281. リンカーン
《ネタバレ》 大変素晴らしい映画でした。巨匠になってなお、これだけ尖った主張の映画を作り続けるスピルバーグは本当に凄いとしか言えない。 基本的に派手なアクションは無く全編に渡って政治家達の舌戦が繰り広げられますが、まずこの会話劇が滅茶苦茶面白い!伏線も上手く貼っていて、ハイライトとなる修正第13条の決議当日とそれに至るまでの攻防はドキドキあり、驚きあり、笑いありで最高でした。黒人たちが当日に議事堂に入ってくる時にはホーキンス議員の顔芸のせいもあって思わずガッツポーズしちゃいました。そしてスティーヴンスが可決された修正第13条の原紙を手渡す相手がまた泣ける... リンカーンは奴隷解放を実現するために下院で修正第13条を可決させようとしますが、南軍が疲弊し南北戦争が思いの外に早く終わってしまう危険性が浮上する。使節団が和平を求めているとなると、修正第13条を可決する意味が民主党側には薄れてしまう。何とか可決に導こうとする為に主人公はありとあらゆる工作を張り巡らせる。でもそうなるとある葛藤が生じてくる。いくら平等を勝ち取るためとは言え、政治に工作が行われても良いのか?ということです。スピルバーグはそんな彼を主人公として、ヒーローとして描きました。何故なら平等という名のもとには全てが優先されるから。 ある人はラディカルな政治運動による統治は絶対に為させるべきでは無いと思うでしょうし、その考え自体も間違いでは無いです。というか答えなんて絶対に出ない。それでも"人種差別の根絶は全てに優先する"という考えを私は支持したい。最近、ヘイトスピーチが公然と行われ言論の自由を盾に逮捕すらされない日本という国に住んでいる自分にとって主人公は紛れもないヒーローでした。 [映画館(字幕)] 9点(2013-04-28 22:16:26)(良:1票) |
282. 逃走車
《ネタバレ》 圧倒的に詰まらない。アイデアは良いと思います。車の中のみでサスペンスアクションを作ろうとする気概は感じました。まあこの手の映画では過去に偉大な作品『激突!』があるのですが。 しっかしこの手の巻き込まれサスペンスで主人公が余りにもアホなのは観ていて辛いです。「なんでそんな手を使う?他にもあんな手やこんな手があるだろ。しかも自分から巻き込まれてどうするんだ」って展開のオンパレードで、主人公を応援したい気持ちよりどうでもいい気持ちの方が終始強くなってしまいました。しかもそんなアホな主人公がどうやって困難を切り抜けていくかというと、殆ど運だのみ!警官の職質のシーンに関してはアホらしすぎて笑えもしなかったです。ということでこの手の映画はやっぱり脚本が非常に重要なファクターなんだと実感しました。 アクションも大変ヌルく、法定速度以下でしか撮っていない様なカーアクションには心底ガッカリ。車のスピードの遅さを編集で誤魔化そうとしている分、画面がとにかく見辛いのも悪印象でした。 [映画館(字幕)] 1点(2013-04-21 09:42:57) |
283. ヒート
《ネタバレ》 良くも悪くも非常にマイケル・マンの美学が炸裂している作品だと思います。技術的な面では矢張り銀行襲撃時の嵐のような銃撃シーンが白眉。腹に響くような重量を感じる銃声には度肝を抜かれます。ストーリーも実に丁寧な作りで、孤独を抱えつつも仕事に没頭し、そんな孤独から抜け出したく思っても簡単には上手く抜け出せない男をデ・ニーロとアル・パチーノが見事に演じています。このふたりは言わば合わせ鏡の様な存在で、そんな彼らが最後に握手を交わして終わるシーンには、善悪を超えて相手を讃え合った様で泣けました。 しっかし単純な問題として上映時間が長いですねー。なんと170分。なんでこんなに長いかというと必要のないシーンが多いからだと思います。マイケル・マンの映画ではよくある事ですが、本当にストーリーの関係のない只の夜景が良く映るんですよね。個人的にマイケル・マンの映画で最も苦手なこういう要素がてんこ盛りだったので、その点は結構辛かったです。 [DVD(字幕)] 7点(2013-04-20 09:03:04)(良:1票) |
284. 世界にひとつのプレイブック
《ネタバレ》 他人とかけ離れている(この言い方が適切では無いと思いますが変人)同士だからこそ成り立つ珍しいタイプのロマコメ。ある意味ウディ・アレンのラブロマンスの対極と言えると思います。個人的にはヒロインが急にダンスコンテストの参加を提案したり、主人公の親父がスポーツ賭博マニアとは言えその場のノリで全財産をかけてしまう辺りの流れにやや付いていけませんでした。フィラデルフィアのチームを知らないとさっぱり面白さがわからないシーンが多いことも結構人を選ぶ作品かもしれませんね。 ジェニファー・ローレンスがあれだけ見事なスタイルだったことには驚きました。『ハンガー・ゲーム』の時には全く惹かれなかったのに、今回は主人公と同様に彼女のクビレとそれが強調する胸に目が釘付けになっちゃいました。 [映画館(字幕)] 7点(2013-04-15 23:49:51)(良:1票) |
285. 悪魔のいけにえ2
《ネタバレ》 中々良いんじゃないでしょうか。そもそも前作の最恐を超えろという方が無理な話で、ならばB級のノリにしてしまおうという潔さは寧ろ好きです。ヒロインの足元がパカッと開いて落下するところなんか余りの無理矢理な展開に爆笑しました。あとはやっぱりチェーンソー二刀流は笑っちゃいますよね。意味あんのか、それ。 レザーフェイスがヒロインに欲情し協力的になりかける場面から、もしかして新しい展開になるのか?と期待しましたが結局ならなかったのはやや残念です。 [DVD(字幕)] 7点(2013-04-15 23:26:35) |
286. M★A★S★H/マッシュ
《ネタバレ》 映画の舞台は朝鮮戦争末期ということになっていますが、実際のモデルはベトナム戦争で、直接的な表現を避けるために朝鮮戦争としているだけです。ご存知の通り当時のベトナム戦争は東西の代理戦争として行われただけのインチキで愚かなモノだった訳ですが、そんな中でこの映画は大ヒットとなりました。この映画は初めて「FUCK」という言葉が使われた映画として知られていますが、正しく愚かな戦争行為に対し中指を突き立てた。そして観客もその姿勢に共感した。 今だって無茶苦茶な理由で戦争はあっちこっちで生じている訳で、そんな時代に生きてる身からすると、今観てもMASHの主人公たちの行動は実に痛快に感じました。主人公たちは確かに軽口を言い合い、下品な悪戯で女将校に恥をかかせ、オフの日にはゴルフをして遊ぶ、人間的には結構サイテーな部類です。しかし彼らは患者が運ばれた時には全力で命を救おうとする。それが如何に馬鹿げた戦争によったものであったとしても人命には真摯に向き合う。どんなにクソな環境でも自分にできるベストを尽くしている彼らは非常に個人的に魅力的に映りました。 [DVD(字幕)] 8点(2013-04-13 22:44:59) |
287. ゾンビランド
《ネタバレ》 ややオフビートなゾンビ物。語り手が終始主人公とあるせいもあり、主人公が死ぬかもしれないという緊迫感はゼロ。他のキャラクター、特にウディ・ハレルソン演じるタラハシーは最後にはあんなに絶望的な状況だったのに結局生きていて、その辺は笑えたけれど少しガッカリもしました。また無駄に派手な遊園地をホラー作品に登場すると逆に恐ろしいっていう設定は「サイレント・ヒル3(だったかな?)」「デッド・ライジング」等で使い古されたものなので、どうひねりを加えてくるのかと思いましたが、特に目新しい物もなかった。 ビル・マーレイの出演はファンとして嬉しかったが、彼が出てきて特に何をするでもなく死んでしまうのもなんだかなぁ……、なんでこんな映画に出てるんだ。 しかし何故かトゥインキーを強烈に食いたくなる映画である。 [DVD(字幕)] 6点(2013-04-13 21:51:39) |
288. 死霊のはらわたII
《ネタバレ》 素晴らしい!何十リットル飛び出すんだと思ってしまう血の大噴射やケラケラ笑いながら手に噛み付く女の生首、残酷も行くところまで行くと笑いに転化されるものですね。監督の「ボクの悪趣味世界を思う存分楽しんでちょーだい」と思われる過剰サービスに乗れるか乗れないかで評価は大きく変わるでしょう。私は勿論前者。映画って元々は所詮見世物だしね。 [DVD(字幕)] 7点(2013-03-31 13:56:29) |
289. 続・荒野の用心棒
《ネタバレ》 黙々と棺桶を引き摺って荒野を歩きながら登場する主人公、このオープニングだけで掴みはバッチリ。あとは「どこが『荒野の用心棒』の続編やねん」という様な正統派マカロニウエスタンが展開されますが、酒場での早撃ちシーンや棺桶に隠し持っていたマシンガンを使っての一掃シーン、最後の墓場での皆殺しシーンなど見所も満載。あとオープニングとエンディングで流れるジャンゴのテーマがホントかっこいい。 [DVD(字幕)] 7点(2013-03-31 13:50:20) |
290. シュガー・ラッシュ
《ネタバレ》 話はとても大人向け。早い話が職場ですね、コレ。誰だった仕事をしていれば、「こんなことやってられるか!○○の仕事はいいよなぁ」などと愚痴ることは一度や二度あると思いますが、主人公のラルフも正にそれ。ただ彼は他人への迷惑を考えることなしに自分の思うヒーローになろうとしちゃった。つまり嫌われ者も大事な職場のピースであるっていう残酷な点を描いちゃってます(ファミリー映画なのに!)。感心したのは『Fix-It Felix』のマンションに住む住民たちが嫌われ役のラルフを最初はのけ者にしている点でした。記念パーティーにも呼んでやらないって最早いじめに近い。実際に汚い仕事をしている人って職場では大抵ちょっと腫れ物扱いされている場合があると思います。そういう人こそ皆から褒められるべきなのに!(ホントにファミリー映画か?)。そんな住民たちがエンディングではラルフにねぎらいのケーキをあげているシーンには目頭が熱くなりました。やっぱり職場ってのは色々な役割の人が支えあって成り立つものということを大変上手く描いていたと思います。 そんな大人向けなストーリーが根幹の本作ですが、流石はディズニー、子どももしっかりと楽しめるように作られています。『Hero's Duty』のサイバグとの戦闘は迫力満点であれで燃えない男の子はいるんだろうか?っていう出来ですし、『Sugar Rush』のメルヘンな舞台と可愛いレーサーには女の子は喜ぶでしょう。そうそう、この『Sugar Rush』で群れた女の子たちがヴァネロペを小突きまわすシーンも完全に職場のソレでしたね。女はこええで。 それから面白かったのはなんといってもキャラクターの動き!今回『Fix-It Felix』の住民はみんな3Dでありながら動きはファミコン時代さながらにカクカク動いて表情や仕草も大げさなんですが、その動きってPixar以前のディズニーアニメーションの動きにちょっと似ているんですよね。最新の3Dと従来のディズニーが培ってきた2Dアニメの良さを上手く融合した素晴らしいアニメだったと思います(これは本編前に流れる『Paperman』にも言える事ですが)。 しっかしAAさながらの悪役集会にザンギエフがいたけれど、ストリートファイターの悪役ってベガとサガットじゃないんかい?この辺り、作り手がゲームに思い入れがあるのか良く分からん。 [映画館(吹替)] 8点(2013-03-31 13:32:30) |
291. ミッドナイトクロス
《ネタバレ》 デ・パルマらしいカメラワーク、演出を堪能できる一作。例えば、主人公が陰謀に巻き込まれていくシーンでは主人公の周りをカメラがグルグルと回り続ける。まるで観ているこっちまで混乱していくように執拗なカメラの動き。他には序盤、主人公が音響のサンプルを採取しているとき、ふくろうの鳴き声と共にふくろうのアップと共に主人公が背景にピントが合ったまま写っている。しかも事故が起きた瞬間、両者共に事故現場の方に目をやる。何か良く分からんがとにかくぶっ飛んだカットの連続ということは分かる。 しかしこの映画の凄まじい点は映像面のみではないと思います。非常に心を鷲掴みにされたのはエンディング、サリーが殺される時の悲鳴を繰り返し聞き、冒頭のB級ホラー映画の素材として映画を完成させる主人公。彼は完成後のスクリーンをじっと見つめますが、これは捜査官の時代からトラウマを克服できない主人公が愛した女をかけてもそこから脱却できなかった呪いのように感じました。 [DVD(字幕)] 7点(2013-03-31 12:50:30) |
292. オズ/はじまりの戦い
《ネタバレ》 そもそもこんなファンタジー色の強い作品の監督にサム・ライミが抜擢されたのかは知りませんが、あのサム・ライミならディズニー映画でも好き放題しているかもと僅かな期待を抱いて鑑賞しましたが、観た後の印象は只々微妙の一言でした。 とにかくどのキャラも好感を持てなくは無いんだけれど、それほど本気で好きになれないような奴らばっかり。もっとキャラクター性を極端なものにすれば面白くなると思うんですがね。例えば、オズはヒーローなのに手品を魔法と勘違いさせるインチキ野郎なのですから、もっとその純ヒーロー像とのギャップで笑わせても良いと思います。折角型破りなヒーローという設定なのにいろんな場面で一々しんみりした顔をする。こういうキャラは最後の最後にシリアスになった方が良いですよ。 映像だけ綺麗でも作品としては凡庸になるのだなあと再確認できた作品でした。それから3D効果が単にアトラクション的なものしかなかったのも残念。 [映画館(字幕)] 5点(2013-03-26 19:46:10) |
293. 映画ドラえもん のび太のひみつ道具博物館
《ネタバレ》 いや~、実に面白かった!子ども向け映画として即物的なギャグを重ねつつ、伏線とそれに伴うミスリードを配し、アクションもしっかり燃える。更にドラマ性もしっかり組み込まれていると来たもんだ。しかも今回は二つのドラマを同時に進行させる。一つはドラえもんの鈴にまつわるのび太との友情話、もう一つはクルトとペプラー博士の師弟関係の話。そしてその二つは最後に「絶対に諦めないことが最大の取り柄」というテーマへと収斂する。これは非常に教育的にも良いテーマですよね。だってどんなに才能が無い人でも"諦めない"ことはやろうと思えば誰にだって出来るから。 過去のファンに対するサービスも大変多く、ガリバートンネルがフューチャーされたり(ドラえもんアニメ第一話のひみつ道具はガリバートンネル)、過去の大長編の道具が背景にまぎれていたり、昔ドラえもん映画を見まくっていた私には嬉しいサービスでした。 ミステリーとしても十分楽しめました。今回の映画は子ども向け映画としては実に冒険的な演出が多かったと思います。ミステリー映画は様々な物語のキーが徐々に提示され、最後に真相が浮かび上がるというのが基本パターンだと思いますが、今回のドラえもんはそれをやってますね。だからドラえもん・のび太・しずかちゃん・クルト、ジャイアン・スネ夫、ペプラー博士・ジンジャー、マスタード警部、博物館の館長と場面が目まぐるしく変わる。これは普通は子どもが混乱しちゃうから絶対にタブーでしょう(実際に後半は物語に飽きている子達が結構いた)。それでもミステリーとしても観客を楽しませたい!と思ってこういう構成にしたのならその姿勢は断固応援したいと思います。実際、一本調子のシナリオよりは絶対に面白かったと思いますし。それから実際に悪い人は一人もいないってのも面白いですね。前作のどーでもいい悪の組織を登場させていたシナリオと比べると雲泥の差だ。 今回の監督さんは新ドラ映画の傑作『鉄人兵団 はばたけ天使たち』を撮った寺本幸代さん。もう今後の新ドラ映画の監督は彼女にまかせるのが一番良いのではなかろうか。本当にコメディとアクション、ミステリーのさじ加減が上手い方と思います。 [映画館(邦画)] 7点(2013-03-24 13:09:29)(良:1票) |
294. チャップリンの黄金狂時代
《ネタバレ》 喜劇王チャップリンらしい名作。私はチャップリンのサイレント映画の定型をぶち壊した「独裁者」や、チャップリン自身を自嘲的に且つ愛情を込めて描いた「ライム・ライト」などのドラマパートの比重が大きい作品の方が好みなのですが、コメディパートの比重が大きい本作もこれはこれで十分に楽しめた作品です。 特に山小屋での騒動は面白い。ドタ靴を美味しそうにペロリと平らげる名シーンや、ニワトリのきぐるみをわざわざ着て暴れまわったり、見ていてアホらしくなるがそれもまた一興。 前述したとおり後半のドラマはそれなりに凡庸な純愛物語に発展していきますが、ここで何かもう一捻り欲しかった気もします。ジョージアの取り巻きを単なるその他大勢にしてしまったり、恋敵が単なる当て馬に過ぎなかったり、もう少し活かす方法があったように思います。 [DVD(字幕)] 7点(2013-03-24 12:39:19) |
295. ジャンゴ 繋がれざる者
《ネタバレ》 純然なブラックスプロイテーションだったと思います。近年は暴力的でありながら、真剣に「暴力や復讐は何も生まないんだ、云々~」と説く映画が多いですが、「そんなもん知るか!悪い奴らはブッ殺せ!」という、ある種陽気な暴力シーンは見ていてスカッとします。これぞブラックスプロイテーション。 しかし終盤まで主人公のジャンゴとシュルツは法に背いた殺しはしません。シュルツはいつも自分は法の下に賞金稼ぎとして人を殺めていることを強調し、ジャンゴは子どもを持つ賞金首を殺すことにためらいを感じたりもしています。 だがシュルツは極悪人キャンディを射殺してしまいます。キャンディは法的には別に犯罪者では無いにも関わらず。ではなぜあれほど法を重んじていたシュルツはキャンディを殺したか。 シュルツはキャンディの義姉(もちろんレイシスト)がベートーベンの『エリーゼのために』をハープで弾くのを聞いて、「ベートーベンはやめてくれ!」といつも冷静な彼とは思えない程に狼狽します。それはドイツ人の彼が自国の最高の作曲家を差別主義者に演奏されるのが耐えられなかったのだと思います。その後、キャンディの書斎で大デュマの『三銃士』を見つけるところも同様。大デュマは「正義」を常に作品に込めた作家でしたから、「なんでこいつはデュマの作品が好きなのにこんな非道いことができるんだ?」と愕然としたのでしょう。私も全く同感で、「もうこいつらブチ殺すしかねーよ!」とフラストレーションが極まった所で、大銃撃戦となり、白人どもを皆殺しにしてくれるので爽快感は半端じゃなかったです。この戦闘シーンに至るまでの会話劇は本当に素晴らしかった。アカデミー脚本賞も納得の出来だったと思います。 それからタランティーノの映画にはいつも言えることですが、画面がカッコいい!広漠な大地とそこに佇むガンマン・ジャンゴというだけで本当にサマになる。往年のマカロニ・ウエスタンの何よりもカッコよさを優先する画作りにはシビれました。「助けに来たぜ、ベイビー」なんてついつい笑っちゃいますけど、超カッコよかった。 [映画館(字幕)] 9点(2013-03-23 09:31:15)(良:3票) |
296. ゼロ・ダーク・サーティ
《ネタバレ》 2001年から2011年までの10年間、アメリカはイラク戦争と対テロ戦争によって疲弊していった。キャスリン・ビグロー監督は前作『ハート・ロッカー』でイラク戦争によりアメリカが正義を喪失していく様を描いたが、最後にはどん底の中の希望を見せて終わった。しかしこの映画はそんな一縷の希望すら与えていなかった様に感じます。 主人公のマヤは序盤ではCIA内で行われる拷問に目を背けていましたが、徐々に徐々にテロとの戦争に疲弊し神経をすり減らし、最終的にはビン・ラディンを殺すことを第一優先とするようになる。これは10年間に同じく消耗していったアメリカを象徴しているのでしょう。そして最後に大きな輸送機にひとりポツンと座り一筋の涙を流すマヤは、9.11の報復というには余りにも大きな犠牲を払ってしまったアメリカそのものの様に見えました。そんな国を体現するかのような難しい役柄を演じたジェシカ・チャスティンは素晴らしい演技だったと思います。 ビン・ラディンの暗殺は対テロ戦争において一応の節目となった。それでも今なおテロは世界各所で続いている。クライマックスの途轍もない臨場感で描かれる突入作戦で、両親を目の前で殺された子どもたちが描かれますが、彼らが新たなテロの芽となっているのかも知れません。 2005年から2008年にかけてはアルカイダのテロ活動が特に活発になった年だったと強く記憶しています。イギリスのダブルデッカーが粉々に爆破され、欧米人が滞在するホテルは片っ端から自爆テロの標的にされた。新聞の国際面には毎日の様にアルカイダによるテロの記事が載り、無関係の命まで容赦なく奪うテロという行為に暗澹たる気持ちになった。その時の恐怖を本当にリアルに思い出さされた作品でした。正直観ていて自爆テロのシーンは神経に応えまくったし、もう二度と観たいとは思えませんが観るべき作品だったとは強く感じます。 [映画館(字幕)] 9点(2013-03-11 23:21:42) |
297. キャビン
《ネタバレ》 これは本っ当に観客を選ぶ作品ですね。もっと言うと鑑賞条件を選ぶといっても良いかもしれません。劇場の周りにホラー(特にスプラッタ・ホラー)好きがいるのがベスト。私は運良くそういう人達しか集まらない様な会場で鑑賞できましたので、劇場内は爆笑の連続という大変楽しい映画体験でした。 今までもホラーの定形を崩した作品ってのは『スクリーム』『ブレアウィッチ・プロジェクト』『パラノーマル・アクティビティ』など何度も作られていますが、大体の作品がまず定形を崩すことで本来ホラーに最も必要な怖さが減退していることが多いと思います。しかし、この映画は終盤まで「ホラー映画って作るの大変なんだぜ?お色気シーン入れるのにも一苦労」というネタで爆笑させておいて、最後にはキッチリとモンスターが暴れまわり観客のテンションはクライマックスに達する。しかも暴れるモンスター達は過去のホラー映画の謂わばチャンピオン級ばかりなのだから盛り上がらない訳がありません。 そして最後の最後にシガニー・ウィーバーが現れたシーンで大爆笑。最近オチ担当みたいな女優さんになってますね。アンタもうちょっと役選べ! [試写会(字幕)] 9点(2013-03-11 22:47:55)(良:1票) |
298. フライト
《ネタバレ》 非常にキリスト教的価値観に基づいて作られている映画だったと思います。近年でも現代劇でこれだけ劇中に"God"という言葉が頻出する作品って少ないんじゃないでしょうか。この作品の根幹を為すテーマは「贖罪」だと思います。但し、主人公は熱心な(熱心過ぎてちょっと怖い)キリスト教徒の副操縦士を見舞った際に露骨にイヤーな顔をしていたり、ところどころで「神なんかいない」という旨の発言を繰り返したり明らかに無神論者です。少なくとも熱心なキリスト教徒ではない。そんな彼が最後の最後に罪の意識を告白して、罪を精算し、富も失い、人間的にも立派な男になりましたってオチをつけるんですから、物凄く乱暴な物語と言えると思います。非常に感動的ではありましたが。その辺りは別に私は特にキリスト教を信仰していないので非常に乗りづらかったです。 あと視覚的にもストーリー的にもキリスト教の話と意識させるように作られています。飛行機の墜落時にペンテコステ派の教会を破壊し、主人公は事故を経て一度は禁酒を決心する所などは特に分かり易い。共に暮らすウィップとニコールは楽園を追い出され罪を背負うこととなったアダムとイヴの明らかなメタファーでしょう。 まあそんなことは置いといても、クライマックスの泥酔状態となったウィップを素面に戻すトリックには劇場内は爆笑でしたし、序盤の飛行が墜落するか否かのド迫力のアクションはポール・グリーングラスの『ユナイテッド93』に匹敵するスリルでしたし、大変面白かった映画であることは確かと思います。なんかホント全てが丁寧ですよね、巨匠の仕事って感じ。この期にロバート・ゼメキスには是非とも実写の世界に戻ってきて欲しいと思います。 [映画館(字幕)] 8点(2013-03-11 22:25:20)(良:1票) |
299. 愛すれど心さびしく
《ネタバレ》 アラン・アーキン演じる聾唖の男シンガーは、精神病院に入れられた友人を追って南部の街に越してくる。そこで主に三人の人達と知り合います。一人はいつかピアニストとして立身したいと思っているが貧しさ故にその夢を諦めている少女ミック。一人は飲んだくれて自暴自棄になっている浮浪者ブラント、一人は医者という社会的地位の髙い職についている故に向上心の無い黒人を許せない老人コープランド。彼らがシンガーと触れ合うことで塞がっていた人生が開かれていく様は非常に感動的で、一種の人生賛歌となっています。私は特にお金が無いからコンサートを裏口でこっそり聞いていたミックがシンガーの部屋でレコードを夜遅くまで延々と聞いているシーンでびっくりする位泣いてしまいました。生まれがどうであれ音楽(芸術)は関係ないというシーンに自分を重ねてしまいました。 しかしそんな人生の素晴らしさを説いただけでこの映画は終わらない。そこから殆ど全ての人達が次々と不幸になっていく。ブラントは職を得るも喧嘩を起こし街を去り、コープランドは自尊心故に娘の恋人を助けず娘から憎まれ、ヒロインとも言えるミックは自分の夢の為にボーイフレンドに体を捧げるも裏切られピアニストの夢を捨てる。そしてシンガーも友人が急死し、ミックに拒絶されたことで自分が真に孤独になったと思い込み拳銃自殺でこの世を去る。 この映画で引き起こる不幸は全てが"すれ違い・相手を理解できない"ことによるものです。原作『The Heart Is a Lonely Hunter』の著者カーソン・マッカラーズも自らが孤独であると思う故に、この様な誰も分かり合えない人間の辛さを描いてきた作家でした。 私も所詮人間は相手の気持ちを100%は理解できない(実際は5%にも満たないと思う)と思いますが、だからこそ逆にシンガーの様に「僕は孤独なんだ!だからあなたと解り合いたいんだ!相手になって欲しいんだ!」という気持ちを持ちたいと思います。ヒロインであるミックが最後にシンガーの墓前で「I Loved You...」と呟くのと同じく手遅れにならないために。 [DVD(字幕)] 10点(2013-03-03 17:02:52) |
300. アパートの鍵貸します
《ネタバレ》 私は結構テーマ主義な部分があって、良くも悪くも作品が持つテーマを意識して観ることが多いです。大体の映画というものは一つのテーマに沿っているもので、多くても二つまでが殆ど。しかし驚くべきことにこの映画にはテーマがいくつも混在している様に思えます。 まず恋愛が一つ。この映画を通して強く感じるのはシンプルな「恋は半端にするんじゃなく、本気でやれ」ということ。主人公の周りの上司達は火遊びとして女の子と遊んでいますが、主人公のバドは全く違います。だからフランについて茶化された時はムッとしましたし、フランもずっと一人一人の男を真剣に愛してきた。上司達と主人公(バドとフラン)を見るとどちらがメンチュ(立派な大人)かは明らかでしょう。上司達は社会的地位はあるかもれませんが子どもです。 次に自己犠牲が一つ。恋愛と少し被りますが、本当に愛してるってどういうことなのか?上司のシェルドレイクは家族を失うのは嫌だけれど若い女を取っ替え引っ替えしたいという自分の身を出来るだけ削らない人間でした。バドは惚れたフランを庇うために彼女の義兄に殴られますが、彼は彼女の役に立てて嬉しそうでした。つまり愛するということは相手のために自分を犠牲にするということです。そうじゃないと愛してるとは言えない。 その次に仕事が一つ。主人公は自分のアパートの一室を上司に貸し出すことで易々と出世しますが、彼の能力によってではありません(逢引の場を工面する要領の良さを私は能力の一つと思いたくない)。上司におべっか使うことが出世としての正しい道なのか?そうじゃないだろうということでしょう。その証拠に部長補佐に落ち着いたバドは空虚な人間としてカメラに映されています。 以上の様に、「愛・仕事・人生」と生きる上で重要なヒントが山程込められている大変に素晴らしい作品でした。 [DVD(字幕)] 9点(2013-02-24 23:37:46) |