281. ゴーストライター
《ネタバレ》 中盤くらいまでは割といい感じなのです。落ち着いた進行の中にも適度にそれっぽい手がかりが撒かれていて、じわじわとスリルが増していきます。また、若すぎず老けすぎず、善人すぎず悪人すぎないというユアン・マクレガーのキャラクターも、作品に合っています。キム・キャトラル&オリヴィア・ウィリアムズの適度な自己主張ぶりも、スパイスとして効いています。●ただ、終幕に向けて、結局はありがちパターンに収まってしまったというか、広げた風呂敷を畳めなかったというか・・・ひねりたかったからひねった、というだけのオチになってしまいました。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2023-08-20 20:42:41) |
282. 皇帝のいない八月
《ネタバレ》 渡瀬恒彦はせいぜい現場の下士官くらいにしか見えず、数千人規模の「クーデター」とやらを精緻に準備して実行するリーダーにはとても見えない。●吉永小百合の役がこの話に何で必要なのかがさっぱり分からなかったのだが、やはり、彼女が登場するたびに思いっきりブレーキになっており、スリルが削がれている。●高橋悦史の出番多めなのは良かったのですが、三國連太郎をアゴで使うというのは、どう考えても違う気が・・・。●丹波哲郎を制服組トップくらいの扱いで出しておいて、さてどんな活躍をするのかと思いきや、何と、解決には何も関わってないどころか、その後出番がまったくなしとは!●いい感じで登場する神山繁先生&健作の記者コンビは、その動きが危機の解決に作用して・・・と想像していたら、ただ「それだけ」でした。●乗客で渥美清&岡田嘉子(!!!)が登場したときは、車両の中でも乗客のドラマが展開して・・・と想像していたら、ただ「それだけ」でした。●というわけで、全体的に豪華キャストの無駄遣いなのですが、見どころがあったのは、どこまでいっても画面内構築力を発揮する山本圭くらいでしょうか。ただ、結局は車内でオロオロしているだけで、何もしていませんが。後は、短時間で美味しいところを持っていった山崎努かな。 [CS・衛星(邦画)] 3点(2023-08-19 01:06:48) |
283. ウォールフラワー
《ネタバレ》 よくある学園下層カーストものかな、と思いながら見始めていたら、作中の主人公の生活同様、サム&パトリックのコンビ登場によって、映画も大きく動き始める。登場人物それぞれのちょっとした行動が、予想しない方向に、しかし必然性をもって物語を進めていく。そのやりとりが、ありがちなようでちょっとだけ突き出ている、あるいはずれているという匙加減とバランス感覚が絶妙です。その中で、主演の3人は、特に際立ったアクションを要求されないというむしろ難易度の高い演技に、きちんと対応しています。80年代のジョン・ヒューズ周辺の青春モノを品良くレベルアップした内容、と言ったら褒めすぎかな?最後の過去のトラウマ云々のところは、ちょっと詰め込みすぎかなとも思ったのですが、もともと原作を書いた人が脚本と監督をしているので、どうしても切れなかったのでしょうね。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2023-08-18 01:12:46)(良:1票) |
284. 暗殺(1964)
《ネタバレ》 清河八郎とはまた、何とも主人公にしにくい人物にスポットを当てたものだな・・・と、逆にこれをどうするのかを興味深く見たのですが、結局、何ともなっていませんでした。特段活躍らしい活躍は何もしていませんし、格好良い場面も見当たりません。回想その中の回想と連続する構成も、見ていて疲れてきます。最後に京都でひっくり返して攘夷宣言をするのですが、そこだけですよね。しかも、一瞬だけ近藤勇と土方歳三が出てきますが、彼らこそ、清河と決別するところから歴史を始めたわけですし、むしろそこに全部持って行かれてしまいました。 [CS・衛星(邦画)] 4点(2023-08-17 01:26:41) |
285. ロニートとエスティ 彼女たちの選択
《ネタバレ》 レイチェル・ワイズとレイチェル・マクアダムス!というキャスティングの時点で、すでにクオリティは保証されています。その彼女たちを信頼するかのごとく、まずは、かつての経緯が影響している話なのに、回想シーンなしという驚くべき構成。そして、当事者の抑圧感を具現化するかのような、感情が爆発しないじわっとした描写。むしろ、この二人には珍しい「メソメソ演技」とさえいえるかもしれません。で、その場にいるだけでも十分な画面構築力を有している二人なので、それを見ているだけで十分楽しめるのですが、ただやはり終幕部分は、観念的にまとめてしまったというか、無難な方に逃げた感があるかな・・・。 [DVD(字幕)] 6点(2023-08-16 02:06:01) |
286. 角砂糖
《ネタバレ》 競馬の女性騎手が主人公です。全体としては、やっていることが「競馬一直線」なのが良い。人と馬との心温まる交流が、などというごまかしの方向には流れていません。その上で、競馬の撮り方自体も、いろんなレースをあらゆる角度からふんだんに切り取っています。またそれ以外でも、「大通りでタクシーを追いかける馬」というシュールな光景をぶち込んでくる豪快さもあります。●で、途中で馬の鼻血という伏線っぽいものが出てくるのですが・・・それに何か医学的な理由があって、それによって新たなドラマの展開が、と思っていたら、何のことはない。よくメロドラマとかである、「いきなり不自然な吐血」→「実はその人物には生命の危機が迫っていた」という、アレです。また、突然馬がフィールドに立って動かないのも、「俺は死んでもこのレースには出てやるぜ!」という、スポ根モノによくある、アレです。つまりこの作品は、終盤から、50年くらい前のメロドラマまたは青春ドラマに突入してしまうのです。よってラストも、もちろんアレです。もっともらしく出てきた登場人物の大半はほっぽり出されている、というようなことはまったく気にしていません。そして一番凄いのは、馬であってもそのフォーマットというか様式美の一員として平然と扱っている、という点です。この潔さには、何ともあっぱれと言わざるをえませんでした。 [DVD(字幕)] 6点(2023-08-15 01:21:17) |
287. 栄光のランナー/1936ベルリン
《ネタバレ》 1936年のベルリン・オリンピック陸上で4冠を成し遂げた伝説のアスリート、ジェシー・オーエンスの伝記です。全体の作りは真面目で実直です。主人公は黙々と競技に向かっていきます。ですが、制作側がネタを掘り起こすことができなかったのか、結局はただ単に主人公は頑張りました、そして勝利しました、というだけで終わっています。リレーなんかは、直前のメンバー入れ替えなどという事態もあったわけですから、他のチームメンバーに上手くスポットを当てれば、もう少し盛り上げられたと思うんですけどね。一方で、単調になるのを避けようとしたのか、ある意味で映画史の伝説の人物であるレニ・リーフェンシュタールを登場させ、さらにそこにゲッベルスを絡ませるということもしていますが、これも主人公の物語とは別個に進行しているだけであり、あまり機能していません。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2023-08-14 01:33:47) |
288. ノック・ノック(2015)
《ネタバレ》 オリジナルは「発想は異様に突出していたが、手法が伴わなかった」の典型例だったので、リメイクしようという発想は当を得ている。はたして、いきなり危機に突入とかではなく、じわじわせり上がってくる序盤部分などは、オリジナルよりも数段上を行っている。ただ、中盤以降は基本的にはオリジナル同様で、そっちには新鮮味があまりありませんでした。あの変なメイクはない方がよかったと思いますし、もっと知能的に(?)メンタルを削ってくるような戦法を見たいところでした。ラストは上手い落とし方でしたけどね。 [DVD(字幕)] 5点(2023-08-09 00:23:32)(良:1票) |
289. メイク・アップ(1977)
見る側に嫌がらせを仕掛けるかのような、巻き込まれ型理不尽サスペンスを突き詰めた姿としては、この年代では割と斬新だったのではと思いますが・・・しかし、発想が尖っているのはいいとしても、手法が全然ついていなくて。特に、アップばかりのカメラと、バックを全部真っ暗でごまかしている照明は、別な意味で見ていて気分が悪くなりそうです。また、女二人の行動も、あそこまで振り切ってしまうとかえって(映画としては)怖くなくて、もっと心理的な制圧の部分を絡めてほしいところでした。まあ、その方向性の技を研ぎ澄ませても、逆に「ファニーゲーム」になってしまうのですが。 [DVD(字幕)] 3点(2023-08-04 00:30:58) |
290. テリー・ギリアムのドン・キホーテ
《ネタバレ》 始まっていきなりの二重構成に何じゃそりゃと思っていたのですが、最後までそのまま自信満々に押し切ってしまったのにはびっくりしました。どこまでも広がる妄想力と、それを何としても作品内に具現化させるという底なしの執念。まさにこの監督ならではです。しかし、一つ一つのシーンはきちんと撮られているだけに、通しで見ていると頭が痛くなってくるのも事実です。最後にヒロインがサンチョ・パンサになるというオチなどは気が利いているだけに、もう少し焦点を絞って尺も縮めたら名作になったのではとも思いますが、そういう理性的なやり方ではこの作品はできないか。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2023-08-03 00:07:14) |
291. 落下の王国
青年が少女に話をする風景と、その話の中身そのものを並行して混在させようとした意図は分からなくもないですが・・・しかしそれならば、現実と虚構を突き通すほどの強力な芯が、話の内容に存在していなければなりませんが、そこまで達していません。つまり、設定を追うだけで制作側が息切れしてしまったということです。この世界を完成させようと思うならば、よほどの妄想力と、そしてそれに説得力を持たせるほどのディテールへの配慮が必要です。 [CS・衛星(字幕)] 4点(2023-08-02 01:26:46) |
292. グッド・タイム
《ネタバレ》 兄弟が強盗に入って、弟だけ逮捕されるんだけど、さてそれから兄はどうする・・・という出だし。一応、筋立てやネタはいろいろ考えられていて、類型に陥ってはいません。また、主演の彼も、適度にヒリヒリしているというか、もっというと若干サイコパス的な主人公の人格を、なかなか上手く表現しています(そして、随所で口先だけで乗り切ってしまうのが笑えます)。ただ、ひねりはきちんとあるのですが、その分、結局肝心の弟はどこ行っちゃったんだという気がしないでもありません。また、途中で出てくる女の子は、もう少し絡ませられたはずなのに、今ひとつ絡みきれなかった感じです。全体が推定24時間以内のお話というこだわりは、ポイントが高いんですけどね。 [DVD(字幕)] 5点(2023-08-01 01:17:59) |
293. ウォンタクの天使
《ネタバレ》 この世に想いを残して死んだ父の霊が、別人の身体で息子の前に現れてあれこれするという、定番ゴーストものです。息子は非行に走りかけているのですが、父側は単に空気を読まずに突っ込んで行くだけなのがおかしい。息子もその友人も、当初はいきっていたのに、段々何だコイツ的なリアクションになっていきます。またラスト部分も、ベタとはいえなかなかの盛り上げです。一方で、冒頭で意味ありげなヤクザが出てきて、また天使もこれと絡んでというサブストーリーがあるのですが、これが見事に機能していなくて・・・天使は人間ではないのですからあくまでも天使のままでいるべきですし、ヤクザはヤクザで機能を考えてほしいところでした。結果、天使と主人公が絡むという美味しいはずの場面が、中盤ではまったくなくなっています。 [DVD(字幕)] 5点(2023-07-31 00:52:50) |
294. 日曜日が待ち遠しい!
邦題から勝手に、ルンルンでハッピーなコメディを想像してしまっていました・・・。やたら怖そうなサスペンスがずっと続くのにびっくりしましたが、しかしそうであっても、全体的に同じようなシークエンスが繰り返されているだけであって、メリハリや解決がありませんでした。 [CS・衛星(字幕)] 4点(2023-07-30 00:07:17) |
295. もし、あなたなら ~6つの視線
《ネタバレ》 韓国人権委員会製作(!)の6短編オムニバス。しかし、事前の予想に反して、それほど教条的なところはありませんし、何かを声高に叫んでいるわけでもありません。【1本目】高校が舞台なのですが、教室内のじわっとした不気味な空気の作り方が良い。ハーフアップ多用気味の画面の迫力もなかなか。オチも皮肉が効いています。【2本目】これもなかなか静かに研がれた迫力がありますが、母親側と男性側がそれぞれ浮いているというか、描写として上手くクロスしてないような・・・。【3本目】頻繁なサブタイトルの意味も含めて、これだけ意味がよく分かりませんでした。【4本目】口蓋障害の子の治療譚かと思っていたら、英語教育への批判がテーマだったのですね。ただそれなら、もう少し伏線が欲しいところでした。【5本目】短時間でオチを鮮やかに決めていますが、オチだけの話という気も・・・。【6本目】さすがはパク・チャヌク、この中でも一番の時間(約25分)をとった上で、一気に見せ切っています。終始カメラ一人称というのもあっと驚く仕掛けですし、挿入されるインタビュー形式も、この場合は上手く決まっています。以上、いろいろ不足はあるものの、全体としてはそれぞれパンチがあって、各作品に存在の意味がありました。 [DVD(字幕)] 6点(2023-07-27 00:11:11) |
296. 30年後の同窓会
30年前の戦中の共同体験が、重みも歴史も感じさせず、設定のための設定にしかなっていない。このやりとりなら、それこそどこかその辺の居酒屋レベルの同窓会でも、いくらでも展開されてそうな内容です。リンクレイターは、一般人の一見ありがちな日常生活を丁寧に描き出す術には長けているのですが、変にシリアスな方向に手を出して、迷走してしまったんじゃないかな・・・。一方で、1つの会話をじっと長時間積み重ねるやり方は、それはそれでいかにもリンクレイターなのですが、この素材との関係でその手法が適しているようには見えません。 [CS・衛星(字幕)] 4点(2023-07-23 23:44:34) |
297. 瞳の中の訪問者
片平なぎさと志穂美悦子の(ましてや映画での)取り合わせとは実に貴重な、と思いながら見始めたのですが、それ以外に見るべきところはありませんでした。冒頭でブラックジャックのアニメーションをもっともらしく出していながらどう見ても脇役以下だし、本来ならドラマの中核たるべき片平と峰岸のやりとりも、何とも陳腐で中途半端です。悦ちゃんも「綺麗なお姉さん」という以上の存在ではなく、持ち味を発揮する場面なし。 [DVD(邦画)] 2点(2023-07-22 00:33:13) |
298. ジミー、野を駆ける伝説
《ネタバレ》 最初のところで英蘭対立の字幕説明が入るが、いざ話がスタートしてからは、それはあまり関係なさそうで、宗教や地域慣習からの圧迫が中心になってくる。いや、国家間対立も背景にはあるのかもしれないが、あまり描写されない。最後は国外追放という理不尽な結末を迎えるのだが、官憲がなぜそこまでムキになるのかもよく分からない。というわけで、この監督らしい落ち着いた丁寧な描写の積み重ねではあるのですが、その先にあるべきものが見えてきませんでした。 [DVD(字幕)] 5点(2023-07-18 00:43:00) |
299. 無頼の谷
《ネタバレ》 前置きを簡潔に済ませて主人公が復讐相手探索の旅に出るのですが、これが実にあっという間。筋書をダイジェスト説明しているようなものです。一方で、敵の拠点に到達してからは、今度は一転してスローペースになって、特に女ボスとのあれこれはやたらねっとり描写される。よって、最後に向けても迫力が盛り上がりませんでした。大体、こういった役にディートリッヒ姐御を当ててしまうと、こういうぶらっと現れた(それも何か頼りなさそうな)男によろめきそうな気がしないんですけどね。 [DVD(字幕)] 5点(2023-07-17 20:07:40) |
300. イングリッド・バーグマン ~愛に生きた女優~
あのイングリッド・バーグマンのドキュメンタリー、という時点で、すでに作品の意義は保証されているわけです。角度としては、彼女は長年にわたってまめに日記を残しており、また自ら「撮るのが好き」と言っているほど、自分で撮った(あるいは撮ってもらった)と思われるホーム・ムービーが多数存在しているので、それがそのまま素直に配列されています(しかもこのホーム・ムービー、焦点も構図もしっかりしており、単に素人が撮った家庭内動画というレベルではない)。しかも人生そのものもドラマチックでしたので、余計な演出を加えずにそのまま再構成していくのが正解であるわけです。●それにしても、ナレーション担当のアリシア・ヴィキャンデル、まだ若いのに、イングリッド本人役としての日記の朗読という重責を堂々と果たしているのは、大したものです。作品の内容そのものと同じくらい、このアリシアのナレーション能力も、鑑賞の対象として十分です。 [DVD(字幕)] 7点(2023-07-15 01:04:35) |