181. ドント・ブリーズ
スクリームクイーンという表現がありますがそれを逆手にとって叫ぶことを禁じられた設定にしたわけですね、そこは面白いです。空撮や長回しを入れたり結構贅沢な撮影です。ストーリーのベースは時計じかけのオレンジあたりでしょうか。設定を掘り下げれば社会派スリラーにもなりそうです。ゲット・アウトのような作品が生まれる下地は既に整っていたということですね。ただ良くも悪くもそっち方向には進まずただのホラー映画に仕上がってます。スティーヴン・ラングが出てきてからの方がドラマ性が希薄になりつまらなくすらあります。座頭市の国の人間としては盲人で銃使いというのも変な感じです。暗闇ですのでマズルフラッシュを演出に使いたかっただけなんでしょうけど銃はいわば視覚で殺す武器ですし、銃がないと普通に女性に打ちのめされるのもがっかり感があります。 [インターネット(字幕)] 5点(2023-05-09 22:45:41) |
182. ある男
撮影・演出・演技は素晴らしいです。ある程度緊迫感を保ちながらどこかユーモラスで親しみやすく見やすい作品です、小籔千豊がいい味出してますね。登場人物はみな現代の日本にはこういう人いるよね、と思わせるリアリティがあります。ただ柄本明はちょっと漫画っぽいかなあとは思いました、レクター博士っぽいとも言えます。音響はいいのに音楽がいまいちなんですよね。ほのぼのしたシーンではほのぼのした音楽、緊迫したシーンには緊迫した音楽、しんみりするシーンにはしんみりした音楽と極めて単純です。音響へのこだわりに比べると随分無頓着だなと思いました。社会問題もあくまで触れるだけで出たきりのまま放置されています。最終的に個人のアイデンティティーの問題に帰着するのは日本文化の良いところとも悪いところとも言えますが、今は欠点とみなした方がいいでしょう。全体として誰が主人公かわかりにくくかといって群像劇とも言いがたい構成ですが、今の社会で生きづらさを抱えた人たちみなが主人公だと理解するのが正しいのかもしれませんね。 [インターネット(邦画)] 7点(2023-05-08 23:42:44) |
183. ドラゴンクエスト ユア・ストーリー
ドラゴンクエストに関しては無知な人間ですので、失礼ながら一本のアニメーション映画として評価します。物語に起伏もありラストの妙にひねった展開がなければ普通に冒険ファンタジー映画として評価される出来だと思います。CGも動きの硬さは感じますがよくできてると思います。特に顔の生傷には相当こだわっていますね。2Dアニメは基本的に単色で塗られたのっぺりした肌しか表現できませんので、これは3Dアニメであることの強みを生かしていると思います。それで例のラストなんですが、まあ失敗ですし悪評も仕方ないです。でも一部に支持派がいるのは納得できます、というか支持します。やるならもっと序盤からわかりやすく示唆すべきというのも尤もな批判ではあります。でもラストのメッセージ的にもここまでは全てが本物であるかのように語られる必要性はあったと思います。我々はなぜフィクションに対して本物以上に思い入れを抱くことができるのか。それは単にフィクションが傷つくことのない別の世界へ逃れることを可能とする現実逃避の対象だからでしょうか?いやむしろ現実では傷つくことから本能的に逃げようとしてしまうからこそ、それに真剣に向き合う場としてのフィクションが必要なのだと思います。そしてそこで前述の生傷へのこだわりが生きてくると思います。この映画の裏メッセージは傷つくことこそが生きていると感じられる本物の証であるということだと思います。 [DVD(邦画)] 7点(2023-05-07 23:24:28) |
184. スーパーマリオ/魔界帝国の女神
にわかに再評価が進みつつある(別にそんなこともない?)本作品ですが、まあやっぱりちゃんと見たところでつまらない作品ですね。マリオとして見なければ面白い、と言いたいところですがマリオの映画化という前提で見なければ普通に意味不明の内容です。恐竜帝国と戦うってむしろゲッターロボかよって感じですね(笑)。へーリアリティを突き詰めるとヨッシーがただの恐竜になるんだーとか、その効果音ここで使うんだーとか、確かに楽しめなくもないのですが、それってせいぜい30秒程度のCM向きのネタでしかないです。無駄にキャストが豪華だったりするのもCMっぽいです。最近でいうならテレビで見る桃太郎のCMみたいなもんです、短い時間なら楽しめますがわざわざ長編映画で見たい内容じゃありません。しかしこの映画もまたジュラシック・パークと同じ年に公開されたことを考えると、本邦のREX恐竜物語は結構いい線行ってたんじゃないかと思ったりはしますね(笑)。 [DVD(字幕)] 2点(2023-05-06 23:14:19) |
185. 点と線
原作小説の映画化としてはとても丁寧に作られていると思います。原作と比べると福岡の人間が博多弁で喋ることを強調しているのは良い脚色です。85分という短尺の中で必要のないエピソードは省き、原作では手紙でのみ語られるエピソードを具体的に描写しクライマックスに持ってくる構成は正しい判断です。しかしやはり根本的にミステリーというジャンルと映画の相性の悪さを感じざるを得ません。ストーリーの基本として、主人公が物語が展開する中で変化・成長していくという面白さがあります。しかしこの映画では主人公にあたる刑事・三原(南廣)は序盤で安田辰郎(山形勲)を悪人とみなし犯人として疑ったまま最後までその認識が変化することがありません。もちろん、この映画内ではその認識自体に誤りがあるわけではありません。しかし同じ松本清張作品の映画化でも野村芳太郎監督の作品に比べるとこの映画がマイナー止まりなのは作品の古さも一因でしょうが、探偵役である主人公が犯人の人物像を突き詰める中でその心情が変化していくドラマ性に欠けているからだと思います。ドラマチックな展開にするにはもう少し安田亮子(高峰三枝子)を主人公側と関係を持たせる必要がありました。映画というのは基本的には探偵よりも犯罪者を主役とした方が面白くなる媒体なのです。 [インターネット(邦画)] 5点(2023-05-05 22:34:00)(良:1票) |
186. パール・ハーバー
この映画は言われてるほど悪い映画だとは思いません、前半は魅力的な場面がたくさんあります。冒頭の父親がドイツ軍と侮辱され傷つき、それに子供がそれに寄り添う場面は複雑な心理を描いており印象的です。黒人の水兵がボクシングで勝利し"respect"を得た、一度も銃を撃ったことがない、その方がいいと語られるエピソードも心を揺さぶるものです。夕日の真珠湾をこっそり軍に隠れて飛行するのも抒情性溢れる良いロマンスシーンです。嘲笑の的となる日本軍の屋外での会議シーンですが、確かに考証的にはメチャクチャなのでしょうが軍人の苦悩の表情と子供たちが遊んでいる姿を交互に見せる編集は日本側にも守るべきものがあることを示してはいないでしょうか。ハワイの日系人の歯医者もあくまで状況を理解しないまま利用されただけという描き方であり、日系人はスパイであるという偏見を助長しないよう注意を払っています。真珠湾攻撃のシーンでは日本軍の飛行機のコクピット内に家族の写真が貼られていたり、野球をしているアメリカの少年に日本兵が逃げろと呼びかける場面を入れたのも日本側を単純に悪魔化しない配慮だと思います。ただしドーリットル空襲のくだりは明らかに蛇足です。米国側が攻撃を受けるシーンでは日本側を描写する余裕があるのですが、いざ米国が攻撃側に回るとほとんど敵を描写しなくなるのも公平性を欠いています。三角関係も一方の死で有耶無耶にされちゃいます。この程度の展開しかできないなら真珠湾攻撃で物語を終わらせるべきでした。ドーリットル空襲以降は反撃シーンを入れなければ米国の観客は満足しないだろうと無理やり付け加えられたとしか思えず、そこは非難されても仕方ないです。まあ何よりこの映画の評価にとって最悪だったのは直後にアメリカ同時多発テロが起きてしまったことなのでしょう。 [DVD(字幕)] 5点(2023-05-04 23:40:38) |
187. モリコーネ 映画が恋した音楽家
ジョン・ケージなんて正直何の価値があるのかいまいちわからなかったのですが、我々大衆に理解できなくともプロの世界には多大な影響を与えていたことがよくわかります。この映画で再発見したのはエンニオ・モリコーネは音楽家である以上に最高の映画演出家であったということですね。ウエスタンの冒頭シーンは音楽に頼らないセルジオ・レオーネの純粋な演出の力で見せているシーンだと思い込んでいたのですが、あれこそまさに現代音楽の発想を活かした演出だったのだと気付かされました。おそらく後世においては音楽を担当した作品のどの監督よりもエンニオ・モリコーネこそが重要な人物として名前を残すことになるのではないでしょうか(それと同じことがこの作品にも出演しているジョン・ウィリアムズにも言えるかもしれませんね)。そういう意味ではスタンリー・キューブリックは音楽を依頼するチャンスを逃してむしろ運が良かったのかもしれません(笑)。ジュゼッペ・トルナトーレ監督の作品は感傷的で大袈裟なメロドラマというイメージであまり好きではないのですが、この映画では観客へのサービスを意図した名曲集のような構成ではなくエンニオ・モリコーネのキャリアと思想を語るのに必要な映像と音楽を優先する姿勢で好印象です。ドキュメンタリーとしては基本的にインタビューと過去の映像を編集しただけの何の変哲もない作りではあるのですが、久々にこの映画が終わってほしくないという気持ちにさせてくれました。 [映画館(字幕)] 8点(2023-05-03 21:47:39)(良:1票) |
188. アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル
事件についてはほとんど知識がなかったので純粋に一本の映画として見ましたがそれでも面白いですね。対テロ作戦の専門家とうそぶく太ったボディガードなんてさすがに本当はこんな感じじゃないんだろうと思ってたらそのまんまの人物がエンドロールに出てきたのには笑っちゃいました。マーゴット・ロビーは23歳以下の役を26歳で演じていてけっこう違和感があります、母親にその髪型だと若く見えるなんてことを言われたのもメタな皮肉としか思えませんでした(笑)。でもコメディ調の作りなのでこれもアリです、むしろ下手に真実性なんて重要視してないところが好印象です。真実性を追及していないとは言っても、スケートのシーンはおそらくCGを交えながらも違和感のない描写で技術レベルの高さもうかがえます。タバコの火を靴で踏み消すなんてありがちなシーンですがそれをスケート靴のブレードでやると印象に残るシーンになるんですね。トーニャがFBIの取り調べを受ける場面でテディベアを抱えているところも印象に残りました。とにかく人間関係にしろ置かれた地位にしろ不釣り合いであったことで起きた悲劇という感じなんですよね。バカとクズしか出てきませんがそんなバカとクズたちを決して嫌いにはなれない、深刻でありながらも最後には爽快感すら感じられる良質な人間ドラマであります。 [インターネット(字幕)] 7点(2023-05-02 23:56:11) |
189. 活きる
撮影や美術はもちろん段違いなんですが、内容は正直日本の朝ドラあたりとあんまり変わらないと思えてしまいました。激動の時代、いろいろ大変だったけれど最後は孫も生まれて良かったねという感じで終わります。社会がどうであろうと庶民はそれぞれの人生を生きてゆく、そういう物語の姿勢はこの映画の美点ではあります。しかし社会や歴史に対する深い洞察や批判というよりは過去を懐かしむムードが強いです。まあ私が日本人だからなおさらそう感じてしまうのかもしれません。いかにも伝統的な中国文化の美を強調しているセルフオリエンタリズムな感じも好きではないです。 [インターネット(字幕)] 5点(2023-05-01 23:44:21) |
190. 竜とそばかすの姫
高知だから鰹のタタキってすごく安直じゃないですか?この映画のコンセプトはインターネットの世界で美女と野獣をやることらしいのですが、そもそも何のためにこのコンセプトを採用したのかが意味不明です。身も蓋もないことを言えば売れるためなんでしょうけど。細田守監督って実は昔インターネットを好きだった思い出に執着しているだけで今のインターネットのことは嫌いなんじゃないでしょうか?この作品を見ていてもインターネットの悪さばかり伝わってきます。新海誠監督の方がインターネットの良さを自身の作家のテーマとしても的確に表現できています、遠く離れた誰かとも繋がれることだと。自分は世界で唯一インターネットを肯定してきた作家であると自負しているようですがそれすらも怪しいです。文句ばかり出てくる映画ですが、細田守監督の作品では最も深刻で真剣な物語になっているのはいいと思いますね。あともう一歩踏み込んだテーマを扱えれば本当の傑作をものにできるかもしれません、逆に底が割れる可能性もありますが。美術やキャラクターデザインが日本アニメの枠を超えたものを志向しているのも好印象です、まあパクリと言えなくもないですけど(笑)。 [DVD(邦画)] 6点(2023-04-30 21:49:38) |
191. 世界の終わりから
紀里谷和明監督は真面目に現代社会に向き合おうとしていると思います。しかしその割りに内容は薄く感じてしまいます。主観的で情緒的すぎて客観的な構成力が欠けているのがきついです。若者向けに作ったのだとしても、もう少し知性に訴えかける部分が欲しいです。ラスト・ナイツ以降CGゴテゴテ画面を捨ててしまったのはまともに評価されたいからなんでしょうけど、CASSHERNやGOEMONにはあった派手なアクションシーンのような娯楽要素が減ってしまいひたすら画面が地味です。その上で純粋な演出と脚本のドラマで勝負できるほどの実力はこの監督にはないと思います。まあそれでも日本国外でも構いませんので腐らず映画を撮り続けてほしいと思います、社会に対して何か言いたいことがあるのは作家にとって最も重要な素質ですから。伊東蒼はハマり役です、いかにも幸が薄そうな顔が最大限に生きています。映画の出来がもうちょっとまともなら彼女の代表作にもなったと思います。 [映画館(邦画)] 4点(2023-04-29 22:26:11) |
192. ベイビーわるきゅーれ
うーん台詞が聞き取りにくいのがちょっとなあ、実は黒澤明オマージュだったり?まあ全然関係ないんでしょうけど(笑)。ゆるい雰囲気のダラダラ展開するあるあるネタコメディ、一本の芯が通ってなくて散漫な感じです。社会風刺喜劇ぐらいにまで煮詰めることができていればもうちょっと広く評価されたかもしれません。税金やら嫌な上司や客のような社会の世知辛さは現時点でも描けてますしね。今は第二の北村龍平程度で終わらないことを祈るまでです。 [インターネット(邦画)] 5点(2023-04-28 23:12:29) |
193. GOEMON
これはまともな映画だと思います。リーマンショックの次の年にこの映画を公開できた紀里谷和明は悪くない勘の持ち主です、CASSHERNもイラク戦争開戦の次の年ですからね。CGを使った派手なアクションシーンばかり注目されますが、蛍が飛び交う水場、年少時代の五右衛門と茶々の寝室でのシーン、オルゴールの音が流れる五右衛門と秀吉の最期の会話シーン、こうした静のシーンもちゃんと作られていて静と動のリズム感があります。映画は蛍の光に始まり、中盤で蛍の水場での茶々との再会のシーンが挿入され、最後は空の蛍の光で終わる。物語の時間軸としては信長の兜を五右衛門が投げ渡されることで始まり、最後には信長の鎧兜を身に付けて終わる。反復構造による演出も考えられています。単にCGを多用するからダメだとは思いません、我々はCGアニメで描かれる物語にもリアリティを感じることができます。CGによってリアリティが損なわれるのは映像に統一感がなくなることが一番の原因です。この映画の映像には統一性があります、まあ確かにアクションシーンはやりすぎなんですが。惜しむらくは叩かれすぎたのか後の作品ではCGを多用した映像美を捨ててしまったことです。上手く手綱を握れる人間さえいれば実写映画で新海誠と庵野秀明を足して割らないような監督になっていた可能性すらあると思います。結局宇多田ヒカルと別れちゃったのが一番の失敗だったのかもしれません。 [インターネット(邦画)] 7点(2023-04-27 23:50:18) |
194. ザ・ホエール
なんか最近のアメリカ映画ではゲロを吐かせるのが流行ってるんでしょうか?ダーレン・アロノフスキーってシンプルに演出がイマイチなんですよね。冒頭主人公がゲイであることを示すためにゲイビデオを見ているところから始まります。娘はいかにも今時の若者、大麻にスマホにSNS。なんだか当事者以外が頭の中だけで考えて作った人物って感じで現実の人間はもうちょっと複雑でしょと思ってしまいます。レスラーに続きまたかよとしか思えない父と娘の再会と死別の物語、今回は主人公が動けないので娘がわざわざ父親に会いに来る動機が必要なのですが説得力がある心理演出ができているとも思えません。娘はレズビアンであることが示唆されていますが、これが性的マイノリティ同士なら共鳴するものがあるという意図なら安直すぎです。ノアやらマザー!やらガチガチのキリスト教映画作っておいて今更の宗教批判もなんだかなあという感じです。全体的にマザー!がボロクソに叩かれた反動で日和ったかのようにウケる要素を詰め込んできた、細田守監督の竜とそばかすの姫みたいな作品です。あっそういえばゲロも被ってますね(笑)。 [映画館(字幕)] 4点(2023-04-26 23:12:20) |
195. 疑惑(1982)
コメディでもないのにめっちゃ笑えます。桃井かおりはここまで来ると憎たらしいを超えて痛快で気持ちいいんですよね。マスコミも司法も道徳もバカバカしいと笑い飛ばす、もはや存在自体がアンチミステリーですらあります。この映画のメッセージは無理して他人の目を気にして生きる必要なんてないってことだと思います、そう見れば最高のハッピーエンドです。この映画で野村芳太郎はビリー・ワイルダーを超えたと言っても過言ではありませんね。ただ映像的にはテレビドラマレベルと揶揄されても仕方ない感はあるのでそこはちょっと減点です。 [インターネット(邦画)] 7点(2023-04-25 23:55:41) |
196. 東京物語
家族なんて幻想、というよりは家族なんてこんなものでしょ?というお話です。意外と原節子の出番は少ないなあという印象を受けます。それよりほとんど杉村春子の映画かもしれませんね。終始親に対して毒づいているんですが親の死を目の前に突然泣き崩れるシーン、あれはすごい演出だと思います。個人的には原節子と杉村春子の役は逆にした方が面白いと思います、今のままですといかにもな美人の聖女と憎まれ役のように受け取られてしまいますから。孝行したい時分に親はなしなんて映画を見ていれば普通にわかるものを台詞で言っちゃうのもなんだかなあという感じです。間違いなくいい映画ですけどもうちょっとつまんないと文句を言う人間が多いぐらいでバランスが取れるんじゃないかと思いますね。小津安二郎の真似なんて誰もできないのにこれが神格化されたせいで日本映画がつまんなくなった部分もあるんじゃないでしょうか。まあそれでも大多数から支持を受けているのはきっと似たような経験をした家族が日本にはたくさんいるからなんでしょうね。世界にも似たような人たちがたくさんいるんだったらいいのですが、批評家や作家しか見てない上にオリエンタリズムでも評価されてそうなのが嫌な感じではあります、ってこれは当の日本人にも言えるんでしょうけどね。 [インターネット(邦画)] 8点(2023-04-24 23:06:38)(良:2票) |
197. 銀河
浮浪者のような二人の巡礼者はゴドーを待ちながらっぽいです。この映画もある意味どこにもたどり着けない空虚な徒労の旅のお話です。現代において宗教なんてものはパロディの対象でしかない、真剣に描けば描くほどバカバカしくなってきます。しかしこの映画はキリスト教を滑稽なものとして描きながらも神学的に間違った描写もなされていないのです。古代・中世・現代の世界と人物がシームレスに溶け合いながらもこの映画は不思議とそれらに平等にリアリティを感じられます。別の見方をすれば親しみやすい娯楽性を加えた真面目なキリスト教映画でもあります。これを受け入れてしまう懐の深さこそがキリスト教の強さとも言えます。 [インターネット(字幕)] 7点(2023-04-23 23:42:38) |
198. バトル・ロワイアル
この映画の面白さは異常事態に陥っても人間は日常と同じように振る舞ってしまう姿が描かれているところではないでしょうか。殺し合いの中でもつい能天気だったり相手を気遣うような言葉を口走ってしまう。いざこざの原因もふだんの人間関係の延長線上にあります。さすがにBR法のようなものが現実に制定されることはないでしょう。しかしその冗談みたいな事業がまるで学校の行事のように執り行われています。面白おかしく報道するマスコミ、生徒に話しかける教師の口調、設定こそ異常ですが細部の描写は私たちの生活の中で既視感のあるものです。大人たちは確かに悪役であり文字通り反面教師ではありますが、その心の弱さに共感できる描き方であり若者だけの群像劇にしてはいません。集合写真で始まり集合写真で終わる、冒頭と違いエンドクレジットのそれは明らかに遺影です。どこか寂寞とした感情を抱かせます。ちょうどこの映画は深作欣二監督の遺作になりました。 [インターネット(邦画)] 7点(2023-04-22 23:07:17) |
199. 寄生獣
約10年前に劇場で見て以来久しぶりに見返したんですが、前に見た時とほとんど評価が変わらなくてちょっとびっくり。まあ10年前の自分でも容易に理解できる程度の内容で、良いところもダメなところもある映画という感じです。一番ダメなのは佐藤直紀の音楽ですね。別にスケールが大きな話というわけでもないのに仰々しく却って安っぽく見えてしまいます。この映画にはオーケストラより無機質な電子音楽のようなジャンルが合っていると思います。撮影監督がいつも山崎貴監督と組んでいる柴崎幸三から阿藤正一に変わっているのはいいですね。中島哲也監督と組んでいることが多かったこの撮影監督の方がどこか冷たくスタイリッシュな世界観にマッチしています。一番感心したのはグロテスクな描写のバランスがいいところです。寄生獣の元ネタの遊星からの物体Xなんかを見ていても、あからさまに不快感を感じさせるために汚らしく内臓や血を飛び散らせる感じが好きではないのですが、この映画では人体の切断面は臓器と骨の層構造を美しく見せるアプローチが取られています。レイティングの問題もあるんでしょうがグロテスクでありながらもどこか美しさも感じられる、それはいわば生物の営みそのものでありこの作品のテーマを表現する視覚イメージとして適切だと思います。冒頭のニュースからIAEAに触れたり、さりげなく原発事故のイメージを挿入していますがそちらはあくまで触れているだけで作品全体のテーマにまで昇華できていると思いませんのでせいぜい努力賞と言ったところでしょうか。 [インターネット(字幕)] 6点(2023-04-21 23:12:29)(良:1票) |
200. レクイエム・フォー・ドリーム
個人的には何が評価されてるのか全くわからない映画ナンバーワンです。えっ?内容これだけ?テレビの再現ドラマレベルじゃないですか?過食や薬物はいけません、人生を破滅させますとか学校の道徳の授業かよと。技法にこだわっている割に心理描写は全部台詞で説明しちゃいますし。その技法も時計じかけのオレンジやらブライアン・デ・パルマとか既視感ばかりで目新しさもありません。有名な音楽も感情的で大袈裟で作品から浮いてます。図式的な人物像にリアリティを感じないので全く暗い気持ちにすらなれません。社会の逸脱者を見世物にしているだけですよこんなの。ああでもかわいそうなおばあちゃんにはちょっと弱いかもしれない…。まあ日本は欧米に比べると薬物が社会問題としてほとんど目立たない国らしいので、それもこの映画に深刻さを感じられない一因かもしれません。 [インターネット(字幕)] 0点(2023-04-20 23:43:43) |