2601. HELL ヘル(2003)
《ネタバレ》 心の支えを失い劣悪な環境の中で人間性を失った者が、己を取り戻し巨悪に挑む姿が闘いを通して描かれています。この筋立て悪くないのですが、各過程において踏み込みが浅く歯痒さの残る作品でした。具体的には、妻との絆、冷酷さの希薄な人間性の欠如ぶり、己を取り戻せた要因、451との絡み、下衆さばかりで卑劣さのない管理者達です。肝心のスパルカも単調で退屈でした。もっと残酷にしろとは言いませんが、攻めと守りとやられっぷりに工夫が欲しかったです。本作の収穫はラストで主役を食っていた451の存在です。鋭い観察眼と的確な状況判断、殺る時はためらいなく殺る姿が参考になりました。 [DVD(字幕)] 5点(2006-12-15 01:31:14) |
2602. 自転車泥棒
《ネタバレ》 泥棒行為の背景にある、敗戦による庶民の疲弊した暮らしぶりの描写は当時のイタリアのありのままの姿なのでしょう。親子の自転車追跡の過程での世間の非情さもありのままの姿なのでしょうか。万策尽きた父は泥棒をしてしまいます。「逃げ切れ」と願いましたが、本作はそれを許しませんでした。唐突なエンディングで理不尽さに不愉快になりました。しかし、考えてみますと、監督は父の背に「悪条件に負けて自らが罪を犯してはいけない、苦しくても前向きに生きよ」と言っているのであり、その事を学んだ幼い息子の大きな財産にもなったのです。嫌な人物ばかりの中で、警察に突き出す事を堪忍してあげた武士の情けを知る者がいた事は救いでした。 [DVD(字幕)] 8点(2006-12-11 00:35:27) |
2603. 西部戦線異状なし(1930)
冒頭の教室の模様に戦争のやり切れなさを見ました。このシーンがあるので、その後の丹念に且つ淡々と描かれた最前線の模様が、死は名誉と言う事が如何に空虚であるかを浮かび上がらせています。この教師や酒場で机上の空論を繰り広げる父親達の姿に、次代を担う子供達を誤った道に導かぬ為の教育(徳育、知育、体育)が国家の基本だと感じさせられました。一人でも多くの方に観て頂きたい作品です。 [DVD(字幕)] 9点(2006-12-09 12:08:47) |
2604. 序の舞
女流画家とその母、二人の女性の生涯が描かれています。女性が当時の画壇で生きる厳しさを、過ちを重ね苦悶する姿が見せつけます。その苦悩が作品を生み出す糧となるところが芸術の奥深さなのでしょう。彼女を支えた、母の端然とした生き方に通ずる居住まい、佇まい、立ち居振る舞いの美しさ、芯の強さ、子供に対する慈愛の念に圧倒され通しで、母親の有り難味というものを痛感させられました。演じた岡田茉莉子は素晴らしいの一語です。予備知識がなく、タイトルの意味は鑑賞後に知りました。原作とモデルの上村松園画伯の作品に触れてみたいです。 [DVD(邦画)] 8点(2006-12-07 01:43:31)(良:1票) |
2605. 昭和残侠伝
昭和残侠伝シリーズは小学生の頃、テレビで父と一緒によく観ました。登場人物とストーリーの細部は忘れましたが「親にもらった大事な肌を・・・」の歌をバックに健さんが単身敵地に向う道すがら池部良と合流し並んで歩くシーンは歌詞共々覚えており、毎度毎度池部良のカッコよさにメロメロになったものです。何十年か振りかの鑑賞でしたが、前奏が流れただけで鳥肌が立ちました。本作ではお馴染みの二人以上に江原真二郎に魅了されました。優男が見せる滅びの美学に、不覚にも涙ぐみそうになってしまった私は、いい歳になってもシビアに物事を考えられない甘ちゃんなのだと感じました。 [DVD(邦画)] 7点(2006-12-02 12:52:00) |
2606. 氷点
『汝の敵を愛せよ』は人を責めない事に通じる事で、その困難さと尊さを辻口一家から感じます。川べりの陽子の姿に「そんなに何回も飲んだらあかん、死んでしもたらあかんがな」という思いと、太陽の如き彼女の心を凍てつかせた、啓造の偽善者振りと「女は子宮で物を考える」という妄言も止む無しの夏江の浅はかさに、沸点の低い自分は腸が煮え繰り返りました。葛藤の末彼女を兄として愛した徹のためにも死なないで欲しいと祈り続けました。本作のテーマである『原罪』という考え方には納得出来ません。罪は犯した時に責任を取り背負うものであって、生まれた事が罪ではないと考えます。原作を読んでみることにします。 [DVD(邦画)] 7点(2006-11-26 00:53:59) |
2607. コレクター(1965)
屋敷内における犯人と被害者。被害者の心中「生きて此処から帰りたい」は手に取るように解るのですが、犯人の本心が奈辺にあるのかを読み取ろうとしても彼女同様に解りません。物語は二人以外のシーンは最低限にとどめ(各シーンの的確さが見事)進んでいきます。一瞬たりとも目が離せず緊張感に息苦しさが増していきます。解り得なかった犯人の本質が、相手が死ぬかも知れない状況でとった二人の行為の違いで垣間見え、ラストシーンで剥き出しにされます。ここで初めてタイトルの意味を思い知らされ、言いようのない恐ろしさを味あわされます。観る者を捕らえて離さない見事な作品でした。 [DVD(字幕)] 9点(2006-10-22 16:01:37)(良:1票) |
2608. 博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか
《ネタバレ》 核の抑止力を痛烈に皮肉っています。計り知れない自国民の被害を容認できない出来ない事で成り立つ均衡。その均衡が崩れる事は起こり得ないのか? 本作では一狂人が破滅の引き金を引き、一握りの政府高官が回避にあたります。大小取り混ぜたギャグで笑い飛ばしながらも、容赦の無い視線で登場人物を描き、一度もブレーキを踏まず、アクセルを目一杯踏み込んだラストシーンに至る展開。1964年に世に送り出した監督の凄みと心意気に脱帽です。昨今の核にまつわるニュースに鬼才の名作の不滅さを感じてしまいます。ところで、事情を知らずに一人三役と分かる者はいないのではと思うピーター・セラーズのプロフェッショナルな仕事振りにも脱帽ですが、監督が三役(当初は四役を打診したそうです)をさせた理由が分かりません。引き続き考えます。 [DVD(字幕)] 10点(2006-10-18 02:26:55) |
2609. 名探偵コナン 時計じかけの摩天楼
《ネタバレ》 爆弾魔との対決でテンポ良く進む中盤とじっくりと見せる終盤、めりはりが利いていて観応えがありました。私は赤を切ってしまうと思っていましたので、蘭ちゃんの台詞には唸らされ、年甲斐もなくグッときてしまいました。クサくて大いに結構、大切な絆は切られてしまうのは止む無くとも自らが切ってはいけないのです。 [映画館(邦画)] 7点(2006-10-04 00:38:22) |
2610. 暗黒街のふたり
4,5年前に一度観たきりです。ドロンが最期にギャバンと一瞬視線を交わすシーンが語る更生する事の厳しさ、罪に対する罰の非情さを嫌と言うほど思い知らされますが、まっとうに生きる事はもっと厳しい事ですので、本作の結末は致し方ありません。二度と観たいとは思いませんが、出会えて良かったと言える作品です。 [ビデオ(字幕)] 8点(2006-10-03 02:18:16)(良:1票) |
2611. 第三の男
《ネタバレ》 サスペンス物としては、今や色褪せた感のある死は偽装であるプロットは、本作では、繰り広げられる人間ドラマの序章に過ぎません。ドラマの根幹をなす『客観的に見て絶対的な悪行をどう受け止めるか』を名優が見せてくれます。確信犯のハリー、少佐にとっては許せぬ悪、アンナにとっては愛するという事はその人が行う事も含めて愛する、と三者は一貫した立場を貫き、ホリーのみが三者のはざまで二転三転苦しみます。この苦悩振りに感情移入させられるのです。加えて本作を忘れ得ぬものとさせてくれるのが数々の虚無感漂う美しい映像です。白眉は言葉ではなく画が語りかけてくるラストシーンで、映画って素敵だなとしみじみ思わされます。ホリーの下した決断についてどう思うか、10年くらい後にまた観てみたいです。 [DVD(字幕)] 9点(2006-08-17 00:59:43)(良:2票) |
2612. 日本沈没(2006)
《ネタバレ》 子供の付き添いで鑑賞しました。細かなアラの部分を差し引いても良く出来た作品で嬉しい誤算でした。未曾有の災害により日本の国土が消滅してゆく過程でどれ程の恐ろしさ、悲しさが一人一人にあったかを細かに描かなくとも、廃墟の列島、日本を後にする人々の姿が想像させてくれます。日本国政府や国際社会からの視点を深く掘り下げていない事は、かえって色々考えさせてくれるので本作では正解だと思います。自然の力にひれ伏さなかった結末にも満足できました。 [映画館(邦画)] 7点(2006-08-03 01:38:06) |
2613. ヘッドライト
若い時は悲しい恋に感じましたが、今は情けない恋に軽蔑の思いです。家族を幸せに出来ない男は彼女も幸せに出来ない事を知らしめてくれます。これは、男と女が本作とは逆の立場であったとしても言える事でしょう。 [ビデオ(字幕)] 6点(2006-07-24 18:24:04) |
2614. シュリ
《ネタバレ》 冒頭の「そこまでするか」という特訓の模様に「あり得ない」と「もしかしたら・・・」という思いが入り混じります。この場面のみならず全編に亘り数え切れない程の人が殺されます。子や孫の代の穏やかな暮らしを願って、今、血を流しているのでしょうか。こんなやり方では将来、子や孫達も同じように血と涙を流す事になるように思います。ハリウッド産でない韓国産だからこそ本作にロマンスの要素は要らなかったと思います。愛や恋とは無縁の過酷な世界を生き抜いたミョンヒョンがジュンウォンの子を身篭っていたというのは、悲しみが薄っぺらなものになってしまい残念です。 [DVD(字幕)] 4点(2006-07-18 22:45:53) |
2615. サイドウェイ
後戻りのきかない年齢故の焦燥感、自己評価の低さを水と油のようなマイルスとジャック双方が抱いています。真っ直ぐな道を颯爽と走らなくても、寄り道、回り道しながら曲がりくねりながら歩いて行こうとする事に、もうこの歳からでは遅すぎるという事はないと言う事を、ユーモア溢れる珍道中の中にほんのりと感じさせてくれます。ラストシーンは好きですね。マヤと結ばれる、結ばれないという結果以上にドアをノックした事が素晴らしいのですから。 [DVD(字幕)] 7点(2006-07-18 01:32:23) |
2616. エントラップメント
3件の仕事は、守る側の対抗策が描かれておらず、浮世離れした道具のみ目立つ緊迫感のないものです。また、二人の騙し騙されの二転三転の末に行き着いた結末に脚本の破綻を感じます。そして、二人が歳の差のある男女で演じるのが大御所なので、恋に発展するのはお約束なのでしょうが、品のない獲物をねらう彼女が、彼が愛する美術品以上に価値ある女性に見えない事がイタイところでここにも無理を感じます。以上、本作の見せ所であろう部分が減点で、老いても衰えず華のあるショーン・コネリーの存在感のみにこの点数です。 [DVD(字幕)] 4点(2006-07-14 20:35:16) |
2617. セント・オブ・ウーマン/夢の香り
ポル・ウナ・カベーサを踊る姿はパチーノ名場面集の中のナンバーワンのシーンです。「足が絡まっても踊り続ければいい」何もかもが嫌になり、生きていても仕方がないと自暴自棄になりそうな時、何時もこのシーンとこの台詞に助けられます。そして色気の漂うパチーノに、幾つになっても、オンナを捨てた醜悪な女性にはなってはいけないと戒められます。【2017.8.5追記】この度劇場での鑑賞が叶いました。将軍への昇進が叶わず魂が潰れてしまった者の苦しみが胸にささります。自分が出来なかったからこそチャールズには正しい道を進んで欲しい思いの強さに喝采。フランク・スレイドはパチーノにしか演じられない事を改めて実感しました。 [ビデオ(字幕)] 9点(2006-07-01 17:14:25)(良:1票) |
2618. ダ・ヴィンチ・コード
《ネタバレ》 喜怒哀楽の感情が湧かず、観終わって「だから何やのん?」という思いです。原作を読んでみようという気にもなれないです。公開前のあの手この手の広報戦略のほうが作品よりもずっとひねりが効いていました。 [映画館(字幕)] 3点(2006-06-28 18:48:11) |
2619. 暗くなるまで待って
《ネタバレ》 恋愛物だと思っていたのにサスペンス物であった事に驚き、鑑賞後「面白かった、観てよかった」と満足の出来た作品でした。限られた舞台設定での巧妙に伏線が張られた脚本と、スージーの抱いた疑念が確信に変わって圧倒的不利の状況から活路を開いてゆく、めりはりの効いた展開に知らぬ間に物語にぐいぐい引き込まれていきます。また、淡い感情を抱きながらスージーと対決する甘ちゃんな悪党マイクと、あとに続く、スージーと観る者に「お楽しみはこれからなんだよ」とばかりにサディスティックに迫る正真正銘の悪党ロートの二人は刺身と刺身のツマの様でうまいキャラクター設定です。このクライマックスは見応え十二分の一進一退の攻防でしたが、惜しむらくはロートが致命傷を負うシーンです。もう一捻り効かせて欲しかったです。 [DVD(字幕)] 7点(2006-06-17 01:36:48)(良:2票) |
2620. ポゼッション(1981)
ポーランド人監督によるベルリンが舞台であろう1980年に製作された本作。尋常ならざる情念をぶつけ合う男女は、変革していこうとする国家の体制であるように感じました。私もアンナと保母さんが一人二役である事になかなか気づきませんでした。何時もの「恋に破れた果て」ではないアジャーニの完全に常軌を逸した様の凄まじさ。彼女の役者魂にただただ脱帽です。不明な点が多々ありましたので、また観てみたい作品です。 [ビデオ(字幕)] 7点(2006-06-11 15:54:31) |