21. 魔女の宅急便(1989)
本作を宮崎アニメの最高傑作に挙げる人があまりいないのは、彼の永遠のテーマであるエコロジー的な視点とメッセージ色が幾分希薄であるからか。でも個人的にはこれまで見た映画の中でも最も好きな作品の一つだし、宮崎駿が伝えたい何よりのメッセージが「エコロジー」なら、何より憧憬しているのが「少女の可憐さ」と「空を飛ぶこと」であり、本作ではその魅力がいつもより肩の力を抜いて、軽やかに描かれているせいか、ただキキが空を飛ぶシーンだけでも胸が一杯になってしまう。それと、本作は「甘い」のではなく、あくまで「優しい」のであり、観賞後、かくも優しさにつつまれる(まさに!)ような気になる作品を俺は他に知らない。と言うわけで、本作における既成曲(荒井時代のユーミンね)の使い方の素晴らしさは、2001年宇宙の旅におけるツアラトストラかく語りきのそれに勝るとも劣らないものだと思ってるんだけど、どうでしょう? 10点(2001-09-30 01:36:10)(良:1票) |
22. 千と千尋の神隠し
「自然と人間の共生」という宮崎駿の永遠テーマを苛烈なまでに綴ったもののけ姫における悲痛なメッセージ「生きろ」を引き継ぐかのような本作でのメッセージは「懸命に生きろ」。千尋は数ある宮崎作品の主人公の中でも(ルックスも含め)最も平凡な女の子であり、それゆえにその懸命さが胸に突き刺さる。ただ、そのメッセージ、美しい映像、想像力を駆使した世界観、そして、お馴染み久石譲の印象的な音楽に酔いしれつつも、提示される多くの謎と暗喩にはどこか混乱しつつ見終わった。が、その直後、近くに座っていた子供(小学校低学年くらい)が発した一言「あー面白かった!」には愕然とした。考えてみれば童話なり昔話なり、そこでは不条理だったり非合理的だったりするのがむしろ当たり前であり、そこに疑問を持つ前にかつての自分もすんなりと入れ込めたはずなのに。今まで何のために多くの映画を見続けてきたのか。いつのまにか自分の感受性において、大切な部分がすっかり抜け落ちてしまっていたのか、との思いが込み上げるとともに本作こそ多くの童話等以上に後世まで語り継がれるべき傑作である、と確信した瞬間だった。DVDが出たら即買って何度でも繰り返し見たい。なお、千尋の声役の柊瑠美はその素人っぽさが逆にすごく良かったと思う。 10点(2001-09-30 00:47:04) |
23. アポロ13
実話に基づいて、それに忠実に再現した作品。大げさな誇張も(たぶん)ない所が気に入った。限定された空間で解決策を次々と論理的に見つけていくところが、他のSF映画よりもSFしてて良い(なんか変な文章だな)。 10点(2001-09-17 12:58:18) |
24. 遠い空の向こうに
やっと見ることができましたが、これはやはり噂に違わぬ特大の傑作。それにしてもアメリカンドリーム物って一歩間違えればかなりベタな代物に成り下がってしまうのに、いったいこの胸すくような爽快感は何なのだろう。俳優も台詞も音楽も演出も特別なことをしているのではないのだが、すべてが必然に満ち、かつ純化された美しさだけが心に染み渡る。最後の方はマジにずっと泣いてたんだけど、それに追い打ちをかけるように実話ならではのその後の人生の語りが入り、あのシーンが8mmフィルムで・・・うーん参った。クリス・クーパーやローラ・ダーンも脇を見事に引き締めてます。 10点(2001-09-17 00:31:03) |
25. ガタカ
医学の高度な発達とともに遺伝子の優劣により、区別と差別が顕在化するという近未来世界についての警鐘というよりも、むしろ、ラストのお抱え医師の台詞に象徴されるように、そんな世の中でも人間の人生を切り開いていくのは弛まぬ努力と夢を信じ続ける意思であるというポジティブなメッセージの方に強く感動した。映像と音楽も大変美しく、また、出てくる車が電気自動車でありつつエクステリアはシトロエンだったりしてディーテイルにもかなり凝っている。 9点(2001-09-02 00:27:33)(良:1票) |
26. カリートの道
デ・パルマがスカーフェイス以来久々にコンビを組んだアル・パチーノはいつものようにやたらと怒鳴り散らすのでなく、幾分抑えたトーンながら主人公カリートを見事に演じている。また、口では「誰も信用しない」と言いつつ最後は人を信用してしまい、結局周囲の裏切りに翻弄され続け怒りが爆発しそうになりつつも自分の夢を叶えるため何とかポジティブに生きていこうとするカリートに対するデ・パルマの視線はいつもより幾分優しく感じられ、またそれゆえにラストシーンがあまりに美しくいつまでも心に残る。デ・パルマらしいカメラワークもタップリ堪能できる素晴らしい作品だと思う。 10点(2001-08-16 00:07:46)(良:1票) |
27. ひまわり(1970)
ヘンリー・マンシー二による印象的な音楽をバックにロシアの青い空の下、見渡す限りのヒマワリ畑が写されるオープニングから圧倒的に美しい。また、本編にしても演出、俳優、演技、音楽から小物の一つ一つに至るまで完璧なまでに調和が取れているなか、ストーリーはいかにもデ・シーカが好みそうな美しく、悲しく、そして残酷なものである。 9点(2001-08-12 23:23:50) |
28. スパルタカス(1960)
ベン・ハーやクレオパトラと並ぶ歴史物超大作だが、とにかくやたらと金とエキストラを使いまくっており(今の時代では絶対CG使わないと映像化できないだろう)、特に奴隷軍とローマ軍の戦闘シーンはただただ圧巻。しかし、主演のカーク・ダグラスにイマイチ魅力を感じられなかったり、監督があのキューブリックであるということを意識し過ぎたせいか、個人的には正直あまりのめり込めなかった。聞くところによると、本作の撮影に際してキューブリックは作品のコントロールをまったく行うことができず、出来そのものにも相当な不満を持っていたらしく、実際、作風があまりにハリウッド然としており、本作以外の諸作品と比べるとどうしたってその作家性の希薄さは否めないだろう。同じく歴史物ならバリー・リンドンの方がずっと好きだな。 8点(2001-08-04 02:31:46) |
29. チャイナタウン
飄々としながらもフィリップ・マーロウ並みの行動力と推理力を持つ私立探偵ゲティスのもとに舞い込んできたありがちな夫の浮気の調査を進めるうちに、実はその裏に大掛かりかつ悪意に満ちた事件があったが、1つ謎を解いてもそれ以上の疑問が湧いてくる・・・という話。ロマン・ポランスキー、ジャック・ニコルソン、そしてスコアを担当したジェリー・ゴールドスミス各々にとってもエポックと言える秀作だと思うが、細部まで相当に拘ったでろう画面から醸し出されるある種のハードボイルドな雰囲気が最高で、それこそが本作の白眉。いつまでも陶酔していたくなる。ラストは次に何が起こるか分からないチャイナタウンならではか。 9点(2001-08-03 01:36:10)(良:1票) |
30. ブッチャー・ボーイ
本作を見て何か月経ったか分からないけど、その感動及び衝撃は未だまったく色あせません。あえて例えを持ち出すならキューブリックとサリンジャーの間にある少なくはない溝を見事に跳躍して見せた、とでも表現すれば良いのでしょうか?とにかく役者(特にフランシー役の少年はスゴイ)、演出(かくも陰惨な内容をどこかコミカルに仕上げる手腕はスゴイ)、音楽(ハワイアン風にアレンジされた三文オペラのテーマを挿入するセンスがスゴイ)、映像(アイルランド特有のどこか淀みながらも張り詰めた空気感と緑に彩られた風景の美しさがスゴイ)等々、映画を構成するものがかくも自分の感性にピタリと符合することも珍しく、ニール・ジョーダン監督の才能には改めて感嘆しました。本作は日本では劇場未公開なんだけど、その理由は当時少年による刺殺事件が多発していたからだそうで・・・でも、こんな時代だからこそ、なぜ少年が凶行に走るかということを考えさせてくれる本作がとても重要になってくるんじゃないのかな。なお、マリア様はシニード・オコナーが演じています。 10点(2001-07-31 00:01:17) |
31. アイズ ワイド シャット
これは本当に評価が難しい作品だ。内容は妻の貞操観念が思ったより軽いことにショックを受けた主人公がヤケになって乱交パーティに潜入したけど主催者側の怖いおっさん達に脅されて、やっぱ身の丈に合わんことはするもんじゃないよね、と気づくだけのなんともショボイ話なんだけど、さすがはキューブリックで、この程度の話なのに2時間半強、まったく退屈せずに見ることができた、ということで逆説的にその力量を示しているのか。それとやはり映像と音の使い方は素晴らしく、特に乱交パーティのシーンで赤いマントを着た人が杖を床に突き立てるシーンの色彩感覚とあまりに禍々しいBGMのセンスや、主人公が尾行される時に使われるリゲッティによるピアノの挿入などは白眉。しかしキューブリック自身「本作が私の最高傑作」と語ったらしいが・・・どうでしょう?なお、点数は思いっきりエコヒイキが入ってます。 8点(2001-07-29 01:43:02)(良:1票) |
32. サイダーハウス・ルール
M・ケイン演じる先生は、毎夜、孤児たちに「メインの王・・・」と語りかけ、ファジーは人にもらわれたと思い込ませ、孤児院の管理者達にはホーナーは一流の大学出の立派な医者だと説明し、そして、ホーマーの心臓は・・・。本作にはいくつもの嘘が語られる。しかし、それはあくまで優しさに裏打ちされたものであり、そこでは例えば「嘘はついてはいけません」とかいう教条的なおしつけ、あるいは一見普遍的と思われる倫理や規則などより、人生においてはもっと大切なことがあるのだというメッセージが込められているのであり、それゆえに小屋に張られてあった規則(サイダー・ハウス・ルール)を燃やす場面が象徴的に扱われているのだと思う。それとやはり映像的に大変美しく、個人的にはホーマーが初めて海を見るシーンの海の青さと砂浜の白さ、林檎園で風に吹かれて舞い散る落ち葉などがすごく印象残っている。 8点(2001-07-29 01:14:24) |
33. M★A★S★H/マッシュ
主人公の医者達のスタンスは「誰がはじめた戦争か分からないが犠牲となるものは敵味方関係なく最前線に立たされる若者であり、自分達は戦争そのものには全く共感しないが運ばれてくる同氏達には最善を尽くすだけ」というものであるからこその戦地でアメフトやったりゴルフやったり徹底して上官を茶化したりしているのだと思う。だから本作は極めてアンチアメリカ的な作品であり、この当時にこのようなスタンスで映画を撮ったロバート・アルトマンはやはりすごい監督だ。 9点(2001-07-27 23:51:35) |
34. 相続人(1998)
う、話がつまらなさ過ぎる。原作はジョン・グリシャムだっけ?とにかくサスペンスってラストのオチが見どころだと思うんだけど、全然オチてないもんで、名手アルトマンの才を持ってしてもこの程度がイッパイイッパイだったんだろうな、と同情すらしてしまう。それにしてもなんでこんな原作を映画化しようと思ったんだろ?たのむからこれ一作でアルトマンを評価しないでください。 6点(2001-07-27 23:30:23) |
35. 運動靴と赤い金魚
すっかり破れた運動靴でも新しいものを買ってもらうのでなく、縫ってでも履きつづけるほど貧しい家族がごく自然に描かれていることや、年端もいかない頃から「お国のために云々」という教育をされていることや、兄と妹では通学の時間帯が異なること等々カルチャーショックを色々受けてまいましたが、そんな中でもやはり(当たり前だが)子供はいつでも可愛いながら、それなりに悩みを持ち、それなりに精一杯生きている、ということに「マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ」以来久々に痛感させられました。後半のマラソンのシーン以降はとくにその辺が良く表現されており、何ともホロ苦い気分になってしまいますが、それゆえにラストの足元にやさしく寄り添う金魚たちの美しさが際立ちます。あと、好きなシーンは妹役の子供が、自分がかつて履いていた靴を同じ学校の生徒が履いているのを発見してしまうシーン。普通だったら「それ、私の靴!」となってしまいそうなところ、その言葉をぐっとこらえて悪気が無いその子とは親しくすらなってしまうところなど本当に上手いな、と思いました。 9点(2001-07-27 23:05:43)(良:1票) |
36. パリの恋人
なんかヘップバーンて「経済的にあまり豊かでなくて、自分の美貌にもまったく気づいてないけど、あることをきっかけにその美しさに気づかされ世間を魅了していく」というような役ばっかりやってるような気が・・・。まあ、そんなことはともかく本作は映画史上屈指のオシャレ&フォトジェニックな秀作だと思います。評価するうえでストーリーなどは気にすることは無く、ただ、その画面に魅了されるべし。アステアはもちろんのことだが、ヘップバーンも無茶苦茶ダンスが上手で、特に酒場のシーンはスゴイ! 8点(2001-07-24 23:36:54) |
37. イグジステンズ
うーん、皆結構厳しいな。でも、クロネンバーグはテクノロジーと人間によるグロテスクなまでの止揚とでも言えば良いでしょうか?とにかく、そういったテーマを何十年も昔から扱ってる人ですし、本作のように現実とバーチャルリアリスティックな環境の微妙なハザマについてもマトリックスよりも遥か先にビデオ・ドロームで扱ってるんですよね。まあ、それゆえにワンパターンと評する向きもあるかもしれませんが、例えばデビッド・リンチやサム・ライミがかつての趣味性を捨て、大人っぽい映画を撮るようになってしまった昨今、ここまでわが道を行ってくれることには拍手を送りたくなります。個人的に好きなシーンはスペシャルを注文するところで、歯が弾丸になっている銃についてはレイモン・カーセルのカルト小説「ロクス・ソルス」を何故か思い出してしまいました。 8点(2001-07-23 23:01:28) |
38. ブルーベルベット
所謂日常や常識と言われるものに何とは無しに安住していた主人公がイザベラ・ロッセリーニが羽織るブルーのベルベットを一枚は剥がしてしまったゆえに、かつて体験したことも無いようなドス黒い裏世界に足を踏み入れることになってしまう・・・という話だが、(ワイルド・アット・ハートほどではないにしろ)ラストシーンが何とも場違いなくらい甘く感じてしまうのは、デビッド・リンチがそのアンダーグラウンドな世界をあまりに喜々として描いているからなのか。特にオカマのオッサンがロイ・オービソンを熱唱する様をみてデニス・ホッパーが涙を流しつつも口ずさむシーンなどこの世のものとは思えぬグロテスクさで!しかし、本作以降、アメリカ映画でも似たようなテーマを扱うような作品が数多く出てきており、歴史的にも重要な一作でしょう。 10点(2001-07-23 22:40:16) |
39. 現金に体を張れ
例えば本作が、2001年宇宙の旅以降の諸作品ほど語られないのは、難解で哲学的な部分が少ないからなのだろうが、だからといって無視するにはあまりに惜しいサスペンスの秀作。とにかくオープニングから無駄なシーンなどまったく無く、ちょっとだけ欲深くなってしまった登場人物達の悲喜コモゴモを交えつつ、劇中の山場である第7レースに向かって、微妙に時間軸をずらしつつも完璧なまでに演出する手腕はさすがはキューブリック、と唸りたくなる。ラストのシンメトリーなカットもらしくて良い。 9点(2001-07-23 22:13:57) |
40. セントラル・ステーション
子供と大人が織り成すロードムービー。善と無垢の象徴である子供との旅を通じて、荒みきった大人の心を徐々に癒した結果、かつては誰もが子供だったように、心の奥底に埋もれていた純真さを取り戻してゆく・・・という話の筋をかいつまんで書くと何ともベタな内容ではあるが、役者の上手さと演出の巧みさで大変に感動した。例えば舞台であるブラジルは一見平穏そうではあるが、ちょっとした窃盗行為でも警官が躊躇なく犯人を射殺したり、文盲の人があまりに多いのでドーラのような代筆業が成り立っている、といったブラジルの厳しい現実を盛り込むことにより色々と考えさせられるし、それとこの代筆業というのがポイントで、それゆえに最後ドーラが心を込めて手紙を書くシーンに感動してしまうんだよね。あと映像的にもすごく美しくて、ブラジルの田舎の風景や、まったく同じ形の家々を俯瞰したショットなど本当に素晴らしかった。 9点(2001-07-19 02:09:58)(良:1票) |