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プロフィール
コメント数 1274
性別 男性
年齢 43歳
自己紹介 嫁・子供・犬と都内に住んでいます。職業は公認会計士です。
ちょっと前までは仕事がヒマで、趣味に多くの時間を使えていたのですが、最近は景気が回復しているのか驚くほど仕事が増えており、映画を見られなくなってきています。
程々に稼いで程々に遊べる生活を愛する私にとっては過酷な日々となっていますが、そんな中でも細々とレビューを続けていきたいと思います。

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【製作年 : 2000年代 抽出】 >> 製作年レビュー統計
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321.  ボーン・アルティメイタム 《ネタバレ》 
観客を飽きさせないよう派手なアクションをやればやるほど「んなアホな」のスパイラルに陥る作品が多い中、本作は見せ場の連続なのにバカっぽくなく、そこにリアリティを感じさせる作りとなっています。特に素晴らしいのがロンドン駅での追っかけで、追っ手の配置や視界を先読みしながら対象を的確にナビゲートする様はあまり見たことのない珍しい見せ場。ボーンはただの強い殺し屋ではなく、状況判断やとっさの決断力にも長けた人間であることをちゃんと画で見せてきているのです。「陰謀のセオリー」「ロング・キス・グッドナイト」等、記憶を失った政府の殺し屋映画はいくつもあり、ボーンシリーズもネタ的にはありふれた作品なのですが、そんな中で新しさを発揮しているのは、世界を股にかけるエージェントに必要であろう知性を描いているためでしょう。目の前の危機を腕っぷしで乗り切るかつての主人公達とは違い、二手先三手先を読んで行動し、衝突はなるべく避けるという「当たり前」のことをきっちりやっているのです。またボーンが相手とするCIAも同様で、きちんとした官僚機構として描かれているので、悪役としての存在感を発揮しています。「CIAは巨大な官僚組織である」のは当たり前なのですが、これまでのアクション映画は見事なまでにこのおいしい部分をスルーし、その結果ボスと手下数人が勝手に暴走して主人公に倒されるという、何ともこじんまりとした組織となり下がっていました。そこにきて本シリーズは、個人の通話でも自由に盗聴できるハイテク機器を操り、世界中即座にエージェントを送りこむ豊かなネットワークを持ち、警察機構に指示を出すこともできる強大な権限を持った組織として描いています。そこに従事する人々も魅力的で、その切れる頭で出世したと思われるパメラ、現場の叩きあげで汚れ仕事をしているうちに感情も麻痺してしまったアボット、組織のためなら何でもやってしまう出世の鬼ヴォーゼンら、「官僚組織にいそうな人々」の熱いやりとりも見ごたえ十分です。賛否の分かれる細切れアクションについてですが、画面も話も「リアルに見えること」を意識した本作においては、その必要性があったように思います。アクションの中にリアリティを感じさせたい場合、「仮に現場に居合わせればこのように見えるだろう」という雰囲気を作り出せる手ぶれ映像や細切れの編集は、やはり威力を発揮しているのです。
[映画館(字幕)] 9点(2008-08-26 02:26:24)(良:4票)
322.  バンテージ・ポイント 《ネタバレ》 
テロが起こった23分間をグルグルと違う視点から映し出し、少しずつ全体像を見せるというのはこれまでありそうでなかった手法。なかなか面白い見せ方だし、「現時点で観客に何を見せるべきか」という情報の取捨選択も非常に的を射ていたように思います。デニス・クェイドがモニターで何かを発見し、「これは大変だ!」と言って突然走りだすシーンなどのじらし方は本当に絶妙でした。脚本もよく練られていて、この手法を最大限活かせる体裁になっていたように思います。テロリストが一枚岩ではなく、騙されたり脅されたりして犯行に加わっている者が混ざったことで、事実が解明されていく過程の面白みが格段に上がっています。また、広場でのテロはあくまで陽動作戦だったというアイデアを挟んできたのも、23分間を何度も何度も見せるという、ともすれば同じ画を見せられてアクション映画としての面白みを失いかねない本作において、舞台を増やす為の得策だったと思います。テロリストが女の子を避けようとした為に事件が解決というオチのつけ方も面白かった。まぁ観終わった後考えれば近年稀に見るほどご都合主義の連続ではありますが、複数の視点から語るアクション映画という特性をいかに盛り上げるかのみに集中して作られているので、90分はきちんと楽しめる作品となっています。作り手も話がムチャすぎるという点には十分自覚的で、一気に見せて一気に終わるという一発芸的な作りに専念しているのです。例えば、テロリストの背景や動機の説明がもっと欲しいようにも思いましたが、本作においてこれ以上描きすぎるとかえって犯人像が陳腐化してしまうし話のテンポも奪ってしまうので、作り手もうまいところで切り上げています。本作で唯一背景を語られる主人公のデニス・クェイドにしても、過去のいきさつや現在の心理状況、組織内での立ち位置をほんの数シーンで説明してみせるという、神業的な要約のみで終らせています。とにかく切るものは切って見せるべきものだけ見せるという、実に潔い映画なのです。唯一残念だったのが視覚的な斬新さに欠けたことで、映画自体が斬新な割に視覚的には普通だったので、妙なバランスの悪さを感じました。
[ブルーレイ(吹替)] 7点(2008-08-25 22:20:24)(良:1票)
323.  バンド・オブ・ブラザース<TVM> 《ネタバレ》 
1話1話が充実していて、1時間とは思えないボリュームを全話に渡って味わえます。また全10話を通した時のバランス感覚も見事で、訓練の第1話にはじまり、そこいらの戦争映画を軽く超える圧巻の戦闘シーンを見せる2~4話(戦場における戦車の圧倒的なパワーが描かれた『補充兵』は特に気に入ってます)、エピソードごとに主人公を変え、毎回違った切り口でドラマを見せる5~8話(無能な司令官に振り回される『雪原の死闘』にはサラリーマンとして共感を禁じえませんでした)、第二次大戦の悲劇をシリアスに描いた第9話、そして締めくくりの第10話。どのエピソードも素晴らしいのですが、最終回の第10話には特に意義を感じました。戦場における友情や英雄物語を描きたいのなら8話で終ればよかったし、第二次大戦の歴史を描くのであれば9話まででよかった。しかし戦争が終わって占領軍となったアメリカ兵達の姿を描いた10話を終わりに持ってきたことで、この作品は他にない奥行きを得たように思います。ナチスが残した高級品を「戦利品」と言って勝手に持ち帰り、敗戦国民に対して横暴に振る舞い、元ナチスと言われる老人(真偽は不明)を不確かな情報から射殺する、そんな姿を最終話できっちり見せてくるのです。そしてラスト、ウィンターズからE中隊に対して言われるべき言葉を、ナチスの将校に喋らせるという演出も見事。このシリーズに対しては「アメリカ万歳ではないか」という否定的な意見もあります。確かに第9話まではアメリカ兵の視点のみで描かれており、悪役であるドイツにとっては公平性に欠ける描写もあったように思いますが、この非常に冷静な締めくくりを持ってきたことで、普遍的な物語になったように思います。あえて難点を言えば、戦争ものの宿命として個人の判別が難しかったことでしょうか。10話見ても顔と名前が一致しない隊員が何名かおり、「で、いま死んだの誰だっけ?」ということが毎話あったのが残念。「これが登場人物ですよ。みなさんしっかり覚えてくださいね」という意味で第1話があったんだなと、10話全部見て気付きました。ま、この混乱を逆手にとれば1周目は圧巻の映像に驚き、2周目は緻密なドラマを発見する、そんな楽しみ方もできそうなわけで、これは何度も見返し、そのたびに新しい楽しみに気付く作品になりそうです。
[DVD(吹替)] 9点(2008-08-21 02:06:16)
324.  ダークナイト(2008) 《ネタバレ》 
ビギンズには辛い評価をした私ですが、それを撤回せねばならない続編が出てきました。スパイダーマンと比較してヒーローの見せ方がなってないなどと批判したのですが、この新生バットマンは他のアメコミ映画とは目指すものがまるで違うようです。マンガの世界を巧く作りあげ、ヒーローものならではの荒唐無稽なアクションを見せ、そして実写化した時の違和感をうまいトンチで乗り切ることが他のすべてのアメコミ映画のキモとなっていますが、このシリーズが目指すのはそれとは正反対。バットマンや敵のフリーク達を現実の世界に引っ張り出し、現実世界で彼らがどのような意味を持つことになるのかがこのシリーズの追うところです。なのでCG丸出しのヒーロー大暴れなどは一切なく、バットマンやフリークとはいえあくまで生身の人間が戦ってるよう見せることにこだわっています。前作では視覚的に未完成だった為この狙いがイマイチはっきりしませんでしたが、本作では見事にスクリーンに反映されています。そこいらの刑事ものよりもリアルに、しかもバットマンという非現実が真ん中に立っていても変に見えないようにという絶妙なバランスで作られているのです。またそんな生真面目なアクションの中でも、バットモービルからバットポッドが分離するというかっこいいギミックも見せてくれるので、監督も相当小慣れてきてるなと感心しました。脚本の充実ぶりも見事。たったひとりの狂人が大都市をパニックに陥れていく過程に疑問や違和感を覚えさせないのは、話が良く練られている証拠。そんな「よく出来た脚本」からさらに二歩も三歩も突っ込んで、ドラマとしての面白さ、「正義とは?ヒーローとは?」という問いかけまで盛り込み、かつ大量に仕掛けたネタをどれひとつ破綻させていないという神業的な仕上がりとなっています。特に素晴らしいのが二隻のフェリーの駆け引きで、戦いの当事者が「正義とは?」と悩む映画はいくつもありますが、傍観者である市民にその姿勢を問うというありそうでなかった展開を挟んできたことで、この作品の価値はぐっと上がりました。今回点数を9点としているのは、映画館で一度鑑賞しただけでは、情報量の膨大な本作の全貌を掴んだ自信がないからです。それにしても、このような観客に対して相当レベルの観賞力や集中力を要求する映画が史上空前のヒットとなっているのですから、アメリカというのもバカにならない国です。
[映画館(字幕)] 9点(2008-08-15 03:36:58)(良:2票)
325.  日本沈没(2006)
炎に囲まれ絶対絶命の少女、草彅剛は間に合わない!ああ、もうダメなのか。その瞬間、炎の中からレスキューヘリが飛来、ロープにぶら下がった柴崎コウが危機一髪で少女を救助!…この冒頭で「この映画はダメだ」と覚悟を決めました。これは恐ろしくセンスのない人たちが作った映画だなと。本作のようなシュミレーション映画には、何でもできるスーパーマンは絶対に出てきてはいけないはず。そんな人物が出てきた途端に日本沈没の危機感が大きく失われてしまうのに、ド頭でこれをやってくるのは相当なもの。最後まで見ましたが、冒頭で感じた予感は残念ながら的中しました。それなりに見せ場があるにも関わらず、2時間をここまで退屈にさせるのは凄いことです。この映画は企画意図そのものに問題があったのではないでしょうか。CGでそれなりの映像を作れるようになったし、若い客が喜ぶデカイ企画をやろう。女性ウケは大事だから、アイドルの恋愛要素は必須で。往年の作品のリメイクなら中高年の動員も見込める。そんな足し算の論理で考えられた企画のように思います。しかし出来上がった映画は、結果的に引き算の積み重ねになっているのが面白いところ。シミュレーション映画としての完成度を追えばある程度のグロテスクな展開や描写は避けられないし(惨い場面をひとつも入れずに危機感を煽ることのできる監督は日本にはいません)、恋愛要素を描ききろうとすればアクションのテンポを奪ってしまうし、年齢層の高い客層は知的好奇心を満足させる内容でなければ退屈します。しかし方向性を決めずにすべてのターゲットを狙いにいった結果、作品の質を決定する要素をすべて切ってしまっているのです。何味にするのか考えず、とりあえず喜ばれそうな食材だけ放り込んだ料理。砂糖も塩も入れてないので物凄くマズくなってます。こういう映画はよろしくないですね。あらゆる層にアピールしてとりあえず映画館に来てもらうけど、関心があるのは入場料払うまで。映画館に来たお客さんを入場料分きっちり楽しませることの努力は特にしていないという。最近では大コケする邦画も出てきていますが、それは本作などが適当な商売した結果、観客が学習した結果だと思います。1点は本作で唯一プロの仕事をしていた特撮パートに。さすがは大量破壊描写について世界随一の伝統を持つ日本特撮界だけあって、対費用効果ではハリウッドより良い仕事してます。
[DVD(邦画)] 1点(2008-06-29 06:27:43)(良:2票)
326.  ヘアスプレー(2007) 《ネタバレ》 
【かなり厳しく批判します。この映画を好きな人は読まないで下さい】ハリウッド映画万歳、娯楽万歳の私ですが、そんな私がもっとも嫌いなタイプのアメリカ映画。純粋無垢な主人公が社会に存在する差別と出会い、「そんなのおかしいじゃない!」と立ち上がるのですが、あくまで優等生的な発言ではなく「純粋な心で考えてみたけど、やっぱ差別はよくないよ」というスタンスがポイント。最後は主人公もサクセスし、古い考えや差別に凝り固まった連中をぎゃふんと言わせてめでたしめでたし。…って、なめとんのか!人種問題を扱っているようでいて、その実何も考えていない、それどころか「悪いのはこの映画に出てくる悪役のような連中なんです。大多数の白人は悪くありませんよ」という弁解にすら聞こえるこの映画の主張にはうんざりしました。ベルマ親子のような極端な人間だけが偏見を持っているのであれば、人種差別はそれほど深い問題ではありません。そこらにいる普通の人々が当然のように偏見を感じる、この映画におけるウォーケン&トラボルタ夫婦のような気の良い人たちが何となく有色人種を避けている、これが差別問題の根深いところではないでしょうか。スピルバーグの「カラーパープル」という映画には、黒人に対して寛大な善人だと自分で思っているものの、無意識のうちに無神経な言動をとる金持ちの白人おばさんが登場します。一方スパイク・リーの「ドゥ・ザ・ライト・シング」という映画には、「それは差別だ!」と大声で叫んで自分の要望を押し通そうとする黒人が登場します。人種問題を真剣に扱おうとすると、このように善悪で割り切れない難しい構図が現れてくるもの。「一昔前の一部の心ない白人が悪いんです」という言い分はあまりに誠実さを欠きます。自分とこの社会でいま現在も続いている問題に対して、よくも他人事のように善人面できるもんだと呆れてしまいました。その無神経さがよく表れているのがクライマックスで、悪意ある人間を文字通り隅に追いやり、「善人」だけが大いに盛り上がって終了というのはあんまりでは。人種によって扱いを変えることが社会の秩序とされていた時代には、こういう映画を作るような人たちが差別の片棒を担いでいたのだと思います。正直、観た直後は最低点をつけてもいいかなと思ったのですが、この映画を愛する多くの方々への敬意とミュージカル部分への評価を乗せて、ここは2点としました。
[ブルーレイ(字幕)] 2点(2008-06-24 02:32:32)
327.  エイリアン3/完全版
多くの監督・脚本家が関わりながらも一向に作品がまとまらず、ニュージーランド出身のヴィンセント・ウォードがようやく監督に就任するもあまりに突飛なアイデアの数々にスタジオや現場もついていけなくなって降板。巨大セットを組み、人材も集め、公開日も決定している中、監督・脚本がないという異常事態で呼ばれたのがフィンチャーだっただけに、完成した作品には製作時の混乱がよく表れています。ハゲ頭に同じような格好の囚人は誰が誰だか区別がつきませんが、あれは脚本未完成のまま撮影に突入したため、ひとりひとりの個性やエピソードが固まっていないことから必然的に生じた混乱でしょう(同一人物とは思えないほど性格がコロコロ変わるキャラクターも何人かいます)。また、見せ場の少ない本作において作品の要となるべきはクライマックスのアクションですが、薄暗い廊下を囚人が走り回っているだけという地味なもので、しかも作戦の概要や位置関係がよくわからないので、作戦が成功しているのか失敗しているのかすらよくわからないというグダグダぶり。挙句、作品の完成度に疑問を持ったスタジオによってズタズタにカットされ、さらにまとまりの悪くなった状態でエイリアン3は世に出されてしまいました。スタジオによる干渉を受ける前の形であるこの完全版は劇場版に比べて出来がかなり向上していますが、やはり前述した根本的な問題点を抱えたままなので、完成度の高い作品とは言えません。しかし、結果的に不完全な形になってしまったものの、この作品が目指した深遠なドラマは注目に値するものです。「2」を継承した娯楽大作にするのが観客受けを簡単かつ確実に狙える路線だったはずですが、そうした安直な方法に走らず、あくまでSFとしての斬新さやドラマ性を追及した製作陣の姿勢は評価に値します。また、天才監督デビッド・フィンチャーの才能が、「セブン」や「ファイト・クラブ」にはない面白い形で発揮されています。「地獄の黙示録」がそうであったように、作品が不完全であることの味が漂っているのです。寝てても面白い映画を撮れる天才監督が、極限まで追い込まれて作った作品に漂う狙っては出せない味。エイリアン3にはそれがあるので捨てがたい。なので「2」と同じ8点をつけました。
[DVD(吹替)] 8点(2008-06-23 01:43:28)
328.  パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド
ダラダラと長いだけで本当につまらない映画でした。「1」「2」でも監督の力量不足が気になっていたのですが、それでもかっこいい音楽や豪華な映像によってある程度は誤魔化せていました。しかし、3作目ともなるといよいよ限界が来ています。脚本に書いてあることをただ撮っているだけで、何のこだわりもない演出。肝心のクラマックスも音がデカイだけでハラハラもドキドキもせず、何も良いところがありません。脚本はなかなか野心的で二転三転どころか五転も六転もする練りに練られた内容なのですが、監督の演出がこれに追い付かず映画を台無しにしています。登場人物の感情の移り変わりを丁寧に演出していないため、裏切りに次ぐ裏切りが観客にとってのサプライズになっていないのです。シリーズ化決定の時点で、この監督は降板させておくべきでした。
[映画館(字幕)] 1点(2008-06-21 02:30:37)(良:2票)
329.  ミスト 《ネタバレ》 
監督は一般にドラマ路線のイメージの強い人ですが、「エルム街の悪夢3」でデビューした、元はこっち方面の人。その時代の「ブロブ/宇宙からの不明物体」は出色の出来で、観客の先読みを読んでその裏をかいてきたり、静かなテンポからスペクタクルへの大転換をやってみせたりと、B級モンスター作品でありながらかなりの技量を見せた人物です。また「ザ・フライ2」や「フランケンシュタイン」では異形の者の悲しみを描いており、ホラーとドラマをこなす人物なのですが、その2つの才能が本作では見事に発揮されています。丁寧かつ周到な人間描写と、タイミングを心得たモンスター描写の巧さ。何も見えない霧という設定が非常に秀逸なのですが、外部の状況が読めない、解決策が見えない分、人々は答えをスーパー内部に求めようとします。最初は「変な人ね」とバカにされてたあのウザイおばちゃんが、人々の不安の中で多数派の指導者となっていきます。主人公のような具体的な行動は何ひとつしていないのですが、「悔い改めて神の意志に従うことで救われる」という解決策を唯一持っている人物なので、答えを求める人々が彼女の元に集まってくるのです。そして宗教的な熱狂と集団心理から、何の責任もない下っ端の軍人をリンチし、子どもを生贄として差し出そうとまで言い始めるあたりの怖さとリアルさ。主人公もまた、この事態から脱するための答えを求めています。彼の信じた答えはより現実的で、駐車場の車まではなんとか辿り着けるだろうから、車に乗ってともかく行けるところまで逃げようというものでした。観客にとってもマトモに思える答えでしたが、これを正解としなかったのがこの映画のニクいところ。エンドクレジットで響くヘリの音は軍による大規模な救援を意味し、スーパーに留まっていればじきに助けが来ていたことの暗示でしょう。「主人公のやることは最終的に正しい」という映画の定石を逆手にとり、とんでもなく絶望的な印象で映画を締めくくってしまいます。またモンスター描写も圧巻で、モンスターが登場するシーンはそれほど多くないのですが、圧倒的な恐怖演出と描写の不快感、タイミングのうまさで、終始とんでもないモンスターに取り囲まれているという緊張感が全編を貫いています。ここまで全身に力を入れながら見入った映画はここ数年なかったと言えるほどで、久しぶりに10点を献上できる作品に出会いました。
[映画館(字幕)] 10点(2008-06-02 02:46:37)(良:8票)
330.  HERO(2007) 《ネタバレ》 
テレビ版が好きだったので見に行きましたが、相当な期待外れでした。映画らしいと言えばフジテレビの威光でやたら豪華なキャストを揃えているところのみで、脚本も演出も映画館で見るに値するレベルに全然及んでいません。とにかく荒さの目立つ脚本で、特にすごいのが「男魂」の扱い。「男魂」とペイントされた容疑者の車が事件の有力な証拠だということでこの車両の捜索が映画前半のメインエピソードとなるのですが、韓国まで追いかけてようやく発見したこの車両が後半の裁判で決定的な役割を果たすのかと思いきや、被告側の弁護士である松本幸四郎の一言であっけなく証拠としての採用を棄却され、後半では「男魂」の「お」の字も出てきません。普通の映画文法では、前半であれほど時間をかけて追いかけたものは後半の伏線になるはずなのですが、ここまで無意味になってしまうのはさすがにどうかと思いました。1時間ドラマ程度の内容しかない脚本の時間稼ぎのため、またゲスト出演のイ・ビョンホンを登場させるべく韓国へ舞台を移すため、車両の捜索という本筋とは無関係なエピソードをねじ込んだようにしか見えませんでした。またキムタクのキャラクターも映画版ではあざとく感じました。ラフな服装と型破りな言動で一見すると検察官としての能力はなさそうだが、実は熱い心を持って事件にあたる久利生公平。彼の人間味溢れる捜査で事件のみならずその背後にある人間ドラマも解決していくこと、またパっと見で彼を判断する連中を最後にはギャフンと言わせる痛快さがドラマの面白さでした。それはやはり1時間枠のテレビドラマで、しかも月曜9時。深く考えずに1時間でさくっと見るからこその面白さだったのだなと映画版を観て再認識しました。上映時間は倍以上になり、見ている側の集中力も格段に違う映画においてはやはり勝手は違います。どうでもいい捜査を延々見せられた末に、ラストはキムタクの演説で判決が出てしまうという適当さ。キムタクが人情話をすれば、状況の吟味や証拠の検証などもすっ飛ばしてみんな「はは~」っと納得してしまうわけですよ。それはあんまりでしょ。
[映画館(字幕)] 4点(2007-10-06 19:13:02)
331.  ドッグヴィル
この監督、ものすごい天才だが精神年齢は幼稚園児並のような人ではないでしょうか。線が引かれているだけというセットとも言えないセットで、文学的なナレーションに沿って進むこの話。ここまで実験的な体裁をとった作品は他にありませんが、これを3時間退屈しない出来にしているのはやはりすごいことだと思います。また衝動的に作っているように見えて非常にはっきりとした起承転結を持っている話であり、クライマックスに至っては観客にカタルシスすら与えているだけに、やはり見る側の感覚や面白みもきちんと計算して作った作品だと言えます。村人の嫌らしさや憎たらしさもよく表現できており、なかなかうまいものだなと感心させられました。脚本・演出の腕前は本当に一流だと思います。その一方でこの監督の人間観は非常に幼稚だと言えます。過去の作品を見ても、この人は人間を善悪の二面で捉えている傾向があります。登場するのは良い人か悪い人で、良い人であっても何かをきっかけに突然悪意を向けてくる。絶望的とも言える人間観ですが、しかし実際のところ、人間は善悪そこそこでバランスをとりながら生きている存在であり、またお互いに影響を与え合いながら生きている存在ではないでしょうか。自分に対して悪意を向けられる場合においても、その根元には必ず相手と自分との関係性の変化があり、その原因は相手と自分の両方にあるのです。しかし監督はこの「お互い様」を理解できない人なのか、この人の作品の登場人物は毎度一方的に悪意を受け、傷つくような描写がなされます。この監督は本質的に人間というものが見えていない人なんだと思います。なぜ人は悪意を向けてくるのか、その原因がわからないからこそ病的なまでの人間不信なのでしょう。クラスにはたいていいじめられっこタイプがいます。その子に悪意はないものの空気の読めない言動で次第に周りから嫌われるのですが、悪意を向けられると途端に被害者モードに入ります。自分の何が悪かったのかを考えないまま周囲を悪者にして殻に閉じこもるというその性質が、この監督からは感じられます。そういった意味では、この監督の作品は空気の読めない人にとって世界がどう見えているのかを理解するよいサンプルだと言えます。
[DVD(吹替)] 7点(2007-09-08 21:06:23)
332.  ゴーストライダー
ものすごく偏差値の低い映画で最高でした。メラメラと燃えてるガイコツがバカ笑いしながら大好きなバイクで爆走。スーパーマン・リターンズやバットマン・ビギンズが描いていたような苦悩や葛藤、トラウマは一切なく、バカなヒーローがうれしげに腕力を振るうのみという素晴らしい内容でした。特に最初に変身した後の豪快な暴れっぷりは見もので、父親とのドラマや悪魔との契約や業というそれまでの話がコンマ1秒で飛んでいくほどのバカさ加減を披露していました。こんなバカのためにえらいもったいぶっていたメフィストもバカに見えました。また、こんなバカにあっけなく倒される敵もバカに見えました。同様に、こんなバカに振り回される警察もバカに見えました。何より、あれやこれやと気を揉み、将来を約束した恋人を捨てるほど悩んでいた姿がこれかいと、ニコラス・ケイジがすごいバカに見えました。頑張って苦悩の演技をすればするほど、「夜になればアレに変身するんでしょ」と本当にバカに見えます。とにかくバカに溢れた映画ですが、それがあまりに突き抜けており、かつ脚本のレベルの低さと反比例してビジュアルが丁寧に作りこまれているので嫌いになれません。メラメラと燃えるバイクがビルの壁を垂直に登る!水の上も走る!馬も燃える!怪力でヘリコプターを振り回す!こんなどうしようもない場面をきっちりと実写で見せてしまうわけです。技術スタッフの努力の賜物と言えますが、同時にこの監督のビジュアルイメージも実に達者だなと感心させられました。今回は敵が弱いこともあって「ゴーストライダー誕生篇」という感じでしたが、ぜひともシリーズ化して次回作は「死闘篇」として、もっとすごい戦いを見せてくれればなぁと思います。
[DVD(吹替)] 7点(2007-09-08 20:11:56)
333.  トランスフォーマー
子供の頃に大好きだったトランスフォーマーがハリウッドでまさかの実写化!しかもマイケル・ベイ&スピルバーグ!全世界ですさまじい大ヒット!公開日を指折り数えるほど期待しつつ見に行ったのですが、ここまでつまらないとはと愕然としました。正体不明のヘリがロボットに変形し、突如カタールの米軍基地を襲うイントロは最高。また冴えない主人公のために愛車(実はトランスフォーマー)がお節介を焼く前半部分もほほえましく、最初の1時間は本当に楽しめました。「宇宙戦争」や「ET」の良いところを合わせた感じで、スピルバーグの味がよく出ているなと。しかし話のテンションを上げていかねばならない中盤以降になってもくだらないギャグは止まらず、ダラダラと緊張感のない展開に辟易。マイケル・ベイ印のアクションは毎度音だけはデカイものの、細かいカット割りで訳が分からず。キャラクター物って、立ち姿やファイティングポーズをこれでもかとかっこよく見せてあげるのが大事だと思うのですが、その美学が完全に抜けていました。またトランスフォーマー達に個性がないのも重大な欠点。アニメのトランスフォーマーがヒットしたのは、それぞれのロボットに個性があったことです。トランスフォームする前の乗り物やアイテムに沿った性格付けがなされ、トランスフォーム後もアイテムの特性を引き継いだ強み・弱みがありました。また同じような強みを持つ個体が敵の集団にもいて、各キャラクターにライバルがいました。このようにキャラクターが面白いことで話も面白くなっていたのですが、今回の実写版ではどのキャラクターも同じようなデザインでオプティマス・プライム以外はほとんど判別がつかず、一応性格や特技の設定は設けられていたものの、いざバトルに突入してもその特技が活かされることがまったくないという状態。否定的な意見はもっぱらマイケル・ベイに向けられているようですが、この実写版はトランスフォーマーへのそもそもの理解の部分で失敗しているように思います。アニメではあれほど強烈だったスタースクリームの個性がなくなっていたり、メガトロンをあっけなく殺してしまったり(しかも人間の手で)と、オリジナルが好きな人が作ったとは思えない部分が多々ありましたし。
[映画館(字幕)] 3点(2007-09-08 19:11:56)(良:1票)
334.  デス・プルーフ in グラインドハウス
期待して見に行ったのですが、あまりに面白くなくてガッガリでした。そもそも「グラインドハウス」は上映形式が先立った企画のはず。上映時間が短く内容も薄いB級映画だが、2本同時に見られて、おまけにいかがわしい予告編もあって妙な満足感がある。いわば新橋のそば屋の「カツ丼&そばセット」のようなものです。ひとつひとつのメニューは誉められたものではないが、ふたつを同時に味わえるからそれはそれでいいじゃないかという。そんなチープなボリューム感を復活させることが趣旨の企画であり、それぞれの作品も同時上映を前提に意図的に安っぽく適当に作られているだけに、一本ずつに切り離されてしまうと相当ツライ。しかも本来内容のない映画を一本の上映作品として成立させるため、オリジナルにはなかったシーンを追加して上映時間を水増ししてしまったのがさらに裏目に出ているように感じました。ダラダラと続く会話が退屈で仕方なく、内容からするとこの映画は90分程度が限界だったと思います。商売に合わせて作品を勝手に編集することで有名なワインスタイン兄弟ですが、ここでも兄弟の儲け主義が作品の価値を失わせてしまっていて本当に残念です。本編開始前に流れた「プラネットテラー」の予告が相当面白く期待が膨らんだのですが、「デスプルーフ」がこの状態では「プラネットテラー」も推して計るべしだなという感じです。「プラネット・テラー」はあえて劇場に行かず、DVD発売の際に「デス・プルーフ」との同時上映にして「ひとりグラインドハウス」を楽しみたいと思います。
[映画館(字幕)] 4点(2007-09-08 18:14:26)(良:1票)
335.  サンシャイン 2057 《ネタバレ》 
死にゆく太陽を復活させるというあらすじ、おまけに主要キャストに日本人俳優と聞けば映画の出来がクライシスだった「クライシス2050」を思い出しますが、こちらはハードSFとして相当レベルの高い仕上がりです。破壊的な太陽光と常に隣り合わせで宇宙をポツンと航行しているという、想像するだけで背筋が凍るようなシチュエーションを見事に映像で表現しており、特に前半などは「2001年宇宙の旅」や「エイリアン」などと比較してもまったく遜色ないほどの仕上がり。人間関係がひたすら淡々としていることも、かえって不気味さを煽ります。「地球を救うために絶望的なミッションを引き受けたクルーはどうなっていくのか?」ということを突き詰めて考えた結果がこれなのでしょうが、いちいち心情の説明をしてもらわないと話を理解できないような客層をはっきりと切り捨て、終始ドライに徹することで作品の味を保っていると言えます。また科学考証についても同様で、かなり厳密な科学考証に基づいて書かれた隙のない脚本ですが、説明的な描写が入らないので知的好奇心の高い人でないとついてくることは難しいのではと思います。このように明らかに客を選ぶ映画であり、娯楽という呪縛から解き放たれたおかげでハードSFとしては成功しているのです。そして、クールな前半から一転して後半は演出・脚本・編集のすべてが大暴走をはじめ、観念的な世界に突入します。監督&脚本家の前作「28日後…」同様ここで一気に作品が崩壊をはじめるのですが、本作ではより確信犯的に作り手たちが作品を破綻させています。要は「イベント・ホライゾン」とまったく同じ末路なのですが、「5人いる…」から一気にテンションを上げてこの見せ方というのが実にうまい。娯楽的なわかりやすさを徹底的に排除することで、作品が陳腐になることを回避できているのです。一応はミッションの成功という形で締めくくられますが、イカロス2号であれほどの事があったとは知らず太陽の恵みを受ける地球の人々を描くことで、見終わった後もいろいろ考えさせる映画になっているのも見事。SF好きは要チェックの映画だと思います。
[映画館(字幕)] 8点(2007-04-20 16:01:53)(良:7票)
336.  ブラッド・ダイヤモンド
「ラスト・サムライ」では時代劇で日本人を感動させるというウルトラCをやってのけたエドワード・ズィックがまたしてもやりましたね。綿密な研究により極めてリアルにアフリカの問題を描いた良作です。ダイアモンド争奪戦を軸に、政府軍とゲリラ勢力の対立、虐殺、少年兵、先進国の無関心、貧困につけこむ大企業・傭兵とさまざまな要素をぶち込み、これを破綻させることなく上質なドラマにまとめ上げ、さらに娯楽作としても満足の仕上がりにしてみせる手腕は相変わらず見事としか言いようがありません。ロケーションにこだわった映像の説得力は抜群でアフリカの悲惨な現実を浮き彫りにするし、アクションも見ごたえ十分。少年兵のくだりなどは特に恐ろしかった。また、主人公3人がそれぞれの思惑を持ってダイアモンドを目指すあたりにも感心しました。なんだかよくわからない理由でアクションをやる主人公の映画が多い中、本作の登場人物たちはそれぞれにしっかりとした動機を持っているので、余計な疑問を持たずにドラマに集中できましたから。「アミスタッド」「グラディエーター」とアフリカ人役でおなじみジャイモン・フンスゥ、頭の良い美人をやらせたら天下一のジェニファー・コネリー、「ハムナプトラ」「24シーズンⅣ」など胡散臭いえらいさんにピッタリのアーノルド・ボスルー、各自よくハマっていました。ただし唯一残念だったのがディカプリオで、確かに彼はよく頑張っていました。超現実派のひねくれ者が次第に人間味を取り戻す過程を嫌みなく巧みに演じていたし、アクションも非常によかった。ただ、アフリカの内戦を戦い抜いた百戦錬磨の傭兵にはどうしても見えないという大きな弱点が。体の線が細いし、あの童顔ではヒゲを生やしてもあまり強そうには見えません。同世代の俳優であればマーク・ウォルバーグあたりの方がより傭兵らしく見えたと思います。こういうとこ、顔のいい俳優は損ですよね。本人がいくら頑張っても、ルックスのせいでできる役柄が相当限られてしまうので。トム・クルーズもブラッド・ピットも苦労しているところですが、ディカプリオは兄貴分のジョニー・デップのように演技とルックスを両立できる俳優になれるのか。とりあえず今は成長過程だと思います。
[映画館(字幕)] 7点(2007-04-13 01:41:28)(良:2票)
337.  デジャヴ(2006) 《ネタバレ》 
【予備知識一切なしで見るべき映画なので、未見の方がレビューを読まれる際にはご注意を】ブラッカイマー&トニー・スコット&デンゼル・ワシントンとくれば「いつもの無難なアクション大作だろ」と思いきや、史上空前のとんでもない仕掛けがぶち込まれた異様な映画となっていました。タイムスリップを題材としたSF映画は数あれど、アクション映画のメインアイテムとして大真面目にタイムマシンを登場させる大胆不敵さには驚きました。誰も思いつかなかったこの一発芸は、実に巧みな脚本と卓越した演出センスによって、映画として十分成立するレベルにまで到達しています。多くのヒット作の脚本を手がけてきたテリー・ロッシオは、このすさまじい題材がどうすれば観客に受け入れられるかを見事に計算してきます。いきなり「これはタイムマシンです」と言うのではなく、デンゼル・ワシントンが謎のマシンの正体を暴くという展開を入れることで説得力をぐっと増しているのです。また、トニー・スコットのハイテク描写の巧みさにも舌を巻きます。「好きな場所に入り込んで過去を覗き見ることができるが、膨大な情報処理には4日を要するため常に4日前の映像しか見ることができず、しかも一度に見られるのは一つのアングルだけで巻き戻しはできない」という煩雑な基本設定を観客に受け入れさせるというウルトラCに挑み、言葉と視覚を交えることで見事それに成功しているのです。装置がタイムマシンであることが暴かれる一連の描写も、脚本レベルの驚きのみに留まらず映像的な面白みも十分。右目で現在を、左目で過去を見ながらのカーチェイスという荒唐無稽な見せ場では、知的な面白さと映像的な興奮でテンション上がりっぱなし。ここまで煩雑な設定を映像で饒舌に語れる監督は他にいないでしょう。確かに細かいアラはいくつか目に入ります。タイムパラドックスの処理に矛盾があったり(爆発した救急車や血のタオルのくだりは時系列上明らかに矛盾が…)、犯人の扱いがやたら適当だったり(目的が最後まで不明、人物像も適当、爆弾魔なのになんでマシンガン持ってんだ…)、ヒロインがデンゼルを受け入れる過程の葛藤が単純だったり。こうした細部の甘さにより傑作となる詰めを外しているような気もしますが、このとんでもないアイデアを実行し、成功させたこと自体を評価しようではありませんか。
[映画館(字幕)] 8点(2007-04-03 12:49:42)(良:1票)
338.  トム・ヤム・クン!
さらわれた象を探して悪党を倒すという狂った話でありながら、これが実に当たり前のことのようにマジメに描かれている辺り、タイのみなさんの象への愛情と愛着が感じられました。象をいじめるやつは死ねばいいんだというネイチャーへの熱い思いが日本人の私にも十分伝わり、野生動物を食材としか思わない中国人を倒しまくる場面には大興奮。敵に対する容赦のなさではスティーブン・セガールを超えているトニー・ジャーの魅力がよく出ていました。こういった単刀直入な展開とカンフー(この映画ではムエタイですが)の相性は抜群にいいですね。Xスポーツ軍団にはじまり、カンフー、カポエイラ、剣術、プロレス、オカマというマンガのような異種格闘技バトルはもう最高。トニー・ジャーの圧倒的な身体能力に頼りきった「マッハ!」よりさらに進化し、夢のような対戦カードを準備。それぞれの敵が十分にキャラ立ちしているのがうまいところで、また各自の特性を活かしたアクション演出にも目を見張ります。スタントだけでなく撮影や編集も相当に高度でセンスがあり、格闘バトルをここまでうまく撮るのはハリウッドでもちょっと難しいレベル。絶賛された「007/カジノロワイヤル」冒頭の肉体アクションよりも、こちらの対Xスポーツ戦の方が良くできていたと思います。とまぁカンフー映画としては大満足なのですが、マッハで成功した監督が色気を出そうとしたために映画のバランスが悪くなっているのが残念。前述したようにカンフー映画はシンプルであればあるほど面白いのですが、本作では警察の汚職やマフィアの権力争いなどの不要な展開が盛り込まれてしまっています。またそれが面白ければいいのですが、あまりにもシナリオが下手くそすぎて意味がよくわからないのが致命的。タイ人警官やタイ人コールガールが味方として登場するものの(良い人はたいていタイ人)、結局何の役にも立たないのではいない方がマシ。特にコールガールなどは登場の仕方はいかにも重要なヒロインという感じだったのに、その後何の役割も果たさず、トニー・ジャーを含む主要登場人物との絡みもなく、画面にもほとんど登場しないという素敵な状態。あの女優さんに撮影の途中で何かあったのかなと、こちらが心配してしまうほどでした。
[DVD(字幕)] 7点(2007-03-31 17:41:53)(笑:1票) (良:2票)
339.  A.I.
この映画は出来が良い悪いの次元ではなく、恐ろしいまでに異常で理解ができないという評価が適切ではないかと思います。クリス・ロックロボが笑いながら破壊され、とんちんかんな命乞いをするフリークロボが容赦なく溶かされるという残酷ショーのあからさまな異常性だけではありません。デビッドが家族を心を通わせるという、本来は暖かくあるべきシーンからしてすでにおかしいのです。終始無機質な笑顔を浮かべ、気がつけば音もなしに背後に立っているデビッドは文句なしに怖いですよ。あのうざい言動と言い、こいつには一秒たりとも家にいて欲しくないと思える稀有な主人公です。一方、彼と母の愛情を争うこととなる実の子のキャラクターもムチャクチャで、終始意地悪なことか卑怯なことしかしないという、どこぞの安い少女マンガよりもレベルの低い憎まれ役です。そんな彼らが見せるドラマは、かつて子役を使わせると天下一品と言われたスピルバーグのやることとは到底思えないほど稚拙であり、登場人物に感情移入させないようわざと仕向けているのではないかとすら思えます。そもそも本作は天才スピルバーグが誰よりも得意としてきたジャンルであり、普通に撮っていればそれなりにレベルの高い感動作にできたはずです。なのになぜ、あえて自分の得意技を封印してまでこのような出来にしたのか?売れ線から外れてまで一体何がしたかったのか?その見当がまったくつかない、作り手の意図が何も見えないというあたりが何とも怖いですね。キューブリックの真似事をしようとして失敗したのか?自身の残虐性をもはやコントロールできなくなっているのか?家族向けの感動大作を装いながらこれほど残酷で不気味な話を見せてくること自体が、スピルバーグにとって何かの挑戦だったのか?まぁ一から十まで理解不能な映画ですが、これを額面通り感動作と勘違いし、世界で唯一大ヒットさせた日本の観客も理解不能。なんとなくいいものを見た気にさせる見事なラストを除いて、本作に感動できる場面はないように思うのですが、にも関わらず感動作だとありがたがった日本人…。「アルマゲドン」でも思ったのですが、テレビCMで感動作だと言われれば何でも感動作だと思ってしまうほど映画を見る力がないのかなと、最後に何となく感動できれば2時間半の長丁場を耐えてしまえるのかなと、学力低下の影響はこんなところにも出ているのかなと。
[映画館(字幕)] 2点(2007-03-26 23:08:14)(笑:1票)
340.  ホステル
日本以外では空前の大ブームとなっているスプラッタホラーの代表的な1作ということでブルーレイディスクを購入して鑑賞しましたが、あらすじから想像されるよりもスプラッタは少ないように感じました(もちろん、ホラーに免疫のない人が見ると卒倒する作品ではありますが)。顔を半分焼かれた女の子の特殊メイクがやたらチープ等、映像的に群を抜くほどショッキングというものでもないでしょう。むしろこの映画からは、イーライ・ロスという人物の素晴らしい才能が感じられました。見せない部分の怖さ、これから起こる惨劇への不気味な兆候の表現が実にうまく、復讐へとなだれこむ後半の盛り上がりも絶好調で、この人の脚本・演出は完璧に計算されているなと感心しました。ピーター・ジャクソン、サム・ライミと現在ハリウッドを引っ張っている監督がふたりともホラー映画出身ということからも、優秀なホラー映画を作ることは監督としてのポテンシャルのひとつの証明だと言えます。観客を怖がらせるには、どのようなバイオリズムで鑑賞されるかを先回りして脚本・演出を仕掛けていくという能力が必要となりますが、このイーライ・ロスという人物はそれに非常に長けているように感じました。この人はただ気持ち悪いものを見せるだけの人物ではないなと。今後の成長が非常に楽しみな監督さんだと思います。
[DVD(吹替)] 7点(2007-03-22 00:25:03)(良:1票)
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