 [ビデオ(字幕)] 4点(2022-08-13 22:33:31) |
199. ベルファスト
《ネタバレ》 『ROMA/ローマ』に影響を受けているのか、モノクロで監督の半自伝であることも共通している。 ただ、『ROMA/ローマ』のような灰汁の強さはなく、事情をよく知らない少年の目線で描かれているので、 複雑な社会情勢を調べなければならないという敷居の高さもない。 むしろサッカーに興じ、少女との淡い初恋、万引きを唆されたりと、 緊急事態が日常になっている中で懸命に生きる少年とその家族を活写しているところに重点を置いている。 ただ、劇中劇だけパートカラーで、劇伴もここぞと効果的に挿入される、その演出にあざとさを感じてしまう。 わざわざモノクロで描かないといけない理由が全く感じられなかった。 芸術性の高い作りが少年の溌溂とした物語とチクハグで合ってない。 これが作品の没入感を割いているように感じた。 短い出演時間ながらも最後をかっさらうジュディ・デンチは流石と言ったところ。 [インターネット(字幕)] 5点(2022-08-13 22:22:22) |
200. E.T.
スピルバーグの代表作に挙げられるのに平均点が低め。 王道のジュブナイルものに相応しいジョン・ウィリアムズのスコアが名作たらしめているのが大きく、 ストーリーに説明不足と御都合主義が目立つ。 その欠点をスピルバーグの演出で破綻せずに済んでいるのだろう。 当時勢いに乗った30代半ばというのも大きいが、 その年のアカデミー賞で作品賞・監督賞がお預けなのは納得な気がする。 [地上波(字幕)] 7点(2022-08-06 15:37:02) |