281. フード・ラック!食運
《ネタバレ》 肉に特化した飲食店紹介&グルメウンチクでお馴染みCSテレビプログラム『肉専門チャンネル』を手掛ける寺門ジモン氏が原作・監督だそう。バラエティ番組の映画化は『ゲームセンターCX』や『ゴッドタン』等で前例がありますが、本作の場合『肉専門チャンネル』とは切り分けられているようです(焼肉だけに)。とはいえ、登場する店にモデルがあるのは明白で、『肉専門チャンネル』の視聴者や焼肉通なら「ああ、あのお店のことね」と見当がつく仕様と思われます。 主人公は廃業した焼肉屋の倅で、現在はフードライター。食運(よい食事にありつける強運)の持ち主で、オープニングエピソードでは下調べなく飲食の名店を見つけ出し、さらに「頼むべき一品」を勘で注文してみせる離れ業をやってのけます。そんな彼に託された任務は、新規グルメサイトを立ち上げ『本物の焼肉の名店』を掲載せよというもの。相棒は土屋太鳳さん。まさにグルメ漫画のパイオニア『美味〇しんぼ』を彷彿とさせるキャラ設定です。当然、主人公の特殊技能を活かして隠れた名店を見つけ出していく話かと思いきや、さにあらず。『おふくろの味再現』とか『主人公が過去に犯した過ちの懺悔』という、当初誘導されていた目的地とは違う着地点に向かいます。フリとオチが合っていないというか、羊頭狗肉といいますか(牛肉なのに)。おそらく実名でなくとも特定の店の礼賛は差し障りがあるのでしょう。そのため『実家の味探し』という無難な体裁をとったと思われます。このあたりの気配りは流石。劇中で否定したグルメウンチクを後でフォローする気遣いも見られました。寺門氏が料理店から好かれるのには、ちゃんと理由があるのですね。とはいえ、看板の『食運』が物語に絡んでこないのは解せませんし、『過ちの懺悔』は本人が満足しても観ている方はモヤモヤする消化不良な結末でした(グルメ映画なのに)。正直人情劇として出来が良いとは思いませんが、腹が立つレベルではありませんし、『焼肉』の奥深さは伝わってくる内容でした。おそらく寺門ジモン氏的には満足しているのではないでしょうか。キャストも豪華でした。最後にオマケ。オープニングクレジットについて。白米を背景に白字で監督名という寺門ジモン氏の“謙虚さ”、私は好きです。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2021-08-05 19:26:49) |
282. 拷問男
《ネタバレ》 (ネタバレしています。ご注意ください) 幼子を殺された父親が犯人に復讐するお話。邦題は復讐方法に言及したもので、拷問マニアが主人公ではありません。子を殺された親にしてみれば、命を返してもらう以外の贖罪に意味などなく、せめて我が子が味わったのと同じ苦しみを犯人に与えたいと願うのは当然の心情と考えます。いわば原始の刑罰感。反省とか更生とか、他所でやってくれという話。建前はどうあれ“心情的には”遺族による復讐は肯定されると考えます。 ただし、本作では一筋縄ではいかない事情がありました。それは犯人の素性。奴は主人公の実弟でした。被害者からみれば叔父。さらに本件以外にも複数人を手にかけている殺人鬼と判明しました。この特殊な犯人の属性により、一般的な“復讐”に別の意味が付加されたと考えます。それは“躾”と“後始末”。加害者に被害者の痛みを追体験させる拷問は、遺族からみれば“復讐”ですが、構造的には“躾”に同じ。また弟の犯した大罪に対するオトシマエをつけるため、あえて兄が汚れ役を買って出たとも受け取れます。『殺してくれ』と懇願する弟を無視して刑事に身柄を引き渡した判断は、『温情』ではなく『最も厳しい罰』を選択したものでしょう。弟を殺して自らも命を絶つのが一番簡単だったのに。被害家族であると同時に、加害者の身内でもある主人公は、彼なりの覚悟と責任で、己が役目を全うしたのだと思います。 舞台となるオーストラリアは死刑廃止と復活を繰り返してきた歴史があり、現在は死刑廃止国とお聞きしました。つまり現行、合法的に殺人犯に“被害者と同じ苦しみ”を与える術はありません。誰かが法を犯す以外に道なし。本件でそれを望むなら、最適任者は主人公であり、彼が選択した『拷問の末、生かしておく』は『国が定めたルールは無視しつつ、最後の一線は越えなかった』というもの。感情的でありながら理性は失わず、制度に対して幾許かの皮肉を込めた、大いに考えさせられる結末であったと考えます。ただ犯人が特殊過ぎたが故に、メインテーマと思しき『司法制度の問題点』『死刑廃止の是非』について“芯を食わなかった”印象を受けます。システムの是非を論じるなら、想定される一般的な事例でなくてはいけません。 最後に拷問について。殺すつもりと、開放前提では、自ずと手法が変わると思われます。当初主人公は「最後は殺す」と明言しており、拷問の手立ても容赦無いように見えましたが、犯人が負った傷をみると最終的に生かしておく選択が念頭にあったのは間違い無さそうです(注:一番気になるのは内臓の損傷具合ですが、手加減していたと思います。死んだら拷問が続けられないですから)。完治後は重介護が不要なギリギリのラインかと。私は先に『温情は無い』と書きましたが、『情』はあったのかもしれません。それが亡き娘の幻に由来するものなのか、血を分けた兄弟故の感情なのか、私には量りかねますが。 [インターネット(字幕)] 7点(2021-08-05 19:21:59)(良:4票) |
283. ザ・ライト -エクソシストの真実-
《ネタバレ》 お話の展開が制限されると共に原則批判(ツッコミ)を受け付けない性質であることから、どんなジャンルであれ『実話もの』は好きではありません。しかも本作は正統派オカルトホラーなのに『実話もの』ときました。まるで『氷の天ぷら』のようなミスマッチ感。これが『エミリー・ローズ』のように、ある程度客観的な事実に基づくのならいざ知らず、神父の体験談を拠り所とする(ですよね)の実話など、胡散臭いったらありゃしない。いや『週刊実話』と同レベルと考えるなら・・・『週刊実話』読んでないのでよく分かりませんが。 個人的に『悪魔憑き』は実在すると考えます。ただし、キリスト教圏のみで通用する概念ですから、何らかの精神疾患を『悪魔憑き』と呼ぶと考えるのが自然でしょう。日本だと狐ですな。本作の主人公も当初そのように捉えていました。しかし、彼は実体験を通じて自らの考えを改めましたという話。否定していたものが裏返ると強い肯定に変わる。その心理過程は理解できますが、だからといって彼の体験が真実である裏付けにはなりません。単にエクソシストを生業とする覚悟がついたので、ものの見方が変わっただけかも。スマホで証拠動画くらい撮っておいてよ。 なまじ『実話もの』の注釈がつくから、少々いちゃもんを付けたくなるのですが、一般的なオカルトホラーとしては上々の出来。雰囲気は抜群ですし、やはりアンソニー・ホプキンスは名優であります。ところで『世界最速のインディアン』へのオマージュはありましたか? [インターネット(吹替)] 7点(2021-08-05 00:18:45) |
284. 犬鳴村 恐怖回避ばーじょん 劇場版
《ネタバレ》 映画界で『リメイク』というと、オリジナル公開から数年の月日を経て、制作陣を一新して新作映画に作り直すパターンが大半ですが(犬神家の一族は例外)、本作は新作映画をベースにセルフリメイクを施した異色作です。その名も『恐怖回避ばーじょん』。恐がりさんでも大丈夫なよう、恐怖シーンにアレンジが施されています。こう聞くと別パターンを撮影しておいて、要所を差し替えたのかなと考えますが、かっぱ堰さんが詳しく説明してくださっているように、オリジナルはそのままに、各種エフェクトやBGMを駆使して恐怖を和らげる手法が採られています。おそらく費用対効果は抜群でしょう。僅かな手間で新作映画を一本オマケに製作したようなもの。ただし、成功しているかというと話は別です。調理済み辛口カレーを甘口に変えるために、砂糖をぶち込んでも甘口にはなりません。微妙な味のカレーが出来るだけ。やはりルーから変えなくては。 どうもこの企画は当初から計画されていたものではなく、オリジナル公開後にノリで製作されたようです。第三者(例えばユーチューバーとか映画専門学校の学生とか)がこの手法でリメイクしたのなら、権利関係は兎も角も『センスねえなあ』で済む話ですが、オリジナル制作陣が関与しているとなると事情は変わります。本当に監督はこの『味変』を認めたのでしょうか。丹精込めて仕上げた作品に『落書き』をした(された)気分にはなりませんか。大人の事情もあるでしょうが、正直気分のよい作品ではありませんでした。私の頭が固いだけなのかもしれませんけど。大事な事なので繰り返しますが、カレーを味変するならルーから変えてください。 [インターネット(邦画)] 1点(2021-07-29 19:28:31)(良:3票) |
285. マーターズ(2007)
《ネタバレ》 殺戮シーンと拷問描写、人体破壊のグロさや胸糞具合は業界トップレベルですが、これら蛮行に『理由』を与え物語の体裁を整えたが故に、衝撃度合は弱まった印象を受けます。『理解できないもの』が最恐だと思うので。というより、そもそもホラージャンルの映画でもない気がします。『悪趣味』とか『アングラ』でしょうか。それにしても、最後の主人公の言葉が気になります。もちろん私たちに知る由もありませんが、仮にあの世を垣間見てきたのだとしてもそれは口にせず、奴らに一矢を報いるために考えた『絶望させる一言』であって欲しいです。 [インターネット(字幕)] 5点(2021-07-23 18:58:14) |
286. カバディ! カバディ!〈OV〉
《ネタバレ》 主演はグラビアアイドルの倉持由香さん。"お尻の立派なゲーム好き"(あるいはエロいperfumeののっち)程度にしか存じ上げておりませんが、直近に観た『デスフォレスト2』(こちらも主演)の印象があまり(すいません。嘘をつきました。だいぶ)良くなかったため、期待値は低めでした。このような前提で鑑賞したせいもあってか“そんなに悪くない”と感じました。もっとも物語の骨子はみんな大好き「スポーツ青春もの」。そこにバラエティ豊かな愛されキャラを配した訳ですから、基礎点は取れる仕様と言えましょう。加点は無くとも、安定した満足感を得られるレシピ。カレーなら基本美味いに同じ。そう考えると、ちゃんと作ればもっともっと面白い題材だろうに、と思います。カバディ面白そうですよ。一言でいうなら『有名人が結構出てくる自主制作映画』。もっとも改善が望まれるのは「音声」です。 [インターネット(邦画)] 5点(2021-07-17 21:23:56) |
287. AI崩壊
《ネタバレ》 どう転んでも自らが開発したAIが暴走して人を殺めた事実は消えないので、はじめから『無理ゲー』感半端なかったのですが、最後は何となく丸く収まってしまう不思議。「こんな事件があった後でも人口知能は人間を幸せにすると思いますか?」との記者の問いかけに、主人公は「親は子を幸せにできるか?」に同じと答えます。すなわち自分にできるのは「祈ることのみ」という訳。無責任にも思えますが、そのくらい図太くなくては偉業は成し遂げられないという事なのでしょう。 [インターネット(邦画)] 6点(2021-07-09 15:29:18) |
288. ジュマンジ/ネクスト・レベル
過不足なし。平日の昼食のような映画。これでいい。これがいい。 [インターネット(吹替)] 7点(2021-07-05 22:49:56) |
289. プリズナーズ
《ネタバレ》 ネタバレしています。未見の皆様ご注意ください。 タイトル『プリズナーズ』は、主にキリスト教に対する“囚人たち”を指すと思われますが、私はこの分野で語るだけの教養を有していないため、キリスト教を一般的な“価値観”(ルールあるいは思想でも構いません)に置き換えてみることにします。それでも大筋は変わらないと考えます。 『囚人たち』は、特定の誰かではなく全ての人々を指すもの。社会生活を営む人間は、必ず所属するコミュニティ共有の価値観に“囚われて”生きているからです。これが前提。しかし本作では圧倒的多数が支持する価値観(=法律)に沿わない者が現れました。誘拐犯と主人公です。ここで注目したいのは、彼らが価値観を無視した理由。2人とも自らの内なる価値観を優先させたのです。そう、私たちは単一の価値観のみに縛られている訳ではありません。時に相容れない複数の価値観に囚われて生きています。要は、どの価値観を優先させるかの問題。誘拐犯の価値観は論外ですが、主人公が優先させた価値観は多くの人々の共感を得る事が出来るでしょう。“我が子の命を守る”は金科玉条。水戸黄門の印籠クラスの威力を持ちます。しかしながら、同等以上の価値を有するのが“私はあなたを殺さないので、あなたも私を殺さないでください”の対人相互不可侵の約束。人が群れて暮らす上で最初に必要だった原始のルールで、いわば基礎の基礎。最上位に置かれる“価値観”です。ですから、主人公が優先させるべき価値観を逆転させたと感じた時、私たちは「遣り過ぎだ」「それは無い」と判断した訳です。 因果応報が尊ばれるのが映画の世界。対人相互不可侵の大原則を破った主人公がキツイお仕置きを受けるのも道理です(注:これまでの主人公の行動に従えば、真犯人の目星がついた時点で問答無用で拘束すればいい話。映画のルールに則って、彼はあえて罰を受けたと見て取れます)それでも主人公は相手の命を奪う一線は越えていなかったので、彼もまた一命を取り留めたのでしょう。もっとも、普通ならあの笛の音は気づかない。気づけない。気づいた警官こそ法律の象徴であり、彼が蔑ろにした価値観に他なりません。見ようによっては、なんとも皮肉な結末と言えそうです。 [インターネット(吹替)] 8点(2021-06-30 20:27:32) |
290. キャスト・アウェイ
《ネタバレ》 個人的に『無人島漂流もの』は大好物です。小説『ロビンソン・クルーソー』『15少年漂流記』、アニメ『不思議な島のフローネ』に、子供だった私は心を奪われました。映画なら『青い珊瑚礁』『ブルーラグーン』『漂流』『東京島』、奥山佳恵デビュー作の『15少女漂流記』は鑑賞済みですし、ついでにいうなら『電波少年』の無人島企画や『アイアム冒険少年』の脱出島なんかも楽しく観ています(もっとも、事前準備があるものは『漂流』ではありませんが)。そんな無類の『無人島漂流もの好き』の私ですが、超メジャータイトルの本作は、長らくスルーしてきました。あまりにオーソドックスな設定故に、『ロビンソン・クルーソー』なら知っているし「後でもいいかな」と感じていたからです。今回本作を鑑賞した経緯は、二女が絶賛ドハマり中の『呪術廻戦』でウイルソンネタがあったから。本作未見の私でもウイルソンは知ってたので、“一般教養”として観ておくべしと、二女と一緒に本作を鑑賞した次第です。 設定こそ予想通り『ザ・無人島漂流もの』でしたが、肝心のサバイバル描写は些か物足りないものでした。特に「住居の確保」「水の確保」でもう少し見せ場があっても良かった気がします。おそらく物語の焦点は、刺激的な『無人島生活』よりも、ある意味地味な『生還後の人生』にあるのでしょう。戦死したはずの帰還兵の婚約者(妻)は、既に別の人と結婚していたという、戦中戦後の日本を描いたドラマでよくみる例のパターンと一緒。非常に遣り切れないお話ですが、結論的には「それでも生きていくしかない」訳で、もっと広義の『サバイバル術』を描いた映画であったと考えます。サバイバルで真に必要なのは『生きたいと願う気持ち』。それは心の拠り所から生まれるもの。恋人、家族、仲間、仕事、趣味、宗教。何でも構いません。主人公の場合は「恋人」「ウイルソン」「配達物」の3つの拠り所のお陰で自死を免れました。 ラストシーン。何もない十字路の真ん中で主人公は佇みます。まるで大海原にいるような。そう、彼はもう一度『漂流』するのです。もう「恋人」も「配達物」もありません。唯一手元に残ったのは“実在する親友”「ウイルソン」のみ。目的が定かではない分、今度の漂流は長く険しいものになるかもしれません。きっとウイルソンがその役目を終えた時、彼の二度目の漂流が終わるはずです。 [インターネット(字幕)] 8点(2021-06-25 18:54:56)(良:4票) |
291. 劇場版 鬼滅の刃 無限列車編
《ネタバレ》 ももクロちゃんのライブ映像作品以外で予約してブルーレイを購入するのは久しぶり。これは、新型コロナの影響で本作劇場公開時についぞや映画館へ足を運ぶことが叶わなかったからです。鬼滅の刃ファンの二女には劇場鑑賞を約束していたのに。正直スマンかった(健介の口調で)。円盤が擦り切れるまで観るがよろしい。 さて、私はTVシリーズ鑑賞済み、原作漫画も読了済みの立場ですが、客観的に評価するなら本作が歴代興行収益記録を塗り替えるほど“特別な出来栄えだった”とは思いません。スペシャルだったのは“コロナ禍”なり“鬼滅の刃ブーム”なり外的要因の方。勿論、映画自体に魅力がなければ、こんな大記録は打ち立てられない訳で、TVシリーズや原作ファンを満足させるクオリティがあり、かつファン以外の観客にも分かりやすく、そして良い感じに“刺さりやすい”内容だったのは間違いないと考えます。 ブームを検証して『それらしい理由』が見つかったとしても、踏襲して同じブームを巻き起こすのは不可能です。『風が吹けば桶屋が儲かる』あるいは『カオス理論』か何か知りませんが、様々な要因と偶然が重なりあって大爆発が起きるのが『社会現象』というヤツかと。この先当分は塗り替えられないであろう金字塔に、リアルタイムで立ち会えたのは幸運だったと思います。でもやっぱり映画館で観たかったな。 [ブルーレイ(邦画)] 7点(2021-06-19 23:57:00)(良:1票) |
292. 鬼滅の刃 那田蜘蛛山編<TVM>
《ネタバレ》 こちらは劇場版公開直前の「煽り・宣伝」目的に地上波TV放送された作品で、TVアニメの中から特別人気の高い「下弦の陸・那田蜘蛛山での戦い」を中心に編集された内容となっています(いわゆるしょう中ボス戦)。こちらも『兄妹の絆』同様の性格を有しますが、ビギナーをより深く『鬼滅沼』へ引き込む使命を帯びています。この戦略はTVアニメ放送時点から明白で、最終回でもないのに最終回さながらの外連味溢れる演出を施し、完全にTVファーストシーズンのクライマックスとなっています。主人公が初披露する『ヒノカミ神楽』に、同じく初お披露目の『禰津子の血鬼術』のコンボ。そこに情感たっぷりの『竈門炭次郎のうた』が色を添え、誇張なく『神回』と言える内容でした。 『兄妹の絆』の感想で原作よりアニメが優れている点として『アクションの秀逸さ』を挙げましたが、基本的にアニメに期待するのは原作漫画の『補完』です。アクション然り、状況説明然り。本作で言えば『ヒノカミ神楽』とは何ぞやという部分が、漫画以上に丁寧に説明されていました。大変素晴らしい。良く言えばテンポがよい、ともすれば大味な原作のストーリーラインがアニメで補完される仕組みです。理想的な漫画のアニメ化と考えます。 [地上波(邦画)] 7点(2021-06-19 23:56:07) |
293. 鬼滅の刃 兄妹の絆
《ネタバレ》 タイムシフト(全番組録画)でたまたま見つけた刺激強めなタイトルに惹かれ、地上波深夜放送を観たのが、私と『鬼滅の刃』との出会いでした。TVアニメを観る習慣は無かったので完全に偶然。とはいえ、子供時代『アニメージュ』を購読していた生粋の元アニメオタクですし、本サイトの評価傾向でも『アニメ好き』は健在。私が『鬼滅』にハマる要素は満たしていたと言えます。本作はテレビ放送第1話~5話までを編集し、劇場先行公開したものと聞きました。一般的にTVアニメを編集して劇場公開する場合、どんな名作も著しく評価を落とすのが通例です(例:未来少年コナン、ガンバの冒険)。尺が圧倒的に短くなるのですから当然の話。その点、本作の圧縮度は微々たるもので、TVアニメ版と比較して不満を感じる点はありません。本作は見事に『鬼滅の刃』世界へ誘う『フック』の役目を果たす作品に仕上がっていると思います。実は、私以上にこの鈎針に引っ掛かったのが小5の二女。誕生日プレゼントはコミック全巻で、東大王の伊沢氏は呼び捨てなのに、声優さんには全員敬称を付けるという見事なオタクへと変貌しました。血は争えませんな。 社会現象となった『鬼滅』人気の秘密を此処で語るのも今更感がありますが、一点だけ。私が『アニメ』から入ったという理由もありますが、原作漫画よりアニメの方が優れているのはアクションシーン(殺陣)であります。漫画では『一枚絵+必殺技名』で処理される部分を、きちんと動きで見せてくれるのが有難いです。同じジャンプ漫画でいえば『聖闘士星矢』も同じく『一枚絵+必殺技名』タイプですが、こちらはTVアニメも同じ表現方法を採用していました。だから物足りないという気はなく、原作に忠実にアニメ化しているだけの話。アニメ『鬼滅の刃』で披露されるアクション映画さながらの充実したカメラワークが、大人をも惹き付ける作品人気の一端を担っているのは間違いないと考えます。『鬼滅の刃 那田蜘蛛山編』の感想につづく。 [地上波(邦画)] 7点(2021-06-19 23:55:17) |
294. デスフォレスト 恐怖の森
《ネタバレ》 顔だけお化けは、なかなかにキャッチーかつチャーミング。ホラーヒロインとしての素質は、貞子や伽椰子に引けを取るとは思えません。ちゃんとキャラに肉付けをしてあげれば人気者になれるのでは。折角の良素材を活かす気のない脚本に閉口します。以下余談。顔だけお化け撃退法について。結構的がでかいので、石でも棒でも簡単に当たりそう。逃げずに戦えばチャンスはありそうです。あと全身に糞尿を塗りたくるとか。食えるものなら食ってみろってね。 [インターネット(邦画)] 4点(2021-06-16 23:19:57) |
295. ボーダー 二つの世界
《ネタバレ》 (ネタバレあります。未見の皆様ご注意ください) 元ネタは、アンデルセン童話で有名なあのお話。テーマ及び帰結点についても大差ないと考えます。異なる種族の常識をアイデンティティに取り込んだが故に、主人公は“苦しんだ”訳ですが、“人として生きるには必要だった”のも間違いありません。さて、問題はこれから。自らの正体を知った彼女の生きる道は?もちろん同族のコミュニティで暮らすのが幸せに違いないでしょうが、どうやらかなり難しそう。これからも人間のコミュニティに依存して生きるのであれば、“歪んだアイデンティティ”だとしても彼女はそれに縋るより他ないでしょう。果たして彼女は、子のしっぽを引き千切るのでしょうか。『おおかみこどもの雨と雪』(あっまだ観ていないや)、『借りぐらしのアリエッティ』あたりと対比してみるのも面白いと思います。 [インターネット(字幕)] 7点(2021-06-14 21:28:59) |
296. 未来のミライ
《ネタバレ》 個人的にこのテーマはドストライク。くんちゃんが、お気に入りの黄色いズボンを前にして、青いズボンを脱ぎかけてまた履くシーンがツボ。映像で語るとはこういうこと。ファンタジー設定も理屈っぽくなく軽やかで良いじゃないですか(クレヨンしんちゃんか)。唯一注文を付けるとすれば、細田守は宮崎駿を目指さなくていい。 [インターネット(邦画)] 8点(2021-06-07 18:26:59)(良:1票) |
297. 三度目の殺人
《ネタバレ》 咲江(広瀬すず)が事件に関与していると認知された後、主人公および観客の間で共有されてきた『事件の真相』は、一般的に“腑に落ちるもの”でした。裁判途中で三隅が突然翻意した件も、この仮説を裏付けます。ですから裁判終了後、三隅の元を訪ね真意を質した重盛に対して、彼が黙って“頷いてさえくれれば”何の問題もなかったのです。ところが三隅は『それはいい話ですね』と嘯きます。例えば鉄棒の演技。後は着地だけのところで床が消えてしまったような。宙ぶらりんなこの感情をどうしてくれるの。 重盛や観客が想定していた『ストーリー』は、多分に性善説に基づくものでした。しかし元裁判官である重盛の父は『殺す奴と殺さない奴の間には深い溝がある。どちらかは初めから決まっている』と口にしています。そう三隅は『人を殺せる』側の人間でした。先の事件で彼が2人殺している事実は消えませんし、仮に誰かを助けるためだったとしても、普通は人殺しなどしません。 三隅を表す象徴的な言葉『器』。先の事件の関係者は、彼の本質が何かわからないと言いました。しかし、これは三隅に限った話ではありません。他人を理解することなど、土台無理な話。評価する側の価値観、経験測、信念等を頼りに想像するのみ。自分のキャパシティの範囲内で“分かった気になる”だけで精一杯。そういう意味では、重盛も、咲江も、それぞれの人間観で三隅の器に『納得できる人殺しの理由』を入れたに過ぎません。 おそらくこれは司法制度も同じ。真実を見極めることは至難の業。結局は、被害者や加害者、そして何より第三者(社会)が、それなりに納得できる“落としどころ”を見つけるのが本来の司法制度の趣旨という気がします。 [インターネット(邦画)] 8点(2021-06-07 17:56:30) |
298. クロール -凶暴領域-
《ネタバレ》 冷静になってみると『ワニ甘噛みばかりだな』とか、『ワニ狂暴過ぎない?』等疑問が湧くものの、『自然災害』『親父重傷』『逃げ道なし援護なし』の危機的状況設定の上手さと、時間制限ありのスリリングな展開により、些細な粗に目を向ける暇がありません。人間VSワニの異種格闘技戦におけるルール設定(狭所、水中、2人VS大群、満足な武器なし)も見事。これぞ理想的なアニマルパニック映画の様式だと思いました。中弛みなく一気にクライマックスまで駆け上ります。いや、泳ぎ切ります。挫折と妥協ばかりの人生を送ってきた私にしてみれば、『意図した形ではないが努力が報われる』結末は感涙ものであり、ラストカットの主人公の雄姿に勇気を貰えました。その一方、倫理的に厳しい見方をするなら、避難命令に逆らった主人公の行動が遠因となって、死者が出ている点が引っ掛かるところ。おそらく彼女の行動に対して、観客が満足する丁寧な言い訳を用意することも出来たと思いますが、“正しい選択(非難されない選択)”よりも“後悔しない選択”を選んだ主人公を責めるのも酷という気がします。最善を目指した末の“過ち”は許されて欲しいと願います。 個人的見解では、『ワニ映画』の中では本作の方が『マンイーター』よりも評価は高く、『100日間生きたワニ』は観ていないので分かりません。あれ、まだ公開もしていないや。 [インターネット(字幕)] 8点(2021-06-02 19:45:30)(良:2票) |
299. 映画 賭ケグルイ
《ネタバレ》 (漫画が原作でTVドラマ化もされている作品だそうで、本作は劇場版オリジナルストーリーとお聞きしました。ちなみに私は原作もTVドラマも未見です。このような立場での感想ですのでご承知おきください。) ギャンブルの実力が身分階層を形づくる「学園ドラマ」もの。荒唐無稽な設定ではありますが、「ギャンブル」の部分を「超能力」や「魔法」に置き換えれば既視感ありというか、違和感は消える訳で、設定に問題があるとは思いません。ただ「ギャンブルの強さ」の理由が明確ではなく、主要キャラクターの特長がよく分かりませんでした(運なの?頭の良さなの?)。唯一、透視能力を用いているような表現が見受けられましたが、単に「ズバ抜けて勘が鋭い」演出かもしれません。作中登場したオリジナルゲームについては、論理や確率により有力な戦略が立てられる種類のもので、厳密にはギャンブルとは呼べない気がします。かといってルールの裏に隠された必勝法にフォーカスしてる訳でもないので、『カイジ』や『ライアーゲーム』のような楽しみ方は出来ません。原作やドラマあるいは出演俳優のファンでないならば、鑑賞をおススメし難い作品。やはり漫画の映画化は至難の業であります。 [インターネット(邦画)] 3点(2021-06-02 19:44:38) |
300. 目撃者(2018)
《ネタバレ》 (ネタバレしています。ご注意ください。) 偶然目撃してしまった殺人現場。犯人は自分が目撃者だと知っている。確かにこの状況で通報したならば、報復の可能性は捨てきれないでしょう。服役後のお礼参りなんて御免被ります。マンション購入直後で「超保守的」な心理状態にあった男が、厄介事を嫌った判断は、正しくはないものの、理解はできます(注:マンションの一般住人が、資産価値下落を危惧して捜査協力拒否の態度を取った事例とは根本が異なります。こちらは論外)。しかし、通報しなければ安全という話でもありません。事実、別の目撃者は口封じされました。この時点で通報一択。我が身と家族を守るには警察に頼るより他ありません。しかし、主人公はこの期に及んでもなお、警察への証言を躊躇しました。最初意味が分かりませんでした。何を迷う必要があるのかと。しかし冷静になってみると、案外人ってこんなものかもと思うのです。例えば、平時から戦時に、日常が非日常に変わるには、段階を踏みます。日々状況が変化するに連れ、備わっていく心構え。新型コロナ禍における新しい生活様式なんてまさにそう。急転直下、劇的な変化に、人の心は対応できません。世界がどんなに変わろうとも、今日と同じ明日が来るのを期待するのです。彼が「非常事態」と認識するまでに要した時間で、実に2人が死亡し、家族も含め多くの被害者が出ました。鱗滝左近次ではありませんが、戦時下で「判断が遅い」は致命的ということ。そういう意味で、本作のメインは男が腹を括るまでの過程にあり、終盤犯人との直接対決の件は無暗に(安易に)刺激過多なエンタメ路線に走った感があります。あそこまで滅茶苦茶やると、もうドリフですしね。ちなみに、刑事役の役者さん(大地康雄と輪入道を足して大地康雄を引いたような親父)いい味出してます。 [インターネット(字幕)] 6点(2021-05-27 22:59:26) |