261. 激流(1994)
《ネタバレ》 シンプルな邦題の「激流」ってのが、凄く恰好良いですね。 内容に関しても、画面に広がる雄大な自然を眺めてるだけで楽しいし「崩壊の危機にあった家族が、試練を乗り越え強く結ばれる」という王道展開も備えているしで、満足度は高いです。 一応サスペンス色も強い作りなんですが、血生臭い場面は出て来ないし、主人公一家の中から死人が出たりもしないという、安心設計。 程好い緩さの、程好い緊張感を味わえました。 旦那の命令は全く聞かないけれど、妻に命令されたらすぐに聞き入れる飼い犬の存在も、良いアクセントになっていましたね。 上述の描写は「旦那さんは仕事で忙しく、家を留守にしがち」「だからこそ、犬も旦那さんを家族として認めていない」と、さりげなく伝える効果があり、それだけでも感心していたのですが、実は終盤に掛けての伏線になっていたというんだから、もう吃驚。 共に協力し、危機を乗り越え「初めて私の言いつけ通りにしてくれたな」と、旦那さんが犬を抱き締め、喜ぶ展開に繋がってたんですよね。 「父と息子」「夫と妻」の和解は描かれるだろうと予測済みでしたが、この「主人と飼い犬」の絆に関しては予想していなかっただけに、気持ち良いサプライズ感を味わえました。 川下りの途中、釣りをする描写があるのも嬉しいし「一家は手話が使える」という設定の使い方も上手い。 メリル・ストリープも、流石の目力と存在感。 如何にも頼りなさそうな、眼鏡着用の旦那さんが、家族の為に奮起して超人的な活躍を見せちゃうというのも、観客としては応援したくなるし、良い脚本だったと思います。 そんな本作の不満点としては……やはり、ケヴィン・ベーコン演じるウェイドの扱いが挙げられるでしょうか。 勿論、良い悪役だったと思うんですけど、ちょっと勿体無い気がしたんですよね。 主人公一家の幼い息子、ロークと心を通わせる序盤の展開が好みだっただけに「結局は単なる悪人でした」というオチな事が、凄く寂しい。 ロークに拳銃の秘密をバラされた時に、傷付いた表情を浮かべたりするのが良かっただけに「悪人だが、子供には優しい」というキャラで通して欲しかったなと、つい思っちゃいます。 例えば「十徳ナイフ」の存在にしても、犯人達がそれをロークから取り上げておかないのって、凄く不自然なんですよね。 でも自分としては(ウェイドはロークが好きだから、誕生日プレゼントのナイフを取り上げるような真似はしたくないんだろう)と解釈し(十徳ナイフで危機を脱する展開を、自然にしてみせたな)と感心してたくらいなんです。 でも、クライマックスにてウェイドの本性が暴かれ「ガキも捕まえて殺せ」とか平気で言い出すもんだから(……じゃあ、あれって単に迂闊なだけかよ!)と、大いに失望。 自分の読み違いに過ぎないんですけど、それにしたってコレは落胆しちゃいました。 終盤の難所「ガントレット」を乗り越えるシーンに関しても、迫力があって良かったんですが(いや、旦那さんは陸路で先回り出来たんだから、無理して水路を選ばなくても良いのでは?)と、そこが気になっちゃうんですよね。 多分「犯人二人は、ガントレットを越える以外のルートは無いと、元仲間のフランクに騙されていた」「ローク達もそれを察し、陸路の事は口にしなかった」って事だとは思うんですが、それならそうで、もっと分かり易く説明して欲しかったです。 そもそも、登場人物達は「ガントレット」を越えた際に凄く盛り上がっている訳だけど、前提として「ガントレットを無事に越えたとしても、その後に犯人二人をどうにかしなければいけない」って課題が残っている訳だから、観客目線だと一緒に喜べないんですよね。 「犯人達と協力して難所を越えた事により、絆が芽生えて分かり合うなんて有り得ない」「勧善懲悪な結末であるべき」という真っ当な作りゆえに、映画の一番の山場で、カタルシスを得られなかったように思えます。 全体的には好みな作風ですし、家族の絆が深まるハッピーエンドなので、後味も悪くない。 それでも(最後、もうちょっと上手く着地してくれたらなぁ……)と、欲張りな気持ちを抱いてしまう。 そんな一品でありました。 [DVD(吹替)] 6点(2018-01-09 08:57:29)(良:2票) |
262. イーグル・アイ
《ネタバレ》 面白かったはずなのに満足度は低めという、不思議な感覚が残った作品。 内容としては、コンピューターによる人類への反乱という「コロッサス」から連なる王道ネタを扱っているのですが「携帯電話の誘導に従って、窮地を乗り越えていく」というテイストを盛り込む事により、上手く独自色を出していましたね。 シャイア・ラブーフも、お得意の「事件に巻き込まれた若者」を好演していますし、嫌味なタイプの主人公なのに、しっかり感情移入させてくれる辺りなんかは、本当に凄かったです。 じゃあ何故「満足度は低め」なのかというと……まず、終盤のカタルシスに欠けるんです。 クライマックスに用意されているのは「主人公の自己犠牲によって、政府高官の暗殺を阻止してみせる」という展開な訳だけど、その前の段階で「息子を人質に取られた母親に対し、自分を撃てと諭す主人公」というシーンが、既に存在している。 つまり「自己犠牲展開」を二度やる形になっており「あの自分勝手な主人公が、他者の為に命を投げ出している」という衝撃も、二回目の場面では薄れてしまうんです。 おまけに「主人公は命を投げ出し自己犠牲を行ったけど、結局は助かった」というオチまで二連続になっている訳だから、これは流石にキツかったですね。 その他にも「絵を描く趣味がある」「息子の誕生日を憶えていない」などのネタが、大した伏線になっていないのも寂しいし、黒幕であるアリアを倒すのが主人公じゃなく、脇役の少佐と捜査官というのも、ちょっと乗り切れないものがありました。 最後はハッピーエンドである事自体は嬉しかったし「携帯電話の謎の声に、人々が導かれていく」パートは、本当に面白かったんですけどね。 特に「電車の中で、乗客の携帯電話が一斉に鳴り出し、主人公が指名手配されていると告げる」場面なんかは、かなりゾッとさせられるものがあって、忘れ難い。 色々と粗はあるけれど、何だかんだで内容を忘れた頃に再見したくなるような……そんな、不思議な魅力のある一品でした。 [ブルーレイ(吹替)] 6点(2018-01-07 19:57:50)(良:2票) |
263. ニューイヤーズ・イブ
《ネタバレ》 前々から観たいと思っていたタイトルを、待ちに待って大晦日に観賞。 この手のオムニバス形式の映画だと、観賞後には「どのエピソードが一番好きだった?」という話題で盛り上がりたくなるものですが、自分としては「仕事を辞めた女性と、メッセンジャーの男性」の話がお気に入りでしたね。 年明けを目前として「今年の誓いリスト」を次々に達成していく様が痛快であり、ベタな表現ですが「これ一本で映画にしても良かったな」と思えたくらいです。 「ハイスクール・ミュージカル」などで、ティーンズの印象が強いザック・エフロンが、髭を生やして働く若者を演じているのも初々しくて良かったし「私、貴方の二倍の歳よ?」なんて言っちゃうミシェル・ファイファーも、実にキュート。 豪華キャストの中でも、この二人が特に光っているように感じられました。 その他のエピソードとしては「新年最初の赤ちゃん」と「エレベーターに閉じ込められた男女」が印象的。 前者にて「新年最初の出産を迎えた夫婦に贈られる賞金」を巡り、争っていた二組の夫婦が、出産後には和解し、片方がもう片方に賞金を譲る形で決着を付ける辺りなんて、とても良かったです。 後者に関しても、男女のロマンスとしては、一番綺麗に纏まっていた気がしますね。 男性が女性を追い掛け「忘れ物」と言ってキスをするシーンなんて、観ていて照れ臭い気持ちになるけど、ベタで王道な魅力がある。 他にも、様々な形で複数のカップルが結ばれており、誰もが幸せになるか、あるいは「悲しみを乗り越えて、一歩前進する」という結末を迎えており、非常に後味爽やかな作りなのも、嬉しい限り。 ・年明けのカウントダウンが主題となっているのに、時間経過が分かり難い。 ・個々のエピソードの繋がりが弱く、複数の流れが一つの大きな結末に収束していく快感は得られない。 ・ラストのNG集は、無くても良かったかも? なんて具合に、気になる点も幾つかありましたが、作品全体を包む優しい雰囲気を思えば(まぁ、良いか……)と、笑って受け流したくなりますね。 大晦日というベストな環境で観られたゆえかも知れませんが、満足度は高めの一品でした。 ……それと、自分の「2018年の誓いリスト」には「バレンタイン当日に『バレンタインデー』を観る事」と書かれている訳ですが、果たせるかどうか。 二ヶ月後を、楽しみに待ちたいと思います。 [DVD(吹替)] 7点(2017-12-31 21:21:26)(良:3票) |
264. 刑事ジョー/ママにお手あげ
《ネタバレ》 劇中にて、ママが見せる幼少期のジョーの写真が「ロッキー」で飾られていた写真と同じであるというだけでも、何だか憎めなくなってしまう映画。 実際、自分が大のスタローン贔屓である事を差し引いても、結構面白いと思うんですよね、この作品。 思っていた以上に「刑事物」としての要素が濃いし、母子によるバディムービーとして、きちんと成立している。 ちょっと年増なヒロインの警部補さんもキュートで、彼女と主人公との恋の行方についても、素直に応援する事が出来ました。 オムツ云々の件は(そこまでやらなくても……)と感じるし「母親を撃ったの」が最後のオチというのは弱いと思いますが、それも御愛嬌。 なんていうか(映画に点数を付けるなら、ここはマイナスポイントだな)と思う箇所ではあるんですが(ここの場面は苦手だ)(この映画のココが嫌いだ)とまでは思わないラインに留めているという、非常に自分好みな作りなんです。 だから安心して観られるし、短所は受け流して、長所だけを受け止めるような形で、楽しむ事が出来る。 真面目な熱血漢なのに、恋愛に不器用で、ママに対してはとことん弱いという主人公ジョーのキャラクターも、非常に魅力的。 普段は素っ気無くても「プレゼントがある」と聞かされると、子供っぽく喜ぶ辺りなど、ママが溺愛するのも納得な愛嬌があるんですよね。 「愛から逃げる事」が貴方の欠点だと諭されるシーンでの、寂し気にママを見つめる表情なんかも、凄く好き。 アクション部分でもなく、コメディ部分でもなく、ここの真面目な母子の対話シーンこそが、本作の白眉であったように思えます。 ちょっとボケ気味かと思われたママが、実は驚異的な記憶力の持ち主だったと判明する件も気持ち良いし「お大事に」という台詞の使い方も上手い。 序盤と終盤、銃を撃った後の仕草が母子でそっくりであった点なんかも好きですね。 上述の通り「(その犯人は)母親を撃ったの」というオチに関しては、少し弱いと思っているのですが、それでもジョーの「おや、まぁ……でも、気持ちは分からんでもないよ」と言わんばかりの、複雑な笑顔を見せられちゃうと、何だかそれだけで(まぁ、良いか)と納得し、満足してしまう。 ダメな子ほど可愛い、なんて言葉に倣い「ダメな映画かも知れないけど、自分は好き」と主張したくなるような、そんな一品でありました。 [地上波(吹替)] 8点(2017-12-27 19:48:13) |
265. ジングル・オール・ザ・ウェイ
《ネタバレ》 毎年クリスマスが近付く度に観返したくなる映画。 正直、色々と粗も目立つ作りなのですが、何となく好きなんですよね。 仕事では有能だけど、そのせいで忙しくて、家族との間に溝が出来てしまっている主人公。 そんな彼が、幼い息子と約束したプレゼントの「ターボマン人形」を求めて、クリスマスイブの街を駆け回る事になる……という、そのプロットの時点で、もうハートを鷲掴みにされちゃう感じ。 主人公は、ちょっと感情的だし、息子の為とはいえ色々とマナー違反を犯す事になる訳ですが、演じているシュワルツェネッガーの愛嬌ゆえか、ちゃんと感情移入出来るようになっているのも上手いですね。 象徴的なのが「隣家の子供のプレゼントを盗もうとした場面」で、観ている側としても、これまでの交通違反やら行列の割り込みやらと違い(それだけは、やっちゃいかんだろう)という気持ちになるんです。 で、そんな場面では主人公も思い止まり、良心に従って、盗んだプレゼントを返そうと引き返す事になる。 そういった「やり過ぎない」バランス感覚が、絶妙だったと思います。 作中で「不人気」扱いされているブースターが、可哀想になってしまう事。 そして「クリスマスプレゼントを貰えなかった子供は、将来ロクな大人にならない」というメッセージが感じられる事などは気になりますが、どちらもコメディタッチで明るく描かれている為、後味が悪くなるという程じゃなかったです。 「一番のお客様」という仕事相手に対する決め文句を、妻に対しても言ってしまい焦る場面とか、寝室の灯りを消した後の顔芸とか、ちゃんと「シュワルツェネッガーがコメディをやっているからこその魅力」が感じられる辺りも嬉しい。 回る車輪と、時計とを重ね合わせる演出も好きだし、喧嘩したトナカイとの間に友情が芽生える場面なんかも、ベタだけど良かったですね。 そして何といっても、紆余曲折の末、主人公がターボマン人形を手に入れた時の達成感が、実に素晴らしい。 その後、人形を受け取った息子が、自分以上に人形を欲しがっている人を見つめ「メリークリスマス」という言葉と共に、笑顔で人形を譲る結末となるのも(うわぁ、良い子だなぁ……)と思えるしで、ここの流れが、本当に好きなんですよね。 何ていうか、凄くクリスマスらしい気分に浸れる感じ。 プレゼントを贈るという行為は、受け取る人だけでなく、渡す人をも幸せにするんだな、と思えます。 映画のラスト「息子のプレゼントに感ける余り、妻へのプレゼントを忘れていた」というオチは弱いようにも思えますが、この後に再び主人公が奔走する姿を想像すると、実に微笑ましいですね。 今度は息子の為でなく、妻の為にプレゼントを探し歩く続編映画が、頭の中で上映されるかのよう。 そんな素敵な妄想、映画が終わった後もまだまだ楽しめるという余韻こそが、本作からの最大のプレゼントであったのかも知れません。 [地上波(吹替)] 8点(2017-12-20 16:39:03) |
266. スパルタンX
《ネタバレ》 これはジャッキー主演映画の中でも、五指に入るくらい好きな作品。 もう設定の時点で白旗を上げちゃうというか、とにかく好みなんですよね。 兄弟のように仲の良い男友達と二人暮らしで、朝起きたら武術の稽古。 それからシャワーで汗を流し、牛乳を飲んで出掛ける。 この一連のシークエンスを眺めているだけでも、楽しくって仕方ない。 お隣さん夫婦に、階下の店主と、近所の人々も魅力的で(良いなぁ、こういう暮らしをしてみたいなぁ……)って、憧れちゃうものがあります。 彼らの愛車「スパルタン号」のギミックにも痺れるし、出張屋台で働く姿も楽しそうで、おまけに謎の美女との三角関係まで付いてくるんだから、もう言う事無し。 子供の頃、何度となく「ジャッキー・チェンになりたい」と思ったものですが「じゃあ、どの映画のジャッキーになりたいの?」と問われたら「アジアの鷹」か、本作のトマスの名前を挙げていた気がします。 ジャッキー自身もベストバウトに選んでいるという、ベニー・ユキーデとの戦いも、本当に素晴らしいですね。 緊迫した空気の中に、適度なユーモアが漂っており、彼だからこそ醸し出せる魅力がある。 飄々として、惚けていて、でも強くて恰好良いという「理想の男性像」「理想の主人公像」を、そこに感じ取る事が出来ます。 対する敵の「アメリカン・ギャング」ことベニー・ユキーデの存在感も抜群であり、この戦いがベストバウトであるという以上に、彼が「ジャッキー映画最大の強敵」である事も、はっきりと感じられますね。 ラッシュの勢いが凄過ぎて、防戦一方のジャッキーが押されまくり、背中に当たったテーブルが、そのまま音を立ててズレ動いてしまう描写。 蹴りの風圧が凄過ぎて、幾つもの蝋燭の炎が、一瞬で消えてしまう描写。 どちらも印象的で「こいつは強い!」と確信させるだけの力がある。 そんな二人の戦いが「窓から落ちそうになった敵の脚を掴み、引き上げて助けてみせる主人公」という形で決着するのも、実にジャッキーらしくて好き。 彼には「相手を殺す」倒し方よりも「相手を救う」倒し方の方が、ずっと似合うと思います。 それと、本作はジャッキーがアクション面で一番目立っている訳だけど、共演のユン・ピョウはヒロインの本命となっているし、サモ・ハン・キンポーはコメディリリーフに徹して良い味を出しているしで、この三大スターのバランスが非常に良かった事も、特筆に値するかと。 思うに、監督兼任のサモ・ハンが「一番情けなくて、散々な目に遭う」という探偵の役を率先して引き受け、兄貴分としての度量の広さを示してみせたのが、成功の秘訣だったんじゃないでしょうか。 弟分の二人には、それぞれ「アクションの主役」「ロマンスの主役」を割り当てて、綺麗に纏めてみせたという形。 ラスボスも「一心同体、三銃士」という合体攻撃で倒してみせるし「三大スター夢の共演」を楽しむならば、この映画が一番だと、胸を張ってオススメ出来ます。 「三菱の宣伝が目立つ」「精神病院の患者で笑いを取る件は、ちょっと浮いているし、テンポが乱れる」などの不満点も、あるにはありますが、まぁ御愛嬌と笑って受け流せる範囲内。 それと、本作についてはDVD版やBD版も観賞済みですが、個人的には一時間半ほどでテンポ良くまとめ、BGMも素敵なTV放送版が、一番お気に入りですね。 色んなバージョンを見比べ、音楽や翻訳の違いを楽しむのも良いものですが「どれか一本だけ選んで欲しい」と言われたら、これを選ぶ事になりそうです。 [地上波(吹替)] 9点(2017-12-07 14:12:28)(良:3票) |
267. IAM A HERO アイアムアヒーロー
《ネタバレ》 とうとう日本にもゾンビ映画の傑作が誕生したんだなぁ……と、感無量。 邦画にも面白い作品は沢山あるけれど、その中で「ゾンビ映画」というジャンルは非常に頼りなく、胸を張って「面白い」と言える作品は、これまで無かったように思えますからね。 「火葬の風習がある日本では、死者蘇生がイメージし難い」 「銃器が身近に存在しない」 等々、ゾンビ映画を作る上では不利なお国柄なのに、そんなハンデを乗り越え、これほど面白く仕上げてみせたのだから、もう天晴です。 二時間という尺の都合上、どうしても原作漫画の要素は色々と切り捨てられてしまう訳だけど、その取捨選択も見事でしたね。 原作においては、丸々一巻分かけて「売れない漫画家の鬱屈とした日常を描いた漫画」と思わせておいて「実はゾンビ漫画だった」と一巻ラストにて種明かしするという、非常に面白い構成となっているのですが、これを再現するのは潔く諦め、十五分程で「ゾンビ物ですよ」と種明かし。 謎の存在「来栖」や妄想の産物「矢島」も登場させず「主人公の英雄」「ヒロインである比呂美と小田」の三人を中心とした作りにして、分かり易く纏めてある。 英雄の恋人である徹子の描写が大幅に削られており、彼女を殺してしまった事への葛藤すらも失われているのは気になりましたが……まぁ仕方ないかなと、納得出来る範囲内でした。 そもそも原作においては作者自身が「作中に散りばめられた謎を解く事」を放棄したフシがあり「適当にそれっぽい言葉を並べておけば、信者が勝手に深読みしてくれる」と、作中人物に嘯かせているくらいですからね。 よって、原作における「来栖とは何なのか?」「ZQNとは何なのか?」という謎解き部分を徹底的に排除したのは、もう大正解だったかと。 日常がゾンビの発生によって崩壊する様も、真に迫って描かれていましたし「日本」という身近な世界が舞台になっている分だけ、その臨場感も倍増。 ここの辺りのスピーディーさ、動きを伴うからこその迫力は、漫画には出せない、映画ならではの魅力だったと思います。 ロレックスの伏線が三重、四重になっている脚本にも、非常に感心。 「原作では準主役格だったりする中田コロリ先生が、ロレックスを付けている」→「それを気にしていた英雄が、文明崩壊後の世界では簡単にロレックスを拾える事に拍子抜けする」と、ここで伏線の回収が済まされたと油断していたところで「英雄がロレックスを大量に装備し、それが腕のガードになっていたお蔭で、噛まれても助かる事になる」「最終的には、我が身を守る虚栄心の象徴のようなロレックスを外して、射撃に専念する」ってオチに繋げてみせたのには、もう脱帽です。 ボス格の敵キャラとして「高跳びゾンビ」をチョイスするセンスも良いし、そして何といっても……終盤のショットガン描写が、素晴らしい! それまで発砲する事が出来ず、躊躇い、怯えていた英雄が、ヒロイン達を守る為、ラスト二十分程で、とうとう引き金をひいてみせるんだから、本当に痺れちゃいましたね。 溜めて、溜めて、解き放つというカタルシスがある。 連射系の武器ではない、一撃の威力が大きいショットガンと、非常に相性の良い演出だったと思います。 襲い来る大量のゾンビに対し、素早くリロードしながら迎え撃つ英雄の姿も恰好良かったし、最後は「弾切れの銃で、敵の頭部にフルスイング」という倒し方なのも、実に痛快で良い。 原作においては「富士山に行けば助かるというのは、ガセネタだった」「実は英雄も感染していた」などの情報が明かされ、この後どんどん絶望の匂いが濃くなっていく訳ですが、本作においては「富士山に行けば、何とかなるかも知れない」「比呂美の存在によって、ワクチンが作れるかも知れない」という希望を残した段階で完結しており、その点でも好みでしたね。 最後の台詞通り「ただのヒーロー」になった英雄なら、きっと彼女達を守り抜けるだろうなと思える。 良い終わり方の、良い映画でした。 [DVD(邦画)] 8点(2017-12-01 04:19:50)(良:2票) |
268. 同居人/背中の微かな笑い声
《ネタバレ》 これ、元々はTV映画だったんですね。 確かに画面作りが安っぽいし、劇場で流す程のスケール感は無いかも知れませんが、個人的には中々楽しめました。 主人公である殺人鬼が「妊娠」の事実を聞かされてショックを受ける描写に「他人とは思えなくて」という台詞など「狙われた一家の婦人と、この主人公とは、実は母子である」という伏線が、キチンと張られているんですよね。 こういったタイプの映画だと、インパクト重視で唐突なドンデン返しオチを用意する事も多いだけに、本作には感心させられるものがありました。 幼児期に性的虐待を受けていたという過去に関しても(あぁ……冒頭に出てきた養父、如何にもそういう事やりそうな雰囲気だったなぁ)って思えて、妙に納得。 始まって五分程のエレベーターのシーンで「相手を陥れる為に、自分から壁に顔をぶつけて出血する主人公」を描き(コイツは危ない奴だ……)と、早めの段階で観客に分からせてくれるのも良かったです。 気になったのは、ドナルド・サザーランドの扱い。 エンドロールでも真っ先に表記されているし、実際自分も途中までは「被害者家族の中での主人公格」と認識していたんですけど、終わってみれば一家三人の中で、最も出番が少ないくらいだったのですよね。 しかも終盤に焼死して途中退場という形なのだから、何とも消化不良。 作中で一番の大物俳優であるだけに「撮影時間を確保出来ず、出番が少ない形になってしまった」「でも大物なので序盤に主役っぽく描き、エンドロールでも優遇して誤魔化しておいた」という大人の事情が窺えて、流石に興醒めしちゃいました。 後は、ラストに主人公が死んで直ぐに終わってしまう為、余韻もへったくれも無いのも困りものですね。 あそこは、もうちょっと時間を掛けて「殺人鬼とはいえ、色々と可哀想な奴だった……」と思わせるような、寂寥感のある描写が欲しかったところ。 そんな訳で、完成度が高いとは言い難いものがある本作。 でも、ウィリアム・マクナマラの端正な容姿、純真さと狂気とを内包させた眼差しは「異常殺人者の青年」としての魅力を、確かに感じさせてくれましたね。 彼の存在だけでも、一見の価値ありかと。 [ビデオ(吹替)] 5点(2017-11-29 04:04:20) |
269. Mr.ズーキーパーの婚活動物園
《ネタバレ》 当初ヒロインかと思われたステファニーの言動が酷過ぎる為、早い段階で(こりゃあ別の女性と結ばれるな)と読めてしまう事が難点ですね。 どうせ結ばれない、結ばれない方が良いと思ってしまうのに、作中の主人公は「ステファニーと結ばれたい」という一心で行動しているものだから、どうしても感情移入出来ないし、その恋を応援する事も出来ないという形。 同僚のケイトに頼み「ステファニーにヤキモチを妬かせる為、恋人のフリをする作戦」を敢行する辺りからは(これはケイトと結ばれるオチか)と分かり、王道なラブコメとして楽しめましたが……ちょっと尺のバランスが悪かった気がします。 冒頭でプロポーズを断られた主人公が、今度はステファニーの方からプロポーズされて、それを断る流れなどは痛快なものがあったし、冒頭と同じようにバンドが再び現れて、陽気に唄い出すのも可笑しかったしで、終盤の展開は本当に良いんですけどね。 動物園の飼育員である主人公が、人間不信のゴリラと少しずつ友情を深めていく流れも面白かったです。 ゴリラに服を着せて店に連れて行き、そこで楽しく騒いだり、腕時計をプレゼントしてみせたりする辺りなんかは、本作の白眉かと。 その他、不満点としては、ゴリラにスポットが当たり過ぎているせいか、他の動物が殆ど目立たず、主人公の恋を叶える上で活躍していないように思えちゃった事。 そして、カラスが他の動物から仲間外れにされるネタを繰り返した以上は、最後に「カラスも動物園の仲間だ」と、しっかり皆から認められるシーンが欲しかったとか、その辺りが挙げられそうですね。 エンドロールでのNG集も楽しかったんですけど「動物虐待している訳では無い」とばかりに、主人公がダチョウに乗ろうとして転ぶシーンは「CGによる合成だった」と種明かしする件があったのは、凄く残念。 自分がお気に入りだった主人公とゴリラが絡むシーンも、大半は合成だったんだろうなぁ……なんて思えてしまい、大いに白けちゃったんですよね。 そこは何というか「気付かせて欲しくなかった」という想いが強いです。 それと、原語では凄く豪華な面々が動物達の吹き替えをやっている訳だし、どうせなら「ニック・ノルティ」「アダム・サンドラー」「シルヴェスター・スタローン」の三人が、ちらっとでも出演してくれていたら、もっと面白くなったかも知れませんね。 そんな具合に、色々と気になる点もあったけど、基本的には安心して楽しめる作品でしたし、後味も悪くない。 及第点以上のラブコメ映画だったと思います。 [DVD(吹替)] 6点(2017-11-28 21:16:00)(良:1票) |
270. アップルゲイツ
《ネタバレ》 巨大カマキリ一家が人間に成り済まし、原子力発電所を破壊しようと画策するという、実にトンデモない映画。 とはいえ「昆虫と人類との戦い」を描いたアクション映画ではない、というのがポイントですね。 環境破壊によって住処の森を奪われ、復讐を果たす為、人間社会に潜入したはずの一家が、段々と「人間の毒」に当てられていく。 その様が皮肉たっぷりに描かれている、ブラックユーモア満載の映画なんです。 クレジットカード、酒、麻薬、同性愛、不倫と、昆虫だった頃には考えられない悪徳の類に没頭していく家族の姿が、妙にリアルで、目が離せない。 買い物中毒になってしまう奥さんの姿は、特に恐ろしくて「これは実生活で反面教師にしないとダメだ……」なんて、自らに言い聞かせちゃったくらいです。 「繭」にされた人間というビジュアルも、中々忘れ難いインパクトがありましたし、人間の姿から虫の姿へと変身する特撮も、適度にグロテスク。 虫が潰されて体液が飛び散る描写とか、目を背けたくなる場面も多いんですけど、全編がコメディタッチなせいか、不愉快というほどじゃないバランスなのも嬉しかったですね。 娘が人間の青年と交尾するシーン、それによって産み落とした卵を踏み潰されるシーンなんかも、本当に恐ろしくて、悲しくなっちゃいました。 一家の正体が露見し、さながら魔女狩りのように追い詰められていく場面では、バッドエンドも覚悟しましたが、何とか一家は無事に助かり「我々と人間は共存出来る」という結末に着地してくれた為、後味も良かったですね。 「娘とレズ関係になっていた恋人は、どうなったの?」とか「クライマックスの昆虫同士の戦いが、アッサリ決着付き過ぎ」とか、気になる点や不満点もありますけど、全体的には好印象。 意外な掘り出し物でありました。 [ビデオ(字幕)] 6点(2017-11-24 00:42:19) |
271. バトルシップ(2012)
《ネタバレ》 「レーダーで捕捉出来ない敵との艦戦」という、元ネタのボードゲームを再現した作りに感心。 特に、戦闘のテンポがちゃんと「ターン制」である事なんかは「映画でそれをやるか!」という感じがして、凄く嬉しかったですね。 「味方のターンなので味方が砲撃する」「敵のターンなので敵が反撃してくる」って感じの戦闘描写である為、ワンパターンで飽きてくるという欠点もあるんですけど、ターン制のゲームが好きな身としては、どうにも憎めなかったです。 説明を極力排し「とにかく謎の異星人が敵なんだよ」というシンプルさで押し切ったのも、良かったと思います。 「敵の目的は何?」「なんか侵略してきたわりに戦意が乏しくない?」など、ツッコミ所もあるんだけど、作中でも「人類にとって理解不能の異星人達」として扱われている為、それほど気にならない。 敵艦のデザインやギミックが「トランスフォーマー」を連想させるというだけでなく「ファンタズム」や「ランゴリアーズ」的な球型兵器まで登場して、大いに暴れてくれるもんだから、それらを眺めているだけでも楽しかったです。 地球外生命体をコロンブス、地球人を先住民に喩えるブラックユーモアや、チキンブリトーを盗む場面で「ピンク・パンサーのテーマ」をBGMに流すというベタベタなセンスも、好きですね。 全体的に「王道」「お約束」を大事にした作りとなっており ・「義足の軍人は元ボクサーだと語られる」→「その後に異星人と殴り合う」 ・「臆病な博士がアタッシュケースを持って逃げる」→「土壇場で戻って来てくれて、アタッシュケースで異星人を殴りヒロイン達の窮地を救う」 といった感じに、分かりやすく場面の前後が繋がっている事にも、ニヤリとさせられました。 ラストには、残り一発の砲弾が決定打となって勝つというのも「そう来なくっちゃ!」という感じ。 退役軍人達が集結し、記念艦となっている旧式のミズーリを動かして再戦を挑む流れも熱かったし「皆いつか死ぬ」「だが今日じゃない」という主人公の台詞も恰好良かったですね。 浅野忠信演じるナガタが副主人公格なのも嬉しかったのですが、作中での「サマーキャンプで射撃を習った」という台詞は「夏祭りの射的」の事で良いのかな? と、そこは少し気になったので、答え合わせが欲しかったかも。 他にも「主人公の兄が死亡するシーンが、あんまり劇的じゃない」とか「エンドロール後の続編を意識したかのようなシーンは微妙」とか、細かい不満点も多いんですけど、作品全体の印象としては、決して悪くないですね。 中弛みしているのは否めないけど、終盤のミズーリ復活からの流れは文句無しに面白い為、欠点も忘れさせてくれるようなところがあります。 米国以上に日本での人気が高く「バトルシッパー」なる言葉も生み出したほどの本作品。 カルト映画になるのも納得な、独特の魅力を備えた品でありました。 [ブルーレイ(吹替)] 7点(2017-11-22 15:23:31)(良:3票) |
272. 世界侵略:ロサンゼルス決戦
《ネタバレ》 異星人による地球侵略というプロットを、シリアスな戦争映画として撮る。 その発想は面白いと思います。 ただ、あまりにも真面目な「戦争映画」過ぎるというか……この内容だと、相手が異星人である必然性が感じられないのですよね。 「生き残ったのは美人だからじゃありません。戦えます」 「ジョン・ウェインって誰です?」 「一つくらいは避けて走れ」 などの台詞はユーモアがあって好きなんですけど、この三つの台詞のシーン全部、戦う相手が異星人じゃなくとも成立しちゃう代物なんです。 本作において「敵が異星人である事」のメリットといえば「主人公側を正義として描き、敵側を単純な悪として片付ける事が出来る」「未知の生物の弱点を探るシーンを描ける」の二つが該当するんでしょうけど、これらを鑑みても「異星人」という設定が必要だったとは思えません。 特に前者に関しては深刻で、米国の戦争映画において「他国の人間をゾンビやエイリアンのように描き、米国人だけが正当な人間であるかのように描く」事って、実は珍しくもなかったりするんですよね。 自分はそういう描き方の戦争映画は苦手なもので、本作みたいに異星人という設定の方が抵抗は少ないですけど、そんな緩和作用程度のものを「メリット」として数えなければいけないのは、如何にも寂しい。 後者に関しても「捕虜にした異星人の全身をナイフで刺しまくり、消去法によって弱点の位置を特定する」というだけなので、知的興奮を誘う訳でもなく(別に無くても良かったよな……)って思えちゃうんです。 ベタではありますが「醜い怪物かと思われたが、実は自分達と同じような存在だと分かってショックを受ける主人公達」とか「地球人なら平気な物が異星人にとっては弱点になる」とか、そういう展開があるからこそ「異星人との戦争」という題材を選ぶ事に、意味があるんじゃないでしょうか。 主人公の二等軍曹が「戦死させた部下達の事を悔いている」という設定な訳だから「異星人には死者を甦らせる力があり、それを駆使して主人公に交渉してくる」なんて展開にする事だって、可能だったと思います。 とにかくもう、この「相手が異星人である必要が無い」という一点が気になってしまい、シンプルに楽しむ事が出来ず、残念でしたね。 死なせてしまった部下の名前と階級、認識票の番号を暗唱するシーンは中々良かったと思いますし、ラストシーンにて休息も取らず、次の戦いに向かう兵士達の姿は、素直に恰好良かったです。 そんな「普通の戦争映画」としての魅力は感じ取れただけに、歯痒くなってしまう一品でした。 [DVD(吹替)] 5点(2017-11-20 14:58:53)(良:1票) |
273. シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア
《ネタバレ》 観賞中「何故撮影者は危害を加えられないの?」「撮影者は人間じゃないの?」などの疑問が、頭の中を渦巻く事になる本作品。 一応「十字架を身に付けている」「取材対象から保護も受けている」と説明されているんですが「狼男やゾンビには十字架なんて関係ないじゃん」「撮影者も人間なら襲われているはずじゃん」といった具合に、次々と矛盾点が浮かんで来ちゃうんですよね。 それらを黙って飲み込むか、あるいは笑ってツッコんでみせるか、どちらかが出来る人じゃないと、この映画は肌に合わない気がします。 ……で、自分としてはツッコみつつ観賞するスタイルを選んだのですが、これが正解。 変に真面目ぶらず、リラックスして楽しむ事が出来ました。 比重としては「吸血鬼達の生態を捉えたモキュメンタリー映画」という以上に「若者達の同居生活を描いた青春映画」としての側面が強い内容になっているのも、嬉しいバランス。 何せ同居人同士で喧嘩する理由が「皿を使った後は自分で洗え」だったりしますからね。 そういった些細な事が原因で衝突するのは、人間も吸血鬼も変わらないんだなぁ……なんて、ほのぼのしちゃいました。 串刺し公ヴラドというビッグネームが主人公グループの中にいて、まるで「昔はやんちゃしていた」みたいなノリで「昔は憂さ晴らしに拷問していた」とインタビューで語っちゃう辺りも、ブラックだけど面白い。 こういう「若気の至り」理論で過去の悪事をサラッと語っちゃう人、結構いますからね。 架空の存在であるはずの吸血鬼が、現実の存在である人間をパロっているという図式。 「鏡に映らない」「招かれないと建物に入れない」「銀を身に着けると肌が焼ける」などの吸血鬼の弱点を、しっかりコメディ仕立てで描いている辺りも良かったです。 (こういう作風なら、そこは押さえておいてもらわないと困る)って部分を、しっかり押さえてくれているという安心感。 高い場所を掃除する時や、ビリヤードで難しい球を突いたりする時に、フワッと宙に浮いてみせて(あっ、やっぱり空を飛べるって便利だな……)と感じさせてくれるのも良い。 獲物を誘い込む為に考え抜いたファッションで夜の街に出掛けたら、ゲイに間違われちゃうオチなんかも好きですね。 前者は吸血鬼だからこそのユーモア、後者は人間の若者達でも有り得そうなユーモアって感じで、両者がバランス良く盛り込まれていたと思います。 幼い頃に吸血鬼になった女の子は、幼い姿のままなのでロリコン男を誘って血を吸うというのには(なるほど……夜遊びしている子供は少ないだろうし、大人を狙うのが正解だな)と納得させられたし、その一方で(じゃあ少年吸血鬼はどうするんだ? ショタコン男を誘うのか?)という疑問も湧いて来たりして、そんな感じでアレコレ考えさせられるのも楽しかったですね。 この辺りは、端的で不完全な描写をサラリと見せるからこその長所、空想の余地を与えてくれる世界観って感じでした。 そんな「ロリコン」がラストの伏線になっており、主人公格である吸血鬼のヴィアゴ(=見た目は好青年)が九十六歳の老婆(=見た目と年齢が同じ)と結ばれて「僕の方が四倍も年齢が上」「ロリコンって言われたって良い」と誇らしげな笑顔で語ってみせるのも(そう来たか!)と思えて楽しかったです。 ここの展開に関しては、正直ちょっと伏線が足りないというか「彼女に告白出来ずに迷っていたヴィアゴの背中を、友人が後押しする」的なシーンが欲しいという不満もあるんですが、視覚的な面白さがそれを補ってくれた気がしますね。 作中、唯一の人間の仲間としてシチュが登場する訳だけど、そんな彼が劇中で言われている通り「本当に血の気が良くて、吸血鬼目線だと凄く美味しそう」なルックスをしている辺りも、これまた説得力があって良かったです。 シチュの親友であるニックが「吸血鬼になった事」を彼に告白し「ダチの血は吸わない」と宣言してみせて、人間と吸血鬼との友情を描いている辺りも好きですね。 ここの場面が一番「青春映画」って感じがしました。 棺の中でマスターベーションする場面とか、血の嘔吐を繰り返す場面とか、微妙に感じる部分もあったし「自分も人間から吸血鬼になりたくて、下僕として彼らに尽くす女性」の扱いや顛末に関しては(本当にそれで良いの?)と思う部分もあったりして、絶賛するのは難しいんですけど「好きなタイプの作品」である事は、間違いないです。 エンドロール後には吸血鬼の特技「催眠術」によって、観客にこの映画の内容を忘れさせるというオチが付く訳だけど、そのまま素直に忘れちゃうには、少々勿体無い品でありました。 [DVD(吹替)] 6点(2017-11-14 11:45:12)(良:2票) |
274. オースティンランド 恋するテーマパーク
《ネタバレ》 ちょっと評価が難しい一品。 それというのも、この映画って観客が「女性である事」「作家ジェーン・オースティンのファンである事」を想定して作られている感じなんですよね。 なのに自分と来たら「男性」「オースティン作品は映画やドラマでしか知らない」という立場な訳だから、流石に門外漢過ぎる気がします。 ……でも、そんな自分の価値観からしても、面白い映画であった事は間違い無いです。 監督はジャレッド・ヘス(代表作「ナポレオン・ダイナマイト」)の妻である、ジェルーシャ・ヘス。 元々、夫の作品で共同脚本を務めていた為か、これがデビュー作とは思えないほど自然な仕上がりとなっており、落ち着いて観賞する事が出来ましたね。 低予算な作りであり、イギリス摂政時代を完全に再現しているとは言い難いのですが、それが却って劇中の「オースティンランド」の小規模さとシンクロし、リアルな箱庭感を生み出していたと思います。 主人公のジェーンが(何か、思っていたのと違うなぁ……)と失望しちゃう気持ちも分かるし(でも、せっかく全財産を注ぎ込んで訪れたんだから、楽しまなきゃ!)と自らに言い聞かせるようにする辺りなんかも、凄く小市民的で、好感が持てました。 ストーリーの流れとしては、所謂「幻想の世界に浸っていた主人公が、現実と向き合う話」「オタク趣味から卒業する話」な訳だけど、主演にケリー・ラッセルという美女を配する事によって、あまり痛々しい印象を与えない作りになっているのも、ありがたい。 短い出番ながら、元カレが最低な奴だとハッキリ伝わってくるのも良かったですね。 主人公が現実に失望して、何時までも幻想の世界に閉じ籠っていたくなる事に、説得力が増す感じ。 映画の途中から「貴族であるノーブリー様との幻想の恋」「使用人であるマーティンとの現実の恋」が逆転していく流れも、鮮やかでしたね。 劇中のジェーン同様「マーティンも役者であり、最初から彼と結ばれるよう計画されていた」「実はノーブリーとの交流こそが、演技ではない本当の恋だった」という二段仕掛けの真実には、見事に驚かされました。 まず、最初に映画に登場するのはマーティンの方であり、観客としても自然と彼の方がメインかと思うよう誘導しているのが上手い。 そして、園内の役者達が休憩中に交わす会話に違和感があって、その違和感が伏線となっている辺りなんて、本当に感心しちゃいました。 マーティンは役者ではなく、本当にジェーンを好きになった純真な男であるはずなのに、彼女の名字を憶えていなかったりする。 その一方で、彼女に興味無いかと思われたノーブリーは、しっかり憶えている。 そういった伏線が効果的に盛り込まれているからこそ「裏切られた」という不快感ではなく「そう来たかぁ!」という快感に繋がってくれる形です。 素顔のマーティンは女に困らない陽気なプレイボーイ、素顔のノーブリーは親友と婚約者に裏切られて傷心中の真面目な男、という設定なのも、これまた絶妙。 あんまりノーブリーを「王子様キャラ」として描かれちゃうと、同性の自分としては鼻白むものがあるし、何より「現実と向き合って幸せを手に入れた」という映画の結論も、嘘臭くなっちゃいますからね。 そもそも、反発し合っていたはずの男女が惹かれ合うのも「高慢と偏見」のダーシーとリジーそのままだし「貴方は、このお屋敷のダーシー様」という台詞もあるしで、本作品って「オースティン作品の幻想から抜け出したと思ったら、ダーシー様のような素敵な男性と結ばれた」という、都合が良過ぎる結末なんです。 だからこそ、その現実世界における「素敵な男性」を、なるべく嘘っぽくせず、リアルに感じさせる必要がある。 彼は美男子だけど、不器用で、不幸な女性経験があって、歴史の教授だから金持ちでもない、という辺りが、程好い「身近な存在」っぷりで、良い落としどころだなと思えました。 あえて気になった点を挙げるとしたら「妊娠中の友達が、あんまりストーリーに絡んでこない事」「エリザベスとアンドリュー大佐の仲がどうなったのか、曖昧なまま終わる事」などが該当しそうですが、欠点とも言えないレベルでしたね。 それよりも、気に入った部分の方が、ずっと多い。 主人公カップルを祝福したくなるような、良い映画でした。 [DVD(吹替)] 8点(2017-11-08 08:40:11)(良:1票) |
275. アリゲーター(1980)
《ネタバレ》 「元祖ワニ映画」というよりも「ジョーズの便乗映画」という印象の方が強い一本ですね。 襲い掛かる時のBGMまで似ているし「怪物に襲われたと思ったら、人間による悪戯だった」と判明する場面なども踏襲している形。 これだけ書くと、如何にも粗悪な劣化コピーのようにも思えちゃうのですが、然にあらず。 中々面白く、しかも「JAWS/ジョーズ」には無い本作独自の魅力まで感じられたのだから、嬉しかったです。 主人公が頭髪の薄さをネタにされる件なんて、最初はクスリともしなかったのに、その後も繰り返しネタにしてくるもんだから、つい笑っちゃう。 とうとうワニを倒した後のハッピーエンドの場面でさえ「ママもハゲが好きなのよ。家系らしいわ」とヒロインに言わせて終わるんだから、本当に徹底していましたね。 この主人公のキャラ造形って「真面目な刑事」「過去に相棒を死なせたトラウマがある」「動物好きで優しい」といった具合に、かなり王道なもんだから、ともすれば印象が薄くなりそうなものなのに、この「ハゲ」弄り効果によって、色濃く記憶に残ってくれました。 特撮も現代基準だと結構拙いんですが、頑張って巨大に見せようと撮っているのが伝わってくる為、憎めなかったですね。 小さな車や街の模型を作り、そこを普通のワニに歩かせるシーンなんて(あぁ、こういうの好きだなぁ……)と、しみじみ感じちゃったくらい。 ワニの巨大な眼も不気味に描かれていたと思いますし、子供相手でも容赦無く殺す残忍さも良い。 マンホールの下からワニが飛び出し、咆哮するシーンなんかも「怪獣映画かよ!」とツッコませてくれて楽しかったです。 昔の映画らしく、全体的にノンビリした展開なのですが、そんな中「新しい相棒になるかと思われた若い警官」「鳴り物入りで登場したワニ退治の専門家」などの重要キャラが、あっさり殺されるサプライズも用意しており、観客を飽きさせない作りになっているのですよね。 特に後者は、ワニの糞を見つけ「これはでかい」と大喜びするシーンがコミカルで印象深かっただけに(こりゃあ最後まで殺されないで生き残る立ち位置だな)と予想していたところを、裏切られた形。 あえて欠点を挙げるなら、冒頭にて赤ん坊時代の「ラモン」を飼っていた子が成長してヒロインになった訳だから、人を殺しまくっている巨大ワニが「ラモン」であると、彼女が覚るシーンがあっても良かったかも知れませんが、気になったのはそれくらいでした。 クライマックスにて「爆弾のカウントダウン」と「マンホールから脱出する主人公の姿」を一秒毎に交差させつつ描くシーンなんかは、特に素晴らしかったですね。 ここで気分を最高潮に盛り上げてもらい、そのまま爆発によってワニ退治成功→「悲劇は再び繰り返す」な下水道のワニの赤ちゃんを映してエンドロール突入という、実に綺麗な終わり方。 ラスト五分ほどで、一気に作品の印象を良くしてくれた気がします。 正直あまり期待していなかっただけに、意外な掘り出し物でした。 [DVD(字幕)] 7点(2017-11-07 12:25:47)(良:1票) |
276. THE 有頂天ホテル
《ネタバレ》 「グランド・ホテル」形式の作品である以上「出演者が有名人だらけのオールスターキャスト」である事が要求される訳ですが、その点は間違いなくクリアしていましたね。 (あっ、オダギリジョーだ)(唐沢寿明だ)といった感じに、脇役も見知った顔ばかりなのだから、実に贅沢。 大晦日を舞台としている事も併せ、お祭り映画としての楽しさが伝わってきました。 ……ただ、自分としては主人公であるはずの副支配人のエピソードが好みではなかったりして、そこは残念。 とにかくもう、見栄を張って元妻に嘘を吐く姿が痛々しくて、観ているこっちが恥ずかしくなっちゃうんです。 映画の最後を締める「おかえりなさいませ」の一言にしても、妙に滑舌が悪いもんだから(いや、これは撮り直せよ)とツッコんじゃったくらい。 この時点で「好きな映画」とは言えなくなってしまった気がします。 でも、そこは群像劇の強み。 複数の登場人物、複数のエピソードが用意されているもんだから、その中から自分好みのものを探す事が出来るようになっており、有難かったですね。 自分の場合、香取慎吾演じる「夢を諦め、故郷に帰ろうとしている青年」の憲二君がそれに該当し、このキャラクターのお蔭で、最後まで退屈せずに観賞出来た気がします。 歌手を目指していたという設定の為、終盤で絶対唄う事になるんだろうなと思っていたら、やっぱりそうなるという「お約束」「ベタさ加減」も心地良い。 ホテルの壁が薄い事が伏線になっており、彼の歌を聴いて、隣室の客が自殺を思い止まる展開になる辺りも良かったです。 演歌歌手を演じる西田敏行も魅力的だったし、そんな彼に「プロにはなるな」「君程度の歌手は五万といる」と諭され、意気消沈するも、やっぱり夢を諦め切れずに再びギターを手にする憲二君という流れも(そう来なくっちゃ!)という感じ。 かつて手放したはずのラッキーアイテムが、結局は手元に戻ってくる流れなんかも、非常に綺麗に決まっていたと思います。 そして何より、周りの人物、かつて夢を叶えられなかった人々が「夢を諦めないで」とエールを送る形になっているのも、実に素晴らしい。 ここの件だけでも(観て良かったな……)と、しみじみ感じ入りました。 そんな人々の想いと、叶わなかった夢の数々を背負って、憲二君がラストに熱唱する姿を、是非観たかったのですが……結果的には、YOU演じるチェリーさんに見せ場を奪われた形でしたね。 この辺りは「群像劇であるがゆえに、色んな人物に見せ場を用意する必要がある」という事が、マイナスに作用してしまった気がします。 最後をチェリーさんで〆るなら、もっと事前に「歌に対する彼女の想い」を描いておくべきだったと思いますし、そういった積み重ねが足りていないから、ラストに彼女が唄ってもカタルシスが無い。 逆に「歌に対する想い」が濃密に描かれていた憲二君に関しては「もう充分に見せ場を与えたから」とばかりにクライマックスで唄ってくれないので、結果的に両者ともに浮かばれない形になっているんです。 いっそ最初はチェリーさんが単独で唄い、途中から憲二君がギターを弾きつつ参加して合唱する流れにしても良かったんじゃないかと思うんですが、どうなんでしょう。 どちらかといえば、もっと長尺のテレビドラマ向きの題材じゃないか、とも思えたので、そちらのバージョンをアレコレ妄想してみるのも楽しそうです。 [DVD(邦画)] 6点(2017-11-01 09:21:43) |
277. 吸血鬼ゴケミドロ
《ネタバレ》 とにかくもう、展開が早い早い。 映画が始まって十分も経っていないのに「旅客機がハイジャックされる」→「不時着する」までを描き、その間にも「血の海のように赤い空」「その中を泳ぐように飛ぶ旅客機」「窓に激突して血みどろになる鳥」と、印象的な場面をバンバン盛り込んできますからね。 「爆弾魔は誰か?」「狙撃犯は誰か?」といった作中の謎も、手早く解き明かし「人間VSゴケミドロ」「人間VS人間」という対立劇に移行する。 その潔さ、割り切りの良さ、実に天晴です。 本作は国内外でカルト的な人気を誇っており、あのタランティーノ監督もお気に入りとの事ですが、その理由の一つは、この「早さ」が心地良いからじゃないかな? と思えました。 作品のテイストとしては、自分の大好きな「マタンゴ」に近いものがあり、ゴケミドロなんかよりも、人間の方がよっぽど恐ろしいと思える作りになっているのも特徴ですね。 日頃恨みを抱いている相手に、喉が焼けて苦しくなると承知の上で、水ではなくウィスキーを飲ませる件なんて、特に印象深い。 また、如何にもな悪徳政治家とその手下だけでなく、金髪美人のニールさんまでエゴを剥き出しにする辺りも、意外性があって良かったです。 ヒロインと並んで「善人側」であると思っていた彼女が、銃を手にして主人公に発砲し、自分だけでも助かろうと足掻く姿を見せてくる訳ですからね。 これは、本当にショッキングでした。 楠侑子演じる法子さんがゴケミドロに操られ「人類の滅亡は目前に迫っている」と語った後、笑って崖から身を投げるシーンも、忘れ難い味があります。 干からびてミイラになり、恐ろしい姿になっていた、その死体よりも何よりも(もしや、最後の笑いと自殺に関しては、操られての事ではなく、自らの意思だったのでは?)と思える辺りが怖いんですよね。 それは人間の意思がゴケミドロに敗北してしまった事の証明、狂気に負けてしまう人間の弱さの証明に他ならず、深い絶望感を与えてくれます。 そんな風に「テンポの良さ」「随所に盛り込まれる衝撃的な場面」などの長所がある為、細かな脚本の粗は気にならない……と言いたいのですが、ちょっと粗が多過ぎて、流石に気になっちゃう辺りが、玉に瑕。 まず、高英男演じる殺し屋は素晴らしい存在感があり、ゴケミドロに寄生されて襲い掛かって来る姿もインパクトがあって良いんですが、これって脚本的に考えると、凄く変なんですよね。 だって彼、最初から主人公達と敵対している殺し屋であり、別に寄生なんてされなくても、元々が銃を使って争っていた相手なんです。 にも拘らず寄生されてからはゾンビや吸血鬼よろしく、ゆっくりと動いて襲い掛かって来るのだから「見た目が怖くなっただけで、むしろ敵としての危険度は下がっている」訳であり、これは明らかにチグハグ。 ベタかも知れませんが、こういった寄生型の場合「本来なら敵対するような間柄じゃなかった相手に襲われてしまう」「善良だった人物が化け物に変わってしまう」という形の方が、よりショッキングだったんじゃないかなと。 もしかしたら「ゴケミドロよりも人間の方が恐ろしい。だからこそ寄生される前の方が危険な存在だった」というメッセージを意図的に盛り込んだのかも知れませんが、それならゴケミドロなんか襲来しなくても人類が勝手に自滅したという結末の方が相応しい訳で、やっぱりチグハグ。 脚本上の難点は他にも色々とあるのですが、自分としては、そこが一番気になっちゃいました。 ただ、バッドエンドが苦手な自分でも、本作の「人類滅亡エンド」に関しては、不思議と受け入れられるものがありましたね。 最後まで善良さを保っていた主人公とヒロインが、直接死亡する描写が無い事。 「宇宙の生物は、人間が下らん戦争に明け暮れている隙を狙って攻撃しようとしている」との言葉通り、戦争批判が根底にある事。 そして何より「人類が戦争を続けていると、何時かこうなっちゃうかも知れないよ」という反面教師的なメッセージが込められているからこそ、観ていて嫌な気持ちにならなかったのだと思われます。 そういった具合に、歪だけど不思議と整っていて、もしかしたら凄い映画なんじゃないか……と錯覚しそうになる。 そんな絶妙な、しかして危ういバランスこそが、本作最大の魅力なのかも知れません。 [DVD(邦画)] 7点(2017-10-28 06:41:00)(良:3票) |
278. 自虐の詩
《ネタバレ》 良い話だし、感動もしたはずなのですが、どうも引っ掛かる部分がある一品でした。 まず、主人公の内縁の夫であるイサオに感情移入出来ないというか、同性の目からすると引いちゃうものがあるんですよね。 実質的な妻であるはずの幸江を働かせて、自分は働かない、家事もしない。 喧嘩して警察のお世話になったり、パチンコに使う金を幸江に集ったりで、あまりにも情けない男なんです。 こういった「暴力的で不器用な男」に惹かれる女性がいるのは分かるし「ああ見えて、良いところあるんだから……」という幸江の一言によって、彼女がイサオに依存している事も、分かり易く描かれてはいるんですが、ちょっと自分としては距離を感じちゃいました。 唯一「幸江を殴ったりはしない」という線引きを守っている事には感心しましたが、流石にそれだけじゃ物足りなかったです。 そんな二人の馴れ初めが、後半の回想シーンによって明かされる形になっている本作品。 「不幸な生い立ちゆえに薬物中毒の売春婦となっていた幸江を、イサオが救い出してくれた」 「だからイサオが駄目男になっても幸江は見捨てたりしない」 との事なので(良い話だなぁ……)と感じる一方(で、そんな理想の王子様みたいだったイサオが、何で駄目男になったの?)という疑問も湧いてきたりして、どうもスッキリしないんですよね。 「根っからのヤクザ気質なので、ヤクザを辞めたらまともな仕事も出来なくて恋人のヒモになってしまった」「そんな自分がやるせなくて、かつては女神のように崇拝していた幸江にも冷たくなってしまった」のだと解釈すれば、やっぱり(情けない奴だ)って感想しか出て来ないです。 イサオの代名詞であろう卓袱台返しに対しても、作中でお約束として何度も繰り返される度に「食べ物を粗末にするなよ」ってツッコんじゃったくらいなので、自分とは相性の悪いキャラクターだったのだと思います。 そんな具合に、根底の部分で肌に合わないものがあったのですが、全体的には楽しめたし、面白かったですね。 牛乳と饅頭をくれたりした新聞配達の雇い主が「悪いけど、明日から配達来なくて良いよ」と言う場面は衝撃的だったし、そういった不幸な場面が丁寧に描かれているから、観客としても、主人公には幸せになって欲しいと思わされる。 お守りの五円玉や、刻み海苔など、小道具の使い方も上手い。 熊本さんと殴り合って育まれる友情、駅での別れ、空港での再会も、ベタだけど良かったです。 「前略お母ちゃん、貴女は何故私を産んだのですか?」という冒頭の問いかけが、妊娠によって主人公の身に返って来る構成にも、ハッとさせられました。 その問いに対する答えは、やはり「幸せになりたいから」だろう。主人公も子を産む事によってハッピーエンドを迎えるはず……と思っていたら、それがちょっと違う方向に着地する辺りも、意外性があって良い。 「主人公カップルは生まれてきた子供と一緒に、幸せそうに海を眺めて終わり」 「その一方で、ラーメン屋の店主や隣人の小春さんは、不幸になる未来が示唆されている」 「結局、主人公達は結婚もしないし、イサオは真面目に働き出したとも思えないしで、子供が生まれた事以外は何も変わっていない」 という形であり、完全なハッピーエンドとは言い難いけど、主人公二人の状況は改善されたし(まぁ、これで良いのかな?)と思える、不思議なバランスだったのですよね。 恐らく「幸や不幸は、もういい」「どちらにも等しく価値がある」「人生には間違いなく意味がある」というメッセージで完結させた以上、何もかも幸福にして終わる訳にはいかない為、こんな形になったのだと思われます。 自分としては主人公カップルよりも、彼女達を支える隣人側に肩入れする気持ちがあっただけに、そこは少し残念。 主人公達が不幸を乗り越え「人生の意味」を見出せたのと同じように、店主や小春さん達も、何とか乗り越えて欲しいものです。 [DVD(邦画)] 6点(2017-10-26 22:44:21)(良:2票) |
279. RV
《ネタバレ》 「ロビン・ウィリアムスの映画で一番好きなのは?」と問われたら、本作の名前を挙げます。 感動して泣いちゃうとか、ギャグに大笑いしちゃうとか、そういう訳じゃないんだけど、とにかく「面白い」というより「好き」な作品なんですよね。 良質な家族映画であり、旅行映画であり、何度も観返したくなるような魅力がある。 何故こんなに好きなんだろうと理由を分析してみると「RVの魅力を、きちんと描いている事」が大きい気がしますね。 飛び出すリビング機能とか、キッチンもシャワーもトイレも付いているとか、小さなTVで映画も観られるし、後部にあるベッドで休む事も出来るとか、そういった性能面について、自然な流れで紹介してみせている。 凄ぉ~くベタな感想だけど「こんなRVで旅行してみたいなぁ」って思わせる力があるんです。 勿論、コメディのお約束で劇中の旅はトラブル続きであり、ともすれば悲惨で笑えない空気にもなりそうなんですが、そこをギリギリで踏み止まっているのは、主演俳優の力が大きいのでしょうね。 ロビン・ウィリアムスの、あの笑顔と、飄々とした演技のお蔭で「何があっても、最後はハッピーエンドを迎えてくれる」と、安心して観賞する事が出来る。 この「安心させる」って、観客を泣かせたり、笑わせたりするよりも、ずっと難しい事でしょうし、そう考えると、やっぱり凄い俳優さんなのだなと、改めて実感します。 「反抗期を迎えていた娘が、幼い頃と同じように心を開いてくれる」 「キャッチボールを通して、息子とも仲良くなる」 といった具合に「家族の再生」が優しい空気の中で描かれているのも、凄く心地良い。 序盤は下品なネタが多かったり、中盤以降はカーアクションもあったりと「笑い」の部分は派手で尖っていただけに、そういった真面目な部分は奇を衒ったりせず、落ち付いて、穏やかに描いているのが、良いバランスだったように思えますね。 序盤の車中では、各々違う歌を好き勝手に唄っていた家族が、終盤には同じ歌を合唱してみせる演出も、非常に分かり易くて良かったです。 準主役級のゴーリキー家族も魅力的だったし、ネルソン・ビーダーマン四世ことウィル・アーネットが悪役を楽し気に演じてくれているのも嬉しい。 「やぁ、ローラ。妻はいないよ」とか「バーベキューセットを買ったからね」とか、台詞による小ネタの数々も好み。 家族に隠れつつ企画書を書き上げた時の達成感に、悪魔の峠を越えて間一髪で間に合った瞬間の安堵感なども、忘れ難いものがありました。 仕事人間だった主人公が、土壇場で良心を優先させて退職を選び、その後にちゃっかり新しい勤め先を見つけたりと、あまりにも予定調和過ぎて、都合が良過ぎるオチが付くのも、この映画らしいですね。 天丼の「勝手に動くRV」ネタを挟みつつ、最後は家族皆で笑って、楽しく唄って終わり。 ハッピーエンドが似合う、良い映画です。 [DVD(吹替)] 8点(2017-10-25 01:31:52)(良:1票) |
280. SHERLOCK/シャーロック 忌まわしき花嫁<TVM>
《ネタバレ》 数あるホームズ物の中でも、一番好きな本シリーズ。 舞台を現代に置き換えたアレンジが絶妙だった本編に対し、あえて原作と同じヴィクトリア時代を舞台にした番外編的な作りに、大いに期待が膨らんだのですが……結局は劇中の飛行機よろしく「現代の物語に着地した」感じなのが残念でしたね。 これは、あくまでも全十三話あるドラマの中の一話に過ぎず、さほど特別な話でもないし、これ単品で楽しめるような代物でも無かった、という形。 二十一世紀で活躍する主人公シャーロックが、薬物の作用によって垣間見た「一種の妄想オチ」となっており、それゆえに何でも有り過ぎて、観ていて興醒めしちゃうんですよね。 劇中で女装したモリアーティが「真面目にやれよ」「馬鹿々々しい」とツッコんでいるから、スタッフは確信犯的にやっているんでしょうけど、ちょっとノリ切れなかったです。 せめて「忌まわしき花嫁」事件だけは、キチっと十九世紀の世界で決着を付けて欲しかったですね。 トリックやら犯人やらは明かされているんだから、そのまま素直に事件解決として、その後に現代に視点を移した方が良かった気がします。 ……それでも、流石は「SHERLOCK/シャーロック」とでも言うべきか、魅力的な部分も一杯あって、どうにも憎めなかったりするものだから、困りもの。 「現実に存在するホームズは困った奴なのに、小説では紳士的なヒーローとして書いている」とか「私も挿絵に合わせて髭を生やした」とか、ワトソンがボヤく姿だけでも、面白くって仕方ないんですよね。 (へぇ、こっちの世界のモリーは男性なのか……)と思ったら、実は女性で男装しているオチだった辺りも、良かったです。 「本編に対する番外編なので、性別が違っている事も有り得る」という思い込みを、上手く利用された感じ。 小間使いの少年やメイドなど、十九世紀ならではの人物が登場する辺りも、本作だけの特別な魅力と言えそうですね。 それと、オールバック姿のホームズを演じてみせたカンバーバッチについては、当初こそ(ジェレミー・ブレットに匹敵するくらい素晴らしい!)と思えたのですが……途中で現代のシャーロックに視点が切り替わると(あっ、やっぱり普段の髪型の方が良いな)と思えたりもして、評価が難しかったです。 原作のホームズのルックスに近いのは十九世紀版の方なんでしょうけど、やはり自分としては、二十一世紀のシャーロックの方が好きみたい。 最後の台詞にて「僕は時代を越える男だから」と語られていた通り「現代に甦ったシャーロック・ホームズ」という本シリーズの主人公が、如何に魅力的であるかを、十九世紀の世界を通して再認識させられる。 そんな「第十話」でありました。 [DVD(吹替)] 6点(2017-10-24 22:50:44) |