21. パッチギ! LOVE&PEACE
《ネタバレ》 今思うと、前作「パッチギ!」は(井筒作品としては例外的と言えるほど)ウェルメイドな作品だった。だからこそ井筒作品に触れたことのなかった観客にも受け入れられた。それゆえ今回の作品に同様のものを(意識的・無意識的に)期待した観客の中には期待や予想を裏切られ、失望した人もいると思う。かく言う自分も最初に観た時は唖然とした。前作以上に映画に盛られたいわゆる社会的・思想的要素。露骨に、赤裸々に「差別」が語られる(余談だが、ここまで差別を正面から扱った邦画は、皆無とは言わないまでもそれほど多くはない。アメリカ映画では珍しくないのだが、邦画の枠で考えると突出して見えるのかもしれない)。そして、多くの要素―朝鮮人差別や戦争、芸能界、家族、孤独、絶望、そして「難病モノ(!)」―がこれでもかとばかりにブチ込まれていることもあり、前作と比較すると物語や整合性が破綻しているし、混乱しているとさえ言える(ネタバレになるが一例を挙げれば、結局難病の子供は死ぬ訳でもなく治る訳でもない。つまり何らかの分かり易い決着もなく、「投げられっぱなし」なのだ)。■井筒はなぜ、前作以上に予算も公開規模も増え、また観客の期待も上がった作品でこのような「暴投」をしたのか。たぶん、彼が本当に喧嘩を売っているのは石原慎太郎などではなく前作に“安住”する「観客」に対してなのだ。前述した様々な要素を「どやねん!」とばかりに無造作に、ぶっきらぼうに提示し、挑発する(まるで「怒劇」の森崎東のように)。インタビューで彼は「日本の歴史」やら「家族の絆」やらテーマめいたものを語っているが、本当に言いたかったことはそんな言葉で語れるものではない(言葉で語れるものを表現するなら、映画なんぞ撮る必要はない。「ゲルニカ」が単に「反戦」を訴えたいだけのものなら、ピカソは「戦争反対!」と描けば良かったのだ)。彼は「日本の歴史」「家族の絆」「差別の実態」といった言葉では表現できないもの(或いはそれら全てを含んだもの)、映画でしか表現し得ないものを「映画的」としか言いようがないやり方であぶり出し、さらけ出そうとした。この作品で「思想」や「メッセージ」はあくまで表層的なものでしかない。■この作品は「読む」映画ではなく「観る」映画。つまり本当の「映画」。誰が何と言おうと断然支持します。 [映画館(邦画)] 10点(2007-05-24 16:42:13)(良:4票) |
22. スパイダーマン3
んん、、つまんなくはなかった(まあ、退屈はしなかった)という感じですかねえ、、CGの出来とか物語がどーとかというより、サム・ライミの意地悪さを見て楽しんだという感じでしょーか。ヴェノムに取り憑かれてワルピーターになった主人公のオバカなハジけっぷりとか、今まで散々ピーターを振り回してたMJが嫉妬に狂うところとか。で、きっと最後はああなるんだろうなーと思ったらそうなったし、うん、まあ、そんな感じ。 [映画館(字幕)] 6点(2007-05-17 19:31:37)(良:1票) |
23. 次郎長三国志 第九部 荒神山
いのうえさん、さびしい思いはさせませんぜっ(笑)!これは去年、映画館で観ました。この作品が前編のみで未完になってしまったのは、、そもそもマキノ監督は第八部でこのシリーズを完結させるつもりだったのに、会社が半ば無理やり続きを取るように要求したのだそうです。尚且つ途中のフィルムを勝手に編集して「前編」として上映してしまったものだから、監督・スタッフ・キャストが怒って降りてしまったのだとか。という話を観る前から知っていたのもあって、やっぱこれを一本の「作品」としては観られなかったですね、、心なしか、映画に登場する「ワッショイ、ワッショイ!」も元気がなかったような・・・だから、個人的にはやはりこのシリーズは「第八部で完結」と思いたいです。 [映画館(邦画)] 5点(2007-05-17 19:25:29) |
24. 青春☆金属バット
主演の竹原ピストル(ちょっと雨上がりの蛍原似)が良い味出してます。言ってしまえば、大人になり切れないオトナのモラトリアム的青春映画と、言えなくもないのだけれど、自称ベーブ・ルースの予言(?)を信じて無骨に素振りを続ける主人公にちょっぴり感情移入しました。ところで、坂井真紀のあのおちちは、どんな特殊効果を使っているのだろう(まさか自前ではあるまいに)。 [DVD(邦画)] 6点(2007-05-17 19:17:07) |
25. 狼少女
《ネタバレ》 この作品、時代設定は明確にされていないけど、多分昭和四十年代位かな。「見世物小屋」という、胡散臭い題材を取り上げているのに、作品そのものには胡散臭さ(良い意味での)がなくて、ちと物足りなかったような。なおかつ、最後むりやり「感動」に持ってっちゃう所も、逆に興醒め。んでも、こーゆー小学生の淡い恋みたいの、案外嫌いじゃないです。個人的には「三丁目の夕日」よりもこっちの方が好みです。 [DVD(邦画)] 6点(2007-05-17 19:13:00) |
26. キトキト!
後味の爽やかな、いい映画だったと思います。新人監督のデビュー作として特に傑出してるとか、オリジナリティーがあるわけではないし、人物描写など物足りないところもあったし、ストーリー展開もズルいっちゃズルいんだけど(ラストの○○○○の使い方とか)、思うにこの映画の監督さんは、非常に「性善説」な人なんじゃないかなーと。それが青臭いといえば青臭いし、クリエイターが「いい人」で良いのか?と思ったりもするのだけれど、ま、良いじゃん。大竹しのぶ演じる「母ちゃん」は素敵でした(余談だけど、「フラガール」もこの作品も「女は強ええな~」な映画ですね)。シネカノンの「ちょいベタ路線」映画(「お父さんのバックドロップ」とか)が好きな方にはオススメ。 [映画館(字幕)] 8点(2007-04-09 20:48:28) |
27. ナチョ・リブレ/覆面の神様
うーん、ジャック・ブラック、マイク・ホワイト、ジャレッド・ヘス・・・1+1+1が3にもならなかったと言えばいいのか、、。これ、確か元になった実話があったハズ。それをそんなにいじらずに映画化した方が良かったんではないの?オフビートな笑いを狙って、結果グダグダになってしまった感が否めないでごんす。 [DVD(字幕)] 3点(2007-04-09 20:40:29) |
28. ひばりの森の石松
むむ、新年一発目のレビューはこう、パァーっとした晴れやかな映画にしようと思ってズルズルレビュー書かないでいたら、いつの間にやら23日・・・年をとればとるほど、時間が経つのは早いなあ・・・ま、それはそれとして、久々に観た東映時代劇、しかも明朗快活路線ド真ん中の沢島忠。これは楽しかった。冒頭、茶摘み娘のお君(=美空ひばり・森の石松と二役)が仲間の娘たちに石松の話を聞かせる、というところから始まるので男装のひばりも違和感なく観られる。しかもひばり石松、予想以上にハマり役。リズミカルでテンポの良いセリフをポンポンポーンとまくし立てるひばり石松(当然船中の「江戸っ子だってねえ、飲みねえ飲みねえ、寿司食いねえ」の名シーンもあり)は時にキュートで、時に痛快・爽快。若き日の凛々しい里見浩太郎演じる盗っ人三次との掛け合いもやたら楽しいし、石松に助けられる千恵姫(ちょっとはだづばり、もとい鼻詰まり気味なのが気になるが、それもご愛嬌)とのくだりではホロリとさせられる。突然始まる「竜宮城レビュー(笑)」も、いかにも沢島節。本当に楽しい、楽しい映画です。やっぱこういう能天気・ノンキな作品って大事だよね。今みたいな時代だからこそ、特に。 [DVD(邦画)] 8点(2007-01-23 15:22:56) |
29. 血と骨
これは在日朝鮮人の話、というよりも一人の“怪物”の話、そして極端ではあるにせよ“家族”の話。ああいう父親って昔は日本人でも結構いたんじゃないかな。最初の方はかなりイイ感じで「あら、これは『パッチギ』超えたかも?」とか思ったのだけれど、後半が失速気味だったような。あと、ちょっと長過ぎる。元々もっと長くする予定だったらしいけど、それならそれこそゴッドファーザーのように三部作にすれば良かったんじゃないかな。 [DVD(邦画)] 7点(2006-12-29 17:34:29) |
30. 懲役太郎 まむしの兄弟
人気シリーズ「まむしの兄弟」の一作目・・・なんだけど、うーん。ちょっと中途半端な印象。時期的には任侠路線と実録路線の間なのかな?コミカルさと真面目さのバランスが良くないような・・・。大好きな「トラック野郎」に通じる部分もあるんですけどね・・・。 [ビデオ(邦画)] 5点(2006-12-29 17:12:30) |
31. スターシップ・トゥルーパーズ
バーホーベン作品初体験でごんす。噂には聞いていましたが、グ、グロい・・・観終わった後は疲れ果てて、休肝日にもかかわらず飲まずにはおれなかった。とりあえずバーホーベンさんがとてつもなく悪趣味でいぢわるな皮肉屋さんというのは分かりました。色んな意味で凄い作品だけど、二回は観たくないなあ・・・。 [DVD(字幕)] 9点(2006-12-27 14:25:17) |
32. 青いうた~のど自慢 青春編~
地方に暮らす若者たちの夢や希望、そして挫折を描いた・・・などと言うと、いかにも一昔前の古臭い青春映画のようだが、この映画の画面からはそういった懐古主義とは無縁の瑞々しさが溢れている。それを支えているのが、美しい青森の山や海の景色、そして物語の中心となる少年少女たち(彼らはテレビドラマ「3年B組金八先生(PART7)」に出演していたそう。金八ファンの方々は、是非この映画を観て欲しい)なのだが、特に冨浦智嗣君の無邪気さが、笑いと涙を誘う。全体的に小粒な小品といった佇まいで、物足りない点がないと言えば嘘になるが、クライマックスの「のど自慢」出演シーンは第一作目の井筒版「のど自慢」に劣らぬほど感動的で、ケ・セラ・セラ等の名曲の使い方も、実に心憎い。一時期の邦画は(今もか?)妙に奇をてらったり、表面的なポップさを装いつつ実は薄っぺらい作品が横行していたように思えるのだけれど、そんな中、ここまでまっすぐな「青春映画」を撮った製作者の方々に感謝! [DVD(邦画)] 8点(2006-12-24 18:10:52)(良:2票) |
33. 天空の草原のナンサ
「素朴な暮らしの中での、動物と少女のふれあい」ってのはちょっとズルイ気もするけど・・・ナンサの真っ赤なほっぺと、大地の緑と、空の青さが印象的。 [DVD(字幕)] 7点(2006-12-22 19:25:25) |
34. 硫黄島からの手紙
予告編を観て「これってひょっとして“右”っぽい作品なんだろうか?」と懸念を抱いていたのだが、観てみたらなんかもぉ、そーゆーのは吹っ飛んでしまった。確かにそういう文脈で捉える事も可能なのだけれど、例えば「パッチギ!」が(しつこくてゴメン)単なる“左”映画でないのと全く同じ意味でこれは“右”ではない。ってか、右とか左とかこだわってるのがバカバカしくなる。この作品は決して戦争を美化するものではなく、(狭い意味での)“愛国心”を鼓舞する類の作品でもない。もし自分があの時代、あの戦場に兵士の一人として存在していたらどうだったろう?劣悪な環境、死はほぼ確実、逃げ場はない―いやがおうにも「死」を意識せざるを得ない。どうやって残り少ない「生」を生きるか、どうすれば自分という存在、行動に意義や価値が見出せるか、ぶっちゃけ、どうすれば「納得の出来る死」を迎えることが出来るか(そういう意味でこの作品は、例えば「死ぬまでにしたい10のこと」のような「不治の病モノ」にも通じるものがあるかもしれない)・・・そんな極限状態でそれぞれが「祖国のため」、「天皇陛下の御為」、或いは「家族のため」といった「想い」を内に秘め(勿論「生きて虜囚の辱めを受けず」と自死を選ぶ者もいる。ああいう状況では、「死」はむしろ甘美なものだったかもしれない、とすら思う)、精一杯生きようとする。・・・何か文が支離滅裂になってきた。正直、まだ自分はこの作品を「映画」として冷静に捉えることが出来てない。自分にとってこの作品は「体験」でした。 [映画館(字幕)] 10点(2006-12-22 17:51:09) |
35. ベロニカは死ぬことにした(2005)
映像はなかなか凝っていて、真木よう子も頑張ってた。彼女のファンなら観て損はない(色んな意味で)。たださあ、観ながら製作者に対して思ったのは「あなたの想像し得る、表現し得る狂気とか絶望とかってこんなモンなんですか?」という問い。安易に「アート」に逃げちゃだめだあ、「人間」を描かなくちゃ。こういうテーマなら、よっぽど代々木忠先生の作品の方が人間の業や深みを表現してると思うぞ。 [DVD(邦画)] 5点(2006-12-14 18:11:05) |
36. Dear Pyongyang ディア・ピョンヤン
うーん、良い映画だったし、もうすぐ東京での上映終わっちゃうし、是非その良さを語りたいのだけれど、うまく言葉にできーん。とりあえずキーワードは「違うけど同じ、同じだけど違う」ってことで。近日中に書き直します。 [映画館(字幕)] 8点(2006-11-29 20:32:16) |
37. ベルリン、僕らの革命
《ネタバレ》 観る前はもっとイデオロギー色・政治性の強い作品かと思っていたら、後半は意外としっとりとした青春映画でした。あの山小屋の、窓やドアから入り込む光が良かった。レナード・コーエンの名曲「ハレルヤ」のカバーが効果的でした。あと、最近観た 李相日の「スクラップ・ヘブン」と相通じるものも感じた(出来上がった作品は全然違うけど、発想というか出発点は似てたんじゃないかな、と思う。あっちも「男二人・女一人」だし)。<ネタバレ的追記>ヒロインが豪邸でおじさんに顔を見られて「どうしよう!?」ってなってた時、冷静に「おじさんの、思いっきり恥ずかしい写真を撮って『サツにチクッたらネットで流すぞ』って脅せば良んじゃね?」と思ってしまったワタクシは、資本主義の豚以下ですわ。 [DVD(字幕)] 8点(2006-11-24 18:57:00) |
38. コラテラル
「プロの殺し屋なのにマヌケ過ぎる」という意見があるけど、んでもゴルゴ13みたいな完璧な殺し屋の方がむしろ非現実的なのであって、本物の殺し屋はこんなもんじゃないの?(知らんけど、多分)と思い、別に違和感は感じませんでした。それに一晩で五人殺さなくちゃいけないって依頼がそもそも大変な仕事なワケで(・・・今フト「最初から一人じゃなく、複数の殺し屋を雇えば確実だったんじゃないの?」って思ったケド、まぁ、良いじゃん。世の中には気付かない方が幸せなことも、たくさんあるのよ)。僕はマックスが依頼人の前で開き直るシーンが良かったです。後は・・・何人もの方が熱いレビュー書いてらっしゃるからまぁ、良いや。クールだけど熱い映画です。 [DVD(字幕)] 9点(2006-11-15 19:42:14) |
39. ハドソン・ホーク
この監督さんの「ヘザース」と「アップルゲイツ」は悪趣味な感じが鼻についてヤだったんだけど、これは案外面白かった。監督個人の悪趣味と、無駄に金をかけるハリウッド的悪趣味(名優J・コバーンに何ちゅう役やらせとんねん!)がくっついた結果、互いに臭みを打ち消しあったって感じ?ちょうど泥臭いドジョウと泥臭いゴボウを一緒にした柳川鍋が絶妙なハーモニーを奏でるような(「美味しんぼ」14巻「ぼけとつっこみ」より)。ちょっとトボけてていい加減でアナーキーで、まさに実写版ルパン三世。念力珍作戦より、オモロイよ(←それと比べんのかよ)。 [DVD(字幕)] 7点(2006-11-15 19:06:19) |
40. 新しき土
僕が観たのもファンク版です。てか、伊丹版は現存してるのかな?話によるとドイツでもヒットした(かのゲッペルスが大絶賛したらしい)ファンク版に対し伊丹版は評価が低く、伊丹監督はその作品を「なかったこと」にしたかったらしいけど、もし現存するならそっちも観てみたい。さてこの作品、山岳映画(って、よく分かんないけど、そういうジャンルがあったんだね、昔は)監督ファンクの「山を撮りたいんや!」という要求と「やっぱヤーパンが舞台ならスモウやろ、ゲイシャやろ!」という西洋人のオリエンタリズム的なものに対する(ちょっと、いやかなり)間違った認識と憧憬、それと愛国心や満州「国」の正当性を無理矢理ねじ込むプロパガンダ性、などなど、色んな要素や思惑が絡み合って、まるでキメラのような様相を呈した、ある意味「北京原人」的作品なのだけれど、だからこそ今観ると色々興味深い。西洋的な価値観と日本的な伝統の狭間で悩む主人公、というのは当時の日本(国のレベルでも、個人のレベルでも)の矛盾と苦悩を象徴しているように思えるし、1942年の「近代の超克」論(←乱暴に言うと「今まで西洋的な価値観が世界をリードしてきたけど、それはもう行き詰っている。これからはアジアの、日本の時代やあ!」という論。かなりトンデモ論だけど、現代日本への問題提起が、示唆されてなくもない)に通じるものもある。また戦後は「民主主義のヒロイン」となった原節子が、こういうプロパガンダ作品をきっかけにブレイクしたってところも、映画史的に興味深いです。まぁ、個人的には原節子や小杉勇(・・・も少しマシな役者はいなかったんかい)よりも、物語と関係なく天真爛漫に振舞う市川春代のチャーミングさに心奪われました。口笛を吹きながら顔を洗う(!)シーン、サイコー。 [DVD(字幕)] 6点(2006-11-15 18:52:43) |