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2301.  the EYE 【アイ】 《ネタバレ》 
ただ不鮮明な映像という手だけでも、角膜手術後の視界という設定を重ねれば、ある程度不気味がらせることはできる。ぼんやり見えているものが、本当に向こうにあるものなのか、そうでない別のものなのか。また、この主人公が視力を失ったのは二歳の時で、手術後も視覚で認識するということになじめず、つい触覚に頼ろうとその不鮮明なものに手を伸ばしてしまう、という設定。鏡像は手で確認できないということでその設定はイキたが、怖がらせるのにもっと使い道があったような気もする。一番怖かったのは、エレベーターにいた背中向けてるじいさんだ。西洋のホラーでは力強いものが身をそらし爪を立てて襲ってくるが、こちら東洋では非力そうなじいさんがうつむいて怖がらせるのだ。
[DVD(字幕)] 7点(2007-10-27 12:16:12)(良:1票)
2302.  長い散歩
あまり楽しめなかったのだが、その理由が難しい。話の線が単調だけど、どちらかというと映画ってあんまり複雑な筋より単純なほうが面白くなるのだから理由にならない。人物の造形にしても同じ。ただなぜか無人の風景のカットになるとホッとした。コンビナートの遠景、ローカル線の駅、廃校…、なのにそこに役を持った人物が入ってくると、とたんに画面がしぼんでしまう。なぜなんだろう。設定された役柄自体がそれだけでもう表現の代理になってしまい、かえって役者自身の表現を封じてしまった、とか…。
[DVD(邦画)] 5点(2007-10-23 12:09:19)
2303.  ドリームガールズ(2006) 《ネタバレ》 
ミュージカルを期待していたので、かなりがっかりした。ミュージカルとは「さっきまで普通にしてた人が突然歌ったり踊ったりするもの」と自分なりに定義しているので、ほとんどショーの場面で進行する本作は、部分的ミュージカル付き音楽ドラマということになる。ダンスが、手をヒラヒラする程度のステージ上の振り付けのみなのも寂しい。ミュージカル味が一番出ていたのは、エフィーがメンバーといさかいになるあたりで、その後の、誰もいない客席に向かい、初めてスターのようにステージの中央に一人立って切々と愛を歌うところで感動はしたが、それもほとんど彼女の歌唱力に負っている。
[DVD(字幕)] 5点(2007-10-21 11:26:01)
2304.  明日へのチケット 《ネタバレ》 
キアロスタミ篇が好き。ずうずうしいおばさんとひたすら服従している若者の謎のカップルが乗車してくる。このずうずうしさぶりがやたらリアルで、こういう人、世界中の至るところにいるんだなあ、と思わせる。ここに若者の同郷の少女が絡んでくる。これがちょっとミステリアスな表情するかわいい子で、おばさんと彼女と、これでも同じ女性という種属なのか、と驚かされるほどの鮮やかな対比。後段でついに堪忍袋の緒を切って逃げた若者を追い、列車の中を探し回るおばさんの表情に少女のような不安が浮かんでくる。しょんぼり一人で下車したおばさんを見つめる少女の表情に、おばさんのような冷たさが浮かんでくる。本当はたぶんそういうテーマではないのだろうが、これ、女は不気味かつ不思議という話と私は見た。
[DVD(字幕)] 7点(2007-10-19 12:17:03)(良:1票)
2305.  ウォレスとグルミット/野菜畑で大ピンチ!
グルミットの表情が不思議だ。もっぱら動くのは単純きわまりない白丸に黒丸の目だけなのに、主人に対する心配や、ヤレヤレ感、一途さ、などかなり微細な心理を無言で表現し分けている。大河ドラマの侍が顔中の表情筋を総動員して単純な怒りしか表現できないのと大きな違いだ。よく「あの役者は目の演技がいい」などと言うのを聞いて、ただの眼球に演技が出来るわけはなく、まぶたの開閉の技術だろう、と思っていたのだが、このグルミットの名演を見ると怪しくなってきた。それにこのアニメ、人間はやたら歯が強調されているのに、歯が特徴の犬の方には口がない。まったく表情ってやつはどこで生まれてくるのか。
[DVD(吹替)] 7点(2007-10-17 12:14:48)
2306.  武士の一分 《ネタバレ》 
木村拓哉の、良く言えば反逆児的・悪く言えばふてくされ的キャラクターに合わせたのか、主人公は毒見役の仕事に我慢が出来ず、やめて道場をやりたがってる設定にしてある。虫に刺されながらお上の一言を待つ場でも、立場の馬鹿馬鹿しさに対する主人公の不快が強調された。でもこの馬鹿馬鹿しさに耐え諦めることが、この時代の武士の本来の姿だっただろう。扶持で生活する立場の不安定さが、加世の決断の重要な要素にもなっていたはずだ。その不安定さが前提にあって、親族の圧力や仇役の卑劣が際立つ。武士生活を軽蔑するキムタクが表面的にかっこいいぶん、話の厚みはやや減ってしまったような。
[DVD(邦画)] 7点(2007-10-15 12:17:07)
2307.  孔雀 我が家の風景 《ネタバレ》 
こういうすばらしい映画を見ると、あれはどういう意味だろう、と考えるより、ただただシーンを思い返していたくなる。日常にうんざりしている娘が屋上で寝転がっている目に飛び込んでくる、落下傘部隊の優雅な降下訓練。アコーディオンに合わせて朝鮮の踊りを鏡の前で踊る、どうも家庭的に不幸らしいおじさん。知的障害がある息子が見初めた娘がどれか知ろうと、道で一人一人この娘? この娘? と指さして確認する母…、ととめどがない。ばらばらに散り、また一緒になる兄妹たち、そこには再会の喜びはなく、過ぎ去ってしまった時間の取り返しようのなさを悔やむ娘の涙だけがある。だけど、その過ぎ去った時間はこんなにも豊かだった、と映画を見た者なら分かっている。孔雀は誰も見ていないところで羽根を広げていたのだ。
[DVD(字幕)] 8点(2007-10-09 12:16:17)(良:1票)
2308.  太陽(2005)
イッセー尾形って、特定の人物の物まねをやるのではなく、あるタイプについて人々が抱いている典型を、ひたすら外面の模倣だけで内面をも感じさせるまでに持っていく人。今回はヒロヒトという特定の人物が課題、外面の模倣はさすがだが、はてそれで内面はどうなったか。興味深かったのはそのヒロヒト自身が、映画の中でチャーリー・チャップリンに似てると言われたことだ。マッカーサーの部屋で一人きりになると、チャーリーのようにふらふらと室内を踊りだしてしまう。人と対面することが仕事の天皇がふと誰の視線もない場所に立った時、似ていると言われた他人を模倣することで内面を埋めようとしているような、そうすることで映画の中のヒロヒトがイッセー尾形を模倣し、内面の空虚をお互いに埋めあっているような、奇妙な倒錯が一瞬感じられた。
[DVD(字幕)] 6点(2007-10-07 10:37:51)
2309.  あるいは裏切りという名の犬
ミレーヌ・ドモンジョが、人生の辛酸なめ尽くした老娼婦役で出てきたのには驚いた。あの国の女優さんはシモーヌ・シニョレやジャンヌ・モローのように、おばさんになってもう一度貫禄で勝負できるのがいい。もっともシモーヌやジャンヌは、若いころからタダモンではないという気配が漂っていたが、この人はかわいいだけのタダモンだった人でしょ。人生の年輪は馬鹿にできぬ。で男の方の友情と裏切りの話はというと、ラストの仕掛けがしゃれてるくらいで可もなく不可もなくといったところ。鳴りっぱなしの音楽には閉口した。
[DVD(字幕)] 6点(2007-10-05 12:16:37)
2310.  美しい夏キリシマ
死に遅れた少年の目にうつる幻想の二週間。この監督、戦時下の日常にこだわってきた人だけど、リアリズムのようでいて、そこからちょっとはみ出すところがいい。ジャングルの湿気た雨の世界から生還してきた傷病兵が、こっちはずっと雨降っちょらんですねえ、とつぶやく。単に事実を述べただけなのだろうが、それだけで広がる青空がなにやら魔法にかかったもののように見えてくる。ラストの竹林の雷雨とそこにかかる虹が、単に虹としての美しさ以上のものに見えてくるのは、その魔法の効果だろう。
[DVD(邦画)] 6点(2007-10-03 12:22:25)(良:1票)
2311.  グアンタナモ、僕達が見た真実 《ネタバレ》 
前半はロードムービーのひたすら移動する映画。母国に戻ると下痢をしてしまうぐらいヨーロッパになじんでいたパキスタン系イギリス人の若者たちが、異国見物のようにめぐる祖国と隣国アフガンの光景。外からの客の視線で見ていたはずの戦争なのに、いつのまにかタリバンにリクルートされ、北部同盟に捕われ、アメリカに当事者アルカイダとして引き渡されていく展開の臨場感がすごい。で後半は捕虜としてひたすら運動を禁じられる世界。金網の監獄なので外からは常時見つめられるが、こちらが米兵を見ることは厳しく禁じられる。だからラスト釈放されたときに、移動するバスの窓からグアンタナモの街を、米兵の禁止を断固拒否して「異国見物」する主人公の姿が感動的だ。
[DVD(字幕)] 6点(2007-10-01 12:27:33)
2312.  クレージー大作戦 《ネタバレ》 
ハナ肇は植木等や谷啓に比べ、コメディセンスではやや劣るところがあるのだが、本作ではけっこうおかしかった。実直に勤めてきた刑務所所員で、もうすぐ表彰されるというときにクレージーの他のメンバー演じる囚人たちに脱獄されてしまう。経歴に傷がつかないよう、脱走した面々を穏やかに連れ戻そうと説得しているうちにずるずる深入りして、強奪計画に加担してしまうという役割り。その愚直さがハナのキャラクターに合って、このずるずる感がなかなかおかしい。もっとも金庫破りするときの谷啓の手つきや首の曲げ具合などのほうが、よりストレートに笑わされたけど。
[映画館(邦画)] 5点(2007-09-29 12:22:47)
2313.  名犬ラッシー(2005) 《ネタバレ》 
最初は字幕で見てたんだけど、あ、これは吹き替えのほうが味わいでるぞ、と途中で切り替えた。するとけなげな子どもはよりけなげに、いじわるなハインズさんはよりいじわるに、くどくなる分ドラマの輪郭がクッキリした。それで原作の古さによるちょっと引っかかるところ(左翼的に見れば忠義推奨・階級差是認の保守反動)があまり気にならない。古典の様式という枠があれば、ガチガチの封建思想を描く歌舞伎だって平気で感動できるのと同じことだ。そういえばラストのP・オトゥールの“犬あらため”なんて歌舞伎の“首実検”をそのまま裏返しにしたような腹芸の場で、ちゃんと赤塗りの憎まれ役にあたる人物までいる。あそこで泣かない人は鬼畜であろう。ある種の古典的な型は東西さして変わらないのかも知れず、本作ではその洗練された定式ゆえの安定感を充分味わえた。縦断していく英国の冬に向かう風景もまことに美しい。
[DVD(吹替)] 7点(2007-09-27 12:17:00)
2314.  パプリカ(2006)
これまでアイドルや映画女優など、人の夢の中で生きる女性を描いてきた監督だから、うってつけの題材のはず。イメージが氾濫する映像にもっと面白がってもいいのに、と自分で思いつつ、もひとつノレなかったのはなぜなんだろう。夢が画面を変形し、夢が画面に侵入してくる。たとえば映画館の天井から夢の内容物が静かに落下してくるあたりなどの瞬間瞬間はワクワクするのだが、それらが一本の映画作品としてのうねりにはなってくれないのだ。サービスし過ぎでこちらが夢に麻痺してしまったのか。パレードをラストの登場まで伏せておくなど、も少し抑えがあったほうが良かったかもしれない、などと思うものの、そうすると今度は淡泊だったなんて感想になったかも知れず…。
[DVD(邦画)] 6点(2007-09-25 12:16:10)
2315.  エンロン 巨大企業はいかにして崩壊したのか?
人間の集団は暴走すると止まれない。利益を上げること、という単一のルールで企業が暴走すると、ここまでいくという症例。一番すさまじいのは、カリフォルニアで電力の供給を絞り、計画停電を起こして電力価格を暴騰させるとこか(規制緩和でこういうことが出来るようになったらしい)。人がエレベーターに閉じ込められ、信号が消えて交通事故が多発し、それによってエンロンに数百億ドルの儲けが転がり込んでくる。それを話し合っている電話の会話の録音記録が明かされるが、その何とも上機嫌なこと。 この社会、一方にエンロンのような極端に攻撃的で周囲を食べあさる集団があり、その反対の極に日本の社会保険庁のような極端に何もしないでそれ自体を蚕食していく集団がある。うまく中を採れないものか。 
[DVD(字幕)] 6点(2007-09-23 12:17:19)
2316.  父親たちの星条旗 《ネタバレ》 
国債を買いましょうとコーラスガールの歌が流れ、はりぼて製のスリバチ山に旗を立てる再現ショーを強いられるあたり、フェリーニだったら戦時下の民衆のグロテスクを哄笑するようにもっとコッテリ描いたとこだろうが、イーストウッドはなにしろ常に「悲痛」がベースにある人だから、若者たちのやりきれなさのほうに焦点が合う。はしゃぐことが悲痛につながっていくのは、すでに硫黄島へ向かう艦隊から海に落ちる兵士のエピソードがそう。意気込む若者たちの愉快な一挿話と見えたものが、自分たちが消耗品であることの自覚の始まりになる。笑いがしだいにこわばっていくあの描写に、戦場とそれ以外の世界との落差が、圧縮されて表現されていた。
[DVD(字幕)] 6点(2007-09-21 12:13:42)
2317.  暗いところで待ち合わせ 《ネタバレ》 
男は、誰も信用せず、いじめられるきっかけを与えないようにと気配を消して働いている。女は、外に出ると人に迷惑かけるからと、世間に対して気配を消して暮らしている。その女の家に、男が気配を消して住みついてしまう。被害者意識と加害者意識の同居。人生持ちつ持たれつ、もっとこう気楽にいけないですか? と見てるこっちが言いたい気分になったところで入る外出シーンだから、けっこうグッと来てしまった。初めて男に食事を提供するシーンなども含め、気配を消しているスリルの場面より、気配を消すことをついに突破する場面でこの映画はいい。
[DVD(邦画)] 6点(2007-09-17 09:29:50)(良:2票)
2318.  カポーティ
常に脳の中で世界を創造し完結する作業を繰り返している小説家って、ときにしっかりとした現実の手応えが欲しくなってノンフィクションに挑むのではないか。恐ろしいものに直面するとホッとする、って。ただし現実世界は当然こちらの思い通りには運営できず、早く作品を仕上げたくても死刑執行は何度も延期される。せっかく外の世界に材を求めたのに、それが脳の中の予定表に従わないことにイライラさせられる。そこらへんの苦い皮肉が本作の味わい。被告ペリーに人間として親しみたいという感情よりも、作品の素材としての興味のほうが最後には優先されてしまうのだ。固く締まった小人のようなペリーとブヨブヨした子どものようなカポーティ、いいコンビになれそうなのに、二人の孤独はすれ違ってしまう。
[DVD(字幕)] 6点(2007-09-15 12:20:19)
2319.  キングコング対ゴジラ
数十年ぶりに見直した懐かしの映画。フワリと宙に浮くキングコングにファンタジックな味わいはあったけれど、おおむね怪獣がらみのシーンが記憶よりもかなりチャチだったので呆然とした。「モスラ」は見直しても充分感動できたのに。そのかわり、おそらく子どものときは退屈していたであろう島の住民の踊りに魅せられた。伊福部昭節全開、フェリーニにおけるニーノ・ロータもかくやと、映像と音楽のコラボレーションの輝かしき達成! 暗黒舞踊のようなモダンダンスをリードする根岸明美(この3年後に「赤ひげ」の名演)も妖しくまた美しい!
[DVD(邦画)] 5点(2007-09-13 12:15:20)
2320.  カクタス・ジャック 《ネタバレ》 
死体があちこち回される話はよくあるが、こちらは意識不明の男が二人、取り違えられたりしつつあちこち回される。複雑さは二乗。見てるほうも、だんだんどっちがどっちだかどうでもよくなった。この映画、間違っても何も主張しないぞ、という姿勢が徹底していて、当然、教訓なんかない、男意気とか友情とかも見せられそうなのに見せない、親子の情も、ここでは危険な男をさらに狂わせる要因でしかない。湿っぽさの入り込む余地がないのだ。不良のノーテンキなインタビューに至るまでの、アレヨアレヨ感だけをひたすら横滑りさせていく。そのいさぎよさを買おう。「タクシー・ドライバー」のデ・ニーロを気取る場面なんか、若い人に分かったかなあ。
[DVD(字幕)] 8点(2007-09-11 12:22:20)
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