281. 007/スペクター
《ネタバレ》 本作が製作発表されて次は「スペクター」と知ったとき、「スカイフォール」のクオリティと従来の007の娯楽路線が混ざったらどんな凄い映画になるか、期待値MAXでした。ところが公開後、あまり芳しくないレビューをあちこちで見かけ、なんとなく見られないまま公開終了。で、やっと鑑賞したわけですが、期待値が下がってた分もあって、感想は思ったよりは悪くない。旧作同様に、ボンドがあちこちうろうろして、女の人と会って、アクションして、の繰り返しなのですが、シーンの見せ方はサム・メンデスらしい凝った構図がいっぱいで楽しいです。ただ、アクションにはあまりキレがなく、サスペンス感もクレイグ・ボンド4作のなかでは一番低い。2時間半が長く感じました。一方で、良かった点は、みなさん同様、メキシコのお祭りからタイトルまで、スペクターの会議、砂漠を走る列車の遠景、Qがちょっと活躍するあたりくらい。ただ、ラスボスを身内にする必要は全く感じないし、ネコがぜんぜん活きてないし、アクション映画としてはあまりにも安易なボートからのヘリ攻撃、伏線回収の快感不足もマイナス。期待値MAX状態で見れば、これは消化不良感大きかっただろうなあと思いました。まあ、「スカイフォール」でちょっとアナザーワールドにいってしまったボンドが、また「いつもの大味なボンド映画」に帰ってきたと思えば、これはこれでありかもという意味では、なんだかんだで嫌いではないなあというところです。 [ブルーレイ(字幕なし「原語」)] 7点(2016-07-21 12:27:22) |
282. 回路
ダイヤルアップ時代を知る世代としては、あの「ピー・ギゴー・シュゴゴゴー」みたいな接続音はホラーだ。あの音が響くだけで、どこかに吸い込まれるようで十分怖いわけだけど、その恐怖を、「心霊」「幽霊」という日本の怖いお話に結びつけ、それを見事に映像化してると思う。へんな効果音をBGMに無駄に露出高めの(当時)若手女優さんたちが恐怖に顔をゆがめるという、アイドル・ホラー映画的な趣向も、世界滅亡という必要以上に壮大な物語も、なんだかほほえましく楽しめる。主演のはずの加藤晴彦が倒れた小雪を重そうに持ち上げる場面とかの妙な感じも、「生きる」ことに執着する彼のキャラクターを表すと思えば、どこか受け入れられてしまう。全体として、ジャパニーズ・ホラー特有の怖さと緩さが、行間を読め!系の黒沢清監督作品とうまく融合してる。「インターネット」の怖さとか、加藤晴彦の演技とか、今の時代に見ればちょっと残念な要素もあるけれど、それなりに楽しめると思う。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2016-07-01 14:11:05) |
283. スポットライト 世紀のスクープ
《ネタバレ》 オーソドックスな手法で真面目にしっかり作ったという印象の良作。「世紀のスクープ」というタイトルではあるものの、この映画が描いたスキャンダルは、「誰も知らなかった真実!」ではなく、実はボストンの人たちの多くが知っていて、でも言えないと思っていた事実。人々の日常生活の支えとなっている教会が舞台だったからこそ起きる隠蔽。1つ1つの事件ではなく、そのシステム、構造を暴かないと意味がないという編集長の言葉は、ジャーナリズムというものの役割を再発見させるものでした。そして、そのための記者たちの作戦とは、どこかに「真実」を暴く「驚きの大逆転」があるのではなく、1人1人の関係者の話を聞き、事件や関係者の数を数え、それを裏付ける文書を探し出し(その開示を裁判所に要求し)、そしてそれを裏付ける証言を得ること。どこまでも地道で気が遠くなるような作業ではあるものの、そのプロセスを飽きさせずに見せた点は、この作品の質の高さを示していると思います。ある事件があり、その全容を描こうとすること、そこから自分たちが生きる社会のあり方を問うこと。この作品が描いているのは、そういうシンプルなことであり、「宗教」や「教会」の闇というような表面的なことではなかったと思います。誰かがもの凄い演技を披露するわけでもなく(もちろん俳優の演技はどれも素晴らしいですが)、どこかに斬新な演出や画があるわけではないので、地味さは拭えませんが、これがオスカー作品賞(と脚本賞)を取ったというのは、個人的には十分に納得できるものでした。 [映画館(字幕なし「原語」)] 9点(2016-05-17 14:51:11) |
284. 鴨川ホルモー
好きか嫌いかでいえば好きな映画です。大学という空間、それも京都の大学だからこそ生まれる「ワンダーワールド」?を描いた青春映画としてとても気持ちいい。個人的には、青龍会のお話は、その内部のゴタゴタも含めて、何やってるのかわかんないサークル、怪しげなサークルの1つ1つにある小さな青春物語のメタファーのようで、とても楽しかった。ただ、万城目学の小説はやっぱり映像化向きじゃない。本だからこそ生まれる世界観の豊かさみたいなのが彼の小説にはあるのだけれど、映像化されちゃうと、その豊かさが途端に平板でつまらないものになってしまう。この手の小説は、小説の世界を映像にする際に何らかの「解釈」が必要で、そこをすっとばして小説に書かれていたことをそのまま画にしてみたっていうのではダメなんだということを再確認しました。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2016-05-11 00:11:44)(良:1票) |
285. ズートピア
《ネタバレ》 最近のディズニーの「社会派」ぶりにちょっと驚いてます。警察、差別と偏見、犯罪者と見なされること、犯罪者になること、これはいまのアメリカ社会に置き換えて考えれば、やっぱり警察と黒人の問題でしょう。そして、これは、2016年のアメリカで、この偏見や差別を煽ることによって支持を集めている政治家の問題でもある。そんなテーマに正面から挑みながらも、子どももちゃんと楽しめる(そして、そのメッセージもちゃんと伝わる)作品に仕上げた制作陣は本当に素晴らしいと思います。この映画の最も「社会派」なところは、主人公をこのような偏見や差別のサイクルから自由で超越した存在として描かなかったこと。もっとも偏見から遠いところにいる(と思われていた)ジュディが、その善良さゆえに、警察という立場から自ら偏見を持ち込むような発言をしてしまい、社会に分断を招いてしまうシーンは、大人の自分でも冷や汗が出るような恐ろしさでした。そして、そこからジュディが立ち直る過程こそ、この映画の本当のメッセージであり、テーマであったのだと思います。ただ、ここも最近のディズニーに共通するところですが、物語が複雑でガチャガチャしてしまい、落ち着きがないところ。出てくるキャラクターがそれぞれ魅力的ではあるのだけれど、個人的には種類が多すぎで、それぞれの見せ場が短い。もう少し展開やキャラを絞ってシンプルな成長物語としたうえで、この映画の重くて真摯なテーマを絡ませることは、たぶんできたと思う。あと音楽と映像(とくにズートピアの多彩なエリア)は、もちろん2016年の平均以上レベルだけど、でも、もっと出来たんじゃないかなとも思いました。とかグチグチ言っても、一緒に観た娘たちがケラケラ笑って楽しんで、帰りに「もう1回みたい!」と言ったことがすべて。小さな娘のなかに、現代という時代に向けた本作の大切なメッセージが、じわ〜っと伝わっていることを願っています。 [映画館(字幕)] 8点(2016-04-29 22:26:56)(良:1票) |
286. ボーダーライン(2015)
《ネタバレ》 メキシコ国境地帯の麻薬モノは、TVドラマやドキュメンタリーでも良作揃いだけれど、映画でも『トラフィック』以来の良作が登場! 『トラフィック』でも印象的な役回りだったベニチオ・デル・トロがここでは謎めいた捜査官として、前作とは違った強烈な印象を残す。ひたすら振りまわされる主人公エミリー=ブラントもいい。そして、意外と好演なのが、主人公ケイトの相棒ジェシー。ケイト以上に物事の真相もつかめないまま振りまわされる姿はユーモラスですらあり、緊張感が張り詰める本作のなかで、ちょうどいい緩和剤となっていて、単調になりがちな場面にメリハリを与えている。デル=トロの正体は、設定から考えれば当然ありえるもので、そこまで意外ではなかったので、サスペンス的な楽しみはそこまでではないけれど、丁寧に描き混まれる捜索・捜査・掃討シーンはどれも印象的で、監督ドゥニ=ヴィルヌーヴの才気をとにかく感じる。今後要チェックの監督がまた1人増えた。 [映画館(字幕なし「原語」)] 7点(2016-04-22 18:09:42)(良:1票) |
287. コップランド
《ネタバレ》 スタローンの「枯れた」芝居は悪くない。もともとロッキーだってランボー1作目だってどこか社会になじめない不器用で寂しい男はスタローンの得意分野で、この作品でも当たっていたと思う。ただ、問題は全体の構成のちぐはぐさ。汚職警官モノにサスペンスを絡めて捜査官にデニーロと来て「これは掘り出し物かも」と盛り上がったのに、肝心のデニーロは「橋を渡ったら管轄外」といってスタローンを煽るだけ。でもスタローンは、警官の汚職もマレーが生きてることも知ってるので、もうこの時点でサスペンスの面白さは半減。あとは、スタローンがいつ爆発するかを待つだけの展開で、そしてキレて銃ぶっ放して終わり・・・。豪華キャストで「思わぬ佳作」になりかけたのに、良くも悪くも「スタローンもの」としてまとめてしまったのは残念でした。良かったシーンは、冒頭の橋の上の警官と消防隊の喧嘩、レイ・リオッタの曲者ぶり、耳が聞こえない状態でのガンファイトあたりかな。構成や脚本に明らかに難はあるけど、嫌いにはなれないタイプの映画です。 [DVD(字幕)] 5点(2016-04-22 09:51:47) |
288. ゼア・ウィル・ビー・ブラッド
《ネタバレ》 ポール・トーマス・アンダーソン監督の怪作。やっぱりこの監督は凄い。全体的には『マグノリア』などのやや過剰気味の演出から一転して静かで淡々としているけれど、そこはダニエル・デイ・ルイスの強烈すぎる存在感で十分におなかいっぱい(+ポール・ダノの「怪演」も満腹感を増幅させる)。このあたりは好みは分かれるところで、個人的には「やりすぎ」感のほうが先に来たかな。ただ、映画としての「力」は十分伝わる。これって「アメリカとは何か」を語る壮大な叙事詩だと思います。アメリカン・ドリームと資本の象徴としてのプレインビュー、土俗的で原理主義的な教会の象徴としてのイーライ。そして「血」では繋がらない息子との関係は、「血」ではなく「理念」で無理矢理「国」を作ろうとしてきたアメリカの理念そのもののよう。この3者の関係は、複雑に入り組みながら、結局は資本主義の強烈な欲望の前にどんどん破滅へと向かっていく。最後の「終わった」は、何の終わりを意味しているのだろうか。いろんな解釈ができるけれど、あれこれ考えるだけでも結構楽しい。 [DVD(字幕)] 7点(2016-03-19 11:23:09)(良:1票) |
289. オデッセイ(2015)
《ネタバレ》 明るいノリの火星サバイバル&救出作戦。危機的状況のなかで、人類の知性の結晶としての「科学」、人間文化としての「音楽」、人間らしさが集約される「笑い」と「チームワーク」のすばらしさをこれでもかとポジティブに描いた快作。マット・デイモン扮する主人公ワトリーはたびたび窮地に立たされるけれど、そこを科学と音楽と何よりもユーモア(とくにポテト畑壊滅の絶望的状況から立ち直らせるクルーとのブラックジョークのやりとりは感動的ですらあります)によって乗り越えていく。人種・宗教・国境による分断が強調され、分断を煽る人間が「指導者」面をする今の社会に対する強烈なメッセージであったと思います。ただ、一方で、あのリドリー・スコットが、なぜ、いかにもハリウッド映画という感じのラストの群衆シーンをわざわざこの映画に挿入したのか。あれ、なくても十分に話は作れるはずなのに。わざと皮肉でやってるとしか思えない。ただ、これが「群衆の醜悪さ」を描いた皮肉であったとすれば、映画自体のメッセージとも矛盾する。それから、ワトリーの家族が一切登場しない件。彼は孤独な人間であるからこそ、火星の孤独にも耐えたことができたのかもしれないけれど、裏を返せば、本作は、ふつう人間の可能性を根源とされる「家族」や「愛情」を敢えて描かなかった「人間賛歌」であり、その意味するところは実は深くて重いようにも思える。というわけで、鑑賞中はふつうに楽しく前向きになれるのに、見終わって考えると、実はこの映画のメッセージはもっと恐ろしいものだったのではないのかと思えてくる。そういう意味でのリドリー・スコット印。健在です。 [映画館(字幕なし「原語」)] 8点(2016-03-15 10:17:52) |
290. ランボー/最後の戦場
《ネタバレ》 正直もういいだろうと思ってたし、残虐描写もすごいっていうので、未見でしたが、『クリード』見て以来、またスタローンが気になりだしたので、思い切って見てみました。前評判どおりのシリアスで残酷。グロ描写は苦手なので、拷問のような90分。そして、一時期ジャンル映画化していたアフリカ紛争ものにも通じる「ビルマ人の残虐性」をステレオタイプに強調してるところなど、素直に「よかった」と受け入れられない。軍が、白人だけをなぜ生かしていたのかなど(物語を進めるには必要でも)不可解な部分もある。ただ、この映画が凄いと思うのは、「キレイ事」と「暴力」との複雑な関係を丁寧に描いている点。この映画は善意あふれるNGOをある意味、嫌みたっぷりに描いていて、キレイごとを繰り返すマイケルが最後に人を殺すシーンは、ある種のカタルシスすらもたらします。でも、最後の大銃撃シーンの後の死体の山は、同時に暴力とか戦場とか「戦争」とは何なのかを雄弁に語っています。そして、最後に生き残ったサラがマイケルのもとにかけより、それをランボーが眺めるシーンが私たちに伝えるものは、AかBかという単純な選択ではない現実というものの重みです。「世界の現実」を描いたこの複雑な作品を、たった90分の「戦争映画」の傑作として、スタローンが自身の監督作品として作るなんて、2作目や3作目の頃には考えもしなかったこと。やっぱりスタローンという人は本当に面白いのだと認識を新たにしました。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2016-02-24 12:17:16)(良:1票) |
291. 海街diary
まず鑑賞後の印象。これは、映画館で見るべき映画だった! 女優としても旬の4姉妹の姿、美しい鎌倉の四季、そして何気ない日常の一コマこそ、映画館のスクリーンでこそ堪能すべきだったと思います。最近、自分が年取ったせいか女優さんを目当てに映画を見ることがめっきり減ってましたが、これはまさに「スター映画」。こういう映画は、もっとも環境のよいところで見てこそ、そのすばらしさが何倍増しにもなると思います。ただ、自宅で見たときの利点は何回でも見れること。すぐに2回目鑑賞しました。今度は、細やかなこの映画の構成が鮮やかに見えてくる。鎌倉の四季の日常のなかで積み重ねられていく四女すずの苦しみや3姉妹のそれぞれの生き方の微細な象徴が、物語に緊張感をもたらしていく。だからこそ、最後に「家族になる」ことの重みが、じわーーんと響く。スターが出ててもあいかわらず是枝作品風の会話表現、少しクラシックな(そしてややベタな)音楽、是枝作品のよい部分と華やかな日本映画の奇跡的な融合。原作を読んでいたので、原作での重要キャラ(とくに次女の彼氏)の雑魚キャラ化で逆に戸惑う部分もありますが、原作とはまた違った「海街diary」として、おすすめしたいです。 [DVD(邦画)] 8点(2016-02-24 11:50:10) |
292. 真夏の方程式
《ネタバレ》 夏休みの少年モノとして見れば、実験シーンをはじめ見るべきところはそれなりにある。夏らしい風景の切り取りもよい。けれど、それを台無しにする脚本と演出。多くの方が指摘する殺人の動機やミステリーとしての評価は、たぶん原作もそうなんだろうし、少年を犯罪に絡ませて後味の悪さを残すあたりは悪い意味で東野圭吾らしい。ただ、演出としては、たとえば工夫のない杏のダイビングの描写・・。同じアングルをただ繰り返すだけ。また、「家族愛」描写も杏の泣いてる顔を芸のないアップでだらだらと写すだけ。全体的に締まりがなく、登場人物の「感情」を描くシーンの多くが冗長で、こちらの感情を刺激するどころかかえって冷めてしまう。その意味では、変化に乏しい湯川先生を演じる福山雅治と眼力だけで乗り切った白竜以外の俳優みんなが下手くそに見えたのは、演出力や構成力の問題だと思う。ながら見するテレビではいいかもしれないけど、いちおう2時間これに集中するつもりで見ている映画では、このへんの出来が作品の評価を左右するのです。あ、あと前作もそうだけど、基本的にTV版の登場人物(警察側の2人)は完全に顔見せ以外の意味がない蛇足でした。 [CS・衛星(邦画)] 3点(2016-02-07 14:34:26) |
293. ナイロビの蜂
《ネタバレ》 『シティ・オブ・ゴッド』のメイレレス監督ならではのスラムの風景とかアフリカの人たちの描き方はやっぱり魅力的。ラスト近くの少年を飛行機に乗せるかどうかという、ギリギリの状況の「究極の選択」の重みも上映後にずしりと胸につっかえる。ただ、やっぱりサスペンス部分が惜しい。常にこちらの一歩手前で誰かが新事実を教えてくれるので、サスペンス感は薄い。妻の正体みたいな謎もあまり深まらないし、イギリス政府からも監視されてるはずなのにあっさりとケニアに戻れたり、国連支援組織の飛行機に乗れちゃったり。まあ、一番おかしいのは、あんなに重要なこと、なんで手紙に、それも手書き&署名付きで書いちゃうかなあ・・・という事件の根幹に関わる部分だったりします(原作がそうなのかもしれないけど、現代という時代設定を考えればあれはない)。というわけで、社会派スリラーとしての詰めの甘さが残念で、手ぶれカメラ演出もあまり効果的とはいえず、序盤のスラムの映像以外にはメイレレス監督の力量もあまり活かせていないなあというところ。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2016-01-24 22:44:16) |
294. アウトロー(2012)
《ネタバレ》 『ミッション・インポッシブル:ローグ・ネーション』がよかったので、同じ監督&トム・クルーズ作品ということで鑑賞。これは、掘り出し物。好みは分かれると思うけど、最初の銃撃シーンからサスペンスの持たせ方がうまい。派手さはないけど構成がしっかりしてて目が離せない。あと、主人公リーチャーのキャラがいい。車乗れない(っていっても免許がないから、という理由はちょっと笑える)、武器も持ってない、クレジット・カードも使えない。で、バスで移動っていうのが、何だか笑える。序盤の弁護士ヘレンとのやりとりもちょいコメディ入ってる。律儀にチンピラやら弁護士に車を借りてやっと移動手段ができたり、武器がないから射撃場の親父(ロバート・デュバル!)を呼び出したりとか、真面目にやってるのにどこか笑えてしまう。その意味では、トムの現実離れした「スター」感がうまくハマってるのかも。よく見てみると、なんでチンピラの仲間に簡単に頭、殴られちゃうのか(痛そうだからわざとではなさそうだし)とか、凄腕の敵のはずなのにラストの銃撃ではなぜ1発も当たらないのかとか、詰めの甘さはあるけど、シリアスなのにちょいクスッとくる新しいハードボイルドものとして、楽しめる1作だと思います。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2016-01-22 11:08:54) |
295. ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション
《ネタバレ》 冒頭の飛行機シーンから、オペラ、水のなかの侵入シーンからバイクチェイスまで、1つ1つのシーンが丁寧にとらえていて見応えあり。アヴァンタイトルやバイクシーンを除けば、実はあんまり派手なアクションもない。むしろ、見せ方のうまさ、演出力の確かさが際立つ。またストーリー的には、今回の映画はヒロイン役のレベッカ・ファーガソンがいい。最後まで味方か敵かわからないことで、話に締まりをもたせて、中だるみを防いでくれたし、スタイルも見栄えもいい(とくにオペラハウスのシーン)。敵役の迫力不足がやや残念で、ラストももう少し引っ張ってほしかったなという部分もあるけど、全体として娯楽映画に必要な要素が本当に詰まってて、シリーズ5作目なのにここまで高いレベルに仕上げた監督&トム・クルーズに拍手。 [ブルーレイ(字幕なし「原語」)] 7点(2016-01-20 15:26:58) |
296. クリード チャンプを継ぐ男
《ネタバレ》 『フルートベール駅で』は2013年の個人的ベスト映画でした。そのクーグラー監督とマイケル・B・ジョーダンのタッグで、あのアポロの息子を描きます。『ロッキー』は個人的に映画にハマるきっかけになった作品なだけに、期待と不安の混じった状況で鑑賞。結果的には、これが大正解だったと思います。『フルートベール駅で』のたぐいまれな構成力や脚本のすばらしさはそのままに、でもちゃんと『ロッキー』的な「アガる」要素やドラマティックな演出もばっちり。見方によっては、『フルートベール』がそうであったように、新世代のブラック・ムービーにもなってて、そこは『ロッキー』シリーズとしては賛否分かれるところだと思うけど、この2人に賭けようとしたスタローンの懐の深さに、この不器用すぎる俳優のまた新しい魅力を見た気がします。恵まれていても「何か」を渇望しているアドニスのドラマは、『ロッキー』1作目とは違う現代的なテーマではあります。でも、根底にあるもの、自分自身が何者であるかを問い続けてきた1人の若者の物語であるという点では同じであったようにも思います。加えて、ドラマパートでの生きた台詞の数々(ただし字幕にはかなり不満あり)と斬新なカメラワークで構成されたボクシング・シーンも素晴らしい。あのダウン→走馬燈→最終ラウンドまでの流れは、もうドラマティックな演出、役者の演技、そしてなんと言っても音楽との奇跡的な相乗効果で、魂ごと持っていかれて、上映後しばし放心状態でした。公開日数も回数も少ないけど、映画館で見て本当に本当によかったと思える作品でした。 [映画館(字幕)] 10点(2016-01-16 00:16:03) |
297. ウルフ・オブ・ウォールストリート
この内容このテーマで、3時間ちゃんと魅せてしまうこと自体が凄い。スコセッシの演出も、ディカプリオの演技もキレキレです。口八丁手八丁で莫大な金を稼いでも、その使い途が結局はあの乱痴気騒ぎ。実は、少し前に、失業者や最下層の人々がドラッグで転落するドキュメンタリーを見たのだけれど、金はあってもやってることは結局一緒・・・。こんなに虚しいことのために割かれる膨大なエネルギーの不毛さ。あの「レモン」からのランボルギーニと電話のくだりは、もうディカプリオの演技力の壮大な無駄遣い(誉めています)。そして、映画全体のドラッグのような編集と音楽(胸を叩いて「んーっんっぽー」の中毒性・・・)。才気爆発とはこのことを言うのでしょう。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2016-01-09 10:34:19) |
298. スター・ウォーズ/フォースの覚醒
《ネタバレ》 上映中はしっかり楽しんだのだけれど、終わってみるとなんか釈然としない。一番の理由は、話自体がたいしたことないというか、ああまたスカイウォーカー家のゴタゴタで、ハン・ソロまでついにこれに巻き込まれてしまって最後は・・・・だし、EP4〜6の既視感を追いかけた2時間ちょいだったことが不満なんだと思う。とはいえ、レイとフィンをはじめ、新キャラの間のコミカルな掛け合いとか、いままでのスターウォーズではうまく描けてこなかった部分をしっかり描いてるっていう新しい魅力も感じたはずなんだけど、そこにそれほどワクワクできていない。で、結局なんだったのか1週間くらい考えた末、実はEP4〜6も映画としては「たいしたことなかった」ということに、ついにこの7で気づいてしまったというか、自分で認めざるをえなくなったことが原因なのかと思っています。EP1〜3のときは「自分が見たいスターウォーズはこれじゃない」観はずっとありました。でも、今回、JJは「俺たちが見たかったスターウォーズ」をこれでもかというサービス精神で作ってしまった。でも、その結果、昔好きだったバンドの再結成ライブ(しかもベスト選曲)を見たときに気づいてしまう、ある種の「閉塞」感を今回のEP7でも感じてしまった。僕にとって、EP7は、そういう悲しいリアリティを突きつけるものでした。JJは、「次」は完全に新しい世界を用意しているのかもしれませんが、今回のレイやカイロ=レンを取り巻く因縁を見た上では、それもあまり期待していないし、そもそも自分がそれをみたいと思っているのかどうかもわからなくなりました。まあ、そういうノスタルジーを取り込みつつ、うまく作品化していくのだとは思いますが、「その程度のシリーズ」として、今後もつきあっていくのがいいのかなあ、なんて思いはじめています。そういう意味で、自分が30年あまりのSWがらみの夢から「覚醒」をしてしまった気分です。 [映画館(字幕)] 7点(2016-01-05 23:32:14)(良:2票) |
299. キングスマン
《ネタバレ》 僕はたぶんマシュー・ヴォーン監督の魅力を取り違えているのだと思います。昨今、007も真面目シリアス一辺倒になってしまった中で、「スパイ・コメディ」ではなく「おバカなスパイ映画」の再構築という意味で、序盤〜中盤の展開には本当に引き込まれた。コリン・ファースやマイケル・ケインなどの渋い英国俳優を起用して、スタイリッシュな殺陣やシーンが次々と飛び出す展開は、新しい時代の到来を感じさせる、すばらしい出来だったと思います。ただ、残念なのは、やはり教会の大虐殺以降・・。いや、ヴォーン監督が、こういうの得意だっていうのはわかるし、ラストの頭花火も楽しんでるのは伝わります。ただ、今や「ポップな音楽をバックに大虐殺」とか「テンポよく吹っ飛ぶ頭や腕」とかっていうのが「新しい表現」といえる時代なのかっていうのは、やはり疑問で、「誰も見たことのない映像を見た」というよりは、「ああ、またこの展開か」という食傷気味な感覚が勝ってしまったのも確か。序盤は丁寧な構成を感じたのに、ラストはどんどんバランスを失って、最後はなんだかどうでもよくなってしまう。ただ、007最大のおバカシーンといえる『ムーンレイカー』の宇宙シーンを、ロキシーにやらせたのはマル。あそこで新しい「おバカなスパイ映画」を創るんだという気合いは感じました。あとスウェーデン王女もナイス。こういう魅力が詰まっていたのに、なんだか惜しいなあ、という一本でした。 [映画館(字幕なし「原語」)] 6点(2015-10-02 16:17:36) |
300. 駆込み女と駆出し男
《ネタバレ》 昔の言葉と現代言葉が入り交じった台詞まわしの独特のリズムが印象的。ぶつ切り気味の編集は最初ちょっと戸惑ったけど、冒頭の40分くらいで慣れてくると、こちらもリズムがあってだんだん心地よくなってきました。ただ、このテンポは、主演の大泉洋があってこそという感じ。「すばらしい」とか「すてき」という言葉を時代劇のなかに持ち込んで、変な感じにならないのは彼のキャラがあってこそだと思います。逆に言えば、彼じゃなかったら、この映画全然ちがったものになってたかも、と思える好演です。その成長が物語の重要な柱になってたじょごを演じていた戸田恵梨香もよかったし、満島ひかりもあいかわらずの安定感でした。そして、ラストのオチは「そうきたか〜」とニヤリとさせるもので、さわやかな後味を残してくれました。個人的には、壮大な感動作系の音楽と、そのテンポや編集がちょっとあってなかったような。いかにも感動させる系のシーンで音楽がなっても、ブツッと切れちゃうので、そこだけはどうも乗り切れない部分もありました。全体としては、この映画は素直に見てよかったなと思える佳作だったと思います。 [DVD(邦画)] 8点(2015-08-30 05:51:29)(良:1票) |